魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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暑さのせいで執筆意欲ががががががが




第71話 進む時間は止まらず、加速するのみ

「……………追跡、及び戦闘機人の拿捕は失敗したらしい。妨害にあった。」

 

「もしかしてさっきのビーム攻撃?」

 

報告しにきたヒイロに同じ部屋にいるフェイトが確認ついでにそう尋ねるとヒイロは無言で頷いた。

 

「…………今のも貴様の世界の代物か?」

 

「少しは頭が冴えてきたか。もっとも全てが明らかになっているわけではないがな。」

 

「ヒイロさん…………言い方に、トゲがつきまくりだよ……………」

 

フェイトがいるということはヒイロから言われて彼女が連れ出したレジアスもその部屋にいた。その彼の言葉にヒイロは毒を交えて返したことにフェイトは頭を抱えながらため息をついた。

 

「申し訳ありません、レジアス中将…………彼は、その…………」

 

「…………気にせんでいい。儂にとやかく言う資格はないのだからな。」

 

ヒイロの不遜な言い方に代わりにフェイトがレジアスに謝罪の言葉を述べるが、レジアスは少しばかりやつれたような顔でそれを流した。

 

「……………だが、一つ聞きたいことがある。」

 

「なんだ?」

 

そう言うとレジアスは座り込んでいたソファから立ち上がり、ヒイロに向き直った。それにヒイロは怪訝な表情を見せながら問いかける。

 

「貴様の世界では今のようなビームによる攻撃は当たり前なのか?」

 

どうやらレジアスは今のビームによる襲撃がヒイロの世界にあるものによる攻撃であることを察したらしい。

 

「ああ。それは俺がいた世界では当たり前の光景だった。さらに俺が使用している物のようにワンオフのものではなく、量産体制が整った兵器にもあのクラスの出力を出せる兵器はいくらでも存在している。」

 

当たり前というように平然と言葉を返すヒイロ。その言葉にレジアスは俯き、無骨な表情がさらに険しくなり、神妙な面持ちを見せる。

 

「……………全ては、人の命を作るという禁忌に手を出した儂の業か。」

 

「…………その業を背負うというのであれば、お前がやるべきことは、すでにお前自身の中で明白になっているだろう。」

 

「…………スカリエッティと、戦うことか。」

 

「覚悟を決めろ。そうでなければ、お前が本当に守りたかったものまで失うことになる。」

 

ヒイロの言葉にレジアスは視線だけ向けることで反応を示すと再び俯くような姿勢をとった。

ヒイロもレジアスがミッドチルダに住まう人々の安全を守るために様々な場所に働きかけていたのはわかっていた。魔力がなかろうと、誰かを守りたいという意志は同じ。だが、実力というはこの次元世界では残酷なほどに現実を突きつける。それが、後天的にどうなるものではなく、完全に生まれ持ってでしかならない、先天性の、いわゆる才能と呼ばれる覆せないもので。

だからレジアスはその覆しようがないコンプレックスから人の道を外れたのをヒイロは察していた。

 

「お前が間違っていたのは、手法だけだ。それ以外であれば、むしろ俺はお前と同意見だ。地盤が脆弱なままでは、何も護ることができないからな。」

 

だからヒイロはレジアスを殺すなどという手段ではなく、その手法を正すことにしたのだ。

 

「……………」

 

レジアスはヒイロのその言葉を聞いたのち、その俯いた顔のまま部屋の扉の方へ歩き始める。歩く彼の横をすれ違ったヒイロとフェイトはそれぞれ無表情と不安そうな顔つきを浮かべるとレジアスの背中を視線で追う。

 

「……………貴様達の部隊長に追って連絡するが、今回の査察でお前達機動六課の部隊運営はさしたる問題はないことがわかった。」

 

「魔力換算オーバーSランクによる攻撃もやむを得ない事情によるものであり、秘匿されていたことではなかった。」

 

「だが、お前達は実験部隊だ。何かあれば即刻解体されることを肝に銘じておけ。」

 

 

それだけ二人に言いつけるとレジアスは部屋から出て行った。

 

 

「…………今のは………?」

 

「アイツなりの礼だろうな。」

 

フェイトは隣にいたヒイロに目線を向けながら首を傾げるとヒイロは即座にそう言葉を返した。

 

「よ、よかった…………………」

 

張り詰めた状況から抜け出したことに安堵したのか、フニャっと崩したような笑みを見せるフェイト。

 

「…………まだ話を切り上げるには早い。なのはの砲撃を妨害したビームの詳細について調べる必要がある。」

 

「………ヒイロさんは今のビームはもしかしてビルゴの………?」

 

「………いや、ビルゴには大気圏内での滞空を維持できるほどの推力はない。あのビームは水平線の向こうからの攻撃だったからな。」

 

「じゃあ…………もっと別の何かによるもの?」

 

「情報を確認していない以上、結論を出すことはできない。行くぞ。」

 

査察を無事に乗り切ったとしても気が休まる暇はだんだんとなくなってきている。そのことを察したフェイトは部屋を出て行くヒイロの後を追うようについて行った。

まず向かった先は部隊長室。事態を把握しているはずのはやてが先ほどのビーム攻撃に対する会議を行うと踏んで、二人は彼女がいるであろうそこに足を運ぶ。

 

 

 

「ヒイロさん…………まずはお疲れ様やな。大丈夫やった?」

 

「クロノに伝えておけ。レジアスはスカリエッティと戦う意志を示した。奴自身への追及はやるにしてもそのあとだ。」

 

「レジアス中将を味方に引き込んだんやな……………あの人相手によおやりおるな…………ヒイロさん案外交渉スキルとか持ち合わせていたり?」

 

 

レジアスをひとまず味方に引き込めたことにはやては驚いたように口を丸くしながら声を唸らせる。

 

「事実を突きつけて、状況を利用しただけだ。それとだがなのはの妨害を行ったビームの詳細はわかったのか?」

 

「この後隊長陣やフォワード組を集めてロングアーチの調査結果を話し合う予定や。」

 

「じゃあ、私たちはここで待っていればいいのかな?」

 

情報のすり合わせをやるというはやての言葉にフェイトがそう尋ねるとはやては無言でうなずいた。

二人がしばらく部隊長室で待っているとはやての召集でいつもの顔ぶれが集まり始める。

 

 

 

「うん、みんな集まったな?集まってもらった理由は言うまでもなく、さっきのビーム攻撃についてや。」

 

なのはとフェイトの親友とシグナムとヴィータと言った自身の家族、そしてティアナやスバル、さらにはギンガといったフォワード組と見慣れた顔ぶれが集まったことを確認するとはやてが隊舎を標的としたビームに関してのブリーフィングを始める。

 

「さっきのビーム、出力はかなりのものやった。なのはちゃん、防御した身としてはどんな感じやった?」

 

「…………少なくともディバインバスター以上、スターライトブレイカー未満ってところだったかな。正直言って、魔力に制限がかけられている状態じゃ防ぎきれなかった。」

 

ビームを受け止めたときの衝撃がまだ残っているのか、なのはは利き手である左手の手首を確かめるように回しながら険しい表情を見せる。

 

「ですが、先ほどのビームによる攻撃はウイングゼロのバスターライフルのビームと色合いが合致します。何か関連性はあるのではないでしょうか?」

 

「せやな。そこら辺について、ヒイロさんは何かわかることはある?」

 

妨害のビームの色合いがバスターライフルのビームと同色だというシグナムにはやては頷きながらヒイロに目線を向ける。

 

「……………少なくともアフターコロニーの兵器による攻撃というのは間違いないだろう。しかし、以前情報を公開したビルゴによるものではないのは確かだ。理由としてはあのビームは海の水平線の向こう側から発射されたものだが、ビルゴには常時滞空を可能とするほどの推力はない。」

 

「じゃあ…………一体誰が………というより何が………?」

 

ヒイロが少なくともビルゴによる仕業ではないと断じたことにエリオが疑問を投げかけるも、皆が揃って難しい表情を浮かべ、それに答える者はすぐには現れず、部隊長室が沈黙に包まれる。

 

「はやて。ロングアーチからなんらかの解析は出ていないのか?このまま黙っていては話が進まん。」

 

「…………そうやなぁ…………ロングアーチからの解析も芳しくなかったらしいからどうするか迷っとったけど…………」

 

ヒイロからなんでもいいから情報を出せとせがませたはやては悩ましげな表情をみせながら空中にディスプレイを投影するとそこに一枚の画像を表示する。その画像は極限まで拡大されたものなのか、画素数が極めて低く、かろうじて黒い円のような物体が写っているだけだった。

 

「画質が悪いな…………ジャミングでもかけられていたのか?」

 

「ジャミングというより、ステルスやな。こっちのレーダーにもとんと反応を示しておらんかったし。」

 

「仮にこの黒い円形の正体がヒイロの世界のモビルスーツだとすると似ているのはあるのか?」

 

画像が荒いことに苦言を呈しているヒイロにはやてが予測の上だがステルス機能が搭載されていることを口にするとヴィータから似たようなモビルスーツがいなかったかどうかを尋ねられる。

 

「仲間のガンダムにステルス機能を搭載した機体はいる。」

 

「…………よりにもよってガンダムかよ…………」

 

ヒイロの返答にヴィータは聞いてはいけないことを聞いてしまったかのようにうえっとした表情を見せる。ウイングガンダムゼロのツインバスターライフルの火力を知っている身からすれば、似たような性能のガンダムが敵になっている可能性があるのは鬱屈とした気乗りになってくるのは仕方がないだろう。

 

「だが、そのガンダムはレーダーによる探知はもちろんのこと、カメラのような機械を介した映像、画像からも姿を消すことができる。」

 

「……………ようするに肉眼でしか確認が取れないってこと?」

 

「ああ」

 

なのはの確認にヒイロが頷く。そのヒイロの言ったことに則ると、この画像に写っているのは少なくともウイングゼロから派生したガンダムではないということだ。

 

「まぁ…………ガンダムが相手じゃないってわかっただけでもマシか…………」

 

「それでも高性能な代物であるのは確かだろう。それに戦闘機人を連れていったのもそれで間違いはないだろう。他に何か候補として挙げられるのはいないのか?」

 

「そうねぇ、今まで私達がみせてもらったのはいわゆる量産型がほとんどね…………」

 

安心したようにヴィータが息をつくが、シグナムが他に候補として挙げられそうな機体を尋ね、それにシャマルが頰に手を当てながら同調するように言葉を続ける。

 

「……………ハイドラ」

 

「ッ…………ヒイロさん、それは…………」

 

「可能性の一つに過ぎない。だが、その中でもっとも確率が高いのは、ソイツだ。」

 

「ハイドラって…………なんのことですか?」

 

ヒイロが発した言葉にはやてが難しい表情を見せながら言葉を返そうとするも、ヒイロはそれは制するように遮りながら微々たる差異だが、可能性が高いことを示唆する。

 

無論、その存在が記されてあった預言、およびハイドラのことを知らない守護騎士やフォワード組は揃って顔を見合わせ、ティアナがその総意のようにヒイロに詳細をたずねた。

 

「…………聖王教会の騎士、カリム・グラシア。ソイツの持つレアスキルと呼ばれる特異な能力、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)の預言に存在が記されていた奴のことだ。端的に言えば       

 

「リーオー、トラゴス、エアリーズ、トーラス、そしてビルゴ。これらのアフターコロニーのモビルスーツの情報がジェイル・スカリエッティに流れ出たきっかけだ。」

 

「……………つまり、大元ってことかよ。今回の事件の。」

 

「大元とは言うが、そのハイドラもアフターコロニーのモビルスーツであることが予測されている。大元といえば大元だが、どちらかと言えば要因に近い。」

 

あくまで大元はスカリエッティと言うようにヴィータの発言にヒイロが訂正を入れる。その様子にヴィータは面倒くさそうな表情を浮かべながらもどっちでもいいだろ、と心の中で呟いた。

 

「…………………なのは。」

 

「ん…………ヒイロさん、呼んだ?」

 

「明日の教導、お前の中の内容ではどういう風に行うつもりだ?」

 

「えっと…………みんなだいぶ慣れてきたみたいだから、基礎練の反復をしたら実戦形式でやるつもりかな。」

 

唐突なヒイロからの問いかけになのはは少し考え込む仕草を浮かべるも、すぐに自身の考えている予定を伝える。それを聞いたヒイロは腕を組みながら、壁に寄り掛かった。

 

「フェイト、お前も明日の教導に参加する予定だったな?」

 

「そう………だね。でも、突然どうしたんですか?」

 

似たような質問をフェイトにも向けると彼女から返答と一緒に不思議そうな表情を向けられる。

 

「お前達も教わる側に回れ。」

 

「えっと…………それってつまり…………明日教導官に入るのはなのはさんじゃないってことですよね?」

 

「じゃあ…………ヒイロさんが?」

 

「俺が手出しするつもりはない。お前たちを相手にするのは人形だ。」

 

ヒイロの言葉にキョトンと首を傾げるなのはとフェイトを尻目に置いて、ヒイロが明日の教導官を務めると思ったティアナとスバルがヒイロにそう尋ねるが否定の言葉とともに相手が人形だと言われ、怪訝な表情を見せる。

 

「あのー…………ヒイロさん?一体何をするおつもりで………?」

 

流石のはやてもヒイロが勝手に話を進めていくのが看過できなかったのか、困惑気味な笑みを浮かべながらヒイロの言う人形の詳細を尋ねる。

 

「…………スカリエッティの戦闘時出てくると思われるモビルスーツ五種類。それをアフターコロニーでの戦争で実際に使われた手段、モビルドールという形でお前達と戦わせる。」

 

「もびる…………どーる…………?」

 

「本来、モビルスーツというのはコックピットに人間が搭乗して操縦するものだが、そこを無人化した上で自律行動を可能とした兵器だ。要するにお前達がいつも相手にしているガジェットと相違はない。」

 

キャロの言葉に耳聡く反応したヒイロがモビルドールの説明を簡単に行う。おおよそガジェットと変わりはないという説明で納得がいったのか、短く声を呟いているのを見かけるとヒイロはシグナム達守護騎士に目線を向ける。

 

「可能であれば、お前達も参加が望ましい。行けるか?」

 

「ん………なに、どのみち矛を交えることになる。先んじて経験を積むことができるのであれば、断る理由もない。」

 

「前はエアリーズが二機だけだった上にお前とフェイトに取られちまったからな。ソイツらがどれくらいの強さなのか、試すのにいい機会じゃねぇか。」

 

ヒイロの言葉にシグナムはわずかに笑みを浮かべながらさながら守護騎士達を代表するように答える。実際そのシグナムの言葉になんら間違いはなかったのか、ヴィータとシャマルもシグナムと同じように笑みを見せていた。

 

「……………了解した。そういうことになった。」

 

「そういうことって…………アンタがそうさせたんでしょうがぁ!!」

 

さも平然と事の行く末を語るヒイロにはやては頭痛の種に悩ませているように額に手を当てながらワナワナとした様子でヒイロを捲し立てる。

もっとも、当人が悪びれるような顔を一切見せず、その様子を周囲の人間が雁首揃えて苦笑いを浮かべる光景に結局はやては怒る気も失せたのかため息を深くついた。

 

「…………それ、私も参加させられるんやろ?」

 

『いえ、主の魔法はどれも広域範囲魔法。はっきりいって演習にならないので今回の演習は見送らせてもらうこととなってます。』

 

「わ、私だけ仲間外れなん!?そんなん流石にあんまりやでアインス   !!!」

 

自分も参加させられると思った矢先、ウイングゼロからひょっこり顔を覗かせたアインスから出鼻を挫かれた形になったはやては思わず表情をありえないものを見てしまったかのような表情を浮かべ、思わず椅子から勢いよく立ち上がった。

 

『主……………正直に申しますとこれはヒイロと私で綿密に話した結果の双方の結論なのです………』

 

「むぅ……………うぅ………………!!」

 

どうにか諦めてくださいと言うようにアインスが肩を竦めた様子で宥めるが、はやてはやっぱり自分だけハブられているのが納得いかないのか、この状況を作り出した張本人であるヒイロに悔しそうに唸り声を上げながら目尻に涙を浮かべた視線をぶつける。

 

(ふむ…………それほどまでにヒイロ発案の演習が受けたいのですね、我が主よ。)

 

(いやいや、ぜってェー違ぇだろ。)

 

(というか、はやてちゃん…………ザフィーラのこと、忘れてないかしら?)

 

(………………もはやなにも言わん。)

 

関心したようにウンウンと頷くシグナムに呆れたようにヴィータが否定の言葉を入れる。そして困惑気味に狼の形態を取りながら、六課で飼育しているという体でいるため、必然的に演習が参加ができないザフィーラのことを言及するシャマル。件の彼はしょぼくれたように耳をへたらせ、若干の不貞腐れが混じったように部屋の隅で寝そべっていた。

 

「…………………」

 

そのはやての目線にヒイロは基本無反応を貫いていたが、延々と注がれるはやての視線に鬱陶しさを覚えたのか、しかめっ面を見せながらため息を小さく吐いた。

 

「………10年前、お前が闇の書の闇に向けて放っていた、直撃を受けた対象を石化させる魔法    確かミストルティンと言ったか?」

 

「え…………う、うん、そうやけど…………」

 

突然のヒイロの問いかけに若干狼狽したように歯切れの悪い返事をするはやてだが、それを気にする素振りすら見せずに話を進める。

 

「ビルゴのプラネイトディフェンサーは有り体に言えば遠距離攻撃に対して効果を発揮するバリアフィールドだが、決して実体を持ち合わせているわけではない。ミストルティンをフィールド発生機に直撃させ、構成された魔力の残滓を浴びせれば、理論上は石化による発生機の無力化は可能だ。」

 

「………………なるほど。」

 

魔力を専門としていないヒイロだが、ビルゴという兵器、そしてプラネイトディフェンサーという武装の観点から特異な魔法を多数所有しているはやてなら対処は可能という言葉に思わずはやては唸るような声を上げてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ウグッ…………もう少し丁重に扱いなさいよ…………!!」

 

ガシャンと今まで担ぎ上げられていたところに突然雑に落とされたような音を立てて下された人物  戦闘機人のドゥーエは命からがらスカリエッティの本拠地である彼のラボに帰還していた。

もっともそれは彼女一人でなしえたわけではない。ドゥーエは自身をここへ連れてきた張本人である傍らでブースターを蒸して浮かんでいる存在に憎らしげな目線を向けて悪態をつくも、ソレは気にしている素振りすら見せずにスカートから脚部を出して地に足をつけるとそのまま去っていった。

 

「やぁ、ドゥーエ。かなりしてやられた様子だね。」

 

「ッ……………ごめんなさい、ドクター。」

 

そんなドゥーエに戦闘機人の生みの親であるスカリエッティが声をかけると彼女は申し訳なさそうに俯きながら謝罪の言葉を述べる。

 

「いやなに。君が気にすることはない。レジアスを六課への査察を行なっているタイミングで殺せば、彼を慕っている人間の多い地上の世論から六課を解体せざるを得なくなると語ったのはドクターJだ。まぁ、どのみち僕にはもう興味は失せた俗物だったから、殺す時期がズレただけだと思っておけばいいさ。」

 

親代わりでもスカリエッティにそう慰めのような言葉をかけられたドゥーエは少なからず表情を安堵したものに変える。

 

「それはそれとして、同じことをいうようだけどかなり痛ぶられた様子だね。四肢のいたるところから破損によるスパークが出ている。全体的なオーバーホールが必要だろうね。」

 

「…………ごめんなさいドクター。こんな重要な時期なのに…………」

 

「いくら悔やんでも仕方のないことさ。ドゥーエ、君より彼女らの方が強かった。たったそれだけのシンプルな解答だ。」

 

スカリエッティは労わるように言葉を投げかけるも、それは遠回しに自分は弱いと突きつけられているように感じたドゥーエは憎たらしさを前面に出したように表情を歪に歪める。

 

「ヒイロ…………ユイッ……………!!」

 

そして自身が倒れ伏した時に見た自分をなんの感情もなく冷え切った目で見下ろすヒイロの顔が脳裏に焼き付いた彼女は唸り声を上げるようにヒイロの名前を呟いた。

その彼女の憎しみに駆られ始めている様子にスカリエッティはへぇ、と軽く言葉を漏らす。さながら溢れ出る知識欲というな狂気が漏れ出したかのように。

 

「うん。君がそのようなやる気に満ちている表情を見せてくれるのなら仕方がいい。前々からデータを参考にして作っていたモノがあるんだよ。アレと同じようにダウンスケールさせてガジェット化させるのもいいかと思ったけど、この際だ。君のオーバーホールに活用するとしよう。」

 

そう言ってドゥーエに向けて目線を細めた笑みを浮かべるスカリエッティの様子はさながら悪魔の契約を持ちかけているようだった。

 

「…………ええ、是非…………」

 

その誘いにドゥーエはあくどい笑みを見せながらその手を取り、快諾した。それは生まれた時から強者であった自分をただの人間の分際で楯突いた男をこの手で嬲り殺すため。そうでなければ自分が生まれた意味がない。

 

「ッ………………」

 

その様子を遠目から不安そうな表情を見せていた人物がいた。見た目は子供のように小さいけれども、右目を眼帯で覆ったその立ち振る舞いには紛れもなく戦士のものが見え隠れしていた。

 

「やれやれ、あの様子では戻ってくることはないじゃろうな。」

 

そんな少女  チンクの背後から義足が鳴らす機械音を響かせながらドクターJが現れる。チンクと同じように物陰から二人の様子を見る姿はさながら哀れなものでも見ているかのようなものだった。

 

「………………ドクターJ…………貴方から聞かせてもらったアフターコロニーの技術者として一つ聞きたい。」

 

神妙な面持ちでドクターJに質問しようとするチンクに彼はスカリエッティ達に視線を向けたまま反応は見せない。

 

「あのハイドラという巨大な人形兵器の戦闘データにあった……………PXシステムと呼ばれるその機構は今やドゥーエを含めたここにいる戦闘機人全員に搭載されている。それは貴方が製作者なのか?」

 

「答えはノーだ。だが、似たようなシステムを作った愚かな技師の一人として言わせて貰えば、あれは頻繁に使っているとお前たちの精神を狂わせる。これだけは言える。」

 

「……………我々はドクターに生み出された命だ。必要であればドクターのために命を賭するのも当然だ。」

 

ドクターJの言葉に毅然とした様子でスカリエッティに対する信仰を見せるチンク。しかし、ドクターJはその幼い風貌をした戦闘機人の背中にひどく不安そうなものが見え隠れしているのを見抜いていた。

 

「だけど……………仲間が…………姉妹たちが狂っていく様を見せつけられるのは…………………」

 

チンクの中で渦巻いているのは今まで関わってきた妹たちの姿だった。人間と同じように性格が様々だった彼女らと過ごすのは彼女にとって一種の癒しだった。

だが、もしかするとそれが自身を作り上げた人物によって壊されるではないのかという不安に、チンクは押し殺すようにその少女のような掌を拳に形を変えると握りしめた。

 

(それが…………お前さんが起動してから8年あまりで身につけた人間らしさじゃ。決して、それを捨てることがないことを願う。)

 

そのチンクの体を強張らせている様子にドクターJは慈しむような目線を向けながらもスカリエッティに視線を戻す。

 

(スカリエッティが見せる笑みは表面上のモノじゃ。その奥底には隠すことができないレベルで肥大化した欲望が渦巻いておる。ドゥーエに対するものも所詮は尽きることない欲望の吐口として利用しているにすぎん。)

 

ドクターJはその義眼を隠すために装着しているゴーグルの下から憐みを持ってスカリエッティを見定める。

 

(来るなら来い、ヒイロよ。少し前までは高町なのはに託すつもりでおったが、お前がいるなら話は別。既にウイングゼロの実情も回される映像から察して調整は済ませておる。)

 

ドクターJは遠い目をしながら今も六課にいるであろうヒイロに向けて言葉をこぼした。




年長組で唯一原作本編終了後に管理局に下ったチンクならこれくらいの成長はあってもいいんじゃないかと邪推
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