魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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シャッハさんてさ…………本編でガンダム主人公が見たら10人中10人がブチ切れそうなことしでかしてるよね………。書いていて思った。

まぁ、いいか。それはともかく、等々あの子の登場だよ!!


第64話 見る人が見れば笑いの種

ミッドチルダの都市に張り巡らせられた高架橋の上を一台の黒塗りのスポーツカーがかなりのスピードで走っていた。見るものが見たり、そのスポーツカーに乗っているものが乗ってたならば、さながらジェットコースターかその類を幻想させるようなスピードだ。その車のハンドルを握っているのは、管理局でも有数の実力を持ち、その美貌から知名度も高いフェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン執務官。

 

「ふぇ、フェイトちゃん?結構飛ばすんだね…………?」

「確かに飛ばしてはいるけど……………まだ遅い方だよ?」

 

彼女が運転する隣でアシストグリップに手を伸ばしながら微妙に戦々恐々とするなのはにフェイトはなに食わぬ顔でいつもより遅いといいのける。こうして彼女たちが車を飛ばしているのはある日聖王教会から突然の連絡が入ったからだ。その内容は以前発見し、保護した聖王のクローンとされる少女が搬送先の聖王教会直属の病院から抜け出したとの連絡であった。

 

既に教会のシスターたちにより病院の周囲の封鎖を行ったとのことだが、それを聞いたはやてはすぐさまなのはとフェイトに緊急の形でお願いを入れ、唯一車を所有するフェイトの車で馳せ参じることになった。

 

「ヒイロさんは大丈夫ですよね?」

「……………問題ない」

「ヒイロさんはもっと速いの乗り慣れているから比較しちゃダメなの!!」

 

フェイトが後部座席が見れるバックミラーに視線を向けるとそこには腕を組んで座っているヒイロの姿があった。

フェイトたち二人が彼女の車に乗り込もうとした時、突然ヒイロが現れ、『俺も同行する』と一言。

どこから聞きつけたのか定かではないが、断る理由もなかった二人はそれを二つ返事で了承。ヒイロも病院に向かうこととなった。

 

「…………ところでヒイロさんは突然どうして病院に向かうって言ったんですか?」

「……………………………聖王のクローンが戦闘機人などに連れて行かれると面倒なことになるからだ。それ以上はない」

 

ふと気になったなのはから質問にヒイロは少しの沈黙ののちにそう答えた。至極真っ当な返答だったが、答えるまでに空けられた沈黙にフェイトの執務官としての直感が引っかかりを覚えたが、運転中というのも相まり、深く考え込むことはせずにひとまず彼女の中で流すことにした。

 

 

 

 

しばらくフェイトのちょっと荒い運転で都市区画を疾走すること数十分。都市区画から程よく離れた外れに緑に覆われた建物が姿を表す。聖王教会の本部からもそこまで離れていない附属病院。それが聖王のクローンと思われる少女が搬送された『聖王医療院』である。

 

「申し訳ありません!!」

 

フェイトが駐車場に車を止め、降りたタイミングで施設からシャッハが慌てた様子でヒイロたちに駆け寄ってくる。

 

「状況はどうなっていますか?」

「先ほど通達させて頂いた通り、特別病棟とその周辺の封鎖は済ませています。皆さんが来るまでの間に飛行や転移、侵入者の反応はありません。」

 

なのはが状況をシャッハに尋ねると予め連絡したことと状況が変わっていないという特に異常がなかったことを告げられる。

 

「……………まだ建物の中にいるのか。手間が省けたな。」

「…………一応、対応は迅速にしたつもりですので」

「それじゃあ、フェイトちゃんはシスターシャッハと一緒に東の方を。私とヒイロさんが西の方を手分けして探索しましょう」

 

ヒイロがそう聞くとシャッハの癪に触ったのか、わずかにムッとした表情を見せながら返答をした。その微妙な空気を察したなのははシャッハとヒイロを分けて探索を行うことを提案する。

 

「了解した」

「それじゃあシスターシャッハ。私たちはこちらへ行きましょう」

「あ、は、はい!!」

 

なに食わぬ顔で承諾するヒイロ。その直後にフェイトがシャッハを連れて一足先に捜索へと向かった。二人が向かったことを確認したなのははヒイロに向き直ると微妙な表情を浮かべる。

 

「あまりシャッハさんの眉間のシワが深くなりそうなことは言わないでくださいね?」

「……………見たままを言ったまでだが?」

 

そう言われたなのはは若干頭を抱えるが、ヒイロはそんな彼女を置いて歩き始める。その歩みに迷いのようなものが見られずまるで少女の居場所が分かっている言わんばかりのスピードであった。

 

「ヒ、ヒイロさん?もしかしてあの子の居場所ーーーー」

「ゼロに探し出させた。中庭にいる。」

「え、ゼロシステムってそんなこともできるんですか!?」

「前にも言ったが、ゼロシステムは極論を言えば高度な演算システムだ。レーダーの範囲内にいる聖堂教会の関係者の配置からある程度は絞り出せる。」

 

なのはが小首を傾げながらヒイロに駆け寄りながら並び立つと、ヒイロはゼロシステムに探し出させた方法とその演算から弾き出された少女の居場所だけ伝えると再び歩みを早める。その様子にそこまで応用が効くものなのだろかと訝しげな表情を見せるが、一向に迷う気配のないヒイロの足取りに自分を納得だけさせてついていくことにした。

 

「ここか」

 

少しして病棟に囲まれた中庭でヒイロは歩みを止めた。それにつられて止まったなのはは周囲を見渡すが、隠れられそうな茂みはいくつかあったもののなのはの視界に少女は映らなかった。

 

「隠れているのかな…………?」

「妥当な反応だ。気がついたら見知らぬ場所にいるなど、普通の奴からすればパニックの原因にしかならない。ましてやまだ幼い子供であるなら、尚更のことだ。」

 

そうも言いながらもヒイロは再び歩き始めると、中庭の中にいくつもある茂みの一つに迷うことなく一直線に向かっていく。そのヒイロ自身が見定めた茂みの近くまで来ると、ヒイロは一度なのはの方に振り向いた。

 

「なのは、そこに設置型のバインドを置けるか?」

 

そう言いながらヒイロが指差したのはなのはが立っている場所からそれほど離れていない場所だった。一度ヒイロが指を刺した場所を見たなのはは不思議そうに首を傾げた。

 

「あそこにですか?別にいいですけど…………」

 

振り向きながらも承諾したなのははヒイロが指定したポイントにトラップ型のバインド用魔法陣を展開した。それを確認したヒイロは再び目の前の茂みに視線を下ろすと、自身も片膝をつくような態勢を取った。

 

「……………そこにいるのはわかっている。ケガはないか?」

 

ヒイロが声をかけた茂みから返答はない。見かねたなのははヒイロに近寄ろうとした瞬間、突然茂みがガサガサと音を立てながら揺れ始め、そこに何者かがいることを暗示させる。

 

「え…………!?」

「この建物を取り囲むように人員が立っているのも、ただ単に幼いお前を心配しているだけだ。だから、ここにお前に危害を加えようとする奴はいない。」

 

驚いた声を上げるなのはを尻目にヒイロは淡々と茂みに声をかける。だが、心なしか穏やかなトーンが入っているような声が茂みの中にいる存在に届いたのか、もう一度大きくガサガサと茂みが揺れる音が響くと、そこから大事そうにウサギを模したぬいぐるみを抱えた少女の姿が現れる。

フェイトと同じような金糸のような髪を腰回りに伸ばした少女はその翡翠のような緑とルビーのように紅いオッドアイの瞳を怯えさせていた。

 

「……………ケガはないようだな」

 

怯えた目線を向けている少女に対して、ヒイロは少女の体に傷がないことを確認する。

少しの間、怯えた目を見せる少女と見合っていたヒイロだったが、不意に目線を外し、立ち上がった。

そして、体をなのはがいる後方に振り向く。少女を自身の足で見えづらくなるようにしている姿は守るように立ち塞がっていることを想起させる。

 

『ごめんなのは、ヒイロさん!!シスターシャッハがーーーー』

 

直後、ヒイロとなのはの脳内にフェイトからかなり焦ったような口調で念話が響くと中庭にトンファーのような形状をした双剣型のデバイス、『ヴィンデルシャフト』を両腕に構えたシャッハが降り立つ。

 

「ああ、わかっている」

「えっ!?えっ!?ええっ!?!?」

 

変わらない抑揚で答えるヒイロに対し、なのはは3回ほど驚いた声を出しながら視線を右往左往させる。三回ほど驚いた表情を見せたのもそれぞれに反応していたためである。

 

一つ目は突然武器を構えたシャッハが現れたこと

 

二つ目はそのシャッハが中庭に降り立った位置がまさにヒイロから言われてなのはが設置型のバインドを仕掛けた場所であったこと

 

そして三つ目はそのバインドを仕掛けさせたヒイロがいつのまにか右手に展開していたバスターライフルの一丁をシャッハに向けていたことだ

 

 

「ッ……………!?」

 

中庭に降り立った瞬間にヒイロから銃を向けられるという異常事態に思わずシャッハは身構えてしまう。その瞬間、シャッハの詰みが決まってしまった。

 

「バ……バインドッ!?」

 

予めヒイロに言われて仕掛けた設置型のバインドが起動し、シャッハの体を縛り上げ、その場で拘束をした。

 

「シャ、シャッハさん!?」

「た、高町教導官………これは………!?」

 

自分を縛り上げているバインドは桜色をした魔力光だ。その色の魔力をもつものはこの場ではなのはが該当する。そのためシャッハはなのはに状況の説明を求めるが、肝心のなのはが困惑気味に狼狽ているため、シャッハ当人も困惑色に表情を染め上げる。

 

「……………お前の行動パターンは解析済みだ。そのデータを通したゼロの予測ではお前はこの子供に危害を加えると出た。だからなのはに予めゼロが予測したポイントにバインドを仕掛けさせた」

 

バインドに縛りつけられ、身動きの取れないシャッハにヒイロは向けていたバスターライフルを下ろした代わりに細めた目線を向ける。その目はさながら失望していると言わんばかりのものであった。

 

「信者の言葉を聞き届けるのが役目の聖職者と聞いて呆れる。やはり本質は管理局とそう変わらないらしいな。市民に対して害を成す可能性があることを建前にして、力を振りかざす。それはただやたら無闇に力を振りかざしている馬鹿と同等だ。」

「ッ……………!!で、ですけどその子はーーーーー」

「危険かどうかを決めるのは少なくとも他人ではない。コイツ自身が決めることだ」

 

シャッハが言おうとしたのは、ヒイロの側にいる子供が人造生命体であること。ましてや聖王の遺伝子をもとにしたクローンなど、どんな危険が潜んでいるかなど想像つくものではない。

 

つまり、将来的に自分たちに多大な害を及ぼす可能性がある。だから比較的おとなしい今のうちに処理しておく必要がある。シャッハが言わんとしていることはそういうことだ。

 

それを察したヒイロは一層鋭い目つきでシャッハを睨みつけながら二の句を告げさせないように遮った。

 

「お前が手にした力は、何もできない弱者をいたぶるために手にしたものか?仮にそうだとすれば極めて度し難いが、俺が相手になってやる。」

 

そう言ったヒイロの表情はいつもの如く鉄面皮な無表情であった。しかし、佇まいから滲み出る気迫は彼が確実に怒りなど、それに順ずる感情を抱いていることを否が応でも察せざるを得ない。

滅多に見ないヒイロの明白な怒り形相になのはは思わず息を呑み、ヒイロとはじめて顔を合わせてからまだ日の浅いシャッハでさえも冷や汗のようなものを流していた。

 

「ヒイロさん、やめて!!それ以上は後ろの子が!!」

 

そんな時、事態を見かねたのか、二階の窓から飛び降りながら、フェイトがヒイロに静止の声をかける。その声にわずかにハッとしたような表情を見せたヒイロは自身の背後にいる少女に目線を向ける。

 

少女の体はこの場の緊迫感に耐えかねたのか、恐怖からか、体がプルプルと震え、竦み上がっていた。それを見たヒイロは微かにだが舌打ちをした。それは目の前の少女に対するものか、それとも自身の浅はかさを戒めるものだったのか定かではない。

 

しかし、ヒイロは少女から距離を取り、その場から離れることを選択する。

 

「あとはお前たちに任せる。俺はこの場にはいない方がいいようだ」

 

吐き捨てるようにそれだけなのはたちに言葉を残すと少女の隣を通り過ぎ、足早と帰っていった。

 

「ぁーーーーー」

 

少女とすれ違った時、何か言いかけたのを耳にしなかったわけではないが、少しでも早くこの場から離れたかったヒイロは立ち止まるようなことはしなかった。

 

 

(なのは、とりあえずあの子の元へ向かってくれる?)

(う、うん。わかった)

 

ヒイロがその場から立ち去り、残されたなのはたち。

ひとまずフェイトが固まっているなのはに少女の面倒を念話で頼むと、バインドにかけられっぱなしのシャッハに駆け寄り、縛っているバインドを解いた。

 

「ッ…………す、すみません。ご迷惑を、おかけしました………」

 

フェイトにバインドを解かれたところでようやく緊張から解放されたシャッハは額から汗を流し、憔悴した口調でフェイトに謝罪を述べる。

 

「いえ…………その、大丈夫………ですか?」

 

気まずそうな表情を見せながらフェイトはおずおずとシャッハに容態を尋ねた。それにシャッハは取り乱したり、恐怖の入り混じった怒りをぶつけるわけではなく、ただただ乾いた笑みを見せる。

 

「……………非才の身でありながら、様々な現場に赴いてきましたけど、本気で殺されると思ったのは初めてです」

「ヒイロさんは………いつもは怒りどころか、あまり感情を表に出さない人なんです。それがどうして突然ーーーーー」

「おそらく、私が彼の中で特段の地雷を踏んでしまったからでしょう…………言わずもがな、あの女の子なのでしょうが…………」

 

重い表情をしながらシャッハは視線の先に少女の姿を見納める。ヒイロが怒りの形相を露わにしたとはいえ、それが直接自身に向けられているものではないと本能的にわかっていたのか、なのはの応対にぎこちないものこそあれど、しっかりと答えていた。

 

「……………本人のいないところで尋ねるのは失礼ですが………彼は、何者なんですか?あの気迫だけで察せられる尋常ではない強さ………常人ではとても……………」

「ヒイロさんは……………ずっと戦ってきた人です。私達がやっていたのが、子供遊びに見えてしまうほどに、苛烈で、凄惨な…………」

「そう……………ですか」

 

ヒイロの為人をフェイトから聞いたシャッハはもう一度なのはと話している少女に目線を向ける。なのはと話している少女はスカリエッティ、ないしはその人物に関係する一派によって作られた人造生命体だ。しかもその利用された遺伝子の素体はかつての戦争を終結させた聖王その人。

そんな戦争一つを終結に持っていった強大な力を持った人物のクローンなど危険以外の何ものでもない、そう思っていたが、今の少女の対応を見るに、その危険が迫ってくるようには見えないのが正直なところであった。しかしーーーー

 

「持った力が危険かどうか他者が決めつけることではない、か」

 

その人物が力を危険だと思ってしまえばそれまでだ。しかし、ある人物が利用できると思ってしまえば同じようにそれまでの話。結局のところ力とは使い方次第でその在り方を大きく変える。

なのはの砲撃魔法がその最たる例だ。彼女がその使い道を護りたい人たちのために使っているが、一度その矛先を変えてしまえば、一瞬にして災害を引き起こす。そしてそれは聖王のクローンの少女がもっているかもしれない力もその例に当てはまる。

 

力とはその程度のものなのだ。決して尊ばれるものでもないし、ましてや悪用するものでもない。過ぎた力は新たな混乱を引き起こすだけ。

 

(………………一回、自分の中で整理をつける必要がありますね………実際、危険な力を持っていたとはいえ、いたいけな少女に武器を向けるなど、流石にーーーー)

 

シャッハはそう心の中で一人呟いた。

 

 

 

 

「えっと、ひとまず君の名前はヴィヴィオ……でいいんだよね?」

「……………うん」

 

フェイトの言葉に聖王のクローンである少女、ヴィヴィオは静かに頷く。まだフェイトたちに対して心を開き切っていないことの証左なのだろうが、それでも何も語ってくれないよりはいいだろう。

結局のところ、ヴィヴィオは機動六課で引き取ることとなった。しかし、機動六課自体、期限つきの部隊であるため、ヴィヴィオを預かってくれる里親が見つかるまでの間だが。

一応、その形で話が固まったことでなのはたちはヴィヴィオを連れて隊舎へと戻ることにした。

 

「あれ…………ヒイロさんがいない?」

 

敷地内に止めたフェイトの車まで戻ってきたなのはたちだが、その車の近くにヒイロの姿はなかった。不思議に思ったなのはが辺りを見渡すもヒイロの姿をかけらも見つけることもできなかった。

 

「どこ行ったんだろう…………車の中にもいないし……………」

 

車内を覗き込むも、そこにもヒイロの姿がないことに訝しげな表情をみせるフェイト。

 

『ヒイロ殿なら、車にいますよ』

『反応自体は見られますし、おそらくはヴィヴィオに対する配慮なのかと』

 

そんな時、二人のデバイスであるレイジングハートとバルディッシュからヒイロの反応が車からしていることを告げられる。そのことに一旦は首をかしげる二人だったが、自身のデバイスからの発言を無碍にはできないため、そのままヴィヴィオを後部座席に乗せ、隊舎へと戻っていった。

 

だが、レイジングハートたちは決してヒイロが()()にいるとは一言も言っていないことに二人が気付くことはなく、そのまま何事もなく隊舎へと戻っていった。

 

 

 

 

「じゃあ、なのははヴィヴィオを先に下ろして戻っていて。私は車を戻してくるから」

「わかったの。じゃあまた後でね」

 

隊舎に戻るとフェイトはなのはとヴィヴィオを隊舎の玄関で下ろし、車を所定の場所に戻しにいった。

 

「さて…………あとは」

 

車を車庫に戻したフェイトは鍵を閉める前に視線をある場所に向ける。それは車の後方にあるトランクだ。フェイトは車の後ろに回り込むと、取手に手をかけ、トランクの扉を持ち上げる。

 

「ヒイロさーん?もういいですよー……………ってあれ?」

 

てっきりヒイロはトランクにいると思っていたフェイトだったが、トランクの中は間抜けの殻であり、ヒイロがいたと思われる痕跡も一つもなかった。

 

「い、いない………?ねぇ、バルディッシュ、本当にヒイロさんは車にいるんだよね?」

『そうですが。もっとよく探しましょう』

 

予想していた展開と違うことにフェイトは眉を潜めながら自身の相棒に再び問い詰めるが返ってくる答えに変わりがないことに思わずフェイトも首をかしげる。

そんな時、思考をしていたフェイトの耳に何かを引きずるような音が入ってくる。

 

「え…………何なの、この音」

 

突然の物音にフェイトは体を強張らせるが、そこは執務官としての矜恃なのか、冷静に物音の音源を探る。

 

(これ…………車の下から?)

 

何かを引きずる音ーーーー具体的には布を擦り付けているような異音はフェイトの車の下から響いてきていた。その事実がフェイトにとある確信を抱かせる。しかし、あまりにも常識外れな行いに思わずフェイトは車の下に向かってーーーー

 

「あのー…………ヒイロさん?先に車を動かします……………か?」

 

声をかけた。本来であれば返ってくるはずのない車の下に向かっての声がけ。

 

「頼む」

 

しかし、返ってきてしまった。しかもヒイロの声で。それを聞いたフェイトは顔を青くしながら急いで車のエンジンをかけ、一度車庫から出した。

すると先ほどまで車があった場所に仰向けになっているヒイロの姿が現れる。

 

「何やってるんですか、貴方はッ!?!!?」

 

車の車体にしがみ付いていたと思われるヒイロにフェイトはギョッとした顔をしながら駆け寄った。

 

「問題ない。ダメージは受けていない」

「もう、心配したんですからね!!」

 

平然と立ち上がるヒイロにフェイトは怒っているように彼に詰め寄りまくし立てる。実際ヒイロは傷一つ負っていないのだが、それでも心配なものは心配なのである。

 

フェイトがヒイロからなぜ車の下にいたのか聞き出すと、ヒイロは病院からずっと車の下にしがみ付いていたらしい。しかも若干荒々しい運転をするフェイトがハンドルを握っている時にも関わらずだ。

 

「少し気まずいことがあったからヴィヴィオと顔を合わせづらい気持ちはわかりますけど、車高の低いスポーツカータイプの車の下に潜り込むのはやめてください!!貴方の身に何かあったらどうするんですか!?常識的に考えてせめて後ろのトランクにしてください!!」

「…………………了解した」

「いや…………車のトランクに入るのも些か常識的ではないような気がするのだが…………」

 

 

二人のやりとりに呆れたように肩を竦めるアインスだったが、それが聞き届けられることはなく、虚空に消えていった。

 

 

そのヴィヴィオを機動六課の隊舎に迎えてから二日後。特に出動の連絡もなかったため、ヒイロは暇を持て余し気味になっていた。なのは主導の、スバル用の特訓機器の調整も最終段階に入った上、シャーリーからの個人的な頼みに対してもやる事が少なくなったため、食堂で時間を潰す事が多くなっていた。

 

(ユーノからの連絡もない以上、情報を整理する必要もない。完全に手持ち無沙汰だ)

 

しかし、そんないわゆる平和な時間の間で変わったことが一つあった。

 

「ーーーーーーー」

 

入り口からそれなりに聴き慣れた声が聞こえ、そちらに視線を移すヒイロ。案の定予想通りの人物が立っていた。

 

「もう………ダメですよ、ヒイロさん。少しは構ってあげないとーーーー」

「………………勝手にそう呼んでいるだけだ。俺がそれに応える道理はない」

「でも、貴方がいないとわかった途端、とてーも不安そうな顔していましたよ?」

 

現れたなのはにヒイロはわずかに鬱陶しさを感じていることを示すように眉を潜めた表情を向ける。対するなのはも若干おどけたような口ぶりだが、表情にこそ微妙なものが含まれていた。そして、彼女と手を繋いで、傍らに立っていたヴィヴィオがトテトテとヒイロが座っている席に近づくとーーーーー

 

()()ーーーーー!!!」

 

満面の笑みを輝かせながら手を大きく広げ、ヒイロに抱っこをせがむヴィヴィオ。結論から言うとヴィヴィオはなのはのことを『ママ』と呼び、ヒイロのことをどういうわけか『パパ』と呼ぶようになった。

これがこの数日で変わってしまったことであった。

 

しばらく白けた目でヴィヴィオを見つめるヒイロであったが、最終的に根負けし、膝の上にヴィヴィオを乗せる羽目になった。

 

 




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