病弱系女子の兄貴   作:坂本祐

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新撰組は有名だけど、新徴組にも焦点を当てて!
みんな、キャラ立ってるんだからね!



プロローグ

「そういえば、沖田さんにはお兄さんがいるんだよね?」

立花の何気ない一言に団子を頬張ろうとしていた沖田は、団子を口元から離した。

慰安旅行から帰還した立花達は、心機一転、次なる異聞帯攻略に向けて鍛錬に励み、その日のノルマを終えた彼らは食堂で談笑していた。

話の話題は家族について。

口火を切ったのは、盛り上げ上手である織田信長、次に茶々、坂本龍馬と日本出身のサーヴァント達が口々に家族との思い出話しに興じている中、不意に立花は向かい側に座って団子を頬張っている沖田に義理の兄がいることを思い出したのである。

思いがけない言葉だったのか、沖田はキョトンと目を丸くした。

「はい、いますが…」

「どんなお兄さんだったのですか?」

マシュの言葉に沖田の瞳に追憶の念が現れた。

天真爛漫を絵に描いたような少女であり、時にはハイテンションになる嫌いがある沖田だが、この時は何時もとは異なって物思いに耽った様子である。

兄との思い出に馳せているのだろう。

「私にとっては父親のような存在でした。幼い頃に父上が他界してしまったので、兄上が父親代わりに色んなことを教えてくれたんです」

「ふむ、いい兄上じゃな」

「ええ、そうですね。とっても良い人でした」

「じゃあ、沖田さんはお兄さんから剣を習ったの?」

「はい、試衛館に通う以前は兄上から習っていましたね。兄上がいなければ、天然理心流を習っていなかったかもしれませんし、近藤さんや土方さんにも出会えてなかったでしょう。だからこうして、私がここにいるのはひとえに兄上のおかげです」

「林太郎さんの話か?」

背後から投げかけられた声に立花は振り向いた。

視線の先には、新撰組副長を務めたバーサーカーの土方歳三が立っていた。

僅かに彼の眉間の皺が寄っているのは気のせいではないだろう。

戦闘中のような相手を射殺すような鬼の形相ではないにしろ、若干、機嫌が悪そうである。

「あ、土方さん。沖田さんのお兄さんを知っているの?」

「知っているも何も同門の先輩だからな。天然理心流の奴なら誰であれ林太郎さんにはお世話になった。俺もガキの頃から世話になった人だ」

「そうだったんですか…」

土方の声音から察するに沖田の兄が嫌いというわけではなさそうだ。

すると、土方は立花の奥にいる沖田に視線を向け、目くじらを釣り上げて睥睨した。

ただでさえ強面で目つきの悪い土方が、睨みつけるというのだから余程の胆力の持ち主でなければ体が竦んでしまって身動きが取れなくなってしまうだろう。

「それよりも沖田ッ!いつまで団子くってやがる。今から稽古だ。さっさと支度しろ」

「えぇ〜!土方さん、私の至福の時を奪わないで下さいよ!まだ一本しか食べてないんですから!」

「いっぽんで十分だろうが!」

「うわーん、横暴だぁ〜!」

大股で沖田に歩み寄った土方は、彼女の襟首を掴むとそのまま引き摺ってトレーニングルームへと消えていった。

後に残されたメンバーは、この一連の流れに驚くこともなく、また何時ものことか、と慣れた様子で見守っていたのであった。

 

 

沖田林太郎、旧姓井上林太郎は、武蔵国多摩郡日野に生まれた。

幼少の頃から天然理心流の試衛館に足を運び、近藤勇の養父である近藤周斎は彼の鬼才ぶりに驚嘆したという。

一時は、近藤周斎の養子となって試衛館の道場を継ぐのは井上林太郎ではないかといわれたほどだったが、島崎勝太、後の近藤勇が近藤家の養子となったためこの話は立ち消えてしまった。

しかしながら、試衛館の門人の中では上位に入るほどの非凡な才能、加えて端正な顔立ちと誠実な人柄で面倒見の良い好青年の彼は、多摩郡ではその名を知らぬ者はいないほど知れ渡っていた。

二十歳になった頃、奥州白河藩の足軽小頭という沖田家に婿入りをする。

妻の名前は沖田ミツ、当時十二歳の少女で、彼の父親である沖田家当主である勝次郎には、二人の娘がいるものの嫡男がいなかったため、林太郎に婿入りしてもらい、家督を譲ったのである。

沖田家の家督を譲ったことで、勝次郎も安心したのだろう。

不幸なことに勝次郎と妻であるミキの間に子供が生まれてしまい、それがのちの新撰組一番隊隊長となる沖田総司であった。

これには勝次郎も大いに悩んだ。

婿養子となった林太郎に家督を譲っており、今更総司に譲るわけにもいかず、勝次郎は長男であるはずの子供に宗次郎と名付け、嫡男でないことを林太郎に示した後、2年後に他界。

勝次郎の妻であるミキも後を追うように数年後に他界した。

そのため、総司は物心つく頃に父親と母親はこの世になく、総司を義理の兄である林太郎と姉であるミツが我が子のように育てたのである。

その溺愛ぶりは、家内であるミツでさえ妬いてしまうほどで、総司が林太郎に懐いたのは言うまでもない。

竹刀片手に試衛館に赴く林太郎と手を繋いで同行するのが総司にとってこれほど至福の時はなかった。

そのため、彼が試衛館に足を運ばなければ沖田総司は試衛館に訪れることはなかっただろう。

また、彼には懇意にしている剣術仲間がいた。

日野宿寄場名家の佐藤彦五郎である。

彼の妻は、土方歳三の姉である土方ノブであった。

そのため、沖田林太郎は8歳年下の近藤勇、9歳年下の土方歳三、そして16歳年下の総司を同じ門人の先輩として可愛がっては彼らの面倒を見た、正に新撰組の中枢を担うこととなる彼らの兄貴分、それが沖田林太郎であった。

そんな彼は、いま、道端で大の字になって熟睡している黒髪の青年に苦笑いしていた。

心地よい風が時折吹き、暖かい太陽の光が降り注いでいる日向日和であるとはいえ、家の前の道路で熟睡されてしまっては堪ったもんじゃない。

見たところ目の前で寝ている青年は多摩郡では見かけない顔で、関われば面倒なことに巻き込まれそうになる予感はあるものの、無視して通ることは出来ないと判断したらしく、溜息を吐いてしゃがみこんだ。

「おーい、おめぇさん。こんなとこで寝てっと風邪引くぜぇ?」

「んあっ…?」

体を揺すぶられたことで、熟睡していた青年は眠そうに瞼を擦りながら、上を向いた。

目覚めた青年は、最初こそ寝ぼけた顔でぼんやりとしていたが、徐々に意識が覚醒したのか、キリッとした顔つきで林太郎の顔を凝視する。

「おはよう、寝坊助さん。おめぇさん、見ねぇ面だが…」

「あれ?貴方は?っていうか、ここは?」

「ああ?寝ぼけてんのか?ここは武蔵国多摩郡日野だぜぇ?」

「武蔵国?」

そういって目の前の人物は、黙り込んだ。

これには、流石の林太郎も不信感を抱き始めた。

——おいおい、こいつ大丈夫かぁ?

道端で熟睡しているだけでも変人なのに、自分のいる場所すら分からないとなると、目の前の人物に対して猜疑心が湧き出るのは無理もない。

青年もそれを肌で感じ取ったのか、手を頭にやり、愛想笑いを浮かべる。

その行動が余計に胡散臭いものであったが、林太郎は目を細めるだけで言及はしなかった。

「すみません、ちょっと寝ぼけていました…それで貴方は?」

「オイラかい?オイラの名前は沖田、沖田林太郎だ」

「沖田…林太郎…」

目を見開いて驚愕する青年に林太郎は苦笑した。

「おいおい、そんな鳩が目を丸くしたように凝視するんじゃねぇぞ。男に見つめられても寒気がするだけだぜ」

「ご、ごめんなさい!えっと、林太郎さんは…」

「その前におめぇさんの名前は?」

「あっ、ごめんなさい!藤丸…藤丸立花です!」

「訳ありのようだな。話は聞いてやる。うちに上がりな」

そういって林太郎は、藤丸に背を向けて自宅に上がり込んだ。




テスト終わったら次話投稿します。でも、バイオとかエースコンバットとか新作のゲーム出るからなぁ…とりあえず、テスト終わったら投稿します。

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