魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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タイトルはもはやこれしか思いつかんよ。

それと追伸

フェイトそんを出すともれなくシリアスがシリアルになるんだけどどうしよう(白目)


第51話 ヒイロVSなのは

「ああああああッ!!!!」

 

なのはの絶叫と共に放たれるアクセルシューター。その数はおよそ32。その一つ一つがなのはの怒りからか、持ち前の魔法に関する高いセンスなのか、魔力ランクが抑えられているとは思えないスピードでヒイロに向かっていく。

 

「ちっ………。」

 

ヒイロはなのはの攻撃に対して小さく舌打ちをするとウイングゼロの翼で迫り来るアクセルシューターを打ち払いながら上昇する。

しかし、翼で打ち払えるのも限界があり、なおもアクセルシューターは翼を羽ばたかせるヒイロに迫り来る。

 

「ヒイロ、どうするんだ!?完全になのはは怒りで我を忘れている………!!」

「…………ただ怒りで我を忘れているのであれば、時間が経てば勝手に頭は冷えてくる。だが………なのはの性格上、その冷えてくる時が訪れるかは不確かだ。

良くも悪くも自分で決めたら、一向に考えを変えない奴だからな。」

 

ヒイロはアクセルシューターから逃げながらもアインスと共に今のなのはの状態に対しての解決策を模索する。

 

「ならばどうするのだ!?このままお前が落とされるまで待つしかないのか!?現状のウイングゼロの状態ではなのはの砲撃魔法を食らえば非殺傷設定でもタダでは済まないぞ!!」

「わかっている。だからその前に無力化させる必要がある。そのためにはどう考えても近付く必要があるがな。」

 

ヒイロはそこまで話した瞬間、その場で身を翻し、バレルロールを行う。

その直後、先ほどまでヒイロが飛んでいた場所を桜色の奔流が飲み込んだ。

ヒイロはその正体が分かりきっていたが念のためなのはの方に視線を向ける。

そこにはレイジングハートをヒイロに向けて構えているなのはの姿があった。

そのなのはは悲しみに満ち溢れた虚ろな瞳をヒイロに向けながら、再度、砲撃魔法、『ショートバスター』を放つ。

 

「こちらの武装はツインバスターライフルとビームサーベル。ツインバスターライフルはこの戦闘に至っては使用は論外だ。マシンキャノンを喪失しているのはなのは相手には少しばかり手痛いか………。」

「…………なぁ、私と話しているのは別に構わないのだが、それでなのはの砲撃に当たったとかは言わない約束をしてほしい。」

「フン、怒りに塗れている奴ほどその相手を倒そうと狙いは単調なものになる。だが、それを鑑みてもなのはのアクセルシューターは厄介だ。こちらの行動に合わせて使用方法を変えられるからな。」

 

ヒイロはやたらめったらに放たれるなのはの砲撃を避けながらも手をこまねいていることに歯噛みする。

 

「つくづく、魔法に関しては極めて高い才能を有しているな。もっとも教導官としての才能があることとは別問題だがな。」

「とはいえ、本気でどうするつもりだ?このままではジリジリと追い詰められていくのはこっちだ。」

「…………プランは考えてある。お前の力を使ってウイングゼロ本来のスピードを出すよりかはマシの筈だ。」

「その内容、聞かせてもらってもいいな?」

 

アインスの言葉に頷くとヒイロはその考えたプランをアインスに伝える。

 

「………正気か?」

「不意をつくのであればこれが一番だ。同時に奴の戦意もそげるはずだ。」

「…………お前はもう本当に…………主に何を言われても私は知らないぞ………。」

 

ヒイロのプランを聞いたアインスは悩ましげに頭を抱えるのであった。

 

「しかし、なのはを止めるとは別に気になる点がある。奴が言っていた言葉だ。」

「言葉…………?お前がくだらないと切り捨てていた悩みとかか?」

「………一応弁明として言っておくが、あれは奴の悩みがゼロシステムを使うほどでもないからくだらんと切り捨てただけだ。悩んでいたのであれば、なのはを止めた後、そのマイナス要因を取り除く必要がある。今はどうであれ、奴は戦力としても六課の象徴としても必要だからな。」

「それも、そうか………しかし、この弾幕の中でやるのか?」

 

アインスはそういいながら飛び回っているヒイロをしつこいと思ってしまうほど追ってくるアクセルシューターやなのはの砲撃を交えた弾幕を見ながら苦い表情を浮かべている。

ヒイロもこの弾幕の中を切り抜けながら別のことを思案するのは避けたいのが本音であった。しかし、それでもなのはの暴走の原因にそれなりのあたりをつけておきたいのも本音であった。

 

ヒイロは近づいてくるなのはのアクセルシューターをビームサーベルで叩き斬りながらなのはの暴走について整理を始める。

 

まずはなのはの様子がおかしくなったのはティアナの砲撃を喰らった後だ。そこからスバルにバインドを仕掛け、距離を取ったティアナに砲撃魔法を敢行。

ティアナは残存魔力が少なかったもののかろうじて威力を減衰させたものの、そのティアナに向けてなのはは第2射を放とうとしていた。

 

(…………なぜティアナにあそこまで過ぎた攻撃をしようとした?)

 

ヒイロはフェイトたちが見ている場所より模擬戦を近い場所で見ていた。しかし、それでも模擬戦の様子を遠目で見ていることは変わらず、ティアナとなのはが交わしたと見られる会話の詳細はわからない。

 

『私はティアナに無茶をすると危ない目に遭うっていうのを体に教えようとしただけ。』

(…………なのはは俺がいない間の10年で、一度オーバーワークが原因で反応が遅れ、重症を負っていた。)

 

(ティアナもその来歴から来る向上心から無理をすることもある。だがそれはティアナの姿を見る限り少しずつ是正はされていっている筈だ。)

 

ヒイロは思案を張り巡らせながら建物の窓ガラスを突き破り、廃墟と化している内部に転がり込む。

ヒイロは廃墟と化し、内部の基礎構造が丸見えになっている建物の柱と柱の間を縫うようにすり抜ける。

途中、なのはのアクセルシューターが迫ってきても、柱に当てるなどしてその数を減らしていく。

とはいえ、それは一時的なものでなのはがレイジングハートに命じれば、即座にその数を戻されてしまうため、焼け石に水であった。

 

(思い返せば、なのははなぜあそこまで基礎固めに躍起になっている?基礎を盤石にすることで奴自身のように無茶をする奴をなくすためか?だとすれば、なのはの行動はーーーー)

 

(躾か。敢えて痛い目に合わせることでティアナの無茶に歯止めをかけるためのものと推測するのが一番か。しかし、やり方には異を唱えたいところだがな。)

 

なのはがティアナにあそこまで過度な攻撃を仕掛けようとした理由にひとまずあたりをつけたヒイロは続けて、なのは自身がこぼしていていた悩みについての推察を始める。

 

(自分の教導は間違っていたか。この言葉から思い浮かべられるのは、第1に不安、次点で俺の反応に対する恐怖、と言ったところか。)

 

(これだけの判断材料があれば然程推察に苦しくはない。なのははティアナと同じように自分を認めて欲しいという欲求に飢えていたのか。)

 

なのはとティアナ、ティアナは元々から自身に対してストイックな様子はあったが、なのははなのはでその穏やかな笑顔の裏側に自身を傷つけるのも厭わないほど苛烈なストイックさを持ち合わせている。

 

(要は、同族嫌悪、か。しかもなのはとティアナの双方の感情がぶつかり合ったのならともかく、今回はなのはの独りよがりな思いが暴発した結果、か。)

 

タチが悪い。とヒイロは心の中で舌打ちをしながら未だ減らしても減らしてもその魔力量に底が見えないなのはのアクセルシューターを叩き斬る。

その間もなのは自身から砲撃魔法が飛んでくるが、感情の昂りから狙いが甘いのをヒイロはすでに見抜いているため、射線を読み切り、危なげなくこれを回避する。

 

 

 

 

「どうしよう…………なのは、完全に冷静さを失って我を忘れてる………!!」

「ヒイロが模擬戦に乱入したのはちょっとは問い詰めたいけどよ、誰がどうみたって今のなのはの方がやばいだろ………!!」

 

なのはの異常を感じ取ったフェイトとヴィータはお互いのデバイスであるバルディッシュとグラーフアイゼンを起動させ、バリアジャケットを展開する。

 

「フェイトさん!!ヴィータ副隊長!!」

「私たちにも何かできることはありませんかっ!?」

 

エリオとキャロも険しい顔つきをしながらフェイトとヴィータに詰め寄るも、二人は微妙な顔を浮かべる。

 

「………ごめん。二人には悪いけど、今のなのはは多分、エリオとキャロには手に余ると思う。」

「手伝ってくれる気持ちはありがてぇが、それでお前たちが落とされでもすればアタシらがフォローに行けない可能性だってあるんだ。それにお前たちをなのはと戦わせて妙なわだかまりとか残させたくねぇからな。」

「そ、そんな………僕たちはなのはさんにそんな感情なんかは………。」

「エリオにはなくても、なのはの方には可能性がある。なのははとても優しいから、そんなことだってあるんだよ。」

 

ありえないと言った表情を浮かべるエリオにフェイトは諭すような口調でそう伝える。フェイトの言葉にエリオは表情を俯かせる。

 

『ヒイロさん。今から私とヴィータが援護に向かいます。それまで持たせられますか?』

『…………フェイトか。すまないが、それはやめておいた方が賢明だ。』

『え………?それはどういうことですか?』

 

ヒイロに援護に向かうことを念話で伝えたフェイトだったが、そのヒイロから援護を拒否されたことについて怪訝な表情を浮かべる。

思わず理由を尋ねるフェイトにヒイロは先ほどのなのはに関する推察を伝える。

 

『なのはの様子がおかしくなったのは、この模擬戦で結果的には何事もなかったが、ティアナが無理をしたことに要因がある。本来のポジションではない近接戦闘を行ったことだ。』

『確かにティアナが近接戦闘をしたのはびっくりしましたけど………それと私たちが援護に回ってはいけない理由と何か関連があるんですか?』

『…………それを話すには別の話をする必要がある。奴は自分の教導について悩みがあったようだ。教導が間違っていないかどうか。それをゼロで判断して欲しい。そう言ってきた。』

『ゼロ………?もしかして、ゼロシステムのことですか!?』

『それを覚えているなら話は早い。俺はそんなくだらないことにゼロを使うなと一蹴したのだが、そしたらあの有様だ。』

『ヒイロさんの言い草にも少し問題があるような気がしますけど。今は置いておきます。でも、なのははどうしてゼロシステムを………?』

『………それは俺が教えていないのもあるだろうが、奴が中途半端にしかゼロのことを知らないからだろう。そしてなぜゼロを求めたかだが、なのはは自分の教導に自信を持たなかった。だから誰かに認めてもらい、心の中で安心を求めていた。しかし、奴はそれを他人に聞かぬまま引きずり続け、ティアナが今回それなりの無茶をしたことで、奴の中で不安が増大したのだろう。さらにはなのはは一度過ぎた訓練を自身に課すという無理をしたせいで墜とされている。そのことが奴にとってティアナを止めなければならないという一種の強迫観念として突き動かした。結果、ティアナに過度な攻撃を加えようとする暴挙に至ったのだろう。』

『承認欲求に、強迫観念………!!!それが最悪な形で合致した結果………ティアナに攻撃を…………!!』

『そして、俺は奴のその承認欲求から出た言葉を否定する形で跳ね飛ばしている。そんな時にお前やヴィータが俺に加勢してきたら奴はどう思うだろうな。』

 

ヒイロの言葉にフェイトは表情を歪めざるを得なかった。承認欲求を否定したヒイロに加勢してしまえば、その否定された怒りや積もった不安により思考の視野が狭まっているなのはにどのように捉えられるか、想像ができないからだ。

最悪、フェイト自身やヴィータも敵として認識されてしまう恐れだってある。

 

「ヴィータ!!今、私たちがヒイロさんに加勢したら余計になのはを苦しめることになる!!」

「はぁっ!?一体どういうことだよ!!」

「話は後でちゃんとするから!!今のなのははヒイロさんに任せるしかない………!!」

「ちぃ………!!!わかったよ!!」

 

フェイトから静止の声を受けたヴィータはなんとかその場に押し止まりながらも苦々しい表情を浮かべながらヒイロとなのはの戦いを見つめるしかなかった。

 

 

 

 

「本当に良かったのか?二人がいた方が制圧自体の難易度はいくらか低くなると思うのだが………。」

「…………今はそれが最善手かもしれないが、物事を全体的に確認した時ではその時取った手段が同じように最善であるとは限らん。それにーー」

 

ヒイロは視線を軽く自身の後方に向け、ヒイロを追っているなのはの姿を見つめ、すぐさま視線を前方に戻した。今のなのはは完全に冷静さを失っている。そんな状態で一番最悪の展開がヒイロの援護にきたフェイトやヴィータにその砲撃の切っ先を向ける事だ。

そうなってしまえば、なのはの心的なダメージはかなりのものになってしまうだろう。守るための力を親友、そして仲間に向けてしまうことになるのだから。

 

「………事が済んだ後のなのはの心的負担をこれ以上増大させるわけにはいかない。」

「………わかった。ならば、私からは何も言わない。だが、後で彼女に何か言っておいた方が賢明だろう。お前も彼女の目線から見れば紛れもなく仲間であるはずだからな。」

「…………了解した。」

 

ヒイロはそういうとウイングゼロの翼を羽ばたかせながらなのはのアクセルシューターで外観がさらにボロボロになったビルから脱出する。

それを追うようになのはのアクセルシューター、そしてなのは自身が追っていった。

 

(…………今のなのはに違和感を覚えるほどの冷静さが残っていなければいいが。)

 

ヒイロは追ってくるなのはを軽く見やると軽く弧を描く機動をしながら反転、ビームサーベルを手にしている手を振り上げながらついになのはに接近する。

接近してくるヒイロになのははその色のない表情のまま無言でレイジングハートを構え、応戦する姿勢を崩さない。

そして、そこから放たれる砲撃魔法。彼女の代名詞でもあるディバインバスターやスターライトブレイカーと比べるとか細い攻撃だが、それでも直撃すれば一撃で相手を気絶させることもできるほどの出力だ。

しかもなのははその出力を魔力リミッターがかけられた状態でやってのけるほど

、こと魔法においては神がかり的な才能を有する。

そして、その魔力リミッターを廃した彼女は魔力ランク空戦S+と空において無類の強さを発揮し、豊富な魔力量とそれをふんだんに活用した砲撃魔法を扱えるのは管理局において高町なのはしかいない。

これが彼女を管理局のエースオブエースと言わしめる要因の一つだ。

 

その管理局においての誰もが認める比類なきエースの称号をなのははヒイロがいなかったこの10年間で手にした。

その空のエースにヒイロは単身で、さらに使用できる武器はビームサーベルという近接武装のみで挑みかかる。何も知らない人間が見れば、ただの馬鹿のやることだと嘲笑するだろう。

しかし、ヒイロにとってはそのようにただ相手が強いだけで自身がやらなければならないことを放り出す理由にはならない。

 

「・・・・・・。」

 

なのははレイジングハートを構えた後、なおも接近を続けるヒイロに対し、砲撃とアクセルシューターを交えた弾幕を放つ。

普通の魔導師では即座にアクセルシューターの直撃を受けて撃墜判定を喰らうほどの濃密な弾幕だが、ヒイロはそれら全てを見切り、ウイングゼロの翼を巧みに操り、上昇や下降、前進と後退、時には斜めに移動するなどといった三次元機動を描きながらなのはの攻撃を切り抜けていく。

 

「はぁっ!!」

 

なのはの弾幕を切り抜けたヒイロはその手に持つビームサーベルをなのはに向けて振り下ろした。

その振り下ろされたビームサーベルの刃をなのはは展開したプロテクションで防御する。

バチバチッ!!とサーベルとプロテクションが触れ合った箇所から生じるスパークの光がなのはとヒイロ、両者の顔を照らした。

ヒイロはそのまま力任せになのはのプロテクションを破壊しようするがーーーー

 

「ヒイロ!!後ろだ!!」

 

アインスの声が響いた瞬間、ヒイロは反射的になのはのプロテクションを足場にして後退する。

その直後、先ほどまでヒイロがいた場所をアクセルシューターが通過していく。

おそらく、ヒイロの死角からアクセルシューターを打ち込む算段だったのだろう。

態勢を整えようとしたヒイロだったが、視界に入れたなのはは既にレイジングハートを構え、砲撃魔法を撃ち放つ。

 

「っ!!?」

 

近距離での砲撃に思わず表情を歪めるヒイロだったが、なのはの砲撃が自身に到達する前に主翼をヒイロ自身を覆うように持って来させ、盾として活用する。

砲撃が主翼に着弾すると、ヒイロを中心にして空に爆煙が立ち上る。

立ち込める爆煙になのははその虚ろな瞳を向けていたが、その爆煙から不自然に伸びたーー爆煙の中から飛び出そうとしている者に煙がひっついているような物体に視線を向ける。

 

 

「………伊達に10年間戦ってきたわけではないようだな。」

「ああ。先ほどのプロテクションも以前とは比べ物にならないほど精度や強度が上がっている。アクセルシューターの練度も言わずもがなだがな。」

 

 

その煙が晴れてくるとウイングゼロの主翼を広げたヒイロが現れる。

ヒイロはその視線を険しいものに変えながら自身の下方で佇むなのはを見つめる。

 

 

 

「す、凄い…………ヒイロさん、なのは隊長のアクセルシューターを全部避けてる………。」

「私たちだと対応することすら難しいのに…………。」

「ヒイロさん、凄いでしょ?」

 

ヒイロの動きに感嘆といったような表情を浮かべているエリオとキャロの側にフェイトとヴィータが降りてくる。

 

「あ、あれ!?ヒイロさんの援護に向かったんじゃ………!?」

「ヒイロさんから後々なのはの心的負担になるから来るなって言われちゃって。」

 

エリオが驚いた表情を浮かべ、降りてきたフェイトにそう尋ねると乾いた笑みでその質問に答える。

 

「それよりも。ヒイロの奴、なのはに光の剣振り下ろしていたけどよ、アイツなのはを殺すつもりじゃねぇだろうなっ!?」

「え…………?で、でもデバイスには非殺傷設定があるんじゃ………?」

「………ヒイロのデバイスにはよ、非殺傷設定なんざつけられていないんだ。」

 

キャロが疑問気に尋ねた言葉に答えたヴィータの発言にエリオとキャロの二人は驚愕といったような表情をする。

普通であれば、デバイスには必ずと言っても良いほど非殺傷設定の切り替え機能が付いている。

そうでなければ、犯罪者を取り締まることが場合によっては極めて困難になる時もあるからだ。

エリオは思わず真偽を確かめるためにフェイトにもその視線を送るも彼女はヴィータの発言に全くの嘘がないことを無言で頷くことでつたえる。

 

「でも、ヒイロさんはなのはを殺すつもりは毛頭ないと思うよ。」

「お、お前それ、マジで言ってんの?」

「うん。そうだけど?」

 

ヴィータの正気を疑っているような表情にキョトンとした様子で首をかしげるフェイト。

 

「だってヒイロさん、さっきからツインバスターライフルを使う素ぶりすら見せてないから………。」

「あぁ………あのとんでも武装か…………。」

「ツインバスターライフル…………?」

 

ヴィータが頭を抱えながら苦い顔を浮かべていることにキャロが疑問気な声でツインバスターライフルの名前を口にする。

 

「確か………ウイングゼロの主翼部分に収納されていたのかな………。うん、それは置いておこう。ツインバスターライフルは端的に言えばーーー」

 

「なのはのスターライトブレイカーを凌駕する出力を出せるライフル銃。」

「………なのは隊長のスターライトブレイカーを………」

「凌駕する出力………?」

 

フェイトの言葉を理解できていないのかフェイトの言葉をおうむ返しするだけで固まってしまうエリオとキャロ。

その二人の反応にまぁ、そうなるだろうなと心の中でうんうんと頷きながらフェイトにヒイロがなのはを絶対殺さないというその理由を尋ねる。

 

「で、ヒイロがツインバスターライフルを使わないことが、なんでなのはを殺さない理由に直結するんだ?」

「その方が手っ取り早いから、かな。」

「え゛………。」

 

手っ取り早いから。つまり自身の親友であるなのはを殺されない理由が手っ取り早くないから。ただそれだけの理由でフェイトがなのはがヒイロに殺されない理由になっていることに思わず破顔する。

 

「なのはと戦っている様子を見ているとヒイロさん、ツインバスターライフルを撃つだけならなんとかなりそうな場面でも一向に撃つ気配を見せなかったから。」

「………………お前、だいぶ思考回路をヒイロに汚染されてないか?」

「ちょ、ちょっと!?どうしてそんな疑うような顔をするのっ!?」

「いや、ヒイロの技量とか実力を信じているだけなら相変わらずのぞっこんぶりだなで笑って済ませられるんだけどよ。手っ取り早いからだぁ?それはねぇよ。うん、ねぇわ。」

 

訝し気な表情を浮かべられた挙句、完全に引いている顔をするヴィータにフェイトは納得のいかない顔をするのだった。

 

 

「………やはり、今のウイングゼロの状態では振り切ることはできないか。」

「人体に影響がないレベルのスピードでやっているとは言え、かなりの速度を出している筈だ。しかし、それでもアクセルシューターをそれ以上の速さで操作し、なおかつ自身による砲撃をさも当たり前のごとく同時にやってのけるとは……常々恐ろしいほどの才能を有する………!!」

 

なのはの恐ろしいほどの魔力センスの高さに苦い表情を浮かべているアインスとそのような会話をしながらヒイロは未だなのはのアクセルシューターやなのは自身の砲撃から追われていた。

普段のウイングゼロであれば、余裕で振り切れる速度だが、今の状態はほとんど装甲がなく、中のヒイロがほとんどむき出しになっている状態だ。

その状態でスピード上げれば、もれなく空気は鋭い刃となってヒイロの体を傷つけていく。そのため、スピードは闇の書事件の頃とは見る影もないほどに落ち込んでいる。そのことも相まって、なのはのアクセルシューターから逃れられない状況が続いていた。

スピードが足りない故になのはのアクセルシューターに囲まれることも少なくはなかったが、それらをビームサーベルや主翼で撃ち落としながらヒイロは訓練場の空を駆ける。

 

「…………アインス、仕掛けるぞ。多少の覚悟はしておけ。」

「っ…………今のお前に聞き入れてもらえるとは思ってはいない。だけど、敢えて言わせてほしい………!!無理はするなよっ!!」

 

 

アインスの言葉を聞くだけ聞いたヒイロはウイングゼロの翼を羽ばたかせ、再度、廃墟のようにボロボロとなったビルに駆け込んだ。

 

 

 

 

(…………建物の中に………さっき見たいに建物の狭い空間を使ってアクセルシューターの数を減らす気?そんなことをしても意味なんてないのに。)

 

 

なのははヒイロの行動に不可解なものを感じながらも彼の後を追うように建物の中に入っていく。

しっかりと見ておかないと相手を倒せないから。

 

建物の中に入るとその階層を飛び回るヒイロの姿が眼に映る。なのははそれを視認するやいなや間髪いれずにアクセルシューターをヒイロに向かわせる。

今のヒイロのスピードを上回る桜色の光弾は寸分狂わず、ヒイロに向かっていくが、その直前に建物の柱に直撃し、その柱を粉々にする。

 

(外した………でもシューターはまだたくさんある。)

 

外したことを意にも介さず、彼女はヒイロに向けて桜色の光弾を撃ち続ける。ヒイロは巧みに柱を盾にし、それら全てを避け続けていく。

そんな最中、ヒイロは突然、その階層の天井を舐めるようになのはに接近を始める。

手には緑色に輝くビームサーベルが握られている。近接格闘に持ち込もうとしているのは目に見えていた。

なのははさほど驚いている様子も見せずにヒイロに向けてレイジングハートを構えると、その切っ先に複数のアクセルシューターを集め、一個に集約を行うとそれを砲撃としてヒイロに撃ち放った。

 

 

その砲撃をヒイロはバレルロールで紙一重で避けながらも、接近を続ける。

避けられた砲撃はビルの天井に直撃、その衝撃で天井にヒビを広げさせる。

そのままビームサーベルを振り下ろすもなのはは咄嗟に全身を覆うようなプロテクション、『オーバルプロテクション』を展開し、ヒイロの攻撃から身を守る。

シールドとビームサーベルが干渉しあい、紫電を撒き散らしている中、なのはとヒイロ、二人の耳に地響きのような音が入ってくる。

なのははそのことに一瞬、気を取られてしまう。そしてその瞬間をヒイロはすかさず、蹴りを入れ込むことでなのはを吹っ飛ばした。

 

「っ…………!?」

 

苦痛に表情を歪めるなのはだったが、すぐさま態勢を立て直し、ヒイロからの追撃を警戒する。しかし、その視界にヒイロの姿は既になく、代わりに支えているはずの柱を全て失い、なのは自身の砲撃により、天井にヒビを入れられた箇所を起点とし、建物が崩落していく様子が映し出されていた。

最初こそ、自身がいる場所も建物の崩落に巻き込まれるのではないかと感じたが、周囲にしっかりと支柱が存在しているのと、崩落の様子を鑑みるに自身がヒイロに吹っ飛ばされた地点までは崩落の影響がないことを察し、ひとまず心の中で安堵した。

しかし、その吹っ飛ばした張本人であるヒイロの姿は一向に見えなかった。

なのははヒイロの捜索のため、周囲を最大限に警戒しながら崩落するビルを後にした。

 

「レイジングハート、ヒイロさんがどこにいるか分かる?」

 

なのははレイジングハートにそう命ずると承諾を示したのか、赤い宝玉部分が点滅する。

 

 

「おいおい、なんなんだよ、アイツらの戦闘…………!!」

 

ヒイロとなのはの戦闘の苛烈さにヴィータは額から冷や汗を流しながら見守っていた。なにせ訓練用の幻影だったとはいえ、ビルを一つ破壊したのだ。

フェイトもヒイロを信じてはいるとはいえ、あまりの苛烈さに思わず息を呑んでいた。

 

「今は………なのはさんしかいませんね………ヒイロさんは………一体どこに?」

「ま、まさか、建物の崩落に巻き込まれたとか………!?」

 

エリオが状況を確認しているところにキャロが最悪の展開を口にする。その瞬間、フェイトは青ざめた表情をしながら、訓練場をくまなく確認する。

そして、フェイトがある一点を確認した瞬間、目を見開いた。さながらそこにいるものを視界にしっかり収めようとしているようだった。

 

「いた…………よかった…………」

 

安堵した表情と共に出された言葉にほかの三人はフェイトに視線を集中させる。

そして、フェイトはそれに答えるようにヒイロがいる場所を指差した。

 

 

 

『マスター!!上です!!直上ッ!!!』

「っ!?」

 

フェイトが空を指差したのとレイジングハートの警告はほぼ同じタイミングだった。

険しい表情をしながらなのはが自身の真上を見上げると、空を背景に右手にビームサーベル、左手に分割したバスターライフルを手にしたヒイロが佇んでいた。

そのヒイロはなのはの視線がかちあったと思ったのか、高度を下げ、なのはに向かって急降下を始める。

なのははレイジングハートから桜色の瞬きを複数出したかと思えば、ヒイロの急降下に真っ向から対抗するつもりなのか、自身の砲撃の切っ先をヒイロに向ける。

 

 

「なのはが砲撃態勢に入った!!これではもはや特攻だぞっ!!」

「問題ない。このまま突っ込む。」

 

アインスが悲鳴にも等しいような声をあげながらもヒイロは依然として焦る様子すら見せずに徐々になのはに向かって高度を下げていく。対するなのはは悠然と砲撃魔法の準備を行っていた。そんな最中、猛然と高度を落としていたヒイロの身が突如として空中に固定化される。

 

「っ………何っ!?」

 

流石のヒイロも突然の出来事に驚いた表情を隠せない。

 

「お、おいっ!!ヒイロの奴、突然動きが止まっちまったぞっ!!」

 

ヒイロの異常をいち早く感じ取ったヴィータが声を荒げながら目を見開き、驚きの表情を露わにする。

 

「あ、あのままじゃ………。」

「なのは隊長の砲撃を避けられない!?」

 

エリオとキャロが悲鳴のような声でヒイロの異常に声を上げる。

 

「ヒイロさんッ!!!!!」

 

そんなヒイロにフェイトはただ彼の名前を叫ぶしかなかった。

 

 

 

「どうしたヒイロッ!!!」

「………わからない。だが、突然動きを止められた。バインドか何かの類か?」

 

ヒイロの言葉にアインスは周囲を見回す。バインドであればヒイロの四肢になのはの魔力の色である桜色の輪っかが付いているはずだが、あいにくヒイロの体にそのようなものはつけられていない。理由がわからず、困惑した様子を見せるアインス。

このままではヒイロはなのはの砲撃をモロに受けてしまう。

 

(何故だ………ヒイロの体にバインドがついているような形跡はない!!なのになぜバインドと同じような効果がヒイロに現れている………!?もっと何か、別のものにーーーー)

 

(別の、ものに…………?)

 

別のもの、その単語が妙に引っかかったアインス。そして、閃いたのかアインスは後ろを見やる。

そこにはウイングゼロの主翼しかないが、明らかに今までとは違う異物が写り込んでいた。

それはそのウイングゼロの巨大な主翼を縛り上げるように付けられた、桜色のバインド!!

 

「見つけたッ!!主翼部分にバインドが付けられている!!」

「…………なるほどな。ウイングゼロの機動力は大半が主翼部分に集中している。俺自身を縛るよりもそっちを拘束した方が、俺の動きを止めることはできるか。」

 

動けなくなった原因がわかり、アインスがバインドの破壊作業に入ろうとした瞬間ーーーー

 

 

「ディバイン………バスター。」

『Divine Buster Extension』

 

砲撃のチャージが完了したのか、彼女の代名詞であるディバインバスター、その強化版の桜色の奔流がヒイロに向けて放たれる。

咄嗟にアインスは砲撃がヒイロに着弾するまでの時間と自身がバインドを破壊するまでの時間を比べるが、直感的に悟る。間に合わない。

 

「ダ、ダメだヒイロ!!間に合わなーーー」

「問題ない。」

 

もう無理だと伝えようとするアインスの言葉を叩き斬る勢いで遮るとヒイロはたった一言だけそう言った。

次の瞬間、ヒイロとアインスの視界が桜色に呑み込まれる。

 

 

「ヒイローーーーーーッ!!!!!!」

 

フェイトが思わずそう叫ぶも、無情にもなのはの砲撃はヒイロを呑み込むとそこから何かに堰き止められたかのように一本の奔流が複数の細い筋となって後ろに流れていった。

 

「…………ん?なんか変じゃねぇか?普通なのはの砲撃って直撃したら、爆発すんだろ。」

 

ヴィータがいつまでもなのはの砲撃が爆発を起こさないことに違和感を覚えたようだ。

 

「え…………!?」

 

フェイトは目を見開いて砲撃が堰き止められている箇所を見つめる。そして、わずかに、ほんのわずかにだが、流れを堰き止められて威力を弱められた砲撃が後ろに流れていっている中心に、あの巨大な天使を彷彿とさせる純白の白い翼が垣間見えたのを、フェイトは見逃さなかった。

 

「嘘………ヒイロさん、なのはの砲撃を、防御してる………!?」

 

 

 

「は、はは………もはや笑うしかないな………。お前には本当に驚かされてばかりだ………。」

 

その渦中であるヒイロに一番近い場所にいるアインスはなのはの砲撃にさらされている中で乾いた笑いを浮かべる。

 

「まさか、ウイングゼロを一度解除することでバインドから逃れ、すぐさま再展開するとは、な。挙句の果て、なのはの砲撃、その中心軸をビームサーベルで突くことで、砲撃を枝分かれさせるとは、な。」

 

ヒイロはウイングゼロを一度待機状態に戻すことでなのはのバインドの拘束から逃れ、直後に再展開し、右手のビームサーベルでなのはの砲撃の中心軸をフェンシングの突きの要領で貫いた。

結果としては今のところ、ヒイロの尋常でない筋力でなんとかなのはの砲撃を押しとどめていると言ったところだ。

 

「アインス、スラスターを解禁する。この砲撃の前ではそこまでのスピードは出せないだろう。」

「ったく………お前というやつは………ここまで来たらやってしまえ!!」

「了解した。」

 

アインスの投げやりな発言にそう答えるとヒイロはウイングゼロのスラスターを噴かし、徐々に砲撃の奔流の中を進んでいく。

しかし、相手はなのはの砲撃だ。ヒイロとはいえ、管理局有数の砲撃魔法の中を無理やり突っ切っていくなどという前代未聞のことをやっていてその威力から表情を歪めざるを得ない。

だが、それでもヒイロは止まる様子を一切見せずになのはの砲撃の中を突き進んでいく。

 

「っ…………くっ………!!!」

 

しばらく苦痛に表情を歪めるヒイロだったが、そのなのはの砲撃もやがては徐々に勢いを弱め、最終的にはミッドチルダの空に消えていった。

明らかに常軌を逸脱した防ぎ方になのははありえないといった様子の表情を浮かべながら、呆然としてしまう。

そして、そんな彼女の明らかな隙をヒイロは見逃さなかった。

 

「アインスッ!!」

「わかった!!ここで終わらせてくれ!!」

 

アインスは自身に残されたわずかなリンカーコアを行使して、ヒイロに漆黒の魔力光で構成されたベルカ式のプロテクション、全身を覆うフィールド形魔法である『パンツァーガイスト』をヒイロに纏わせる。

以前、ティアナのミスショットからスバルを守った時に使ったのも、このプロテクションを利用した一時的なリミッター解除だ。

自身の周囲にプロテクションを張り付けることで加速時の風圧から身を守れるようになったヒイロはスラスターを一気に噴かし、なのはとの距離を瞬時に詰める。

 

「あーーーーー」

「遅いッ!!」

 

ヒイロは呆気にとられているなのはに右手のビームサーベル、ではなく、左手で銃口を握ったバスターライフルを下から上へ掬い上げるように振り抜き、そのグリップ底はなのはの顎を正確に捉えた。

バスターライフルの出力に耐えるためにウイングゼロの装甲と同じガンダニュウム合金で作られている。そのため馬鹿にならないほど硬い(ここ重要)

その硬度で顎に衝撃を与えられたなのはは脳を揺さぶられて、軽い脳震盪を引き起こされる。

 

「っ…………あ………。」

 

視界がボヤけ、ヒイロの姿が二重に見えてきたり、目の焦点が定まらずフラフラと体を前後させるなのはだったが、程なくして意識を手放し、落下しそうになったところをヒイロが墜落しないように彼女の腕を掴み上げる。

 

「・・・・・・・。」

 

ヒイロは意識の無いなのはに呆れたような視線を送ると彼女を両手で抱え、隊舎へと帰還していった。




最後のディバインバスターの中を突っ切ったやつのイメージがわかない人はネクストプラス版ゼロカスタムの特格に射撃バリアがついたようなもんだと思ってほしい。

それとこっから先は割と大事な連絡です。

私わんたんめんですが、今月の20日あたりから携帯もろくに見れない日々が三週間ほど続きます。
ですので、その期間中、今作に限らず、全ての小説の投稿ができなくなります。
感想返しはできればするつもりですが、確実に小説の執筆および投稿はできませんのでそこら辺は申し訳ないと先に断っておきます。
では、皆さん、9月中旬くらいに出せるといいなぁ、って感じですのでその時になればまたよろしくお願いしますm(._.)m

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