■前回までのあらすじ
とうとう宿敵シュウザーの元へと辿りついたアルカイザー。だが卑怯にもシュウザーは自らの体に小此木博士の脳を埋め込んでいた。攻撃を躊躇うアルカイザーに容赦のない遠隔ビット攻撃を叩き込み、シュウザーは高らかに笑う。それが貴様の弱点だアルカイザー。貴様には正義が無い。本心から正義を望んでいるのであれば世界の平和を守るため己の肉親ですら犠牲にできるはず。だが貴様にはできない。何故だがわかるかアルカイザー。貴様が所詮は復讐者だからだ。復讐者には貫くべき信念がない。道理がない。正義がない。だから貴様は敗れる。だから貴様はこの俺に勝てんのだ!
ヒーロー、完全敗北。その身を賭したBJ&Kの自爆によって命からがらその場を脱したアルカイザーことレッドだったが、その足取りは重く、光り輝いていた瞳も今は虚ろにくすむばかり。そんなとき、もがき苦しむレッドの前にある妖魔が現れる。
立て、レッド。闘え、アルカイザー。星々の平和は君の手にかかっている!
(回想)
鋭利なシザービットによって全身を切り刻まれるアルカイザー。夥しい血を吐き出しながら倒れこむ。
アルカイザー「ぐっ……」
シュウザー「どうした、アルカイザー。もうおしまいか?」
小此木博士「烈人! 私のことは構わない! シュウザーを……シュウザーを倒すのだ!」
アルカイザー「できない……できないよ……父さん!」
小此木博士「馬鹿を言うな! どのみち私はもう助からん。 ヒーローとして……いや、私の息子として、正義を!」
アルカイザー「嫌だ……。俺はあんたの息子なんだ……あんたを殺すためにヒーローになったんじゃない! 助ける方法があるはずだろ! なんとかできるはずだろ! ヒーローがいるんだ、この世には! そうでなけりゃ……そうでなけりゃあ……!」
シュウザー「馬鹿め、貴様はもはやヒーローですらない! 脳だけになった父を守るために貴様は何百万という市民の命を失うことになるのさ。それが貴様の弱点だアルカイザー。貴様には正義が無い。本心から正義を望んでいるのであれば世界の平和を守るため己の肉親ですら犠牲にできるはず。だが貴様にはできない。何故だがわかるかアルカイザー。貴様が所詮は復讐者だからだ。復讐者には貫くべき信念がない。道理がない。正義がない。だから貴様は敗れる。だから貴様はこの俺に勝てんのだ!」
アルカイザー「違う。俺は……!」
小此木博士「烈人! 私に構うな! シュウザーを倒すのだ!」
アルカイザー「父さん!」
シュウザー「アルカイザー。この俺の刃によってさんざ嬲られ、満足に抵抗もできまい! いくら理想を叫ぼうと、言葉だけではなぁ! 薄っぺらい貴様に残酷な現実を見せてやろう!」
自らの体の中からびくりびくりと蠢く脳味噌を取り出したシュウザーは、そのまま小此木博士の脳を握りつぶす。
小此木博士「れ……と……」
アルカイザー「と……父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
シュウザー「クックック。実に良い気分だ。貴様のその絶望に満ちた顔! ああ俺は生きている! 君臨し、他者を蹴落とし、生きて息をしているのだ!」
アルカイザー「貴様……貴様……貴様ぁぁぁぁぁぁ!」
シュウザー「何が、正義だ。その安っぽい正義とやらのせいで、貴様は再び父を失ったぞ。貴様はヒーローの器などではない。ただの惨めな復讐者にすぎないのだ……!」
(回想終了)
レッド「ちく、しょう……!」
クーロンの薄暗い地下水道をよろよろと歩くレッド。絶望、そして無力感に苛まれたレッドは無意識に右手を壁に叩き付けるが、血まみれになった手のひらからはなおも流血が続く。
レッド「俺は、死ぬのか……。こんな所で……。父さんの敵も取れずに……。い、や、だ……」
朦朧と霞む視界。次第に蒼褪めていく顔。
レッド「正義が……。俺に正義があれば……」
倒れこむレッド。薄れていく意識の中、レッドの耳に聞き覚えのある声が届く──。
????「……あれぇ、レッド?」
????「誰だ、そいつは?」
????「このまえ言ったでしょ。あのね……」
レッド「俺は……俺が……」
呟きながら昏倒するレッドを心配そうにのぞき込むウロネブリ。気絶するレッドの脳裏には走馬燈のように懐かしい声がよぎる……。
????「俺にできるのは今この時の俺に思いつくことだけだ。それが俺の正義なのさ」
????「でも私はこう思う。正義の役目は、全ての悪を魅了することだと」
????「ヒーローの力は正義のために使わねばならん」
????「正義の味方というのは、きっと君のような人間のことを言うのだろう」
◇
一方、そのころ。
黒騎士セアトと従騎士たちはクーロンの地下水道を探索していた。情報によれば、標的のアセルスは京で金獅子姫との交戦を経て他の星へと逃亡したはずだった。しかしその後の行方はようとして知れず、ほかに手掛かりのないセアト達はこれまでアセルスが潜伏していた場所をしらみつぶしに探し回る羽目になっていた。
セアト「白薔薇姫の持ち出した金品もすでに底をついているだろうに……。援助を求めて知り合いを訪ねるかと思ったがその気配もない……どういうことだ……? オルロワージュ様の血を持つものなら、その匂いだけで下級妖魔たちが騒ぎ出すはずだ……。情報が何も出ないというのはさすがにおかしい…」
ハウゲータ「確かにそうだな。オウミ、シュライク、クーロン……。アセルスたちの足取りを掴むのは実に簡単だった。ところが以後の行動はまるで読めない。これはアセルス達ではなく、第三者の手が加わっているとみるべきなのかもしれん」
アルキオネ「第三者?」
ハウゲータ「リージョン間を超えて情報統制を敷くだけの力を持った妖魔。あるいは、オルロワージュ様の血の匂いを隠蔽するだけの結界を張ることのできる妖魔、といったところか。……まぁ、あくまでも想像だが」
セアト「それだけの実力者がアセルスに手を貸したと?」
ハウゲータ「可能性はあるだろうな。何しろ半妖だ。針の城では黒騎士ラスタバンやゾズマ様も彼女には好意的だったと聞く」
セアト「ゾズマか……。あいつは厄介だ」
ハウゲータ「不安か? ゾズマ様の力はオルロワージュ様も認めるところだからな。──だが、気にすることはあるまい。何しろお前にはその血液があるのだからな」
セアト「ああ……」
複雑な顔でセアトは腰に下げた小瓶をそっと撫でる。小瓶の中にはアセルスの血が収められている。
ハウゲータ「何故、飲まない。オルロワージュ様の力を取り込むチャンスだぞ。せっかく私がアセルスから奪ってきたのだ。早く飲め。そして私に感謝するがいい」
セアト「無論、感謝はしている。しているが……」
歯切れの悪いセアトを見かねたアルキオネは口をとがらせてハウゲータにくってかかる。
アルキオネ「そんなのはセアトの自由でしょ。セアトはね、誰かがヨソから持ってきたものをぽんと受け取ってはい強くなりました~って、そんなのは妖魔としての誇りが許さないのよ。それがわかんないの?」
ハウゲータ「……そうなのか、セアト?」
セアト「ああ……まぁ、そうなるな。すまない」
ハウゲータ「いや……いいさ。お前がそうしたいのなら私はとやかく言うまい」
セアト「ああ……」
言葉尻を濁すセアト。
セアト(俺は、アセルスの血を奪うと言ったハウゲータを止めはしなかった。それも構わぬ、と確かにその時はそう思ったのだ。失敗すると考えたからでもない。アセルスの──オルロワージュ様の力を取り込めば俺にもあるいは。そんな考えが俺の脳裏を横切った。だが実際にこうしてアセルスの血を手中に収め──しかし俺はこの血を飲み干すことができないでいる。アルキオネの言うように『こんな方法で強くなっても』と、確かにそう考えたのは嘘ではない。だが俺は──俺は、心の底では……)
暗い顔をして考え込むセアトは苦々しい思いに唇を噛みしめる──すると、そんな彼とは対照的にウロネブリの能天気な声があがる。
ウロネブリ「あれぇ……レッド?」
ウロネブリの視線の先には血まみれで横たわる男の姿。ウロネブリはきょろきょろとあたりを見回すと落ちていた木の棒を拾い上げ男の脇腹をつつき始める。
ウロネブリ「どうしたの? こんなところで? だいじょーぶ?」
セアト「誰だ、そいつは?」
ウロネブリ「このまえ言ったでしょ。あのね……」
レッド「う……。と、とうさん……かあさん……おれは……。お、おれは……ヒーロ……の……う……あせるす、ねえ……ちゃん……」
セアト「……今、何と言った?」
レッド「う、うう……」
セアト「確かに言ったな。アセルス、と。この男……。レッド、だと……? マンハッタンでキャンベルを襲った人間、ウロネブリの話ではそんなところだったか。いや……ウロネブリの話によれば『アルカイザー』がアセルスを庇ったのだったか。どういうことだ……? この男も知り合いだったのか……? いや……まさか……」
訝し気にレッドを見つめるセアト。
◇
レッドが目を覚ますと、そこは見覚えのある宿の一室だった。クーロンても最低ランクに位置するぼろ小屋同然の安宿。起き上がるだけで全身に激痛がはしるが、どうやら治療はされたらしい。体のあちこちを包帯で保護されている。
レッド「ここは……?」
ウロネブリ「あ、おきた」
レッドの足元でいぎたなくよだれを垂らして居眠りしていたウロネブリは、レッドの目覚めに気づくとぱっとうれしそうな顔をして飛び起きる。
レッド「お前……ウロネブリ、か……? どうして……」
ウロネブリ「セアトくーん! おきたよー!」
大声で扉の向こうに呼びかける。と、重苦しい音を立てて扉が開けられ、現れたセアトは冷たい瞳でレッドを睨みつける。
セアト「ようやく目覚めたか、人間」
レッド「あんたが『セアトくん』か?」
セアト「黙れ、人間。劣等種ごときに気安く呼ばれる筋合いはない」
レッド「……そうかい。そいつは悪かったな。あんた達が俺を助けてくれたんだろう? ありがとう。恩に着るよ」
セアト「助けただと? 勘違いも甚だしいぞ、人間。なぜ誇り高き妖魔であるこの俺が人間を救わねばならん。貴様を生かしておいてやったのは──貴様を『尋問』するためだ。それ以上でも以下でもない」
レッド「なん……だと……」
セアト「アセルスについて知っていることを洗いざらい話せ」
レッド「な……何のことだ……?」
とぼけながらも激しい動揺を隠せないレッド。
レッド(そうだ……こいつは……ウロネブリ達は……)
セアト「隠しても無駄だ。うわ言で何度もあの女の名を呟いていたぞ。……瀕死の状態で女の名を口にするとは、軟弱なことだな」
嘲弄を顔に浮かべるセアト。
セアト「さぁ、話せ。アセルスはいま、どこにいる?」
レッド「……知らねーな。知ってたとしても、悪いがあんたには話せなッ……!」
首を振るレッドはセアトが無造作に突き出した剣によって傷口を抉られ悶絶する。
セアト「お前はさっきから何か勘違いをしているのではないか? 俺はウロネブリとは違う。劣等種にかける慈悲などは無い。知っていることを洗いざらい話せ。さもなければ殺す」
レッド「へっ……。嫌だ、ね……!」
腹部から流れ出す血。青ざめた顔でレッドはしかしふてぶてしく笑う。その眼に秘めた強い光を目にして──セアトは顔を歪める。
セアト「貴様の、その眼──実に不愉快な眼だ。自己陶酔に染まった人間特有の薄汚い目つき──自らが正義なのだとでも言いたげな目だ……! 笑わせるな! 今の貴様に何ができる! さっさとアセルスの居場所を吐け!」
レッド「そう言われてはいそうですかと口にする奴が、いるかよ……。本当に知らないんだ。俺はもう……アセルス姉ちゃんと同じ道を進むことはできない。あの人とは……マンハッタンで別れたっきりだ。そのあとのことは知らない。悪いな……」
セアト「嘘をつくな! さっさと吐け!」
口を噤んだレッドに暴行を加えるセアト。瀕死の体を血まみれにしながら、それでもレッドは頑なに口を閉ざし続ける……。
セアト「なぜだ……。なぜ、お前はそれほどまでにあの女の肩を持つ? お前は……!」
苛立つセアトは必要以上にレッドを嬲る。その様子を見かねたのか、奥から様子を伺っていたハウゲータとアルキオネが現れる。
ハウゲータ「そのへんにしておけ、セアト。殺しては元も子もないだろう」
セアト「構わん。どうせ喋らないのならこのまま殺してくれる」
ハウゲータ「フーム……。いや、殺すなら殺すで結構だが、この手の男は拷問するよりも魅了した方が早いだろう? ここは私に任せてほしい」
セアト「……いいだろう」
ハウゲータ「すまんな。では……」
朦朧としたレッドの側に近寄り、ハウゲータはそっと耳元に唇を寄せる。
ハウゲータ「坊や、私のあるじが随分とひどいことをしてしまったね? 許してくれたまえ……」
レッド「う、うう……」
ハウゲータ「さて……君にはいくつか聞きたいことがある。我々はいまとても困っているところなのだ。協力してくれると助かるのだが……」
レッド「おれは……何も、しらない……」
ハウゲータ「ああ、そうだろうとも。だが私が君に頼みたいのはもっと別のことだよ」
レッド「べ、べつのことだと……?」
ハアゲータ「そうさ」
レッドの耳元で熱く囁くハウゲータ。
ハウゲータ「ほうら、落ち着いて、息をして……私の眼を、見てごらん……?」
レッド「う、うう……」
ハウゲータ「瞳の中には何がある? 別世界だよ。網膜に映るのは君の姿。けれどもそれは、君であって君でない。眼球という洞穴を抜けてするりと、抜け出たその先には何がある? 自我の膜を破り、目まぐるしい産道を超えて……、ほら、何が見える? 覗いてごらん、坊や……」
レッド「ぐ……」
ハウゲータ「君は私の中に君を見る。君自身の姿、君自身の思いを。さぁ、目を閉じて、そしてもう一度目を開く……。さぁ、いつかの君は、どこにいる? かつての君は、誰のもの……?」
レッド「お、れ、は……」
戸惑うように焦点を揺らし、しかしレッドはゆっくりと目を閉じていく。次第に落ち着きを取り戻しながら。
レッド「おれは……ここにいる。おれは、誰のものでもない。おれの、ものだ……」
ハウゲータ「そう、君は
レッドはゆっくりと目を開き、ハウゲータの目に映った自らの姿を見つめて陶然と呟く。
レッド「俺は……俺のもの……」
ハウゲータ「君は君自身を手に入れる。君自身を支配する……。さぁ……坊や。起き上がり、私のお願いを聞いておくれ。君である私の質問を」
どこか霞がかったようにぼんやりとしていたレッドはやがて身を起こし、しっかりとして口調で答える。
レッド「一体、あんたは何が聞きたいんだ?」
ハウゲータ「アセルスの行方は本当に知らないのかね?」
レッド「知らないな」
ハウゲータ「君とアセルスの関係は?」
レッド「幼馴染だ。シュライクで……小さいころ、一緒に遊んでもらった」
ハウゲータ「君はキャンベルとの一件でビルにいたはずだ。ウロネブリの話では途中からいなくなってそれきりだったが……あの後、君はどうしていたのかな?」
レッド「あの後?」
ハウゲータ「君はウロネブリをかばって階段を落ちていった。その後のことさ。ずっと気絶していた? 君はあの場所にアセルスが現れたこともしらないのかな?」
レッド「いいや……。ウロネブリを助けた後、俺はアルカイザーに変身してあの場所に戻った。アセルス姉ちゃん……アセルスがいたことももちろん知っている」
ハウゲータ「ふむ……?」
セアト「……」
ウロネブリ「えっ」
アルキオネ「何言ってんの、こいつ」
ハウゲータ「確認するが……、君は、アルカイザーなのか?」
レッド「ああ」
ウロネブリ「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! あっ、そうだ……! だから……! ふわぁ! すごいすごいすごい!」
セアト「嘘をつくな。貴様のような男がヒーローである筈がない」
ウロネブリ「ほんものの、ヒーローなんだ!」
わーいわーいと飛び跳ねるウロネブリにセアトは眉を寄せる。
セアト「……ウロネブリ、少し静かにしてくれ」
ウロネブリ「……ご、ごめんしゃい……」
アルキオネ「自分でそう思い込んでいるだけなんじゃないの? アタマおかしくて。黒十字団だってアルカールの正体を探るためにそれこそ百年以上調べまわってまるで見当もつかなかったのに。こーんな普通の男がアルカイザーなんて、ねぇ?」
ハウゲータ「いや、彼が真実アルカイザーであるかどうかはこの際どうでもいいことではないか? 問題はアセルスの情報を持っているかどうかだろう」
アルキオネ「はいはい、すいませんでした」
ハウゲータ「魅了された以上、嘘をついてはいない。……とすると、もしもアルカイザーであるのなら、キャンベルを倒したのは君なのだな。そして同行していたヒューズという捜査官がアセルスを撃ち、君は倒れたアセルスを庇った……そんな話だっただろうか。ウロネブリは君のサインをもらうと満面の笑みを浮かべて我々のもとに戻ってきたわけだが……それから先は何があったのだ? 君はアセルスの知り合いだったのだろう? 会話の一つも交わさなかったのか?」
レッド「アセルスは……あの人は、ブラッククロスであるキャンベルを殺すなと言った。話せば分かり合える、理解することができると」
ハウゲータ「彼女らしいな」
セアト「……小娘の言いそうな下らんセリフだ」
レッド「だが俺にとってブラッククロスは倒すべき悪だ。頷くことはできない。俺は……奴らをぶっ潰す。それがたとえ……アセルスが望む世界とは別のものだったとしてもだ。彼女は俺を助けてくれた。あの人は俺のヒーローだった。この世にはヒーローがいると、そう信じていたからこそ俺は、自分自身もまたヒーローになれると思って闘ってきた。……だが、もう俺は、あの人と同じ道を行くことはできない。彼女の身を守るためにIRPOとは取引をした。でもアセルスとはそれ以上、何も話してはいない。白薔薇とかいう人が来て、気絶した彼女を連れて行ったよ……俺はただ、見ているだけだった」
ハウゲータ「白薔薇姫、か。俄かに真実味を帯びてきたな。それなりに筋も通っている。残念だが彼からこれ以上得るものはないようだ。どうするセアト。殺すか?」
セアト「……」
アルキオネ「セアト?」
セアト「いや……。まだその小僧には聞きたいことがある」
どこか躊躇うように視線を反らし──それからセアトは苛立ったようにレッドを睨みつける。
セアト「答えろ、人間。貴様は本当にアルカイザーなのか?」
レッド「ああ」
セアト「なぜ……なぜ貴様はアルカイザーになった?」
レッド「俺は家族をシュウザーに殺され、俺自身も殺されかけた──」
その言葉を聞くとセアトは苦々しげに口を歪め、口の中で小さくつぶやいた。
セアト「シュウザー、だと? まだ存在していたのか……?」
レッド「──だがその時、アルカールが現れて俺にヒーローの力を与えてくれたんだ」
セアト「……それだけか。たったそれだけなのか? 何か理由があるのではないのか? なぜ貴様はアルカールに選ばれた? 貴様には何がある? 戦闘能力か? 類まれな正義の心でも持っているのか? こんな……容易く魅了されてしまう程度の精神力で……?」
アルキオネ「セアト……」
レッド「俺が、なんでヒーローに選ばれたのかって……? いや……それは、わからない……俺自身にも……」
セアト「なぜ、わからない? 貴様はアルカイザーなのだろう? 選ばれた存在の筈だろう」
レッド「俺は……」
セアト「何と下らない男なのだ……こんな男のために……!」
憎々しげにレッドを睨みつけるセアト。だが心配そうに自らを見つめるアルキオネに気づき、はっとする。
セアト「いや……俺は大丈夫だ」
アルキオネ「うん……」
セアト「もう、いい……どこへなりと行け……」
ハウゲータ「殺さないのか?」
セアト「つまらん男だ。殺す価値もない」
どこか疲れたように答えるセアト。
セアト「貴様は用無しだ。さっさと失せろ」
レッド「わかったよ……」
傷だらけの体でよろよろと出ていくレッドに、セアトはふと問いかける。
セアト「これから……貴様はどこへ行く?」
レッド「シュウザーと戦うさ。勝てるかどうかはわからないが……」
弱気に答えたレッドに舌打ちするセアト。
◇
レッドが去った後、セアトは不快感をあらわにして呟く。
セアト「何が、ヒーローだ……。そんなものはどこにもいない」
その言葉を聞いたウロネブリは困ったように目を伏せる。
セアト「……なんだ、ウロネブリ? ……そうか、お前はヒーローを信じているんだったな……。……俺の言ったことは、あまり気にするな」
ウロネブリ「うん……」
元気なく下を向いたウロネブリは、やがておずおずと口を開く。
ウロネブリ「あのね、ボクはセアトくんがいないっていうなら、それでいいと思うの。セアトくんがいうならレッドだって今から殺してくるし、これからはヒーローはいないってことにする。……でもね、ボクは、やっぱり、ヒーローはいると思うなぁ」
セアト「なぜだ?」
もじもじと両手を動かすウロネブリ。
ウロネブリ「だって、セアトくんはボクを助けてくれたでしょお。セアトくんはボクの……ヒーローだもん!」
言い終わるや否やウロネブリは顔を真っ赤にして逃げていく。残されたセアトは暗い顔のまま、寂しそうに囁いた。
セアト「違う……俺はあの時、お前を助けたんじゃない。あの時、俺が助けたかったのは……」
◇
レッドはクーロンを彷徨い、なんとか闇医者ヌサカーンを見つけ出していた。治療を受けたレッドはヌサカーンへ礼を言い、よろよろと立ち上がる。
レッド「助かったよ、ドクター。治してもらって悪いんだがあいにくと今は手持ちがないんだ。治療費はIRPOのロスター捜査官に請求してくれ」
ヌサカーン「なあに、金なぞはいらんさ。なかなか面白い傷を観察することができて私も満足だ。どんな兵器で攻撃を受けたのかは知らないが、医者の治療を拒むような実に質の悪く素晴らしい傷だった。また来たまえ」
ヌサカーンの言葉に自嘲するレッド。
レッド「……そうだな。“また”があれば、その時はここに来るさ……」
ヌサカーン「ふむ……? その口ぶりでは君はまた危険な場所へ赴こうとしているようだな。その傷を与えた相手がいるところへかね?」
レッド「……さすがは医者先生だな。何でもお見通しってか?」
ヌサカーン「勝ち目のない戦いなのかね?」
レッド「…………」
ヌサカーン「私としては、君にはもっともっと怪我をしてもらいたい。……だが、死ぬのはいかん。君には再びこの医院へと帰ってきてもらわねばならないのだから」
レッド「とんでもない先生だな。アンタ本当に医者かよ。……だいいち、俺だって別に好き好んで死のうとしているわけじゃない。そんな趣味はない。……だがな、先生。人間、誰にだって、やりたかろうがやりたくなかろうが、やらざるを得ないっつうことがあるもんじゃあないのかな。それをやらなきゃ、やり通さなきゃ、自分が自分である意味がないんだってことが」
ヌサカーン「私にはないな。私は自分のやりたいことだけをして生きている。そこに例外はないのでね」
レッド「……ああ、そうかい。とにかくアンタには世話になったな。礼を言うよ。じゃあな……」
力のない声でつぶやくと、レッドは病院を出る。クーロンの、ゴミ溜にも等しいスラム街の汚れた空にはどす黒い雨が降りしきる。その汚らしい雨をぎょろりとにらみつけ、レッドは低く唸る。
レッド「勝てるとは、思わない……。それでも……。俺は……」
◇
再びシュウザーの基地へと侵入したレッド。アルカイザーへと変身しヒーローの力で戦闘員たちをなぎ倒していくが、しかし前回とは異なり仲間のいないこの状況はまさに多勢に無勢。疲弊したその体に敵の光線銃がかすめレッドは膝をつく。
アルカイザー「まだだ……まだ、やれる……」
腹部から血を流しながら次の部屋へと続く扉を開くアルカイザー。そこに立っていたのは──。
アルカイザー「お前は……セアト!? 何故ここに?」
セアト「遅かったな」
陰鬱な表情で椅子に腰を下ろすセアト。剣を床に突き立てたままアルカイザーをねめつける。
セアト「貴様に一つ聞き忘れたことがあった」
アルカイザー「何?」
セアト「問おう。……ヒーローとは何だ」
アルカイザー「一体なんの話なんだ?」
セアト「わからないのか? 貴様はヒーローなのだろう。ならば答えられる筈だ」
アルカイザー「……ヒーローは……。ヒーローというのは……正義の、味方、だ……。正義のために闘う、世界の平和を守るために闘う……そういう存在のことだ……」
セアト「では正義とは何だ。貴様の言う“世界の平和”とは、どのような状態のことを言う。この星間世界では今もなお数多くの紛争が起こり、弱者は淘汰されていく。黒十字団などは所詮、その一部を引き起こしているに過ぎん。貴様は……ここクーロンでの戦いを選んだ。それはつまり、他の悪を見逃すということではないのか。答えろ、アルカイザー。貴様はなぜここに来た」
アルカイザー「……何が言いたい。お前は一体、何が知りたいんだ」
セアト「最初に言った筈だ。ヒーローとは何だ。正義はこの世のどこにある」
剣呑な声で問いを重ねるセアト。返答次第で今にも襲い掛かろうとするかのように……。
アルカイザー「わ、私は……」
セアト「答えられないのか。そんなことさえ考えずに、お前はその力を振るうのか」
アルカイザー「……わからない。俺は……俺には、わからないんだ。もしかしたら、俺は……。だが、たとえそうだとしても、この力を手に入れた俺には責任がある。できるだけのことを、やるしかないんだ……!」
セアト「馬鹿が……。そんなことはヒーローでなくともできる」
アルカイザー「お前はさっきから何が言いたいんだ。どうして、お前はブラッククロスの基地にいる? ブラッククロスの関係者なのか?」
セアト「……関係者、か。そうだな。これは因果だ。黒十字団にはいささか以上の縁がある。……俺はかつて、黒十字団の実験体だった」
アルカイザー「なん、だと……」
セアト「俺はそのころ何者でもなかった。ヒーローでも悪でもなく、名前すら持ち合わせてはいなかった。俺は実験体として改造され……いつか、貴様のようなヒーローと戦うはずだった。だがそうはならなかった。俺は役立たずとして始末されることになり……人としての俺はそこで死んだ。こうして妖魔として蘇った今もずっと考えている。俺は一体何だったのかと。俺が闘う筈だったヒーローとはどんな存在だったのかと」
アルカイザー「……」
セアト「それが貴様なのか? ただ力を手にしただけの普通の男が。この程度の男を倒すために、俺は、俺たちは……。俺を失望させるな、アルカイザー。ヒーローとは、もっと超人的なものなのかと思っていたぞ」
淡々と呟くセアト。
アルカイザー「勝手なことを言うな……! お前に何がわかる! お前に何がわかるんだ! ある日いきなり家族を殺され、突然ヒーローの力を与えられて! どうすればいい! ……ああ、俺は闘うさ! 家族の仇をとりたいからな! ……だがな、それ以上のことは俺にだってわからないんだよ! 俺だって、なれるものなら正義になりたい! ヒーローにだってなりたいさ! だが違うんだよ! アルカイザーという存在が正義の象徴なのだとしても、この俺自身は正義じゃあない! ……ああ、自分でだってわかっているさ! 俺は……俺は何者でもない! それでも何かになりたいんだ! 正義に近づくために……闘わなきゃならないんだ! 俺は……! 正義とは……!」
自らに憤るかのように叫ぶアルカイザー。その言葉に、セアトはふと、はるか昔に彼自身が口にした言葉を思い出す。
俺とお前の何が違う。ただそう生まれたというだけで俺は死に、お前だけが生きるのか。なぜ俺は人間なんだ。なぜ支配者として生まれることができなかったんだ。俺は嫌だ。死ぬのは嫌だ。負け続けることが嫌だ。そして何よりも人間であることが嫌なんだ。
人間。
人間は弱い。人間は惨めだ。人間は臭く、醜く、薄汚い獣同然の生き物だ。俺を馬鹿にしたあの人間、俺と俺の母とを弄んだあの糞野郎どもを俺はけして許さない。俺は人間を憎む。この世全ての人間を憎む。何も知らずにのうのうと行き、無自覚に人を踏みつけにする人間を憎む。そして……。
……そして俺は、俺を憎む。俺と言うこの馬鹿を、こうして死んでいくことしかできない己自身を。
お前が理由を知っているのなら教えてくれ。なぜ俺はこうなんだ。なぜ俺はこうして何も手に入れられずに死ななければならないんだ。ああ、そうだ、生まれてからこのかた人生は何一つ思い通りにならない。誰も俺を必要とはせず、俺を厭う視線でしか迎えない。どうしてなんだ。
勝ち誇りたい。奪われる前に奪いたい。俺は何かになりたいんだ。このまま死ぬのは嫌なんだ。死んでたまるか。死んでなどやるものか。嫌だ、死にたくない。誰か俺を助けてくれ……”
セアト「俺は……」
苦々し気に舌打ちをするセアト。
セアト「俺は……何かになりたかった。俺は……誰かに、助けてほしかった……」
アルカイザー「え……?」
セアト「貴様が何を望もうと、俺の知ったことではない。だが……今回だけだ。今回だけ、俺は……」
意を決したようにセアトは静かに息を吸い込む。
セアト「──お前に、力を貸してやる」
◇
意外にもセアトの助力を得たレッド。頼もしい黒騎士と共に破竹の勢いで基地を進んでいく。
そしてとうとう最後の部屋へとたどり着いたレッド達はブラッククロス四天王シュウザーと対峙するのであった。
シュウザー「誰かと思えば……、。おめおめと逃げ出したヒーローがこの俺様に何の用だ?」
アルカイザー「ヒーローは同じ敵に二度は負けない! 今度こそ、貴様を倒す!」
シュウザー「クックック……。目の前でむざむざ父を殺された男が、よくもヒーローなどとほざくものだな! 笑わせるな! たとえいかに強固なスーツを纏おうと、その奥に隠れた貴様は所詮、ちっぽけな人間に過ぎん! さあ、愚かな貴様の本当の姿をさらけ出してやろう!」
言いながら手元の機会を操作するシュウザー。その途端、アルカイザーは苦し気に呻いて膝をつく。
アルカイザー「こ、これは……!」
シュウザー「アルカイザー。我らがブラッククロスの宿敵よ。この俺様が何の対策もしないと思ったか? 我が基地で開発されたこの装置によって生み出されるのはヒーロー力無効化空間! この空間内ではマクロダウナー効果Ωによってヒーローの力は完全にゼロとなる! さぁ、恐れ慄けアルカイザー! 貴様はもはや無力な一般市民だ!」
アルカイザー「ぐ……。そ、そうか……。ブラッククロスのトワイライトゾーン……マクロダウナー効果によって強化された怪人達に対抗するために生み出されたのがヒーローの力……。トワイライトゾーンの力を応用することで逆に無効化するとは……」
シュウザー「フハハハハ! どうしたアルカイザー! 貴様の力はその程度か? ハーハッハッハ! 頼もしいそのヒーロースーツも、今となっては重いだけの棺桶よ! さあ、身動きすらとれずに死んでゆけい!」
シュウザーのクロービットが動けないアルカイザーを襲う。だが素早く割って入ったセアトは苦も無くビットを切り払い、シュウサーを見据える。
セアト「アルカイザー」
アルカイザー「う……ぐ……体、が……」
セアト「アルカイザー。動けないのか。ここで終わりなのか。動けないのならそう言え。俺が代わりにこいつを叩き斬ってやろう」
シュウザー「なんだ、貴様は?」
セアト「俺はただの随伴者だ。何者でもない。強いて名乗るとするなら──この場所における俺の名は二号だ」
シュウザー「二号……? 貴様は──」
セアト「貴様に恨みがあるわけではない。憎んでいるわけでもない。だが──どうやら闘う理由はあるらしい。……俺はどちらでも構わない。アルカイザー、お前はどうする?」
アルカイザー「……」
セアトの静かな言葉にアルカイザーは一瞬の沈黙。憎き仇、シュウザーを前にして奪われたヒーローの力。頼みの武器を奪われ、無力に地に臥すレッド。
正義のヒーローとは何なのか。
自分はヒーローになれるのか。
考えても考えても答えは出ず、迷いを抱えながらも数多くの出会いと戦いを経て──、
──ついにレッドは、息苦しそうに喘ぎながらとうとうヒーローの仮面を脱ぎ捨てた。
レッド「俺は……」
冷たい外気に素顔を晒し、ぜえぜえと息を吐きだしながら、しかしレッドは力強い眼で己の敵をしっかと捉える。
レッド「ヒーローの力が無効化されようが……変身できなかろうが……! どっちだって構わねえ! どのみち俺は……! 今はまだ、ヒーローでもなんでもないんだからな……!」
シュウザー「……ほう? 自分がヒーローなどではないことをとうとう認めたな! ならば命乞いをしろ! 惨めに這いつくばり、無力な己を嘆きながら死ね!」
レッド「悪いが、そんなのはごめんだな!」
シュウザー「なにィ?」
レッド「ああ、そうだ。俺はヒーローなんかじゃない。正義でもなけりゃ悪でもない!」
シュウザー「ならば、貴様は一体なんだ!?」
レッド「俺は俺だ。小此木烈人だ! ……ああ、俺はヒーローになってやるさ。完全無欠の英雄にな。……だがそれは今じゃない。お前を倒した後でだ。アルカイザーの力が使えないってんなら、望むところだ! 正義だ何だと四の五の言うのは、悪いが後にしておくぜ! ──シュウザー! 俺の名を聞け! 俺の名は小此木烈人! ヒーローとしてではなく、アルカイザーとしてでもなく……小此木家の長男として、シュウザー! テメエを倒す!」
シュウザー「馬鹿が! 結局、貴様はつまらん復讐者に過ぎないのだ」
セアト「……それがお前の答えなのか。アルカイザー。都合に応じて出し入れできるようなものが、お前の言う正義なのか?」
レッド「悪いなセアト。俺は正義じゃあない……。だが、自分が正義じゃないからと言って、正義を諦めていいとは思わない。それでも……俺は正義を目指す。こいつを倒して、俺はヒーローになってやる!」
セアト「……よかろう。小此木烈人。ならばお前の戦いを見届けてやる」
アルカイザースーツを解除し生身の姿へと戻ったレッド。全身から血を流しながらシュウザーと対峙する。
シュウザー「さあかかってこい! 小此木烈人! 家族のもとへ送ってやろう!」
レッド「これが俺の……アルフェニックスだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
シュウザー「ぐふっ」
レッド「やったよ。父さん、母さん、藍子……」
渾身の一撃で辛くもシュウザーを打ち破ったレッド。しかし、それでも失ったものは戻らない。亡くした家族への思いに涙を流しながらレッドはシュウザー基地を後にするのであった……。
■次回予告
とうとう宿敵シュウザーを倒したアルカイザーことレッド。
だが戦いはまだ終わらない。四天王ベルヴァが仮面武闘会に現れるとの情報を掴んだレッド達はシンロウへと向かう。
謎の覆面レスラーピンクタイガーは敵か味方か!?
そして曲者ぞろいの武闘会でアルカイザーが目にしたものとは!?
次回、『獣心! ひととけだもののベルヴァ!』見てくれよな!