魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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うーん、話が中々進まない・・・・


第8話 変革への道筋

フェイトと合流したヒイロ達はなのはの病室へと足を運んだ。

病室の扉を開くとちょうど医師がベッドに腰掛けているなのはの容態を確認しているところだった。

その医師は何かクロノに用があったらしく、彼を部屋から連れ出し、病室の中にはなのはとフェイト、そしてヒイロが残された。

 

「なのは、体調は大丈夫?」

「うん。リンカーコアもあと少し休んだら元の大きさに戻るって医師の人が言っていたよ。」

 

フェイトがそう尋ねるとなのはは表情を笑顔にする。どうやら大事には至るようなことはないようだ。フェイトも表情を綻ばせて、安堵感を露わにする。

 

「そっか・・・。よかった。」

「ヒイロさんも助けてくれてありがとうございます。」

 

なのはからお礼を言われるが、ヒイロは壁に体を預け、腕を組んだまま軽く視線をなのはに向けるだけで特に言葉は返さなかった。

 

「あの、ヒイロさん、少し質問してもいいですか?」

「・・・・なんだ?」

「ヒイロさんがアースラで素性を話した時、襲ってきた人達、守護騎士に未来はないって言ってましたけど、それは一体どういう意味なんですか?」

 

なのはが言っているのはヒイロがゼロシステムを起動させた時に見た未来のことだろう。ヒイロはなのはの言葉に答えるかどうか少しばかり逡巡する。

 

「・・・・そのままの意味だ。このまま奴らが魔力の蒐集を行うのであれば奴らは死ぬ、というより消滅する。」

 

ヒイロが『消滅』という言葉を使ったのは訳があった。ゼロシステムが見せたビジョンにはその守護騎士達と思われる人物の体が光となって消えていく光景があったからだ。

ヒイロのその言葉になのは達は驚きの表情を浮かべた。

 

「そんなっ・・・!?じゃあどうしてあの人達は魔力を集めているんですかっ!?」

「ヒイロさん、私も気になります。」

 

なのはの悲鳴のような声と対称的なフェイトの物静かな声が病室に響く。

 

「・・・・奴ら、というよりあの紫色の騎士装束の奴は俺が目的を聞くと答えられないと言った。」

「それは・・・当然ですね。わざわざ敵に目的を明かすとは思えない。」

 

ヒイロの言葉にフェイトは同調の意志を示す。フェイト自身、なのはと初めて会敵した時は目的を伏せていた経験からくるものだった。

 

「だが、着目するのはこの前だ。騎士装束の奴は前置きに『悪い』とつけた。つまり奴の心情に罪悪感、ないしはそれに準ずるものが含まれているという裏付けに他ならん。」

「罪悪感・・・・?ということは嫌々やっているっていうことですか?なら、説得することもできるんじゃ・・・。」

「そちらの線も捨て置けないが、可能性は低いだろう。そもそも罪悪感には様々な形がある。もっとも、話し合いでどうこうできるとは思えんが。」

 

ヒイロがそういうとなのははまるでそんなことはない、というような表情をヒイロに向けた。

 

「・・・まさかとは思うが、お前は奴らと話し合いができると思っているのか?」

「・・・私はできると思います。だって、あの紅い服の子は私が帽子を撃ち落とした時、怒っている顔をしてました。」

「それは聞いている。奴らに感情があるのは明白だ。だが、だからといって奴らと対話ができる保証はどこにもない。」

「でも、それでも私は理由を知りたいんです。どうして魔力を集めているのか、その理由を。それを知ることができたら、私達にできることがあると思うから。」

 

理由、その言葉を聞いて、ヒイロは少しばかり言葉を詰まらせる。確かにヒイロは守護騎士達がなぜ魔力を蒐集しているのかは疑問に思っていた。

ただ『闇の書』の完成を目指しているのであれば、元々闇の書のプログラムである守護騎士達に罪悪感のようなものはないはずだ。

だが、集めること自体に罪悪感が生じているのであれば、完成以外の目的がある可能性が高い。

もっともヒイロ自身、守護騎士達が明確な敵であるとはまだ断定はしていない。

ただ話し合いでは解決は不可能であり、理由を聞き出すにも相手を無力化するのが定石である、そう彼の中では結論づけていた。

 

「・・・・確認する。お前はあくまで奴らの目的が知りたい。それは俺も同じだ。だが、お前のその手をさしのばす行為は奴らに取って火に油を注ぐようなものであるという認識はあるのか?最善の手は奴らと戦い、その上で無力化することだと思うが。」

「・・・それでも、です。私の力は誰かを傷つけるためじゃない。みんなを守るためにあるんです。」

「・・・・・・・了解した。次に接敵した時は最初こそ俺も戦闘態勢を解いておく。だが、チャンスはその一度きりだ。その時に奴らがこちらに攻撃を仕掛けてくるようであれば、それ以上の対話は不可能と断定し、俺も戦闘態勢に移行する。それでいいな?」

 

ヒイロの条件付きの承諾になのはは表情を嬉しそうなものに変え、頷いた。

そのちょうどよく話が終わったタイミングで病室のドアが開き、クロノが戻ってきた。

 

「・・・話は済んだのか。」

「ああ。なのははもう立てるのか?」

 

ヒイロがそう聞くとクロノは頷く。そしてクロノの視線はそのままなのはに注がれると同時に質問する。

「うん。一応大丈夫だよ。」

 

クロノの問いになのはは疑問気な表情を浮かべながら答えた。その言葉にクロノは頷きながらこう続けた。

 

「一度、ユーノとアルフにも顔を合わせよう。ちょうど君たちのデバイスの修理作業をしているはずだからな。」

「・・・・わかったの。少し着替えるから外で待ってて。」

 

なのはが着替える様子を見せたため、ヒイロは一度、クロノにとっては二度目の病室の外での待機となった。

ちなみにフェイトは何故か部屋の中にいた。

程なくするとなのはは私服に着替えた状態でフェイトを連れて病室から出てきた。

 

「僕が案内するからついてきて。」

 

クロノを先頭にして一同はユーノとアルフの元へと向かう。その道中、ヒイロはフェイトに話しかける。

 

「フェイト。」

 

ヒイロに突然話しかけられたフェイトは表情に驚きを表しながらヒイロの方を向く。

 

「なんですか?」

「・・・お前もなのはと同じ心境なのか?」

 

そう尋ねるとフェイトは微妙そうな表情を浮かべ、足を止める。

ヒイロも彼女の隣で足を止め、フェイトの答えを待つ。

 

「・・・・私もなのはと同じです。とてもあの人達が悪人とは思えません。分かり合える余地はあると思います。だけどーー」

 

フェイトはそこで言葉を切り、自身の胸元に手を添える。

その表情にはどこか悩んでいるように見える。

 

「私は、心の中であの人達と闘いたい、そんな風に思っているんです。もっと具体的に言うとあの騎士甲冑の人を越えたい。矛盾、してますか?」

 

フェイトはそういうと軽くヒイロに視線を向ける。今度はフェイトがヒイロの答えを待った。

 

「いや、矛盾などはない。お前がそう思っているのなら、その感情に従え。」

「感情に従え・・・ですか?」

 

思ってもいなかった答えにフェイトはヒイロの言葉を聞き返した。

 

「お前のその感情のまま、行動しろ。」

 

ヒイロはそれだけ伝えると先を行くなのは達を追っていった。

 

「・・・・じょ、助言してくれている、でいいのかな・・・?」

 

残されたフェイトはわずかに不安気な表情を浮かべる。

心の中に響いてくるのは、先ほどのヒイロの言葉ーー

 

「私の感情のまま行動しろ・・・。もっと貪欲になれってことなのかな・・・。」

 

フェイトもヒイロの言葉の意味を考えながらあとを追うために歩を進める。

 

 

 

 

ヒイロとフェイトが前を行くクロノとなのはに追いついた場所はちょうどクロノが言っていたなのはとフェイト、二人のデバイスが置かれている場所だった。

 

「・・・・手酷くやられているようだな。」

「わかるのかい?」

 

ヒイロの零した言葉にユーノが反応する。ヒイロは頷きながらも言葉を続ける。

 

「デバイスの待機状態の時点で既にヒビが随所に発生している。展開した状態は言うまでもなく、ボロボロ以外の何者でもないだろう。はっきりいって、戦闘を行うのは現状不可能だ。直すのならばパーツごと変えるのが手早いだろう。」

「うん。ヒイロさんの言う通り、レイジングハート、バルディッシュ共々損傷率はかなり高い。今は自動修復をしているけど、基礎部分の修復が済んだら、一度再起動して、いくつかの部品は変える必要がある。」

 

自身の相棒の痛ましさ、そして自分たちの力不足に直面した二人は悲しげな表情を浮かべる。

 

「・・・・それがお前たちと守護騎士達の力の差の現れだな。」

「ちょっとヒイロ。いくらなんでもそんな言い方は・・・。」

「アルフ、大丈夫・・・。ヒイロさんの言っていることはなんら間違ってないから。」

 

ヒイロの言い草につっかかろうとするアルフをフェイトが諌める。自身の主人の言葉にアルフは不満タラタラながらもとりあえずヒイロにつっかかることを抑える。

 

「なのは、私達は強くならないといけない。あの人達に話し合いのテーブルについた方がいいと思わせるぐらいの強さを示さないとなのはがやりたいって思っていることは多分、できない。」

 

フェイトは厳しいと表情でなのはにそう投げかける。対してなのはは軽く表情を緩ませていた。まるで、フェイトのその言葉を待っていたかのようだった。

 

「・・・想いを届けるためには力も必要なんだよね・・・。」

 

なのはは意を決した顔つきでフェイトに向き直る。

 

「私、強くなるよ。強くなってあの人達に想いを届けたい。」

 

なのはのその言葉にフェイトは笑みを浮かべる。

すると突然なのはは何かを思い出したような表情を浮かべ、フェイトに尋ねた。

 

「あ、そういえばフェイトちゃん。ヒイロさんと特訓するんだっけ?」

「え?えっと、うん。そうだけど・・・?」

「私も混ぜて欲しいって言ったら、混ぜてくれるかな?」

 

フェイトはなのはにそう言われるとヒイロに微妙な表情のまま申し訳なさげな視線を向け、なのははヒイロに期待するような視線を送っていた。

ヒイロはそれを見ると一つ、軽くため息を吐く。

 

「・・・・・問題ない。今のところはな。それほど面倒が見切れないほどの量をやらせるつもりはない。」

「わーい♪」

「その・・・何から何までごめんなさい・・・・。」

「とはいえ、はじめに言っておくが、お前達にやらせるのは専ら肉体改造だ。」

 

ヒイロがそう言うと二人、具体的にいうとなのはが先ほどまでの嬉々とした表情を固まらせる。首は油のさしていない機械のようにぎこちない動きでヒイロにその笑顔のまま青くなった顔を向ける。

 

「に、肉体改造・・・?それってもしかしてバッタとかの怪人とかに改造される奴・・・?」

「・・・・お前は一体何を言っているんだ・・・?」

 

ヒイロが無表情のままなのはに指摘すると呆れた表情をしていたクロノが説明を始める。

 

「肉体改造、つまるところ筋力トレーニングだ。フェイトはともかくなのはにそれはーーーいや、ありだな。」

 

その説明の途中でクロノは手を顎に乗せて考え込む仕草をする。その様子にユーノやアルフも疑問気な表情をする。

しばらくクロノのその様子を見せられているとクロノの顔がハッとしたものに切り替わる。

 

「ヒイロ、なのはの筋トレだが、君の思う存分にやってくれ。」

「何か理由ありきのようだな。聞かせろ。」

 

ヒイロがそう尋ねるとクロノは頷きながらもなのはに視線を向ける。

 

「なのは、君のディバインバスターやスターライトブレイカーと言った砲撃魔法だけど、本来であれば使用者のリンカーコアに物凄い負荷がかかるものなんだ。」

「え?でも・・・私今まで撃ってきた中でそんなことはーー」

 

なのはのなんともないと言った表情にアルフやフェイトも同意するようにクロノに怪訝な表情を向ける。

しかし、その中でユーノだけはハッとした表情していた。

 

「そうだよ・・・。なのはのリンカーコアの魔力係数が異常だったから気づかなかった・・・。」

「ゆ、ユーノ君までどうしたの?」

「ヒイロさん、僕からもお願いします。なのはを鍛えてやってください。」

 

ユーノがヒイロに対して頭を下げたことになのはは驚きの声と表情をする。

突然の事態になのは自身あまり追いついていないのだ。

 

「・・・・砲撃魔法には肉体的な負荷も少なからずあるということか?」

 

話の内容から導き出した予測をヒイロが口にするとクロノはその通りだと言わんばかりに頷いた。

 

「ああ。確かに今はなのはの言う通りなんともないかもしれない。君の魔力量は確かに眼を見張るものがある。だけど、あんな馬鹿出力の砲撃魔法を撃って、何もデメリットがないとは思えない。その小さな負荷がもしかしたら数ヶ月、いや数年と何もしないまま繰り返し撃ち続けていれば負荷はどうしようもないほど溜まっていく。それが爆発してからじゃ遅いんだ。」

 

クロノの説得とも取れる説明に一番早く答えたのはーー

 

「・・・・了解した。だが、限度は俺の方で決めさせてもらう。なのはとフェイトは兵士として戦うわけではないからな。もっともこの平和な世の中に俺のような兵士は必要ないがな。」

 

ヒイロであった。壁に背中を預けながらもその目にはある種の決意が見えていた。

 

 





おまけ

「そういえばなのは、お前はどこから俺がフェイトの特訓をすると聞いた?」
「え?リンディ提督からだけど・・・?」
「・・・・別に情報源がいるな・・・。リンディはフェイトが俺に頼んできた後に会ったが、その時点では知らなかったはずだ。」

ヒイロがそう言うとおずおずと誰かが挙手しているのが見えた。
全員の視線がその人物に集中する。その人物は、他ならぬフェイトであった。

「お前か・・・。まぁ、可能性ならないわけではないが・・・。」
「・・・・確かに私と言えば私だけど・・・正確に言うと言ったであろう人を知ってる・・・。」

フェイトはそう言って、この場にいるある人物に視線を向ける。その視線を向けられたのは、彼女の使い魔であるアルフだった。

「アルフ。私、貴方にしかヒイロさんとの特訓のことは教えていないはずなんだけど・・・。」

フェイトにそう問い質されるが当の本人は口笛を吹いてやり過ごそうとしている。

「アルフ?貴方でしょ。話したの。」

フェイトの冷えた声がアルフに突き刺さる。するとアルフの表情が諦めたものに変わった。おそらく白状するのだろう。

「いやーね。もしかしたらコイツがフェイトに何かするんじゃないのかって思ってさ。内緒でリンディ提督に教えちゃった☆」

テヘッという擬音が付きそうなおどけた表情でそう言うとヒイロはわずかに怒気を孕んだ目でアルフを睨む。

「・・・・・・。」
「・・・・・悪かったって。そんな目で睨まんでおくれよ。」

アルフがそうヒイロに向けてとりあえずの謝罪をするとヒイロは自分の感情を引っ込めた。

「ところで諸々のところなんだが、なんでフェイトはヒイロに特訓を頼んだんだ?」
「えっと、近接戦闘能力がすごかったから・・・。」
「そうなのか?僕はアースラにいたからわからなかったんだが・・・。」
「初見で守護騎士のリーダー格の人を筋力だけで圧倒してた。」

『・・・・・は?』

なのはを除く全員の間の抜けた声が響き、その原因であるヒイロに注がれる。
対してヒイロはこれといった反応は見せなかったがーー

「本当にヒイロさんはすごいよね。だって守護騎士の人の腕の骨を粉砕しちゃうんだもん。」

なのはの言葉に今度は一同は無言に伏した。そして、再度ヒイロに視線が注がれる。

「・・・・なぁ、ヒイロ、君に身体検査を依頼したいんだけど、構わないかい?」
「別に構わない。」

本人の許可を取って検査をした。ちなみにそのあまりな結果にリンディが軽く発狂しかけたのは内緒である。



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