浦島君は掻き回したい ~天才たちの恋愛頭脳戦は紙一重~   作:羊毛ローブ

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浦島君は優しくしたい

 

生徒会には役職が存在する。

生徒会長が白銀御行で副会長が四宮かぐら、そして書記が藤原千花であるのが実はこの私立秀知院学園にはもう一人生徒会役員が存在している。

 

生徒会会計 石上優。

 

データ処理のエキスパートであり、白銀が直接生徒会の会計になるように頼み込んだ程の逸材である。

彼は中等部の頃に不登校だった経歴がありそれを白銀が引っ張り出した事に恩を感じており、白銀の事を慕っているのだ。

 

〔キンコンカンコーン 1年の石上優は放課後執務室に来るように、繰り返す1年の石上優は放課後執務室に来るように以上放送終わりキンコンカンコーン〕

 

 

風紀委員会からの石上の呼び出しは毎度の事である。石上は模範的な生徒ではなく所謂ちょっと問題児であるのだ。

 

別に暴力を振るう訳とか授業中の態度がめちゃくちゃだとかそういう理由ではなく、単純に成績が悪いのだ。

後何故か人の地雷を見抜く事のエキスパートで人が隠している地雷を無意識に踏み抜く事に関してはこれ以上ないとも言える程である。

 

どうせクラスメイトの伊井野という風紀委員から呼び出しだからなんとでもなると思って教室の扉を引くとそこに現れたのは予想外の人物であった。

 

「石上……流石に授業中にゲーム機を出すのはアウト」

 

「うげぇ風紀委員長……」

 

彼は今、未曾有のピンチを迎えていた。

 

 

 

事の発端は休み時間にヘッドホンを着けてゲームをしており始業のチャイムを聞き逃してしまった事により、授業中に堂々とゲームをしてしまってそれを教師が激怒したからである。

 

何分その教師は真面目で融通が利かない事で有名であり、そもそも学校にゲーム機を持ってきている事がおかしいという意見でその場でゲーム機を没収してしまったのだ。

しかも課題をプラスされるというオマケ付きである。

 

それを聞いた浦島は自分が直接指導すると言って件の教師に石上のゲーム機を貰い受け、風紀委員がいつも使用している教室に呼び出したのである。

 

「……ってのが教師の言い分って訳だな、まぁ妥当も妥当でそこに弁明を入れる必要性すら皆無な訳だがその辺どうかな?」

 

「……はいその通りです」

 

石上は風紀委員長が苦手である。何が苦手なのかは自分でもよく分からないが苦手である。

 

「……まぁ休み時間に夢中になってしまって始業のチャイムを聞き逃してしまったとかそんなところだろうけどなそこは注意しとけよ?ゲーム機の持ち込みは俺的にはグレーゾーンだからさ」

 

浦島優良という風紀委員長はこの私立秀知院学園において生徒会長や生徒会副会長と比べても同等位に人気がある。

生徒達は彼を「泣く子も笑う風紀委員長」と呼ぶ程の人気だ。

相手の気持ちを汲んでいて尚且つ面倒見が良いからこその人気なのだろう。

 

「すいません。熱中し過ぎてしまいました」

 

それが苦手なところでもある。自分みたいな奴でも平等に接してしまうところなんて明らかにおかしいと猜疑心が勝ってしまうのだから仕方ない。

 

「俺からは以上なんだが伊井野的にはもっと厳しくしてくれって言われて困ってるんだよね……」

 

「あぁ……」

 

石上と同じクラスである伊井野ミコは風紀委員会に所属している女子であり学年で一番の成績を修めている模範生である。

 

正しい事を正しいと言いたいと言って風紀委員会に入り自発的に風紀を正す為に奮闘している真面目な生徒なのだが、少しやり過ぎな部分がありそれに対する文句が風紀委員長にまで上がっているのだ。

 

「それにしたって伊井野はもうちょっとだけ融通が利けば文句なしなんだが……」

 

「まぁ伊井野的にはあれで大分手加減してるそうですけどね」

 

そもそも風紀という言葉を辞書で調べた時に「社会生活の秩序を保つための規律。特に、男女間の交際についての節度。」とある。

 

つまりは学校生活でいらない物は持ってこないようにしましょうね。まだ自分で責任取れない年齢だから節度を持ちましょうね。という事である。

 

風紀委員長としてはあまりに束縛し過ぎるとかえって反発してしまう事があるこの多感な御年頃の学生達にはモラルと常識さえあれば

特に何もしないようにしている。

 

勿論ダメな事はダメだとはっきり言うし、その後のフォローも欠かさないがそれでもダメな人間には裏できっちり制裁を加えている。

 

因みに自衛隊では指揮の要訣という部隊を指揮する心構え的なモノの中に「自主裁量の余地を与える」という言葉がある。コレは任務を達成できるのであればある程度の自由を与えるという意味である。

つまりは自衛隊の様なガチガチの規則に縛られるようなところでも人を動かす為にはある程度の自由は必要なのである!

 

「まぁそれはそれとしてペナルティはあってしかるべきなんで週末に行う風紀委員会主体のボランティア活動に参加決定だから」

 

「うわぁ…」

 

よそはよそ、うちはうち。

いくらそういう理屈があろうが元々許可されてないものはどうあがこうが許可されないのだ!

 

そんな決着を迎えたかに見えたのがそんな時に件の教師が執務室に入ってきたのである。

どうにも様子が気になったらしい。

 

「浦島、石上の件はどうなっている?」

 

「ちょうど今話しているところですよ。今後は絶対にしないと固く誓ってくれました」

 

「ふむ、……今回は浦島の顔を立ててたいがそれでは罰が軽すぎではないか?ゲームのデータを全削除位はするべきではないか?」

 

この教師は自分が学生時代にやられて嫌だった事を平気を学生にやらせようとしているし、やられていたから多分正しい指導なんだと勘違いしているのが質が悪い。それを当然だと思っている事が人気の出ない理由とは考えていないだろう。

人間とは正しいと認識していることを否定されるのを嫌う。それは自分を否定されるのと同義でありこの教師も例に従ってそのタイプである。

 

だから風紀委員長もその提案に便乗するのだろうと石上は諦めていた。

 

「……石上会計、コレは生徒会に必要な書類のデータも入っているのではないのか?」

 

そんな時にふと浦島は石上にそんな事を確認しだした。

 

「はい?」

 

唐突な事でふいに言葉が出てしまった。いや普通ゲーム機に仕事のデータは入れる訳がないのだからそんな言葉が出てくるのは仕方ないだろう。

しかし浦島は言葉を続ける。

 

「やはりか……利便性があるとは言え、それをゲーム機に入れるのは関心しないな」

 

どういう理由でこんな事を言っているのか全く分からない、風紀委員長が自分を陥れる為にそういった事を言い出したのかすら疑ってしまっている。

 

「とは言え仕事に関するデータが入っている以上は無闇にデータを破壊すれば、四宮さんにまで迷惑がかかるだろう……仕方ないな【次回】からは教室に持ち込む事はしないようにそして罰として風紀委員会で活動している週末のボランティア活動に参加するように以上で今回の件は終わりだ。先生もそれでよろしいですよね?」

 

「う、うむ四宮君にまで迷惑をかけるのはよろしくないからな!」

 

そう捨て台詞を吐いて執務室から出ていく教師を見て石上もようやく意図が分かった。

 

こういったタイプの教師は立場を気にする。だから罰をさせないと自分が舐められていると思うので気に食わないのだろう。そして四宮という財閥の令嬢に迷惑を掛けて親にその事がバレたら自分の評価が下がるのではないかと気にしたのだ。

 

だからこそのこの言い回しなのだろう。流石は風紀委員長といったところか。

 

「ふぅ……石上、お前あのおっさん怒らせる様な事すんなよ?めっちゃみみっちい奴だから面倒だし」

 

そう言った浦島の姿を見て石上は不思議に思った。何故自分を助けてくれたのだろう?あの場で正解は教師の言葉に頷く事が一番簡単な答えだったはずなのに……

 

「何で助けてくれたんですか?別にゲームのデータ位消しても問題ないでしょうに……」

 

「ん?まぁ俺はレトロゲーとかたまにするんだけどさ、それって急にデータぶっ飛んだりする訳よ、その時のイライラとかマジで忘れらんねぇし、モヤモヤすんだよ」

 

「はぁ……」

 

「マジで理不尽だからな、いざやろうと思って電源入れたら【冒険の書は消えました】ってイヤイヤ何も悪い事してねぇのに?とか思ってカセット投げた事なんて数えきれん」

 

正直何を言ってるんだろうこの人と思った顔をした石上であるがそれも仕方ないだろう。

その顔を見て浦島は頬を掻きながら続きを話した。

 

「……まぁ俺は自分の記録を消すのはさ、やっぱり自分の判断でするのが一番だと思ってるんだわ。授業中にまでやる位ハマってんだから余計にそう思ったんだわ」

 

浦島優良はこのエスカレーター式と言っても私立秀知院学園で数少ない外部受験生である。

家は平凡な家庭であるとは言い難いが裕福でも貧乏でもない。

 

そんな彼は誰よりも親身になって色んな人間の相談に乗っている。ある意味ではこの学園の異物でしかない彼だが、だからこそ皆が見ている。

そんな中で彼は頑張っている人間を見捨てる事はしないのだ。

 

「底なしのお人好しですね」

 

石上は思わずそんな言葉が出た。

 

「るっせえよ、お前にだけは言われたくないわ」

 

ここだけの話だが浦島優良は石上優に借りがある。

それを返さない限りは浦島は自分を許す事ができないし、できそうもない。

 

浦島はあの時の事を誰よりも悔いている。その場にいなかったから何も出来る訳がないのにと普通は思うかもしれないが、彼は違う。

 

石上が正しい事をしたとは言わないが自分の正義で人を守ろうとした人間が不当に扱われていた事が何よりも悔しかったのだ。

 

だから浦島は石上を可能な限り理不尽から遠ざけている。ただそれだけの話だ。

 

「ていうか何のゲームしてたんだ?」

 

「言っても分かないとは思いますが虎ドラピーです」

 

「いや懐かしいなおい!神ゲーかよ!因みにどこまで行った?」

 

「え……いやまだメインヒロインルートだけですね以外とコレ難しいんですよ」

 

「とにかく悪い事は言わんからモデルキャラルートとソフトボールキャラルートもクリアしてみ?100点ルートも良いけど90点ルートも普通に良いから」

 

そして浦島優良はオタクである事は白銀と石上以外知られていない。

 

 

 

 

 




因みにこのゲーム原作を知っている人間であれば神ゲーであるのでオススメです
ただ攻略サイトなしでやるなら逆転裁判3を初見でクリアする位には難しいと思われる

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