アナザータイム2008   作:ウェットル

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改訂部分:あとがきに回した「兵藤一誠の地の文」

 本文に戻しました。


「旧校舎のディアボロス」
怪・人・変・身


 わぁきゃあ、と、校舎の何処かから黄色いような、それでいて怒りの感情を感じられる女の子たちの悲鳴が響き渡る。

 冷静に考えれば、そんな事態が毎日起こっているか、毎週に数回も起こっていることのほうがおかしいのだけれども。それが、ボクの通う学園の日常になっていた。

 黒板を走る白いチョークが止まり、教壇に立つ先生は疲れたようなため息を吐く。

 

「まったく去年といい、今年といい。

 彼等はいつになったら、自分の内申点を気にしてでもいいですけど、止まってくれるのでしょうかねぇ。覗きとか、セクハラとか・・・・・・」

 

 先生の頬を、ちょっと白い光が走ったような気がする。

 これで女の先生だったり、いかにも尊敬に足る男らしい先生だったら、適当なチカラを持った善良なる学生がしゃしゃり出て問題児を止めに行くのだろうか。

 もっとも、目の前にいるのは退職間近の高齢の老紳士で、お嬢様学校だった共学になる前のこの学校を支えてきた、背広にシワが見えるおじいさんだからなのか、そんなマトモそうなやつは誰一人も出てこなかった。

 高齢の老紳士として教鞭を執り続けた、お嬢様学校の大先生、というだけでも尊敬に足ると思うんだけど、わりと普段から問題児たちを口酸っぱく貶したり、ぶん殴りに行くだけの生徒はむしろ大先生のためには頑張りもしないらしい。

 

「・・・・・・先生、ボク、止めに行きましょうか?」

 

 仮にもボクは、その問題児たちとの付き合いはある生徒、という立場。

 その立場であれば、さすがの問題児たちも耳を貸して、多少は立ち止まってくれるかもしれない。というか、ちょっとでも立ち止まってくれるから、現状はまだ後がある方だ。

 同じクラスの友達というわけじゃないが、あの三馬鹿の破廉恥なやらかしは犯罪だろうとなんだろうと、性行為に至るべく暴力に走らない、強姦に走らないほどの”ヘタレ”なだけ、かろうじてマシな部類だ。

 そこだけはまだ友達として、被害者に許しを請えるものがあるとボクは信じている。

 

 むしろ、アイツらは”ヘタレ”だからこそ、ちょくちょく未遂で終わったり、見張りをしていた女の子に見つかったり、わざと用意された”覗きスポット”――――「そんなのが現実にあることのほうがおかしい」と気づかない側が馬鹿を見るだけなのだろうけど――――に、ひっかかる程度で済んでいる。

 かつてはお嬢様学校であったがために起こり得なかった事態に対して、先生たちの対応も日に日に進歩し始め、ようやく共学の高校らしい対策が練られ始めたのか、廊下を走る先生たちの重い足音が机を振動させてきた。

 それだけの先生方を動員するほどだ。

 いっそ、学園から追い出したいというのが先生たちの本音なのだろうけれども。

 

「気持ちは分かりますが、まだ授業中ですから。

 友達の事よりも、まずは自分のことをしっかりと。よろしいですかな?」

 

 だとしても、今までは現行犯で逮捕・・・・・・とは、いかなかったようで。

 どこかから先生たちの怒号が聞こえはじめて、ようやく三馬鹿の悲鳴が響き渡る。

 あんまりにも長く逃げすぎて、かえって先生方にも追いかけられる状況にまで悪化しきってしまったようだ。ついに大事として処断されるべきときが来てしまったらしい。

 もうちょっと走り込みとか頑張ってさえいなければ、早めに女子生徒たちに捕まって、ことが大事だと白黒つけられる前になあなあで見逃されたり、養護されたりでもしたのだろうか。なぜか少しだけ、外の女子生徒たちの声に迷いが見え始めた。

 

 原作では、きっと彼女たちの優しさに助けられていたのだろう。

 ボクはそう結論付けると、先生の言葉にうなずいて席に着き直した。

 

 こうして、何事もなかったかのように、むしろ何事もなかったことにしたいかのように、平常通りの授業が続けられる。

 

 ボクの名前は、月隠(つごもり)朔郎(さくろう)

 今時珍しい”郎”の字がある名前を授かり、この世界に転生した日本人。

 友達は、我らが【ハイスクールD×D】の主人公、兵藤一誠と他二名の三馬鹿トリオ。

 ・・・・・・以上。特典とか、特殊な生まれなんてものはない。

 純粋に一般人で、普通に入学試験に実力で通って、問題ない素行で青春をやり過ごしているような人間。それがボクだ、今のところは。

 

 

 

 放課後、どこかで聞いたようなやり取りを思い出しながら、夕方の犬の散歩をする・・・・・・つもりだったところを、家族からの頼まれごとで商店街まで自転車で走っていって、そのまま大量の荷物を持って帰ることになってしまった。

 なんだか状況がややこしいけれど、これがボクの家での日常。

 どういうわけか、家事のいろいろを頼まれるというか、頼まれやすいのかなんなのか。

 とにかく、おばあちゃんとお母さんからの買い物のお願いを、犬の散歩をする前にやることになってしまったのだ。

 頼まれた内容がとにかく多い多い、というより、おばあちゃんからの頼まれごとと合わさって、帰りの荷物が凄いことになっている件について、お母さんが気づいてないから加減も何もない状態になっていた。

 

 念のために、リュックサックも持ってきておいてよかったよホント。

 

 おばあちゃんは流石に気がついて「後回しにしてもいい」と言ってくれたのだけれども、さすがに振込とかそういうのは忘れてしまうと大変なので、後回しにするわけにもいかず。

 そうやって気がついたら、やることがいっぱいになっていたのである。

 

 生きるのって、大変だね。

 

「ん、あれって・・・・・・一誠、だよね?」

 

 自分の住んでいるところは、商店街から離れた住宅地で、非常に高齢化が進んでいて滅多なことではヒトが出歩かない。つまり、とても静かな町というわけだ。

 そこにある、寂れた公園。要素ひとつひとつを見れば、どこかで読んだことのあるような公園の状況と似通っていることは誰にでも分かる。

 そんな町の公園に、兵藤一誠が入ろうとしている、ということは。

 

「あの子が、”夕麻ちゃん”なのかな?」

 

 隣りにいる黒髪の女の子が、兵藤一誠に告白してきたっていう女の子・・・・・・で、なければおかしいはずだ。あれが堕天使のボディコン痴女(実年齢不明)なのだろう。

 できれば嘘じゃなくって、本心であってほしいんだけど。

 原作通りとかじゃなくって、もしものガチ恋愛の可能性に賭けたいんだけど。

 

 

 

『そうはならないのが、【ハイスクールD×Dの世界】というものだろう?』

 

 

 

 ぴたり、と、風に舞う木の葉が”停まる”。

 音が聞こえなくなり、目の前の景色も光輝き続けることを忘れ、絵の具のような色合いへと変わった。光が停まって目に届かなくなった・・・・・・と言うより、光そのものが絵の具のように、まったく別の光を吸収、反射するものになったのだ。

 こんなわけのわからない現象を起こせるやつは、たった一人しか知らない。

 

「来ましたね、神様」

 

『ようやく決心がついたのか?』

 

 振り向くと、白装束に身をまとった仮面のヒトがいた。

 そのヒトは懐中時計のようなものをお手玉のように弄び、ある懐中時計のようなもののひとつが右手に落ちたところで遊ぶのをやめる。

 

『幾十人もののサンプルを転生させ、特典を与えず、このような”チャンス”だけを与え続け・・・・・・ようやくだ、ようやく、私が選んだ人間のうちの一人が決断した』

 

 左手に持った懐中時計もどき、【アナザーウォッチ】。

 そのすべてを紫色の煙とともに消し、右手のたったひとつだけをボクに向ける。

 

『この国の、この町の、この舞台で。

 誰も知りえないどこかでではない、誰もが知っているからこその危険地帯で。

 ある未来を「知ったことではない」と目をそらすこともなく、「恐ろしいから」と逃れることもなく、「今、自分が変えたいから」と神である私に要求することもなく。

 かつ、「自分の正義のため」に立ち上がるわけでもない、だからこそ・・・・・・』

 

 右手のアナザーウォッチは、どこまでも黒く、禍々しい。

 そのチカラは、目の前の公園で起ころうとしている事件を解決するに足るだけの十分すぎるパワーを隠し持っている。

 正義の味方、【仮面ライダー】のチカラ。

 ・・・・・・それを”歴史ごと”奪い尽くして生み出される、悪夢の変身アイテム。

 ありもしないフィクションのヒーローを、本当にありもしない存在に変えるチカラだ。

 

『ようやくだ。今日という日にこそ。

 本当の意味で、私の計画は始まりを告げる・・・・・・!』

 

「・・・・・・よくわかりませんけど、助けられるんですよね?」

 

 喋ってることは胡散臭いが、やってることに嘘はない。

 そう信じさせられるほどの行動力が、目の前の”神様”にはある。

 あの”神様”には、ひとつの恩がある。

 ボクを転生させ、あるチカラを与えるに足るかを試すまで、転生先を選ぶ権利はもちろん特典なんてものも与えないとまで言い切り、本当に今の今まで普通に生きられる身体にさせてくれたんだ。

 そのくらいの無茶苦茶な真似をやってのけるほどの、”神様”の計画。

 テレビの中の絵空事のヒーローが本当に実在していても、その存在そのものを歴史からなかったことにしてしまう、どこまでも理不尽なチカラ。

 そんなものを計画に使おうというのだ。

 

 絶対に、ろくなものであるはずもない。

 

『もちろんだとも。このチカラを使えば、確実にだ。

 すべての運命は、正しい筋書きから始まるべきだったのだ。

 未来から過去を変えるのではなく、過去から未来を意図的に変えるわけでもなく、すべての筋書きは語られるべき物語が始まった瞬間から改竄する・・・・・・いや、”邂逅”するべきだったのだ。あるはずのないものとの遭遇とは、そうされるべきもの』

 

『でなければ、兵藤一誠の物語たる【ハイスクールD×Dの世界】とは。

 ”胸を張っては言えない。”――――そうだろう、我が契約者?』

 

 それでも、ボクは。

 この”神様”の計画通りも同然の動機で、戦うしかない。

 これじゃあまるで、アナザーウォッチのチカラを使わせる理由そのものを持たせるために、あえて何も持たせなかったんじゃないかと疑りたくもなる。

 

「・・・・・・本当に、なにが目的なんですか、あなたは」

 

『ただのご都合主義じゃダメかね?』

 

「だったら、その胡散臭い台詞。いらなくないですか?」

 

『・・・・・・なるほど。キミ以外に準備させるときは、もっとそれらしくしよう』

 

 アナザーウォッチを投げ渡され、受け取る。

 コイツは本来、契約させられる側が契約する側から埋め込まれて、初めて効果を発揮することが多いはずの代物なんだけれども。

 どうやら自分の意志で、自分で変身しろ・・・・・・と、いうことらしい。

 ”神様”は、ニタァと笑うと、

 

『準備はできているね? 彼の死まで後三秒、そして!

 今日からキミが、――――【仮面ライダーフォーゼ】だ!』

 

 もう、本来の歴史からは逃げられないことを、ボクに告げた。

 

 

 

 このようにして、月隠朔郎の日常は終わり。

 こうして兵藤一誠の物語は、始まりを告げる。

 

 

 

 

 

 THREE

 

 

 

 

 TWO

 

 

 

 

 ONE

 

 

 

 

 

 【Rocket(ロケット) ON】

 

 

 

 

 夕麻ちゃんの右手から伸びる光の槍が襲いかかった、その時!

 

「ライダーロケット、パンチ」

 

 ゴスッ、と自動販売機にサッカーボールがぶつかったみたいな音が鳴り響いた。

 そこから一瞬で夕麻の黒髪が目の前から消えて、公園のジャングルジムの方から物凄く痛そうな音が続けて聞こえてきた!?

 

「な、なんだぁ!?」

 

 ジャングルジムの方に振り返ると、そこには。

 

宇宙(ウヂュヴ)ゥ・・・・・・()たァァァァッ!!!」

 

 ・・・・・・なんか、白くてズングリムックリした、ゴリラみたいなのが立っていた。

 少し見えづらいけれど、そのゴリラの背中の向こう側にジャングルジムに絡まった・・・・・・絡まった? うん、絡まってる夕麻ちゃんが、カラスみたいな黒い羽をどす黒い液体に染めて、女の子がしちゃいけないようなエグい顔で痛がっている。

 女の子になにやってるんだオマエ! って、言おうと思ったんだけど、

 

「な、なによアンタ、なんの幻想生物なのよ!?」

 

 その当の夕麻ちゃんが、何もなかったみたいな仕草で普通に立ち上がってきたら、目の前のゴリラ野郎へのムカツキより、夕麻ちゃんの化物っぷりの方に息を呑んじまったよ。

 いや、おかしいだろ夕麻ちゃん。

 キミ、さっきジャングルジムに絡まってたよな、なんで普通に起き上がれるんだよ?

 金属に絡まってたんだぜ? 普通はそんなの、出たくっても出られないんじゃないのか!? だって、両腕とかが鉄の縄で縛られたみたいなもんなんだぞ!

 ・・・・・・あっ、縄で縛ってたって考えると、ちょっと鼻血出ちまった。

 

「ボク? ボクは、」

 

 このゴリラ野郎の一人称、ボクかよ!?

 とかなんとか思ってると、ゴリラ野郎が両手でとがった頭を両手でこする。

 キュッ、と車のガラスを拭いたような音を鳴らすと、

 

「仮面ライダー、フォーゼ」

 

 そう名乗った。仮面ライダーフォーゼ?

 とにかく、ゴリラ野郎は仮面ライダーフォーゼとかいう生き物らしい。

 仮面ライダーフォーゼ・・・・・・長いからフォーゼでいいか、仮面もライダーも名前って言うより、なんか魔法少女の魔法と少女みたいな、そういう響きがするし。

 そして、フォーゼの野郎は、ドラミングしたみたいな音を二回鳴らしてから、右の拳を夕麻ちゃんに突きつける。

 

「タイマン。はらせてもらう、ぜ・・・・・・!」

 

 そいつの後ろ姿は。

 肋骨とか背骨とか、そういうのを思わせるものが浮き出ていて。

 やってることは、すっげぇヒーローっぽく見えなくはないのに。

 

 助けてもらったはずなのに、なんだか、ものすごく怖く見えちまった・・・・・・。

 

 

 

 も、もらしてねぇからな!?

 

 

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