魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 作:わんたんめん
「ーーーーーーー」
彼の持っていたデバイスから溢れ出ていた光が収まり、目を開けられるほどになってくると、なのはは言葉を失った。
先ほどまで彼がいた場所には人の形をした何かがいた。
背中には二対の翼が二つ。その何かの全身が包まれるほどの大きさはあるその巨大な翼は、天使を連想させる。
その天使は少しばかり自身を確認するような素ぶりを見せると、なのはに体を向けた。
その体は胸元に緑色に輝く宝石のようなものが埋め込まれており、白と青を基調とするツートンカラーの装甲を身に纏っていた。
誰がどうみてもそれはロボットと言える外見であったが、その背中の天使を連想させるような生きているような翼がそのロボットの神々しさを際立たせていた。
「・・・・綺麗・・・・。」
なのはは思わずそう感想を口からこぼしていた。
「・・・・なのは。今、俺はどうなっている?」
そのロボットから声がかけられる。その声は先ほどの彼のものであった。
どうやら、自分の状況がうまく把握できていないらしいが、なのはがそのことに気づくまでは数秒を要した。
「・・・・・聞いているのか?」
「えっ?う、うん!!えっと、ロボットみたいなんだけど、背中に翼が生えているよっ!?」
「翼、か。飛べるのか・・・?」
そう呟いたヒイロが軽く飛んでみると、普通であれば地面に戻るはずの足は宙に浮き続けていた。
「・・・・問題ないか。武装は何があるか知らんが、やれることをやるだけだ。」
ヒイロはそういうとビルの窓枠に手をかけ、飛び立とうとする。
「なのは、もう一度言うが、ユーノ・スクライアが言っていた通り、そこから出るな。」
それだけ告げるとヒイロはビルからその翼を羽ばたかせながら飛び立っていった。
「私は・・・・。」
ヒイロにそう忠告を受けたなのはだったが、その表情はわずかに曇らせたままであった。
(・・・・おそらくあの集団は一対一の勝負に長けている。そして、一番の実力者はあの紫色の奴か。)
そういい、ヒイロは先ほどフェイトを吹っ飛ばした騎士装束の人物に視線を向ける。
その表情は凛としていて、彼女纏っている騎士装束も相まって、出で立ちはほとんど文字通りの騎士だ。
「・・・・フェイト、聞こえるか?」
『えっ?この声・・・。貴方なんですか?』
ヒイロのデバイスについてある通信機能を使ってフェイトに呼びかける。
彼女は驚きながらだったがヒイロに送り返した。
「俺も戦列に加わる。お前と俺であの騎士装束の奴の相手をする。」
『す、少し待ってください!!貴方はデバイスを持っていたんですか!?』
「見ればわかるはずだ。それとユーノには赤い奴の相手をしろと伝えてくれ。」
少々一方的だが、フェイトにそう告げるとヒイロは騎士装束の女性の前に立ち塞がった。
「・・・・お前は何者だ?」
「知らんな。今の俺には俺自身に関する記憶はかけらも存在しない。」
「ならば重ねて聞こう。記憶がないのであれば、なぜ我々の前に立ちふさがる?」
騎士装束の女性はヒイロにその手に持つ剣の切っ先をヒイロに向けた。
返答によってはすぐにでも斬りかかるという暗示であろう。
「・・・・理由、か。強いて言うのであれば、お前たちの目的、それはなんだ?」
「・・・・悪いが、それを答えることはできない。」
騎士装束の女性がそう言うとヒイロに向けていた剣を上段に構えながらヒイロに向かって突っ込んできた。
普通の人物であれば、反応もできないまま、彼女の持つ剣の錆にされるだろう。
ヒイロはそれを紙一重で避ける。そして、そのまま体を回転させて、カウンターの回し蹴りを打ち込もうとするが、女性は左腕でガードをした。
「っ・・・。中々やる・・・。だが!!」
その騎士装束を纏っている女性、『シグナム』は左腕でヒイロの足を払いのけながら、さらに肉薄する。
構えは腕を後ろに引き、その切っ先の先端はヒイロに向けられている。
「はぁっ!!」
シグナムは鬼気迫った声と共に引いた腕を前に突き出し、強烈な突きを放つ。
鍛えられた女性の突きはヒイロが体を逸らしたため、掠めるに留まった。
(この男、いや、先ほどの声の質から見れば少年か・・・?それはそれとして、強い・・・!!反撃はーー)
シグナムは反撃を警戒したが、ヒイロは反撃をすることはなく、避けた勢いを利用して、そのまま高度を下げることで距離をとった。一瞬、シグナムはヒイロの行動を疑ったがーー
「フォトンランサー、ファイアッ!!」
その疑いはその声を自身に飛来してくる黄色の魔力光で構成された槍で晴れた。
視線の先には、先ほど弾き飛ばした黒いマントの少女が見えた。
「っ!!この程度っ!!」
シグナムは手のひらから防御用の魔法陣を展開する。紫色の魔法陣にぶつかったフォトンランサーはその防壁を貫くことは叶わず、爆発を起こす。
視界が爆煙に包まれるが、その程度で敵を見失うシグナムではない。
すぐさま振り向き、剣の樋で背後からのパンチを防ぐ。しかし、そのパンチに込められた力は凄まじく、拮抗しているように見えながらも僅かにシグナムの剣が押されているように見えた。
(バ、馬鹿な・・・。こちらが片腕とはいえ私が力負けしているだと・・・!?)
その現実にシグナムは表情には出さないものの内心は驚愕に打ちひしがられていた。
仕掛けてきた主を見ると、そこにいたのはヒイロであった。
ヒイロはさらに腕に力を込めようとするが、先にシグナムがバックステップで後退したため、ヒイロは一度フェイトと合流する。
「・・・・やっぱり一筋縄では行きませんね・・・。」
「そうだろうな。それに奴はまだ本気を出していないように感じる。近接戦闘では奴に軍配があがる以上、気をつけろ。」
「・・・分かりました。ところで、貴方は一応あの人で間違い無いんですよね?」
自分のデバイスである『バルディッシュ』をシグナムに向けて構えながらのフェイトからの確認にヒイロは軽く頷いた。
「ああ。一応、リンディからこれはデバイスだと聞いて返してもらっていた。あまりデバイスについてはよく知らんが。」
「分かりました。ですが、できればこっちの話も聞いて欲しかったです。突然言われても、いきなりすぎます。」
「・・・・・・・わかった。記憶には留めておく。」
「・・・・本当ですか?」
フェイトが訝しげな視線を向けるが、等のヒイロは顔が装甲に覆われてしまっているため、その表情を伺うことはできなかった。
「中距離からの援護を頼む。近接戦闘は俺がやる。」
ヒイロはフェイトにそれだけ言うと背中の翼を羽ばたかせながらシグナムに突撃していった。
「え、ちょ、ちょっと!?さっき私が言ったこと、何にも覚えていないじゃないですかっ!?」
フェイトはヒイロに驚きと困惑を含んだ声をあげるが、当のヒイロは既にシグナムとのクロスレンジでの戦闘を行ってしまっている。
「て、手のかかる人ですね、本当に!!」
ヒイロの振り回しっぷりに苦い表情を浮かべながらもフェイトは自身の周囲に魔力で編まれた光弾を生成する。その数は徐々に増えていき、最終的に先ほど放ったフォトンランサーの数の倍近くを作り上げていた。
「
フェイトがバルディッシュを振り下ろすと、光弾は槍の形を成しながら、シグナムを狙い撃つ。
シグナムは飛来するフォトンランサーを迎撃、もしくは避けるために回避行動を取ろうとするが、ヒイロがさながら逃すまいと言っているように近接戦闘を仕掛ける。
しかし、ヒイロはその格闘戦の中、シグナムは己の剣のギミックと思われる箇所に何やら二つほど細長いものを入れているのが見えた。
それはまるで、弾丸のように見えたソレがシグナムの剣が飲み込むと、突如として、衝撃波がヒイロを襲った。
「っ!?」
「まさか、ただ距離を取るためだけにカードリッジを使わされるとはな・・・。」
その衝撃波の圧は凄まじく、ヒイロが吹き飛ばされるほどであった。ヒイロが態勢を整えた時には既にシグナムはフォトンランサーの弾幕を切り抜け、フェイトに肉薄していた。
フェイトはバルディッシュで彼女の剣を受け止めるが、力の差が浮き彫りだったため、フェイトは再度、吹き飛ばされ、ビルの壁に叩きつけられた。
「っ・・・・無事か?」
『大丈夫・・・・。まだ、やれる。』
無事の確認をすると、フェイトから念話で返ってくる。どうやらとりあえずは無事なようだ。
しかし、現状としてヒイロ一人でシグナムの相手ができるかどうかははっきり言って不確定要素が多かった。
だからと言って、フェイトが戻ってくるまでただ待つ訳にはいかない。
ユーノとアルフはどうやら結界を破るために動いているようだが、赤い奴とやけに大きい狼がそう易々と行動を許してはくれない。
ヒイロが状況を整理しているなか、視界の端に突然ピンク色に輝く魔法陣が見えた。
何事かと思って見てみれば、あるビルの屋上に自身の杖を構えて立っているなのはの姿があった。
「・・・・何をするつもりだ・・・っ!?」
疑問気な表情を浮かべながらなのはのその様子を見た瞬間、ヒイロの頭に突如として激痛が走った。
それと同時に流れ込んでくるビジョン、否、ビジョンと言ってもそれは生々しいものではなく、さながら未来を見ているような感覚だった。
思わず頭を抑えながら、そのビジョンを見ると、衝撃的な光景が映っていた。
なのはが魔法陣から放ったビームが結界を貫いて粉々に打ち砕いている光景だった。
それはいい。問題はそのなのはの胸部から何者かの腕が出ていたことだ。その腕の中には光り輝くものがあったように見えたが詳しいことはわからなかった。
なのはが結界を破壊した後、胸部から突き出た腕も消え失せたが、なのははその場にうつ伏せで倒れた。
ヒイロはこのビジョンに見覚えがあった。だが、見覚えがあったのはなのはのビジョンではなく、そのビジョンを見せるという現象そのものに対してあった。
「なん・・・だっ!?これ・・・は・・・?俺は、これを知っている・・・っ!?」
痛みに耐えながらもなのはの方を見やる。まだなのははにはなんの異常も見られない。なのはの魔法陣から生成される巨大な光弾は徐々にその大きさを広げていく。
その時だった。彼女の胸部をビジョンで見た何者かの腕が貫いた。
突然の出来事になのはは何が起こったのかわからないと言った驚愕の表情を浮かべていた。
「っ・・・・!!おおおおっ!!!」
痛みに耐えながらも翼を羽ばたかせ、なのはの元へ直行する。ヒイロ自身、気づくことはなかったが、その速さは一瞬とはいえ突風を生み出すほどであった。
明らかに人間が耐えられないスピードを出したヒイロに周りの人物は反応することが出来ずにおどろいた表情を浮かべるだけになった。
瞬く間になのはの元へ駆けつけたヒイロは彼女の胸部から突き出た腕に手を伸ばした。
ヒイロはゴリラの10倍くらいの握力がないとへし折れない鉄骨を容易く折りやがります。
あとはまぁ、お察しかも知れないっす。