が、あと一話、おまけの『Cpart』が続きます。
ついでに、あと二話、おまけの小噺をご用意しておりますので、
もう三夜、お付き合い頂けたら、嬉しゅうございます。
最後の手紙と最終話
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こんにちは
ホテルのフロントの人が届けてくれた名刺を、お父さんはゴミ箱に捨てたけれど、
僕が拾って、このメールを書いています。
僕は、日本のコミックが大好きです。
自分の部屋の本箱いっぱいに持っています。
今回、お父さんと一緒に日本に行ける事になって、とても嬉しかった。
日本の本屋に行って、沢山の中からコミックを選ぶのを、楽しみにしていました。
僕は、日本語は分からないけれど、『ひらがな』と『カタカナ』は読めます。
だから、本屋で、表紙にお父さんの好きな英雄の名前を見つけて、ワクワクしました。
これを見たら、お父さんもきっと、日本のコミックを好きになってくれるだろうと。
そう思って、買って帰りました。
だから、ごめんなさい。
こんな事になってしまったのは、僕のせいです。
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こんにちは
メールをありがとうございます。
あなたが謝る事はない。
あなたとあなたのお父さんを傷付けてしまったのは私です。
本当にごめんなさい。
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今日は、お父さんが、僕のコミックを捨てようとして、大変でした。
泣いて懇願して、何とかやめて貰えました。
コミックを捨てられたら、僕、家出しちゃう。
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それは困った。
でも家出はダメです。
お父さんに、日本のコミックの良い所も知って貰わなくては。
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お父さんは、日本のコミックは暴力的で卑猥で下品だって言います。
そうじゃない良い所もいっぱいあるのに、僕の話を聞いてくれません。
ねえ、キュウソさん、コミックを作るお仕事をしているのなら、
お父さんの好きになれるコミックを作ってください。
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例えば……
かの英雄が、神話の世界に迷い込んだ現代の子供と、一緒に冒険する話なんかは、
お父さんは好きそうですか?
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なにそれ? 面白そう。
そんなのあるんですか?
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一人の日本の学生さん……
その人が、あなたと同じくらいの、子供の頃に書いた、小説です。
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すごい! 僕と同じくらいの子供が書いたお話!
それ、コミックにしてください。
お父さんに見せてあげたい。
僕も読みたい。
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なかなかすぐにという訳には行きません。
私の一存で作品を作る事は決められないのです。
でも努力をします。
今、その原作を書いた学生さんに、連絡を取っています。
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ねえ、キュウソさん、まだ?
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すみません。
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――遊栄社・サービスセンター宛て――
Dr・MASHlRlTOさんへ。
お願いがあります。
Dr・MASHlRlTOさんは、コミックの会社の偉い人だって、
『Dr・SLUMP』の中に書いてありました。
キュウソさんという人が作っているコミックを、急がせてください。
お父さんに読ませてあげたいのです。
早くしないと、僕の大切な日本のコミックが、捨てられちゃう。
談話ブースの中で最後の一枚を読み終えた福田は、しばらくそこを動かなかった。
ペタペタと聞き覚えのあるスニーカーの音がする。
話を終えた少年が、今降りて来たのだろう。
ブースの横を通り過ぎた彼はいささか惚けているようで、衝立の奥の福田に気付かない。
これと同じコピーを、上階で久祖に見せられたのだろう。
声をかけようか?
いや……
躊躇している間に、少年の「ヒッ」という悲鳴が聞こえた。
続いて聞き覚えのある男の声。
「待て! あ、違う、待って、公星センセイ、待ってください!」
いかん、佐波寅だ。
玄関で鉢合わせしたらしい。
「マングースとやらは何やってんだ」
慌ててブースを飛び出そうとした福田だが、少年の「あの!」という声に身体が止まった。
「この間はすみませんでした」
福田からは見えないのだが、佐波寅の唾を呑み込む音が聞こえたような気がした。
「僕は、僕の担当の久祖さんと一緒に、作品を作る事にしました。頑張りますので、どうか遠くからそっと見守っていてください」
少年の声は震えていたが、最後までちゃんと言い切った。
思わず喉から音が出そうになったのを必死で押さえて衝立から顔を出すと、玄関ドアが今閉まった所で、佐波寅が一人茫然と突っ立っていた。
あいつはもう放っとけない子供じゃない。
プロの端くれで、俺らと肩を並べた競合相手だ。
宵の街を、学生鞄を背負った少年が歩いて行く。
ファミレスを出た所で二人は彼を見かけたのだが、少年の方は気付かなかったみたいだ。
「七峰君、声をかけなくていいの? 君はずいぶん気に掛けていたのに、彼、君の顔も知らないんだろ?」
「いいんですよ、僕は所詮、ネットの向こうの存在ですから」
「変に意地はるよね、君って」
子供は気に掛けてくれた大人の事なんかすぐに忘れてどんどん未来へ行ってしまうけれど、大人の方は、慕ってくれた子供の事をしつこく覚えている物なんだ……
人混みに押されながら地下鉄の階段へ消える少年に、七峰は小杉に聞こえないよう、口の中で小さく呟いた。
「最初に連絡貰った時は、僕だと分かって頼ってくれたと喜んだのに。たまたまだったなんてさ。薄情な奴だよ、ハムたろ……」
~fin~