魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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第7話 未来への布石

「ゼロ、各部兵装の状況を教えろ。」

 

ヒイロはリンディから充てがわれた自室で一人、ウイングゼロにそう呼びかける。

すると、待機状態のゼロから各武装の詳細が表示される。

 

(・・・・ビームサーベル、問題ない。守護騎士とかいう奴らの戦闘でも使用は可能か。)

 

リンディとクロノからある程度騎士装束の人物達の詳細を教えてもらった。

奴らは第一級ロストロギア、『闇の書』のプログラムの一種とのことだ。その守護騎士は主の命に従い、行動を行う、とのことだった。ここのところ管理局員が何者かに魔力を奪われるという事件が発生しているらしいが、それはあの守護騎士達が主犯格であるとのことだ。

 

(奴ら、守護騎士の目的は闇の書の完成とのことだが、完成させればロクでもないことが起こるのは確かなようだ。)

 

闇の書は出現したばかりのころはページには何も書かれていない魔導書である。

しかし、他者からの魔力を奪うことでそのページを埋めていき、全てのページが満たされた時、闇の書は完成する。

先ほどの戦闘の時に砲撃魔法を撃とうとしていたなのはの胸部から突き出ていた腕はその手の中に何か光るものがあった。リンディに聞いてみればあれは『リンカーコア』というもので人間でいう魔力を生み出す臓器のようなものらしい。

守護騎士はそのリンカーコアから魔力を奪うことで闇の書のページを埋めているとのことだ。

 

だが、ヒイロにはその闇の書そのものよりも守護騎士達の方に違和感を持っていた。それはゼロが守護騎士達に未来はないという予測を出したというのもあった。

 

 

 

(・・・一見するとかつての俺たちのような、ただ命令に従う兵士のような奴らかと思ったがーー)

 

ヒイロは少し前に行われた闇の書についての説明を行なっていた際の光景を思い返していた。

ヒイロがなのはの救援に向かう前、紅い守護騎士から襲撃を受けたなのははある程度の抵抗はしていたとのことだ。

その際にその紅い守護騎士が被っていた帽子を落とした時、その守護騎士が怒りの表情を浮かべたとのことだった。その守護騎士にとって、その帽子はとても大事なものだったのだろうと推測は容易い。

 

(奴らは感情がない、ただ言われるがままのプログラムという訳ではない。おそらく、人間となんら変わりもない。それにあのリーダーと思われる守護騎士も俺が目的を聞いた時、『悪い』と前置きを置きながら話せないと言っていた。)

 

普通であれば、主人の命で話すことはできないなどの理由で言わないだろうと思っていた。

だが、『悪い』と思っているということは奴らに感情がないという訳ではない。

自身がやっている行為に罪悪感を抱いている。そういうことだ。

 

(ならば、奴らは魔力の蒐集を自分たちの主人に嫌々やらされているか、もしくは自分たちの意志でやっている・・・?)

 

守護騎士達の目的を考えながらもマシンキャノンや各部スラスター、自爆装置といったウイングゼロの武装データを見ていくとある一点で目が止まった。

それはウイングゼロのメイン武装である『ツインバスターライフル』の欄であった。

 

「ツインバスターライフルにリミッターが設けられている?」

 

ツインバスターライフルの出力は自由に調節が可能だ。本来はリミッターは設けられていない筈だ。そう思ったヒイロはツインバスターライフルの詳しい詳細を調べた。

 

(・・・・出力の限界が下がっているな。どういうことだ?)

 

本来の、ウイングゼロがMSだったころのツインバスターライフルの出力はコロニーを一撃で破壊するほどのものだった。しかし、こうしてデバイスとして形になった今、ツインバスターライフルの限界出力は下がり、それ以上の出力を出そうとするのであれば、リミッターを解除する必要がある、ということであった。

 

(・・・・MSからデバイスに無理やり変化したことから起こる不具合か・・・?まぁいい。それほどの出力を使う時はおそらくないはずだ。)

 

できれば使うことがないようにと、思っているとヒイロは突然ウイングゼロのデータを一度閉じた。

そして、扉の方に視線を向けるとーー

 

「鍵は開いている。入るなら入ってこい。」

 

そういうと少しばかり時間が開いた後、扉が開いた。そこから申し訳なさげな表情を浮かべながら出てきたのはフェイトであった。

 

「・・・・よ、よく分かりましたね・・・・。」

「俺は兵士だったからな。その程度、熟せなければ俺はとっくに死んでいる。」

「そ、そうですか・・・・。」

 

ヒイロのその言葉にフェイトは引き気味の表情を浮かべてしまう。

 

「それで、来た理由はなんだ?」

 

ヒイロはフェイトのその表情に気を止めることなく要件を尋ねた。

 

「その、さっきの守護騎士との戦闘で、貴方に任せきりになってしまったこと。それとあの守護騎士にクロスレンジで圧倒されたことがどうしても悔しくて・・・。それで貴方にお願いしたいんです。」

 

フェイトは真剣な表情を浮かべながらそういうとヒイロに対して頭を下げた。

 

「ヒイロさん。お願いします。私の特訓に付き合ってくれませんか?」

 

ヒイロはフェイトのお願いに少々思案に耽っていた。フェイトの思いは本物であることは先ほどの表情みれば明らかだった。

 

「・・・・一つ条件がある。治せる傷は治しておけ。僅かに腫れているぞ。」

 

そういうとフェイトは咄嗟に自分の左手首を抑えた。

その反応を見たヒイロは軽く呆れた視線をフェイトに向ける。

 

「怪我をした上で特訓を重ねても患部を余計に悪化させるだけだ。自己管理くらいは常に徹底しておけ。なのはの検査と一緒に医者に処置をしてもらうといい。」

 

ヒイロはそう言って椅子から立ち上がるとフェイトの横を通り過ぎて部屋を出ようととする。フェイトは驚いた表情を浮かべながらヒイロを追った。

 

「あ、あの、特訓の方は・・・!?」

「条件は言った。後はどうするかはお前次第だ。」

 

それだけ告げてヒイロは部屋を出て行った。部屋の主が居なくなった部屋でフェイトは嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「・・・・ありがとう、ございます。」

 

部屋を出た後のヒイロはこんなことを考えていた。

 

(・・・・プランは、過度なものにするわけには行かないな。)

 

フェイトに自分と同レベルの訓練を行えば、強くはなるが確実に心の面で持っていかれる。

自分自身と同じ兵士をまた作るわけには行かないと難しい表情を浮かべながらアースラ艦内の廊下を歩く。

少し歩いていると見知った人物と鉢合わせた。

 

「・・・・リンディか。」

「あら、ちょうどよかったわ。」

 

ちょうどいい、とはどういうことだろうか?そう思ったヒイロはリンディに尋ねることにした。

 

「・・・・何か俺に用か?」

「これからアースラはメンテナンスで時空管理局の本局へ向かうのだけど、その時にグレアム提督、貴方を引き取ろうとしていた人が会ってみたいって言うのだけど、どうかしら?」

「ギル・グレアムが・・・・?」

 

ヒイロは最初それを断ろうとした。しかし、思い返してみればアースラがメンテナンスに入る以上、艦内に残ることは許されないだろう。

 

「・・・・・了解した。だが、俺から話すことは何もない。」

「そこら辺は大丈夫よ。クロノやなのはちゃん、それにフェイトちゃんも同席するから。」

 

断る理由がないと判断したヒイロは素直に応じることにした。

 

(なのは達が同席するのであれば別に問題はないか。)

 

 

 

 

しばらくして、アースラはメンテナンスのために時空管理局の本局へと帰港した。

案の定、アースラ艦内に残ることは許されなかったため、ヒイロはなのは達の検査が終わるまでクロノやリンディ達と行動を共にしていた。

 

「なのはちゃんの検査の結果が来ました。」

 

そう言ってきたのは手に検査の結果が記されていると思われるバインダーを持っているエイミィだった。彼女はそのままバインダーをみながら検査の結果を伝え始める。

 

「結論から言えば、怪我自体は大したことはないそうです。ただ少しばかりリンカーコアが縮小しているということでしたが、ヒイロ君が途中で妨害してくれたのが功を奏したのか、それも時間経過で元に戻るそうです。」

「そう・・・。となるとやっぱり一連の事件と同じでいいって言うわけね。」

 

リンディが言った一連の事件、というのは魔導師が襲撃され、魔力が蒐集されるという守護騎士達が起こしている事件で間違いはないだろう。

 

「はい。それで間違いはないようです。」

 

そういうとエイミィは少しばかり表情を苦いものに変えた。

 

「休暇は延期ですかね。流れ的にウチの担当になってしまいそうですし。」

「仕方ないわね。そういう仕事なんだから。」

 

二人がそこまで話したところでヒイロは少々気になったことを尋ねた。

 

「・・・・フェイトの方はどうなんだ?」

 

そう言った瞬間、クロノを含めた三人の表情が意外そうな視線をヒイロに向けた。ヒイロはその視線に疑問を覚えた。

 

「・・・・なんだ?」

「い、いや、そのなんだ。君がそういう誰かの容体を心配するのは珍しいと思って、ね。」

「・・・・あいつから特訓を手伝って欲しいとせがまれたからな。他意はない。」

 

クロノにそう言われるとヒイロは視線を逸らしながらそう答えた。リンディは納得といった表情を浮かべながら、ヒイロにこう伝えた。

 

「それなら、クロノと一緒に迎えに行ってあげたら?なのはちゃんの病室もちょうど同じだったはずだし。」

「・・・・・了解した。」

 

微笑みながらそういうリンディに鋭い視線を向けながらもヒイロはそれを了承した。

クロノと共にエレベーターを降り、廊下を進んでいく。

 

「なぁ、ヒイロ。君は元の世界では兵士として戦ってきたんだよな?」

「藪から棒だが、その通りだ。」

 

廊下を歩いているなか、クロノが突然そんなことを聞いてきた。ヒイロがそう答えるとクロノは少々難しい表情をしながら続けて尋ねる。

 

「それは、その・・・いつからなんだい?」

「・・・・・・・・・。」

 

クロノの質問にヒイロはしばらく黙っていた。話したところで反応が見えていたからだ。

 

「俺は、物心ついた時には既にこの手に銃を握っていた。そこからは何人もの人間を殺してきた。・・・・それしか生き方を知らなかったからな。」

「っ・・・・それは、すまないことを話させた・・・。」

「お前が気にする必要性はどこにもない。同情しているのであればむしろ迷惑だ。」

「う・・・・。それも、そうだな・・・・。すまない・・・。」

「・・・・・面倒な奴だ。」

 

わかりきった反応を見せたクロノにヒイロははっきりと不快感を伝える。

 

「それで、フェイトのことなんだが、よろしく頼む。」

「・・・言いたいことはそれだけか。さっさと最初から言え。」

「・・・・君、時折そのトゲのある言い方で誰かを怒らせたこととかない?」

「俺は事実を述べているだけだ。」

 

若干目が笑っていない笑顔を浮かべるクロノだったが、ヒイロは特にこれといった反応を見せずに淡々と言葉を返した。

そうこうしている間にフェイトの病室に差し掛かったのか、部屋から出てきた彼女が視界に入った。

 

「クロノ・・・それにヒイロさんも?」

「怪我の具合はそれほど悪くないみたいだな。」

 

クロノが怪我の度合いを尋ねるとフェイトは申し訳なさげな表情を浮かべる。

 

「その、ごめんなさい。心配かけて・・・。」

「まぁ・・・君となのはで慣れたよ。気にするな。」

 

クロノはフェイトの謝罪に乾いた表情を浮かべながらそう答えた。

ヒイロは特にこれといった反応を見せることはなかったが、フェイトからの視線が来ていることに気づいた。

 

「・・・・・・。」

「えっと、その・・・・。」

 

フェイトが気まずそうな反応を見せているとヒイロは少しばかり疲れた目を見せる。

 

「・・・プランは考えてある。だが、今は怪我の完治を最優先にしろ。それだけだ。」

「っ・・・・はい!!」

 

ヒイロがそういうとフェイトは目を輝かせながら頷いた。

 

「え、えらく慕っているんだね、彼のこと。結構言動とかにきついものがあるって思っているんだけど・・・。」

「そう、かな?優しい人ですよ、ヒイロさんは。」

 

フェイトのその言葉にクロノは半信半疑でヒイロに視線を移した。

移した先にはーー

 

「ちっ・・・・・。」

 

僅かに気恥ずかしそうに舌打ちをしながら顔をそっぽに向けるヒイロの姿があった。

 

(・・・・・図星か。)

 

割とかわいいところもあるんだな、この人。そう思うクロノであった。

 

 

 




ヒイロは搭乗機に自爆装置がないと不安になるらしい。

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