サガフロンティア アセルス編   作:おめかけ

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第二十六幕 埋葬者の荒野、魅了者の月

 墓を掘らねばならないとそう考えた彼女は、行動を終えた後でしかし自分が埋めるべき遺骸を持たないことにようやく気づいた。

 葬るべきもの、弔うべきものがその手にはなく、乾いた荒野の風だけが指と指との合間からすり抜けていく。悲しみには肉を与えて墓穴に添えてやらねばならないというのに目の前の暗がりは伽藍堂の夜を湛えて微動だにしない。

 空っぽだ。

 骸を晒し名前を付けてお前は私の悲しみだと囁きかける、埋葬とはそんな風に自らの感情を象るための命名儀式である筈だというのに握りしめた手のひらからは無機質な土塊ばかりが徒に零れ落ちる。

 かつて自分にあったものが、今はもうここにはない。去来した静かな虚無にそっと瞳を閉じて長く険しい呻き声を上げるとき、女は時の流れに絶望する。

 

 

 

 

 荒野に夜が降りるとき、闇は瞬く間に地平を舐め、凍れる紗幕となって大地を覆った。昼の灼熱から夜の極寒へと二重人格じみた極端な変化に旅人はおろか虫や獣でさえも息を潜めて伏せる夜、世界は影絵の如く色を失う。

 音もなく冷える夜。見渡す限りの索莫たる荒野。色を持たない影ばかりがひっそりと佇み、寂しい無言劇を演じ続ける。たとえどんな植物であろうともこの影芝居の中にあっては一本の棒切れにしか見えず、一つの頭に一つの体、二本の腕と二本の足を備えたならばそれはもう人間にしか見えない。たとえ人形であろうと妖魔であろうとも光なきこの荒野ではみな等しい影を持つ。

 影絵の荒野に立つその女は喪服を身に着けていた。枯れ枝のように細いその身を黒衣で覆い、女は手に持ったスコップで地面を執拗に掘り返している。降りかかる土や泥で体が汚れることも意に介さず、淡々と女は穴を穿つ。無造作に焼き菓子を噛み砕くような音を立てて、少しずつスコップの剣先を地中深くへと突き立てていく……。

 こんな夜中のこんな荒野に影絵となって一人何をしているのかと問えば、女は子を失ったのだった。失ってからは半年ほども女はひたすらにぼんやりとしていた。そのうちに彼女を訪ねてやって来た妖魔が慰めの言葉を掛けたのだが反応は薄く、彼女はそれでも呆然としている。女は雨風に打たれるがまま瓦礫に力なく尻を落としていた。帰るべき家は崩壊しており、他に行く場所はなかった。妖魔は女の手を引いて安全な場所へ誘ったが彼女は動かない。もういい。放っておいてほしい。それが女の返答だった。女をしきりに元気づけていた妖魔もやがては失望を顔に浮かべてどこかへと消えていった。君を隠すのをやめてしまえばイルドゥンがやって来る。それでもいいのかい。妖魔は最後にそう言い残したが、どちらかといえば女にはそれが救いの言葉のようにも聞こえた。イルドゥンというその言葉は今や彼女にとっての審判者だった。

 瓦礫に腰かけているといろいろな人が話しかけてくる。仕事場の同僚や子供の知り合い、みな心配そうに女の顔を覗き込み、たちまちのうちに言葉を失って蒼褪めた。女には妖魔の血が流れており、有り余る再生力にその容貌はいかなる時も傷一つなく在るはずだったが、しかし今ではその瞳は昏く翳り、割れた鏡のようにいびつな世界を映している。絶え間なく続く絶望と疲労とが眼のふちに深い隈をつくり、乱れた髪の合間から覗く双眸はまさに幽鬼。女はけして暴れたりはしなかったが、強引に病院へ連れ帰ってもいつの間にかに抜け出して荒野へと舞い戻ってしまうために知り合いたちはみな苦労を重ねた。妙に冷静な口調で女は言うのだった。大丈夫。私は半妖だから、このくらいで死にはしないよ。

 最後まで女の元を訪れていたのは死んだ娘の友人だった。少なくとも彼女には娘がどのようにして死んだのかを話さなければならなかった。彼女は女を責めこそしなかったものの、やはりひどく傷ついているようだった。

 女に声をかける者が一人また一人と減っていき、とうとう女は真の意味での孤独となって、このボロの星の荒野に一人取り残される。

 女は墓を掘り始めた。その動きはひどく緩慢でじれったいほどにたどたどしい。悪霊に囁かれ正気を失った精神病患者さながら、朦朧の手つきで掘り進め、やがて十分な穴が出来上がった。その時になってようやく、女は重要な事に気づくのだった。棺の不在。肝心要の死体がここにはない。“彼女”の──赤薔薇の体、自分の娘の遺体はもうこの世には存在しない。自分が殺したのだからそれは誰よりもよく知っている。モンスターのアニマを小手へと吸収した後、七竈型のモンスターは見る見るうちに枯れ、塵となった。塵は月明かりの照り返しを受けながら風に吹かれて散っていき、後には何も残らない。手を伸ばすべきだったと気が付いたのはずっと後になってからで、女はただ娘殺しのおぞましさに震えるばかりだったのだ。

 耳が痛くなるほどの静寂が胸に沁みた。荒野の夜には凍えそうな冷気があらゆる物体を縛り付け、物音ひとつ立てない。女はやつれた顔で空を見上げる。それから小さなナイフを取り出すと右目の淵に添え、ゆっくりと差し込んだ。そのままナイフを握る手をぐいと引き下ろすと梃子の原理で眼球が剥がれて飛んだ。乾いた音を立てて眼球は墓穴へと転がっていく。女は薄い唇を薄っすらと綻ばせた。これが“彼女”の肉だ。彼女がこれから視るはずだったもの、その網膜に映すはずだったもの……。祭壇に捧げる供物の代わりに眼球を埋葬しよう。じわじわと増大していく眼孔の掻痒感に安堵しながら迷うことなくナイフの矛先を左目へと移す。力任せに眼球を跳ね飛ばす。ああ。頭が少し軽くなった。そのままぼんやりしていると雷にでも撃たれたように突然の激痛が眉間の奥に奔り苦鳴があがる。女は仰け反るが、しかし食いしばる唇の端はどこか笑っている。ははは……。

 眼球はいずれまた再生する。その間に女は全身のあらゆる所を少しずつ削ぎ落としていく。まずは左手の小指から。じゃがいもの皮を向くように刃と親指で挟み込みぽとりぽとりと指を落としていく。人一人分の肉を量ろうと秤の中に切り落とすように墓穴へ。全身の汗腺から夥しい汗が吹き出し、興奮に熱を持った肌が痙攣するのがわかる。痛いな、と今さらのように思う。しかし同時に女は知っている。その痛みがいつかは冷め、なかったことになることを。オルロワージュの血。半妖の体。ありとあらゆる傷は癒え、忘れてしまえる。気が狂ってしまわない限りはいくらでも忘れられるのだ本当に。ふと解剖の最中、何気なく彼女の姿を思い描いた。どんな眼をしていただろう、と考える。ありありと、そして鮮明に我が娘の顔形を思い出すことができた。やはり彼女は白薔薇に似ていた。墓穴に転がる自分の眼球とは似ても似つかない目。彼女の髪、目の醒めるような赤色、彼女の腕は心配になるほどちっぽけで細い。赤い服ばかりを好んできていた。あの赤い姿。当たり前だろう。自分の娘なのだ。忘れるはずがない。忘れるはずがないのだ。それでも……。

 女は思った。赤薔薇の膝裏はどんなだっただろうか。右膝に一つほくろがあることを赤ん坊の頃に見て女は知っていたが、しかし赤薔薇が大きくなり、抱き上げておしめを替えるわけにもいかなくなってからは、確かにいちいち全身の状態をつぶさに確認していたとは言い難い。彼女の膝、彼女の臍。些末な事だとは思えなかった。自分にはもう彼女の姿の一部が思い出せない。だとしたら、時の流れの中でいつか赤薔薇の姿を忘却しないとどうして言えよう。……いや、それは違うだろう。ここは誓いを立てる所ではないか。わたしはけして忘れないと。何百年何千年経とうとも彼女をこの胸に留めておく。そんな絶対の約束を結ぶべきだろう。

 女は言う。私は彼女を忘れない。口に出して宣言したが、悲しいかな喉が震えた。想像していたよりも遥かに弱々しい声だった。どうしてだろう。何故、自分は、娘を永遠に忘れないとそんな当たり前のことでさえ信じることができないのか。

 ぼおん。

 女は顔を上げる。どこかで時計塔の鐘がなったようだった。こんな深夜にいかなる時刻を知らせるつもりか、ぼおん、時計塔の鐘が鳴る。頭が痛い。自分の名前が呼ばれているかのようにきょろきょろと辺りを首を振って時計塔を探す。

 息を吸って、息を吐いた。ぼおん、と間抜けな音を立てて鐘が震える。一度、そして二度。数えている内に再生した目玉と視神経が繋がった。世界が見える。だが赤薔薇にはもう何も見えない。彼女はもう成長しない。再びナイフを差し込んで眼球を跳ね飛ばす。ぽこん、やはり間抜けな音と共に眼球が墓穴へ滑っていく。

 ぼおん、ぽこん、ぽころろん。

 ぼおん、ぽこん、ぽころろん。

 気が済むまで眼球を刳り貫いた。無数の眼玉がこちらを見ている。自分の眼は自分を責めているように見えたので女はやさぐれた顔をして笑った。馬鹿馬鹿しい。それがどうした。いくら罪悪感を覚えたところで人一人が生き返ったりはしない。

 緩慢な憎悪、そして幼稚な自傷。とうとう女は墓を埋めた。石を置き、花を供え、そして──ゆっくりと、こう思う。

 この荒野が旅の果て、私の辺境(フロンティア)だ。このボロのこの荒野、凍てつく風が大地を削る寂しい夜。ここではないどこかを求めて旅をするのはもう終わりにしなければならない。

 

 女はただ静かに待った。彼が訪れるのを。

 

 

 ◇

 

 

 太陽が地平線の向こうに沈み、訪れた宵闇に紛れるようにして音もなくその妖魔は現れた。あらゆる光を撥ね退ける黒衣の外套に身を包み、美しい瞳に孤独な光を灯して。

 鴉の眼。石化蜥蜴に似た白罌粟の肌。あまりにも美しすぎるがために見る者全てを跪かせる亡霊のように、その形貌の幽美たるやまさに凄然。花緑青の長髪にすずろな夜風を孕ませ、荒野を踏みしめて悠々と足を進める。閑雅にして端麗なる黒騎士──だがその唇から告げられるのはあまりにも武骨な言葉だった。

「剣を抜け。アセルス」

 呼びかけられた女──静かに墓を眺めるアセルスはしかし振り向かない。

「剣を砕いたのは貴方でしょう」

「知ったことか。ならば代わりの剣を用意しろ」

 アセルスはちらりと自らの腰に視線を向ける。喪服にはまるで似つかわしくない粗末な鉄の剣──ベルトに提げられた凶器に手をあて、しかし抜くことなくなおも男に背を向け続ける。

「剣を抜け」

「戦う理由が無いよ」

「そうか」男は淡々と答える。「では好きにしろ」

 言い終わるが否や男は無造作に剣を抜き、情け容赦のない致命の一撃をアセルスへと叩き込む。くぐもった呻き声がこぼれた。背後から胸を一突きにされたアセルスは血を吐き、それでもゆっくりと顔を上げ、動揺一つ見せずに剣を抜くと軽やかに大地を蹴って男から距離を取った。

 そして尋ねた。憎しみに顔を歪めるでもなく、あくまでも冷静に。

「どうして、貴方は私を殺したいのかな」

 男もまた感情を出さず平然と囁く。

「お前は下らん」

「私の何が下らないというの」

「お前は──」男は判決を下すように冷然と言った。「時の流れに敗北した」

「私が……?」

「そうだ。お前の言う事は一々面白いが気にくわん。だがそれでも良かった。お前がお前の望むとおりに生きるなら、そんなことは俺には関係が無い。お前が針の城から逃げ出そうと、どれだけの寵姫を連れ出そうともな。──だがお前は負けた。白薔薇姫を奪われ、立ち上がれと言った俺にお前は何と答えた? 赤子の泣き言のような甘ったれを抜かしただけだ。もはやお前には戦う理由が無いのだろう。俺に刃向かったあの小生意気な猿はどこにもいない。アセルス・ナイトレスは死んだ。府抜けたお前など、この世に存在しているだけで目障りだ。だから俺が殺す」

「はは……」アセルスは弱々しく微笑み、再び男に背を向けて墓を撫でる。「相変わらずだな、イルドゥン……」

 イルドゥンはそこでようやくアセルスが守っているものに気づき、目を細めた。

「……誰の墓だ」

「私の、娘。この星で……子供を育てたよ、イルドゥン。貴方と出会ったあの時には、自分がそんなことをするだなんて思いもしなかった」

「娘? 出産していたのか……?」ようやく表情を変え、訝し気に眉を顰めるイルドゥン。アセルスは投げやりにため息をつく。

「貴方も随分としつこいね。あれから何年経ったと思っているの?」

「大した時間ではない」

「妖魔にとってはそうかもね。……でも私にとってはそうじゃない。私にとっては……子を育て、そして母にはなれないと思い知るだけの、あまりにも長い時間だった」

「なぜ、その子を守らなかった?」

「……」

「お前の弱さで何人の女が消えた? 紅、白薔薇、そして今度はお前自身の娘か。愚かだなアセルス」

「ああ……」アセルスは息を吸い、ぞっとするような低い声色で答えた。「そうだね。認めるよ……」

「これ以上醜態を晒すな。さっさと死ね」

「私がどう生きようが貴方に気にされる筋合いは無いよ。貴方らしくもない。私を殺したいというのなら、無駄口を叩かず、いま、この首を落とせばいい」

「ふむ」イルドゥンは頷く。「それもそうだな」

 瞬間、ざり、と大地が削れたかと思うとイルドゥンの姿は消え、はっと天を仰げば剣を掲げたイルドゥンが頭上に迫っている。音もなく妖魔の剣を振るうイルドゥン。だがアセルスは落ち着いた様子で胸元から自動拳銃(アグニSSP)を抜き、躊躇うことなく発砲する。至近距離からの一撃を剣で弾き──イルドゥンは体制を崩すことなくその場に着地した。

「そんな玩具でこの俺を倒せると思っているのか? 笑わせるな」

 事もなげに吐き捨てるイルドゥン。

「別に銃が効くとは思っちゃいない。……でも、この手でそのまま殴るよりは意味があるでしょう?」

 アセルスはなおも銃を構えたまま目をそらさない。

「さっきも言った筈だよイルドゥン。私には戦う理由が無い。戦わずに済むのならそれに越したことはないんだ。お願いだから、剣を収めてほしい。……そして、できることなら、私の話を聞いてくれ」

 真っすぐに──どこまでも揺れることなく相手を見据えてアセルスは言う。だがそんなアセルスの懇願をイルドゥンは一蹴する。

「お前の言葉はまるで夢物語だ。まだわからんのか、アセルス。誰も彼もが言葉一つで分かり合う世界など存在しない。世界は常に混沌としているもの。正義一つ、愛の言葉一つで何もかもが解決するとしたら、そんな薄気味の悪い宗教のまかり通る世界など願い下げだ」

 もういい。お前にはほとほと愛想が尽きた。そう吐き捨て、イルドゥンは混じりけのない殺意をのせて切りかかる。

 死ね──。

 遠慮も容赦もなく囁かれたその言葉に、しかしアセルスは冷笑を浮かべ、手に持つ銃を連射する。

「貴方は変わらないな。イルドゥン」

「俺が変わらないのは俺がイルドゥンだからだ。俺の行動はいつだって俺のもの。……お前はどうだ、アセルス。お前の行動は常にお前自身の意思によるものか?」

「……」

「時の流れの中で人間は変わる。それは人間が己自身ではなく言葉に依拠するからだ。時には正義、時には愛、下らないそんなものに縋りつくから、お前たちはころころと行動を変える……! だが俺は違う。俺は妖魔イルドゥン。俺は俺の望むことをする。いまこの俺が望むのはお前の死だ。死ねアセルス。お前はつまらん」

「ははっ……」

 やつれた瞳を虚無的に曇らせ──とうとう弾を撃ち尽くした銃をイルドゥンへと投げつける。無造作に放った剣閃で過つことなく銃を七つに切り分け、イルドゥンはさらに踏み込んだ。間合いをとろうと飛び退くアセルスとの距離を一瞬で詰め、そのまま足の甲を踏み割る。己の不利を悟り、ぐっと呻いたアセルスは避けられないと知るや自らの左腕を掲げた。妖魔の剣の一撃。自らの体を犠牲にして何とかその場を脱するも、アセルスの左腕は無残に砕かれてしまう。だが、しかし──アセルスもまたこの程度は慣れっこだと言うように平然とした表情で軽口を叩いた。

「この世は本当にままならないな。参ったもんだよ、本当に」

「もう口を開くな。うんざりだ……」

「貴方はそうでも、私は違う。何しろ腕が回復する時間を稼がなきゃあならないんでね……」

「いいから死ね」

「ははは」アセルスは再び笑い、そして寂しげに目を伏せた。「まぁ、でも、そうだね……。わかるよ、イルドゥン。きっと貴方の方が正しいんだろう。私は弱い。弱い私にはもう、何も変えられない」

「……ようやく認めるか。ならば大人しく死を受け入れろ」

「嫌だね」

 アセルスは静かに言った。命乞いをするのでも誤魔化すのでもなく、ただありのままの気持ちを込めてイルドゥンの視線を受け止める。

「生憎と……私はいま、自分のことを好きになろうとしているところなんだ。そういうわけにはいかない」

「……なに?」

 意味が分からなかったのか訝しむイルドゥンに堂々と背を向け──アセルスは遠い眼で自らの娘の墓を見つめる。

「なぁ、イルドゥン……」茫洋と、アセルスは囁く。「貴方の理屈は正しいのかもしれない。……でも、私はもう、それなりに年を取った。わかったんだよ。私は正義のヒーローじゃあないし、ヒロインでもない。どちらかといえば悪なのかもしれないけれど、でも悪党であろうとも思わない。私は一体何なんだ? そんなことを今さらのように考えるよ。私は妖魔じゃない。かといって完全な人間であるとも言い切れない。だったら。私は」

「お前は取るに足らん半妖だ。それ以上でも以下でもない」

 淡々と告げられた言葉に、アセルスは長く深いため息をついた。

「ああ、そうだな、イルドゥン……。その通りだ。正義でも悪でもない。妖魔でなければ人間でもない。私は半妖だ。ああ、そうなんだ……。だから、決めたよ。私はただ、自分のやりたいことをやる。そう決めた。だから、私は……」

 そうして──アセルスはようやく腰に手を伸ばし、ゆっくりとした動作で剣を抜いた。刀身に映る女の唇がどこかうっとりと……陶酔するかのように歪む。

 

 

「──貴方を口説いて(たおして)、この先に行くことにするよ……」

 

 

 イルドゥンの見つめる先で、

 ツルギを掲げる乙女の唇が、

 淫らに、そして優雅に紡ぐ、

 その言葉。

「今……なんと言った? お前は……」

 それは完全なる未知の台詞。黒騎士イルドゥンにとって未だかつて聞いたことのない女の口説。背を向けるアセルスが厳かに剣を抜く──その瞳は淡く、結晶の青灰(アクアグレイ)。その眼球は久遠を見据える支配者の眼、数多の失語症患者を生み出す淫魔の流眄(ながしめ)

「貴方を口説く(たおす)と、そう言ったんだイルドゥン。私の望みを果たすために……」

 優しい微笑みにほんの僅かな嘲弄を忍ばせ──アセルスが振り返る。その髪は濫りがわしく伸び、ちょうど青白い月光に浸されたかのように蒼く染まった。それは妖魔だけが持つ鮮血の色。永遠を生きる魅了者の血の色だ。

「この俺を倒す……だと……?」

 押し殺す声を剣呑に尖らせ、イルドゥンが睨み付ける。並の妖魔ならば受けただけで消滅するほどの怒気に、しかしアセルスは寸毫も動じずに緩やかな微笑みを続ける。

「ああ、そうだ。イルドゥン。旅は終わりだ。私は先に進む。──貴方が、邪魔だ」

「ほざくな……半妖風情が。オルロワージュの血を受け入れた程度でお前如きに何が出来る」

「出来るとか、出来ないとか……そういう話じゃあないんだよ……」

 昏い眼をしてアセルスは囁くように言った。

「ただ『そうする』と言うだけだ。私がそうしたいからそうする。ただそれだけだ。……それが出来ないというのなら、その時は私が滅ぶだけのことだろう」

 事もなげに死への覚悟を告げるアセルスに──イルドゥンは貫くような視線を向けたまま頷いて見せた。 

「それがお前の言葉か……アセルス。ならば問おう。お前の望みとは何だ。この俺を倒して、お前は何処へ行く?」

「ファシナトゥールへ帰るよ」アセルスは目をそらさずに答えた。「もう一度オルロワージュに会う。そして、白薔薇を取り戻す……」

「ふん……」

 その言葉を聞いてイルドゥンはようやく柔らかな吐息を吐き出し、再び首肯する。

「その言葉があの時に聞けていたなら、俺もこんな辺境にまで来ることもなかっただろうな。……だが」

 イルドゥンが剣を構える。苛立ちのままアセルスを殺そうとしていたそれまでとは異なり──黒騎士として全力で相手をするというその姿勢に、自然と周囲の空気が震え始める。

「どれだけの理想を叫ぼうと現実は常に冷酷だ。この俺を超えられるか、アセルス。運命に立ち向かう気があるのならまずはこの黒騎士を滅ぼしてみせろ」

 その言葉にはもう、半妖への侮りや蔑みが込められてはいなかった。かつて自らが剣を教えた女──アセルスへの真摯にして純粋な宣告だった。だが──。

「どうしてさ」

 当のアセルスは首を傾げる。

「私は貴方を殺さない。殺せるとも思わないし、殺すつもりもない」

「なに……?」

「勘違いしているよ、貴方は。言ったろう、私には戦う理由が無いと。貴方の命なんて欲しくもない。そんなものは、いらない。たとえ──」アセルスは自らの剣を見つめる。「こうして身を守るために剣を抜くことがあったとしても、それは貴方と戦うためじゃない。貴方と言葉を交わすためだ」

「貴様……!」

 とうとうイルドゥンは吠えた。抑えることのできない怒りだった。どこまで世迷言を抜かすつもりなのだ、この女は──。失望に失望を重ねた後悔が喉元をせり上がり、暴力的な衝動が両手を震わせる。それは黒騎士イルドゥンとしては初めて味わう『憎悪』なのかもしれなかった。

「この期に及んで……貴様はまだそんな戯言を口にするのか。何が言葉だ、笑わせるな。力を持たないものはしょせん強者によって食われるのがこの世の習い。言葉など、つまるところは弱者が群れるための道具だろうが……!」

「いいや、違うね……」

 感情を露わに叫ぶイルドゥンに、アセルスはなお低くそして深い声で言う。

「教えてくれ、イルドゥン。貴方を倒して一体何の意味があるというんだ。貴方の語るその理屈、力が全てだという考えに則って私が貴方を殺したら、それは、私が貴方に成り代わるのと一体なにが違う」

「何だと……?」

「その時にはもうアセルスという女はこの世にいない。ただ私という女が、妖魔のような顔をして貴方のような口をきき、力ずくで他者を捻じ伏せていくようになるだけだ。……教えてくれ、イルドゥン。それが私なのか? 貴方が剣を教えたのはそんな女か? そうじゃないだろう。妖魔である貴方が百年千年と変わらぬイルドゥンであるように、私もまた十年二十年を生きたアセルスなんだ。貴方が貴方であるように、私が私であることはもう変わらない。曲がらないよ」

「だから、何だ? それが甘ったれだと何度言ったらわかる。俺とお前、何一つ変わらないのなら結局は殺し合いになるだけだ。お前がどんな言葉を吐こうとも俺がお前を見逃すことはあり得ない」

「そうでもない」アセルスはさらりと言う。「貴方が私を好きになればいい。それで問題は解決する」

「気でも狂ったのか……? この俺がお前を、だと……? いや……そうか。つまりお前が言っているのはこういうことか? この俺を魅了すると? 黒騎士である俺を半妖のお前が……! 笑わせるな!」

「それの何が悪いんだ。教えてくれイルドゥン。貴方が私の味方になってくれればこれほど頼もしいことはない。私は貴方を魅了する。それが私にとっての最善だ」

「何様のつもりだ。お前が俺を超えるというのなら、力でもって示して見せろ。妖魔にとっては格が全てだ、俺は俺よりも弱い者に傅くつもりは毛頭ない」

「妖魔の格……か。他を魅了する美貌、他を威圧する恐怖、そして何物にも屈しない誇り……。何が、妖魔だ。笑わせるなよイルドゥン。殴り合いで勝ったやつが偉いなんていう理屈はな、男の単細胞が言わせる台詞なんだよ」

「馬鹿が……!」

「私は私を愛するとそう決めた。憎んでも憎み足りない自分自身をもし愛さなけりゃならないとするのなら、私は有り余るその愛で誰もかれもを魅了してみせるさ。……イルドゥン。私は貴方のことが好きだよ。気に食わない所も多いけど、貴方の強さ、貴方の真っすぐな生き方には素直に憧れた。力を貸せ、イルドゥン。私にはあなたが必要だ。貴方を殺したって私は幸せにはならない。私は……私の望む道を進む」

「腑抜けめ……。自らの手を汚すこともなく何かを手に入れようなどと、都合のよいことばかりを囀っていればさぞ楽しかろう。だがお前には教えたはずだぞ。生きたければ奪え。戦って殺せ。俺は──闘わない者は助けない」

「片手落ちだな、イルドゥン。自分が欲しいものを手に入れるためには何かを犠牲にしなけりゃならない──貴方の弁に従って言うなら、そんなのは弱い奴の言う事だ。私は望むもの全てを手に入れる。そしてそのために──」

 アセルスは真剣な目をして言った。

「──そのために、言葉を尽くすよ。……そうさ、力じゃあない、言葉ずくで、貴方を超える……」

 

 

 

 剣を、構えた。

 月明かりに照らし出された乙女の姿、妖魔アセルスの支配的なまでの美しさ。美しさ? いや──違う。彼女は美しくなどない。むしろ醜くさえある。窶れきった目元には深い隈と皺が寄り、風に吹かれるままの乱れ髪が蒼く不確かに揺れる。着崩れた喪服は雨に打たれ、みすぼらしい黒衣に体をまとわりつかれた彼女は頼りない枝葉の如く痩せ衰えて細い。

 逆縁の悲しみに打ちひしがれ、子殺しのおぞましさに震える夜を過ごした。昼に怯え、夜に恐れる日々を繰り返し、浅い睡眠と覚醒とを間断なく続けながら悪夢に叫び声を上げて目覚め、掌を柔く握りしめ己の無力を嘆いて暮らす。敗北者アセルス。殺人者アセルス。もはや彼女には、かつて抱いていた若さゆえの溌剌とした輝きは無い。無体なお題目を口にし、声高に正義を叫びだすこともおそらくはもう、ない。それでも──。

 依然として彼女の瞳には冬空の闇夜にあってなお消えぬ灯がある。疲労の色濃いその目には希望の代わりに冷たい野望と冷酷な全能感がある。口元には皮肉気な微笑。嫣然と──そして蠱惑に閉じられた唇。

 失って、失って、失い続けて、それでもまだ諦めきれぬものがあるとするなら、それが乙女の意地だろう。捨てきれない想い、忘れざる記憶。彼女を突き動かす衝動にその名を呼ぶのなら、それは意地だ。あるいはもし、その呼び方が気に食わないと言うのならこう呼ぶとしよう。

 それは──生き物の(サガ)なのだと。

 もはや血を飲むことすらなく妖魔化を遂げたアセルス。ぼおん、と鳴り響く時計塔の鐘の音。百万年を生きる怪物の魂が遠く、幽かに、アセルスへと溶けていく。

 荒野の風にそっと囁く。遍く夜を飲み干して悠久の吐息を伴い、淫蕩に濡れる舌を震わせて叫ぶ禁断の言葉。ああ、とくぐもった喘ぎ声と共に粘つく唾液を滴らせて囁く蜜の言葉。愛の口説。

 

 ──お前を愛してやるよ、イルドゥン……。

 

 かつて水の従騎士ハウゲータは愛を幻想と呼んだ。愛情などとというものは畢竟、男と女の間で交わされる物語に過ぎないのだと。

 生きとし生ける誰もが自分という名の物語を生きる主人公であるのなら、その誰もがいつかは自らの物語を語りださねばならない。ならぱこそ、アセルスはたった今、物語を語りだそうとしているのかもしれない。

 さぁ、物語の話をしよう。

 物語を愛そう、幻想を紡ごう……。

 幻想(ファンタジー)のその果てに、まだ見ぬ理想があるのなら。この世の果て、手つかずの開拓地(フロンティア)に誰も知らない神話(サーガ)が眠っているのなら。

 旅は終えた。辺境に辿りついた。後は語りだすだけだ。

 アセルスの台詞に顔を歪めたイルドゥンが地を蹴り風をきり怖ろしいほどの速度で剣を振るう。妖魔の並外れた膂力によって振るわれる妖魔の剣。たった一撃で巨大な黒龍すら両断してのける奪命の剣閃。

 受けた。

 そう感じた瞬間、途方もない衝撃が全身を襲う。容易く跳ね飛ばされた鉄剣が視界の端で宙を舞った。同時に右足の膝が蹴り砕かれる。武器を奪われ、体制を崩したアセルスを更なる剣撃が狙う。迷いの無い横薙ぎ。左手首が切り落とされる。

「お前には教えた筈だぞ」イルドゥンが冷たく告げた。「どんな時でもけして剣を手放すなと」

 妖魔の剣が振り下ろされる。頭の先から爪先へと真っ二つに──アセルスを両断すべく容赦のない剣が落ちていく。妖魔が持つ傲慢さそのものを体現するかの如く、何らの躊躇いもなくただ一つの純然たる殺意によってのみ振るわれる殺人剣。目を閉じればそこで全てが終わる。楽になれる。アセルスは避けなかった。だがそれは死ぬためではない。

 左手首の断面へとそっと右手を伸ばし、そして掴んだ。

「──手放してなんかいないさ」

 隠し剣。己の肉の中へと仕込んだもう一つの武器。ぎちりと肉を引き裂いて強引に剣を引き抜く。左腕という鞘から抜き放たれ、血飛沫と共に剣が晒された。白薔薇姫の剣──咢十字(ウテナクロス)。かつて自らの腹を貫いたその剣を今度は左腕から取り出し、アセルスは最後の咆哮を上げる。

 血に濡れた妖魔の小手が紅に輝いた。

 風が吹く。荒野の果てから吹く風が音もなく地を走り、身に纏う喪服の裾を軽やかに払う。咢十字を握る右手が風に解け、無数の花弁となって乙女を取り巻いた。穢れを知らない純白の薔薇。血潮よりもなお昏い緋色の薔薇。一つの花は儚く脆く、風に無残に散っていく。柔らかに一つ。緩やかに二つ。夜の風を無邪気に孕んで舞う薔薇がくるり、描いた螺旋で輪廻を象る。

 アセルスの右腕が風に溶ける。剣を、咢十字をその風に乗せて──襲い来るイルドゥンめがけて解き放つ。

 力任せにイルドゥンの首へと咢十字を突き刺した。首を落とせば動きは止まる。強引に首を落とそうと剣を捻ったその時、不意に視界が閉ざされ、右目が熱くなった。右目が熱い。そして重い。

 炎に顔面を食まれるような灼熱感に一瞬意識が遠のき、気が付くとアセルスは倒れていた。イルドゥンの剣によって貫かれ、右目ごと大地に縫い付けらたのだ。

「……これが現実だ。アセルス」

 イルドゥンはアセルスの柔らかな腹に足を載せ、そのまま踏み下ろした。骨と内臓とを強引に叩き割られ、玩具のように下半身が千切れる。口から夥しい血を吐きだし、ぎ、と昆虫じみた呻き声をあげた。

 アセルスを見下ろしてイルドゥンは言った。お前の負けだ。

 血反吐をぶちまけながらしかしアセルスは思う。この男は勘違いをしている。なぜなら自分はまだ生きている。そこに勝ちも負けもありはしない。

「つ……まらない、な……イル……ドゥン……。お前の言う、現実は……!」

 しわがれた声で呟く。ぎり、と歯を食いしばり、痙攣する右手を必死にイルドゥンの剣へと伸ばした。触れた途端、途方もない激痛が脳を駆け巡る。構わず剣を握りしめた。肉が軋む。掌が脂でぬるりと滑る。右目が燃える。

 ああ。

 ああああああああ。

 耳を塞ぎたくなるような苦悶の声をあげながら顔を前へと進める。力任せに握りしめ、眼孔に剣を滑らせていく。剣の刃にこそげ落とされた肉が屑となって零れ落ちた。気の遠くなるほどの痛みに絶叫しながら、アセルスは顔を貫く剣に沿って強引に上体を持ち上げ、震える手を伸ばしてイルドゥンの襟を掴んだ。

 痛い。頭がおかしくなりそうだ。そう考えながら──しかしアセルスが自分がけして狂わないことを知っていた。オルロワージュの力。再生を繰り返す不死の体。たとえどれだけの痛みを味わおうともいつか癒えて消えてしまう。時の流れの中では、どんな傷であったとしても忘れてしまえる。そう。この世は『物語』だ。永遠を生きる怪物の世界は全てが物語と化してしまう。現実感を伴わない痛み。喪失の嘆きすら忘却の彼方へと消えていく。アセルスにとって、肉体の痛みは現実ではない。自らが死ぬことですらも怖ろしいとは思わない。アセルスにとって本当に苦しいのは、悲しいのは──こんなものではない。

 掴んだ胸倉を引き寄せ、そして口づける。

「これが私の現実だ……イルドゥン……」

 血に塗れた唇を寄せ、許されぬ口づけを交わした。嘘の味しかしないキス。愛してる。口の中で呟いたその言葉が真っ赤な嘘だと知っていて、それでもアセルスは丁寧に唇を合わせ、イルドゥンの舌をそっと吸い上げる。あなたに愛をくれてやる。男の唇に歯を立て、流れ出した鮮血に音を立てて舐め上げた。

「何を……している……? お前は……? 気でも狂ったか……?」

 たじろぐイルドゥンを見るのはそれが初めてのことだった。少し可愛いかもしれない。そんなことを思ってくすりと微笑むと、イルドゥンは顔を歪めてアセルスを蹴倒した。右目に刺さった剣がぶちりと肉を引き千切り、右の頬が裂ける。

 よろよろと──人形のように頼りない仕草で立ち上がり、しかしアセルスは残った左目でしっかとイルドゥンを見つめた。

「なぁ、イルドゥン……」掠れた声で「貴方は猿なのか?」

「何を言っているんだ、お前は……?」

「力を振るうのか、言葉を尽くすのか。……別に、どちらが正しいというわけでもない。……でも、選ぶことはできるだろう。気に食わない奴を殴るだけなら猿でもできる。でも貴方は──獣じゃあない。その筈だ」

「……」

「上級妖魔。黒騎士イルドゥン。貴方が数多の乙女を魅了する吸血貴族の一員だというのなら、半妖の私ひとり魅了して見せてくれ。『愛している』とそう囁いてみせてよ……」

「……」

「私には貴方が必要だ。イルドゥン……この私に、力を貸せ……!」

「言いたいことはそれだけか」

 返答は短かった。冷たく無慈悲な拒絶。道端の花を手折るような無造作でついと剣が振るわれ、アセルスの首がぼとりと地へ落ちる。

 

 

 

 

 下らない女だった。

 黒騎士イルドゥンはそう考える。首だけになったアセルスの髪を無遠慮に掴み上げ、しかめっ面のままじろじろと眺めまわす。

 眺めて嘲笑うにはそれなりに面白い子猿かと思ったが所詮はこの程度か。

 味わい慣れた失望と落胆にうんざりしながら過去を振り返る。初めてこの女と出会った時はそれなりに愉快だった。元人間にしては骨のある雌だと感心さえしたほどだ。何しろこのアセルスはこのイルドゥンを殴りつけ、罵倒してのけたのだから。

 覚えている。イルドゥンは今もなお、彼女の言葉を覚えている。

“それだけのことをしてるってのがわからないから、あんたたちは妖魔なんだ!”

 アセルスは言った。

“あなた、実は馬鹿なんでしょう?”

 アセルスは言った。

“何が、妖魔だ。性別を持たない美しい種族だの、薔薇の守護者、無慈悲な王だのとさんざ勿体ぶったことを言っておいてさ。結局は殴り合いで勝ったやつが偉いっていう典型的な男社会なんじゃないか。笑わせるなよ”

 アセルスは言った。

 覚えている。針の城を抜け出す前、彼女はイルドゥンの元へやってきてこう言った。針の城を出ていくことにする、と。訳が分からなかった。行きたいのなら行けばいい。何故そんなことをわざわざ自分に告げるのか──本当におかしな生き物だ。だから答えた。知るか。勝手にしろ。するとアセルスは不思議そうに目をぱちぱちさせ、それだけ?と首を傾げた。

 

 

 何がだ。

 ……いや、てっきり、止められると思っていたから。

 止める理由が無いだろう。

 そ……そうかな……? だってあなたはお目付け役みたいなところがあるし……。

 オルロワージュの言葉を忘れたのか? 奴は俺にお前を任せると言った。逃がすなとは言っていない。

 でも……私が逃げ出したら、あなたに迷惑がかかったりするんじゃない?

 なぜだ?

 いや……まぁ、かからないならそれでいいけど。

 解せんな。お前はいったい何のためにここへ来た? 今日の戦闘訓練はもう終わりだと言ったろう。

 だから、ここを出ていく挨拶でしょう。それから迷惑をかけてごめんって言うのと……。

 お前は俺に迷惑がかかると思い、謝罪に来た。なるほどな。……だが同時にお前は俺に止められると思っていたのだろう。ならばなぜここへ来た。

 そりゃあ、まぁ……。

 何だ。

 私は、あなたのことがかなり嫌いなんだけどさ。

 ……。

 でも、いちおうあなたは私にいろいろなことを教えてくれた。妖魔社会のこと、戦うこと……。借りがあるし、お世話になった。だから、何も言わずに出ていくのはちょっと筋が通らない。そんな風に思っただけだよ。

 逃げ出そうとするお前を俺が切り刻むとは思わなかったのか。

 思ったよ。あなたはひどい奴だからね。でもその時はその時で逃げるしかないと思ったから。

 ……アセルス。

 うん。

 お前は、馬鹿だ。

 うん……。

 何度も言った筈だ。妖魔の再生能力を手に入れた所で、まともな戦闘能力を持たないお前を無力化する方法はいくらでもある。他者の善意を期待していては身がもたんと。

 うん……。わかってるつもり。……別に、忘れてるわけじゃないよ。もっとちゃんとしなきゃいけないって、いつも思ってる。……でも、やっぱり、あなたとオルロワージュに黙って出ていくわけにはいかないよ。それだけはできない。

 そうか。

 うん。

 では好きにしろ。

 うん。そうする。……本当に、止めないの? オルロワージュに怒られない?

 どうでも良いことだ。そんなことは。……アセルス。俺は俺の生きたいように生きる。お前もお前の生きたいように生きろ。何をしようとそれはお前の勝手だ。だから俺は止めん。どこへなりと行け。

 ……イルドゥン。ありがとう。

 

 

 覚えている。ありがとう、とアセルスは言い、そしてはにかみながら右手を差し出した。それは人間世界において握手と呼ばれている儀式らしかった。どうでもいいとは思ったが断わる理由は何も無い。イルドゥンはアセルスと握手を交わし、別れの挨拶を済ませた。

 どうでも良いことだ。心底からそう思った。イルドゥンはシンプルを好む。春には春、夏には夏の風物を眺め、酒を飲み、静かな自然の移り変わりを眺めていればそれで世界は美しい。それ以外の全ては余計なことだ。この世はとかく邪魔者が多い。下らんたわごとをさも大層なことのように声高に語り、イルドゥンの視界を汚す。鬱陶しい奴らばかりだ。己は己一人で完結していればいい。秋には秋の、冬には冬の景色を瞳に写し、何の思惑もなく佇む世界を愛でていればいいのだ。もし半妖アセルスが針の城を出ていくというのであれば、それは自分の関知する所ではない。この女が自ら旅立ちを望んでいるのであれば、他者のなすことに口を出すことはない。放っておけばいい。そう思った。そう思っていた、筈だった。ラスタバンの頼みでアセルスを守るためセアトの従騎士と戦った時もそれは変わらなかった。アセルス自身がセアトに勝てないのなら、旅をする資格などはないのだ。その時は潔く滅びを受け入れるべきだろう。加勢はしなかった。そして実際、その必要もなくアセルスは勝利した。……そう、正義だ道理だと口喧しくお題目を口にする割に、アセルスはどこまでも我を通す傲慢な女なのだ。結局は自分のやりたいことをやる女。イルドゥンに何を言われようとも、最後には自分のやり方を貫く女。だがそれでいいのだ。生物はみなそのようにしてあるべきなのだから。だが──。

 ……アセルスが膝を折り泣き叫んでいる。もういやだ。そんな泣き言を口走り、呆然と瞳を震わせている。闇の迷宮で白薔薇姫を失ったアセルスはついに歩くのを止めた。まるで理解できなかった。お前はアセルスだったはずだ。奪われたというのなら、もう一度奪い返せばいい。それだけのことだ。なのになぜ──。腹が立った。失望した。頭蓋骨の一つでも砕いてやればまたいつものように刺々しい口調でこちらを罵倒してくるだろうか、と試しにそうしてみたがしかしアセルスは力なく笑って動かない。立ち上がらない。

 人間は好かん、とイルドゥンは思う……。何せ奴らは時の流れの中であまりにも脆弱に過ぎる。このアセルスにしてもそうだ。針の城を出た時はあれ程までに溌剌としていた女が、たかだか五年かそこら経った程度でこうして道端の蛆虫以下の屑に成り下がる。

 下らない。何もかもが……。

 寂しい激情を身の裡に孕んでイルドゥンはとうとう剣を振り下ろす。自らが自らであろうとしない者には生きている価値が無い。こんな女、死ぬべきだ。同情はなかった。容赦する気さえなかった。よろよろとアセルスが掲げた妖魔の剣を砕き、息の根を止めるべく首を撥ねようとして──あと一歩という所でゾズマの横槍が入り取り逃してしまった。おかげでこうしてアセルスの首を手にするまであちこちの星を旅する羽目になってしまったが、百年はかからなかったのだから大した時間でもない。

 まじまじと手に提げた生首を見つめる。思えばこうしてゆっくりと観察するのは初めての経験かもしれない。半妖、アセルス。今は妖魔化しているため髪は蒼い。その瞳も──今は左目だけになっているが──ほんのりと蒼い光を放っている。頬は無残に千切れ、あちこちが血で汚れていはいるものの、こうして間近で眺めてみると案外に──。

「アセルス……」

 誰に言うでもなく、名を呼んだ。嘆息交じりの独り言。

 戦いが終わり、激高は去った。本当に馬鹿な女だ、と思う。魅了しようと企んでいるのならばどうして単細胞だ猿だと盛んにこちらを挑発するような真似ばかりするのか。自分を味方につけたいのなら話は簡単だ。圧倒的な力で捻じ伏せ、君臨すればいい。アセルスがそうするのであれば自分は迷うことなくこの女の側についてやったというのに。この女のいう事は面白いが、そのいちいちが気に食わない。相対している間も苛立って仕方がなかった。“宵闇の覇者”と呼ばれる黒騎士イルドゥンが声を荒げるなど、あの零姫と相対した時以来だというのに。

「アセルス」

 もう一度名を呼んだ。呟くたびに心の平穏が戻っていくのが分かる。自分は冷静だ。本来の自分はこうあるべきなのだ。感情的になるなど、上級妖魔のすることではない。

 そうして、完全に落ち着きを取り戻したその“本来の自分”を通して──イルドゥンは改めてアセルスの言葉を考えた。

 アセルスは言った。

“殴り合いで勝ったやつが偉いなんていう理屈はな、男の単細胞が言わせる台詞なんだよ”

 アセルスは言った。

“気に食わない奴を殴るだけなら猿でもできる”

 それは、つまり──。

「そうか……」

 顔を歪めてイルドゥンは呻いた。何と忌々しいことだ。この女。首だけになってまで面倒ばかりを残していく。

 妖魔としての格は明らかにイルドゥンが上。よって、格上の妖魔によって受けた傷はそう簡単には回復しない。そう、オルロワージュの血を享けたとはいえ万能ではないのだ。たったいまアセルスを完全に滅ぼそうとすれば容易くそれができる。アセルスを殺せる。だがそうした瞬間、アセルスの弁によればまるで自分は暴力しか能のない猿であると認めるようではないか。何という屈辱だ。この俺が猿だと? ふざけるな。……だが、待てよ。仮にアセルスを殺さないのだとしたら、それは結局の所こいつの思惑通りなのではないか。どちらにしろ何らかの形で俺は負ける。雁字搦めのこの状況。何という事だ。これまで、途方もなく長い生の中で迷うことなどは一度もなかった。自分は自分のやりたいことをやるだけ。それが妖魔の生き方というものだからだ。ラスタバンと知り合った時もそうだった。奴はこの俺を利用すると言ったが、俺には関係のないことだ。たとえ奴がどんな企みを抱こうと、俺の行動の全ては俺が決めること。奴が俺を利用しようがしまいが知ったことではない。そういうと、それからラスタバンはやけに馴れ馴れしくなりたびたび酒を持ってきた。俺を友だと言った。どうでも良い。肯定にも否定にも興味はなく、好きにさせている内にいつのまにか友という言葉は親友へと変わり、いつしか自分もまたラスタバンが友であるということに慣れた。酒は旨かった。

 あの時も自分は迷わなかった。自分の行動に疑問を抱く必要など存在しないからだ。

 だというのに、いま自分は引くことも押すこともできない状況にいる。

 アセルスを殺せば自分が獣であることを認めることになり、かといってアセルスを救えば彼女の言葉に負けることになる。

 どうする……。

 思考の袋小路に迷い込んだその時──、現れたのは黒騎士セアトだった。いつもはきれいに整髪された巻き毛を乱し、血走った眼でこちらを睨みつける。

「ようやく見つけたぞ、イルドゥン……!」

 憎しみに満ちた眼。

「久しいなセアト」

「黙れ! 貴様とそのような挨拶を交わすために俺はこんな星へ来たのではない……! さっさとアセルスを渡せ!」

「何だ? お前はまだアセルスを追っていたのか?」

「オルロワージュ様の命は絶対だ……。どんな手を使ってでも俺はその女を針の城へ連れ戻す。……いいか、イルドゥン……! なぜ、お前がアセルスを殺そうとしているのかは問わん。お前が我々に剣を向け針の城を裏切ったことも、今ならば不問に処してやろう。だから、その女の首を俺に寄越せ……!」

「愚かだなセアト」イルドゥンは馬鹿馬鹿しそうに言う。「この首が欲しいのなら奪えばいいだろう。それ以外に何がある」

「愚かなのはお前だ、イルドゥン。針の城の秩序は揺らぎ始めているのだ。次々に黒騎士が反意を抱けばそうもなろう。黒騎士同士が争えばファシナトゥールの勢力は弱まる。お前がアセルスに味方するというのなら滅ぼすしかないが、そうでないのなら話は別だ。理由はわからないが、現在お前はアセルスに敵対しているのだろう。ならばアセルスを渡せ」

「そうだな……確かにこの首はいらんが」

 この女も大概に運がない、とイルドゥンは思った。殺すのか、生かすのか。確かに迷ってはいた。だがこうしてセアトがやって来たということは、おそらくアセルスはここで死ぬ運命なのだろう。もちろんセアトが大人しく針の城へと連れて帰る可能性もなくはないが、一度は自分を打ち倒したアセルスをセアトが放置するとは考えにくい。オルロワージュに気づかれぬように処分し、その血を奪うのがお定まりの手段だろう。所詮はそれがこの女の運命だったのだ。どの道、自分がこれ以上執着するのもそれはそれで気に食わないと感じていた所だ。

 ……そう。下らない女だ。自分はこの女に固執などしていない。殺すか、生かすか。そんなことはどちらでも良いことなのだ。後はセアトにでも押し付ければそれで万事解決というものだろう。

「で、ではイルドゥン……」

「ああ」

 頷いて、最後にアセルスの顔を眺めた。血まみれのひどい顔だった。薄汚れた頬に潰れた瞳。なんと醜い小娘だろう……。イルドゥンは僅かに笑う。見れば見るほど汚らしい。

 蒼い瞳、蒼い髪。それは妖魔の血。だがその色とは裏腹にアセルスの面相は妖魔のものとはまるで違う。ころころと変わる表情。真摯な光を灯した瞳。控えめな唇から零れ落ちる言葉は何度となくこちらの感情を逆撫でにする。

 バーゲストに内臓を啜られ、厳しい戦闘訓練に打ちのめされながら、それでも気丈に刃向かってくるアセルス。旅の途中、こちらの知らない人間社会の知識を得意げに披露するアセルス。オルロワージュの血に呑まれ、絶対者としての酷薄な表情を浮かべるアセルス。

 これでこの小娘と関わるのも最期か……。そう思うと感慨深く、イルドゥンは深く呻く。

 雨の日の午後に空を見上げていた。窓へと寂しそうに頬を寄せるアセルスの頼りない横顔。伏し目がちの瞳。

 かしましい声を上げ、白薔薇姫と花壇をいじっていた。熱々のどんぶりを押し付け、人間の料理を無理やり食べさせようとしてきた。剣の稽古では嫌そうにしながらもどこか楽しそうな目をしていた。動きの悪さを指摘すると途端に膨れた顔をする。

 アセルスは逃げない女だった。針の城を抜け出しはしたが、しかし自分の意思を誤魔化すことはなかったはずだ。内心を押し隠しておもねることも、愛想笑いを浮かべて強者に取り入るような真似もけして行わなかった。気に食わないと思った時は、どんな時であれ真っ向から逆らってきた。殴りつけても、モンスターをけしかけても、アセルスは自らの言うべきことを真っすぐに口にする。停滞した妖魔社会に生きるイルドゥンにとってその多くは新鮮で、それだけに腹立たしく思うこともまた多かった。アセルスは平然と妖魔の習性を否定する。それはただこの女が世間知らずで人間界の詰まらない観念に囚われているからだと最初は思っていたが、そうではなかった。アセルスにはアセルスなりの考えがあり、この女は自らが決めた一種の論理に従って生きている。言葉の一つ一つに腹を立てることはあれども、彼女の放つ言動の裏に覗き見えるその論理、ルール──彼女なりの信念自体は必ずしも不快ではなかった。

 蒼い瞳、蒼い髪。それは妖魔の血。だがアセルスは妖魔ではない。半妖である彼女の髪はイルドゥンと同じ緑色。アセルスの顔をぼんやりと見つめる。彼女の言葉一つ一つを何気なく思い出す。

 ある時イルドゥンは月を見ていた。何の変哲もない月だった。夜空に皓皓と佇む三日月。朧な雲を引き連れて柔らかに街を照らす。そのときは明日の星にいた。民家の屋根に腰を掛け、珍しい酒を堪能しながら、飽きることなく月を眺めた。何の変哲もない月だった。何の変哲もないその月を、しかしイルドゥンは唯一無二のものとして己の心の中へと捉えたのだった。この月を美しいと感じる生物が自分以外にどれだけいるのだろう。考え、結論が出るはずもないことに気が付いてため息をつく。冷たく清浄な空気が肺を泳いだ。静寂を湛えた夜の気配。湿潤な風に取り巻かれ、柔らかに靡く羊歯の群れ。理屈ではなかった。ただ、そんな景色を美しいと思った。心が音もなく満たされた。

 だからアセルスが隣に腰を下ろした時は鬱陶しいと思った。またやかましく騒ぎ立てるつもりだろうかと思うとうんざりさえした。だがそれは間違いだった。アセルスは何も言わず、ただ黙ってイルドゥンを見ていた。何をしているの、と彼女は言った。月を見ていると彼は答え、そうして少し考えた。この女に月の美しさがわかるだろうか。イルドゥンを暴力的だと何かにつけて非難するこの女のことだ、自然を愛でているのだと言うイルドゥンに似合わないと例の皮肉気な笑みを浮かべるのだろうか。それともイルドゥンに平伏す有象無象の乙女のように盛んに月を褒め称えて追従するのだろうか。

 月を見ている。そういうと、アセルスはふうん、と呟いてイルドゥンと同じ方向へと顔を向けた。それからやはり意外そうにまじまじとイルドゥンの顔を見つめて、しかし何も言わなかった。アセルスはそれから黙って月を見始めた。イルドゥンの隣で、何も言わずに月を見つめた。夜が淡々と更けていった。もうアセルスを邪魔だとは思わなかった。イルドゥンは彼女と共に、夜空に浮かぶ月を視た。

 何かを美しいと思った。月そのものではない。月と、夜と、そして風。己を取り巻く状況がかつてどこかで味わったものと似ているような懐かしい既視感。こんなことが前にもあった、という不思議な安堵。そして──懐旧と、郷愁と、帰るところを持たない筈の自分が抱えた得体のしれないノスタルジア。こんなことが、前にもあった。しみじみとそう思い、そう思いながら──それでもイルドゥンは同時にこうも思うのだ。この夜はたった一度。二度と還り来たることはない。

 月は蒼い。全ての熱を奪いゆく蒼。影という影を大地に縫いとめ、色を、質量を、根こそぎ掠めとる。月の蒼。蒼の月光。月の蒼は唯である。妖魔の血とは違う。空の蒼とも海の蒼とも違う。ただ蒼と言って、その月の色を蒼という言葉でくるんで、言葉の上ではただ一つに過ぎない筈のその属性はしかし唯である。空とも海とも。降りしきる雨の色とも違う。月下に濡れる露草とも夜空の果ての犬星とも違う。

 月がある。たった一瞬の月である。一秒前の月は今この時の月とは違う。今この場所から一歩でも離れたならそれは違う月だ。かつて誰かが月を視たかもしれない。けれどもそれはきっと違う場所の月だったに違いないし、違う時間の月だったのだ。

 時が、流れて。いま、この瞬間の月を、自分が眺めるこの月を覚えているものがどれだけいるだろう。この月はけして取り戻すことのできない月だ。目の前にありながら、けして手の届かぬ月なのだ。いつかは失われてしまう月。美しいと思うこの想いでさえ、時の流れの中では忘れ去られてしまう。だからイルドゥンは思う。いま、この瞬間の月を愛す。この月を。この夜を。

 満たされた心のままに瞳を閉じ、取り巻く夜気に身を任せた。心地よかった。ちらと目を開き隣を見やると、アセルスはなおもぼんやりと月を眺めていた。風に吹かれた髪が耳からはらりと零れ落ちる。月光に白々と照らし出された横顔がやけに青白く見える。

 私にはよくわからないとアセルスは言った。月の美しさを理解できるとは言わない、と。そうして月に瞳を奪われるようにしてそっと囁く。

 でも、こうして月を視たことは、きっと後悔しない。

 ……。

 …………。

 掌に感じるアセルスの首の重み。

 もう一度アセルスの顔を見た。そしてわかった。

 そうだ。

 アセルスは言った。

 あなたのことが必要だ。この私に力を貸せ、イルドゥン。

「…………」

「どうした、イルドゥン!? さっさとアセルスを渡せ!」

 焦ったようにセアトが叫ぶ。その姿を見ていると途端に気分が白けていく。何をこいつはそんなに必死になっているのだろう……。

「馬鹿馬鹿しいな、まったく……」

 ぼそりと呟く。アセルスの顔を見る。アセルスの眼を、その奥を覗き込む。

 そしてイルドゥンは言った。

 

「──気が変わった。俺は、こいつの側につくことにする」

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