貞操観念逆転で男女比率1:9とかどんな罰ゲームですかね   作:annwfn666

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はい、なんか色々と重なって投稿遅れました。書いてても「此れで、良いのか?」と首を傾げること無数です、と言ってもこれ以上は今の状態では無理と判断し、投稿の流れです。

色々ってのはまぁ、ドルフロ続けるかな~と思い始めたことが一番でしょうかね?チマチマと思うところは前々からありましたが、今回のアプデでアプリ自体が大きくなり、起動にスマホで2分程、タブレットだと良いねの宿舎巡り中だけで数回落ちるという悪環境になってしまい、モチベが最底辺なんですよ。

で、このままならもうねという感じですね。あぁ少なくとも低体温症前後までは書くつもりです、脳内プロットは其処まで完成しているので。其れ以降は…ネタがあれば、ですかね?

後はtwitterで垂れ流す怪文書ネタも枯渇気味で、そういうのも一寸堪えてました、ええ。

それでも今回のわーちゃんみたいなのは未だ書きたいから頑張りたいです。なお、最初あたりの地域復興云々あたり+ハ○ーワークは完全オリジナルです、原作でどうなってるかは分かりません。夜戦ストーリーで「なろうの貴族と平民じゃん」状態があるのは知ってますので、まぁこんなものじゃないかと想像で書いてみました。情報お持ちの方、提供待ってます(オイ

追記:ペーペーシャちゃんは次回あたりの戦場で拾います、そのくらいは原作準拠にしないとね!!(なお、原作では…


「原作、というかチュートリアル開始ですってよ奥さん」

-S09地区、グリフィン基地執務室-

 

「では流民対策の事業は概ね成功、と言って良いのですね」

 

「みたいね、買取価格を闇市場よりも低めに設定しているからそちらとの軋轢もないわ。正直、其処まで気を回す必要があるとは思えないけど?」

 

「どの道、人が集まれば負の側面は産まれます。端から潰していてもキリが有りません、此方である程度コントロールするのに留めるべきです」

 

そう、とあまり納得のいってない顔で鼻を鳴らす副官に内心では苦笑しつつ、彼は手元の資料に視線を落とす。今、彼の管理下にある原作でもプレイヤーの写し身たる指揮官が、一時期仕事をしていたS09地区の情報が纏められている。

 

建物の補修、または解体、建築状況。活動を始めた企業、その内容。収支報告。人口の流入。その他…此れを見る限りではそれなり、ではなかろうか?と思える数字が並んでいる。当初、彼はこの地区を鉄血から奪還、更に拡大するのは良いとして生活圏を、そして其処に生活する人々をどうするかは分からずにいた。

 

(まさか自前でなんとかしろとか言うんじゃなかろうな?なろうあるある、なんか貴族になって土地押し付けられてからの領主プレイを近未来ポストアポカリプスワールドですることになるのか!?)

 

などと声に出せない絶叫をしていたが流石に其れはなかった。あくまでPMCの役割は治安維持、警察機構の肩代わり。あれよあれよという間に廃墟とかしていた町並みは復元され、郊外には企業の建物が入り其れに伴う人口流入が開始した。建築、というよりかは補修というべきか?解体して其処に新たに建てるプロセスがない分、その速度は彼も瞠目するものだった。

 

それなりの金持ちも引っ越してきたし、彼女らからの招待も受けた。ただでさえ敵が多い身分、増やすわけには行かないと挨拶パーティーには可能な限り出席し、顔を売った。当然、人形は同伴させたが。まぁ、それなりに悪意に晒されもしたがそれらをはねのけ、やらかした相手はブラックリストに載せ動向を探らせる。

 

幸い?というべきなのか名家とも言える層ではなく、数年内で何らかの形で成功した比較的若い富裕層が移住してきていたのでお触りなどのセクハラしてきた相手はそれなりに整った見た目の若い女性であったため、彼的にはオッケーだったりする。きれいなお姉さんたちに囲まれチヤホヤされ、セクハラされる。有りだと思います!!

 

ただ、同伴の人形の選別にはかなり気を使った。彼がそのような目にあっている場面を目の当たりにし、其れを我慢しなければならないのだから感情的になりやすい人形はNGだ。故に任務と割り切れる人選を、一番頼りにしたのはやはりスプリングフィールド。落ち着いた女性でドレスも合う、パーティーのほぼ半数は彼女にお願いした。

 

意外と言っては失礼か、M16も何度か。アイパッチの代わりにヴェール状の飾りをつけた彼女は正に淑女、差し出した彼女の腕に彼が手を添え、静々と歩いたときは周りからため息が聞こえたほどだった。彼の脳内では(誰だこの美人)がリピートアフターミー状態だったが、普段があれだから仕方ないよね!帰りの車の中でスカートの下からパーティー会場で掻っ払ったであろうお高そうな洋酒の瓶を、ニヤニヤ笑いながら引っ張り出した時にはまぁ(姐さん!!やっぱアンタ姐さんだよ!!後、黒!!レース!!最高かよ!!)

 

と内心喝采していたが、色その他については紳士諸君の想像に委ねる。その他にもトンプソンや416に、トンプソンは警備部に所属していたことも有り、場馴れしているのが分かる完璧なエスコートだった。416も濃い青のパーティードレスに身を包み、表情一つ変えずフォローしてくれた。帰りの車の中で「あのエロババア!!」と彼にセクハラした女性を罵倒しつつ、シートをガシガシ蹴って運転手と車の警護を兼ねていたAR-15から「いい加減にしてくれないかしら、指揮官も我慢してるのよ?」と窘められる一幕があったが、まぁ彼女らしいとしておこう。

 

とは言え、何もかもが順風満帆と言う訳でもなかった。『排斥派』、その嫌がらせが無かったわけではない、結論から言えば流民、難民を押し付けられたのだ。普段からもその類は地区の境界線を超えて此方にある程度は入ってくる、その殆どはたいてい他の地域へまた移るか居住区の外縁、ゴーストタウンと化した低汚染地域に勝手に住み着く。

 

だが、その量が他の地区に比べれば彼のところへの流入量が異常であり、低汚染地域にすら住めなかった一部が中心部の路地裏などに住み着き始めスラム化が始まりだしたのだ。トップである指揮官が男であり、しかも子供であると舐められたのか別の地区へ行く気はないらしい。

 

治安維持部隊のMP40が困り顔で「片付けますか?」と軽く言ってきたときには軽く引いたが、それほどまでに命が軽い世界なのだと実感した。無論、「汚物は消毒です」と返しても良かったのだがその前に一つ、以前からやってみたい事もあったので彼は首を横に振った。

 

それから数日後、ハ○ーワークなる機関が立ち上げられた、彼、ひいてはグリフィンの主導という形で。ぶっちゃけて言えばファンタジー小説で良くある冒険者ギルド、此方をこのドルフロ世界に落とし込んだ形だ。地域の清掃、建築…と言った非戦闘クエストを募集しそれを難民に受けさせ、報酬を払う。

 

他にもジャンク漁りツアー的なもので参加者を募集し、汚染地域へ使えるパーツを拾いに行く、其処には人形の護衛も付けてだ。買取は先に言った通り闇市場よりは買取値は数割落ちるが仮にも治安を預かる組織がやること、騙しは一切、無い。闇市場でやっていける実力がある者は今まで通り、そんな力もない弱い者たちはハ○ーワークへ、そんなすみ分けがいつの間にか出来ていた。彼の狙い通りに。

 

この事業には大きく2つの意味がある、一つは流民たちへ職を与え、治安の悪化を防ぐ。もう一つ、此方のほうが彼にとっては重要だが人形の救済だ。原作でもレア度の低い人形は周回していれば集まるし、レア度の高いのだって祈りを捧げながら製造すれば、何時かは入手できる。そうなれば強い人形なら2,3体目を育成しても…となるし推し、嫁の人形なら10体だってという猛者を彼も生前、TLで見かけ、はえ~すっごい、等と思ったものだ。

 

だがこの世界では同一人形を長期間、同空間で運用することはNGとされていた。どうも同型機を長期間、同時に運用すると互いのメンタルに重大なエラーをもたらすらしい、前例が何件かあるとのことだった。それに感情らしきものを持つ彼女たち、扱い一つで「同じ私なのにどうして私には」と嫉妬から刃傷沙汰になることもある故だ。

 

彼の区域にもそうした理由からから人形が打ち捨てられていて、心を痛めていた。そこでこのギルドもどきの設立だ、上記の人間の護衛や其れ以外の依頼も人形たち独自で受けられるように。今更、人の下で働く気もない人形達からもこれは受け入れられ、連日盛況だ。

 

治安は良くなり、開発は進み、物資も集まる。彼が適当に考えた案を骨子にAI達が制度を組み上げ、と何時もの事だが上手く行っている。特に原作のようなイベントが始まる兆しもなく、彼も「貞操観念が違うこともある、良く似た別の世界でストーリーもなくこのままのんびりと治安維持に勤しむだけか?」等と思うようになり日々を過ごしていたが…

 

先程受けた依頼がそれは幻想であり、現実はこうだと突きつけてきた。チラリ、と資料に視線をやる。依頼主はペルシカ、ある極秘情報を抜き取り持ち帰って欲しいと、その際には情報の重要さを鑑み必ずAR小隊に行わせること。云々…

 

(どう考えてもこれ、第0戦役だよな)

 

心のなかで独りごちる彼。OPにして世界観を突きつけてくる話、足止めをするためにAR小隊は分散を余儀なくされ、ひいてはAR-15の死因となる訳だが。無論、此処では其れを許す気はない、ストーリー準拠?すいません、それこの世界では未来永劫品切れなんですよ。

 

通信室でペルシカと話したが、彼を発見した時のAR小隊は正にこの情報を探している最中だったそうだ、もしも彼に出会わなければもっと奥地に探しに行く予定だったと。だが彼が発見されその保護から此方、放置気味だったが皮肉にもそれが良かったのか、鉄血もその情報を探していたらしく、その捜索隊を別のグリフィン所属人形たちが発見し、凡その情報があるであろう場所を割り出したとの事。

 

と言っても鉄血がその地点に到達するのも時間の問題、出来る限り迅速にお願いしたい…そう言うペルシカに彼は仕事を受けることを了承した。まぁ心中では色々と突っ込んだりしていたが。

 

(それは良いんだけどさ、何の情報かは知らんが何であんな山奥にあったのかね?隠したの誰よ、全く面倒な。あ~それにエージェントと下手すりゃ戦闘?戦った記憶ないけど、イラスト漁った感じではスカートの中にレーザー砲仕込んでるんだっけ?…痴女かな?メイドスカートから武器なんて、ゲーム制作者はブララグがお好き?偏見かい?

 

ん~、そしてガチで戦闘するとなると勝てるか?現状。暫定ラスボスのお子様AIの側近だし、弱くはないよなぁ…ドリーマー並み?それ以上?まともに当たるのはまだ得策じゃないよな。良し、此処はジョースター家に代々伝わる戦闘法をだなぁ…)

 

即ち「逃げるんだよぉ~!!」である。トンプソンを盾にしつつ、煙幕弾や彼所有のドローンに仕込んである「アレ」を使って全力で足止めし、その間に逃げるのをプランAとして採用することにした。プランB?ねぇよそんなもん。

 

「ちょっと、何考えてるのよ」

 

そんな事を考えてぼーっとしていると不審に思った副官に心配と、少しの呆れの混じった声をかけられる。顔をあげ、副官の方を見ながら彼は少しからかおうと口を開いた。

 

「いえ、貴方と初めて出会ったときのことを思い出していたんですよ、ワーちゃん」

 

「なっ」

 

彼の台詞に声を詰まらせ、口をパクパクさせた彼女…WA2000は髪を振り乱し、抗議の声を上げる。

 

「あ、アレは事故よ事故!!忘れなさい!てか忘れて!!それとその呼び方止めてって前から…」

 

「駄目、ですか?」

 

其れに対し少し眉を下げ、上目遣いに見てやればウッと目を逸らし、モジモジしながら「し、仕方ないわね…二人っきりの時だけよ?」なんて顔を赤らめ言う姿、なんとも…

 

「チョロいんですね、ワーちゃん(可愛いですよ、WA2000)」

 

おっと、本音と建前が逆に。わざとですが。

 

「ちょ、チョロいって何よ!!あ、アンタの考えた台詞じゃないでしょ!?誰よ!!」

 

「IDWです、駄目ですか?と聞く時の演技指導もしてくれました(「チョロいから、指揮官がそうやってお願いすれば大抵のことは聞いてくれるニャ!!」ってね。チョロいというのは俺も賛同する)」

 

「あ、あの腐れ猫…革剥いで三味線にしてやろうかしらぁ!」

 

拳を握ってわなわなと震え、復讐を誓う彼女を前に、彼は本当に彼女との出会いを思い返していた。

 

 

・・・

・・

 

 

基地を奪還し、治安維持もある程度軌道に乗った時にカリーナから「人形製造プラントを使用してみませんか?」と誘いが来たのだ。

 

彼としても人形製造という名のガチャ、仕事しないPUを思い出すそれを回したいとは思っていたが、他に資材を使う先があり開始時とは思えないほどには人材…人形ならなんと言うべきか?兎に角、それに恵まれていることを鑑み手を付けていなかったのだが。

 

チュートリアルの一端だし、と自分を誤魔化し地下にある製造プラントへと赴いた。壁際に幾つかの棺桶のような、小さな覗き窓のついた箱が並び、その前にコンソールが一つ、操作用であろう其れに彼にとっては懐かしい資材投入画面が表示されていた。

 

知ってはいるがカリーナからの説明にフンフンと頷きながら慣れない手付きの演技を終え、開始ボタンを押す際に彼はやらかした、いや、この場合はAI達がやらかしたと言うべきか?彼的には何の気無し、というかそのボタンをタッチする際に大半の指揮官諸氏が思う事、即ち「来てくれますように!」と軽く祈っただけだったのだが。

 

『了解。製造人形固定プログラム『セカンドディール』発動します。指定人形なし、☆5からランダム。介入開始』

 

突如脳内に響くAIボイス。え?と思ったときには遅かった。動き始めたタイマーに表示された時間は『04:50:00』、つまりは…

 

「凄いですよ指揮官様!初手、中々来てくれないRFとは!!おめでとうございます!!」

 

目をキラキラさせながら称賛するカリーナに、礼を返しつつ彼はなんとも言えない罪悪感に包まれていた。誰に対するかは分からない、多分、時空を越えた先に存在する同業者たちへだろう。後、何処からともなく現れた屈強な透ける手に指の骨を折られるんじゃないかとも。

 

快速を使いますか?と聞く彼女に首を横に振り、終了するまでに他の業務をしようと戻りつつ、AIにこういうものは事前に言ってから使用するようにと釘を刺しておいた。『分かりました』と返した言葉の裏に、少ししょんぼりとした空気を感じたのは気の所為だったろうか?

 

時間が経過し、製造終了となり彼は再びカリーナを伴い製造プラントへ。既にタイマーは『00:00:00』になっており、彼は躊躇なく終了ボタンにタッチした。プシッという音ともに扉がスライドし、横にずれる。其処には製造が終了した人形が一体、瞳を閉じて静かに起動を待っていた。

 

濡羽色、シットリとした黒髪を一束だけリボンで縛り。少しきつめの目はが今にも開きそうにまぶたがピクピクしているのが見て取れる。すぐに瞼は開き、赤い瞳がちらりと此方を向くも、直ぐにその目は自身の体へ注がれる。手を握って開いて、調子をひと通り見たのか満足したように一つ頷く。

 

スっと立ち上がり彼の方へ近づく。数歩手前で歩みを止め、スラリとした全身を見せつけるかのようにポーズを付け、彼が何度となく聞いた着任ボイスが

 

「私の名前はワルサーWA2000。指揮官、私の足を引っ…張っ…た…」

 

途中で止まる。ビシッと此方を指していた指先が震えだし、プルプルと震えだした。

 

「(チャンスタ~イム)はじめまして、当基地の指揮官、ラン=クルーガーです。人形の皆さんの足を引っ張らぬよう努力中ですが至らぬ点もあるでしょうが、宜しくおねがいします」

 

挨拶を返す。それにフリーズしていたWA2000がやっと再起動し、ギギギとギャグのような音を立て視線を彼からカリーナへ移す。其れを受けてハハハ、と困ったような笑みを浮かべて頷く彼女。再び視線が彼に戻った所で。

 

「男、の子?」

 

「(あぁ~久々の初な反応なんじゃぁ~)はい、その辺りも含めてですが」

 

やっと絞り出した反応に満足し、彼は数歩踏み出して未だ動けずにいるWA2000の指をそっと握り、握手代わりに上下にふり、最近、覚えたということになっており何体かの人形を轟沈さしめたニッコリ笑顔を向け。

 

「よろしくおねがいしますね」

 

「はふぅん…」

 

それが限界だったらしく、悲鳴にもならない声を上げつつその場に崩れ落ちるWA2000を彼は何かを達成した満足感に包まれつつ、見送ったのだった。

 

 

・・・

・・

 

 

「ちょっと…どうしたの?」

 

其処まで思い出した所で心配げな声が耳朶を打ち、彼の意識は今に戻る。傍に控えたまま見下ろす彼女に

 

「すいません、出会い頭に気絶しされたのは少しショックだったなと」

 

ボーッとしていた気不味さを誤魔化す風でそう告げると、彼女は顔を真っ赤にしたがそれ以上は突っ込んでこなかった、やぶ蛇になると学んだのだろう。少し残念に思いながら彼の視線は再び手元の書類へ、0戦役に関するそれへ向けられ再び脳内で手元にある情報から考えられる最適な戦術をAIと共に導き出し始める、が

 

「ねぇ…」

 

戸惑いがちにかけられた声に半ば中断する、AIには継続するよう指令しつつ顔を上げる。彼女らしくないオドオドした態度に首を傾げながら次の言葉を待った。

 

「それ、近々ある作戦よね、さっき依頼された」

 

「そうですね、状況から鑑みて数日中には開始します。何か?」

 

何となく言いたいことは察せたが、其処は黙って促す。

 

「わ、私を使ってくれないかしら!!」

 

予想通り、そして聞き様によってはとっても卑猥なそのWA2000の願いを聞いた彼の眉は微かにハの字になる。其れを敏感に感じ取ったか、少しトーンダウンする彼女。

 

「無茶、我儘を言ってるって自覚はあるわ、でも!基地で指揮官達の帰還を待つのはもう耐えられない!!だから…」

 

縋るような視線を受け、彼もウウムと心中で唸る。確かに彼女のようなプライド高い人形が大規模な作戦中に留守番、戦力外とは耐え難いことは分かる。原作並みに速成育成する方法はある、彼も生前に強いと評されていた人形を即戦力とすべく、やったのを覚えている。だが、この世界ではそうそう出来ない理由があるのだ。それは…

 

そんな空気を裂くノックの音、彼が応答すれば帰ってくる声にWA2000がビクリと固まる。其れに気付かぬふりをし彼は入室を許可。入ってきたのはダネル、WA2000と同じRFでありネゲヴの相棒として長くゲリラ戦を展開していた経験を買い、今では基地所属のRF達のまとめ役的なポジションに就いて貰っている。

 

最初はスプリングフィールドに頼んだのだがカフェをしたいので、とやんわりと断られた。「それに、私はしないほうが良いでしょう」と少し悲しげな顔で言っていたのが印象的だったがどういう意味なのだろう?今でも彼にはわからない。さて、そんな役目を負って貰っているダネルだがその場の空気を察し自分の用件、手に持った他RFの育成プランを一先ず置いておくことにした。

 

「どうした?」

 

視線を彼とWA2000に向け、問う。何となく気まず気な彼女の代わりに彼が答えた。

 

「近々大きめな作戦があります、それに自分を投入して欲しいと」

 

「ほぅ?」

 

彼の説明にダネルの目は細くなり、WA2000にゆっくりと歩み寄る。ビクリ、としながらもその場から動かないWA2000の前に立ちダネルは冷たいとすら取れる声を上げた。

 

「つまり?此処に記載されている他のRFたちよりも未だロクに実戦を経験していないお前が?立派に戦えると?それはそれは…」

 

ポンポンと手にしていた書類を叩き…ギロリ、本当にそう音がしたのかと錯覚するほどの睨みがWA2000を襲う。く口からは「う、あ…」としか声は出ないし視線も中空を泳ぐ。カタカタと微かに震えさえする彼女、だがそれでも一歩も退かなかったのは称賛すべきか。

 

彼は其れを止めない、別にダネルもWA2000を扱き下ろすとか、そういった意図がないのは分かっているからだ。ただ、彼女の、WA2000の覚悟を問うているのだと、だから止めない。

 

実際、其れは大事なことだ。原作ならばいくらでも後続の人形が強いから、レア度が高いからと先に入手していた人形を放置し、育成しても何ら問題はなかった。だが此処は、この世界では…人形に感情が搭載されている此処では不味い。無論、彼がそうすると言えば其れに異議を唱える人形はいないだろう、だが影では確実に起こる。虐めという奴がだ。

 

自分たちより優遇、可愛がられる。嫉妬と言った感情、其処から生まれる行動は人も人形も大差はない、いや、計算高い分、人形のほうがたちが悪いのかもしれない。指揮官の業務を習得する際にヘリアンからも口を酸っぱくして言われたことだ、「彼女らにも感情が、喜怒哀楽がある。決して、無下には扱ってくれるな」と。

 

WA2000の望みを叶えるのは簡単だ、だが其れ以降の指揮云々に影を落とすのも確か。ならばとその覚悟を、彼に変わりにダネルがWA2000に問う。それらを踏まえて乗り越える覚悟がお前にあるのか、と。そしてその視線を受けてもWA2000は

 

「…っぐ…」

 

震えながらも一歩も退かなかった、寧ろ逆にダネルを睨み付ける。その様を見てダネルはフッと笑う、刺さるような空気は霧散し、WA2000は荒い息をつく、呼吸を忘れるほどに胆力を行使していたらしい。其れを置いてダネルは彼に向き直る。

 

「度胸、だけはまぁあるようだぞ指揮官」

 

「そう、ですか…」

 

彼女がそう言うなら、後はWA2000次第だろう。そう踏み切った彼は未だゼイゼイと呼吸整わないWA2000に声をかける。

 

「WA2000」

 

ピクリ、とその声に反応しまだ顔色良くない顔を上げた彼女に

 

「言うまでもありませんが、この数日で実戦可能レベルまで上げるのは辛いですよ?それでも…(少なくとも5Link、90までは上げんと安心して運用できんが…さて?)」

 

無言で覚悟を問う。それにWA2000は呼吸を整え、揺れる瞳を一度閉じ、見開く。もう其れは揺れていなかった。

 

「やるわ」

 

短く、ただ一言。それに全ての想いを乗せて彼女は言い切る。ならば彼の答えは唯一つ。

 

「まず、絶対に使うという確約は出来ません、しかしこれから課す特訓を全てこなすことが出来たならば部隊に編入すると約束します。其れでいいですね?」

 

彼の言にWA2000は大きく頷く。

 

「ええ、其れで十分だわ。チャンスをくれて有難う指揮官!」

 

期待に目をキラキラと輝かす彼女、直ぐにその瞳は曇るとも知らずに。彼はダネルに目配せし、ディスプレイを投影し操作を開始。合図されたダネルはHG並みの俊敏さを見せてWA2000の背に回り、ガッシとその肩を押さえる。え?え?と混乱気味の彼女に全ての用意を整えた彼が向き直る。

 

「その覚悟、確かに受け止めました。それではまず経験を積んでもらいます。具体的には作戦報告書を使用して5Linkに耐えうるまで」

 

此れにWA2000は黙って頷いた、この程度なら予測もしていただろう。此処からだ。此れはそう難しいことではない、マトリックスに出てきたダイブ用の椅子のように人形を寝かせ、機器を繋いでフロッピー状の例のアレを随時、差し替えてロードし人形に他の人形が体感した経験を積ませる。

 

「それだけでは経験にボディが追いつきません、よって増幅カプセルによって素体を強化します、迅速に」

 

ウゲぇ、擬音を添えるならそんな感じの顔でWA2000の顔がしかめられる。増幅カプセル、原作起動画面4コマでVectorが摂取して大変なことになっているアレだ。人形パーツを使用しての強化以外の手段、これ、彼も見て軽く驚いたがカプセルと言うには無理があるほど大きく、飲み込めるギリギリの大きさなのだ。まぁ飲むだけで強くなる物だ、マトモである筈もない。

 

其れを知っているWA2000もその顔を歪ませているわけだが、気付かぬふりで彼は続ける。

 

「飲み込めない場合は楽になるゼリーの使用も許可します。時間がかかりそうならダネル、捩じ込んで下さい」

 

ギョッとするWA2000、深く頷くダネル。

 

「そしてその後は演習ですね、APもある程度は貯まっていますし他にも経験を積ませたかった人形もいます。そちらにも連絡しておきますので共に模擬演習を行いましょう。特別コースで」

 

特別コース、その単語にWA2000はヒッと悲鳴を漏らし、ダネルも真顔でゴクリと唾を飲み込む。特別コース、其れは通常はポリゴン世界で鉄血人形のデータ相手に行う物だ。だが彼はもう少しイジれないかな?と思いAIに提案、その結果産まれたのはリアルと紛う仮想世界で行われる本気でやばい戦闘シミュレーションだ。

 

限りなく現実に近づけた戦闘空間でより強力な敵と戦う、そうすることによって通常の模擬演習よりも経験値蓄積の効率が段違いとなった。マップ名に「ダンケルク」やら「ノルマンディー」等あるのは置いておこう。「ヒットマン」や「COD」、「BF」に挙げ句は「SWBF」と何処かで聞いたようなタイトルがあるのもだ。

 

因みにテストプレイヤーを務めた人形たちの感想は「勝利ってなんなのかしらね…名誉とか…」「チョコ1ダース貰っても嫌!」「その日はジャックダニエルも喉を通らなかったな…」「私は完璧、の、ハズ…うぅ」etc...と好評を博している。どんだけだよ。

 

此れは経験値もだが人形自身が動き、経験を積むことに意義がある。報告書では追体験をするのでどうしても自分で動くわけではないので、どうしても上手く経験蓄積されないところがあるのだ、ゲームと現実の違いか。さて、と彼は慄く二人、特にWA2000へ視線を向け。

 

「どうします?やはり止めておきますか?」

 

と首を傾げて尋ねる、気分は劇場版パトレイバーの昼行灯隊長で。其れを受けたWA2000はウググと唸った後、ぐっと手を握りしめ叫んだ。

 

「良いわよ!!やってやろうじゃない!!」

 

その背中に彼はとある野球選手を幻視した。下手な芸人よりも間のとり方が上手く、自爆ネタも晒しMMDで再現までされたある男を。

 

「(黄金バット…またやるのなら見たかったな…)では早速始めましょう。ダネル、申し訳ありませんがサポートをお願いします。そう言えば用件を聞きませんでしたがRFの育成プランですか?」

 

「ああ、一応確認してもらおうかと思ってな」

 

「預かります、軽くは確認しますが恐らくそのままで大丈夫でしょう。ダネルがそう決めたのなら」

 

「そ、そうか?じゃあ行くか、WA2000!」

 

彼の掛け値なしの褒め言葉に頬を染めて照れ、それを隠すためにWA2000を引っ張り、出口へ。「一寸、逃げないから離しなさいよ!!」叫ぶWA2000に彼はヒラヒラと手を振り、ダネルから受け取った計画書に目を通し始める。同時にこの作戦の主役であるM4と情報収集を頼んでいるUMP45を通信で呼び出す。

 

「此れほどに辛い訓練を課されたのなら、やっかみも最小限に留まる。しかし…」

 

呟きは溜め息で締められる。感情があるということは良いことでもあり、面倒なことでもある。それでも、ともに歩むのならばあって然るべきだろう。彼はそう納得し、二人の到着を待つ間書類に目を通し続けるのだった。

 

 

・・・

・・

 

 

何故、彼はもう一歩踏み込んで考えなかったのだろう?

 

人形に感情がある、其れを配慮することは出来たのに?

 

そう、彼女たちには感情があり、独自の思考を持ち行動する

 

決してタッチしてもランダムに幾つかの台詞から、選んだ其れを喋るだけの存在ではないのだから

 

そしてそれは

 

敵である鉄血もそうであると、どうして考えつかなかったのだろう?

 

未だ覚悟が足りなかったのか、甘かったのか?チートがあると油断していたのか

 

どちらにしろ彼は

 

その反動に苦しむだろう

 

近い内に、必ず

 

きっと

 

 

・・・

・・

 

 

~数日後、S09地区外縁部山岳地帯、鉄血との緩衝地帯にある前線基地の一つ~

 

(どういうことだ!?)

 

彼は心で絶叫する、だが答えは返って来ない。画面に映し出された戦況は決して悪いわけではない、だがそれでも彼は恐れを覚える。

 

其れは「未知」から来る恐怖、彼の知る第0戦役からかけ離れた事によるもの。

 

その証拠は、ドローンから送られた画像に映されていた。多少ノイズの入ったそれに映る鉄血部隊、その中心にいるのは。

 

(何故!?なんでお前がいるんだよ!?)

 

混乱しようとも戦局は無慈悲に変わり続ける、其れに対応する指示を出しながら彼は人形には決して聞かせられない絶叫を続ける。それだけが心の均衡を守る唯一の術とばかりに。

 

(ドリーマー!!)

 

画面越し、その乱れが画像の中で。

 

夢見る者は確かに笑みを浮かべた、チェシャ猫が浮かべる其れを。




次回は主人公、今まで思うままに進めていたけど油断のしっぺ返しを受ける回。寧ろ当分はそんな流れ、痛い目見続けちゃうね。

駄目だよ?敵に「こう動くはずだ」なんて願望持ち始めたら、分かっていた筈なんだけどね?ま、元はズブの素人だから仕方ないよ、うん。

取り敢えずは可愛いわーちゃん書けたから私は満足です、他の人形の可愛いところも書きたい。「よよよろしくおねがいします」ちゃんも彼にきっと「よよよよよ」とだけいうBOTと化したろうし、そういうのを。

次回、年内に投稿できればなぁ…モチベ次第なので感想とか宜しくです。

人形主観によるお話はあった方が良い?無くても良い?

  • あった方が良い
  • 無くて良い
  • 本文途中で挟む程度で

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