双子島の影人形   作:小匣めもり

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皆さんこんにちは!めもりです!大学が忙しく制作にあてる時間がほとんど取れませんでしたが、ようやっと夏休みに入り、投稿することができました!長らくお待たせいたしましたということで、早速ですが第13話「木漏れ日の心」スタートです!


第13話 木漏れ日の心

美咲「唯ちゃんはどうしていつも苦しそうに笑うの?」

 

 

唯「え……」

 

 

 

突然、美咲から放たれた言葉に唯は驚きを隠せなかった。

 

 

 

唯「……」

 

 

美咲「あ……ごめんな、もしかしたらうちの勘違いやったかな?さっきの祥子ちゃんもそうやけど、みんなは違和感とか感じてないみたいやし……」

 

 

唯「……うん。多分そうなんじゃないかな」

 

 

美咲「唯ちゃん……?」

 

 

 

唯はそっぽを向いてそう答えた。

 

 

 

唯「あ、そうだ!私やらなくちゃいけないことがあるんだった!」

 

 

美咲「え?」

 

 

唯「ごめん、今日はこの辺で失礼するね!祥子ちゃんによろしく!」

 

 

美咲「ちょっ、待って……!」

 

 

 

バタン

 

 

 

唯はそう言い残すと、急いで祥子の部屋を後にした。

 

 

 

美咲「行っちゃった……」

 

 

美咲(ホンマにただの勘違い……やったんかな……?)

 

 

 

 

唯「……まさか、ね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~同日 昼 島内 南の公園~

 

 

 

島内南、住宅地の中に田園風景などが広がっているのどかで落ち着いた場所だ。その一角にある公園のベンチに、学園の生徒たちが何人か座っているのが見える。

 

 

 

青葉「やっぱりこの辺りはのどかで落ち着くね~」

 

 

柚季「だね!凄くリラックスできるよね」

 

 

瞳「響香ちゃんはどう?リラックスできてる?」

 

 

響香「まぁ、うん……。お蔭様で」

 

 

瞳「ホントに?なら良かった!」

 

 

青葉「ね!連れてきた甲斐があったよ!」

 

 

響香「ありがとね……!」

 

 

柚季「お礼なんていいよ!響香ちゃんがそれでリラックスできてるなら、それだけで私たちは嬉しいから!」

 

 

青葉「そうだよ~!」

 

 

瞳「うんうん!」

 

 

響香「みんな……!」

 

 

 

聞こえて来る会話はとても暖かく、公園に差す陽光の影響もあり、それは私たちに彼女らが今、幸せの最中に居るかのように感じさせた。

 

 

 

響香「ホントにありがとね。私、みんなと一緒に居れて幸せだよ……」

 

 

柚季「響香ちゃん……!」

 

 

青葉「ありがと、嬉しい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、所詮それは錯覚に過ぎなかった。

 

 

 

響香「……でもね、でもね私、怖いんだ」

 

 

瞳「……響香ちゃん?」

 

 

響香「今が幸せであればあるほど、もう二度とこの時間が訪れない気がして……」

 

 

 

そう打ち明ける響香の目には涙が浮かんでいた。

 

 

 

響香「ホントはこの幸せを理央とも共有したかったよ!ずっと一緒に笑っていたかったよ!でも理央は殺されて、その容疑が私に掛かってる!おかしいよ……、どうして?どうしてなの?私は、私はただ……」

 

 

柚季「……」

 

 

 

まだ高校1年生の彼女には、重すぎる現実だった。響香はそのままベンチにうずくまってしまった。その体は震えていた。3人はそんな親友の姿を見て、どう声を掛けていいかも分からず、ただその小さな背中にそっと手を当て、慰めてやることしかできなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少し経ってのことだった。

 

 

 

??「おぉ!誰かと思えばこの前のお嬢さんたちじゃないか!」

 

 

 

突然、誰かが柚季たちにそう声を掛けた。

 

 

 

柚季「あっ!おじさん、こんにちは!」

 

 

青葉「こんにちは~!」

 

 

おじさん「こんにちは!4日ぶりかな?」

 

 

柚季「そう……ですね!」

 

 

 

声を掛けてきたのは4日前の島探索中に3人が打ち解けた、この辺りに住んでいる島のおじさんだった。※7話参照

 

 

 

おじさん「相変わらず元気なようでなによりじゃが……、そこのお嬢さんはどうしたんじゃ?見たところ君たちのお友達のようじゃが……」

 

 

 

おじさんはベンチにうずくまった響香を見て、そう問い掛けた。

 

 

 

瞳「あ……はい。この子は響香ちゃん、泡瀬響香って言います!私たちの友達です!いつもはもっと元気なんですけど、今は訳あって……」

 

 

おじさん「訳……?」

 

 

柚季「はい。学園のことで……」

 

 

 

柚季はおじさんの足元に視線を落としてそう言った。

 

 

 

おじさん「……学園?……もしかして、人形ゲームで友達でも失ったのかい?」

 

 

柚季「え……」

 

 

響香「……!!」

 

 

 

柚季らはおじさんが発した言葉に耳を疑った。

 

 

 

瞳「……今、人形ゲームって言いましたか……?」

 

 

おじさん「あぁ、言ったとも。何じゃ?ワシの言い方がおかしかったのかい?」

 

 

瞳「あ、いえ、そういう訳では!!」

 

 

 

人形ゲーム。確かにおじさんはそう言ったのだ。彼女らはふと、前にクラスのみんなでこのゲームについて話し合った時、島の住人とゲームの関係性の話が出てきていたのを思い出した。目の前のことに必死で、今までそんな話をしていたことなど忘れていた彼女らであったが、今まさにこの瞬間、ゲームの謎が一つ明らかになったのである。この島の住人は、少なくともこのおじさんは、人形ゲームの存在を知っていたのだ。

 

 

 

青葉「……知ってたんですね。人形ゲームのこと」

 

 

おじさん「知ってたって……あぁ、何じゃ、そういうことじゃったか。しかし人形ゲームのことならワシを含め、この島の住人みんなが知っておるぞ。なんせワシらは……」

 

 

 

おじさんが続きを話そうとした、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彩「花宮さん、それ以上は遠慮していただいても?」

 

 

おじさん「むっ……」

 

 

柚季「あ、彩先生……?」

 

 

 

そうおじさんに声を掛けてきたのは彼女らの副担任である彩であった。しかし、その表情はいつもの彩のにこやかなものとは違い、どこか冷たささえ感じさせるものであった。

 

 

 

彩「島の住人たる約束事、忘れたんですか?」

 

 

おじさん「ああ、いや、忘れた訳ではないよ。ワシも歳じゃが、記憶力だけは若いもんにも負けん自信がある。ただ今回は、少しだけなら……とな」

 

 

 

おじさんが話を誤魔化そうと、少し冗談めかしても彩のその表情が変わることはなかった。

 

 

 

柚季(先生の顔、とても怖い……)

 

 

彩「……約束は約束です。守れないようでしたら例え貴方であっても容赦はしませんよ」

 

 

 

彩はそう言うと、右手を影人形へと変え、おじさんを威圧した。

 

 

 

おじさん「ま、まぁ落ち着いてくれ!分かったよ、約束は守る。ワシはただこの子が心配で、少しでも元気にさせてやりたいだけなんじゃ!」

 

 

彩「……」

 

 

柚季「……?」

 

 

彩「……そうですか!それは良いことです!花宮さんにしかできないことだってあります!ぜひ元気づけてあげてくださいね!」

 

 

 

少しの沈黙の後、彩の表情は一変し、口調もいつもの明るい調子のものへと変化した。先ほどまで見ていた彩の姿が嘘のようだった。

 

 

 

おじさん「あぁ、任せておいてくれ!」

 

 

彩「はい!……ただ、約束は絶対ですよ。私だって、尊い命をこの手で摘み取りたくはないですから……」

 

 

 

彩はそう言い残して、木漏れ日の眩しい公園を後にした。

僅か数分の出来事だった。残された柚季たちは、まだ状況が呑み込めずにいた。

ずっとベンチでうずくまっていた響香も、今では顔を上げてこの状況を整理しつつも、心配そうにどこか遠くを見つめていた。

 

 

 

おじさん「……驚かせてしまったかな」

 

 

 

そんな彼女らの様子を見て、おじさんは一言、そうこぼした。

 

 

 

瞳「あ、いえ。……でも、そうじゃないって言ったら嘘になりますね……」

 

 

 

彼女らの中に、驚きの気持ちは確かにあった。ただ、それ以上に再度突き付けられた人形ゲームという現実が重たく彼女らにのしかかったのである。

 

 

 

おじさん「……そうかい。……何だか、悪いことを思い出させてしまったみたいじゃな。すまなかった」

 

 

響香「……」

 

 

おじさん「……君は人形ゲームで、大切な人を失ったのじゃろ。事情を知った今なら分かる。君はそういった悲しい目をしているよ……」

 

 

 

そう言って響香に向けられたおじさんの目も、どこか悲しそうであった。

 

 

 

響香「……私、響香って言います。泡瀬響香です」

 

 

柚季「……響香ちゃん!」

 

 

 

その目に感化されたのか、突然、今まで黙っていた響香が口を開いた。

 

 

そして、こう問い掛けた。

 

 

 

響香「あなたは、その……、柚季たちと、人形ゲームとどういった関わりがあるんですか……?」

 

 

おじさん「ふむ、なるほどな。まぁそれに答える前に、折角君が名乗ってくれたんじゃ。ワシにも名乗らせておくれ。……と言っても先ほど彩ちゃんが言っていたがね。ワシは秀之(ヒデユキ)。花宮秀之じゃ。今はもう店は閉じたが、昔ここらでちっぽけな花屋をやっておった者じゃ。君は響香ちゃんと言うんじゃな」

 

 

響香「花宮さん……ですか。はい、私はそうです」

 

 

おじさん「うむ、そしてワシの関わりについてじゃが、先ほどみたいなことになるのはもう勘弁なのでな、人形ゲームとの方は伏せさせてもらうよ。じゃが、お嬢さんたちとの方なら言えるぞ。ワシらが初めて会ったのはな──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おじさん「──と、まぁ、こんな感じじゃ」

 

 

響香「へぇ、そうだったんですね……!」

 

 

柚季「うん!だから安心していいよ!おじさんは人形ゲームのことを知ってるけど、私たちの敵じゃない!私が保証する!」

 

 

おじさん「……うむ、色々言いたくても言えないところがあるが、それで間違ってはいないよ」

 

 

響香「……」

 

 

おじさん「はははっ、まぁ疑うのも無理はない。信じるも信じないも君の自由じゃ。じゃがの、これだけは知っておいてくれ。ワシは君のことが心配なんじゃ」

 

 

響香「……それは、どうしてですか?見ず知らずのあなたがどうして私を心配するんですか……?」

 

 

瞳「……ちょっと響香ちゃん!それは流石に……!」

 

 

 

瞳は響香の言葉を指摘しつつ、おじさんの方に恐る恐る目をやった。

 

 

存外、瞳に映ったおじさんは、穏やかな目をしていた。

 

 

 

おじさん「……ワシはな、今まで幾度となく、君のような子を見てきたんじゃよ」

 

 

響香「……私のような子を……?」

 

 

おじさん「そうじゃよ。君のように、不安や悲しみに押し潰されそうになった子をじゃ」

 

 

響香「……」

 

 

おじさん「じゃが、ワシが見てきたのは何も、そうなっているという状況だけじゃない。その先のその子たちの行動、変化、結末までの全てをこの島で何年も見続けてきた」

 

 

青葉「……!」

 

 

おじさん「それで、気付いたんじゃよ。みんな不安や悲しみを背負うのは同じで、挫けそうになるのも同じじゃ。じゃがな、そこからそれをどう乗り越えて、どう糧にして生きて行こうと決めるかで、ひらける道は変わってくるんじゃ。今の君はまだそのスタート地点に立っているだけ。このままではきっと、背負ったものに押し潰されて終わってしまう。ワシはそうなってしまった子を何人も知っている。その子らの顔を思い出すとな、胸が苦しくなるんじゃ。あの時ワシが何かを変えてやることができたんじゃないかと思うと、締め付けられるように痛むんじゃ。じゃからワシは君が心配で声を掛けたんじゃ。君に道がひらけるように、己がもう後悔しないで済むように」

 

 

響香「……でも、私は……」

 

 

おじさん「辛いのはよく分かる。ワシだってそうじゃ。いくつも大切なものを失って、辛くて、苦しくて、泣き出しそうで、それでも希望に縋ろうと泥臭く生きてきた。そのもがき苦しんだ先で、ワシは今ちっぽけな幸せの中にいる。じゃから、どうか前を向いて、希望を捨てず生きてくれ……。君が今どんな状況に立っていて、どんな心情をしているのかなど、全てを理解はしてやれないワシじゃが、これが似た境遇に立たされた身として、君に伝えてやれる精一杯の言葉じゃ……」

 

 

響香(……それでも私は、私には……)

 

 

おじさん「それに、何も一人で思い悩む必要はない。困ったり、辛くなったときには友達に頼ればいい。現に、君にはこうして寄り添ってくれる、あたたかい友達がいるじゃないか。……君の反応を見るに、きっと他にもそんな子がいたのじゃろうな。……辛いじゃろう、辛かったじゃろう。色々と後悔したじゃろう。じゃが、残酷なことにその子はもう二度と帰って来ることはない」

 

 

響香「……!!そんなこと、わざわざ言われなくても分かって……!!」

 

 

おじさん「じゃからこそ!!後悔したからこそ、今いる友達と共に、後悔ないように生きるんじゃ……。もし、もしお別れの時が来てしまっても、これでもう後悔はないって思えるよう、沢山笑いあって、沢山悲しみを分かち合うんじゃ。亡くなった友の分まで。いや、それ以上に。そのためには、生きる希望を持つことが大切なんじゃよ……」

 

 

 

おじさんは静かに、だが力強く、そう語った。

 

 

 

響香「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……と、暫く続いていた沈黙に、突然一つの声が飛び込んできた。

 

 

 

島の住人「あ!いたいた!花宮さんのとこの旦那さん……!」

 

 

おじさん「……ん?」

 

 

 

その声の主は、おじさん家の近所に住む50代くらいのおばさんだった。

 

 

 

島の住人「ご飯の準備ができたって、奥さんがお呼びだよ!」

 

 

おじさん「おっと!それはいかんの!ご飯は出来立てが最高じゃ。ありがとう!すぐに戻るよ!」

 

 

島の住人「奥さん淋しがってると思うから、すぐに行ってあげてねー!」

 

 

おじさん「はいよー!と、いう訳じゃ。ワシは戻らねばならん用事が出来たので、ここらで失礼させてもらうよ」

 

 

柚季「おじさん……またね!」

 

 

青葉「また!」

 

 

おじさん「そうじゃな!……次に会える時も、君ら全員がこうして無事であることを願っているよ……」

 

 

 

おじさんはそう言うと、急ぎ足で愛する人の待つ自宅へと帰って行った。

 

 

 

青葉「……おじさん、奥さんがいたんだね」

 

 

瞳「うん。それがきっと、おじさんの言うちっぽけな幸せなんだろうね……」

 

 

柚季「ね。……私たちにもいつか、本当の幸せってものが訪れるのかな……?」

 

 

瞳「それは……どうだろね」

 

 

青葉「おじさんが言うみたいに、希望を持って生きた先では、訪れるのかも知れないね……」

 

 

響香(生きる、希望……)

 

 

 

 

 

私は、理央を失って辛かった。でも、生きる希望を捨てた訳じゃない。

じゃあ、どうして。どうしてこんなにもその言葉は、私の心に引っ掛かるのだろう……。

 

 




まずはここまでのご精読ありがとうごさいました!久しぶりの執筆で手詰まりするところが多々ある中、なんとか書き上げることができました!次回はスラスラと書き上げたいですね……。そんな次回ですが、また話が進む予感がします!お楽しみに!それでは皆さん、また次回、お会いしましょう!(雑)

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