アナザータイム2008   作:ウェットル

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 前回の【アナザータイム2008】は


「・・・・・・誰かが、あの後に殺したってことなのか?」

『間違いなく”あり得ること”のひとつだ、目の前のそれ自体は、な』


『実につまらん、誰がやったのかは明白だ』


「仮面ライダー」



「UMAだったか、都市伝説だったか。
 そんな名前の存在を、どこかで聞いたことはないかしら?」


(修正箇所:ルビほか。)


美・男・暗・躍(?)

 ときは穏やかに過ぎ去り、放課後。

 老紳士先生の授業で歴史雑学も交えた知識を学んでいる間、どういうわけか一誠くんを含めた色ボケ三人衆が騒ぎを起こすこともなく、非常に集中できたからなのか。

 たった数科目ほどのための学習時間が濃密ながら、破廉恥騒動に頭を悩ませる時間をやりすごしながらチャイムが鳴るのを待つ日常の濃密さとはちがう「楽しさ」があったからなのか。

 ひと科目の終了だけで朝日を見上げるときの爽やかさがあった。

 

 ・・・・・・そうだよ、こういう時間だよ。

 元がお嬢様学校で偏差値が高めの場所なんだから、このくらいの充実した勉強ができるはずなんだよ。そりゃあ生徒会のメンバーが必至になって後処理を頑張るよ。

 ある意味では異形の一種とも言えるボクでさえ、普通に生活しているだけなのに勉強が楽しくて、確実に夢に活かせる知識や歴史に夢を抱ける知識を得ることができる学校にいるんだ。そんなのうるさくされたくはない。

 生徒会にいる転生悪魔たちは、そのうえで社会進出前提で悪魔に転生している連中なんだから、きっと破廉恥騒動のときの煩わしさへの悪感情はボクの比ではない。

 

 他の転生者たちが戦う力を持っていたら、生徒会のみんなのように我慢したりしないで殴りかかっていくのだろうか。

 

 だからといって、彼らと友達であることをやめるつもりもないけれど。

 

「やっほー!

 一誠くん、松田くん、元浜くん。

 大富豪やろうぜ、大富豪。効果カード全部ありで!」

 

 どかん、と、教室の扉を回し蹴りで開けて、強制的にドスケベ三人組の目線が集中するように大声で話しかける。もちろん名指しだ、無視したら許さんぞとばかりに詰め寄るためのクラウチングスタートへの準備も欠かさない。

 いろんな方向から聞こえてくる安心したかのようなため息や、緊張がほぐれたかのような空気の変化を把握しながら、一誠くんの席に目を向ける。

 

「サクロー! 頼む、元浜を止めてくれ!」

 

「無い乳の話とかつまんねーんだよ、どうにかできねーか!?」

 

 そこにはメガネを何度もくいくいと上げ下げしながら、一誠くんや松田くんに詰め寄る元浜くんの姿があった。一誠くんの机周りの床には官能的な雑誌が散らばっていることは見て取れるものの、肝心の机の上には、明らかに床にあるものと方向性のちがうものが置かれていることが見て取れる。

 漫画雑誌であることは確かなのだが、どう見ても見た目だけで言えば、内容は。

 

「サクロー氏ィ! 今ちょっとロリについて重要な講義をしているん――――」

 

 なるほど、だいたいわかった。

 即座に手持ちのトランプをポケットに入れて、別のポケットから絵柄の異なるトランプを取り出す。こんな事もあろうかと、備えあれば嬉しいな。

 もとよりサルコシントリオは「おっぱい派」「セクハラ派」「ロリ派」に分かれ、混沌を極めることなど珍しくもない。

 

「【ロリきゅーぶっ!】の【きゃっとのあな】特典トランプでだァ!!」

 

「乗ったァッ!!」

 

 そういうときに頼りになるのは、別にR指定などないライトノベルのイラストの魔力。

 いいくに つくろう オタク文化。三人を相手にするならば、三人にベストマッチするトランプなりウノなりを用意するに越したことはない。

 ついでに、そのグッズを使って盛り上がるようなゲームも選出すればよいのだ。

 

「た、助かったぜ、リアス先輩の、げふっごふっ!

 とにかく、ああ、そうだな大富豪だな! マジで助かったよサクロー!」

 

「えぇ~っ、ロリきゅーぶのトランプかよぉ・・・・・・痛っ!?

 な、なにすんだよイッセー?」

 

(確か、おっぱい大きいエロ先生の絵もあるやつだったはずだぜ?

 俺、前に読ませてもらったんだよ。ありゃあけっこう・・・・・・うへへ・・・・・・)

 

(て、てめー、リアス先輩のものじゃ飽き足らず二次元にも手を伸ばすのかよっ?!)

 

 ・・・・・・なんか二人がわちゃわちゃしてるけど、気にしない、気にしない。

 急にひそひそ話をして、二人揃って鼻の下を伸ばしているところなんて見ていない。

 元浜くんも少し冷たい目になって、二人のことを見ていた。

 あくまでもロリコンである彼にとって、相容れない性癖に抵触しやすい二人の暴走はものにもよるのか、だいぶ反応が周りの人に近いものがあるように見えた。

 

「哀れな。

 あの女史は保護者であって、そういう目で見るべき相手ではないというのに・・・・・・」

 

 あ、ちがった、これ単純にファン目線での性癖談義だ。

 相変わらずエロが関わると面白いコメディを見せてくれるなぁ、と、三人のやりとりに気を遠くさせかけつつ、トランプを元浜くんに預ける。

 

「シャッフルは元浜くんに任せるよ、新品だよ?」

 

「マジか、マジなのか、いいのかサクロー氏!?」

 

「うん、エロはともかく、作品が好きなもの同士ってことで!」

 

 ひゃっほいと飛び跳ねる元浜くんからも目を背けて、こちらの様子をうかがう一誠くんのクラスメイトに右手で親指を立て、サムズアップを作る。

 何人かのクラスメイトが意味を察して、机の陰や友人の陰からサムズアップを見せた。

 Complete、ラブアンドピースな下校は彼らのゴールになれたようだ。

 やっぱり一誠たちには、真正面から殴るよりも悪乗りに悪乗りで対抗して、そのまま変態と相乗りして話を逸らすほうが効果的に対処できる。

 

「よーし、それじゃ、トランプを配るぞ皆!」

 

 シャッフルが終わったのか、なにやら満足げな顔で元浜くんが雑誌を片付ける。

 しかし片手間で片付けていたせいなのか、右手のトランプが表裏ひっくりかえって掴まれているのが見て取れる。ははぁん、さては彼、絵柄を楽しみながらシャッフルしてイカサマの仕込みでもしたな。

 

「ほほぉん・・・・・・」

 

 いい度胸だ、ファンとしては感動的だな。

 だが、テーブルゲーマーとしては無意味だ。

 大富豪でイカサマをしても、人数はたったの四人。五人ならばともかく、四人というのが無意味さを生み出させる最大の原因になっていることに気がついていない。

 ジョーカーを含めて五十二枚、五人に配れば約十枚、四人に配れば十三枚ずつ配られることになり、たった三枚ほどの手札の違いは引き込むカードの確率さえも大きく変える。

 引き込んだカードが五以下の数札であれば、五飛びと革命下での三と四で十分に逆転可能である点は五人に配った場合と同じであるものの、誰か独りにそれらを固めて送りやすい四人の場合、五人の場合よりもどうしても十一の絵札による効果、イレブンバックで一時的に革命と同じ状況に持ち込まれた際に、固めて送られた側が一方的に勝ち進むことができてしまう。

 イカサマで仕込んで相手に送りつけるならば、数札の六、九、絵札の十二と相場が決まっているのが大富豪。三の倍数のカードに限って、すぐ上のカードに強力なカードがあり、すぐ下のカードにも効果カードが有るからだ。もちろん三の数札を除く。

 それらは革命だろうとイレブンバックだろうと問題なく手札に余らせ、送りつけた側が優位に効果カードを切り札に出来る組み合わせ。元浜くんのイカサマは、残念ながらそれを熟知しているイカサマとは思えない。

 一誠くんも松田くんもエロ妄想の内緒話に夢中で、元浜くんからイカサマをされている可能性には気がついていない。

 

 この勝負・・・・・・もらった!

 

 

 

「あ、あの~、どの彼が兵藤くんなのかな?」

 

チョ、チョットマッテ(ちょ、ちょっと待って)キミヴァディレ、イドゥノマイキデティノ(キミは誰、いつの間に来てたの)!?」

 

 

 

 凛としているような、穏やかなような声色が教室に染み入る。

 わいのわいのと四人で騒いでいるところに、なぜか割って入ってきた北欧系美少年の声が鼓膜に激突してきたら誰だって驚く。ボクだって驚く。

 そもそもクラスメイトの誰もが、この彼とは関係のないはずの人間ばかりだ。

 ・・・・・・ぽかんとしている一誠くんはともかく、ボクを含めた“人間”の皆は、少年のものと呼ぶにはふさわしいが男性のものと呼ぶには難しい髪質をもつ、目の前の美少年に声を失っていた。

 

「えっと、その・・・・・・僕、なにか変なことでもしたかな?」

 

 どうして彼が入ってくるまで、うちのクラスの腐女子たちが騒がなかったのか。

 どうして彼が入ってくるまで、うちのクラスの婦女子たちが騒がなかったのか。

 しん、と静まり返った教室で、教室の隅で女子生徒の桐生さんがぽつりとつぶやいた。

 

「いや、あんたらが騒ぎすぎてたから、みんなに気づかれてないだけだし。

 木場きゅ、木場先輩はなんも変なことしてないっすよ。空気だっただけっす」

 

 ああ、なるほど。

 

「そ、そうなのかい? よかった、びっくりしたよ。

 ・・・・・・僕の名前は木場裕斗。グレモリー先輩からのお願い事でね、兵藤一誠くんを連れてくるように言われているんだ。キミたちのうちの誰かだとは思うんだけど・・・・・・」

 

「グレモリー先輩・・・・・・リアス先輩!

 そうだ、そうだよサクロー、お前らに仮面ライダーの話がしたかったんだ!」

 

 一誠くんがボクを見て、なんだか楽しそうな表情になる。

 今にも仮面ライダーについて、おっぱい談義並みに長く話しそうなノリの勢いだ。

 一方で、木場裕斗が眉根を寄せ始めていた。あんまり長く待たせちゃいけないような用事なのだろう。もう、それがなんなのかは予想がついた。

 

「仮面ライダーはいいから、用事を済ませにいきなよ。

 美女のお誘いに美少年の使い、少女漫画もびっくりな超展開じゃん。

 早めに戻ってきてね、四人揃ってないとノリが悪くなるからさー?」

 

「そうだぞ、またグレモリー先輩かって思ってないからな」

 

「我ら非モテ組で美女に陥落するとは・・・・・・しょせんはイッセー、我ら四天王のうち股ぐらが最弱の男よ・・・・・・」

 

「元浜くん、ホ◯ッキーの先が逆だぜ。それだとチョコの味がしない」

 

 しれっと学校にお菓子を持ち込んでボケる元浜くんも、けっこう準備がいい。

 その気遣い、ノリのための下準備、全部女の子への優しさに変えたら絶対モテると思うんだよなぁ彼。やっぱり、なんか一誠たちは全員残念すぎると思う。

 

「えっと、ねえ、本当に僕って悪いことをしちゃったのかい?」

 

「木場先輩はいいから、アタシが一誠の代理でやるんで!

 ほら一誠、すぐに行って戻ってこーい! いやほんとマジで急げ?」

 

「お、おう! いこうぜ、じゃなくって、いきましょう木場先輩!」

 

 どかどかと走る一誠くんを追う、木場裕斗。

 この学園は、けっきょくのところ本来の歴史のとおりに巡るらしい。

 それは別にいいのだけれども、なんだか昨日頑張った意味がないかのような気すらして。モブキャラでもいいんだけれど、正直なんだかやるせない。

 

「一誠くん、モテモテですなー。

 元浜くんホ◯ッキーちょうだい、いややっぱいいわ、ノれない」

 

「あからさまな嫉妬、ネタにされるぞサクロー氏?」

 

「なんの?」

 

「気づかないほうがいいぞサクロー」

 

「え、松田くん、なにを?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まったく、我が契約者も間抜けたものだ』

 

 駒王学園の校舎を見下ろす白い影。

 電柱の上に立ち朔郎の姿を捉えていた”神様”は、困ったように肩をすくめていた。

 

『今朝の出来事は、確かに今朝に起こりうるものではあった。

 だが、「原作においては、もう少し数日経ってから起こるもの」だったものだ。

 転生して通常通りに生活していたせいか、やはり原作に関しての記憶に劣化が見れる。まだ兵藤一誠は、堕天使ドーナシークに襲われてすらいないというのに・・・・・・』

 

 どこからか文庫本を取り出すと、ページをめくって、ある挿絵が見えたところで指を止め。そこからページを逆にめくり、ある文字列が記されたページにしおりを挟む。

 

『いや、その点においては、他の契約者も同じ話か。

 むしろ、あらゆる物語の始まりを正確に覚えている転生者のほうが稀有なもの。

 誰もが起きてすぐの物事は正しく憶えていないのと同じように、あらゆる物語の始まりをしかと覚えているものもまた少ない』

 

 そのしおりには、四文字の数字がいくつか並べられていた。

 2003、2010、2011、2013。はっきりと読める数字はこれら四つのみで、ほかの数字は指の脂で滲んでしまったのか、なんと書かれているのかはわからない。

 

『その後に動いた運命にばかり、気を取られてしまうからだ。

 運命こそが物語の醍醐味ではあるのだが、しかし、あの契約者は先を急ぎすぎた。大まかな物語の記憶にばかり縋るせいで、正しい時の流れを自ら捻じ曲げ、自分の計画を乱し始めていることに気づいてすらいない。

 まだ我が契約者のほうがマシな程度か・・・・・・』

 

『さて、あの契約者はどうしていることなのやら。

 我ながらろくでもない間違いを犯したものだ、せめて我が契約書の進言をまともに聞いてさえいればアナザーフォーゼの誕生より前に、ここまで事態が悪化することもなかったというのに。やはり私は、』

 

 文庫本を閉じる。

 その文庫本は大量の付箋が差し込まれており、見れば見るほど何度も読まれていたことがわかるほど、ページの端が黄ばんでいて表紙の色が抜けてしまっている。

 表紙の一枚絵に至っては、もはや誰の髪が何色なのかもわからない。

 そうなるまで使い古されていたからなのか、1枚の付箋がこぼれ落ちる。

 

『【仮面ライダー】というものを、軽く見すぎていた』

 

 2015。

 橙色の付箋は風に乗り、どことも知れぬ場所へと旅立っていった。

 

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