八雲紫の懐刀   作:時雨。

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赤い巫女


物ぐさ巫女の遭遇

私が初めてそいつを見た時の第一印象は『薄い』だった。

薄いというのは別に肉体的な話ではない。否、肉体的にも薄いが。

気配は別にそれらを消すのが得意だったり能力だったりする類の妖怪と違ってしっかりそこに感じられたし、体が透けて向こう側が見えている訳でもない。

ただ、そいつは単純に各部位の色が薄かった。

膝裏まで届く長い髪は、くすんだ灰色をしていた。吸血鬼の館のメイド長のような光を反射する自己主張の強い銀ではなく、薄弱な灰。

瞳の色も空を映したような煌めく蒼ではなく、それに霞がかったような印象を受けた。

その上眠たそうな垂れ目をしているので意思まで薄そうに思える。

着ている服だって目が痛くなるような格好をしたのが多い幻想郷に置いて淡い桃色と白のグラデーションに添える程度な右腰回りから胸にかけて薄く白と桃それぞれのまだら模様が入っているだけと控えめな見た目をしていた。

きっと幻想郷中が皆こいつみたいな服を着るようになったらここは嘸かし視力に優しい世界になることだろう。

そいつは何処か遠くを眺めながらぼぅっと石段を登ってくる。

強く風に吹かれればそのまま飛んでいってしまうのではないかと思わせるほど華奢な体付き。

見た感じ人間で言うところの十やそこらの童子と変わらない背丈だが、妖怪という奴らは外見では中身の年齢まで判断がつかない。

何にせよ警戒してかかるに越したことはないだろう。

そうして意識の警戒度を上げて、私は縁側から起き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■

 

「止まりなさい。誰よアンタ」

 

無駄に長い階段を登りきって境内を少し歩いたところで誰かに声を掛けられた。

声の方向へ視線を向けると、一人の少女が腕組みをしながらこちらを見ていた。

不機嫌な顔でこちらを睨みつけている紅白両脇丸出しの少女。常々しつこいほどに紫から言い聞かされていた独特の服装と合致する彼女が、きっとこの神社の主で間違いないのだろう。

 

「やぁ、始めまして博麗の巫女。僕の名前は八雲灰香(やくもはいか)。八雲紫の式だよ」

 

「あのスキマ妖怪の……」

 

紫の名前が出た瞬間無愛想だった顔がより一層険しくなる。

おいおい、君のせいでファーストコンタクトは最悪の出だしだよ。どうしてくれるんだこの野郎。

というか何をしたらここまで嫌われられるんだ?まだ名前出しただけだぞ。

本人的には溺愛な感じだったからてっきり本人にもそういう態度で接してるのかと思ってたんだが。反応を見るにそうでもないらしい。

これは面倒くさいってより単純に嫌われてるぞ。

 

「君は紫と仲がいいんじゃないのかな?」

 

「はぁ?私とあいつが?アンタ一体主からどう言い聞かされてるわけ?何が悲しくて高頻度で何の前触れもなく神社に出没して私のお煎餅やらお茶やら勝手に腹に入れて高笑いしながら消えてくやつと仲良くしなくちゃいけないのよ」

 

「うわぁ……」

 

博麗霊夢が嘘を付いている様子は無いし、というか嘘をつくメリットもないし、きっとこの話は本当のことなんだろう。

何というだる絡み。

しかも日中だけでなく今日は早朝まで。

心底対象が自分じゃなくて良かったと思えるな、これは。

 

「それは、その、うちの主が失礼したね」

 

「失礼なんてもんじゃないわよ。今まで私が受けてきた迷惑行為そっくりそのままアンタに返して上げましょうか?」

 

「い、いや、遠慮しておくよ……」

 

青筋を立てて座った目で怒気を顕にする博麗霊夢。背後には不動明王的な何かがオーラのように浮かび上がって見える。

さすが巫女。

それにしてもそこまでひどかったとは知らなかった。普段紫が博麗神社に出かける時は基本僕はマヨイガに居て寝てるか藍や橙の相手をしていたからまさかこんな事になっているとは思いもしなかった。

普段他人を素直に受け入れることの出来ない気質故にこういったところで大きな反動と言うかしわ寄せになっているのだろうか。

かれこれ紫との付き合いは千年近くなると記憶していたが、その間紫が心を許した相手なんてそう居ない。

そうだとすると少なくともここ千年分をたった数人で処理しきらないといけないのか……。

うぅん、素直に面倒だな。

普通に面倒くさい。

さっきはちょっぴり申し訳ないとか思ってたけど巫女の仕事って本来邪悪なモノを祓うことだろうし、大妖怪カマチョスキマの退治は全て彼女に任せて僕はのんびりしていることにしよう。

そうしようそれがいい。

ともあれ、紫の矯正計画は今は置いといて、そろそろ僕は僕で今日ここに来た本来の目的を果たさねばなるまい。

 

「まぁ、色々あったのは分かったけど、今日僕は別に紫から何か指図を受けて来たわけじゃないんだ。だからそう邪険にしないでほしいな」

 

「妖怪が神社に来て邪険にするなって何の冗談よ。寝言なら布団に入ってから言いなさい」

 

「それができれば一番なんだけれどね。お生憎様僕も寝ているとこを叩き起こされて来た身なんだ。僕としても紫がどういう思惑でここに寄越したのか分からない以上、顔を覚えてもらえというなんとも曖昧な指示を全うすべくお茶でも飲みながらそこの縁側でお喋りでもしたい所かな」

 

「しっかり受けてんじゃないのよ、指図」

 

お弁当もあるよ、と右手に持った二人分の弁当を掲げてみせると、博麗霊夢は数秒こちらを睨みつけたまま何かを思案し、大きなため息とともに縁側へ向かうよう顎で促した。

 

「少しでも怪しい動きをしたら速攻ぶん殴るわよ」

 

「そこは巫女なんだから滅するとかの方が良いんじゃないかな」

 

「こっちのほうが早いでしょうが」

 

と右手で握りこぶしを作る博麗霊夢。

おかしいな。

紫から聞いてた話だと照れ屋で内気な可愛らしい巫女という話だったはずなんだけど。

随分実物と差異があるじゃないかと脳内で主に抗議を送りながら、先に歩き出した彼女を追って縁側へと歩みを進めた。

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