~4月20日(土) 昼前 島内中心部 カフェ~
桜「ゆっくり落ち着ける場所があればと思って来てみたけど、いいね。ここ」
千優「うん。アンティークな感じで結構好きかも」
店内はテーブル席や時計などの大きなものからカップやテーブルの上にちょこんと飾られてあるミニチュアなどの小さなものまで古風な印象を与えるもので統一されており、それが店独特の落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
経介「前々からカフェがあるのは知ってたけど、中はこんな風になってたんだね」
小春「私は今まで知らなかったんだけど、きょーすけは知ってたんだ」
経介「まぁ、存在だけはね。よく玉川くんと凜堂さんがカフェの話をしてたのを聞いてたからさ」
そんな話をしていた時だった。
恵「盗み聞きなんて趣味が悪いなぁ経介くん♪」
経介「え……?」
菜華「恵、お前のしてることもそれと一緒だ」
恵「うっ、冗談だよ~」
入り口のベルが鳴ると共に恵と菜華が店に入って来た。
小春「あ!恵くんに菜華ちゃん!」
経介「びっくりした……。本当にジャストタイミングだったね……」
恵「噂をすれば出るって言うからね♪隣いいかな?」
経介「あ、うん。いいよ。折角だし」
恵「やったぁ!それじゃ、お言葉に甘えて」
菜華「……失礼する」
小春「恵くんたちはここにはよく来てるの?」
恵「そうだねぇ、よくって言うかほぼ毎日来てるかな♪」
経介「そんなに?!凄いね……」
菜華「ここは落ち着くからな。作業をするにも休憩するにも最適の場所なんだ」
桜「確かに、それは納得ね」
千優「うん。ここならいつまでも居られそう……!」
菜華「北の方と違ってこの辺りは人通りが少なくて高い建物もないから、夜は静かで綺麗な星がよく見えるんだ。それに浸りながら嗜むコーヒーがまた美味しくてな……」
恵「うんうん!まぁ、僕は苦いのダメだからいつも蜂蜜とお砂糖多めの甘いカフェオレなんだけどね」
経介「へぇ……!」
菜華「興味があれば君たちも一度経験してみるといいよ。損はしないはずだ」
経介(……この島のこと、よく考えたら全然知らないな。……僕も、そんな発見があったらいいな)
経介「うん!教えてくれてありがとう!」
経介はそれを聞いて少し、嬉しさのような感情を覚えていた。その話をする彼女らの表情からゲームに囚われない、普通の高校生としての一面を垣間見ることができた気がして。
恵「……ところで、桜ちゃんたちはここで何してたの?いつもは見かけないからこの機会にと思ってお邪魔しちゃったけど、もしかして大事な話の途中だったりしたかな……?」
桜「ううん。大丈夫だよ!私たちはただ昼の侵攻が始まる前に落ち着いて居られる場所を探してて、それでここに辿り着いただけだから特に何か用事がある訳でもないんだ」
恵「そうなんだ!それならちょうど良かった!実は僕たちも……」
恵がそう言いかけた時だった。
再び入り口のベルの鳴る音が聞こえると共に、見覚えのある生徒が入店して来た。
穂乃香「わぁ~、すごい!聞いてた通りの素敵な内装だ~!」
和奏「おー!オシャレじゃん」
冷音「……ったく、何でよりにもよって今日なんだよ……」
小春「あ、今度は冷音くんたちだ!」
恵「んん、今日は何だか賑やかだねぇ♪」
穂乃香「偶然土曜日と被っちゃったんだから仕方ないでしょ!それにこの前今度気分転換に付き合ってくれるって言ったのはお兄ちゃんの方じゃん!」
冷音「……とは言ってもだな……」
和奏「まぁまぁ、いいじゃんか別に。今は侵攻時間外なんだしさ。それに可愛い可愛い妹ちゃんの頼みだよ?」
冷音「……」
穂乃香「もう、お兄ちゃんは心配しすぎだよ。侵攻時間には十分注意して行動してるんだから!それにここなら大丈夫……って、あれっ?」
こちらが向こうに気付いてから少しして、向こうもこちら側に気付いた様子を見せた。
恵「やぁ、こんなところで奇遇だね」
穂乃香「恵くんに菜華ちゃん!それに小春ちゃんたちも!」
和奏「見た顔がいっぱいいるねー」
冷音「チッ、面倒な奴が……」
菜華「穂乃香、この前話したばかりなのにもう来たのか」
穂乃香「うん!菜華ちゃんの話を聞いてからずっとここのことが気になっててね。侵攻が控えてるのは分かってるけど、2人に無理言ってついて来てもらっちゃった!」
恵「……?」
菜華「つい最近、穂乃香にここのことを聞かれて話をしたことがあってな。随分と興味がある様子だったから一度来てみてはと提案したんだ。本当につい最近のことなんだがな」
恵「なるほどー!じゃあ穂乃香ちゃんたちも一緒にお茶するのはどうかな?話を聞いてる限り僕らと同じで特にやらなきゃいけないこともないみたいだし、ここに興味があるなら僕らからも色々教えてあげられるかも知れないしね~」
冷音「誰がお前らと群れてお茶など……」
穂乃香「ホント?嬉しい!カフェの話もそうだけど、私まだみんなのことよく知らないから色々お話してみたいなって思ってたの!」
和奏「お、私も昔の話とかは興味ある」
冷音「……オレはあっちで……」
菜華「木陰くんも一緒にどうだ?見たところ穂乃香が心配なんだろう?一人でも多かった方が影人形に狙われるリスクは減るぞ。それに、君がいた方が穂乃香も喜ぶだろうしな」
経介(凜堂さん、何て言うかよく分かってるな……(笑))
穂乃香「ほら!そう言うことだからお兄ちゃんもこっち来て座って!」
冷音「……」
こうしてもう間もなく始まる昼の侵攻に向けて十分な警戒をする中、半ば強引に僕ら9人の生徒によるお茶会が始まった……。
※ここからはダイジェストでお送りします。
恵「冷音くんと穂乃香ちゃんが一緒に居るのは兄妹だからだとして、和奏ちゃんとはどういう関係なの~?」
穂乃香「中学の時からの友達だよ!私が中学に入ってすぐにお兄ちゃんとクラスが別々になって、話す人がいなくて淋しかった時によく話しかけてきてくれて仲良くなったの!」
冷音「……休憩時間とかにはよく会って話してただろ」
穂乃香「授業内のグループワークの時とかの話!」
和奏「そう。で、その時穂乃香と仲良くなってから冷音にもよく話しかけてるつもりなんだけどずっとこんな感じなんだよねー」
冷音「……フン、オレは普通だ」
穂乃香「2人も中学からの付き合いなんだよね?昔の2人ってどんな感じだったの?」
菜華「中学の頃の恵か?うーん……2年の中頃からならはっきりと覚えてるんだが、それ以前のことは曖昧だな……。まぁ、物静かな男の子と言った感じか?」
和奏「え!意外~」
恵「あはは、恥ずかしいなぁこれ。でもあまり覚えてないのは無理ないよねぇ。何せばななは1年の時からバリバリの生徒会長だったからねぇ。それで言うとばななの方はあまり変わってないかもね~。あ、でも昔に比べたら最近はちょっと人っぽくなったかも」
菜華「何だそれは……、私はずっと人間だぞ」
経介「昔はTHE・仕事人って感じだったってことかな……?」
和奏「経介くんは千優ちゃんとはどんな関係なの?そこの2人でいるところはあまり見たことがないように感じるんだけど」
経介「えーっと……」
千優「……」
和奏「?」
桜「千優ちゃんとは私が仲良くて、小学校が一緒だったんです。その時既に小春ちゃんたち2人とも仲は良かったんですけど2人はまた別の小学校で……」
経介「僕と小春は小学校から一緒なんだけど、桜は中学から一緒なんだ。お互いに知り合って遊び始めたのは確か小学校に入る少し前くらいだった気がするけど……」
千優「私は3人とは中学が違ったので桜ちゃんとはここに来て小学校ぶりに会ったんですけど、高穂くんと硯さんとはここで初めて会ったんです。桜ちゃんから何度も話は聞いてたので知ってはいたのですが……」
菜華「要するに友達の友達ということだな」
千優「そう、ですね……」
恵(僕が言ってるのはこーゆーとこなんだよなぁ……)
その後も……
穂乃香「えぇ?!じゃあ2人は付き合ってなかったの?!」
恵「違うよ~、友達友達!」
菜華「驚いたな。私と恵はそんな風に見られていたのか」
恵「そんなこと言ったら君たちもそんな風に見えるけど誰が本命なのかなぁ?♪」
経介「えぇ?!ぼっ、僕はそんな風には……ごにょごにょ」
穂乃香「私はお兄ちゃんとは兄妹なんだから違うよー!あ、でも!」
和奏「お。私たち付き合うか?」
冷音「……うるせぇ御免だ。穂乃香も余計なことを言うな」
穂乃香「あはは、冗談だよ~」
冷音「全く……」
恵(……あら?)
穂乃香「あー、話した話した!」
恵「楽しかったねぇ♪」
穂乃香「うんうん……ってあれ?外が真っ暗?!」
小春「わ!もう20時前だよ!いつの間に?!」
店の時計を見た小春が驚いてそう言った。話をするのに夢中で途中から時刻を確認するのを忘れていたみたいだった。
穂乃香「時間を忘れて楽しむって、こういうことを言うんだね……」
恵「だね♪それができたっていうのは良い経験だけど……どうしよっか?もう夜の侵攻が始まっちゃうね」
菜華「……今グループに連絡がないか確認してみたがそれらしいものは届いてないな。どうやらまだ侵攻は行われていないみたいだな」
恵「そうだねぇ、僕はこのままみんなと明日まで話の続きをしてもいいんだけど……」
冷音「冗談じゃねぇ、これ以上はもううんざりだ。オレは寮に戻るぞ」
恵「うーん、うんざりって割には楽しそうに見えたけどなぁ♪」
菜華「恵も、ここに残る訳にはいかないだろう?帰りに食材を買いにスーパーに寄るんじゃなかったのか?」
恵「そう言えばそうだったねぇ」
菜華「まだ侵攻まで時間があるとは言え、一人では心配だ。私も一緒に行こう」
和奏「あ、そーゆーことなら私もついて行っていいかな?ちょうど野菜切らしてるんだ」
小春「実は私もで……」
恵「分かった。固まって動く人数は多かった方がいい。とは言え街灯の少ない暗闇で襲撃されるのはマズイ。僕たちは足早に店に向かうけど、君たちはどうするの?」
恵はまだ意見の出ていない4人に端的に質問を述べた。
桜「私は……下手に動くのも怖いし明日までここで待機しようかな」
千優「私も桜ちゃんとここに残ります……」
穂乃香「私は……」
冷音「お前はここに残れ。店のある北側と違ってここから寮までは暗い道がずっと続く。時間までに寮に着けるとは思うが万が一のことを考えるとここでそいつらと待機してた方が安全だ」
穂乃香「でも……」
経介「それなら、僕が木陰くんと一緒に寮に戻るよ。だから木陰さんは桜たちとここで待機していて。それに、一人だけ危険を冒させる訳にはいかないから」
穂乃香「……分かった。気を付けて!」
恵「……うん。みんな塊になって別れたみたいだね。それじゃ、早いとこ移動しよう」
和奏「りょーかいー」
菜華「どちらも気を付けてな」
経介「うん。そっちもね!」
冷音「……おい、寮まで走るぞ」
経介「分かった!」
こうして、僕らは慌ただしく3グループに別れ、それぞれの目指す場所へと向かって行った……。
そして、僕らがちょうど学園の東門を潜った時だった。
冷音「……時間だ」
時刻は20時。たった今、この島は夜の侵攻の時間を迎えた。
経介「……何とか、間に合った……かな……」
冷音「気を抜くな。一先ずは明かりのついているロビーに……!!」
冷音がそう言って寮のロビーの方に目をやった時だった。
冷音「……おい。できるだけしゃがんでロビーの近くまで向かうぞ」
経介「え……?」
冷音「いいから、早くしゃがめ!」
僕は木陰くんに疲れて膝の上に宛がっていた手を引かれて体制を崩した。
経介「……どうしたの?」
冷音「静かに!……あれを見ろ」
木陰くんの指がさす方に目を向けると、そこにはある人物が一人で立っているのが見えた。
経介「あれは……!!」
その人物の顔はロビーの光で照らされ、少し離れた場所にいる僕たちでもしっかりと捉えることができた。そう、その人物とはまさに……
経介「……姫野さん……!?」
そう、そこに立っていたのは紛れもなく姫野祥子であった。
彼女はどこか落ち着かない様子で辺りを何度も見回していた。
経介「でもどうして?姫野さんは確か等野さんたちと……?」
冷音「考えるのは後だ。一人でいることに加えて明らかに動きが不審だ。このまま徐々に距離を詰めてもっと近くで動向を窺うぞ」
経介「……うん!」
僕はしゃがんだまま冷音くんの後ろを寮のロビー目がけてついて行った。
その距離が縮まるにつれ、動悸が激しくなっていくのが分かった。
一歩、一歩とロビーが。目的の場所が近づいて来る。そしてまた、次の一歩で……と、その時だった。
冷音「!!」
経介「逃げた!!」
祥子は突然、その場を逃げるように走り出したのだ。
経介(何で?!気付かれたのか?!)
冷音「教室棟だ!追うぞ!!」
木陰くんの声だ。僕らは教室棟に消えて行った姫野さんの背中を追った。
経介(君が。本当に君が……?)
冷音「上だ!!」
経介(嘘だったのか。あの言葉は全て……?)
真実をこの目で───。一心不乱にそれを目がけて突き進む。足が階段を蹴り、2階の踊り場を蹴る。
経介(君が。君が枷田さんを殺したのか……?!)
ドンッ
前方にあった硬い何かにぶつかって、強い疑念に盲目になっていた僕は我に返った。
見ると、目の前には冷音の背中があった。
経介「……木陰く」
冷音「喋るな」
経介(!!)
木陰くんはただ一言、人差し指を立ててそう言った。
決して大きな声ではなかった。寧ろ小さすぎるくらいの声量であった。それでも僕はその一言に得体の知れない緊張感を覚えた。
「この先に何があると言うのだろう」
最高潮に達した動悸も止まぬまま、僕は恐る恐る木陰くんが見ている先を覗き込んだ。
経介「……!!??」
そこには目を疑う光景が広がっていた。
月光が照らすは恐怖からか廊下にぺたりと座り込み、必死に後ずさりをしようとするが脚が動かない祥子。そしてその正面には手に銀色に光る刃物を携えた真っ黒なナニか。
そう、そこに映し出されていたのは紛れもない「祥子」を襲う「影人形」の姿だった。
はやく、はやく逃げなければ。気持ちだけが先走る。脚はぴくりとも動かない。
冷音「……おい、落ち着けよ。今オレたちが出て行ってもこの距離、この状況じゃもう助けようがない」
祥子のはやる気持ちを宥めるかのように銀色の凶刃はゆっくりとその高度を上げ、影人形の頭の上辺りでぴたりと止まった。
冷音「下手に姿を見られることは次の侵攻で命を狙われることに繋がる」
影人形は怯える祥子の顔から慄く祥子の心に視線を落とし、そして……
冷音「心苦しいが、ここはこのまま……」
冷音「……ッバカ!!!」
僕は壁の陰から勢いよく飛び出した。
経介(君じゃなかった。嘘じゃなかった)
一瞬、影人形の注意がこちらに逸れる。
経介(やっと、やっと分かったのに……)
が、それも束の間。すぐに影人形の注意は祥子に戻る。
経介(やめろ。やめろよ!)
その距離、僅か数メートル。届かない。目と鼻の先。必死に手を伸ばす。それでも届かない。
そう、彼の手ではない。今そこにある命に唯一、触れることができるのは───
経介「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
まずはここまでのご精読ありがとうございました!久しぶりの行間明け明けパーティーは楽しんでいただけたでしょうか。また、本話ではカフェの話が出て来ておりますが私はそんなオシャンティーな場所とは全くの無縁でございますので皆様の思うような素敵なカフェを想像していただけたら幸いです(丸投げ)。カフェってマスターいるっけ?とか言ってるレベルなので。はい。この話の後書きでそんだけ文字数書いてて話すことそれかよって感じなのでこの辺で終わります。改めてここまでの閲覧ありがとうございました。次話もお楽しみに!!!