魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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星の輝きには二種類ある。
星そのものが自ら光を放っているいる恒星、そしてもう一つはその恒星の輝きを反射して輝いているように見える衛星である。
前者はともかく後者のタイプであれば輝きの度合いこそあれど見るものには輝かしく見えるであろう。
たとえその体が歪でボロボロなものだったとしても星の光はそれを隠すように輝くだろう、否、輝いてしまうのだ。
そしてそれに気づく人間は極めて少ない。
そしてその星もそうであれと願い、輝く。
願いはいずれ呪いとなりて、星を蝕む。


第52話 星の輝きは誰のために?

医務室

 

 

守護騎士にて癒しの風の異名を持つシャマルが常駐しているこの部屋でスバルは丸椅子に座り、ベッドで横になって寝ているティアナの様子を見守っていた。

スバルは模擬戦でなのはの砲撃の直撃を受け、気絶したティアナに不安そうな視線を向けていた。

 

「…………ティアナには疲労こそはあったけど、それもそこまで過剰なものじゃなかったわ。少し休めばすぐに取れるくらいのものだったわ。だからそんな心配そうな目をしなくても大丈夫よ。もうすこししたら起きるはずよ。」

 

そう優しげな笑みを浮かべながらシャマルがスバルに声をかけるも彼女はその心配そうな表情を変えることなく、重々しく頷いた。

シャマルが少々困ったような顔を浮かべていると不意に医務室のドアが開く音が鳴り響く。

シャマルとスバルがドアの方に視線を向けると、ヒイロがそこに立っていた。

一番医務室の世話にならなそうなヒイロがここを訪れたことに彼女は一瞬疑問気な表情を浮かべるも、それはすぐに引き締まったものに変わる。

ヒイロの腕にはぐったりとした様子のなのはが抱えられていたからだ。

 

「急患だ。症状は顎部に衝撃を受けたことにより脳が揺さぶられたことが原因の脳震盪だ。意識を失ってからさほど時間は経っていないため、どこまで重度のものかは判別できない。シャマル、お前の医師としての専門知識を貸せ。」

 

ヒイロはシャマルに矢継ぎ早にそう言うと彼女に二の句すら言わさせない様子で押し入り、医務室のベッドになのはを横たわらせる。

 

「わ、わかったわ。」

「ヒ、ヒイロさんっ!?なのは隊長を墜としたんですか………!?」

 

シャマルが若干困惑した様子を見せながらなのはのベッドに向かい、診察を始めると同時にスバルは丸椅子から思わず立ち上がり、気絶したなのはを抱えてきたヒイロに驚いた視線を向ける。

彼女にとって、高町なのはという人間は自身を災害から救ってくれた恩人でもあり、自分自身もそうありたいという憧れの象徴でもあった人物だ。

その憧れであり恩人を倒したヒイロに驚愕といった視線を送るのは無理のない話である。

 

「ああ。」

 

そんなスバルの表情を知ってか知らずか、ヒイロはなのはに処置を行っているシャマルの方に視線を向けたまま、一言だけ返して頷く。

 

「す、すごい………なのはさんを、管理局のエースオブエースを倒しちゃうなんて………。」

「エース、か。俺からしてみれば今のなのはは自分自身にすら自信の持てないただの軟弱者に見えるがな。」

「え………?」

 

ヒイロの言葉にスバルは思わず怪訝な表情を浮かべたまま、ヒイロの横顔を見つめる。

 

「………お前たちを下がらせた後、なのはは俺に自分の教導が間違っていたのかを質問してきた。」

「それは………私とティアも聞きました。だから、てっきりなのはさんを悲しませているかと思って………。」

 

そこまで言って、スバルは表情を俯かせる。真意はどうであれ、なのはという恩人を失望させたように感じたことは彼女にとってはかなり後ろめたいことなのだろう。

ヒイロはそんなスバルを一瞥すると部屋から一度退室しようとする。

そのためにドアに向かおうとしたところでドアが開いたことを示す空気が抜けたような音が響いた。

 

「あ、ヒイロさん。」

 

ドアの前にはフェイトが立っていた。その彼女の側には心配そうになのはの様子を伺うように見ているヴィータの姿もあった。

 

「フェイトにヴィータか。」

「…………少し時間いいですか?」

「…………あぁ。」

 

少し間が空いた後に返事をしたヒイロだったが、フェイト、そして表情を元に戻したヴィータは特に何かを聞くようなことをせず、踵を返して廊下を歩いていく。

それをついてこいという指示だと受け取ったヒイロは二人の後を追うように歩いていく。

しばらく歩いていくとヒイロの視界にあるものが映り込んでくる。

そこは部隊長室と書かれたプレートがあった。つまりそこで待っている人物は少なくともはやては確定だろう。

 

フェイトとヴィータに続く形でヒイロは部隊長室に入った。そこで待っていたのは、何やら難しい表情を浮かべているはやてやツヴァイ。そして、二人と同じような表情を浮かべていたシグナムがいた。

シグナムは今回は別件で隊舎にはいなかったはずだが、その件が済んだから戻ってきていたのだろう。

 

「…………ヒイロさん、貴方のことやからなんで呼ばれたのは察してはおるよな?」

「なのはのことだな。」

 

はやての質問にヒイロがそう答えるとはやては重苦しい表情をあげながら頷いた。その頷き方にも表情の重々しさが乗り移っているようで、極めて重いものだった。

 

「私自身、なのはちゃんがティアナに砲撃魔法をぶっ放すなんて、想像もつかんかった。本来、なのはちゃんはそのような暴挙に走る人間じゃあらへんもん。」

「お前達の中ではなのはの人物像はそうだろうな。」

 

ヒイロがはやての言葉に合わせるようにそう告げるとはやては先ほどと同じような表情で頷いた。

 

「ホントはあんまり信じたくはないんやけど、報告として上がっている以上、無視はできへん。部隊長として考えるべきなんやけど、私はそん時の当事者じゃあらへん。あの時一番なのはちゃんの近くにおったのは、他ならぬヒイロさんや。だから、教えてほしいんや。なのはちゃんがどうしてあそこまで過激な行動をとったのか、ヒイロさんが考えとる推察を。」

「・・・・・いいだろう。だが、それを伝えるにあたってはなのはやティアナが目を覚ましてからでもいいだろう。あの二人は互いに互いを知らなすぎるからな。」

「互いに互いを、か…………。」

「どういうことだ?高町とランスターはお互いに教導で顔を合わせているはずだろう。」

 

はやては悩ましげな表情を浮かべるが、となりにいたシグナムは疑問気に首をかしげる。

 

「…………お前は本当に剣を振ることしか能のない女だな。少しは察することを覚えたらどうだ?」

「…………待て、確かに以前、私はお前にそう言ったが、この状況で何故か凄く罵倒を浴びせられている気分になるのは何故だ!?」

「気分も何も事実だからな。」

 

困惑気味に狼狽するシグナムを放っておいて、ヒイロは呆れた様子を隠さないまま、再度はやての方に視線を向ける。

 

「それとだが、はやて、それに守護騎士達にも共通するが、聴取会で俺のことについてはリンディから聞いていると言っていたが、どの領域まで聞いている?」

「えっと、まずはヒイロさん自身が並行世界の人間ということ。その世界で兵士として戦っていたこと。それとウイングゼロについてやな。元は18mくらいの人型兵器なんやってな。」

「そのウイングゼロについてだが、リンディの話の中で『ゼロシステム』の単語は出てきたのか?」

「ゼロシステム…………?なんかのシステムであることは察せられるけど、リンディさんからは特に聞いておらんな。なんやそれ?」

「…………リンディの奴、余計な気を回したか………。」

「…………なんか結構話の根幹に関わることなんやな?」

「そうだ。これに関してもなのはやティアナが目を覚ましてから教えることにするが、話の表面だけを伝えればゼロシステムはウイングガンダムゼロに搭載されている特殊なインターフェースだ。」

「インターフェース………何かヒイロさんを補佐するシステムなんか?」

 

はやてがそういうとゼロシステムの全貌を知っているフェイトは苦い顔をしながら顔を気まずそうに逸らした。

 

「…………それで済めばいいんだけど………。」

「…………テスタロッサはそのゼロシステムとやらのことは知っているようだな。」

「まぁ、偶然その場に居合わせたって言った方が正しいのかな。お母さんやクロノと一緒にいるときにヒイロさんから聞かされたから。」

 

反応を見られたのかシグナムがフェイトに軽く問い詰める。フェイト自身、隠すことではないと思っているため、ゼロシステムについてのことを聞かされていることを伝える。

 

「………わかった。ひとまず今回のことに関してはなのはちゃんやティアナが目を覚ましてからにしとく。本来なら喧嘩両成敗みたいな感じでなのはちゃんやヒイロさんにも処分はあるんやけど、事情が事情やし、ヒイロさんに至っては私が直々にお願いしていたことやからお咎めなしや。」

 

最初こそ、険しい表情を浮かべていたはやてだったが、ヒイロへの処分は一切ないことを伝える時にはその表情はその場を和ませるような笑みを含んだ柔らかいものになっていた。

 

「しかし、闇の書事件からもう10年も経っとるのに、ヒイロさんの実力は未だ底知れずやなー。なのはちゃんもだいぶ強うなってたはずやのに、どういう戦法使ったん?参考にさせてほしいわ。」

「確かに………お前、バインドされてた中でどうやってなのはのディバインバスターを防いだんだ?翼にバインドかけられていたし、あんま身動き取れなかったじゃねぇか。」

「…………流石にそれは参考にするのはやめておいた方がいいと私は思います………。」

 

はやてとヴィータがそう言ったところでウイングゼロの中からアインスがものすごく申し訳なさ気に顔を覗かせ、参考にするのを考え直すように促す。

 

「え?そうなん?でも聞くだけはええやろ?」

「…………ある程度、覚悟をしておいた方がよろしいかと。」

 

アインスが白い目をしながら話したことにはやては疑問気に首を傾げた。

 

「ヒイロは主翼にしかバインドがかけられていないことをいいことに、一度解いたのです。ウイングゼロを。しかも高町なのはの砲撃が迫ってきている中で。」

『…………はっ?』

 

部隊長室にいたはやて、シグナム、ヴィータ、そしてツヴァイの表情が驚愕で固まった。しかし、フェイトはそのなかでただ一人、納得しているような表情を浮かべていた。

 

「なるほど………あのおっきい翼にだけバインドを………なのはの判断も間違いではないですね。ウイングゼロの機動力は翼周辺に集中していますし。」

「フェイト!!納得した顔すんのもいいけどさぁ!!お前、空中でデバイスを解くとか、正気か!?」

 

フェイトがなのはの行動についての評価を述べているところにヴィータが声を荒げながらヒイロにビシッと指をさした。その指はどこかプルプルと震えているように見えたのは幻覚ではないだろう。

 

「はは、それだけで済めばまだ良かったのだがな………。」

「…………まだ、あるのか?まさかとは思うが、なのはのディバインバスターを喰らっても爆発してなかったのもなんかやらかしてたのか!?」

「…………ヒイロは、ディバインバスターの中心軸をビームサーベルで突くことでビームの軌道を逸らしていた。」

「…………お前本当に人間かよ………。」

 

アインスの言葉にヴィータは驚きを通り越して呆れた視線をヒイロに向ける。しかし、当の本人はその瞳を閉じ、壁に寄りかかって腕を組んで微動だにしていない様子であった。

 

「…………いや、ヒイロさんの人外っぷりはリンディさんから聞いとったけど、実際にヒイロさん自身のやらかしを聞くと常々味方で良かったってなるわ。」

 

はやても表情こそ笑顔だが、額から脂汗のようなものを流し、ヒイロの身体能力の異常っぷりに戦々恐々としていた。

そんなはやての様子を気にかける様子すら見せず、ヒイロは不意に動き出し、部隊長室を後にしようとする。

 

「あ、ヒイロさん、ティアナのお見舞いに行くんですか?」

「…………医務室には向かうが、なのはの元は訪ねるつもりだ。奴には色々と言っておかなければならないことがあるからな。」

「そうですか………でしたらこれを持って行ってくれますか?」

 

フェイトはそういうとヒイロに何かを差し出した。彼女から差し出された手には銃身の下から伸びているアンカーが切れ、その紐がだらしなく伸びきっているティアナのクロスミラージュ、その片割れであった。アンカーの糸が切れているのは戦闘の余波で切れてしまったのだろう。

 

「私から渡してもよかったんですけど、ヒイロさんがティアナのところに行くのでしたら、一緒にお願いします。」

「……………。」

 

フェイトのお願いにヒイロは少しの間、無言で彼女の手に握られたクロスミラージュを見つめていたが、僅かにため息と思われる肩の竦め方をするとフェイトからクロスミラージュを受け取り、部隊長室から出て行った。

 

「…………多分ですけど、貴方から渡してもらった方がティアナも嬉しいだろうですから、ね。」

 

部隊長室から出て行ったヒイロの背中を見つめながらフェイトはそう言葉をこぼした。

 

「…………そういえばシグナム、お前にしては珍しくヒイロに模擬戦ふっかけなかったな。お前ほどのバトルジャンキーのことだからすぐにヒイロに模擬戦やらねぇかって言うと思ったんだけどよ………。」

「ん………?あぁ、そのことか。無論ヴィータ、お前の言う通りだ。ヒイロとはいつか模擬戦で刃を交えたいとは思っているさ。しかし、ヒイロは私が加減できる相手ではない。ましてや私が全力を出しても及ばないところもあるかもしれん。それだけ彼の実力は極めて高い位置にある。もっとも負けるつもりはないがな。」

「んー………まぁ、お前がヒイロに負ける云々はさておいて、アイツならそれがありえそう、いや、事実なところが怖えところなんだよな………。」

 

シグナムの言葉にヴィータは納得といった表情をしながら頷く。事実、10年前だったとはいえ、ヒイロはシグナム達ヴォルケンリッター四人の攻撃を自身の行動を防衛に専念させることで絞っていたとはいえ、それらを全て無傷で切り抜けていたのだ。

 

「だが、加減が効かないからこそ、私はヒイロをこの手で傷つけ、そして最悪殺してしまう可能性があるのだ。」

「…………やっぱり、そうなん?ヒイロさんが装甲のことに関して聴取会で言及していた時からまさかとは思っとったけど…………。」

「実はヒイロには以前、模擬戦の誘いをしたのですが、その時に彼は断るのではなく、できないと言っていました。理由は言うまでもなく、装甲のことに関してでした。」

 

シグナムの言葉にはやては難しそうな顔をしながらも、どこか申し訳なさげに表情を俯かせる。

 

「…………ヒイロさんにはあんまり無茶はやらせられへんな。今回だって、だいぶ綱渡り状態にも等しいこと、やっとったやろ。」

「……………そう、かもね。でも、それでも、当然のようにやってのけてしまうのがヒイロさんなんですよね………。あの人は自分に何ができて、何ができないか、しっかりと分別が付けられている人ですから………。」

 

はやてがヒイロに無理をさせたと言う。しかし、フェイトはその言葉に対し、その無理すらも彼自身の中ではできると思っているから成し遂げてしまうと言う。

事実、ヒイロはボロボロになっているウイングゼロの状態で管理局にとって精神的な主柱にもなりかけている名高いエースオブエース、高町なのはをたった一人でさらに無傷で無力化を果たしている。

そのことがどうしようもなく、はやてを呆れさせ、その感情がため息となって吐き出される。

本人はそれほど無茶だと思っていないことがなおさらタチが悪い。

 

 

 

部隊長室から退室したヒイロは模擬戦の戦法上、ティアナが訓練場に残していったクロスミラージュを手にしながら医務室への帰路についていた。

 

「あ、ヒイロさん。おかえりなさい。」

 

ヒイロが医務室のドアを潜るとそれに気づいたスバルがヒイロの方に視線を向けながら挨拶をする。

そのスバルに視線を合わせると同時に目を覚ましたのか、上半身だけを起こしたティアナの姿があった。

 

「ヒイロ………さん。」

 

ヒイロが医務室に現れたことにティアナはわずかに驚いた様子を見せるが、それもすぐに俯くように顔を下に向け、表情を申し訳なさそうにする。

 

「目が覚めたか。」

「その………改めて、庇ってくれてありがとうございました。」

「………直後にも言ったが、俺はなのはの様子がおかしいことに気づいたから急行した。お前を庇ったのはたまたまだ。それと忘れ物だ。」

 

ティアナの感謝の言葉にあくまで偶然だと言い張るヒイロは彼女に忘れ物という名前のクロスミラージュの片割れを渡した。

 

「これ、拾っておいてくれたんですか?」

「フェイトから医務室に向かうのであればとついでに渡された。お前がなのはを拘束するときに活用した銃身下部のアンカーの糸は切れているが、後でシャーリーとかいうデバイスマイスターに修復を依頼しておけ。」

「っ…………そうだ、なのはさんはーーーー」

「なのはちゃんならここで寝ているわよ。」

 

シャマルの声がした方向に視線を向けると、医務室のベッドの上で横たわっているなのはの姿を捉える。

 

「え、ええっと………どうして、なのは隊長が………!?」

 

ティアナは自身と同じように寝込んでいるなのはに困惑気味な表情を浮かべると、どうしてそのようなことになっているのか、自身が覚えている限りの記憶を呼び起こす。

最後に覚えているのは、なのはの砲撃により気力が限界になり、倒れかけたところをヒイロに抱きかかえられたところだ。そこから先は少なくとも記憶にはない。

ならば、なのはは何故そこで横たわっているのか。

彼女の顎に湿布が貼ってあるため、誰かからそこに攻撃を加えられたと考えるのが自然だ。

 

 

(まさかスバルがーーいえ、スバルが人とは違う力を持っていても相手はなのはさん。自身の恩人である人にスバルがその力を行使するとは思えない。)

 

ならば、一体誰がーーーー

 

ティアナの中で、シグナムやヴィータ、部隊長であるはやてやフェイトといった六課の人物が思い浮かぶが最終的に行き着いたのはーーー

 

「…………もしかして、ヒイロさんがなのは隊長を………?」

 

ティアナがまさかと言うような表情を浮かべながら、自身の横で立っているヒイロに視線を向ける。

記憶が正しければ、ヒイロはなのはの前に曲がりなりにも立っていた。それにその時のなのはの様子を鑑みてもそのままなし崩し的に戦闘に突入してしまっても、無理はない話だろう。

 

「やったのは俺だ。なのはの顎に衝撃を打ち込むことで脳震盪を引き起こさせ、気絶させた。」

「……………やっぱり、なのは隊長やフェイト隊長の師匠だって言うのは嘘ではなかったんですね………。」

「何度でも言うが、それはただの成り行きだ。」

「そ、そうですか…………。」

 

バッサリと言ったヒイロにティアナは出鼻をくじかれ、若干引いている笑みを浮かべながらヒイロの顔を見つめる。

 

「う…………うぅん…………」

 

そんな時、目が覚めたのかなのはの唸る声が医務室に響いた。全員の視線がベッドで横になっているなのはに向けられると彼女は上半身を起こし、頭を軽く横に振りながらその瞳を開いた。

その瞳にヒイロと戦っていた時に見られた感情が一切篭っていないような暗いものはなかった。

 

「……………。」

 

目を覚ましたなのはが最初に視界に捉えたのは自身に呆れているような視線を向けているヒイロであった。先ほどまでの戦闘を覚えているのか、なのはは表情を俯かせる。

 

「その…………ごめん、なさい。迷惑、かけちゃって………。」

「お前が俺に謝罪を言うのは勝手にしろ。だが俺より先に謝罪しなければならない相手がいるだろう。」

 

ヒイロの言葉になのはは力なく頷くとその謝らなければならない相手であるティアナとスバルに視線を移す。

なのはに視線を向けられたことに一瞬体を強張らせる二人だが、なのははそれにどこか自虐的な笑みを浮かべる。

 

 

「…………ごめんね、怖がらせちゃって………。」

「…………少し聞いてみてもいいですか?」

「え……?あ、うん………。」

 

なのはの謝罪の言葉に怒るわけでも、冷ややかな視線を向けるわけでもなく、質問の許可を取ったティアナになのはは困惑気味に許可を下ろす。

 

「どうして、あそこまで怒りを露わにしたんですか?確かにあたし達が模擬戦で取った戦法はこれまでの基礎を重点的に行なっていた教導と比べれば、無茶だし、危険だったかもしれません。ですが、あそこまでの怒りを露わにするにはいささか………過剰なものだったと思います。」

 

ティアナは僅かに言い淀むような仕草を見せたが、自身が思っていることを最後までなのはに伝えた。

そのことになのはは気まずそうに視線を下に向け、表情を俯かせる。

しかし、なのはは思い悩んでいるのか、表情を俯かせたきり、何も語ろうとしない。

 

「…………なのは、お前はホテルアグスタでティアナがミスショットをした原因についてどう思っている?」

「え…………?それは…………亡くなった、ティアナのお兄さんが関わっているって、思ってる…………。」

 

ティアナに配慮しているのか、なのはは僅かに視線を右往左往させ、言葉を選びながら原因を口にした。

 

「俺もティアナ自身の家族構成、来歴などのデータを見たときはそう感じた。お前と同じように、兄であるティーダ・ランスターの死が関わっているとな。」

「っ…………知っていたの?」

「お前もその場に居合わせていたから分かっていると思うが、あの程度であれば個人情報を引き出すのは造作もないことだ。」

 

ヒイロがティアナの兄のことを知っていたことになのはは驚いた様子を見せる。

対するヒイロはそのなのはの反応をどこ吹く風と思うように完全に無視しながら話を続ける。

 

「話を戻すが、ティアナのミスショットの原因、兄の死も少なからず関わっているが、主要な要因は、ティアナ自身が抱えていた周囲への劣等感だ。その劣等感はお前にはもちろんのこと、スバルやエリオにも向けられていた。」

「え…………!?」

 

ヒイロの口から放たれた『ティアナが劣等感を抱えている』という言葉になのははまるで想像もしていなかったように驚いた顔を浮かべる。

 

「やはり、知らなかったか。無理もないだろう。これは俺がティアナ自身に()()()()()知ったことだ。いつもデータや映像ばかりの決まった行動パターンを画面の中で繰り返すだけのティアナ達を見ていたお前では知ることはできない内面だ。」

 

 

ヒイロの言葉になのはは表情に暗い影を落とし、俯いた。その顔を伺うことはできないが、確実に落ち込んでいるのは明白だろう。

 

「・・・・・じゃあ、私の教導は、間違いだったんだね。」

 

なのははどこか自虐気味な声色が含まれているような口ぶりでそう言った。ティアナとスバルはそんななのはに慰めの声をかけようとするがーーー

 

「何を勘違いしている?俺はまだお前に教導が間違っていたなどのことは伝えていない。勝手にお前自身の中で自己完結をさせるな。後が面倒になる。」

「え…………?」

「…………たしかにお前の教導には疎かにしている、いや『し過ぎている』箇所があった。それはまぎれもない事実だ。だが、どのようなものにもその度合いの幅こそはあれども利点も必ず存在する。その利点を言えばお前の基本に従事させるスタイルは間違いではなかった。基本をしっかりと身につけている奴とそうではない奴とでは練度にも著しい差が表れるからな。」

 

素っ頓狂な、呆けたようなポカンとした表情をしているなのはにヒイロは彼女の教導の利点をツラツラと言述べる。

 

「だが、人には誰しも得手不得手が存在するようにお前のその教導にも性格上、合う奴や合わない奴も出てくる。お前が怠り過ぎたのはティアナ達との根本的なコミュニケーションの量や質だ。」

「え、でもスバルやティアナ達とは何も無言でやっているわけじゃーーー」

「俺が言っているのはプライベート、つまり日常的な場面でティアナ達と会話を交わしているのか、そう言った面だ。もっともコミュニケーションなど、俺が言えることではないのは重々わかっている。だが、少なくとも俺が見ていた限りではお前達がそのようなことを行なっているのは一度も見かけなかったがな。」

 

「…………お前は何も知らな過ぎた。だからお前はティアナのミスショットの原因を兄が亡くしたことが原因だと、決めつけるしかなかった。」

 

「…………情報は戦場において最も重要性の高いものだ。敵戦力の詳細、戦場の状況、そして味方の素性や性格、そして戦闘スタイル。後半は部下を持つ隊長として知っておくべきことだが、ともかく把握しておくべきことを把握しておかねば()()と同じ結果を招く。いらない犠牲、死ぬ必要のなかった人間を出すか、今度こそお前が死ぬぞ。」

「ッ…………!!!」

 

ヒイロの言葉にスバルとティアナの二人は息を呑み、なのはは目を見開いて表情を青ざめさせる。シャマルも悲痛な表情をしながらも無言を貫いているため、医務室で沈黙が走った。

 

「あの、ヒイロさん、以前というのは、もしかして………。」

 

そんな沈黙をティアナはヒイロに質問することで破った。彼女のいう以前というのはホテルアグスタにてヒイロ自身の口から語られた任務中でのミスのことだろう。

 

「…………否定はしない。だが、お前たちは知らないのか?」

 

ティアナの言葉をヒイロは否定はしなかった。されどその視線はベッドの上にいるなのはに向けられていた。なのはに向けられたまま放たれた質問にティアナたちは疑問気に首をかしげる。そんな二人の様子を視界の端で捉えたのか、ヒイロは一度、瞳を閉じる。

そこにはどこか呆れが含まれている。ヒイロの横顔を見ていたティアナにはそう感じられた。

 

「…………確認する。」

 

ヒイロはまぶたを開き、なのはのベッドに近づきながらそう尋ねる。ヒイロの様子からその問いが自身に向けられていると察したなのはは不安な瞳を見せながらヒイロの顔を見上げる。

 

「自分で話すか、俺に喋らせるか、どちらか選べ。」

 

なのははヒイロのその問いに一瞬目を見開いたのちに表情に暗い影を落とす。

ヒイロの言わんとしていることを否が応でも察してしまったからだ。

 

「…………自分で……言います…………。」

「そうか。だが、これだけは言っておく。お前の行為は矛盾している。お前がどのように考え、感じ、伝えなかったのかは聞く気もない上に興味もない。だが、お前の教導の意義、それをスバルたちに正確に伝えたいのであれば、お前のその経験は話しておくべきことだ。」

 

ヒイロはなのはにそれだけ伝えると彼女を見下ろしていた視線を外し、医務室の扉へと足を進める。

近づいたことで自動で開いた扉だが、ヒイロはその開かれた扉の間で不意に足を止めると振り返り、再度なのはに視線を向ける。

 

「…………重ねて聞くが、お前と戦っている時の俺はどのように感じた。」

「え……………?」

 

唐突、そして予想していなかった質問になのはは一瞬呆けた顔を見せる。しかし質問された以上答えないわけにはいかないなのはは困惑したような感情を内心に秘めながらも必死に先ほどの戦闘の光景を思い返す。

戦闘中、ヒイロはなのはの暴走を言葉で止める訳でもなく、ほとんど無言で攻撃を仕掛けてきた。

ある種の感情の箍が外れていたなのはにとってその時は特に何も感じなかったが、冷静さを取り戻した今となっては、ヒイロの行動はーーーー

 

「なんだか………()()()()()、です。ヒイロさんがどうして無言で何も話さないのか、わからなかった………。」

「そうか、ならちょうどいい。模擬戦でのお前は声をかけるより制圧した方が早いと判断した、そのため偶然に近いものだったが、その時の俺は今のお前に近いものだと考えている。」

 

「『想いを届けるためには力も必要』、10年前のお前が言っていた言葉だ。たしかに力がなければだれかに想いを届けるのは不可能だ。だが、力だけではお前の想いを正確に届けることには繋がらない。誰かにわかってほしいのであれば、言葉を使え。もう一度言うが、お前にはコミュニケーションが足りない。それを忘れるな。」

 

ヒイロはそこまで言うと出る直前に一瞬だけシャマルに視線を向け、そのまま医務室を後にする。

 

(…………最後のヒイロ君の視線、もしかして三人の邪魔になるから外にいろってことかしら?)

 

ヒイロに視線を向けられたことをそういうことだと判断したシャマルはヒイロと同じように医務室から出て行った。

外に出てみれば、壁に寄りかかって腕を組んでいるヒイロの姿があった。

 

「もう、ヒイロ君。何も視線だけで意図を伝えなくてもいいじゃない。」

「お前ならあれだけで十分だと判断した。それだけだ。」

 

シャマルが肩をすくめながら腰に腕を当て、怒っている様子を露わにするが、それが心底から来ているものではないことはヒイロにはわかりきっていたため、気にする様子すら見せずにシャマルに背を向け、隊舎の廊下を歩き去っていった。

 

「…………はぁ、ヒイロ君ったらしょうがないんだから………。」

 

シャマルは歩いて去っていくヒイロの背中から視線を医務室に戻す。閉ざされた扉の先ではなのはがティアナとスバルの二人に自身の教導の意義。それに繋がる10年前の出来事を話し始めていることだろう。

 

心配そうに医務室の扉を見つめるシャマル。

その姿を六課隊舎の窓から橙色に輝く夕日が照らしていた。

 




なーんだかもうしばらくヒイロっぽくねぇヒイロが続きそう………。


まぁ、それはそれとして、投稿ができない20日間の間、また懲りずに魔法少女ものの作品が降りてきたんですけど、投稿、しても大丈夫ですかね?
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