鷺沢家・文香寝室
文香「愛してます、幸子ちゃん」
幸子「んー」
文香「142cmという小柄な体格も、その体躯、勿論お顔も……」
幸子「なるほどー」
文香「外ハネの1本1本でさえ眩しい……どうか私と、結婚してください」
幸子「えー」
文香「お願いします」
幸子「もっとこう、文学少女らしい語録の深さを披露してみてくださいよ。そんな大それた言葉なら」
文香「………………」
文香「……では、毎日私の味噌汁を飲んでください。赤です」
幸子「ボク白味噌派なんですよねー」
文香「ガーン……。こちらが合わせるとしましょう」
幸子「ではその覚悟の証として、蓬莱の玉の枝を」
文香「……かぐや姫物語ですか。なるほど。そこまで嫌ですか」
幸子「ノンケですから」
文香「ノンケ……」
幸子「大体文香さんのソレは、ボクじゃなくて、女の子全般に向けた想いでしょう。まゆさんが嫌うわけですよ」
文香「愛らしい生き物を手中に収めたいと思うのは、子孫を残す本能として何もおかしな事ではないかと」
幸子「生まれる性別を間違えましたね」
文香「辛辣」
幸子「ご愁傷様です」
文香「あ。そうです幸子ちゃん」
幸子「んー」
文香「本日、茄子さんの朝番組で、開運☆茄子さんのモテモテ術なるものが」
幸子「胡散臭……くもないですね。茄子さんなら」
文香「というわけでやってみてください」
幸子「拒否権は?」
文香「拒否したら本気で抑え込んでディープキスします」
幸子「こわっ!!!」
文香「ではまずこう、手首を合わせて」
幸子「合わせて」
文香「深くお祈りを込めて」
幸子「込めて」
文香「そこに幸せの不思議な粒を少々」
幸子「ちょ、なんですかそれ、どこの何ですか」
文香「芳乃ちゃんの集めた石についてたその辺りの砂です」
幸子「ええ……」
文香「そしてここに茄子さんの口付けをひとつ」
幸子「いないじゃないですか」
文香「いえいます」
幸子「どこに」
茄子「ここに♡」
幸子「ええ……」
文香「ではここに誓のキスを」
幸子「何言ってんですか」
茄子「誓います……///」
幸子「は?」
茄子「ちゅ」
幸子「ほんとにキスしたこの人……」
文香「おめでとうございます、これで幸子ちゃんはモテモテ確実です」
茄子「おめでとうございます♡ では私はこれでー」
文香「ありがとうございました」
幸子「あの人その為だけにここにいれたんですか」
文香「というわけで一緒に寝ましょう」
幸子「いつも言ってますけど、触らないでくださいね」
文香「ぎゅーは?」
幸子「可」
文香「もみもみは……?」
幸子「不可」
文香「残念」
幸子「残念って」
文香「揉みたかったです」
幸子「相変わらず衝撃の語彙力の無さ。文学少女ですよね?」
文香「文学少女です」
幸子「最近読んだ本は?」
文香「2019年星座占いの本」
幸子「は?」
文香「何だか妙に目に付いたので」
幸子「なんでもいいんですね。女の子の好みと同じですか」
文香「何を馬鹿な」
幸子「冗談です」
文香「おやすみなさい」
幸子「おやすみなさい」
翌日・事務所前
幸子(……起きた時には文香さんがいなくて勝手に来ちゃいました)
幸子(なんかやりたい事ができたとか置き手紙残してましたけど……)
幸子(まあ、多分大丈夫でしょ)
蘭子「さーちこちゃんっ♡」
幸子「うひぁっ!?」
蘭子「闇に飲まれよ! 蘭子です〜♡」
幸子「は、はい、分かりますけど……なんで後ろからそんな」
蘭子「え? 幸子ちゃんがいたから」
幸子(い、いつもそんな抱き着いてくる人じゃないでしょーーー!?)
蘭子「いつにも増して今日はカワイさの塊、もうすりすりしちゃう。すりすりすりすり〜」
幸子「わ、ぷ、あ、へあ……っ。なに、なに……!?」
蘭子「もー、カワイイカワイイ〜」
幸子「わ、分かった、分かりましたから、離れて……」
蘭子「んにゃ〜!」
幸子「んにゃあ!? キャラはどうしたんですか! いつもならもうちょっと……」
蘭子「幸子ちゃんいい匂い〜……♡」
幸子「うう……。もういいです……このまま事務所に」
蘭子「やあ!」
幸子「やあじゃないの! 行きますよ!!」
蘭子「やあ〜!」
幸子「むぐ、ぐぐぐぐ……っ!」
蘭子「一緒に寮に帰る〜!」
幸子「仕事があるんですからー!」
みく「こーら」
蘭子「いたっ」
みく「朝っぱらから事務所の前でわちゃわちゃしてないの。みんなの邪魔でしょ」
幸子「み、みくさん……ありがとうございます……」
みく「ううんどうたし…………」
幸子「みくさん……?」
みく「…………」
みく(……むらっ)
幸子「あの……」
みく「あ、や、えっと。うん。何でもないにゃ」
幸子「……?」
蘭子「何でもなくない! 離せこの猫!!」
みく「お前らは頼むから名前を呼べ」
幸子「と、とりあえず行きましょう」
蘭子「む〜〜〜っ」
みく「唸ってないで、早く行こ」
蘭子「じゃあ幸子ちゃんと行く」
幸子「は、はい……?」
蘭子「手つなご?」
みく「は や く い く の !」
事務所
幸子「結局手繋いで入室するハメに……」
蘭子「えへへへへへ〜♡」
幸子「はあ……おはようございまーす」
みく「おはようにゃー」
芳乃「おはようございますー、皆々様ー」
幸子「あれ、今日は芳乃さんだけですか?」
芳乃「はいー。あ、いいえー。さっき志希さんが来まして、お手洗いにー」
幸子「なるほど」
蘭子「他の女の子なんて見ちゃダメ幸子ちゃん!」
芳乃「はー?」
蘭子「今は私と一緒にいるのに余所見なんて……」
芳乃「……何でしてこれ」
幸子「いえ、ボクも何がなにやら」
芳乃「ほー……」
芳乃「……」
芳乃「…………?」
芳乃「何やら、体がー」
幸子「え?」
芳乃「……」
幸子「あ、あの、芳乃さん? なんで芳乃さんまでボクの側に」
芳乃「分かりませぬー。分かりませぬが……ここに、いたいのでして♡」
幸子「なんですか! なんですか!? めっちゃ怖いんですけどっ!?」
芳乃「怖いだなどとそのようなことはー。うふふ……♡」
幸子「ひえっ」
蘭子「ちょっと、幸子ちゃんが怖がってるでしょ。離れてください」
芳乃「はー? そちらこそ、この部屋に入った時点で、幸子さんはドン引きだったのでしてー」
蘭子「ドン引きなのはその態度ですー。急に手のひら返すみたいに幸子ちゃんに擦り寄ってきてなんなんですかー」
芳乃「なんでもないのですー。ただ幸子さんのお側は、とても心安らぐのでー」
蘭子「気持ちは分かりますけど気持ち悪い」
芳乃「そちらこそいつまで手を握っているのですかー。幸子さんが迷惑していますー」
蘭子「迷惑してるのはそっちですー。捜し物は得意でも人の心はわかんないんですかー?」
芳乃「はー?」
蘭子「あー?」
幸子「………………」
幸子(……なにこれ……)
みく「こら。二人ともその辺にしとくにゃ」
蘭子「ひゃっ」
芳乃「むー」
みく「ひゃっ、でもむー、でもないよ。どっちにも幸子チャン迷惑してるにゃ。ねえ?」
幸子「まあ、その……はい」
蘭子「う……ごめんなさい」
芳乃「ごめんなさいー……」
幸子「いいんですいいんです。そんなことより、なんで二人がそんなに引っ付いてきたのかが……」
志希「あ、やっぱり幸子ちゃんだ。やっほー」
幸子「あ、志希さん……。おはようございます」
志希「くんくん。うーん、嫉妬と色欲と困惑の匂い。志希ちゃん軽く困惑」
幸子「何言ってるんですか」
志希「幸子ちゃんさー。なんかした? 頭くらくらするくらいいい匂いするんだけど」
幸子「へ? ちょ、ちか」
志希「くんかくんか。うん。昨日までとは段違い。志希ちゃんとセックスしよか」
みく「……」
蘭子「深淵の闇へ誘うぞこら」
芳乃「その口消しますよー」
幸子「こっわ」
志希「ウソウソ。……ってハッキリ言えるほどウソでもないけど。パーセンテージで表すならきっかり50%くらい本気」
みく「何が言いたいの」
志希「みくちゃんも隠すの大変だねー。くすくす」
みく「…………」
志希「何が言いたいかって言うと、今の幸子ちゃんを見るとドーパミン物質が異常な程溢れちゃうみたい。かの人類学者、ヘレン・フィッシャーは恋心を麻薬と解析して、この物質が溢れ出る結果、愛という感情に成り代わっていくものだと――」
みく「つ、ま、り?」
志希「――まあつまり、今の幸子ちゃんを見ると、恋しちゃうってこと」
芳乃「ほー」
蘭子「へー」
みく「ふーん」
幸子「な、な、なんですかそれっ! なんでみなさんもちょっと納得した風なんですか!!」
芳乃「そう言われるとちょっと納得なのでしてー」
蘭子「右に同じ。我も納得した」
志希「志希ちゃんそんな効き目の早い惚れ薬制作にまだ成功してないんだけど、幸子ちゃんなんかしたの?」
幸子「え、何かって言われても」
みく「心当たりとか」
幸子「うーん。……あの、そんなに引っ付かれると考えにくいんですけど……」
芳乃「理由が分かったのなら単純でしてー♡」
蘭子「遠慮なく抱き着けるよね、幸子ちゃんすきすきー♡」
幸子「あつい……」
みく「こいつら」
志希「で、みくちゃんはなんで我慢してるの」
みく「みくは……その……」
志希「ははーん。発情期と被った? 年頃の女の子は大変だね〜」
みく「志希チャンだって大差ないくせに……」
志希「志希ちゃんは毎日性欲と恋心との戦い」
みく「また適当言って」
幸子「……あ。もしかして……」
みく「なにか思い当たる節が」
幸子「えっと、その。昨日文香さんと茄子さんが……」
*
みく「何その胡散臭い話」
志希「でも茄子さんが主犯なら一眼に有り得ないとも言えないトコロ」
幸子「でしょう」
芳乃「なるほどー。そういった理由で、先日文香さんに集めていた石を拝借されたのですねー。すりすり」
蘭子「幸子ちゃんすきー♡」
幸子「二人はいい加減ちょっと離れてください……」
芳乃「それは無理でしてー」
蘭子「幸子ちゃんすきー♡」
幸子「……みくさんも志希さんもそんなに影響なさそうですよね……?」
志希「いや? 結構我慢してるよ」
みく「みくも。誰もいなかったら間違いなく押し倒してる」
幸子「そ、そうですか……」
志希「でも実際個人差はありそう。ねーねーお二人さん。それあたしに剥がされたらどうする?」
蘭子・芳乃「「殺す」」
幸子「殺す……」
志希「ね。志希ちゃんはそれほどじゃないもん。みくちゃんもかな。何となく性欲に回されてる感じ」
みく「そうだね。幸子ちゃん見てると濡れる」
志希「濡れる」
幸子「ひ……っ」
みく「本気で怖がる顔やめるにゃ」
志希「正直幸子ちゃんと今こうやって話してるのも危ないんだけどねー」
幸子「危ない……」
みく・志希「「犯しかねない」」
幸子「きょ、今日はボク帰ります!!」
蘭子「やーーーっ!!」
芳乃「帰しませぬよーー」
幸子「う、ううううう……っ!!」
志希「ま、とりあえずはその二人がいればあたしたちも手出すのは無理そうだし。今日はとりあえずココでゆっくりしてれば?」
幸子「でもボク、お仕事あるんですけど」
志希「それは志希ちゃんが何とかしとくから」
みく「……。なんか異様に親身じゃない?」
志希「幸子ちゃんには意地悪したくなって」
みく「親身って意味知ってる?」
志希「この場合は親身が意地悪になるの♡」
みく「あー」
幸子「…………。つまり、今日ボクはここでこうやってろと?」
志希「そゆこと」
みく「まあ幸子ちゃんが帰ろうとしたり動こうとしたところでどうしようもないと思うけど」
芳乃「幸子さんー♡」
蘭子「幸子ちゃんすきー♡」
幸子「……」
みく「だから今日一日、ラブコメ主人公やっててね」
志希「一日で済む保証は何処にもないけど」
幸子「怖い事言わないでください!」
志希「まーまー。さっきの話がほんとなら、文香ちゃんがいなかったっていうのも何か意味があるのかもしれないし。何なら電話してみたら?」
幸子「電話……。あの、文香さんに電話してもいいですか……?」
芳乃「理由は何となく分かりましたがー、生憎と、今わたくしは幸せなのですー」
蘭子「私も幸せ。この気持ちがある限り幸子ちゃんから離れたくない」
幸子「つ、つまり……?」
芳乃・蘭子「「駄目」」
幸子「らしいです」
志希「にゃはは。たまには仕事のない日に来てみるもんだね、こんな面白いコトに出会えるなんて」
幸子「〜〜〜〜〜っ」
志希「あー面白い。あたし今日ずっと幸子ちゃんの近くにいるね」
蘭子「あ?」
芳乃「はー?」
志希「勿論ちょい離れて。あんまり近いと匂いにあてられて理性トんじゃいそうだし」
志希(二人が怖いし)
みく「あーはいはい。じゃあみくはお仕事の時間だから」
幸子「行ってらっしゃい……」
志希「また一緒にお仕事しよーねー」
みく「二度とごめんにゃ」
志希「にゃはは」
芳乃「好きにするがいいのでしてー」
蘭子「そうですね。ところで芳乃さんも離れていいんですよ」
芳乃「はー?」
蘭子「幸子ちゃんは私のなので」
芳乃「わたくしのです」
蘭子「私の」
芳乃「わたくしの」
蘭子・芳乃「「………………」」
幸子「両脇で険悪な雰囲気出さないで! ボクは誰のものでもないんです!!」
蘭子・芳乃「???」
幸子「何言ってんだこいつみたいな顔もやめてください!!」
幸子「あーーもーーーー!!!」
つづく。