魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 作:わんたんめん
「ハァァァァァァ!!!!」
マッハキャリバーのローラー駆動音を響かせ、右手のリボルバーナックルを振りかぶったスバルがヒイロに突撃を仕掛ける。その後ろから出遅れたギンガが続くも、その遅れを取り戻そうとはせずにヒイロの出方を伺っているようだった。
(…………この人が高町教導官を………!?とてもじゃないけど、魔力も少ない………どころか、そもそもとして魔力そのものがないのにどうやって………!?)
それもそのはず。直前にスバルがギンガに向けて言い放った、ヒイロがなのはを倒したという言葉。ただでさえ常人を遥かに越した魔力を有しつつ、魔力スフィアを正確無比な精度で操り、さらに馬鹿にならない威力の砲撃魔法を使用する、まさに移動要塞の肩書きを思うがままにしているなのはを打ち負かせるというのはギンガには中々すんなりと受け入れられないことであった。
(ギンガ・ナカジマはこちらの出方を推し量る気か。ならばーーーー)
一瞬だけギンガに目線を向けたヒイロだが、すぐさま目の前に迫ってくるスバルに視線を戻す。リボルバーナックルを振りかぶったスバルは勢いそのまま、自身の持てる全力をヒイロにぶち当ててくるようだ。
「デヤァァァ!!!」
振りかぶった拳を力強く握りしめ、乾坤一擲、眼前のヒイロにリボルバーナックルを振り抜く。その拳には『ナックルダスター』とよばれるスバルの圧縮された魔力が付与されており、まともに食らえば、貰い物のなのはの魔力を見に纏ったバリアジャケットの真似事程度の防御では、タダではすまないだろう。
「……………」
その攻撃をヒイロは避けることなく、真正面から受け止めた。それでもスバルの振るった拳の勢いは凄まじく、衝撃波がヒイロの真後ろに吹き荒れていったが、ヒイロはその上を行くかのように右手一本でその拳を完全に受け止めていた。その証拠にあれほどの衝撃が伴う攻撃を受けても、ヒイロの体はそこから一歩も動いていなかった。
『お前はまたとんでもないことを……………結構威力あっただろうに………』
「ッ…………!!」
「な…………そんな…………!?」
ヒイロの脳内にアインスの頭を抱えたような呆れ声が響くが、そんなことは歯牙にもかけずヒイロはスバルの攻撃を空いていた左手を右腕に添え、支えとして活用し、スバルの拳を受け止めた。魔力ブーストの伴った全力の攻撃が事実上片手で止められたことにスバルは歯噛みする表情を見せ、ギンガは驚きのあまり目を見開いた。
「……………」
「ッーーーーあーーーー」
その一瞬の隙をヒイロが見逃すことはなく、止めた右手でそのままスバルのリボルバーナックルを掴むと右腕を引き寄せ、スバルの態勢を前のめりにさせて崩す。
「加減はしてやる。だがーーーーー」
ヒイロがスバルの体を引き寄せたことにより、必然的に2人の距離は物理的に近くなると耳打ちに近い形にスバルに語りかけるヒイロ。
「一つだけ忠告がある。死ぬほど痛いぞ。」
その瞬間、ヒイロは振り絞っていた左腕を、腕を引き伸ばされたことでガラ空きとなったスバルの右脇に向けて勢いよく前へ突き出した。引き寄せた右腕と入れ違えるように振り抜いたため、しっかりと力が入っていたわけではない。それでもヒイロの人外に片足突っ込んだ筋力ではそれだけでもスバルを吹き飛ばすには十分であった。
「ッカッハッ?!!」
脇腹にめり込んだ拳から生じた鋭い痛みに思わず肺から空気を吐き出し、表情を歪めながら吹き飛ばされるスバル。その吹き飛ばされた先にはギンガの姿もあった。
「ッーーーーーーー」
元々の戦闘スタイルがスバルと同じ近接よりだったため、近づかざるを得なかったギンガ。それが災いしたのと、吹っ飛ばされたスバルをどうするかで判断が遅れた
のが相まって回避が遅れ、飛ばされてきたスバルに衝突、揃って地面を転がり回る羽目になった。
「あのー………ヒイロさん?2人はこの後マリーさんの定期検診がありますから、怪我はさせないでくださいね?」
「………………」
吹き飛ばされた2人を見て、少し離れたところから観戦していたシャーリーは青ざめた表情をしながらヒイロにそう忠告するも、そんなこと知ったことではないと言うようにヒイロは何か言葉を返すような様子を一切見せず、ただその場から動かずに突っ立っていた。
「ゲホゴホッーーーーーーウゥ」
脇腹だったとはいえ、腹部に強烈な一撃が入ったスバルは胃の内容物を戻しかけたのか口元を手で覆い、呻き声を上げながら蹲っていた。
「貴方…………何者なんですか?」
「……………機動六課に協力している民間協力者だ。立場としては一般の人間と変わりはない。」
「そういうことを聞いてるんじゃないですけど。」
倒れ伏したスバルを庇うようにギンガはヒイロと相対する。しかし、その表情はどこか苦悶に満ちており、少なからずスバルと衝突したダメージが残っているようだった。
(でもスバルの攻撃を何か魔力的な補助がかけられていない片手で止めてしまうほどの筋力量…………明らかに民間の出ではありえない。まさか、私やスバルと同じ戦闘機人?)
「来るならこい。それがなのはから頼まれたことだからな。」
ヒイロに関して自身の脳内で考察を走らせるギンガだったが、改めてヒイロが仕掛けてくるように指示すると、自身の左手のリボルバーナックルを構えると、両脚のローラースケートから紫色の魔力で編まれた『ウイングロード』を展開。
紫色の帯がヒイロの上空を疾走し始めると、その上をギンガが追うように滑走する。
その様子をヒイロは特に行動を起こすことなく下から眺めていた。
『ウイングバインダーは使わないのか?』
「どうであれ近づいてくるならこちらから動く必要性を感じない。それにーーーー」
『あくまで彼女らのスパーリングの相手だから、だな?』
ウイングゼロの主翼は使わないのかというアインスの指摘にヒイロが使う必要がないと返すとそう返されるのがわかっていたような軽い笑みを浮かべているのが想像にたやすいような声を残して引っ込んだ。次の瞬間、ヒイロは左腕を肘から曲げ、右腕を支えるように添え、左側からの攻撃から胴体を守るように構えると、背後からヒイロを強襲してきたギンガが左脚でローキックを放った。
「ッ……………」
背後からの襲撃だったため、避けることはせずに防御したヒイロだったが、ギンガの蹴りの威力もスバルの拳とそう威力が変わらず、衝撃でヒイロの脚が地から浮き、吹き飛ばされる。
しかし、ヒイロは体が宙に浮いた瞬間に衝撃を活用して体を上下に半回転させると防御に回した腕を地面につけ、スプリングがわりにすると、曲芸士のようにロンダートを行うと、何事もなかったようにギンガと相対する。
『結構な威力だったぞ……………高町の魔力が防御にも特化しているとはいえコンデンサー内の魔力が一割持っていかれた。』
「そう何発も浴びるわけにはいかないということか。」
ヒイロも自身の状況から怪我らしいものは負っていないことを認識するもアインスからの報告にコンデンサー内の魔力に気を測らないといけないことも認識する。
『というよりだな……………彼女、結構本気でヤリに来てないか?』
「…………生半可な気持ちで来られるよりはマシだ。」
若干の困惑が入り混じったようなアインスにそれだけ答えるとヒイロは追撃を仕掛けに肉薄してきたギンガを迎え撃つ。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ヒイロにスバルをぶん殴られたことが彼女の中でちょっとした怒りになっているのか、中々容赦のないラッシュをお見舞いする。
その怒りのラッシュから繰り出される蹴りや拳をヒイロは変わらない澄ました顔でいなしたり受け止めたりして流していくが、彼女の左手に装着されたリボルバーナックルだけは明確に避けるようにしていた。アインス曰く、最初のスバルのリボルバーナックルの一撃を受け止めたのと、ギンガの蹴りで既に七割を下回りかけているとのことらしい。
これに至っては無理もない話である。いくらなのはが豊潤な魔力量を有しているとはいえ彼女のリンカーコアそのものを拝借しているわけではない以上、その絶対数は大いに下落してしまう。
「…………………」
流石にヒイロもスパーリングの相手をするとは言え、いつまでも防御しているだけでは意味がないため、反撃に出る。
ギンガのラッシュがまだ続く中、ヒイロは右腕を掬い上げるように下から上へ振り払う。そのタイミングはギンガのリボルバーナックルが振るわれている最中だった。
その掬い上げられた腕はギンガのリボルバーナックルの部分を避けて、前腕部にあたると大きく真上にかち上げさせる。
「ッ………………!?」
今の今までリボルバーナックルの攻撃を避け続けていた中の反撃に思わずギンガは目を見開き、反動で後ろに引き下がってしまう。
その一瞬の隙に、ヒイロは左腕の拳を前に突き出しながら、空いた間合いを詰めに前進する。
反撃を避けられないと判断したギンガは腕をクロスして防御の構えをとるがそれに構わずヒイロは脚で大きく地面を踏みこみながら突き出した腕をクロスされたギンガの腕にぶつけた。
(お、重ッーーーーいや、どちらかと言えば、衝撃が伝わってーーー)
ヒイロの筋肉質とは言え、大人と比べればまだまだ細いはずの腕から放たれた想像以上に重く、鋭い痛みはぶつけられた箇所から衝撃が腕全体へと広がっていくとたまらず衝撃を流すために大きく後ろに吹っ飛んだ。
「……………こういう武術関連は
ヒイロがやったのはいわゆる中国系の武術における発勁という技だ。全身の力を構えた拳一点に集中させる武術であり、元々は少ない力で相手を吹っ飛ばす技なのだが、精通していないとはいえ、そこら辺の軍人ですら涙目の身体能力や筋力を持っているヒイロがやると手加減込みでもとんでもないものとなる。
(こ、この人…………本当に強いッ…………何をしても攻撃をいなされるし、少しでも隙を晒せば即座にそこをついてくる…………なんて反応速度と対応力なの!?)
地面に転がされたギンガが荒い息を吐きながら視線の先で疲れた様子もなく無言で佇むヒイロを見据える。
(デタラメすぎる…………なんなの、この人…………!?)
世界に広がる理不尽さを凝縮させ、それを目の当たりにしてしまったかのような目でヒイロを見据えるギンガ。
(この人は………完成している………戦士として…………
ギンガの中で畏怖のような感情が渦巻き始める。自身より戦う者として遥か高みにいる人間に対しての敬意とその高みにいる人間だからこそ発せられる気迫に対する恐怖。それが彼女の中で入り混じる。
だが、だからこそ、自身に問いかける。己が戦うようになったのは何のためにと。
思い返すのはある日の空港での光景。元々陸士としての将来を見据えていた彼女だったが、スバルとともに父親であるゲンヤ・ナカジマ、とは言っても厳密にいえば正真正銘の父親ではないのだが、ひとまず彼の元へ遊びに行こうとした最中、港内で爆発が発生し、パニックになった内部でギンガはスバルと離れ離れになってしまう。
姉として、家族として、スバルの身の安全が不安になった彼女は単身燃え盛る空港内部を捜索する。しかし、戦闘機人とはいえ、まだ幼かった彼女では到底見つけることは出来ず、あろうことか自身の身を危険に晒してしまう。
すんでのところで彼女を救出したのは、執務官として名を上げ始めていたフェイトだった。
その出来事があってからギンガはより一層陸士としての訓練に励むようになった。大事な家族を、何より妹のスバルをこの手で守るために。
(スバルを
「だったら、やれることをやるまで!!!」
決意を新たにしたギンガは開幕早々に足元の地面に向けて魔力ブーストがかけられたリボルバーナックルを叩きつけ、砂埃を巻き上げ、一時的にヒイロの視界から消える。
(目眩しか…………?)
舞い上がられた砂に思わずヒイロは目を閉じるが、慌てるような様子は一切見せずに、落ち着いて、それでいて砂埃から出た瞬間の奇襲を警戒しながら範囲から逃れる。
「ハァァァァァァッ!!!」
砂の煙幕を抜けた先での奇襲を警戒していたヒイロだったが、ギンガが現れたのは煙幕を抜けた先ではなく、煙幕の中から、つまりギンガはわざわざ煙幕を建てたのに、真正面から突っ込んできたのだ。
「ッ…………やるな。」
ギンガの行動に軽く表情を渋いものに変えるヒイロだったが、まだ対応しきれないほどまでに詰め寄られたわけではないため、迫りくるギンガのリボルバーナックルを右手のガントレットで押しとどめる。
『魔力残量、5割を切ったぞ!!』
ギンガの拳とヒイロの腕が鬩ぎ合い、アインスの声が響く中、ヒイロの耳はある音を捉えていた。それは何かの駆動音、具体的に言えば、ローラーのようなものが動いているような機械的な音であった。一瞬ヒイロはその音源をギンガのものかと思っていたが、音自体は別の方向から聞こえてきていたため、瞬時にその考えを投げ捨てる。
ならば、この場に置いてそのような音を響かせられるのは1人しかいない。
「でぇああああああああ!!!!」
空気が震えるほどの声を張り上げながら水色のウイングロードを駆け抜けながらヒイロに迫るのは一撃で沈めたはずのスバルだった。
「!!」
そのうちスバルが復活することは想定していたヒイロだったが想定より早い上にギンガの対応に追われているタイミングでの復活にヒイロはここに来て初めて険しい顔を見せる。
「ディバインーーーーー」
スバルは右手のリボルバーナックルに魔力スフィアを生じさせるとその球体を急激に肥大化させる。
『まさかーーーー砲撃魔法ッ!?』
「バスタァァァァァァァァッ!!!!!」
アインスが目を見開きながらの驚いた声が上げられた瞬間、振り絞った右手を突き出し、なのはの代名詞でもある砲撃魔法、ディバインバスターを撃ち出す。しかし、それは本家より線の細い、見るからに貫通力の高められた代物に調整されていた。
「ッーーーーー」
ギンガの対応に意識を取られていたヒイロは避けることもままならずに水色の閃光の直撃を受けると辺り一面を爆煙がヒイロとギンガごと覆い隠した。数瞬して、爆煙の一箇所が膨らむとそこからギンガが現れ、スバルの隣に降り立った。
「や、やったのかしら…………?」
確実に直撃はしたはずだが、まだ油断はできないと感じていたギンガは怪訝な表情を浮かべ、隣にいるスバルに声をかける。そこにはどこか青ざめた表情を見せているスバルの姿があった。
「ど、どうしよう。あとでティアとかに何か言われないかな…………?」
「ど、どういうこと………?」
何故そこでティアナの名前が出てくるのか、まだ六課に来てから日の浅いギンガは首をかしげる。
「……………スバルの復活が俺の想定より早かったな。」
「あ、あはは…………まぁ、頑丈さには少し自信がありますから………死ぬほど痛かったのは嘘偽りないですけど。」
爆煙から黒い人影のようなものゆらぐとそこから無傷のヒイロが現れ、ギンガは思わず拳を構えるが、直後のスバルの苦い表情を見せながらも気の抜けた会話に脱力してしまう。
「……………お前たちの勝ちだ。」
まだ続けるのだと思っていた2人だったが、突然のヒイロの降参宣言に2人は拍子抜けした表情を見せる。
「えっと、どういうことですか!?」
『まぁ一言でいうなら、ガス欠だな。』
困惑気味に詰め寄るスバルにアインスが出てくるとかわりにその理由を語る。
「もしかして………そのガントレットの中の魔力、切れたんですか?」
『スバルが放った砲撃魔法なのだが、あれをヒイロは残していた左手で防いだ結果、コンデンサー内の魔力がなくなってしまったのだ。』
「コンデンサー内の魔力が切れれば、俺はそこら辺の人間と変わりはない。リンカーコアがないからな。」
ヒイロが降参の声を上げた理由を推察しながらギンガが近寄ってくると、アインスはコンデンサー内の魔力がなくなったことを残念がるかのように肩を竦ませ、ヒイロは魔力がない以上、自身がただの人間と相違ないことを語る。
(いや…………貴方のような人がただの人間の枠組みに置いていいはずがないでしょう。)
ヒイロの言葉にギンガは思わずそうツッコミを入れたくなったが、なんとか口を噤んだ。
『他にも単純にヒイロに怪我を負わせれば、乙女達が後が怖いからな。』
「そ、それは全く持って同意です…………」
「どういうこと?」
アインスのボカしたような言い方にスバルがうんうんと頷き、ギンガは首を傾げる。
(まぁ…………この人の周りにいれば何となくわかるよ、うん。)
送られてきたスバルの念話にギンガは一層眉を潜めるのだった。
「……………何の話だ?」
「うわ、これはティアも大変そうな人を目にかけちゃったなぁ〜……………」
スバルの引き気味の声にヒイロもギンガと似たように眉を潜めた。
「あの〜…………ちょっといいですかー?」
会話をしていたところにおずおずとした様子でシャーリーが加わってくる。全員の目線がシャーリーに注がれると彼女はある一点を指さした。その先にはギンガがヒイロの視界を潰すために殴りつけた際に生じたクレーターがあった。
「ちゃんと直してくださいね…………?ここは沖合のシミュレーターとは違うんですから……………」
「えーと………はい。私が直しておきます……………」
シャーリーの気が引けているような様子に実行犯であるギンガも申し訳なさそうに手を上げ、修繕作業に入った。
「ギン姉、私も手伝うよ。」
「いいの?これ、私が壊したのよ?」
「いいの!!」
そう言ってスバルは笑みを浮かべながらギンガの修繕作業を手伝い始める。その様子をヒイロは少し離れたところで傍観していたが、数分すると作業を進める2人に近寄りーーーーー
「……………手を貸してやる。効率的な作業の進め方を提示しろ。」
自身も作業の手伝いを名乗り出るのだった。
暴力じゃない!!教育と言え!!by社畜(CV社長)
社長なのに社畜の声当てするってこれ訳わかんねぇな