アナザータイム2008   作:ウェットル

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 これまでの【アナザータイム2008】は


 ”ボクの名前は、月隠(つごもり)朔郎(さくろう)。”

『今日からキミが、――――――――【仮面ライダーフォーゼ】だ!』

宇宙(ウヂュヴ)ゥ・・・・・・()たァァァァッ!!!」

「憶えてなさいよ、仮面ライダーフォーゼ。
 あなたのいないタイミングでも見計らって、そいつを殺させてもらうわ」



「・・・・・・これで、友達。友達、助けるのに、理由がいるカ?」




女・帝・逢・引

「ああもう、うるっさいなぁ・・・・・・!」

 

 早朝早々、校門の前で騒ぐ悲鳴が頭に響く。

 昨日は無理にテンションを上げて戦ったせいか、夜中は全く寝れなかったのもあって、起きてすぐの日差しすら目障りに思えるほどに寝不足だ。

 夜中の窓に写った影に「堕天使が来たのか」と思わず身構えて、けっきょくカラスだったと気づいたときの脱力感や疲労感なんかも、ものすごく残っている。

 もちろん、それだけで声がうるさく聞こえるわけじゃない。その悲鳴というのが、目の前の野次馬らしき制服でできたバリケードから聞こえてくるのだ。

 おそらく、そのすべてがうちの学園の生徒だろう。全員でなくとも、三割が騒げば十分すぎるほどの声量に聞こえてくる。

 

 登校時間に騒ぐんじゃありませんよ、ご近所迷惑ですよ。

 

 そう叫びたくもなるけれど、みんなが騒ぐほどの事態が目の前に起こっていることは事実。たった一組の男女が並んで歩いているという、かつては女子校だった駒王学園では決してありえなかった、けっこう普通な今ならではの光景。

 その光景に、ボクもまた悲鳴こそ挙げないけれど、それなりに驚いてはいた。

 

 変態の貴公子、この物語すべての性欲の化身。

 未来に赤龍帝と呼ばれるHERO、H(エッチ)ERO(エロ)野郎、兵藤一誠。

 

 学園三大お姉様、実は悪魔なのに悪女になりきれないヒロイン。

 かつ普通の女の子になりたい貴族のお嬢様、夢見る少女、リアス・グレモリー。

 

 彼らが二人ならんで仲良く登校していれば、誰だってびっくりする。

 生まれの種族を無視しても、生まれと育ちが庶民と御令嬢で、今現在はスケベなおっさんになる未来しか見えない野郎と、妙齢の淑女となっても女として輝き続けるであろう未来が約束されているも同然の生きた勝利の女神では仕方がないのだ。

 目の前の御令嬢の笑顔を見て、「一誠に騙されているんだ」と叫んで現実を否定しようとする生徒たちの声があがるのも。

 住む世界が種族的な意味を除いても違いすぎる生き物が、天使とミミズが仲良く歩いているようなもので、こればっかりはミミズが天使に飼われて最終的に飽きて捨てられるような末路しか思い浮かばないし、そこからミミズに付き合った天使が泣きを見る未来しか連想できなくなるのも仕方がない。

 

 基本的にヒトは、天秤に釣り合わないものを認めない生き物なのだから。

 その天秤を持っている本人が、どんな道理を知り、どんな業界を知っていようが。

 天秤に乗せられた側の気持ちなど、かけらも考えない。

 

 そういった意味においては、ああ。

 リアス・グレモリーにとっては、今こそが幸せの絶頂なのだろうと見て取れる。

 逆もまたしかりだが、良くも悪くも助平心を隠さない性欲に素直な男子とは、残念ながら助平心を隠したふりをしている下心丸出しな男子よりも、女子にとっては一周まわって爽やかに見えることもあるものだ。

 もちろん、ちゃんと助平心と向き合っている誠実な人間のほうが、どの性別にとっての異性であろうと、同性であろうと、もっと安心して付き合えるというものなのだが。

 

 大なり小なり男女関係に悩みがある人物にとって、オープンスケベで下心もなく助平心を正直に言えて、相手の魅力を細やかに丁寧に説明できる異性というのは。

 どんな善人ぶった見栄っ張り人間よりも、実は敵わない相手なのだと言っておこう。

こればかりは『そういう経験』がある人間じゃないと分かり合えない。原作の好きな部分だと、リアリティある部分だと正直に言える。

 

 とにかく、リアス・グレモリーにとっての魅力的な男性が、現状は兵藤一誠だけなのだろうということは見て取れる。実のところ、彼女と駒王学園の王子さまの話している姿を見たことはあるのだが、そのときの笑顔は目の前の笑顔とはまったくの別物だ。

 スキンシップひとつをとっても、まるでちがう。

 あんな朗らかで安らいだ笑顔なんて、少なくともボクが駒王学園高等部に入学してからの今までで、残念ながら一度も見たことがない。正直うらやましいと思う。

 

 問題は、そんな恋愛面のあれやこれやではなくて。

 

 

 

 

 

 助けたはずの幼馴染が、一誠くんが。

 なんで『殺された前提の歴史』どおりに登校しているんだ!?

 

「・・・・・・誰かが、あの後に殺したってことなのか?」

 

『間違いなく”あり得ること”のひとつだ、目の前のそれ自体は、な』

 

 ぴたり、と、流れる風が景色を歪めるままに停まる。

 あれだけうるさかった校門前の大騒ぎも、枠のない一枚絵のように動きがない。

 コツ、コツ、と、革靴の地面を鳴らす音が近づいてくる。

 

『貴様は主人公である兵藤一誠を助けた。

 これにより、ハイスクールD×Dの物語は始まりを変え、たった1枚の契約書(チラシ)から始まった悪魔たちの物語も過程を変える・・・・・・はずだったのだ』

 

 ”神様”だ。

 白い影が一誠くんへと近づいて、興味深そうに彼の胸元を覗いている。

 

『兵藤一誠は赤龍帝である以上、赤龍帝としての運命に抗うことはできない。

 この宿命、いいや、【ハイスクールD×Dの世界】における赤龍帝と名のついた因果関係のルールには誰にも抗えん。しかし、この事態は想定内ながら・・・・・・』

 

 ”神様”は一誠くんの胸を、三本の指でひっかくようになぞる。

 どう見てもそれは、爪でひっかく動きそのままにしか見えない。

 それでも、”神様”の指の動きだけで見れば、明らかに死ぬほうがおかしい傷の小ささ。

 

『実につまらん、誰がやったのかは明白だ』

 

 そんな傷を作ることの出来る武器といえば、ひとつしか思い浮かばない。

 純粋にハイスクールD×Dの世界の武器であれば、別にあってもおかしくはないけれど。

 不思議アイテムの神器、セイクリッド・ギアとなるとありえない代物だ。

 何の逸話もないし、大した物語もない。似たような武器を生み出せるような動物になる神器もアリとなると推理に困るけれど、死因は何であれ、ヒントはたったひとつ。

 

「まさか・・・・・・鉤爪で貫かれて?」

 

 ふんっ、と、”神様”に鼻を鳴らされた。

 

『そこまでわかるなら、話のすべても・・・・・・わかるだろう? 本当は』

 

 

 

 

 

 ”神様”の姿がかき消えると同時に、一誠くんが驚いて飛び上がる。

 

「うおっ!? なんだ、今胸がゾクゾクって!」

 

「あら、私は触っていないのだけれど・・・・・・いえ、そんなはずはないわ。

 まさか、傷口が治ってないのかしら。あれだけ魔力を使ったのに、妙ね・・・・・・」

 

 キョトンとした顔で周りを見る一誠くんを、心配そうに見つめるリアス・グレモリー。

 周りの喧騒が元通りにうるさくなり、先程の一誠くんたちの会話が埋もれていく。

 まったく“神様”もヒトが悪い。おちゃめなイタズラをして帰っていったようだ。

 

「あ、一誠くん!」

 

 とりあえず、白々しいけど。

 たった今一誠くんに気づいたかのようなふりをして、二人に近づいてみる。

 

「あら、兵藤くんのお友達かしら?」

 

「えっと、こいつは俺の友達のサクローです。月隠朔郎。

 ・・・・・・って、なんでお前っ、そこはリアス先輩が先じゃねぇのかよ?」

 

「いやぁ、風のうわさで『付き合ってる女の子がいた』ってのを聞いたからさぁ!

 よーするに、”そういうこと”なんじゃないのかなー? ってね?

 やっぱ先に聞きたくなるじゃん、聞きたくならない? 聞きたくなるなるぅ!

 やっぱそういうことなんですかね、先輩! おっはようございまっす!」

 

「え、ええ、おはよう月隠くん・・・・・・」

 

 リアス・グレモリーを相手に先に挨拶するなんて、するわけがない。

 こっちが聞きたいのは、体裁こそ友人の恋愛沙汰ということにしたけれど、まずは「兵藤一誠とリアス・グレモリーは付き合っていない」という公の場での発言だ。

こ んな調子で一月ほどもクラスメイトたちにうるさくされたら、一誠くんの破廉恥騒動が可愛く思えるほどの女子生徒たちの姦しいうわさ話やら、男子生徒たちの妬み嫉みの声やらを横から聞き続ける羽目になってしまう。

 噂話で学園中が盛り上がりすぎる前に、とっとと冷水をかけて鎮静させてしまいたいのだ。人間はパンによってのみに生きるに非ず、されど噂話も過ぎれば酵母の入ったパンと何も変わらず。

 

 そういうのは、日本史を担当する老紳士殿の苦労にも繋がるし。

 事の発端であるスキャンダルの生みの親には、先輩を敬う挨拶よりも教師を敬うドロップキックをかましたい。ドロップキックをやるくらいなら無自覚な先輩よりも、大事な友達の方を優先して挨拶するに決まっている。

 

 ぶっちゃけ、この状況が嫌なのさ。マジで。

 

「えっ!? い、いや、俺とリアス先輩は、そのっ!」

 

「たまたまバッタリ会って、なんとなく話が合っちゃったのよ。

 話に聞いていたのより可愛いから、つい、こう『ぎゅっ』って・・・・・・ダメかしら?」

 

「あ~、なるほど、そーですかー・・・・・・だいたいわかった。

 よかったね一誠くん、エロ野獣からペットに格上げしたっぽいよ~?」

 

「なんで残念そうな目で見るんだよ!?」

 

 なるべく大きな声で一誠くんに話し続けていたからか、話の内容を把握した生徒たちが「なんだそういうことか」と、ひとり、またひとりと校門をくぐって、野次馬の群れから離れていく。

 気のせいか、自転車に乗っていた主婦らしき人たちが頭を下げて通りすがっていった。

 それでもまだまだ野次馬の群れは多すぎるようで、通りすがれるだけの道の幅も自転車一台が通れる程度という大混雑。どうやったら減らせるものかな、野次馬の数。

 

「いやぁ、だって一誠くんさぁ、ほら。

 ジャーキーもらえるって思ったときの犬に似てるじゃん。

 エロ本を拾うときの顔つきとか、風が吹いたときの女の子を見る目つきとかさー?

 それが可愛かったんじゃないの、たぶん。気持ちはわかるし」

 

「おっ、お前、まさかそういう目でっ」

 

「そういう目って、どういう目?」

 

 何のことを言っているんだろう、という怪訝な目つきで見つめるのを忘れない。

 こういう仕草のひとつも見せないと、この学園の発酵しまくったラフレシアの花の群生地が大変なことになる・・・・・・なんていうのは、もういい加減に対処に慣れてきた。

 どうせ、この野次馬の群れに紛れ込んでいるのだろう。見慣れたメンバーが隠れて見ているのは気づいちゃいた。きっと、見慣れない隠れ腐女子たちもいるかもしれない。

 今の対応は今の対応でネタにされてしまうのだろうけれど、こういう仕草で「そういうネタ」を連想しようとした連中に罪悪感を抱かせないと、ネタにされるなりに騒がれ加減をコントロールしきれないままに面倒な事態になってしまう。

 

 いや、本当に苦労しているのだ、別に学園の王子様みたいなキャラではないのに。

 どうも彼女たちには、エロに目がない野犬と、その野犬に話しかける純朴な室内犬みたいな体裁に見えるらしい。本当に困っているんだ。

 

 ボクと一誠くんの同人誌とか、見せられたの二度や三度じゃないからね。

 

「あっ、やばい、朔郎くんがチベスナみたいな目になってきた」

「退散よ退散っ! これはこれで濡れるけど・・・・・・」

「ばかっ、なに口にしてんのよ、先生にチクられて検挙されちゃうわよ!?」

「許してくれるうちが花なのよ、同人活動は!!!」

 

 わいわいと周りの喧騒の半分ほどが校門をくぐり、校舎へと走り去っていく。

 

「ええっ!?

 いやいやいやいや、半分もそういうの狙いで立ち止まってたわけっ?

 さ、さすがにそれは、通行の妨害がすぎると思うんだけどなぁっ・・・・・・?!」

 

 今のは、いくらなんでも先生たちになにか言われたら擁護できないぞコレ。

 見てみないふりが通用するのも、そろそろ限界がきてしまうのではないだろうか。

 彼女たちへの今後の対応をどうしたものかと考えていると、さっきまで様子をうかがっていたリアス・グレモリーが話しかけてきた。

 

「あ、あの、なんだか・・・・・・ごめんなさいね?

 急な話で悪いのだけれど、すこし訊ねてもいいかしら」

 

「え、あっはい」

 

 今のごめんなさいは、どっちの意味なのだろうか。

 こちらへと近寄るリアス・グレモリーは、じっ、とボクの目を見つめる。

 

「仮面ライダー」

 

 小さく、蚊が鳴くような声でつぶやき続ける。

 

「UMAだったか、都市伝説だったか。

 そんな名前の存在を、どこかで聞いたことはないかしら?」

 

 神妙な顔で訊ねてくるものだから、何事かと思えば。

 なんだ、そんな程度のことか。未だに、その程度の問題でしかないのか。

 

「首なしライダーなら知ってますよ? 池袋とかの」

 

「・・・・・・そうよね、どっちかっていうと、そっちのが有名よね。

 私も初めて聞いたのよ、仮面ライダー。なんなのかしらね?」

 

 不思議そうに首を傾げると、踵を返して、一誠くんを抱き寄せたまま歩き去ろうとしていた。はたから見ると、一誠くんが攫われているようにも見える。

 

「あっ、ちょっ、リアス先輩っ!?

 うへへ、やっべぇ、夢に見たおっぱいが・・・・・・じゃなくって!

 サクロー! あとで教えるから、お前にも、昼休みに! 仮面ライダーな!」

 

「りょーかーい」

 

 もちろん、そんなものは知っている。

 転生してもなお色褪せない、正義の血潮の赤いマフラー。

 今生の世界では耳にすることもない、一誠くんにとっては似たような立場にある戦士たちの代名詞。混じりけのない世界のHEROの名前。

 その偽物であるボクが、知らないはずもないけれど。

 今は、口を閉じていよう。

 

 

 

 

 

「っていうか、リアス”先輩”って。

 ライトノベル、読むんだ・・・・・・??」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子、ちょっと変わった子だったわね」

 

 リアス先輩が俺の腕を抱き寄せたまま、階段を登る。

 ああ、至極の白い宝玉が、リアス先輩のおっぱいが!

 たゆんたゆんと動いている感触が伝わって、俺、このままじゃ天国への階段まで昇っちまいそうだよ・・・・・・。

 

「そっ、そうっすかね?

 あいつ、テンション上がるとああなりますよ?

 そーじゃないときは静かで、図書館が似合いそうな感じの。

 なんかそんなヤツなんですよね、楽しいのが好きなのに物静かなっていう」

 

「いえ、それは別に普通だと思うわ。

 うちの部の子もどっちかっていうと、そういう子だもの」

 

「へ? 先輩の部活ってどこなんですか??」

 

 そういえば、学園三大お姉様って呼ばれちゃいるけど、放課後のリアス先輩の部活だけは誰も知らないんだよな。知ってるひとは知ってるらしいけどさ、だいたいみんな黙っちまうし、むしろお前らには教えないって言って蹴っ飛ばされるんだよ。

 ひっどいよなぁ、そりゃあ、覗きとかやってっけどさぁ。

 そんなことにまで覗きとかの件を持ち込むもんなのかよ? 納得できねぇ!

 

「あら、それは秘密よ。

 いずれ、あなたを部員のみんなに紹介するつもりなのだから・・・・・・あなたがどこの部活なのかを知っちゃったら、みんなへのサプライズにならないでしょう?」

 

 り、リアス先輩が人差し指を唇に当てて、くすくすって!

 俺なんかに、俺なんかにリアス先輩が笑いかけてくれただって!?

 その笑顔は妖艶さすら感じさせる、いかにも”小悪魔”っぽい笑顔だった!

 これで俺より一個上で、今の今まで一緒のベッドで起きて、一緒に学校に行って、俺の友達とも一緒に喋っている現実の美少女! 昨日の夢が嘘みたいな幸せっぷり!

 ゆ、夕麻ちゃんの件は、その、”死ぬ夢を見るくらい”すげぇ辛かったけどさ。

 やばい、今日は、本当にリアス先輩に殺されそう・・・・・・。

 

 

 

 

「やっぱり何かが変ね、あの子。

 あんな事件の後だもの、証拠を残すはずもないし。

 例外なく”処理”はされているはず、なのよね・・・・・・?」

 

 

「この子の友達だから、面白い子なのかしら。それとも・・・・・・」

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