サガフロンティア アセルス編   作:おめかけ

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幕間 光刃皇帝アルカイザー第三十二話『妖艶! 都会の影に潜む蜘蛛!』

光刃皇帝アルカイザー第三十二話『妖艶! 都会の影に潜む蜘蛛!』

 

 

■前回までのあらすじ

 

 今度こそシンディー・キャンベルを追い詰めるべくマンハッタンへと戻ってきたレッドとヒューズ。まずは作戦会議とファーストフード店で食事を摂ることにした二人だったが、注文したハンバーガーにトマトが入っているというとんでもない事件が発生する。『俺はトマトが嫌いなんだよ、クソッタレ! トマト入れるんならトマトバーガーって名前にしろや!』腹を立て不貞腐れるヒューズはそっぽを向いたままオレンジフロートをちうちう啜る。

 このままでは作戦会議が進まない……。焦りを深めるレッドにその時、一人の子供が歩み寄る。『お兄さんたち、キャンベルビルに用があるの? ボクもそうなんだ。仲間に入れてよ』突然の申し出に訝しむ二人に、その子供──ウロネブリは無邪気な口調で自らの目的を語り始めるのであった……。

 

 

 

ウロネブリ「……そいで、ボクは助けてくれたセアト君の役に立ちたいの。あのキャンベルビルにはすごく悪い奴がいるからやっつけなくちゃならないんだ」

レッド「悪い奴って?」

ウロネブリ「ええとね……。ア、ア……アセ……ええと……なんだっけかな……あれえ……?」

ヒューズ「アラクーネ、か?」

ウロネブリ「うん! 多分そんなかんじ」

ヒューズ「ふーん。ま……いいんじゃね?」

レッド「おいおい、ガチで言ってんのかよ? どう考えてもガキだろ、こいつ」

ウロネブリ「ボク、ガキじゃないもん!」

レッド「もん、とか言ってるし」

ヒューズ「いやーなんか話聞いた感じだといい奴っぽいじゃん、こいつ。要するにイジメられてるところを助けてくれた兄貴分に恩を返したいわけだ。泣かせるじゃねーか」

レッド「そうか……? 毒、とか腐る、とか、割とヤバイ単語がぽこぽこ出てくる話だったような気がするんだが……。それによ、こんなちっさいガキを危ない目に会わせるってのは、どーにも気が乗らねーんだよな」

ヒューズ「テメーが守ってやりゃいいだろが。大体、ガキっつっても見た目だけだしよ。妖魔だろこいつ。本当は俺達より長生きしてんじゃねーか?」

レッド「マジか!」

ウロネブリ「まじだよ」

レッド「よくわかるな……」

ヒューズ「人外の奴は匂いでわかる。テメーとはくぐった修羅場の数が違うんだよ。メモっとけ俺の名言を」

レッド「お、おう……」

 言われた通り素直にメモをとるレッドに多少なりとも機嫌を直すヒューズ。

ヒューズ「そんじゃ、戦力も増えたことだしさっそくキャンベルビルに殴りこむとするか!」

レッド「待てよヒューズ。俺たちはキャンベルを追い詰めるための作戦を練っていたんじゃなかったのか?」

ヒューズ「作戦は考えた。だが思いつかなかった。そういうことだ」

レッド「おい」

ヒューズ「ヤツがただの妖魔なら何も問題はない。ぶっちめればそれで済む。殴られたからっつって警察に駆けこむ妖魔なんてもんはいないからな。命のソンゲンを謳っちゃあいるが現行法は妖魔がいくら死のうが見て見ぬふりさ。たとえ都会のど真ん中で妖魔が死んでいたとしても出動するのは市の清掃局くらいだろう。……だがキャンベル──毒のアラクーネの場合はちと事情が違う。何しろあのアマは今やマンハッタンの名士でいやがる。いくらIRPOだっておいそれと手を出すわけにゃいかねーんだ。家探ししてうっかり何も見つかりませんでしたなんてことになってみろ。キャンベルだけじゃない、マンハッタンの住民全部が敵に回るだろうよ」

レッド「……あんたの口からそんな意気地のない台詞を聞きたくはなかった。正義のIRPOが笑わせるぜ」

ヒューズ「馬鹿野郎。話はこっからだ。……いいか? つまり法律で奴を裁くのは難しい。かといってキャンベルとブラッククロスとの繋がりを証明するってのは更に困難だ。こないだの事件で折角の手掛かりは奪われちまったからな」

レッド「それで?」

ヒューズ「おう。だから、IRPOとも都市警察とも関係のない頭のイカれた奴がキャンベルビルに殴りこみをかけるワケだ。そうするとどうなる? もちろんキャンベル側は警備を動かすだろうが、いよいよ自身に危険が迫れるとなればブラッククロス仕込みの力で抵抗してくるだろう。そうなりゃこっちのもんだ。戦闘員の二三人捕まえりゃ証拠としちゃ十分だろ」

レッド「……もし、キャンベルが最後まで抵抗しなかったら?」

ヒューズ「頭のイカれた奴が白昼堂々ビルに侵入しキャンベル貿易の社長シンディー・キャンベル女史に暴行を加え、殺害。まあ悲しい事件だな」

レッド「アンタ本当にクレイジーだな……! だいたいそんな都合よく頭のイカれた奴がいるわけが……いるわけが……。……って、おい、侵入するのって俺なのか!?」

ヒューズ「察しが良いな。行ってこいレッド。正義のために」

レッド「絶対に嫌だ」

ヒューズ「そうか。じゃあウロネブリに頼むわ。……やってくれるよな、ウロネブリ?」

ウロネブリ「うん。よくわからなかったけど別にいいよー」

レッド「いたいけな子供を騙してんじゃねぇよ! そんなやり方認められるわけがないだろう!」

ウロネブリ「ボク、子供じゃないよう!」

レッド「……おう。すまん……」

ヒューズ「テメーは難しく考えすぎなんだよ。近づきさえすればキャンベルは必ずシッポを出す。何も問題はない」

レッド「でもなぁ……。失敗したら俺は殺人犯になるわけだろう?」

ヒューズ「要はバレなきゃいいんだ、バレなきゃ。目だし帽でもかぶってけ」

レッド「完全に犯罪者じゃねーか!」

ヒューズ「うるせぇなぁ。……そうだ、じゃーお前、アレだ。アルカイザーになれ!」

レッド「なっ」

 突然の言葉にレッドは仰天し、持っていたチキンナゲットをぽとりと落とす。落としたナゲットをウロネブリが摘み上げ、フッと息を吹きかけてから口の中に入れにっこりと笑う。

レッド「な、な、な、何を言ってるんだ、よう。ヒューズさん、よう。なれるわけがないだろう。アルカイザーになんて。そんな、あなた、オソレオオイ」

ヒューズ「恥ずかしいやつかお前は。何その反応。……別にフリだけでいいんだよ。アルカイザーはブラッククロスと敵対してる。そのアルカイザーがキャンベルのビルに乗りこめば、奴らだって『バレチャッテルナー』ってなるだろ多分。あとは向こうの反応を窺いつつ臨機応変にやってくしかない。……他に何か名案があるか? あるのなら言え。無いのなら黙っとけ。行くぞ、レッド! ウリ坊!」

 意気揚々とファーストフード店を出ていくヒューズに対して残る二人は暗い顔をしている。

レッド「大丈夫かなぁ……」

ウロネブリ「……なんか、へんな、あだな、つけられた……」

 

 

 

 

マンハッタン、キャンベルビル・エントランス。突然現れた奇妙な扮装の三人にざわめきが広がる。

 

 

受付「あ、あのう……。どのようなご用件でしょうか……?」

 震える声で尋ねる受付の女性にヒーローマスク(主材料・紙袋)をつけたレッドは堂々と答える。

レッド「私の名はアルカイザー。こちらの社長に用があるのだ。取り次いでくれないか?」

受付「その……アポイントメントはおありですか……?」

レッド「もちろんあるとも。この胸に漲る正義の心、それが社長と私の間に結ばれた約束だ」

受付「(言葉が通じないタイプの人だわ……)。ひぃ……。う、後ろの方たちも同じご用件で……?」

 顔を引き攣らせる受付。

ヒューズ「俺の名前はジョイ・ディヴィジョン。アルカイザーの相棒だ。マンハッタンでワルをやってた俺だがある事件でアルカイザーに助けられてからは心を入れ替えて仲間になった。気は優しくて力持ちだが頭が悪いのがちょっとした欠点だ」

ウロネブリ「ボクの名前はリー。アルカイザーの弟分だよ。アルカイザーの武器はボクが発明したものなんだ。天才だけどおっちょこちょいなのがたまにキズ。ピーマンだけは食べられないよ」

受付「……ご予定を確認いたしますので、少々お待ち下さいませ……」

レッド「ありがとう、お嬢さん」

 

 

受付は手元の端末を素早く操作し警備部へと連絡を入れる。

受付「ヤバイ人来てます」

警備員A「具体的に言ってくれ。どこがヤバイんだ?」

受付「頭です。アルカイザーとその仲間を名乗っていますが、社長に会わせろと言っています。今日、この時間に社長が誰かとお会いになる予定はないはずです」

警備員B「映像を確認した。すぐに行く」

受付「大至急お願いします」

キャンベル「待ちなさい」

受付「社長! この通信を聞いていらしたんですか?」

キャンベル「そんなことはどうでもいいでしょう。それよりも、そちらのお客様なら問題ないわ。7Fの会議室までお通しして頂戴」

受付「え、あ、は、はい。……でも、よろしいんですか? 見るからに怪しいのですが……」

キャンベル「いいのよ。ごめんなさいね。伝えるのを忘れていたわ。そちらの方たちはイメージキャラクター契約の件でいらした俳優さんたちなの。まさか衣装まで着てくるとは思わなかったけれど、きっとプロ意識の高いかたたちなのね」

受付「はぁ……」

 

 

受付「お待たせいたしました。7F会議室で社長がお待ちです。左手のエレベーターからお進みくださいませ」

レッド「……え?」

受付「……お客様?」

レッド「あ、ああ……。すまない。では行くぞ、ジョン。リー」

 釈然としない様子のレッドだが、受付に促されてエレベーターへと歩き出す。

レッド「……まさかこうまですんなり行くとはな」

ヒューズ「良かったじゃねーか」

レッド「どこがだ。いくらなんでも怪しすぎるだろうが。どこの世界に突然来たヒーロー(仮)を通してくれる会社があるんだよ……」

ヒューズ「そうだな。100%罠だな」

レッド「だったら」

ヒューズ「罠ってことは相手が手を出して来たってことだ。後はそれをぶち破るだけ。簡単な話だろ?」

レッド「そんなに行き当たりばったりで大丈夫なのかよIRPO……」

ウロネブリ「ねぇ」

ヒューズ「お。どーしたウリ坊」

ウロネブリ「何か変だよ。エレベーター」

 促され、コントロールパネルの表示見ると階数は既に7Fを超え8F9Fと更に上昇を続けていく……。

ヒューズ「こりゃあ……やばいな」

レッド「おい……どうすんだよ!?」

 エレベーターを停めようと慌ててボタンを押すレッドだったが、操作をまるで受付けようとしない鉄の箱はついに99Fへと到着する。

 ちん、と音を立て開く扉に恐る恐る足を踏み出す──と、途端に薄気味の悪い匂いが漂ってくる。

レッド「な……なんだ、これは……」

 驚愕に目を見開くレッド。都市の真ん中にありながら、しかしてキャンベルビルの屋上は魔物の巣窟と化しているのだった!

レッド「俺たちはビルの中にいたんだよな?」

ヒューズ「ブラッククロスは異界化技術を持っている。このビルも一部をトワイライトゾーンと同化させられちまってるのかもしれん」

レッド「これではっきりしたな。シンデイ・キャンベルはブラッククロスだ」

ヒューズ「ああ。間違いないな。早速この映像を本部に送って──と、クソッタレ。通信が繋がらねぇ……! 敵さんもそこまで馬鹿だってわけじゃねーか。そりゃそうだわな……。……気合入れろよレッド、ウロネブリ。ここからが正念場だ。手の内を晒すからには、生かして返すつもりはないってことだからな……!」

レッド「ウロネブリ、周囲に気をつけろ。危なくなったら俺の後ろに隠れてるんだぞ、いいな?」

 ウロネブリは嬉しそうにほほ笑む。

ウロネブリ「うん!」

 変装を脱ぎ捨て、モンスターを次々に蹴散らしながら進んでいく一行。そしてその前には、とうとう女傑、シンディー・キャンベルが現れる……。

 優雅に微笑むキャンベルは淫らな仕草で唇を窄め紫煙を吐きだした。

キャンベル「まさか、話題のヒーローさんが正面からやってくるとは思いませんでしたわ。……それと、IRPOのロスター捜査官でしたかしら? あなたまで一緒にいらっしゃるとはね。どこでお知り合いになられたの?」

レッド「お前に聞きたいことがある……!」

ヒューズ「お前はオマケなんだ。黙ってろ。……ミス・キャンベル。悪いがこいつは本物じゃない。単なる使いっぱしりさ。アンタの反応がみたくてね。馬鹿げた作戦だったが、効果は覿面だったようだな? シーファー商会の時は上手く逃げられたが、もう言い逃れはできんぜ。年貢の納め時だな、ミス・キャンベル……いや、ブラッククロス四天王の一角、毒のアラクーネ!」

 指を突き付け糾弾するヒューズ──だがキャンベルは平然とした様子で無視し、レッドに話しかける。

キャンベル「坊や、あなたはアルカイザーではないの?」

レッド「……ああ」

キャンベル「そう。残念だわ……とても残念」

レッド「残念?」

キャンベル「悪の組織の幹部として……残虐の限りを尽くすと言うのもそれはそれで面白いことよ。苦しみ叫ぶ人々の醜い表情はいつも様々で私を楽しませてくれる。醜い、と思っても、それは言葉一つで、けれどもその醜さはみんな異なっている。醜いことを知れば知るほど、美しいということが何なのか分かってくるような気がする……。人の醜い顔を見ているととても楽しいわ。……でもね? 時には自らが相対する正義というものが果たしてどんなのなのか、実際にこの目で見てみたい、闘ってみたいと思う時もあるの。自分が悪だとして、悪というのはどんなものなのか、正義と言うのはどんなものなのか……知りたくなったのよ」

レッド「そんな下らない好奇心で、お前は!」

ヒューズ「黙ってろと言った筈だ。二度言わすな。……アラクーネさんよ、下らないおしゃべりはここまでにしようや。あんただって仲良くなるために俺達を招き入れたわけじゃないんだろう?」

キャンベル「そうね。その通りだわ」

 そう言って、キャンベルは瞬く間に異形の姿──蜘蛛女と化した。鋭い糸を吐きだし、ウロネブリへと吹きつける。

ウロネブリ「わわっ」

 慌てて避けるウロネブリ。レッドは怒声を上げる。

レッド「弱い奴から狙うとは、流石はブラッククロス、やることが汚いな!」

キャンベル「弱い……? 何を言っているのかしら」

レッド「何?」

キャンベル「その子の名は森の従騎士ウロネブリ。黒騎士セアトに仕える従騎士の中でも最強と言われる妖魔なのよ」

ウロネブリ「てへへ」

 恥ずかしそうに照れて見せるウロネブリにレッドは信じられないという目を向けた。一方、キャンベルは警戒を隠さずにじりじりと様子を窺っている。

キャンベル(人間に過ぎない青髪の坊やとロスター捜査官は私にとってそれほどの脅威ではない……。けれど、ウロネブリだけは別だわ。IRPOと一緒に来るのは予想外だったけれど、狙いはアセルスと白薔薇姫でしょうね……。他にも従騎士が来ているのであれば、勝てない……。正体は知られてしまったけれどここは退くべき……? でも……何故かしら? 思っていたよりも、ウロネブリの動きが鈍い……?)

 戦場では様々な思惑が渦巻いていた。

 なんとかアルカイザーに変身する隙を探ろうとするレッド。

 キャンベルの話を聞いたヒューズはこのまま闘うかウロネブリをサポートする方針に移るかで若干の迷いを見せる。

 レッドとヒューズを片手であしらいつつウロネブリの出方を待つキャンベル。

 そして期せずして闘いの鍵となりつつあるウロネブリはといえば、実のところ、心の底から混乱していた。

ウロネブリ(あれ……なんか、違う気がする。お姫様もいないし……。アラ……クーネ? 違ったかなぁ……)

レッド「おい、ウロネブリ! さっきからおかしいぞ!」

ウロネブリ「あ……う、うん……。あのね……ごめん。ボク、間違えてたみたい……」

レッド「はぁ?」

ウロネブリ「ボクが狙わなきゃいけないのは、キャンベルさんじゃないと思うの……」

レッド「お前なぁ……今さらそんなこと……って、危ねぇっ!」

ウロネブリ「きゃっ」

 足を止め、おずおずと謝りかけていたウロネブリを突如として襲うキャンベル配下の援護射撃。咄嗟に庇ったレッドはウロネブリと一緒に階段を転がり落ちていく。

ヒューズ「レッド! ウロネブリ!」

キャンベル「これで一対一ね、捜査官さん」

 余裕たっぷりに微笑むキャンベルは巨大な蜘蛛足をヒューズへと振り下ろした。間一髪避けたヒューズだがあまりの破壊力に吹き飛ばされ、体を激しく打ち付けられる。

ヒューズ「ぐっ」

キャンベル「もう諦めたらいかが? あなた一人でこの私に勝てるとお思い?」

ヒューズ「けっ」血の混じった唾を吐き捨てながらヒューズはハンドブラスターのツマミをかちりと捩じる。出力形式(モード)変更。ブラスターソード、共振。光刃形態(ブレードモード)

キャンベル「……まだやる気なの? 懲りない人ね。そんな支給品のハンドブラスターで何ができるの?」

ヒューズ「やっかましいや蜘蛛女。知らねーんなら教えてやる。男が一匹、ガチでブレード握りゃあよ、斬れねーものなんざねーんだよ!」

キャンベル「……あなたは何か勘違いしているようね。IRPOの捜査官と言うのはみんな自分が英雄か何かだと思っているのかしら? それとも、頑張っていればいつかヒーローが助けてくれる、そんな風に考えているの? 奇跡はそう起こらないわよ、捜査官さん」、

ヒューズ「質問の答えはイエス、そしてノーだ。俺はヒーローのサポートをするためにIRPO(ポリ)になったんじゃねぇ、俺がヒーローになるためにケーサツやってんだ! ゴチャゴチャぬかしてないでかかってこい、この若作りが!」

キャンベル「勇ましい人間ね。そういう人は嫌いじゃないわ。……でも、これでおしまいよ」

 鋭い前脚を振り上げ、風切り音と共に突き出すキャンベル。ヒューズはふてぶてしく笑いながら走りだす。ブラスターブレードを硬く握りしめ、鉤爪に引き裂かれる痛みをものともせずに。

ヒューズ「……ここだっ!」

 叫びながらブレードを振るうヒューズ。キャンベルの強化クチクラ肢に灼熱したブレードが食らいつき、力任せに両断する! 

キャンベル「やってくれるわね、IRPO……でも」

ヒューズ「くそっ……」

 砕かれた肋を押さえて呻く。なんとか四天王の足を斬りおとすことに成功したヒューズだったが、しかしその代償は大きかった。息をするのも困難な状況にたたらを踏むヒューズは、次の攻撃で紙きれのように吹き飛ばされて気絶する。

キャンベル「今度こそ、これでおしまいよ……」

 死神の鎌のごとく構えられたアラクーネの蜘蛛足は倒れ伏すヒューズの心臓にぴたりと狙いを定める。

 嗚呼──哀れロスター捜査官はこのまま悪の餌食となってしまうのか──?

 否。

 断じて否である。

 なぜならここには彼がいる。悪あるところ光あり。影あるところ闇あるところ、邪悪の前に敢然と現れ正義をなすその英雄。助けを求める声があれば世界の裏側からも駆けつける男。その名は!

アルカイザー「とうっ!」

キャンベル「ま、まさか、その姿は!?」

アルカイザー「名声を求める者は他者の行動に。快楽を追うものは己の官能に。賢者は己の行いに。──そして、皇帝は人々の笑顔に善を置く! さあ、賽は投げられた! 光刃皇帝アルカイザー、ここに見参!」

 勇ましく向上を述べるアルカイザーにキャンベルは一瞬きょとんとして、それから少女のように無邪気な笑い声を上げる。

アルカイザー「何がおかしい?」

キャンベル「私、あなたのフアンですの。お会い出来て光栄ですわ。アルカイザーさん。この世にヒーローがいるだなんて、何て素晴らしいことでしょう」

アルカイザー「悪の組織の四天王が何を言うか!」

キャンベル「あら、そうかしら。悪だからこそ正義を求めるのでしょう? 誰だって自らが存在していることの、その意味が欲しいのよ。……案外、あなたがいなくなってしまえば、悪だっていなくなるかもしれませんわよ?」

アルカイザー「……そんなことはない。世界から悪はけして無くならない。だから、誰かが悪と戦わなくてはならない!」

キャンベル「それが、あなた、というわけ? ご立派ですこと。称賛の言葉を贈らせて頂きますわ。握手してくださいます?」

 キャンベルは無造作に蜘蛛の足を伸ばし、アルカイザー目掛けて薙ぎ払う。しかし──何と言うことだろう、アルカイザーは軽々と片手で受け止めた。捕まえたキャンベルの脚はぴくりとも動かない……。そう! アルカイザー腕は百万馬力! 7.3トンのパンチりょくであらゆるてきをうちくだくぞ!

キャンベル「これが、ヒーローの力……!」

アルカイザー「ワン・ツー・スリー……シャイニング・キック!」

キャンベル「ぐふっ」

 光輝く回し蹴りを放つアルカイザー。キャンベルの巨体は地響きを立てて倒れていく。体内の機械をショートさせたキャンベルは大量の血を吐きだしながら顔を歪める。

アルカイザー「これでとどめだ、ブラッククロス。食らえ! 星も砕け散る鳳凰の羽ばたきを! アル・フェニッ──」 

 最大の奥義を繰りだすべくアルカイザーが構えたその時、彼の前に一人の女性が立ちはだかった。

アセルス「駄目っ! 烈人君!」

アルカイザー「……アセルス姉ちゃん!? どうしてここに?」

キャンベル「ア、アセルス……さん……。隠れていてと言ったのに……」

アセルス「ごめんなさい。でも、知らないふりをしているわけにも行かなかったから」

アルカイザー「姉ちゃん。説明してくれ! これは一体どういうことなんだよ?」

キャンベル「……アセルスさん?」

アセルス「黙っていて、ごめんなさい。この……アルカイザーは私の知り合いなんです。……烈人君。私はね、ファシナトウールっていう妖魔のリージョンの王様に追われていて、そこをキャンベルさんに助けてもらってたんだ。だから……」

アルカイザー「だから……? もしかして、見逃せなんていうんじゃないだろうな……!」

アセルス「うん……ごめん」

アルカイザー「それはできない。俺は正義のヒーロー、アルカイザー。悪を倒すのが俺の役目。そこをどいてくれ、アセルス姉ちゃん!」

アセルス「許してあげることはできないかな……? 話を聞いて、和解の道を探すと言うわけにはいかないのかな……?」

 弱々しく懇願するアセルス。しかしアルカイザーは冷たく首を振った。

アルカイザー「それはできない。奴はブラッククロスだ。奴のせいで大勢の人が今も苦しんでいる。キャンベルが横流しした武器のせいでどれだけの人が死んだか……!」

アセルス「でも……。このまま続けたらどっちかが死んじゃうよ。そこまでやることはないでしょう?」

アルカイザー「何だってこんな奴を庇うんだ。こいつは……こいつはブラッククロスなんだぞ!」

アセルス「あなたにとってはブラッククロスでも、私にとってはそうじゃないんだ! 烈人君、お願い!」

アルカイザー「……そこをどいてくれ、アセルス姉ちゃん……!」

アセルス「嫌だ! 烈人君に人殺しなんてさせるわけにはいかない!」

アルカイザー「そいつは人間じゃない、ブラッククロスに改造された妖魔なんだ!」

アセルス「! だ、だけど……妖魔だって……妖魔でも、言葉は通じる! わかりあえるよ!」

アルカイザー「そこをどけ……!」

アセルス「烈人君!」

アルカイザー「そこをどけと言ったんだ! アセルス!」

アセルス「どうしてわかってくれないの!?」

アルカイザー「それはこっちの台詞だ! あんたは本当にそれが正しいと思って言っているのか? ……ただ、誰か知り合いが傷ついているから可哀そうだと、そんな安易な考えで手を差し伸べようとしているんじゃないのか? シンディー・キャンベルは人殺しだ。多くの武器を密輸し、そのせいでワカツは滅び、他のリージョンにも戦禍は広がり続けている。ブラッククロスを、キャンベルを一秒生かしておけば遠くのどこかで誰かが一人死んでいく……! 答えてくれ、アセルス! あんたの行動に正義はあるのか!?」

アセルス「わ、私は……」

 苦しそうに顔を歪めてアセルスは口籠る。

アセルス「わからない……。私には、わからないよ、烈人君……。でも何かがおかしいよ。こんなのは嫌だ……」

 寂しそうに呟くアセルス。

アセルス「もし、私の行動に少しでも正義があるなら……正しいと思える道があるとするなら……それは……」

 アセルスは自分の考えに驚いたようにはっと眼を開いた。

アルカイザー「何……?」

アセルス「悪を倒すのが正義の役目。君はそう言ったね。でも私はこう思う。正義の役目は、全ての悪を魅了することだと」

アルカイザー「魅了、だって? 何を言い出すんだ?」

アセルス「誰かを愛することや大切に想うことで多くの人が繋がれていれば、そんな甘っちょろい綺麗事がまかり通る世の中なら、みんながみんな平和に暮らしていけるのにって、そう思うんだ。だから……!」

アルカイザー「全ての悪を魅了する……? そんなこと、できるわけがないだろう!」

 何を言っているんだ、アセルス姉ちゃん。スーツの中でレッドは歯がみする。悪を魅了し、更生させる。正義として悪を口説き落とし、味方にする。立ちはだかる敵全てを説得することなど事実上不可能だ。……それに、仮にもしそんなことを実現してのけたとしても、それは洗脳と一体何が違うというのだろう……? ふと抱いた疑問にレッドはぞっとする。

アセルス「そう……だね。きっと、そうなんだろうな……。でも、私は……」

 俯いたまま、弱々しく声を彷徨わせ、アセルスはそっと腰に提げた剣へと手を伸ばす。ついに戦いの意志を見せたアセルスに、アルカイザーは怒りを爆発させる。

アルカイザー「たわごとはいい加減にしてくれ! こっちは家族を殺されてるんだ!」

 アルカイザーの声にアセルスはたじろぐ。

アセルス「う、嘘……」

アルカイザー「嘘なものか。俺の家族は……親父は、母さんは、藍子は……こいつらに殺された。俺の平和な生活はみんなブラッククロスに奪われたんだ! だから俺はヒーローになった! この力なら……アルカイザーの力なら、家族の仇がとれると思ったからだ!」

アセルス「でも、それは……!」

アルカイザー「ああ、そうさ。アルカイザーという存在がヒーローなのだとしても、俺という個人はヒーローじゃない。俺は、ただ……復讐のために生きているだけだ。俺は正当な報復を下すためにここにいる! マンハッタンのシンディー・キャンベルはブラッククロスの四天王アラクーネだった……。だから、この俺が裁く! そこをどけ、アセルス! どかないのなら力ずくで……!」

ウロネブリ「あれぇ……?」

 緊迫した雰囲気の中、状況を更に混乱させる暢気な声が響く。

ウロネブリ「知らない人がいる……。レッド、また変装してるの……?」

アルカイザー「……私の名前はアルカイザー。ここは危ない。君は下がっていたまえ」

ウロネブリ「え、ほんもの……?」

アルカイザー「ああ。そうだ」 

ウロネブリ「ほんとうに、ほんもの……?」

アルカイザー「ああ」

ウロネブリ「ふわぁ……!」

アルカイザー「?」

ウロネブリ「サイン、ください!」

 ウロネブリは目を輝かせ、アルカイザーにまとわりつく。

アルカイザー「ば、馬鹿野郎、ウロネブリ、今はそんな時じゃ……!」

ウロネブリ「わぁ、すごい! ボクの名前どうして知ってるの? ヒーロー、だから? すごいすごい! ねー、サインちょうだい! いっしょーのおねがい! いっしょーのおねがいは三回までゆるされる!」

キャンベル「アセルスさん。すぐにここから離れなさい!」

アセルス「え……? でも……」

ウロネブリ「……そういえば、そのお姉さんはだあれ? アセルスって……あー! 思い出した!」

 突然興奮したようすで辺りをぐるぐると走りだしたウロネブリはアルカイザーのマントをつまみ、ぴょんぴょん跳び跳ねる。

ウロネブリ「あのね。あのお姉さんすごい悪いアセルスっていうの。アルカイザーさんは正義のヒーローでしょ? やっつけるの手伝って!」

アルカイザー「何だと……?」

ウロネブリ「アセルスのせいでみんなが迷惑してる。アルキオネお姉ちゃんもお腹痛そうだし、オルロワージュ様もお姫様をとられてすっごいヘコんでる! あの人、ドロボーなんだって! ドロボーは、駄目なことだよ! だから殺さなきゃ!」

アセルス「え……この子……?」

アルカイザー「な……何言ってんだウロネブリ。アセルスねえちゃ……この人は、そんな悪人じゃ……」

ウロネブリ「悪だよ! だって悪人だもん! セアトくんもそう言ってたもん!」

アルカイザー「ウロネブリ! 話を聞いてくれ!」

ウロネブリ「ばかばか。アルカイザーさんのばか! もういいよ! 自分でやるから!」

 ぷくりと頬を膨らませたウロネブリは胞子と死人ゴケを呼び寄せる。ビルの屋上に絶え間なく降り注ぐ毒の胞子はアセルス達の皮膚を食い破る。肺に侵入した胞子がまた一つ粘菌の鎌をもたげ、肺の内部を所構わず引っ掻き回していく。呼吸さえままならない状況の中、痛みに喘ぐアセルスはそれまで受けたどんなものとも違うこの攻撃の恐ろしさに気付く。胞子の毒、そして細胞そのものを不活性化させ肉体を屍蝋に近づける死人ゴケには、アセルスの持つ再生能力が機能しないのだ。

 思わず味わうこととなった恐怖に顔を歪めるアセルス。その表情を見たアルカイザーははっと我に返り、ウロネブリを静止する。

アルカイザー「駄目だ! ウロネブリ」

ウロネブリ「もう! なんでアルカイザーさんはボクの邪魔をするの? アルカイザーさんは正義なんでしょ?」

アルカイザー「俺は……!」

 ウロネブリの無垢なる問いかけに答えを窮するアルカイザー。力ずくでウロネブリを止めるか……? 正義という言葉に依拠して行動しているという点では、ウロネブリも自分も、そしてアセルスですらも同じなのではないのか……? 戸惑い、逡巡するアルカイザーの耳にその時、無慈悲な機械音声が響いた。

 

『──出力形式(モード)変更。Less-lethal(レス・リーサル)粒子罅割(バーストモード)。パラライザー』

 

 瞬間、閃光と共に圧縮された粒子が迸る。アセルスを、そしてウロネブリやキャンベルを粒子が擦りぬけ、全身を麻痺させる。

ウロネブリ「わっ」

アセルス「うっ」

キャンベル「ぐっ」

 倒れ伏し、ぴくぴくと痙攣する三者を尻目に悠然と立ちあがったのはさっきまで気絶していた筈のヒューズであった。

ヒューズ「……ったくよ。人がせっかく死んだふりしてんのに無差別攻撃しやがって。危うくカビだらけになるトコだったぜ」

アルカイザー「ヒューズ。無事だったのか!」

ヒューズ「見りゃわかんだろ。そして一応聞いといてやるが誰だテメー」

アルカイザー「オ……私は正義の味方アルカイザーだ!」

ヒューズ「そうか。まあそういうことでいいんならそれでいい。問題はそこじゃねーからな」

 落ち着いてハンドブラスターを構えるヒューズ。狙いをゆっくりとキャンベルへ合わせ、迷うことなく引き金を引いた。

ヒューズ「ヒーローのくせにハイスクールみてーなコトをぐじぐじ言い腐りやがってよ。飽き飽きだ。お前が出来ないんなら俺がやる」

 二発、三発と冷静に銃を撃ちこむヒューズ。その度にキャンベルの巨体が大きく跳ね、アセルスが声にならない絶叫を上げる。

 憎々しげにヒューズを睨むアセルス。だが苛烈な視線を受けてもヒューズはうろたえもせず、次なる標的としてガンサイトを彼女へと向けた。

アルカイザー「ヒューズ!」

ヒューズ「なあ、アルカイザー。考えてないのはお前の方なんじゃないのか? 女子供にちょろっと言われたくらいで止まってどうすんだ? 正義だなんだと面倒くさいことを考えるのは戦う前に済ませておけよ」

 淡々と言い、倒れたアセルスを撃つヒューズ。脳天を撃ち抜かれたアセルスは血をまき散らし動かなくなる。

アルカイザー「ヒューズ! テメエ!」

ヒューズ「そして戦いが始まったのなら迷わず最後まで戦い抜け。……これが俺の名言だ。メモの用意は?」

 激情にかられたアルカイザーはヒューズの胸倉に掴みかかる。ヒーローの馬鹿力に顔を歪めたヒューズは苛立たしそうに振り払った。

ヒューズ「アセルス・ナイトレスはIRPOもマークしてる。何しろオルロワージュの血を享けた半妖だからな。これぐらいで死ぬかよ。ブラッククロスとは関係が無いような話しぶりだったが、キャンベルとの繋がりを考えると怪しいもんだな。匿われていたっつー話も信じていいんだか」

アルカイザー「アセルス姉ちゃんは……違う。彼女はブラッククロスでは……」

ヒューズ「お前がそう思いたいんならそれでもいいさ。だがそれならそれでさっさとアセルスを無力化してキャンベルを殺すべきだったな。お前の力は何のためにあるんだ? ……おい、ウリ坊。そろそろ起きろ! お前だけは狙いから外してやったろう」

 ヒューズが怒鳴るとウロネブリはふらふらと頭を揺らしながら起きあがり不満に口を尖らせる。

ウロネブリ「うう……体がぴりぴりする……。ひどいよ! ヒューズさん!」

ヒューズ「そいつは悪かったな。だがお前の攻撃を放っとくと俺が死ぬ。そして俺が死ななくても胞子でビルが倒壊して一般人がむやみに死ぬ。だからパラライザーだ。お前のセアトくんも騒ぎを大きくするなとか言ってなかったか?」

ウロネブリ「ううん、セアト君はそんなこと言ってなかった。でもヒューズさんは殺しかけちゃったことはごめんなさい……」

ヒューズ「おう。全然良くはないがまあいいぞ。ガキのやることだ、一応許してやる。……それで、だ。ウリ坊。向こうでお前の狙うアセルスが転がってる。どうする?」

ウロネブリ「んーと。殺す」

ヒューズ「おっ。そうだな。わかるぞウリ坊。でも駄目だ」

ウロネブリ「なんでー?」

ヒューズ「実は最近の研究でわかったんだが、オルロワージュの血を享けたアセルスは普通の攻撃では倒せないんだ。完全に滅ぼすには妖魔の君の加護を打ち消すための“ひかりのたま”と“いなづまのけん”が必要なんだな。……お前、持ってないだろう?」

ウロネブリ「ええ……どうしよう……?」

 困り顔でオロオロするウロネブリ。

ヒューズ「だからまぁ、今回は諦めてセアト君の所に帰れや。……なーに、心配するこたあねー。重要な情報を持ち帰ったお前をセアト君はきっと褒めてくれるだろうぜ」

ウロネブリ「うー。わかった……」

ヒューズ「元気出せって。ほら、こっちのアルカイザーがサインとハグと記念撮影もしてくれるってよ」

アルカイザー「な……」

ウロネブリ「わーい! ちょっと色紙買ってくる! “セアトさんとアルキオネさんとハウゲータさんとウロネブリちゃんへ。アルカイザー”って書いてね!」

ヒューズ「おう。行ってこい。ゆっくりでいいぞー」

 ぱたぱたと急ぎ足で駆けていくウロネブリ。

アルカイザー「……」

ヒューズ「……な? これぐらいでいいんだよ。ウロネブリはあんまり刺激しない方がいいらしいからな」

アルカイザー「……本当にこれで良かったのか?」

ヒューズ「馬鹿野郎が。本当だの最善だの、真顔で言うことかよ。俺にできるのは今この時の俺に思いつくことだけだ。そいつが俺の正義なのさ」

 胸ポケットから取り出した煙草にハンドブラスターで火をつけ、一服するヒューズ。

ヒューズ「さて、これからどうする? ウロネブリの方はなんとかなりそうだ。あとの問題はアセルスだけだな。再生する前に話を決めようぜ」

アルカイザー「……彼女を殺すつもりじゃないだろうな?」

ヒューズ「それもあるな。犯罪者として起訴できるほどではないが、参考人として取り調べをすればかなり有益な情報が手に入るだろう。ブラッククロスとは無関係でもファシナトゥールの内情が掴めるかもしれん。……が、のちのちの厄介事を思えばここで事故として始末しといた方が得策かもな」

アルカイザー「そんなことをこの俺が許すと思うのか?」

 剣呑な調子で身構えたアルカイザーに、ヒューズは肩を竦めておどけてみせる。

ヒューズ「まあ、そうだろうな。お前はきっとそう言うんだろうと思ったよ。お前の正義ではそういうことになってるんだろうさ。……なら取引と行こうぜ」

アルカイザー「取引?」

ヒューズ「ああ。アセルスは見逃してやる。その代わり、お前は俺に協力しろ。IRPOはいつでも人手不足でな。お前みたいな戦力がいると大助かりなんだわ」

アルカイザー「具体的には?」

ヒューズ「俺の指示に従ってもらう。勝手に動かれるのは迷惑だし、組織的に行動したほうが効率的だ。ブラッククロスと直接ぶつかるって時には連絡を入れる」

アルカイザー「それでいいのか? 俺はもともとブラッククロスと闘うつもりだった。IRPOと手を組めるのならこちらも有難いんだが」

ヒューズ「それでいいのさ。これまでは神出鬼没だった特記戦力を駒として戦術に取り入れられるなら願ったり叶ったり。重要なのは“アルカイザー”を戦力として数に入れられるってことだ。どっかの小僧じゃなくてな」

アルカイザー「ヒューズ。あんた……」

ヒューズ「これからも頼むぜ。相棒」

アルカイザー「……ああ」

 がっちりと手を組み、新たな協力関係を結んだ二人。

 と、そこへ色紙を手に入れたウロネブリが戻ってくる。纏わりつくウロネブリにアルカイザーが辟易していると、突然ヒューズが「そういえば取引の条件をもう一つ付け加えていいか?」と言いだす。

 警戒するアルカイザーにヒューズは皮ジャンを脱ぎだしながらこう言う。

ヒューズ「俺にもサインくれ」

 ため息をついてサインの準備をしながら、アルカイザーは倒れたアセルスを暗い目で見つめ、心の中でそっと別れを告げるのであった。さよなら、アセルス姉ちゃん。俺は姉ちゃんと同じ道を歩くことはできないみたいだ……。

 

 

 

 

 ■次回予告

 

  IRPOのヒューズと協力体制を結んだアルカイザーことレッド。

  ヒューズからの情報提供を受け、故郷・京へと向かったレッドは麻薬捜査を開始した。

  怪しい巡礼者を発見したものの足取りを見失ったレッドは謎の機械武者と遭遇、

  正義とは、そして人間とは。機械武者の禅問答めいた問いかけにレッドは再びヒーローとしての在り方を思うのであった……。

  次回『戦士! 機械仕掛けの黒鋼!』見てくれよな!

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