三司さんが1曲歌って、本当に発表祭は終わり
えっ?もう幕を閉じたんじゃないかって?
うるせぇ!俺の出番はってことだよ!
まあいい、喫茶店にあの騒動と色々あって疲れた様子ではあったが、舞台の彼女は輝いていた
三司さんの歌は正直もう1回聞きたいくらいだ
ライブはすごい大盛況で、大盛り上がりの中で、本当に幕が閉じた
せめて一言でもって思い俺は寮じゃなくて校舎に向かう
暁と七海は一緒にいたのを見かけたけど、あえて声はかけないでおいた
さーてと、会長室に行けば会えるか……ってあれは三司さんと理事長?
「何話してんだろう」
つい物陰に身を潜め、2人を見る
短い付き合いからでもわかる、彼女は自然な笑顔を浮かべている
んー、何話してるんだ?
「今日はご苦労だった。本当にすまなかったな」
「ううん。私は平気だから」
「それから、これは補充分だ」
んん?今何を渡したんだ?
三司さんは特に躊躇うことなくそれを受け取る
「ありがとう」
んー、こっからはプライベートとかになっちゃうし、あまり踏み込むのはやめておくか
それに、装った雰囲気じゃなく、理事長にあんな態度で接するのか
ってそりゃそうか。俺はまだ出会って数ヶ月
取材とかいろいろあるし、柿本先生や理事長の方が付き合い長いしな!うん!
でも俺がこんなこと考えるなんてな
まだ暁や七海までとはいかないけど……俺の中で三司さんの存在は大きく、とっても信頼できる人になってるんだと思う
「先に会長室に向かっておくか。まだあの派手な服のままだし、着替えにでも来るだろうしな」
「あれ?空君?こんなところで何してるの?」
「今日の内にお疲れ様って言いたくてかな」
「そのためだけに、ここで待っててくれたの?律儀だなぁ……とにかく入って」
「うん」
中に入ると、三司さんは疲れがわかる声をあげる
「はぁ……今日は本当に疲れたぁ」
「お疲れ様」
「私よりも空君の方こそ、お疲れ様」
「ありがとさん。でもあんなライブのあとだし、三司さんの方が疲れたんじゃない?」
「そのことは、言わないで。恥ずかしくて身悶えると疲れる。お願いだから思い出させないで……」
結局──
『みんなー、今日は楽しかったー?私はとっても楽しくて、とてもいい思い出ができましたー!』
とめちゃくちゃテンション高かった
その分盛り上がってたんだけどね、その分のダメージが今になって戻ってきてると
「良い盛り上がりだったし、三司さんの上手い歌も聴けて俺個人としては最高の発表祭だったぜ」
「……からかってない?」
「んなわけ。そう思ってたらもっと言ってるさ。なんにせよ模擬店も成功して良かったよ」
「それに関しては、私もそう思ってるけど……怪我は本当に大丈夫?」
「それならだいじょーぶ。強がってるわけじゃないし、もういつも通りだぜぃ」
痛いのは最初だけ
止血して七海に治して貰えば後はもういつも通りに戻る
「そっか。それなら良かった」
「それにしてもこういうイベントって楽しいもんなんだな。生まれて初めてかも」
「そうなの?」
「まあちょっと人付き合いが悪いって言うか、上手く踏み込めないからね」
「私も別人を装ってるから深くまで踏み込んでないから似たようなものかな」
そっか。普段猫かぶってるし逆に素の姿を見る方が三司さんが心許した相手ってことになるんだろうな
性格に、そのおっぱいに。色々と作ってるからな
「胸ばっかり見てるんじゃないわよ……コロスゾっ」
「その秘密ってやっぱり知ってるのは俺と暁だけ?」
「そうよ。まさかあんな露見の仕方をするとは……夢にも思ってなかった」
「俺もだ。まさかおっぱいってドロップするのかって思っちゃったし」
「ドロップ言うな。ぶっ飛ばすぞ」
「あははは、ごめんごめん」
「……はぁ……もういい。空君がそういう人だってことは知ってるから、諦めてる」
「俺ってこういうやつだからね」
一言多かったり、おちゃらけてるのは自分でもよくわかってる
でも正直直すつもりなんてない。今から直したって、本当の俺なんて分からなくなるだけだからな
「でもバレた時はどうしようかと思ったけど……意外と悪くないって最近思うようになったしね」
「そうなの?」
「気兼ねとかせずに会話できる相手がいるって……気が楽だから」
「そう思ってくれるのは嬉しいな」
「だからって、余計な一言を許したわけじゃないから。気兼ねしないのと、配慮しないのは、全くの別物だからね?」
「わかってるって」
子供の頃は親に捨てられ、動物たちと過ごし、父さんに拾われてからは暁と七海だけと仲良くなり、後は仕事に追われたり、学校でも友達は作っても深くは関わらなかった
だから、気兼ねとかせずに話せられるって言われただけでも俺にとってはものすごく嬉しいんだ
「さてと。そろそろ寮に戻りましょうか」
「そうだね」
「それじゃあ着替えるから、廊下でちょっと待ってて」
「あーい」
「わかってるとは思うけど……覗いたら、潰すわよ?」
「そんなことしないって」
「……」
「……?どしたん?」
「いや、そこまで興味なさそうにされると、それはそれで腹が立つというか……『おっぱいが小さいから覗く価値すらない』って言われてるみたいじゃない」
「えっ?じゃあ覗いていいの?」
「絶対言うと思った。見せるわけないでしょ、バーカ」
悪態をつきながらも、彼女は笑顔で、その表情はとってもかわいいって思えた
やっぱりこの地の性格を表した表情が、その人にとって1番魅力的なものなのかもしれないな
「黙って廊下に出て、覗いたりせずに、大人しく着替えが終わるのを待ってて」
「ラジャー」
見ないと怒る。でも見ても怒るなんて、全く、乙女心って複雑過ぎてわけわからん
「寮に戻ったら、お風呂に入って……その後はもうすぐ寝ちゃお」
「俺も楽しんだけど疲れたし、すぐ寝れそうだな」
「気を抜きすぎて、風邪なんか引かないようにね」
「1回も風邪ひいたことないんでご心配なく」
ちなみにこれは実話だ
強化する際に書き換えたことがあるが、その影響で風邪とか病気とかにも強くなったのかもしれない
本当のことはあまりよくわからん
「にゃ〜」
「おっ!野良助じゃないか!よーしよしよし」
俺の脚に擦り寄ってきたから喉を撫でてやる
そうやると野良助は気持ちよさそうな鳴き声を出てきた
愛いやつめ〜……殺気!?
「フーッ……フーッ……ね゙ご……フーッ」
「ニャ!?」
「落ちつけぇ!それは殺る目だ!前のこと思い出して!」
「ハッ!?そ、そうでした……かわゆい姿を見たら気持ちが高ぶってしまって、つい……落ち着いて……興奮せず、猫が寄ってくるのを待つ……すー……はー……すぅー……はぁー……」
深呼吸をしたおかげか、殺気のようなものは少なくとも感じなくなった
うん、これならいけそうな気がする
「チチチ」
あの三司さんが自分から近づかず、野良助が寄ってくるのを待っている
これは練習したかいがあったもんだ
「ほら、もう怖くないですよ」
「……ぅにゃ……にゃぁ……」
「だーいじょうぶだって。なっ?」
俺の意思が伝わったのか、恐る恐るだけど三司さんの方に近づいていく
戸惑いがあるか、俺の方を見たが俺はお得意サムズアップ!
三司さんは鼻息が荒くなりつつあったけど、ちゃんと練習の成果をだしてジッと見続けている
「にゃぅん」
そしてやっと、三司さんの指が野良助の額を撫でた
「き、来た!ついに、もふもふできる時が!!」
「アウトなっちまうぞー。落ち着けもちつけー」
「そうでしたね……欲望を、抑え込まないと……っ」
「にゃう……にゃ、にゃ〜」
おおっ、野良助が三司さんの指に体を擦り付けてる
逃げられてることからしたらこりゃもう克服まで近いか?
「はぁぁぁ……かわゆい……私の指に、体を擦り付けて……ああ、もう、かわゆすぎる」
「にゃう〜……にゃ、にゃあぁぁ……」
撫でてる方も撫でられてる方も蕩けきってる
見てるだけでも面白いが、幸せなのもわかる
なんか、あの時を少し思い出しちまうかな
「猫をこんなにモフれるだなんて……今日は人生最良の日……感激」
「確かに今はそうかもしれないが、囲まれた時なんてもっとモフモフだぞ?」
「モフモフだらけ……でも今はこの状況だけでも満足」
「そっか」
「もふもふぅ〜。こっちももふもふしてる。ここも、柔らかい、ああ……映像では知られなかったことも沢山で……」
「にゃ、にゃ、にゃぅん!にゃー!」
「あっ!待って、お願い、行かないで!」
今の恋人を引き止めるような悲痛な叫びだったな
別の意味ですっげぇ
「……行っちゃった」
「最後興奮してたからな」
「もしかして、また怖がらせちゃった?」
「いんや、怖がらせたというより触り方が強引だったな。力加減っていうのもあるし、そういうので逃げたんだろ」
「そんなぁ……嫌われないように、頑張ったはずなのに」
「最初の時より進歩はしてる。嫌われてるってわけじゃないから気をつければ向こうから寄ってくれるさ」
「そうだといいんだけど……」
少し強く撫でただけで逃げられたってこともあったしな
でも野良助は人懐っこい部分があるし、またすぐにやってくるだろう
「ありがとう、空君。空君が練習をさせてくれたから、こうして野良助と触れ合うことができた」
「あんな練習でも役に立ててよかったよ。動物のことなら、アニマルマイスターの俺にお任せ!」
「何よ、アニマルマイスターって」
「動物を愛でることに特化した職人……かな?」
「一体何を目指してるのよ」
「うーん?さぁ、なんだろうな?」
本当にそんな職人制度があったら、面白いかもな
特に俺みたいな奴には向いてるはず?
「こうして猫と触れ合うことが出来たのも、襲撃から逃れることができたのも、アナタのおかげだがら。本当に感謝してる。ありがとう」
「お、おう。どういたしまして」
「はぁ……でも、本当に気持ちよかった。また、もふもふしたいなぁ〜」
「あいつはよく出てくるからな。近いうちに会えるだろう」
「私でもちゃんと触れ合うことができた……これは大収穫だった」
再び並んで歩きだす
と同時に、軽いめまいで軽くふらついてしまった
「どうしたの急に……まさか、怪我の影響が!?」
「いや、怪我は本当に治ってるさ」
「でも今、ふらついたでしょ?」
「今の感覚は貧血だ。今日一日で力使いすぎた……」
「力?」
「ああ。俺のアストラルは体液操作ってことは知ってるだろ?それで血を使えば体内から消えるから血が不足しちまうんだ。こういうことも何度かあったし、ゆっくり寝れば大抵治るから心配ないよ」
寝るのが1番回復速度が速いって何度も試してわかったことだからな
貧血対策もあるけど今回は量が量だったらしい
「本当に……?嘘、吐いて誤魔化してない?」
「なーいよ。それより早く戻ろうぜ?休むにしても寮に戻らないとだしな」
「……わかった……けど、もし何かあるなら、隠さずに正直に言って」
「……ああ、そうさせてもらうよ」
「いつでもどうぞ」
俺は人には頼らず、家族にだけは頼りきるって決めてた
けど……三司さん、彼女にだけは暁や七海と同じように頼ってもいいって……そう思えたんだ
あやせルートに入りました
ちょくちょく七海ルートの話も含めるかもしれません