魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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いやー、やっと難産なところが終わった…………。
そして物語はさらなる混沌に突入する…………。



第54話 ゼロシステムの真実

「……………お前に時間をかけすぎた。」

 

なのはを宥めたヒイロだったが、その表情は僅かに呆れが含まれているようだった。その端正な顔つきから放たれる目線がなのはに細められた状態で向けられているのもその表れなのだろう。

 

「えっと、その、ごめんなさい。」

「…………お前に対して怒っているわけではない。それとだが時間経過から鑑みて、脳震盪の症状はもう出ない筈だ。立てるな?それとティアナ、お前もだ。特に身体に問題はないな?」

「え、あ、はい。一応寝てはいたので、大丈夫ですけど………。」

「ならば後で部隊長室に来い。お前たちに話しておくことがある。」

 

それだけ伝えるとなのはたちの返答を待たずにヒイロは医務室から出て行った。

突然のヒイロから集合の連絡に残されたなのは達はお互いに顔を見合わせる。

 

「…………なんだろうね。話しておくことって。」

「いや、あたしに聞かれても……………。」

 

なのはが首を傾げながら何気なくティアナの方に視線を向けるが、ティアナは自分もわからないというように苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ、ともかく部隊長室に向かうことはわかりきってるので、早めに行った方がいいと思います、よ?ヒイロさん待たせるわけにはいきませんし。」

「…………そうだね。スバルの言う通り、ヒイロさんを待たせるわけにはいかないね。」

 

スバルの言葉に頷きながらなのははベッドから立ち上がり、ティアナとスバルと共に医務室を後にし、部隊長室へと向かった。

 

「あ、なのは。体調もう大丈夫なの?」

「フェイトちゃん………。うん、もう大丈夫。それと今まで迷惑かけてごめんね。」

 

部隊長室にははやてを筆頭にヴィータとシグナムの両部隊の副隊長やシャマル、そしてザフィーラのヴォルケンリッターが揃い踏みになっていた。他にもキャロとエリオの二人、なのはの側にティアナとスバルがいることからFW陣も集められたのだろう。

そんな中、部隊長室に入ったなのは達を出迎えたのはフェイトだった。自身の体調を尋ねる彼女になのはは大事ないことを伝えると同時にこれまでのことを謝罪した。

そのなのはの謝罪にフェイトは一瞬目を見開いたがすぐさま首を横に振りながら笑みを浮かべた。

 

「ううん。そんなことないよ。何も言えなかった私も悪かったし………。」

「でもーーーー」

「だから、今度からは私やはやてもちゃんと言うべきことは言うし、なのはも疲れているんだったら素直に言うこと。それでいいんじゃないかな?」

「フェイトちゃん…………。」

 

フェイトの言葉になのはは少しばかり考え込むような仕草を見せる。

ヒイロとティアナに色々言われた一つでもある周りを頼ること。急に態度を変えろと言われても難しいかもしれない。

 

(だから、ちょっとずつでいいんだよね。こういうのは。)

 

「うん。ちょっと慣れないかもしれないけど、その時はよろしくね。」

 

なのははフェイトの言葉に笑顔でそう返すのだった。

 

 

「ところで、ヒイロさんは何をしているのかな?はやてちゃんの椅子に堂々と座っているけど…………。」

 

なのはが視線を向けた先にははやてが座るべき部隊長室の椅子に座り、何やら端末を操作しているヒイロがいた。

肝心のはやては応接用の椅子に座っており、まるでヒイロの準備を待っているかのようだった。

 

「えっと、簡単に言えば、説明会かな。ヒイロさんが元いた世界、アフターコロニーの。」

「……………ヒイロさんって10年前に傭兵まがいのことをしていたって言ってなかったっけ?」

「そう言っていたけど、あれでもだいぶぼかした表現だったんだって。今度はほとんどフィルターのかかってない本当のアフターコロニーのこと、それとウイングゼロについて。」

「ウイングゼロについて…………?」

 

フェイトの言葉になのはは疑問気に首を傾げた。フェイトはそのなのはの言葉に頷いたのだが、その表情はどこか深刻なものが含まれていた。

 

「一応、言っておくけど、多分、というか絶対なのははこのウイングゼロの真実を知ったら、すっごく傷つくと思う。だけど、そのなのはの気持ちは誰でもそう思ってしまうものだから、気休めにしかならないと思うけど、うまく割り切ってほしい、かな。」

 

それだけなのはに伝えるとフェイトははやてが座っていた応接用のソファに向かい、腰掛けた。なのははそのフェイトの言葉の意味を考えていたがーーー

 

「…………こちらの準備は整った。大方長い説明になる以上、お前たちもどこかに腰掛けるなり何かしらの準備はしておけ。」

 

ヒイロからそんな声がかかり、それに促されるようになのはたちもフェイトと同じように腰掛けた。

 

「…………それで、一応、ヒイロさんからあまり他人に聞かれたくないから部隊長室を貸したけど、教えてくれるんやな?そのゼロシステムって奴を。」

(ゼロシステム…………?)

 

部屋にいた全員が座るなりなんなりの準備が整ったところではやてはヒイロにそう尋ねた。

なのははあまり聞き慣れない単語に疑問符を浮かべるが、どのみちこのヒイロの説明で明かされるだろうと判断して特に質問をあげることはしなかった。

 

「…………ああ。だがその前にFW陣や守護騎士の奴らなどにもそれなりの説明が必要だ。ゼロに関してはそのあとになる。」

「わかった。それじゃあよろしく頼むわ。」

「了解した。」

 

ヒイロははやてにそう告げると端末、よく見るとその端末にはデバイス状態のウイングゼロが繋がれていた。その端末をヒイロが操作すると、空中にディスプレイが投影され、そこに画像や映像が表示される。

まず最初に目についたのは背景が真っ黒の上に僅かに見える赤い障害灯でかろうじてそのリング状のドーナツのような輪郭が映し出されている、端的に言えば、かつてヒイロに見せてもらったコロニーの画像だった。

 

「まず、俺が次元漂流者と呼ばれる以上、必ず元いた世界が存在する。この画像は俺の世界にあった人類が宇宙に建造したスペースコロニーと呼ばれる巨大な人工施設だ。直径の大きさは平均して15キロ近くにも達する構造物だ。」

「こ、こんなおっきいものを宇宙で、それも人が作ったんですか!?」

 

ヒイロの説明にまず声を上げたのはスバルだ。15キロ以上という破格な建造物を宇宙で作り上げたということが信じられないというようだった。

 

「そうだ。だが、当然その建築は楽なことではなかった。未知の疫病や紛争などで暦をアフターコロニーにしてから最初のコロニーが完成するまで100年はかかった。」

「ひゃ、100年…………!!」

 

最初のコロニーを作るまでに100年もかかった。そのことにスバルは目を見開き、驚きの声を上げることすらできなかった。

 

「ここら辺のことはさほど重要ではないため、詳細は省く。結果としてはこのスペースコロニー群は五つほど構成され、人々は徐々にコロニーに居を構えていった。しかしーーーー」

 

「人がコロニーに居を構えるということは反対的に地球の人口が減っていく、ということだ。数百万単位で人間が移住したことで地球圏の国家は徐々に衰退していった。そこで地球圏の国家は『地球圏統一連合』というグループを作ることでコロニーの影響力に対抗しようとした。そして、その対立はコロニー側の指導者が暗殺されるという形で戦争状態に移行した。」

 

ヒイロが手元の端末を操作し、映像が切り替わる。その映像にはモスグリーンカラーの装甲に、テレビのようなのっぺりとした頭部を持った機体や赤紫色の装甲に脚部が戦車のようなキャタピラになっている機体が建物に向かって各々が持つバズーカやキャノン砲で破壊していっている映像が映っていた。

 

「戦局はコロニーという閉鎖環境である以上、戦力が限定されるコロニー側が地球圏統一連合に制圧されていく状況が続いた。」

「ひ、酷い…………。」

「ど、どうして、戦争なんてことになってしまうんですか?コロニーも地球も住んでいる人は同じ人間なのに…………。」

 

アフターコロニーで起こっていた人同士の戦争に悲痛な表情を浮かべるエリオとキャロ。

管理局に身を置いている魔導師であるとはいえ、まだ弱冠10歳の少年と少女だ。戦争、という単語自体、あまり馴染みのないことだろう。

 

「コロニーとコロニーの間でも移動するだけでそれなりの日数を必要とする。増してや地球からなどさらに時間がかかる。要するにお互いに何をしているかが、不明瞭になっている。そしてその不明瞭から生じる未知というのはそこに住んでいる人間にどうしようもない不安を抱かせる。」

「不安………ですか?」

「ああ。何をやっているのかわからない以上様々な可能性がある。従順に従っているかもしれない。だが逆に虎視眈々と自分たちに害意をなす準備をしているかもしれない。だから支配しようとする。一度支配してしまえば、それなりの安全を得られるからな。」

「…………だが所詮は武力で得た平和など、まやかしに過ぎない。力で押さえつけたとしても支配に対する不満は燻りとなって徐々にその火種を大きくさせる。事実、この後コロニーは地球圏に対して反抗作戦を開始した。」

 

ティアナの言葉にヒイロが頷いているとウイングゼロから身を出したアインスがコロニーが反抗作戦を企てたことを説明する。ヒイロが端末を操作し、画像が別のものに切り替わる。

 

「作戦名、オペレーション・メテオ。各コロニーの科学者たちが開発した5機のモビルスーツ。いわゆる『ガンダム』と呼ばれる機体を流星に見立てて地球圏に送り込んだ。そのうちの1機に俺は敵対組織への破壊工作員として搭乗していた。」

「それがヒイロのウイングゼロなのか?他にもウイングゼロのような機体があるとすれば、末恐ろしいものがあるが………。」

「いや、ウイングゼロは俺が地球に降下するときに乗っていた機体のプロトタイプだ。もっとも地球に降下した五機のガンダムは全てウイングゼロが元になっている。ここまでがはやて、お前がリンディから伝えられている部分と10年前になのはに教えた部分だ。」

 

シグナムの言葉にヒイロは首を振りながらあくまで自身が作戦時に乗っていた機体はウイングゼロを参考にしていることを伝え、そこまでがなのはやはやてが知っているラインであることを告げる。

 

「俺がいた世界の大まかな説明は以上だ。ここから先はウイングゼロの説明に入るが…………。」

「えっ、ここで終わっちゃうんですか?」

 

ヒイロがアフターコロニーについての大雑把な説明を終え、ウイングゼロの説明に移ろうとしたとき、誰かが驚きの声を上げた。視線を声のした方へ向けてみると、そこにはティアナがいた。

 

「…………ウイングゼロの説明をしている時も必要に応じて話してやる。」

「あ、はい。その、ごめんなさい………。」

 

ヒイロの言葉にティアナは話を止めてしまったことに頰を僅かに赤らめながら謝罪の言葉を述べる。

 

(……………好きな人のことだからもっと知っておきたいんだよね?)

(ッーーーーー!?)

 

スバルから飛んできた念話にティアナはカッとなって言い訳をまくしたてそうになったが、またヒイロの話を止めるわけにはいかなかったため、瞬間的に肩を震わせることでその場を乗り切った。もっともそのティアナの挙動にスバルも思わず吹き出しそうになっていたが。

 

 

「ウイングゼロの説明に移らせてもらう。ウイングゼロは元々は15メートルのモビルスーツと呼ばれる兵器だ。何故デバイスの形になっているは不明だが、これは考えても仕方がない内容だろう。そしてこの機体は基礎フレーム部分と装甲が分離しているため、装甲の破損率が90%を越えても問題なく稼働が可能だ。」

「要は今のお前のウイングゼロは鎧を脱いでいるような感じか。最初の説明会の時でも説明自体はあったけどな。」

 

ヴィータの言葉にヒイロは頷きながら話を続ける。ヒイロが端末を操作するとウイングゼロの全体像が映された画像が表示される。

 

「武装面ではビームサーベル、マシンキャノン、そしてツインバスターライフル。主にこの三つしかない。だがマシンキャノンは装甲部分に含まれていたため、現時点では使用が不可能だ。もっとも、武装が一つ消えた程度で戦闘に支障はないが。」

 

ヒイロがさも当然と言うようにマシンキャノンがなくなったとしてもどうということはないという顔をしているが、事実としてついさっき冷静さを完全になくしていたとはいえなのはをサーベル一本でほぼ無傷で制圧したのも相まって、部屋にいた一同は苦笑いを禁じ得ないでいた。

 

「特にこのツインバスターライフルだが、俺個人の意志で使用を制限させてもらっている。理由は言うまでないが、このミットチルダの首都であるクラナガンをはじめとした都市群で使うには威力が高過ぎるからだ。」

「そんなに威力が高いんですか?結構細身の銃ですけど…………。」

「何というか…………無骨ですよね。なんだかスナイパーライフルのような狙撃を主軸にしているような感じがします。」

 

スバルとエリオがツインバスターライフルを見た第一印象をそれぞれ口にする。ツインバスターライフルの外見は確かに銃身こそ長いが細身であるためスナイパーライフルを想像するかもしれない。狙撃向きというのもあながち間違いではない。しかし、そんなツインバスターライフルから放たれる極光はそんじょそこらの砲撃魔法など全く目ではない。

 

「でも…………その銃の出力ってなのはさんのスターライトブレイカーを軽く凌駕するってフェイトさんから聞いたんですけど…………。」

 

キャロがヒイロとなのはが戦っている最中、フェイトから聞かされた言葉を伝えるとスバルとティアナが驚愕といった様子で目を見開くと端末の前で座っているヒイロに視線を向ける。

 

「か、軽くは言い過ぎじゃないかな…………。」

「いや、そうでもないと思うよ?ヒイロさん、私とフェイトちゃん、それにはやてちゃんと一緒に撃った時の映像とか残ってる?」

「…………あの時のか。それよりも威力がわかりやすいのがある。今から表示する。」

 

フェイトが苦笑いを浮かべている中、なのはが真剣な表情でヒイロに闇の書の闇に三人の砲撃魔法とツインバスターライフルを撃ち込んだ時の映像を要求するが、ヒイロはそれとは別の映像を表示させた。

 

映像に映し出されたのはコロニーとどことなくウイングゼロに頭部や胴体が似ているが、それでいてあの特徴的な天使を彷彿とさせる純白の白い翼ではなく、アルファベットのWのような機械的なバインダーを有したモビルスーツだった。

 

「この機体は…………?どことなくウイングゼロに似ていますけど………?」

「…………ウイングゼロは設計図面の段階であの姿だったのではなく、改修された機体だ。この機体はその改修される前の姿、言うなれば、プロトゼロ、と言ったところか。作った奴は俺の仲間であったガンダムパイロットだ。そいつは他人を慈しめる、穏やかで優しい奴だった。だから奴に本当はコイツを作るつもりなど毛頭もなかったのだろう。結果として言えば家族を殺された悲しみやその殺した奴らが本来守るべきコロニーの人間だったことへの怒りでゼロに取り込まれた。」

「取り込まれたって…………どういうことなんや?ウイングゼロはあくまで機械のはずやろ?そんな闇の書みたいなことじゃあるまいし………。」

「取り込まれた、というのは比喩表現だ。機体そのものと同化したなどということではない。だが、元は穏やかだった人間がーーー」

 

ヒイロがそこまで言ったところで映像の中のプロトゼロが動き出した。その右手に持っていたツインバスターライフルを悠然と上へ掲げながら、標的を捉えるべく構え、そしてその銃口から山吹色の閃光を発射する。放たれた膨大なエネルギーを含んだ閃光はその銃口の先にあった標的、コロニーに突き刺さるとコロニーを形成するリング状から徐々に爆発が発生する。

最終的にはコロニーは巨大な爆光となって宇宙のチリと化した。

 

「このような凶行に奔ると思うか?」

 

ヒイロが言い聞かせるように言うが、なのは達隊長陣はその凄惨さに表情を歪め、スバルたち四人はその出力に目を見開くことしかできないでいた。

 

「これ…………中に住んでいた人は、どうなったんですか…………!?」

「…………乗っていた奴が予告としてこのコロニーを破壊することを伝えていたからか。防衛に出ていた奴以外の死人は出なかった。」

「そう、ですか…………。」

 

フェイトが悲痛な表情を浮かべながらそう尋ねられたヒイロは死人自体はそれほど多くなかったことを伝える。しかし、そのフェイトは複雑な表情を浮かべる。コロニー の住民にこそ死人は出なかった安堵感とコロニーを守るために防衛に回り、そして死んでいった人間がいることと住む場所を失ったコロニーの住民のこれからを不安がっているような表情であった。

 

「…………この時のウイングゼロに乗っていたのは普段は温厚な人間だと言っていたな?その人間が怒りや悲しみを抱いていたとはいえ、本来守るはずであったコロニーを、撃てるのか?」

「……………それほど、ウイングゼロには危険なものが積まれているんです………。」

「それが、ゼロシステムっていう訳か?」

 

シグナムが疑問を呈し、フェイトがその複雑な心中のままゼロシステムの存在をほのめかし、はやてがその名を言いながらヒイロに視線を向ける。

 

「……………本題に入る。ウイングゼロにはとあるインターフェースが搭載されている。それがゼロシステムだ。」

 

ヒイロは部隊長室にいる面々に向けて、ゼロシステムについての概要を話し始める。ゼロシステムは高度な演算装置であり、戦場における情報を分析、整理し、そこから算出される演算値、つまるところ未来をパイロットの脳に直接フィードバックさせる。

そして、そのゼロシステムがパイロットの身体をスキャンし身体の電気信号等にシステム側が介入することで本来であれば耐え切ることすらできない高レベルなGの環境からの刺激を緩和したり、反応速度を向上させることができることを伝える。

 

「なんか色々機能積んだシステムやけど、特筆するのは未来を予測できる、ねー…………。でもなんかとんでもないデメリットみたいなのがあるんやな?さっきの話の雰囲気から察するに。」

 

はやてがそう尋ねるとヒイロは無表情に頷きながらゼロシステムの欠点についての説明を始める。

 

「このゼロシステムだが、まず戦場に身を置くについて、必ず考えることはなんだ?」

「……………生き残ること?」

「それもあるだろうな。」

 

なのはの言葉にヒイロは視線すら向けずにただそれだけを言う。ヒイロの反応からしても外れではないだろうが、求めている答えはそれではないことを察する。

 

「……………相手に勝利することか?」

「より正確に言えば、敵を倒すことだ。しかし、その認識で相違はないだろう。」

 

続けてシグナムが言った言葉にヒイロは頷くことで大筋があっていることを伝える。

 

「別段戦場でないところで使用するのであれば、さほど危険はない。重ねて言うが、決して危険がないわけではないのは念を押しておく。だが戦場で使えば、ゼロシステムは使用者の精神状態によってはシステムの傀儡に成り果てさせる可能性もある。」

「し、システムの、傀儡に………!?」

 

エリオが驚いているような声が響いている中、ヒイロは構わずにゼロシステムの危険性についての説明を続ける。

 

「戦場で敵を倒すことに傾倒しがちになる以上、ゼロシステムもそれに関する未来をパイロットに見せる。しかし、その内容には大局的に見て明らかに逆効果なビジョンを見せることもある。パイロットはそのゼロが見せる未来から自分が望む未来を常に選び取らなければならない。」

「…………この際聴くんやけど、その逆効果なビジョンっていうのはどんなのがあるんや?」

「敵もろとも自爆することや、護衛対象がターゲットと重なっている時にツインバスターライフルの使用、などだな。さらにはその未来を見せる過程の中でも自分自身や仲間が死ぬ光景といった望まないものを現実と遜色ない光景で見せられることも戦闘中であれば幾度となくある。」

「自分自身や仲間が死んでいく様子、か。一度だけならまだしも、何度も繰り返されるように見せられるのは、さすがに精神の方が先に持たなくなりそうだ。」

「そうだな。大抵の奴はそのゼロが見せるビジョンに耐えきれなくなって暴走を始めるのがほとんどだ。事実、俺もこのシステムを御せるようになるまでは時間がかかった。」

「お前が手を焼くほどのどぎついシステムなのかよ………。」

 

シグナムの言葉にヒイロが頷きながら自分自身でも暴走した経験があることを伝えるとヴィータが渋い顔を浮かべる。およそシステムとかそういうものに振り回されるイメージがないヒイロがそのようなことになってしまうほど強烈なシステムに驚きを通りこして、若干の呆れのようなものが含まれていた。

 

「じゃ、じゃあ、私がゼロに未来を見てほしいって言った時、ヒイロさんがくだらないって一蹴したのは………。」

「そもそも門違いもいいところだというのもあったが、あの精神状態で使わせれば確実にゼロのみせる未来に潰されると判断した。大方ティアナやスバルが死ぬビジョンしか見せなかっただろう。お前は不安に苛まれているようにしか見えなかったからな。」

「…………そう、だよね。あんな状態で使ったら、絶対ゼロシステムのみせる未来に押しつぶされていたよね…………。自分にすら、自信が持てていなかったんだから………。」

「医務室でも言ったが、お前の教導の方向性自体に異論はない。だが、少しは内容を変えるような努力はした方がいい。ティアナのように飽きる奴がいるぞ。」

「ちょっとヒイロさんっ!?あたしなのはさんの教導に飽きているなんて一言も言ってませんけど!?」

 

ヒイロの言い草に思うものがあったのか、ティアナが声を荒げながら席から立ち上がる。

 

「教導が終わった後にも自主的な鍛錬に励むということはなのはの教導に対して自分自身が足りていないと感じていたからではないのか?」

「あれは少しでも実力つけたかっただけです!!」

 

急に怒声を浴びせられたヒイロだがまるでどこ吹く風といった様子で態度や表情を一向に変えないヒイロにティアナは念を押すように声を大にしながらそれだけ伝える。

 

「あ、あはは…………ティアナ、そこまでにしてね?ね?私ももう少し頑張ってみるから。」

 

なのはの苦笑いを浮かべながらの静止にひとまずティアナは席にもう一度座った。

それを見届けたなのはは部隊長室の椅子に座っているヒイロに視線を向けるとぺこりと頭を下げた。

 

「……………ゼロシステムに関して知らなければ、お前が手を伸ばしてしまうのはわからないわけではない。だから今回のことは俺が説明を怠ったミスだ。謝られる道理はない。」

「それでも………貴方に迷惑をかけたのは事実だから………。むしろ、させて。じゃないと自分が許せなくなりそうだから。だから、ごめんなさい。」

「………………どこまでも頭の硬い奴だ。」

 

ヒイロが先に謝ることはないと言ったにもかかわらず、なおも頭を下げたまま謝罪の言葉を述べるなのはの様子にヒイロは若干の呆れが含まれているように椅子の背にもたれかかった。

そのことになのはは僅かに表情を緩めた。

 

「…………しっかし、知れば知るほど、ウイングゼロの異常っぷりには驚かされるわ。作った人間も余程トンチキな人間なんやろなー。」

「…………そうだな。ある意味ジェイル・スカリエッティとも似たような人種の科学者だろうな。」

「…………ちょっと冗談にしてはタチ悪うないか、ヒイロさん?」

「俺は冗談を言うつもりなど毛頭ない。時間の無駄だからな。」

「デスヨネー。」

 

冗談のつもりで言ったことにヒイロが真顔で答え、思わず冗談ではないかと尋ねるはやてだったが、変わらずの真顔のヒイロにそれが冗談ではないことを察し、乾いた顔を浮かべる。

ちょうどキリも良かった上、日が沈み、時刻は7時近くを指していたため、はやてが部屋の一堂に解散を呼びかけようとしたとき、隊舎にけたたましい警報音が鳴り響いた。

 

「警報………!?ロングアーチ、何かあったんかっ!?」

 

はやてがそう呼びかけた瞬間、空間にディスプレイが表示され、大縁のメガネをかけた薄茶色の髪色をした女性、シャリオ・フィニーノが画面に表示される。

 

『こちらロングアーチ01!!隊舎よりさほど離れていない海上でガジェットⅡ型の反応を確認しました!!数はおよそ30、ですが、中にアンノウンの反応が見られます!!』

「アンノウンやて…………!?ヴァイス君にヘリの準備を!!迎撃に出るメンバーは…………。」

 

はやてが迎撃に向かうメンバーを選出するために部屋にいる一同に視線を向ける。全員の表情はいつでも十分とでも言うように引き締まっていたが、戦場が海上である以上、急行するのは空戦魔導師が望ましい。よってその適性がないスバル達FW陣は自動的に除外。ザフィーラとシャマルは戦闘スタイルが攻めに向いているわけではないため除外。

よって出れるのはーーーー

 

「シグナム、ヴィータ、フェイトちゃん、ヒイロさん。そしてなのはちゃん!!ヴァイス君のヘリに乗って迎撃に向かって!!」

「はやて、なのははメンバーから外しておけ。」

「うぇぇ!?な、なしてや!?」

 

意気揚々とメンバーを選出し、迎撃に向かわせようとしたはやてだったが、ヒイロに止められ、思わずヒイロになのはを出させない理由を問う。

 

「なのはにまだ脳震盪のダメージが残っている可能性がある。戦場で症状が再発すればそのカバーに余計に手間や人手が取られる。」

「はやてちゃん、悪いけど今回は私からも辞退させてほしいかな。いつもだったら無理してでも出撃しに行くのが私なんだろうけど、それでみんなに迷惑かけたら本末転倒だもん。」

「ううーん……………大丈夫なんか?アンノウンもおるんやろ?」

「フェイトちゃん達なら大丈夫だよ。だから、私は隊舎でみんなの帰りを待つことにする。」

「……………わかった。何よりなのはちゃんが言うならそうしとくわ。それじゃあ改めて、四人はヴァイス君のヘリに乗って、現場に急行。ガジェットⅡ型および、アンノウンの分析を主軸に置いて作戦行動を開始してな。何より、絶対生きて帰ってくる!!これだけは絶対な!!」

 

「承りました。主はやて。」

「おう!!任せな!!」

「うん、絶対帰ってくるから。」

「任務了解。」

 

はやての言葉にそれぞれの言葉で返した四人は部隊長室から飛び出るように駆け出した。

 

「…………よかったんですか?迎撃に向かわなくて。」

「え?うん、みんななら大丈夫かなって。それにさっきも言った通り、変に体に鞭打って足手まといになるのはそれこそまずいからね。」

 

ヒイロ達が迎撃に向かった後、ティアナがなのはに迎撃のメンバーに入らなくてよかったのかと尋ねる。なのははその質問に四人が飛び出て行った扉に視線を向けながら笑みを溢す。

 

「あ、そうだ。ティアナ、ちょっと外に出てみない?」

「はい?別に構いませんけど…………。」

 

なのははティアナを誘って部隊長室を後にすると、二人で隊舎の外に向かった。

 

 

 

 

「おお、きたきた。ヘリの準備は万端ですよ。いつでも飛べます!」

「わかった。シャーリーからガジェット群がいる地点は聞いているな?」

「連絡は受けています。ストームレイダーの方にもバッチリです!」

 

朗らかな笑みを浮かべるヴァイスにシグナムは表情を僅かに緩めるとヘリに乗り込む。続けてヒイロ達三人もヘリに乗り込んだ。

 

「んぉ?なのはさんはどうかしたんすか?てっきりいるもんだと思ってたんすけど。」

「なのはは模擬戦で色々あったから今回は下がらせた。だからこれで全員だ。」

 

ヴァイスがなのはがいないことに疑問を呈すが、ヴィータからもやっとした理由の説明をされる。

もちろん、それで疑問が晴れるヴァイスではなかったが、追求してもしょうがないと割り切って、ヘリを発進させる。

 

「えっと、今回のメンバーは結構近接戦闘に長けている人が多いんだけど、私とヴィータが中距離からシグナムとヒイロさんをバックアップするのを基本スタンスにして行こう。ヒイロさんはあまりシグナムから離れないようにお願いします。カバーが間に合わないこともあるので。」

 

ヘリの中ではライトニングの隊長であるフェイトが主導となって戦術を組み立てる。その戦術にシグナムとヴィータは無言で頷き、ヒイロも一応組んでいた腕を解いて、薄く瞳を開けてフェイトの方を見やる。それを承諾と受け取ったフェイトは目標ポイントまで少しばかり緊張した様子で待っていた。

 

「…………そういえばさ、シャーリーがちょろっと言っていたアンノウンってなんなんだろうな。」

「………大方ガジェットの新型ではないのか?」

 

ヘリの中でふとシャリオがこぼしたアンノウンについてヴィータが尋ねる。シグナムはガジェットⅡ型も同時に出現していることからガジェットの新型がアンノウンの正体だと当たりをつける。

 

「ていうことは、これは性能テストっていうことになるのかな?」

「…………ならばどこかでジェイル・スカリエッティも見ている可能性が高い。あまりこちらの手の内を晒すべきではないだろう。」

「…………確かに、な。」

 

フェイトの性能テストの言葉からヒイロはジェイル・スカリエッティがこの戦闘を見ている可能性が高いことを示唆する。

シグナムがその推察に唸っているとーーーーー

 

「ヒイロ!!」

 

ヘリに焦ったような様子のアインスの声が響いた。明らかに異常事態が起こったと考えられるアインスの様子にヒイロはともかくフェイト達は驚いたような表情を浮かべる。

 

「何かあったのか?」

「ウイングゼロのレーダーが件のガジェット群の反応を捉えた!!」

「………結構探知範囲も広いのだな。」

「そうじゃないんだ!!そのアンノウンもレーダーに引っかかったのだが、ウイングゼロが該当データがあると表示してきたんだ!!」

「何ッ!?」

 

アインスの報告にヒイロは思わず目を見開いた。ウイングゼロのデータに該当がある、ということはそれはつまり、そのアンノウンの正体がーーーー

 

「何故だ、何故アフターコロニーのモビルスーツがミッドチルダに存在する………!?」

「はぁっ!?それ本当なのか!?」

「おそらく、ガジェットと行動を共にしているのを鑑みて、誰かしら、もしくは何かしらアフターコロニーにいたモノがスカリエッティのとこにもいるということになる………!!」

「クッ………ヴァイス・グランセニック!!ハッチを開けろ!!」

「わ、わかった。今開けーーーうおっ!?」

 

 

ヒイロの剣幕に圧されたのかヴァイスがハッチを開けようとしたところでヘリが大きく揺れながら急旋回をする。思わずヘリの中でかき回されそうになるが、なんとか席にしがみつくヒイロ達。

 

「向こうはマッハ2の速度を有している!!ヘリでは回避運動は難しいぞ!!」

「アインス!!一体ガジェット群に何がいるんだ!?該当するものがあるのだろう!?」

 

シグナムからそのアンノウンについての情報を要求されるとアインスは苦しげな表情を浮かべながら、ウイングゼロから提示された該当データを読み上げる。

 

「相手は………OZ-07AMS、牡羊座の名を有する、『エアリーズ』だ!!」

 

その単語にヒイロは思わずヘリの窓から外を見やる。そこには背部の大型のフライトユニットから青白い光を蒸し、夜の闇に紛れそうな黒いカラーリングを有した空戦用モビルスーツ、二機のエアリーズがヒイロ達の乗るヘリに大きく旋回行動をとりながら再度接近してきているのが目に入った。

 

そして、その旋回し終わった瞬間、エアリーズ二機の翼に懸架しているミサイルポッドからミサイルが射出された。数は夜の闇に浮かぶ光から鑑みて8つ。狙いは言うまでもなく、ヒイロ達の乗るヘリだ。

 

「ヒイロさん!!!」

 

その瞬間、誰かの声がヘリに響いた。その声が届いた瞬間、ヒイロはその人物、その意図を瞬時に把握。この状況を打破するために行動に移る。

 

 




ああ、ちなみにですが、エアリーズはご丁寧にガジェットぐらいの大きさまで縮小されています。人はもちろん乗っているわけありません。
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