魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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おっと…………今回は登場人物が極めて少ない………。

そういえば今回から長ったらしい会話を含んだ文章を書く時は一行空けるようにしてみたんですけど、どうですかね?


第63話 約束に埋もれた本音を探して

「………………………………」

 

ティアナからスバルが戦闘機人であることを聞いたあと、ヒイロは自室へと足を運んでいた。特に用がない以上、うろつく必要性がなく、休息ついでというのもあった。

そんなヒイロだったが、今の彼の表情はとてもではないが休めているとは思えない、ムッとした表情を浮かべていた。

その原因はソファに座っているヒイロの隣にいた。彼の肩に頭を乗せ、居心地が良さそうに寝息を立てているのは、フェイトだった。

正直言ってヒイロにとっては鬱陶しいもいいところなため、ガン無視してソファから立ち上がってもよかったのだが、ご丁寧に逃がさないと言わんばかりに左腕をガッチリホールドされてしまっているため、動こうにも寝ているフェイトを確実に起こしてしまうため、あまり動けなかった。

 

なぜこうなったのかと言うとはっきり言って戦闘機人を取り逃がしたことをフェイトが未だに引きずっており、誰かに甘えたくなったのが本命だろうとヒイロは思っている。

 

(……………なのはに縋ればいいだろう…………。膝枕とやらを要求された時もそうだったが、何故逐一俺に言ってくる…………。)

 

呆れた表情を見せながら、ヒイロは目線だけを隣で自身を枕代わりにしているフェイトに向ける。

 

『ん…………ヒイロ、誰かからか通信が来ている。これは……………ユーノ・スクライア?』

 

そんな時、アインスがヒイロに向けてユーノから通信が送られてきていることを告げる。

 

「何の用だ…………?繋いでくれ。」

 

突然のユーノからの通信にヒイロは訝し気な表情を見せながらもアインスに通信を開くように伝える。直後、ヒイロの視線の先に空間ディスプレイが投影されると、そこにユーノの顔が映し出される。

 

『あ、よかった。繋がってくれた。』

「突然通信などよこして何の用だ?」

 

通信が繋がったことに安堵しているのか、安心した顔を見せるユーノを差し置いて、ヒイロは彼に単刀直入に通信をよこしてきた訳を尋ねる。

 

『……………ごめん。一つだけ聞いていい?ヒイロさんの隣に見えるのって、もしかしなくてもフェイト?』

「そうだ。戦闘機人の確保に失敗してこの有様だ。何故この行動をとっているのかはまるで理解しかねるが。」

 

ユーノの指摘にヒイロは呆れたように肩を竦める。そのヒイロの様子にフェイトの気持ちを察しているユーノは乾いた笑みを浮かべてしまう。それと、その気持ちが成就することを願い、彼女に頑張れとの応援のメッセージを心の中で呟いた。

 

「…………話が逸れた。改めて聞くが、通信をよこしてきた理由はなんだ?」

『まぁ、そうだね。事態は割と一刻を争うからね。ヒイロさん、この前のスカリエッティの一味との戦闘でバスターライフルを使ったよね?』

「……………出力は抑えていた。必要最低限にな。」

『10年前の事件を知っている僕だからそれはわかっていたよ。でも、そのバスターライフルを巡って、地上本部で不穏な動きが出てきたんだ。』

「何……………?」

 

地上本部に不穏な動きがある、というユーノの言葉にヒイロは眉を顰め、その話しの続きを促した。

 

『ヒイロさんがこの前バスターライフルを撃った時の出力を魔力換算すると少なくともオーバーSランクだった。スカリエッティにバスターライフルの最大出力を見抜かれないようにするためなのは僕でも察せられたんだけど、それでも威力が高過ぎたんだ。』

「………………管理局が設定した一部隊が保有する魔力の上限か。」

『今回の件は管理局にも報告されているから自然と地上本部の方にも伝わるんだけど、いかんせんバスターライフルは魔法ではなく、科学技術の結晶だ。それが地上本部の過激派…………もっと具体的にいえばレジアス中将を刺激したみたいなんだ。』

「結論だけ言え。あとはこちらで対処する。」

『……………部隊長であるはやてにはそろそろ通達が行っているかもしれないけど、地上本部が機動六課に対して査察を入れることが決まった。しかもレジアス中将直々にだ。』

「査察………さらにレジアス・ゲイズが直々に、か。」

 

管理局の地上本部、もっと極端に言えばレジアス・ゲイズが機動六課に査察を入れ、なおかつ本人がやってくるという状況にヒイロは少しの間考え込む仕草を見せる。

 

「……………好都合だな。」

『うーん…………やっぱりヒイロさんはそう受け取っちゃうか…………。』

「奴が中将の階級を持っている以上、真っ当な手段では時間がかかり過ぎる。そんな人間がわざわざこちら側に足を踏み入れてくる。奴の真意を問い質すいい機会だ。もっとも真っ当な手段など始めから微塵も取るつもりはないがな。それにーーーーー」

『それに?』

 

「俺がスカリエッティのスパイの立場だとすれば、この機会を利用しないはずがない。」

 

ヒイロのその言葉に画面の中のユーノも表情を神妙なものに変えながら静聴を始める。

 

「理由として挙げるならば、現状スカリエッティにとっての最大の障害はこの機動六課だ。はやてやフェイト、守護騎士勢といった実力者も多いが、何より管理局有数の砲撃魔導士であり、エース・オブ・エースなどと呼ばれているなのはの存在も大きい。さらに俺がこの隊舎に来てから、外部からの来客らしい人物もなかった。はやてが管理局内部からの介入を拒んでいるのかは定かではないが、ともかくとしてそのようなもっとも目を向けるべき敵の本拠地にしっかりとした動機込みで潜入し、情報収集ができる。これを逃すはずがない。」

 

『確かに…………じゃあ、スパイの目的はそれだとして、レジアス中将は何のために査察を?やっぱりヒイロさんを六課から引き離そうとするため?』

 

ユーノからの質問にヒイロは少し考える素振りを見せた後に通信画面のユーノに向き直る。

 

「可能性は少なくはないだろうが、奴の目的はウイングゼロの可能性の方が大きい。奴は地上の防衛に魔法技術の他にこの世界では忌み嫌われるものとして存在する科学武器を使おうとしている。それで奴はウイングゼロを取り上げ、解析に回して量産する腹積りでいるのだろう。」

『ちょ、ちょっと待ってよ!!そんなことをしてしまったらーーーー』

「過ぎた力が持ってくるのは秩序ではない。戦争だけだ。確実にアフターコロニーのような泥沼の戦争が始まる。」

 

ユーノの焦った表情にヒイロは淡々と言葉を返す。ウイングゼロの量産の可能性。しかし、それは不可能だ。ウイングゼロの装甲に使われているガンダニュウム合金は月という特殊な環境下でしか作れない代物だ。そのためヒイロが思い浮かべている現実的なものは、ツインバスターライフル、もしくはバスターライフルの量産だ。

ジェネレーターなど科学面でのいくつかの問題も生じるだろうが、代わりの魔法技術を代用してしまえば、どうとでもなる話にはなってくる。

一言で言ってしまえば、仮に量産されることになれば、本来負担の大きいなのはクラスの砲撃魔法を素質など関係なしに、一定数値の魔力を込めれば誰でも使用することができる。それだけでもこのミッドチルダでは破格の性能を有し、その猛威を振るうことができるだろう。

 

『そんなの、絶対にやってはいけない!!一人一人にあんな火力を持たせるのは危険すぎるよ!!それじゃあ人々を守るどころの話じゃない!!人々を抑圧する、ただの圧制だよ!!』

 

「俺もこの世界に俺と同じような兵士を産ませるつもりは毛頭ない。平和の犠牲は俺だけでいい。」

 

『……………ヒイロさん。今の言葉、間違ってもフェイトやはやての前で言っちゃダメですからね?フェイトは今寝ているみたいだからいいですけど。」

 

先ほどまで怒気に塗れていた声から一転したユーノの冷えた声にヒイロはわずかに眉を顰める。犠牲という単語こそ使ったが、それでユーノがヒイロ自身、この戦いの中で死ぬつもりだと思ったらしい。

 

「………………俺の命などそれほど高くはない。むざむざとやるつもりもないが。」

『…………貴方ならホントにそんな感じだから強く言えないんですよねぇ…………。』

 

ヒイロの言葉に今度は呆れたようにため息をつくユーノ。実際に聞いたのかヒイロ目線では定かではないが、かなりの手練れである守護騎士四人からの襲撃を回避に徹していたとはいえ無傷でくぐり抜けた前歴があるため、そのような反応になるのは仕方のないことだろう。さらには一時期次元震に巻き込まれ、消息不明になったことこそあったが、10年という時を跨ぎながらもこうして五体満足でいられている、というのも拍車をかけていた。

 

『でも、今回は本当に大規模…………闇の書事件が小規模だったとは決して言えませんが、少なくとも規模は前回より上です。ガジェット、戦闘機人、人造魔導士、それにクロノから聞きましたけど、ヒイロさんがいたアフターコロニーのモビルスーツとまで向こうの戦力になっていますから。もっとも僕が言えることではないことは重々わかっているんですけど。』

 

「例え相手がなんであろうと、俺のやることは変わらん。障害となるならば、排除するだけだ。」

 

『…………そうですか。』

 

ヒイロの言葉にユーノは表情を緩め、柔らかい笑みをヒイロに向ける。どんなに強大な勢力と近い内に戦闘になることとなろうと変わらない様子で、それでいて全力で立ち向かっていくその姿は見る者に活力を与えるだろう。

しかし、自分の魔法では性質上、後方支援が主だったものであり、ヒイロと同じ前線に立つことは難しい。しかも相手が魔法に対しての対策もしっかりしている以上、自分の魔法はてんで役には立たない。

 

『ヒイロさん、無限書庫で何かやってもらいたいことはあるかな。僕個人としても機動六課には協力したいから。』

 

故にユーノが己が身分であり、得意分野でもある無限書庫での情報収集でせめてもの力になろうとする。

 

「そうか。無限書庫に関しては司書長でもあるお前が適任だ。ならばジェイル・スカリエッティに関して、過去の動きに関して探ってもらおう。奴の勢力の規模的に一年二年で戦力を整えられるとは思えん。十年前にあったとされる聖王教会で起こった聖王の聖骸布の盗難とも合わせてそちらで調べられるか?レジアス・ゲイズがその時からすでにスカリエッティと繋がっていたのであれば、対応したしていないはどうであれ、戦闘機人が関わっているような施設の一つや二つは存在した可能性があるからな。」

 

『聖王の聖骸布…………それにジェイル・スカリエッティの研究施設が対象となった案件………わかったよ、めぼしいものがあったら連絡する。』

 

ヒイロの頼みを承諾したユーノは早速捜索に入るのかそこでヒイロとの通信を切り、空間ディスプレイも役目を終えたと言わんばかりに消失した。

 

「…………………寝を決め込むつもりか?」

 

ヒイロは目線を消失したディスプレイがあった空間から動かさずに唐突に誰かに向けて声をかける。もっとも今部屋にいるのはヒイロ以外には一人しかいない。それもわかっていたのか、ヒイロの腕をホールドして寝ていたはずのフェイトがもそもそと体をみじろぎさせる。

 

「…………気づいていたんですか?」

「腕に力が込められる感触が出れば誰でもわかる。」

 

自身の横顔を見つめるフェイトにヒイロは目線すら合わせずに淡々とそう返す。実はというとユーノと話している途中にヒイロの言う腕に力の込められる感触、というのが出ていた。具体的に言えば、彼がまるでミッドチルダの平和を守るためなら、自身の命すら投げ出すと言わんばかりの言葉が、彼の口から発せられた時だ。

それが彼女に嫌な予感を見させたのか、先ほど見せていたスヤスヤとした寝顔から一転して不安のような表情を表に出していた。

 

「また…………いなくなってしまうんですか…………?」

 

いなくなる、というのは言わずもがなヒイロが死ぬことを暗示しているのだろう。

だが、ヒイロにはそんなつもりはサラサラない。

 

「どのみち、俺はアフターコロニーへ帰るつもりだ。」

「そう、ですか。なら、いいんですけど…………。」

 

しかし、アフターコロニーへ帰るつもりではあるため、それでいなくなるという旨のことばを言うが、フェイトは意外にもその言葉に対しては不安を押し殺したような表情を見せなかった。てっきり不安気な表情を深めると思っていたヒイロは驚きの意味合いを込めて、顔をフェイトに向けた。

 

「…………アフターコロニーはヒイロさんが元いた世界ですし、ヒイロさんにもやらなきゃいけないことがあるんだと思います。」

 

ヒイロが自身に顔を向けたことの意味を知ってか知らずか、フェイトは不安気な顔を見せなかった理由のようなものを話した。しかし、その後は視線を右往左往させる様子を見せる。その姿は不安、というよりどちらかと言えば言うべきか迷っているようにも思えた。

 

「言いたい事があるなら早めに言え。聞くかどうかは別問題だが。」

「……………あの…………もし、向こうで………アフターコロニーでそのやらなきゃいけないことが済んだら、戻ってきてくれますか?」

「…………ミッドチルダにか?」

「…………ごめんなさい。流石にわがままが過ぎました。」

 

怪訝な表情を浮かべながら聞き直したヒイロにフェイトはわがままが過ぎたと謝罪の言葉を述べた。促したことによるフェイトの本心にヒイロは彼女から目線を外し、正面を見据える。

 

「戻るか戻らないか以前に、俺がお前のその要求を覚えているか定かではない。アフターコロニーに戻る時には再びコールドスリープされることにしているからな。」

「つまり…………初めて貴方と会った、アースラの医務室の前で顔を合わせた時みたいな状態になってしまうってことですか?」

 

「……………そういうことになる。もっとも記憶を保持された状態で目覚めるかどうかはコールドスリープされていた月日によるだろうがな。さらに言えば、俺がこの世界にやってきたのは全くの偶然だ。クロノに掛け合って帰れるように捜索の依頼を出してはいるが、見つかったとして、アフターコロニーと次元世界が繋がるなどということが二度も起きるとは限らん。」

 

「でも…………前例はある、ってことですよね?貴方が入ったコールドスリープの機械がこっちにやってきたってことが。」

 

フェイトのその指摘にヒイロは何も語らない。しかし、その沈黙を肯定と受け取ったフェイトは再びヒイロの腕をホールドしていた力を強める。

 

「貴方の元いた世界に帰れる道は見つけます。例えそれが一時的なものだったとしても、もう一度私が見つけ出します。どんなに時間がかかっても。その時もし会えたら、また来てくれますか?」

「……………………ふん、勝手にしろ。」

 

フェイトの誓いとも取れる決意に満ち溢れた言葉にヒイロは軽く鼻先であしらった後に好きにしろと言わんばかりの反応を見せた。ヒイロ自身、元工作員のためアフターコロニーに戸籍のようなものは一切存在しない。そのため仮にアフターコロニーが平和になった以上、自分がどこにいようと必要であれば偽装してしまえばさしたる問題はないという認識で鼻先であしらうような反応を見せたのだが…………

 

ともかく言質のような承諾をもらったフェイトは嬉しそうに表情を緩める。

 

「……………話は変わるが、なぜお前は俺などにそこまで気をかける?何か特殊な事情でもあるのか?」

「と、特殊なんて、そんな訳……………でもある意味特別ではある、のかな?」

 

ヒイロの唐突な質問にフェイトは焦ったように言葉を返すが、少し間が空いたのちに徐々に顔を赤くしながら縮こまるような様子を見せる。そのフェイトの反応の真意がわからなかったのか、ヒイロは訝し気な表情を見せる。

 

「おいーーーーー」

「ご、ごめんなさい!!やっぱり忘れてください!!アインスもお願いだから忘れて!!」

 

詳細を尋ねようとしたヒイロだったが、何かが限界に達したのかフェイトがそれより先に部屋から物凄い勢いでーーーーそれも彼女の得意魔法でもあるブリッツアクションを用いての加速ブーストをしながら部屋から出て行った。

 

「……………なんなんだ、あの反応は。」

「とってつけたような忠告だったな……………。」

 

フェイトの行動に不思議そうな様子を見せるヒイロとウイングゼロから姿を見せながら、彼女の心情を察してはいるが、今まで忘れていたかのような彼女の反応に少し不服気に腕を組んだアインスが部屋に取り残された。

 

「あのー…………もしかしなくてもヒイロさん?あ、やっぱりいた。」

 

そんな時、たまたま部屋に近くにいたのか、今度はおずおずと部屋を覗き込みながらなのはが現れる。フェイトが部屋から飛び出していったのを見かけたのか部屋の中にヒイロがいると当たりをつけていたようだ。

 

「…………フェイトちゃんに何かしました?もしくは言いました?」

「何もしていない。会話こそしたが、何やら勝手に自己完結して部屋から飛び出したとしかわかっていない。」

 

妙にヒイロが何かしたという確信を持った目で質問をぶつけるなのはに、ヒイロは何食わぬ顔で自身が何もしていないと言い張るのだった。

 

「そうですかぁ………………そういうことにしておきますね。」

「…………言葉の意味がわかりかねるのだが。」

「これは流石にフェイトちゃんの問題なので……………私が言うわけにはいかないというか、なんというか…………。」

 

明らかに濁した発言をするなのはにヒイロは眉間にシワを寄せ、眉を顰める反応を見せるが、なのはは乾いたような笑い声を上げるだけで話してくれるようには見えなかった。

 

「あ、そうだ。実は私もヒイロさんに用があったんですけど、シャーリーからスバルの特訓用の装備ができたから調整のために来て欲しいって連絡を受けました。」

「……………了解した。」

 

話題を逸らしたなのはだったが、追及しても教えてくれる訳ではないことを察したヒイロはそれ以上言及しないことを決め込み、座っていたソファから立ち上がり、部屋の外へと向かっていった。




次回、ようやく待ち望んでいたあの子が登場。
あの子はどうやら本能的に一般的に強いと呼ばれる人物に懐く気があるようなので…………グフフ

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