浦島君は掻き回したい ~天才たちの恋愛頭脳戦は紙一重~ 作:羊毛ローブ
秀知院学園の生徒会会長を務める白銀御行は自己に対する評価が高い。
それもその筈だろうクラスで4~5番目位には入るであろう位にはイケメンであり、勉学については全国トップクラスであり身体能力も日々の新聞配達のバイトのおかげか中々に高い。
そんな彼は一部のメンヘラ気質の女の子からの人気がありバレンタインのチョコ(何かの毛入り)を貰ったりする事から自分はモテると思い込んでいるのだ。
しかし、そんな彼は陰での努力を惜しまない。今日も今日とて来週の体育でバレーボールの授業があるから誰もいなくなった体育館で練習をしているのだ。
「よし……!」
そう言うとボールを高く上げサーブの練習に入ろうとしていた。
苦手というだけあり、普通ならサーブがコートに入らないとかそんな感じだと普通は想像するだろう。
しかし秀知院学園の生徒会会長である彼がそんな事だけで苦手意識を感じると思うのが大きな間違いである。
彼は四宮に対しては素直になれないがそれ以外は基本的には善に属する人間である。
そんな彼が人前でプレーできないと思うのはプライドが高いからという訳でもなくただ単に皆の足を引っ張りたくないからという面と四宮にカッコ悪いところをみせたくないと思うからである。
彼は努力の人なのだ。
ボールが落下してくるのを見計らいその落下地点に入ると思いっきりふむ腕を振り上げてそのまま目をつぶって自分の後頭部とボールを一緒に叩くという神の御技を行ったのだ。
「な、何故なんだ……!」
こっちが聞きたいと思うのは仕方ない事なのだが、それはそれ、コレはコレである。
いくら下手くそな人間だとしても普通は空振りする位である。
「何故向こうのコートにボールがいかないんだ!」
えっ!そっち!?
と客観的に見たらそう思うだろうがそれは外側からの人間だからこそ分かる事でありやっている本人は大真面目なのである。
「なぁ白銀……もう理由は分かってるんだろ?」
そんな彼の練習を手伝っているのは浦島である。
どうしても手伝って欲しいというから来たまでは良いのだが、彼も彼でこの状況を見て困惑を隠せない。
普通の徒競走やらは普通に運動できそうな人間の走り方をしている人間がこんなクリーチャーみたいな動きをするとは思ってもみないからだろう。
「やはりサーブの時に顔に当たってしまっているのが原因か……」
「いやそれだけ?」
「他にあるというのか?」
「まずはフォームだよ綺麗なフォームを意識しないとこんな風に」
浦島はそう言ってボールを上げてサーブをするとコートが焦げ付く程の威力でサーブがラインギリギリで決まった。
「な?」
「ふむ確かに一理あるな」
その「な?」のどこに一理があるのかは平凡な人間には理解できないだろう。やはり天才たちの思考は凡人には到底理解できない。
この浦島という男はスポーツにおいては天賦の才能があり一度お手本を見れば自分の身体に最も適した動きで再現可能なのである。
つまりこの男は天才、しかも感覚派の天才なのである。
そんな彼がスポーツを人に教える時にどうなるかと言ったらもっともらしい事を言っているだけで何がダメか分かっていないのだ!
つまりこの状況は八方塞がり!
二人で首をひねるばかりで何も状況は変わらないのである!
「あれ、会長に浦島君じゃないですか?こんな遅くにどうしたんですか?」
そんなところに現れたのは藤原である。
彼女は体育館に忘れ物をしただけで個々に偶然来てしまったのだ。
「いやちょっとバレーの練習してるだけだよ」
「おい!」
白銀にとっては自分の欠点は隠すべきものである。それが他人にバレるのは自分のプライドが傷つくのと同義。それは一番仲の良い浦島にさえ2日間悩んだ末やはり一人ではどうにもならないと思ったから恥を承知で頼んだのだ。
「え、会長バレー苦手なんですか?」
白金は悩んだ。藤原に自分がちょっぴりバレーが苦手だという事を打ち明けても良いのか……
先程も述べた通り白金はプライドが高い。こんな事もできないの?と思われるのは自分のプライドが許さない…というよりは恥ずかしい気持ちが勝るのだ。
どうするべきかを考えているとそんな時、一匹の蝶々が体育館に迷い混んだのである。
「あー蝶々さんだ。わーい待ってー」
……藤原千花は音楽においては天才であり尚且つ語学においても非常に優秀である。しかしだ藤原は属に言う天然である。
つまりコイツにどう思われても別に良いやという気持ちに白銀は達した。
「実はなちょっぴりだけバレーが苦手で練習をしていたのだ」
そして打ち明けていた。
因みに浦島は白銀ができるだけこういった弱点を他人に曝すのは嫌がるのを知っているので、ただバレーの練習をしているというフォローをしており、突っ込まれたら自分が手伝って貰っていると言おうとしていたのだが白銀が自分で勝手に墓穴を掘ったのである。
「そうなんですか?会長にも苦手な物が存在したんですねー因みに私はバレーできますよ?」
そう言って藤原は放物線を描くサーブをした。そのサーブは高校生のバレーをあまりしない一般女子のレベルではあるがサーブは入った。
「すげぇ!」
「へぇ上手いもんだな」
藤原は煽てられるのが得意である。彼女は自分に対する称賛を全て受け入れる事ができる。つまりは直ぐに調子に乗るのだ!
「じゃぁ会長と浦島君もやってみて下さいよ、私もできる限りは協力しますよ」
吐いた言葉はもう二度と飲み込めない。彼女はこの秀知院学園を卒業した時に語っている。「安請け合いは絶対ダメ」これを語っている彼女の表情は普段の朗らかな表情ではなくムンクの叫びの様な顔をしていた事からこの時の後悔が伺える。
「な?」
「やっぱりフォームがなぁ……」
あのクリーチャーの動きをやっていてどうしてそんな結論に至るのかは藤原にとっては不明である。
「いやまず目を開けて下さいよ!」
「え??目を開けて打ってるに決まってんじゃん?」
「え?目をつぶっても普通に入るじゃん?」
白銀はそんな当たり前の事できているに決まってんじゃんと思い込んでいるし、浦島はその天才振りを発揮してしまっている。
しかしアドバイスを受けている身からしたら言われた通りにやるのが道理であるのでもう一度試してみた。
やはり後頭部とボールを器用に一緒に叩きつけている。ある意味では最強のセンスをしているとしか言いようがない。
「「な?」」
「『な?』じゃないですよ!?『な?』じゃ!!?どうしたらそんな言った通りにやってるだろ?感を出せるんですか!?目を開けろっつってるんですよ!」
こんな藤原は今だかつて誰も見た事がない。
「「????」」
そして何故そんな事を言われているか分かっていないこの二人組に藤原は絶望した。
「じゃあ動画撮ってあげますから!」
そうして動画を撮った事により白銀は自分のクリーチャー振りを理解出来て落ち込んでしまった。
だが浦島は「スナップかなぁそれともインパクトの瞬間?」と大分見当違いのことで悩んでいる。
藤原はコイツマジか!?みたいな顔をしているが何も浦島が悪い訳ではない。
実際目をつぶってサーブを打とうが百発百中の制度であるのだから浦島の天才振りがかいまみえる。
「何でできちゃうんですか?」
「だって息できる?って言われてもできるでしょ?それとおんなじ感覚だわ」
そう浦島にとってスポーツの練習とは相手と合わせる事だけである。自分の思った通りに相手が動かないからこそそれを確認して相手に合わせる確認作業でしかないのだ。
そんな彼が人に教えれる訳もない。
「藤原書記、頼む俺にバレーを教えてくれ!」
藤原は恐怖した。このクリーチャーを人間にまで育てあげなければならないという事に……!
しかし自分から言った手前逃げ出す事はできないし、白銀の不安そうな顔を見ていると胸に詰まっているその母性が顔を覗かせて断る事等できる事もない!
「……私の特訓は厳しいですよ?」
「コーチ!」
そんなこんなでバレーの特訓が始まった。
まずはジャンプしながら目を開く特訓を行い、トランポリンに乗って最高到達点で目を開く特訓を何百回何千回と行ったのだ。
3つの色のカードを持った浦島が相手コートに立ち最高到達点に達した時点でその色のカードを当てる特訓も行った。
その特訓は過酷を極めた!
最早目をつぶってサーブの練習を行った方が良いのではないか?と藤原は頭が過る程のセンスのなさに辟易としながらも彼女は諦めなかったのだ!
そうして3日が過ぎた。
「会長、もう良いじゃないですか。普通の人とは言えないですが普通に下手な人位にはなったじゃないですかどうしてこんなに頑張れるです?」
普通に藤原が酷い事を言っていると誰もが思うであろうが、ここまで成長できた事が奇跡なのである。
それもこれも藤原の特訓のおかげであるので白銀もそこに文句を言う事はない。ないが……!
「いやまだ付き合ってくれ……カッコ良い姿を見せたい相手がいるんだ!」
そう彼にも意地がある男の子なのだから仕方ない。好きな女の子にカッコ悪い姿を見せて絶望される方が今の過酷の特訓よりも辛いのである。
「え、会長好きな人いるんですか!?教えて下さいよ!」
「う、うるさい早く続きをやるぞ!」
「青春だなぁ……」
浦島は蚊帳の外にされている感があるが白銀の特訓に文句も言わずに付き合っているのは彼の責任感がかいまみえる。
そうして更に2日後、ようやくサーブが完成したのだ!
「ふぅ…なんとかこれでバレーの授業には間に合いましたね!」
安堵する藤原、藤原も藤原とて時間を割いてクリーチャーを人間に育てあげた事に対する達成感を感じていた。
「はぁ…疲れましたよ。もう二度とこんな事はしたくない位です」
「はははそれに付いては感謝するが藤原書記、まだ何も終わってないじゃないか」
「え?」
藤原困惑。白銀の言葉を理解できない。もう終わった筈であろうあんな苦しい思いをしたのにまだ何があるというのか?それが全く理解できない。
「バレーはサーブだけじゃないだろ?トスとレシーブも教えてくれ」
藤原は戦慄した。その通りではあるがサーブに懸けた時間と同等以上の時間がかかる事、それに何度も何度も同じ事を言っても理解されない事。その恐怖がまた彼女を襲ったのである。
しかし藤原にも意地がある。吐いた言葉は取り消さないしここで裏切ってしまうのも彼女の性格からしたらできる訳もないのだ!
「おっしゃ俺が教えてやるよ!サーブ打ってみな!」
白銀はその浦島の言葉通りにサーブを放つ。バレー部並の威力のサーブを軽々レシーブし、一人でトスをする浦島の姿がそこにはあった。
「やはりフォームが命だよ」
浦島は何も成長していなかった。
「もういやぁぁぁぁー!!!」
藤原の叫びは学校中に響き渡ったのであった。
そんなこんなで体育でバレーをしているとそこには活躍している白銀の姿があった。
その姿に四宮も思わずうっとりしてしまう。やはり惚れた男の活躍してる姿はカッコ良く映ってしまうものなのだ。
そして白銀は思わずといった感じで四宮の方を向いた。
そして四宮は隣にいた藤原の方を見て会長がこっちを向きました!と言った表情を藤原に向けた。
藤原は泣いてた。
「えぇ…!?」
親が成長した子供を見守る巣だっていく姿をみているかのような心境なのであろう。気付けば彼女は絆創膏と湿布の匂いでいっぱいであるし、指をテーピングで巻きまくっている。
「かぐやさん、あの子私が育てたんです…」
「えぇ!?親になったの!?」
かぐやのその驚きと共に白銀はまたサーブを決めていた。
「うんフォームが良くなった」
そして浦島は何も変わっていなかった。
コレは天才たちの恋愛頭脳戦である。誰がなんと言おうと天才たちの恋愛頭脳戦なのである。
決して残念な人たちの残念なお話ではないのだ!
……たぶん。