魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 作:わんたんめん
怪しげな緑色の光に照らされた空間で白衣の男がニンマリとした笑みを浮かべる。
その男はどうやら目の前に映っている映像を見て、恍惚といった表情を浮かべている。
何かの主観からの映像なのか、目まぐるしく視界が動くが、その映像は白い翼を持った純白の天使が何か緑色の光を振り下ろすと同時に壊れたのか砂嵐の映像に切り替わる。
「ククッ…………ハハハハハハハハハハッ!!!!」
男は顔を手で覆うと歪んだ笑みを浮かべながら大きく高笑いをあげる。
「素晴らしい………!!素晴らしいよ、その技術!!魔力を一切介していないながらも、他の追従を許さないほどの出力!!ああ、何ということだ……!!よもや私の作り上げた娘達よりも素晴らしいものがこの世にあるとはっ!!」
男は感涙した様子で周囲に誰もいない空間で叫び続ける。
「欲しい………実に欲しい……!!あの天使のごとき翼を有したあの少年……!!是非ともこの手に収めたいものだ……!!」
「Fの遺産のクローン達の成長ぶりも眼を見張るものがある、だが、何よりも今の私は知識欲に溢れている!!あのデバイス、いや、敢えてこういうべきかな?モビルスーツ!!またの名を、ガンダム!!!」
白衣を着た男、ジェイル・スカリエッティは顔を覆っていた手を真上に大きく広げ、舞台役者のように身振り手振りで自身の感動を表そうとする。
しばらくその画面の天使についての感動を言葉にするスカリエッティだったが、不意に動きを止める。
「そしてだ。そろそろ君の作っているものも教えてくれても、いいのではないかね?」
スカリエッティが視線を向けた先には一寸先の見えない闇が広がっていたが、機械的な音、おそらく義手を動かしている駆動音とともに初老の男の笑い声が響く。
「あれはお前でも完成は不可能だ、スカリエッティ。あれは所詮ガワだけの代物だからの。ワシ一人ではどうしようもないわい。」
「私の知識を存分に使ってくれても構わないんだよ?君にはそれだけの才能がある。」
「ふん!!貴様のような奴の手を借りるほど技術者として落ちぶれてはおらんよ。」
「全く、ひどい言い方をするね、君は。」
スカリエッティが残念そうに言うが、暗闇から初老の男の声が返ってくることはなく、代わりに奥へ奥へと消えていく足音が虚しく響いてくるだけだった。
その足音にも何処か、機械的な駆動音が混ざっているのは誰の目にも明らかであった。
殺気と魔力が入り混じる混沌とした異界と化した部隊長室からツヴァイとアインスを連れてこっそり脱出したヒイロは隊舎をほっつき歩く。
「そういえば、アインスさん。はやてちゃんの昔ってどんな感じだったんですか?」
殺気からそれとなりに離れたからなのか、ツヴァイは怯えたような様子は鳴りを潜め、明るい笑みを浮かべながらアインスに昔のはやてのことを尋ねた。
「主のか?そうだな………今も昔も主は変わらぬ優しさを持っていたよ。守護騎士達はもちろんのこと、その時は魔導書としての姿しか見せていなかった私にすら愛想良くしてくれた。本当に、素晴らしい御方だよ。」
アインスの言葉にツヴァイはうんうんと唸るように頷いた。さながら彼女のその様子は確かめたかったことに納得しているようでもあった。
「………ところで、なぜそのようなことを?ツヴァイがいつ作られたのかは知らないが、私より君の方が主と長い日々を過ごしているだろう?」
「………私にはある程度、アインスさん。あなたの記憶が引き継がれているのです。そこにあった記憶から感じられたのは、感涙とか、そんな感じのものだったのです。でも、それはあくまでアインスさんの記憶であり、私自身の記憶では無いのです。だから、どうしても本人に聞いてみたかったのです。」
「………なるほどな。わかった。私の主観からで良ければいつでも話に応じるよ。もっとも、話しを聞きたければ、その都度ヒイロのところに赴いてもらわなければならないがな。」
「はいです!!!」
アインスとツヴァイ。同じ祝福の名前を冠した二人の仲睦まじい会話を聞きながらもヒイロは無言で隊舎を練り歩く。時刻は既に日が傾きかけ、空はオレンジ色に彩られていた。もうすこし時間が経てば、日は完全に沈み、夜の闇が包みこむだろう。
そんな風に外を眺めていると、隊舎の敷地内に広がる森の中、生い茂る木々の葉が風に煽られたその隙間から一瞬、光が漏れたような気がした。
ヒイロがその光が見えた方角に目を凝らそうとしたその時ーーー
グゥゥゥゥ〜
そんな気の抜けたような音がヒイロの周囲から鳴り響いた。明らかに空腹時にしかならないような音だったため、呆れ顔でその音源を探すと、恥ずかしそうに腹をさすっているツヴァイの姿が目に入った。
「え、えへへー、ご、ごめんなさい……。」
顔をわずかに赤らめながら笑う小さな妖精の姿にヒイロはその呆れた視線をツヴァイに集中させる。
「・・・・・・。」
数秒、ツヴァイに視線を向けていたヒイロだったが、僅かに肩を上下させ、息を吐くとツヴァイから視線を外し、再び歩き始める。
最初こそ、ヒイロの行動に困惑気味だったツヴァイだがーー
「何をしている。どのみちお前もアインスと同じで他人がいなければ食事にありつけない口だろう。手は貸してやるからさっさと来い。」
食堂に向かってくれることを察したツヴァイは先を行くヒイロの後を慌てた様子で追っていった。
「ヒイロ、本当に森の中に誰かいるのか?」
「森の中で、あの光のようなものが生まれるのは不自然だ。仮に野生動物の目が光っていたと言われても離れた隊舎から見えるほどの光量になるのは無理がある。
確実に何者かがここにいる。」
食堂で夕飯を食べたヒイロとアインスはそろそろ部隊長室の熱りも冷めた頃合いだと判断したツヴァイと別れて数刻前にヒイロが見かけた謎の光の正体を探っていた。
仮に敵であるのであれば、迅速に対処しておく必要がある。そんなヒイロの警戒心からの行動であった。
反面、アインスは半信半疑な様子で森の中を進んでいくヒイロの肩に乗っかっていた。
ある程度草木を掻き分けていると、不意にヒイロが立ち止まった。
「………いるな。」
「……どうやら、ヒイロの言っていたことは本当のようだな。」
ヒイロとアインスも険しい表情をしながら暗い森の中を見つめる。視線の先の真っ暗な森の中から、なにやら電子音のようなものと、ヒイロが立てていた草木を掻き分ける音が響いてきたからだ。
ヒイロは程よい高さの草むらに身を潜めるとそのまま息を殺し、草むらを掻き分ける音の主をじっと待ち伏せる。
「…………手を挙げろ。」
その音の主がヒイロが身を潜めている草むらを通り過ぎたことを確認するとヒイロは草むらから姿を現した。その謎の人物がヒイロに顔を向けるより早く、その無防備な背中に向けて、右手に展開したバスターライフルの銃口を突きつける。
ヒイロの銃口を突きつけられた人物は咄嗟に両腕を上げ、無抵抗を示した。
「ちょ、ちょっと待て。お前、ヒイロだよな?俺だよ。俺。」
「…………ヴァイス・グランセニックか。こんなところでなにをやっている?」
バスターライフルを構えているヒイロにホールドアップされた人物、ヴァイスは顔の表情をひくつかせながらヒイロに振り向き、震えた声でそう伝える。
声質からヴァイスであることを察したヒイロはバスターライフルを下ろし、ヴァイスに行動の詳細を尋ねる。
「いやいや、それはこっちのセリフだっつーの!!突然背中にライフル突きつけられたと思ったらお前なにやってんの!?」
「…………電子音の正体はお前ではないようだな。」
「お前スルーかよ!!アインスさんもなんか言ってやってくれ!!」
「え………?まぁ、トリガーに指を当てていなかったし、ヒイロなら撃たないことくらいはわかっていたが………。」
「いや、確かに射線上に隊舎あるから撃たないと思うけどよぉ………。」
鬼気迫ったヴァイスの訴えにもヒイロは我関せずといった様子で視線を森の中に向ける。森の中からまだ電子音が響いていたからだ。
ヴァイスはヒイロに対して苛立ちを覚えながらも髪をグシャグシャと掻き乱し、なんとか平静を保とうとする。
「で、お前はその電子音の正体を探りに来たわけだな?」
「ああ。あの電子音の正体はなんだ?知っているのであればさっさと教えろ。」
僅かに語気を強めながらの言葉だったが、ヒイロは一切意に介する様子を見せずにヴァイスに詳細を求める。
ヒイロのその憮然とした態度にため息をつきながらもヴァイスはその音の正体を伝え始める。
「あれはティアナの嬢ちゃんがやっているなのはさんの教導の反復練習の音だよ。その場から動かずに周囲に展開したマーカーが光って、それに銃口を向けるっていう奴のな。大方、お前が聞いた音ってのは、そのマーカーが鳴らしている音だろうよ。」
「FW陣には休息の連絡が出ていたはずだが………。」
「…………ミスショットがよっぽど堪えたんだろうな。あれからもう4時間はやっているぜ。」
「お前の方からはなにも言っていないのか?」
「一応言いはしたが、あんまし効果ないみてぇだ。ありゃあ何言っても止まらんと思うぜ。」
「………そうか。」
「んじゃ、俺はここら辺で戻らせてもらうぜ。」
僅かに肩をすくめた仕草を見せたヴァイスはヒイロに手を振りながら隊舎に戻っていった。
「ヒイロ、どうする?」
「・・・・・・・・・・。」
アインスの問いかけにヒイロは答えることはなく、代わりにティアナがいるのであろう森の奥に足を踏み入れることで自身の意志を伝える。
森の中を歩いていると、僅かに開けた空間が現れる。
そこではクロスミラージュを展開したティアナがヴァイスが話していた通りに周囲に展開したマーカーが発光するたびにその銃口を突きつける訓練をしていた。
内容的に四方八方から現れる敵に素早く銃を向けることを重点的にやっているようだ。
「・・・・・・・。」
ヒイロとアインスはティアナの視界から見えない場所にある木々の後ろから彼女の様子をじっと見つめていた。
しばらく様子を伺っていると軽く休憩を取るのか、肩で息をし、額から流れる汗を拭いながら一息ついていた。
そのタイミングでヒイロは隠れていた木々から離れ、ティアナに近づく。
「ハァ………ハァ………ヴァイス陸曹、今度は何の用ーーー」
荒い息を吐きながら近づいてきたヒイロをヴァイスだと勘違いしたティアナが視線をヒイロに向ける。
「って………え、ヒイロ………さん?それに、アインスさんも?」
まさかヒイロがいるとは露程も思っていなかったのか、驚いた表情をしながら呆けたような視線をヒイロに向ける。
「お前達FW陣には休息の指示が出ていたはずだが。自主的なトレーニングか?」
「………そう、ですね。あの時のミスショットは、もうしたくないので。」
「・・・・そうか。」
「あの、ヒイロさん。その、ありがとうございました。あたしのミスショットの弾丸からスバルを守ってくれて。」
ミスショットを繰り返さない。ティアナのその言葉にヒイロはさほど多くは語らずに素っ気なく答える。だが、ミスをなくそうとする気概自体は別にとやかく言うつもりはヒイロにはなかった。
そう思っていたところにティアナがヒイロに頭を下げ、ミスショットからスバルを救ったことの感謝を述べる。それはまるで、ホテルでなのはにスバルを助けてくれたことでお礼を言われた時のようだった。
「………なのはに言われたか?」
「え……?まぁ、そう、ですね。少し、任務終わりになのはさんと話したんですけど、一番最初にヒイロさんにお礼を言うようにって・・・。」
違和感を覚えたヒイロがそう尋ねるとティアナは僅かに表情を暗く落としながらそう答えた。
ティアナの答えにヒイロは僅かに呆れたような雰囲気を見せる。開口一番にヒイロへのお礼を促すなど、はっきり言って順序が違うからだ。
ティアナの無茶の理由を問いただした上で自分へのお礼を促すならまだしも、始めに援護した人間へのお礼を優先するのは正直言っていかがなものかとヒイロは考えていた。
「ヒイロさん・・・・?」
ヒイロの雰囲気を感じ取ったのか、ティアナが疑問気に尋ねるが、ヒイロは口を横一文字に噤むだけで、何も答えなかった。
「ティアナ、私がとやかく言えた義理ではないと思うが、休める時に休んでおくのも、訓練の内の一つだ。ヒイロも海鳴市での任務の時に言っていただろう?」
ヒイロの肩に乗っていたアインスが優し気な笑みを浮かべながらティアナにそう投げかける。
しかし、ティアナはその言葉に対して、悔し気に表情を俯かせる。
「………あたしは少しでも強くなりたいんです。キャロのようにレアスキルを持ってはいませんし、エリオやスバルのように輝かしい才能もない、ましてや、なのはさん達のように魔力量も多いわけではないんです。だから、凡人のあたしには人一倍、もしかしたらそれ以上に練習を積み重ねていくしかないんです。」
そう言ってティアナはヒイロに背を向けて、先ほどまで行っていた練習の続きを行おうとする。
「…………ティアナ。お前は一つ、重大なミスを犯している。」
「え………?」
ヒイロの言葉にティアナは思わず足を止めて、振り向いた。
「お前達FWの中でスバルの役割はなんだ?」
「え、っと、前に積極的に攻めていって、相手の攻撃を引き受けながら、単身で敵陣に切り込んでいく、フロントアタッカー・・・。」
「エリオの役割はなんだ?」
「どの位置からでも、攻撃ができたり、そこからの離脱ができるヒットアンドアウェイの戦法が基本の、ガードウィング・・・。」
「続けて、キャロの役割はなんだ。」
「…………ポジションの最後尾で仲間の支援を念頭に置く、フルバック………。」
ヒイロの質問にティアナはポツポツとながらも答えていく。
「・・・・・お前自身の役割はなんだ。」
「あたしは・・・中・遠距離をいち早く制圧し、あらゆる相手に、適切な弾丸をセレクトし、命中させる……それがあたしのポジション、センターガード、です……。」
「これで最後だ。ティアナ、お前にほかの三人のいずれかとポジションを入れ替えて戦うことはできるか?」
「それは、つまり………あたしがスバルみたいにフロントアタッカーをするってことですか?」
ティアナの言葉にヒイロは僅かに頷くことで、ティアナの質問が大方合っていることを伝える。
ティアナは少しの間考え込むと再度、ヒイロに視線を向ける。
「それは………多分、今はできません。あたしはスバルみたいに防御が硬いわけではないので………。でも、やらなきゃならない場面が来ないとは限らないってあたしは思います。」
「…………それが理解できているのなら、それでいい。」
「え………?」
ティアナは意外そうな視線をヒイロに送った。正直にいって、ヒイロに何か言われると思っていたところだったが、まさかの肯定を告げられたのだから。
「強くなろうとする意志、それを否定するつもりはない。だが、出来ることと出来ないことの分別もつかないまま強くなろうとするのであればそれはむしろ自身が出来ることの範囲を見失うことになりかねない。それにーーー」
「できないことは自分一人でこなそうとするわけではなく、周りの奴らに任せるのも手の一つだ。」
「それは、なのはさんにも言われました………前後左右、全てが味方だって。」
「言われるまではお前はそれをできていたか?」
「うっ………。」
「ついでだが、エリオが言っていたぞ。自分自身の力不足でお前の暴走を引き起こしてしまったのかとな。」
ヒイロの言葉にティアナは一度ハッとしたような表情を浮かべるが、すぐさま表情に暗く影を落とし、俯いてしまう。
「お前が力不足に苛まれるのは勝手だが、それを周りにまで伝播させてどうする。指揮官の立ち位置に就いているお前がそのような気の持ちようでは周囲の奴に余計な迷惑がかかるだけだ。」
「っ………あ…………。」
「…………?」
ティアナが心底から驚いているような表情を浮かべていることに気づいたヒイロは彼女に疑問気な視線を送った。
「えっと、その、よく見ているんですね……。私がスバルとかエリオに劣等感を抱いていること………。」
「先ほどまでの会話や、お前の教導中の様子を見ていれば自ずとわかることだ。」
「そう………ですか………。」
ティアナはヒイロの言葉にたどたどしくそう答えると、視線をヒイロから外し、別の方向に向ける。
その視線は暗く僅かな星が瞬いている夜空を眺めているようだった。
「なのはさんも、私のこと、わかってくれているのかな………。」
ティアナの突然ポツリと零した言葉にヒイロは訝し気に眉をひそめながらも無言を貫くことでティアナにその話の続きを促す。
「実況見分が始まる前、少しなのはさんと話す機会があったんです。前後左右、全てが味方。そう言われたのもその時だったんですけど、あの人は私のミスショットに関して、やんちゃの一言で済ませてしまったんです。」
「やんちゃだと?一歩間違えればスバルが墜とされていた可能性が高かったことをなのははやんちゃの一言で片付けたのか?」
ヒイロの言い草にティアナは若干表情を歪めたが、しっかりと首を縦に振り、肯定であることを示した。
「あの人にとっては、その程度の認識なのかなって、感じちゃって………。なのはさんは常に前線に出ていたエースオブエース。そんな感じの考えになるのも仕方のないことなのかなって………思っちゃって……。」
そう言ってどこか自虐気味な笑みを浮かべるティアナにヒイロは苦い表情を浮かべた。
「アインス、お前はどう思う。」
「…………四発カートリッジはただでさえ危険な行為だ。その魔力を内包した弾丸がミスショットとして直撃を受ければ、ただでは済まないのは明白だ。それをやんちゃで済ますのは、私個人の考えとしては疑問を呈したいのが正直なところだ。だがーーーー」
「高町なのはほどの高い魔力適正があるのであれば、その危険指数は大いに下がるだろう。事実、私がまだ闇の書の管制人格だったころは平然とカートリッジを三つは使っていた。」
なのはにとってカートリッジを三つ使うことは造作もない。しかもそれが10年前から既にできていた。
さらに言えば、人間とは必ずしも成長するものだ。それはなのはとて、もちろん例外ではない。
ヒイロ自身、今のなのはがどれほどまでカートリッジをまとめて使用できるかは知らないが、可能性が決してないわけではない。
「なのはの奴、まさかとは思うが自分が出来ることを他人も出来ると思っているのか………?」
「その可能性は流石にどうかと思いたいが………仮にそうだとすればかなり度し難いことにならないか?」
「あの、ヒイロさん、それにアインスさん………。」
ヒイロとアインスが難しい表情を浮かべていることに気が引けているのか、ティアナが申し訳なさげにそう二人に声をかける。
「………どうして、あたしなんかのためにそこまで気にかけてくれるんですか?」
「………まぁ、私は正直なところヒイロについていくしか他ならない存在だからな。こうしてウイングゼロの中に入っておかねば、ろくに体を保つことすらままならない体だ。」
「だったら、ヒイロさんは……?」
「…………お前が俺と同じことを繰り返そうとしているからだ。」
「ヒイロさんと、ですか?」
ヒイロの発言にティアナは疑問気に首をかしげる。ヒイロの言葉にはまるでヒイロ自身がティアナと同じようなことをしたことがあるかのような言い草だったからだ。
「俺は一度、敵の流す情報に踊らされた上に、自分自身の軽率な判断によって、敵対していた組織の中で俺たちと対話の道に進もうとしていた奴を殺したことがある。」
「え………!?」
ヒイロの言葉にティアナは目を見開いて驚いた様子を露わにする。
「今回のお前のミスショットと俺が犯したミスには共通点がある。周りをろくに見ず、一人で戦おうとした点だ。」
ヒイロはティアナに向けて、今回のミスショットについて、ティアナが取れたはずであろう選択肢を羅列していく。
取れた選択肢は主に二つ。
迂闊に前に出ることはせずに、素直に防衛ラインを形成しつつ、向かっていたヴィータやヒイロと合流すること。
そしてもう一つはーーー
「前に出るにしてもエリオとキャロを後ろに下げるべきではなかった。二人の戦闘スタイルは主に妨害と支援だ。二人を連れていけば、エリオがスバルとともに囮やお前の射撃の時間稼ぎを熟すことも出来る筈だ。さらにキャロの支援魔法を用いれば、幾分かお前の射撃魔法の援助もできただろう。」
「まぁ、要はもうすこし周りを頼れ、ということだな。何も、周りに頼ることは弱さではない。それをヒイロはわかってほしいと言っているんだ。」
「…………アインス………。」
ヒイロの説明を要約したアインスがヒイロの肩の上でティアナに柔らかい笑みを浮かべる。
そんなアインスにヒイロは僅かに目を細め、抗議しているような視線を送る。
しかし、アインスはまるでどこ吹く風といった様子でヒイロの視線を一切気にしていない様子で変わらない笑みを浮かべている。
「ちっ………これだけは言っておく、過度な訓練は身体を余計に疲労させ、安易なミスを生む。わかったならさっさと自室に戻って睡眠を取っておくんだな。」
矢継ぎ早にティアナにそう忠告したヒイロは踵を返して隊舎へと戻っていった。
取り残された彼女は呆然とした様子で隊舎へと戻っていくヒイロの後ろ姿を見つめる。
「…………一人で戦わずに周りをもう少し頼れ、ね。」
ティアナはヒイロとアインスの言葉を思い返すとクロスミラージュを待機状態のカードに戻し、懐にしまった。
「………兄さん。あたし、自分の弾丸を見つけるよ。もしかしたら遠回りかもしれないし、兄さんの目指したランスターの弾丸とは違うかもしれない。でもーーー」
『お前のための、戦いをしろ。』
ティアナは脳内でヒイロの言葉を反芻する。最初こそ、ヒイロの言い草には思うものがあった。だけど、ヒイロの言葉には何故だか、自身の経験が入っているようにも思えた。
「あたしは、ティアナ・ランスターとして、兄さんの夢だった執務官、目指してみる。だから、見守っていてほしい、かな。」
ティアナは夜空にきらめく星々を見上げながら亡き兄に向けて、そう誓うのだった。
おや、スカリエッティラボに珍妙な男が………?