魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 作:わんたんめん
でも今回の字数、およそ15000………だいたいいつもの二話分が今回の話に………めちゃんこ長くなったお(白目)
「あ、あの………ヒイロさん。」
「………なんだ?」
ヒイロに手を引かれながら隊舎に戻っているフェイトが不意にヒイロに声をかける。
「その………えっと………」
何かヒイロに尋ねようとしたフェイトだったが、なぜか顔を赤らめて、口調がしどろもどろになってしまい、なかなか話を切り出せない。
「…………ティアナとスバルに何をしていたか、だな?」
なんとなくフェイトが尋ねたいことを察したヒイロはその質問の内容を口にする。聴きたいことを言い当てられたのか、フェイトは静かに頷いた。
「………端的に言えば、奴らにクロスシフトを見てほしいと頼まれ、それに応じていただけだ。」
「や、やっぱり、そうだったんですね………でも、昼間になのはの教導を受けた後にもさらに練習を重ねるなんて………。」
「ついでにだが、あの二人はこの夜中の時間帯のほかに早朝からも訓練を行なっている。」
「と、止めようとはしなかったんですかっ!?それで身体を壊したりしたら、なのはの二の舞になる可能性だって……!!」
「あるだろうな。」
「だったら………!!」
「過度な訓練に関しては既に奴らに釘を刺してはある。その後もそれとなりに奴らの様子を遠巻きに見ていたが、日をまたぐ時間帯まで行っていることはなかった。もっとも、そもそものところ、俺が奴らの訓練を見つけられたのも偶然の要素が強かったがな。」
ヒイロは淡々とティアナのスバルのこれまでの自主的なトレーニングをフェイトに伝えながら隊舎へと向かっていく。
「それとだが、ティアナから明日の教導でなのはとの模擬戦を行うと聞いたのだが、それは本当か?」
「え………?うん、確か、午後からだったはずだよ。私は午前中は執務官としての仕事が入ってるからその模擬戦の時に間に合うかどうかはわからないからエリオとキャロの模擬戦もなのはに任せているけど……。」
フェイトからそのことを聞いたヒイロは彼女から視線を逸らし、僅かの時間考え込む。
『それでも、なのはさんの教導に反しているのは事実でしょ。』
ヒイロの心中で、ティアナのこの言葉がなぜか色濃く残っていた。それはある種の直感的なものであった。
「…………フェイト。その模擬戦、俺も見ていても問題はないのか?」
「?………うん。一応、ヴィータも立ち合うはずだから、あの子の側にいるだけなら問題はないよ。」
ヒイロの問いにフェイトは一瞬疑問気な表情を浮かべるが、深く理由を聞くようなことはせずに、ヴィータの側にいれば問題ないことを伝える。
その言葉を聞いたヒイロは少しばかり考え込むような表情を浮かべる。
そのことが気にならないフェイトではなかったが、彼の横顔を見つめるだけでヒイロに握られている手の温もりに表情を緩ませているのだった。
しかし、それも隊舎に戻るところまでであり、隊舎に入るなりヒイロは人目につくからか、すぐさまフェイトの手を離した。
そのことに微妙に寂しさを覚えるが、離した理由がわからないほど図太い人間ではないため、先を行くヒイロの後を追いかけた。
「………………。」
部屋に戻るなりヒイロの視界に映ったのは部屋の机に映し出した映像とにらめっこをしているなのはの姿であった。大方、今日のティアナたちの様子から明日の教導のプランを考えているのだろう。
それだけならまだいいのだが、彼女の場合は若干行き過ぎている節が見える。
ヒイロがこれまで見ていた限りの範疇で言えば、なのはは基本的に教導が終わり次第自室に戻って、明日の教導のプランを立てている。
一見するとちゃんとティアナ達のことを見ているように思えるが、実のところそうではない。
あくまで彼女が向き合っているのは『画面』の中のティアナ達であり、実際のティアナ達とはこれっぽっちもコミュニケーションを取っていない。
つまり、なのはは知らないのだ。FW四人の人となり、具体的に言えば、ティアナが抱えていた周りへの劣等感だ。
「………いつまで映像などと睨み合いをしている。そんなもの、何度も食い入るように見たところで何も変わらないだろう。」
「にゃはははー…………まぁ、これが教導隊のやり方だから…………。」
独特な笑い声をあげながらヒイロの言葉を聞き流すように映像に視線を向け続ける。その後ろ姿にはどこか疲れが見えているようにも感じられた。
変わらないなのはの様子に流石のヒイロも呆れた様子を隠せないでいた。
「でも明日は午後から模擬戦だから、早めには切り上げて、寝るつもりだよ。」
と言いつつもなのはは一向に机から離れる気配を微塵も見せない。少しの間、彼女の後ろ姿を見ているヒイロとフェイトであったが、なのはが机の椅子から立ち上がるような雰囲気は一度も感じられなかった。
「えっと、そんなに私に気を使わなくて大丈夫だからね?」
「…………フェイト。ベッドの側にいろ。」
「はい………?」
なのはの言葉にしびれを切らしたのか、ヒイロはフェイトに一声だけかけるとなのはの背後に足音一つ立てずに接近する。
フェイトが一瞬、何をするのかと思った矢先、ヒイロは座っているなのはの両脇に手を突っ込んだ。
「ふぇーーー」
なのはが突然の感触に身体を強張らせた瞬間、ヒイロは一息で彼女の身体を持ち上げ、ベッドに向けて雑に放り投げた。
「にゃああああああああっ!?!!??」
「わわわっ!?なのはーーっ!?」
ヒイロに言われた通り、ベッドの側にいたフェイトは自身に向けて一直線に飛んでくるなのはに咄嗟に浮遊用の魔法をかけ、なのはを優しくベッドの上に下ろした。
突然の出来事になのはは未だ状況を理解できていないのか、表情を固まらせたまま、目をパチクリとさせていた。
「ちょ、ちょっとヒイロさん!!流石に強引が過ぎませんかっ!?」
「………睡眠を取るべき時に取らないやつにはそれくらいの扱いがちょうどいい。」
怒っている表情を浮かべるフェイトに吐き捨てるように言ったヒイロはそのままソファに座り込み、何も喋らなくなった。
「もう……ヒイロさんったら………なのは、大丈夫?」
「う、うん………フェイトちゃんが浮遊用の魔法をかけてくれてたから、なんとか………。」
ヒイロのぶっとんだ行動に流石のフェイトも呆れたようなため息をつき、なのはに安否確認をとった。質問されたなのはは未だ状況を飲み込めていないのか、呆気に取られたような表情を浮かばせながら質問になんとか頷いた。
「……投げ飛ばされたけど、ヒイロさんは一応なのはのことも心配してくれているんだよ?それはわかってくれるよね?」
「で、でも明日の教導のプランが………」
「一日くらい大丈夫だって。そんなに切羽詰まるほど見ていないわけではないでしょ?」
「う、うん………。」
そういうフェイトになのはは不安気な表情を浮かべていたが、しばらくするとやはり疲れていたのかウトウトと船を漕ぎ始め、最終的には規則正しい寝息を立て始めた。
それを側で見ていたフェイトはふぅ、と一息つくとなのはの側から離れ、ヒイロが座っているソファに向かい、彼の隣に腰掛ける。
「なのは、寝ましたよ。」
「そうか。」
「もう、急にあんなことしないでください。びっくりしたんですから。せめて部屋に入る前にあらかじめ言っておいて欲しかったです。」
「あの程度、お前なら造作もないことだろう。そう判断しただけだ。」
怒っているような口ぶりのフェイトだが、表情自体にはそのようなものは見えず、むしろ笑みを浮かべているようだった。
「それに仮にお前ができなくともなのはがベッドの上に落ちるようには調整をしていた。あとはお前がなのはを寝かしつければどのみち寝ただろう。」
「それはそれ、これはこれです。今度からやるにしてもあらかじめ伝えておいてください。いいですね。」
「了解した。」
そうもいいながらもいつも通りの無表情で言っているヒイロに訝し気な視線を向けるフェイトではあった。
ちなみにフェイトはそのままベッドに戻るようなことはせずにソファに座っているヒイロの隣で寝た。
次の日、訓練場で投影されたビルの一角、訓練場の全景を一望できるその屋上で神妙な面持ちをしたヴィータが立っていた。
「ヴィータ。」
そのヴィータに声をかける人物がいた。声のした方角へ振り向くと、彼女の視界にヒイロが映り込む。
「おお、ヒイロか。珍しいな、お前がここに顔を出すなんてな。」
「偶然だが、今回なのはがFW四人と模擬戦を行うと聞いた。それについてだが、模擬戦中、近くで見ていても問題はないのか?」
ヒイロが訓練場に顔を出してきたことを珍しがるような表情を浮かべるヴィータだったが、ヒイロからの質問に今度は不思議気な表情を浮かべる。
「………別にみるのは構わねぇけどよ、ここじゃなくていいのか?」
「なるべく近くの方が見えるものもあるからな。」
「………そうかよ。まぁ距離にもよるけどよ、とりあえず模擬戦の邪魔になんねぇなら問題は特にねぇな。」
「わかった。」
ヴィータの言葉にそれだけ返すとヒイロは屋上から出て行き、ビルから降りていった。
ヴィータは視界から消えたヒイロから視線を別の方向に移す。
その視線の先には上空でバリアジャケットを展開し、レイジングハートを構えたなのは、そして、地上に立っているFW四人の姿があった。
「さーて。じゃあ午前中のまとめ、2on1で模擬戦をやるよ。」
上空でそういうなのはは最初に模擬戦を行うための相手を選んでいるのか、視線を動かす。
そして、その視線がティアナとスバルの二人を射止めるとーーー
「まずはスターズから始めよっか。ティアナとスバルの二人はバリアジャケットを準備してね。」
『はいっ!!』
なのはの指名にティアナとスバルの両名は気迫のこもった声で答える。
そのことが若干嬉しいのか、なのははわずかに表情を緩めながら模擬戦の準備をするために所定のポイントへ移動を始める。
「ティア。」
「ええ、やるわよ。スバル!」
「おうっ!!」
ニヒルな笑みを浮かべるティアナにスバルは意気揚々とした声とサムズアップでそれに答えた。
二人もなのはと同じように所定のポイントに向かうとなのはから確認の連絡が届く。
準備が整った証拠にそのなのはの確認に頷くと、なのはが模擬戦を開始する合図を出した。
『それじゃあ、模擬戦、開始っ!!』
そのなのはの掛け声と同時にティアナとスバルの両名は駆け出した。
「ハァ………ハァ………。」
訓練場に投影されたビルの階段を駆け上がっている人物がいた。息を切らしながら艶やかな金髪を揺らしている人物は、フェイトだった。
いくらそれとなりに鍛えているフェイトとはいえ、自身の足でビルの階段を駆け上がるのは辛いものがある。
しばらくすると階段を駆け登るフェイトの視界に屋上へと続く鉄製の扉が入る。
それを勢いよく開けはなつと、音に驚いたのか、飛び出してきたフェイトに視線を向けているヴィータと、スバルとティアナの次に模擬戦をやることになっているエリオとキャロがいた。
「…………もう模擬戦、始まっちゃってる?」
「スバルとティアナがやってるぜ。今のところ均衡状態ってところか。とりあえず、こっちに来たらどうだ?」
そうヴィータに促されたフェイトはあがった息を整えるために一度大きく深呼吸してから屋上の落下防止用の柵に手をかける。
そこでフェイトはあることに気がついた。
「あれ?ヒイロさんは?一応スバル達の模擬戦を見に来るって言っていたんだけど………。」
「え、ヒイロさんがですか?」
「でも私達、ヒイロさんの姿、見てませんよ?」
エリオとキャロが驚き気味に言った言葉にフェイトは首をかしげるが、ヴィータだけはフェイトから視線を外して別の方角へとその視線を向けていた。
その視線の先にはフェイト達がいるビルより一回りほど高く、模擬戦を行なっているなのは達に近いビルがあった。
「あそこの屋上にヒイロはいる。なにやら近くで見たいんだとさ。」
フェイトはヴィータが言っていたビルに向けて目を凝らしてみる。
すると、ぼんやりとだが屋上の鉄柵に手をかけているヒイロの姿を見つけることができた。
「アタシにはヒイロの行動の意味がわからねぇ。別段、見るだけならここでも十分だと思うんだけどさ。」
ヴィータのそう言った声が聞こえてヒイロがいるビルからヴィータに視線を戻すと、手のひらを両方とも上に向けて肩をすくめている彼女の姿があった。
さながらヒイロの行動にあまり意味を見つけられていないと言った様子であった。
そして、ヴィータのフェイトの話のタネになっていたヒイロ。
彼はフェイト達がいるビルより高さのあるビルの屋上から模擬戦の様子を見守っていた。
状況としては今のところヴィータが言っていた通り、均衡状態であると感じてはいた。しかしーーー
(……………動くか。)
ヒイロが心の中でそう呟いた瞬間、状況に変化が生じた。ビルから10個近くの魔力弾が打ち出されたからだ。
そしてその魔力の色は、橙色。つまり、ティアナが放った弾丸であるということだ。
しかし、そのティアナが放った魔力弾のスピードはどことなく遅く感じる。
少なくともホテルアグスタで暴走させた弾丸のスピードより遅かったのは火を見るより明らかだった。
どちらかといえば、スピードよりコントロールに重きを置いているといったところか。
なのはもそれが分かっているのか、飛んでくる弾丸をよく注視しながら弾丸を避けていく。
しかし、避けられているにも関わらずティアナの弾丸は一目散になのはの元へと飛んでいく。
ヒイロにはこの弾丸がなのはを攻撃するためにも感じられた。それと同時にーーー
(………あの魔力弾、奴らが戦いやすい場所へ誘導するためか。)
そう思った直後、ヒイロの視界にウイングロードを展開しながらその上をマッハキャリバーのローラスケートでなのはに向けて、疾走しているスバルの姿が入り込んだ。
愚直にも相手に一直線に進んでいくのは疲弊しているならともかく、余力の残っている相手にはただの狙いのまとでしかない。
少なくともなのははまだ十二分に余力を残している筈だ。
だが、今回はあくまでスバル自身に視線を向けさせることが重要だ。ただそれだけに限るのであれば、その役目は十分に果たせるであろう。
その突進してくるスバルに向けて、なのはは魔力弾を撃ち込んだ。
放たれた桜色の光弾はスバルが掌から展開した青いプロテクションにより、弾かれる。
そのことになのはは驚いたのかわずかに表情を歪める。
「フェイクじゃない………本物っ!?」
「でぇやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
スバルは自身の右手に装着されたリボルバーナックルを大きく振りかぶると、わずかに反応が遅れたなのはにその拳を振り下ろす。
「っ!!!」
対応が遅れたなのはだったが、瞬時にスバルに向けて手をかざすとそこから円形の防御用魔法陣、『ラウンドサークル』を展開し、スバルの拳を受け止める。
拳を押し付けるスバルにそれを防御するなのは。
先に引いたのは、スバルだった。
「っ…………うわわわっ!?」
引いたスバルだったが、わずかにバランスを崩したのかウイングロードの上でふらつきながらも何とか体勢を整える。
彼女のリアクションを鑑みるに引いたというより弾かれたと言った方が正しいのかもしれない。
「こらスバル、ダメだよ。そんな機動………!」
「すみません!!でも、ちゃんと防ぎますから!!」
スバルの行動を指摘するなのはに自身は大丈夫と返したスバル。
その瞬間、なのはの顔にわずかにだが影が差し込んだのは、スバルはおろか、遠目で見ていたヒイロでもわかるよしもなかった。
「ティアナは…………?」
一度引いたスバルから視線を外し、先ほどの誘導弾以降、攻撃がないティアナを探す。
そんな時、彼女の顔に小さい赤い光が当てられた。
それはヒイロにも見覚えのある光だった。その光は銃のアタッチメントの一つであるレーザーポインターの狙いをつけるのを補佐するための光に他ならなかったからだ。
その光から自分に照準が当てられていることを察したのか、光の方角にその視線を向ける。
「砲撃魔法、か。だが、昨夜見せたクロスシフトでは………」
「砲撃を撃とうとしているあのティアナは幻影、だな。しかし、彼女の幻影の精巧度はやはり眼を見張るものがある。昨日も同じことを言ったが、ウイングゼロのレーダーでなければ、判別がつかないレベルだ。」
予めクロスシフトの全容を知っているヒイロとアインスはこれと言ったリアクションを見せずに淡々とティアナ達のクロスシフトの様子を見守っていた。
(特訓の成果………クロスシフトC………!!行くわよっ、スバルッ!!)
「任っされたぁぁぁぁぁ!!!!」
ティアナの念話に答えるように叫ぶスバルはリボルバーナックルからカートリッジをリロードし、再びなのはに肉薄する。
当然機動が分かりきっている攻撃をそうやすやすとなのはが受けるはずもなく、威力の上がったはずのスバルの拳をラウンドサークルで受け止める。
しかし、なのはは先ほどのようにスバルをはじきかえすことはせずにスバルの拳を受け止めるだけ受け止めて、先ほどから砲撃魔法を行おうとしているティアナに視線を向ける。
まさにそのタイミングで、砲撃魔法を撃とうとしていたはずのティアナの姿が、蜃気楼のごとく、最初からそこにはいなかったかのように掻き消えた。
「っ…………!?」
先ほどまで自身が見ていたティアナが幻影てあることに気づいたなのははすぐに意識を切り替え、どこかにいるはずのティアナの姿を探そうとするが、目の前のスバルがさらに拳を押し付けてくるため、そう簡単に視線を逸らすこともできないでいた。
(…………スバル。もしあたしがアンタの名前を呼んだら、その時はよろしくね。完璧に思いつき、ぶっつけ本番の上にできる保証はほとんどない。その三拍子が揃っている、ただの悪あがき。今更だけど、いける?)
(………大丈夫。私とティアの仲だもん。ティアならやれるって信じてるし、ティアを信じる私も信じてるから。)
(なにそれ、変なの。)
ティアナとスバル、彼女ら二人の間でしか行われない会話。その会話をお互い心の中で笑顔で済ませたその時、なのはの背後に敷かれたウイングロード、空へと伸びているその青い道の空間が歪み、上へ上へと駆け上がっているティアナの姿が現れる。
(さぁて、一発ブチかましていこうかしらね。)
ティアナは足を魔法で離れないようにし、ウイングロードを駆け上っている途中、クロスミラージュの銃口からダガー状のブレードを形成する。
(あたしはスバルみたいにクロスシフトの才能もなければエリオみたいにスピードがあるわけでもないし、キャロみたいに周りに支援魔法をかけられるわけでもない。あるのは幻惑とか姿を隠したりするほとんど自分の保身にしか使えない魔法。もしかしたら、別の誰かの幻影を作ったり、人じゃなくて物にも将来的には使えるかもしれない。だけどーーーー)
(今は、今のあたししかできないことを、全力でやる。それだけーーーそれだけでいいんだ。)
ティアナは銃口からダガー状の魔力刃を展開したクロスミラージュのグリップ部分を力強く握り、上空からなのはに突き立てようとする。
(ーーーーーあれ?)
不意にティアナが目線の先にいるなのはに違和感を覚える。別段、なのは自身に何かあったわけではなく、ティアナの心的に余裕になった頭脳があるものを捉えたのだ。
それはわずかながら、本当に少しだけ感じた。なのはの視線。
気づかれているーーーそう直感したティアナはーーーー
「スバルッ!!!!!!」
思い切り、自身が一番信頼しているパートナーの名前を叫んだ。それと同時に握っていたグリップ部分から人差し指だけをのばし、トリガー部分に指をかける。
引き金を引くと同時にクロスミラージュの撃鉄が稼働し、なのはに向けて弾丸が発射される。
その弾丸はさっきまで銃口から生成していたダガー状の魔力刃に他ならない。
「マッハキャリバーーー!!!」
『Wing road』
パートナーの声に応えるべく、スバルも自身のデバイスであり、相棒であるマッハキャリバーにウイングロードを伸ばさせる。
その伸びた道はクロスミラージュから放たれたダガーとティアナの間をすり抜けるように伸び、なのはの視界からティアナを見えなくさせる。
直後にさらに爆発音と共に爆煙がなのはの視界を覆い尽くす。先ほど放たれたダガーがなのはのバリアと接触し、炸裂したのだろう。
なのははいち早く視界を確保するべく、レイジングハートを振るい、爆煙を振り払う。
視界をなんとか確保するとティアナがいるであろう頭上を見上げるもそこにはティアナはおろか、先ほどまで彼女自身に拳を振るっていたはずのスバルの姿までなかった。
(一体………どこに………!?)
警戒しながらなのはがスバルの残したウイングロードから飛び立とうとしたその瞬間ーーー
バリンッ
と真下から何か割れるような音が響いたと同時に、縄のようなものが自身の右足を縛り付けていく感覚が生じた。
驚いた顔をしながらその原因をさぐるとスバルのウイングロードをぶち抜きながら、ワイヤーが自身の右足に括り付けられていたのだ。反射的になのははバインドの解除魔法で拘束を解こうとするが、自身に括り付けられたワイヤーはなんの反応も示さなかった。
(しまったーーーこれ、魔力で編まれていないーーー)
「な、なんだ、あのワイヤーはっ!?」
フェイト達が模擬戦の様子を見ていたビルでは心底から驚いた表情を浮かべながらヴィータが声を荒げていた。
「何か………先端に尖ったようなものがついているけど………?」
ヴィータが驚いている中、フェイトは冷静になのはを括り付けているワイヤーについての分析を口にする。
「あ!!あれ、ティアナさんが移動するときに使っているアンカーです!!」
「ティ、ティアナさんの……!?でもなんで………?」
エリオが合点のいった表情をあげながらワイヤーについての正体を口にするも、キャロは未だに疑問を隠しきれていない様子だ。
そう、なのはを縛り付けているのはティアナが移動するときに使うアンカーで間違ってはいない。
しかし、肝心のなぜ、なのはを拘束するのにアンカーを用いたかが、未だ明らかになっていない。
「………なるほど。ティアナも結構考えてるね。」
「え、何かわかったんですかっ、フェイトさん!!」
「あのワイヤーって魔力で編まれているわけじゃないでしょ?仮に相手を拘束するときに使えば、バインドを破壊する魔法を使われても壊されることはない。キャロだって召喚魔法で金属チェーンとか召喚してガジェットを拘束していたときがあったよね?それと似たようなことをティアナはクロスミラージュのアンカーを使うことでやっているんだよ。」
フェイトの説明にエリオとキャロは凄いものを見ているかのような目線を送るしかなかった。
「それがお前の突破口か。魔力に頼らずとも、いや、魔力を使っていないからこそ、あの拘束は効果を発揮する。悪くない判断だ。」
ティアナの解決策にヒイロもわずかに表情を緩ませながら、仕上げにかかるティアナの行動を見守る。
魔法によるバインドではなく、物理的な拘束を受けたことで行動を阻害されたなのは。
いつもの癖でバインドの解除魔法を使ってしまい、時間を取られたなのはは自身の真下から魔力の反応を確認する。
見なくともわかるほどに輝いている魔力光の色は、オレンジ。
つまり、真下にある反応はティアナの魔力によるものだ。
(スバルのウイングロードを足場にしてなのはさんの真下に潜り込む………クロスミラージュの片方を使ってなのはさんの拘束も完了………あとは………!!)
ウイングロードの下に潜り込んだものの地面に向かって自由落下を続ける状況の中、ティアナはもう一丁のクロスミラージュを両手でしっかりと構え、なのはに向けて砲撃態勢を取る。
(あたしの全力………正真正銘のラストシューティング………)
ティアナはクロスミラージュに自身の魔力を送り込むと、先ほどビルの一角から放とうとしたように、その銃口にオレンジ色の魔力スフィアを発生させ、膨張させていく。
「ファントム………ブレイザーァァァァァ!!!」
雄叫びとともにクロスミラージュの引き金を引くと身動きが取れないなのはに向けてオレンジ色の魔力奔流が一直線に飛んでいく。
その奔流がなのはと接触した直後、爆発を起こし、周囲は爆煙に包まれる。
着弾はひとまずしたという認識を持ちながらも浮遊魔法を持たないティアナは重力に従い、真っ逆さまに落ちていく。
しかし、ティアナの表情に落下に対する恐怖のようなものはなかった。なぜならーー
「ティアッ!!」
彼女のパートナーであるスバルがウイングロードを展開しながら、落下中のティアナの体を見事に抱きとめた。
スバルはティアナを抱えたまましばらくウイングロードの上で空を駆けるとビルの上に降り立った。
「ふぅ………案外やってみればできるものね。」
ティアナはそういうと表情をわずかに緩め、ぶっつけ本番のフォーメーションがうまくいったことに喜びを露わにする。
スバルも笑みを浮かべるティアナに声をかけようとしたとき、不意に視界の端で桜色の光が瞬いたのを見た。
何気なく視線を向けた先には未だ爆煙で見えないが、確かそこにはなのはがいたはずだった。
「ティアッ!!離れてっ!!」
本能的に危険を察知したスバルはティアナを突き飛ばした。ティアナはスバルが突然自身を突き飛ばしたことに理解が及んでいない様子だったが、スバルがその直後、桜色のバインドで腕ごと体を縛り上げられ、身動きが取れない状態にさせられたのを見て、直感的に未だ晴れない爆煙に包まれているなのはの方を見やる。
「バインド!?それにあの魔力………仕留めきれなかった!?油断した………!!」
大丈夫だろうとタカをくくった結果、自身の相棒であるスバルがバインドで行動不能に陥ってしまった。
ティアナは自身のミスに歯噛みしながらもクロスミラージュを再度構え、その銃口をなのはに向ける。
ちょうどそのタイミングで爆煙が晴れ始め、中にいたなのはの姿が徐々に明らかになる。
バリアジャケットに黒く燻ったようなあとはあるものの、そこには間違いなく戦闘の続行が可能であろうなのはの姿があった。
「…………おかしいなぁ………二人とも、どうしちゃったのかなぁ………。」
「っ…………!?」
爆煙から姿を現したなのは。しかし、その表情、声色共々に彼女の魔力光である桜のような色合いのものは存在せず、そこにあったのは完全に色が抜け落ちたような静かな、それでいて恐怖を呼び起こすような冷たいものであった。
今まで見たことがないようななのはの表情と声に思わずティアナは身体を強張らせらせる。
「頑張っているのはわかるけど………模擬戦はケンカじゃないんだよ………?」
(不味いわね………理由はわからないわけでもないけど、あのなのはさんのキレ方、とにかく不味いわ。)
なのはの変貌っぷりに面をくらいながらもティアナはクロスミラージュを構えたまま、なのはの行動を見逃すまいとして目を凝らし続ける。
「練習のときだけ言うこと聞いているフリで、本番でこんな危険なムチャをするなら、練習の意味なんてないじゃない………」
なのはのその言葉に一瞬、ハッとした表情を浮かべ、息を飲んだティアナだったがーー
『人は戦っているのであれば、必ず自身の間合いではない距離感で戦わなければならない時がくる。それが戦場というものだからな。』
(確かになのはさんの言う通り、本番でムチャをやるようなら、練習の意味なんてないのかもしれない。だけど、そんなことは絶対にない。基礎を盤石にする貴方の教導に無意味なことなんてない。)
ティアナは心の中でそう語りかけながらも、口にだすようなことはしない。
言ったところで、何が、どの言葉がなのはの怒りの火に油を注ぐことになるのか、判別がつかなかったからだ。
「ちゃんとさ、練習通りにしようよ………。」
なのはの言葉に、ティアナは何も答えずにただクロスミラージュの銃口をなのはに突きつける。お互い沈黙の時間が続く中、なのはが口を開いた。
「…………ねぇ、わたしの言っていること、間違っている………?」
「わたしの訓練………そんなに間違ってる………?」
「あたしはもう誰も失いたくはないんです。スバルのような友人に、エリオやキャロみたいに優しく、暖かい仲間。みんなを守るためにも、あたしは強くなりたいんです。そのためだったら、どんな無茶でも、あたしはやります。」
なのはの言葉にはっきりとした口調でそう言い返したティアナ。その視線はなのはの顔に向けられていたが、彼女の顔に影が差し込んでしまい、その表情を伺うことはできなかった。
「だってあたしの周りにはーーー「少し、頭冷やそうか。」っ!?」
言葉を続けようとした瞬間、なのはがティアナに指を一本だけ向け、言葉を遮った。
その指の先端には魔力が蓄えられていっていた。明らかな、砲撃魔法の準備に入っていた。
「冗談………!!」
ティアナはなのはの行動に悪態を吐きながら苦々しい表情を浮かべるとビルからビルへ飛び移り、なのは、というより、スバルから距離をとった。
(あんなところで砲撃魔法なんて撃たれたらあたしはともかくスバルが不味いことになる………!!それだけは避けないと………!!)
ティアナはビルの屋上を走りながら視線だけをなのはに向ける。砲撃魔法の準備に入っているその指はーーティアナに向けられていた。
(まずは狙いはこっちだってことはわかった………!!でもどうするの…………!?あたしの魔力はさっきの砲撃で底がもう見えている………!!)
ここでティアナの脳裏に浮かんでいたプランは二つ。
一つは残りわずかの魔力を考慮して、誘導弾でなのはの砲撃魔法を中断させる。
もう一つはなけなしの魔力を全部使ってなのはの砲撃魔法に自身の砲撃魔法であるファントムブレイザーをぶつけて相殺する。
(ダメ………どっちもできる未来が視えないわ………相手はほとんど万全のなのはさん………どっちを選んでも直撃は免れない………!)
「クロスファイア………シュート」
思案に耽っていたティアナだったが、なのはの砲撃準備が完了したのか、感情の全くこもっていない声でそういうと、走っているティアナに向けて桜色の奔流が猛烈な勢いで発射される。
「しのごのいっていられる暇はない!!」
ティアナは決心すると迫り来る砲撃に向けて、クロスミラージュを構える。
(避けられないし、相殺もできないなら………!!)
その直後、ティアナのいた周辺を爆発音とともに爆煙が覆い尽くす。
「ティアーーーーーッ!!!!!」
スバルが悲痛な表情をしながら、ティアナに向けて叫び声を上げる。
しばらくもくもくと煙が上がっていたが、その煙が晴れると満身創痍ながらもなんとか立っているティアナの姿が現れる。
意識も保たせてはいるのか、その目から光も失われてはいなかった。
(っ…………なんとか撃つだけ撃って威力を減衰させたはずだけど………それでもこの気力の持っていかれよう………つくづく化け物じみた砲撃ね………)
息も絶え絶えで文字通り、立っているのがやっとな状態となったティアナはもはやその場から動くことすらままならない。
もはや戦う意志はなく、完全に戦意を喪失しているティアナ。
そんな彼女になのはは無情にも指を向け、もう一度砲撃魔法を放とうとする。
(………ああ、これはあたしじゃあ、どうしようもない、かなぁ………)
なのはがもう一度砲撃魔法を撃とうとしていることに、ティアナはもはや達観して、クロスミラージュを構えることすらしない。
そんなとき、視界の端に日の光を何かが反射しているような光を見かける。
ティアナが視線だけをそちらに向けると、なのははおろか、スバルや模擬戦の様子を見ていたヴィータ達にもわからないように、不意に口角だけを吊り上げ、不敵な笑みを浮かべた。
その直後、なのはがチャージしていた魔力をティアナに向けて放つ。
スバルが彼女に涙を浮かばせながら大声で呼びかける中、変わらずの不敵な笑みを浮かべながるティアナ。
ねぇ………もう一回、貴方のお世話になってもいいですか?
心の中でそう呟いた言葉にその光の正体はそのティアナの呟きに応えるように翼を羽ばたかせるような特徴的な音を響かせ、ティアナとなのはの間に立ちふさがった。
直後に爆発。爆風がティアナを襲うが、不思議と最初の砲撃で感じた意識が持っていかれるような痛みはなかった。
しばらく爆風に煽られるティアナだったが、その爆風が収まったところでついに限界を迎えたティアナは前のめりに倒れそうになるが、その体を支える人物が目の前にいた。
「……あり、がとう………。」
ティアナには自身を抱きかかえてくれた人物が分かっているのか、その人物にお礼を述べながら、意識を落とした。
「……………なのはの様子がおかしいと判断しただけだ。お前はついでだ。」
そうぶっきらぼうにティアナの前に立ちふさがり、砲撃をウイングゼロの翼で防ぎきった張本人であるヒイロは鋭い視線をなのはに向けていた。なのはの表情は変わらずの色のなさだったが、今のところ行動を起こすつもりがないと判断したヒイロは視線を逸らし、バインドで動けないスバルに視線を向ける。
「スバル。さっさとティアナを連れて後退しろ。」
「えっ!?で、でも今はーー」
バインドに縛られていることをヒイロに伝えようとした瞬間、そのスバルを縛っていたバインドが音を立てて破壊される。
一瞬、何事かと思ったスバルだったが、その視界に半透明な体で宙に浮いているアインスが現れる。
「ア、アインスさん!!?」
「バインドは破壊した!!早く彼女の元へ行ってやれ!!あ、それと私をヒイロのところに連れて行ってくれ。」
「は、はいっ!!」
アインスを肩に乗せ、自由の身になったスバルは足元からウイングロードを伸ばし、その上を滑りながらヒイロの元へ向かった。
「ティアナをシャマルのところへ連れて行け。こんなところに残させるよりは遥かにマシだ。」
「で、でもヒイロさんは!?」
「早く行くんだ!!今はヒイロが立ちふさがっているからいいもののいつまで彼女が待っていてくれるかわからないからな!!」
アインスの急かす言葉に背中を押され、スバルはティアナを抱えて後退していった。
スバルが安全圏まで後退したことを確認したヒイロは再度、なのはに鋭い視線を向け、相対する。
「どうして邪魔をしたの?」
感情がまるで篭っていないような冷たい声でなのははヒイロが乱入してきたことに関して問い詰める。
「お前がティアナに一撃目の砲撃を入れた時点で既にティアナに戦意はなかった。それ以上はティアナ自身が危険な領域に達すると判断して割り込ませもらった。」
「何を言ってるの?私はティアナに無茶をすると危ない目に遭うっていうのを体に教えようとしただけ。」
「それが、お前のやり方か?」
「………これが、
容赦はしない。なのはは口にこそしなかったが、まるでそう言っているかのようにレイジングハートをヒイロに向ける。
武器を向けられたヒイロは僅かに考え込んだのちに、ウイングゼロの翼の付け根からビームサーベルを引き抜く。
「悪いが今の貴様にエリオやキャロの教導は任せられん。どうしてもというのであれば、ここで俺を倒すんだな。ティアナにやったようにな。」
ヒイロがなのはにそう言い放った瞬間、なのはの表情が悲痛なものに歪んだ。
「………どうして、そんなことを言うの………?やっぱり、そんなに私の教導、間違っている……?」
「なのは………?」
なのはの不安気な表情に思わずヒイロは訝し気な顔をし、アインスも不思議そうな声と顔をなのはに向ける。
「ねぇ、ヒイロさん……。教えてよ、ヒイロさんのデバイス………ウイングガンダムゼロは、未来を視ることができるんでしょ!?教えてよ、私の訓練は間違っていたのっ!?!?ねぇっ!!!!」
言葉を紡いでいるうちに徐々に話すスピードが上がっていき、最終的には矢継ぎ早に有無も言わせないような口調でヒイロに問い詰めるなのは。
しかし、ヒイロはそれに気にかける様子を全く見せずにただこれだけを言い放った。
「知らん。そんなくだらないことでゼロを使おうとするな。」
ヒイロの言葉になのはは面を食らった顔をすると、表情を俯かせ、暗い影を落とした。
「くだらない?私がずっと、ずっと悩んでいたことをくだらない………!?」
「なんで、どうして…………!!!」
「ああああああああああッ!!!!!」
絶叫とともに涙で濡らした顔でなのはがレイジングハートを振り下ろすとそこから無数のアクセルシューターが凄まじいスピードでヒイロに襲いかかった。
望まない戦闘。なのはとヒイロ、どちらが勝ってもそこには勝者など存在しない戦いが、始まってしまった。
魔王降臨、魔王降臨ッ!!!
やっぱり降臨しちゃったよ!!!
あ、それとあとがきで言うのもアレなんですけど、なのは達のゼロシステムに対しての認識の度合いを補足として載せておきます。
なのは………ウイングゼロが未来を予測できることは知っているが、その危険性を全然知らない。
フェイト………九話にて説明済みのため普通に全部知ってます。
はやて………リンディさんからヒイロ自身のことは色々聞いたけどウイングゼロについてはツインバスターライフルくらいしか知らない。つまりそもそもゼロシステム自体の存在を知らない。
と言った感じです。まぁ、今回も色々やってる感ありますが、感想くれると嬉しいです^_^