ちょっと平和なFate/stay night   作:ライム酒

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ちょっと忙しない聖なる前日

期末試験も終わって冬休みに入り、いつの間にか『もういくつ寝ると』と歌えられるほどの日数となった。

その約一週間前にあたる今日と明日は聖なる日となっており、それを祝うかのように街も賑わいを見せている。

 

そんないわゆるイブに当たる今日24日に俺は、特にイリヤや桜と一緒に何かしているわけでもなく、臨時のバイトに勤しんでいた。

 

「いやー、悪いねエミヤん。他のバイター君がドタキャンに次ぐドタキャンでさー。急なヘルプを頼んじゃって」

「いえ。俺もこの店には大変お世話になったので、困ったことがあったなら必ずとは言えませんが手伝いますよ。でも今回はちょっとタイミングが悪かったんですけどね……」

 

注文を運び終わり戻って来たネコさんが、トーストを焼く傍らでサラダを盛り付ける俺に対して謝罪する。

時期柄か、この時間帯では珍しい混雑ぶりを見せるコペンハーゲンの昼の顔である喫茶店風のここキッチンで、ひっきりなしのモーニング注文をこなしていた。

 

 

こんなことになってしまったのは昨晩のこと。

 

その日、桜は何か準備があるからと家に来なかったので、夕食をイリヤと藤ねえの3人で取っていた時。

俺はいち早く夕食を食べ終わり、藤ねえのご飯のおかわりを注いでいたところで無機質なベルがなる。

かかってきた電話に小走りで向かい、受話器をとると先のネコさんの語った理由によってヘルプを頼まれたのだった。

 

俺はこの時に明日が24日だと言うことをすっかり頭から抜け落ちており、そのままの流れで了承してしまった。

 

そしてバイトが入ったとイリヤに伝えるとイリヤはほほを膨らませ、「ふんっ!シロウなんてもう知らない。明日はサクラと遊ぶんだから」と後から思えば当たり前の理由で拗ねてしまった。

しかしその時の俺にはなぜイリヤが拗ねたのか見当がつかず、藤ねえに顔を向けると藤ねえも大げさにため息をつき飽きられてしまった。

 

そして藤ねえが補足するに、どうやら桜と遊ぶというのはクリスマスにイリヤと桜が前もってお泊まりを企画していたらしく、そして藤ねえも参加してのパーティーをすることになっていたのである。

 

俺は藤ねえの言葉でようやく明日がクリスマスだったと思いだしたが、今さらバイトを断ることもできなかった。

そして未だ頬を膨らませてそっぽを向くイリヤと、わざとらしく両手を肩まで上げて首を横に降る藤ねえに謝ったのであった。

 

 

そのため帰ったらイリヤの機嫌を取るために、新都に出掛けてイリヤの好きなぬいぐるみでもプレゼントしようと密かに算段をたてている。

 

 

――チンッ

橙色(とうしょく)に照らされていたオーブンの中が、その高い音とともに暗くなる。

 

「モーニングAセットあがりです」

「りょーかい!前に出しといてー」

 

出来上がったセットを配膳台に置き、次の注文レシートを見ながらさばく。

 

「エミヤーん!追加の注文で――」

 

今日はなかなか休めそうになかった。

 

 

 

時刻は日も傾き始めての4時近く。

昼時の賑わいが通りすぎて、店には一人か二人がゆっくりとコーヒーを煽りながら本やら新聞やらを読んでいた。

 

「うーん!おつかれ、おつかれー。店長に特別手当をお願いしとくよ」

「いえ、……。そうですね、ありがたくもらいます」

「おっ!?なになに?なにか欲しいものでもあるの?」

 

いつものごとくボーナス的なものを断ろうと思ったが、この後のことを考えてそのまま頂くことにした。

その態度が珍しかったのか、ネコさんは目をキラリと光らせてから、身を乗り出して聞いてくる。

 

「今姉さんが遊びに来てるんですよ。それでクリスマスプレゼントをと思いまして」

「あー、イリヤちゃん、だっけ?そっかー今年も来てたんだ」

 

ネコさんは少し上を向き、顎先に手を当ててからぽんっと閃いたかのようにイリヤの名前を出して頷く。

 

「へー、プレゼントかー。もう何を買うか決めてるの?」

「そうですね。まあぼちぼちと当たりはつけてますけど」

「なになに?」

「まあ、姉さんが気に入りそうなものを見繕いますよ」

「何、内緒?ふーん、まあいいけど。それでいくらぐらいなの?ホントは今日もイリヤちゃんと過ごす予定だったんでしょ?悪いことしたねー」

「よく考えなかった俺が悪いんですからあんまし気にしなくて大丈夫ですよ。お金もあまり気にしないでください」

 

そう答えるとネコさんは「うーん、りょーかい。もう上がって大丈夫だよ、今日はありがとね」とあまり納得していない顔で店に戻っていった。

 

 

更衣室で私服に着替えてからネコさんが来るまで財布の中身を確認していると、にししと笑い顔で封筒をピラピラと揺らして歩いてくるネコさんが視界に映る。

 

「はいこれ、今日の特別手当ね。中身は外に出てから確認しといて」

 

有無を言わせず広げていた財布にねじ込まれた封筒に俺は目をうろつかせていると、「はい、出た出た。イリヤちゃんにいいものを買ってあげなよー」と背中を押されて店先まで追い出される。

 

「ちょ、ちょっと――」

「――あー、そういえば柳洞寺で幽霊騒ぎが出てるって聞いてる?」

 

封筒のお金について触れられたくないのか、背中を押されながら話題を強制的に変えられた。

 

「え?幽霊騒ぎですか?てっ、そんな押さないでください!」

「そそ。なんでもお供え物がなくなってたり、お酒がなくなってたりって。どうもお金は取られてないみたいなんだけど」

「へー。……あっ、そういえばこの前の配達の時にそれっぽいのに会いました。袈裟?っていうのか何か羽織を纏った長身の男が1瓶抜き取ってすぐに消えたんですよ」

 

そういえばそのことをイリヤに尋ねてみようとしていたんだった。

すっかり忘れていたが帰ったら聞くことにしようと考えていたら、いつの間にか店先の勝手口まで追い出されていた。

 

「それじゃ、イリヤちゃんに謝罪の気持ちも伝えとい、って!」

 

と最後のひと押しのようにネコさんにトンッと押し出される。

小さくない衝撃に、前のめりになる体を立て直しながらネコさんへと振り返ると、手をひらひらと振りながらドアを閉められた。

 

 

 

コペンハーゲンも新都にあるが、その新都のさらに中心街にあるファンシーショップに着いた。

そこはぬいぐるみ専門店となかなか尖った専門性が売りで、内装は野生の王国、バービー帝国、軍事産業ファンシーIVの三つの分野に分かれている。

 

爺さんとまだ過ごしていた頃には、遊びに来たイリヤと俺とをよくここに連れて来ては何かを買ってもらえた。

当時の俺は思春期の中学生ぐらいで、ぬいぐるみをプレゼントされるのにどこか気恥ずかしさがあった。

しかしイリヤはここに来ると駆け出すように俺の手を引いてぬいぐるみを見て回るので、行くのが嫌とは言えなかったのだ。

 

さて、イリヤに何をプレゼントするか。

ライオンかサメか、パンダかイルカか。

それとも定番のクマか。

 

野生の王国で目につくぬいぐるみを手にとり、肌触りを確かめながら思案する。

動物系は毛がモフモフで、海の生き物は滑らかな肌触りだ。

どちらも気持ちいいが……。

 

「シロウ……?」

 

男子高校生がぬいぐるみを真剣な顔で持ち、肌触りを確かめている状態で後ろから知り合いから声をかけられる。

ここで隣にイリヤか桜でもいたら状況が変わっていたかもしれないが、今は残念ながら俺一人だ。

 

覚悟を決めていざと後ろに振り向くと、そこには全身真っ白という印象を受ける二人の修道女がいた。

 

「え……えっとだな。リズ、これは――」

「大方、お嬢様とぬいぐるみを買いに来ていただけなのでしょう。行動は不審者極まりないですが」

 

目を泳がして呼びかけてきたリズになんとか答えようとどもっていると、セラさんから救いの手が差し伸べられた。

後半は聞かなかったことにする。

 

「そうなんだ。……じゃあイリヤは?」

 

セラさんの言葉に頷いたリズはあたりを見渡す。

 

「いや、俺一人だよ。今日は――

 

 

大事なクリスマスの日をほっぽり出したことを話したら怒られるだろうなと感じながら、正直に説明することにした。

 

 

――という訳なんだ。だから今はご機嫌取りも兼ねてぬいぐるみをプレゼントしようかと」

 

話を終え、すぐさまセラさんからの説教が来ると思っていたが、二人の様子をうかがうと明らかに落胆していた。

 

「……衛宮様、あのですね。今回のお嬢様のお泊りは――」

「セラ」

 

思ってもいなかった彼女たちの反応と、何かを言いかけたセラさんとそれを止めたリズに俺は違和感を覚える。

 

「そうですね、リズ。すみません、言い過ぎるところでした」

「うん。……それでね、シロウ。今回はできるだけイリヤと一緒にいてほしいの。シロウの予定があるなら仕方がないけど、それ以外はイリヤと一緒にいて。お願い」

「あ、ああ。わかったよ。俺もイリヤとは冬しか会えないんだからな。そのつもりだ」

「……ありがと。イリヤをよろしくね」

 

言っては悪いが感情があまり顔に出ないリズが、珍しく複雑そうな表情で謝辞を言う。

その隣でセラさんも小さくため息をついた。

 

「それでは私たちはこれで失礼しますね。……それとお嬢様は最近シロクマがお好きですよ」

「よくシローって呼んで可愛がってる。じゃあね、シロウ」

 

そして彼女たちはそれ以上何も続けず、裾をつまんで優雅にお辞儀をしてから離れていった。

 

 

二人と別れたあと、シロクマのぬいぐるみを手に持ってからふと考える。

 

もしかしてアインツベルンの方で何かあったのだろうか。

思えば今回の泊まりははじめから不自然なところがあった。

いつもならイリヤが遊びに来た日は家の前に黒塗りの長い車が無理やり止まり、いの一番にイリヤが飛び出してきていた。

それが今回では、イリヤは商店街を一人で歩いており、そのまま連れ帰ってしまった。

その後にセラさんとリズが家に挨拶に来たが、イリヤと会う前に帰っていったのだ。

 

もしかして、……。

 

喧嘩だろうか。

 

 

時間も気になってきたところなので、イリヤにはそこそこ大きなシロクマをプレゼントにし、桜の分も選び始める。

桜ははたして何のぬいぐるみをプレゼントにしたら喜ぶだろか。

 

ネコさんからは封筒を確認するとなんと2万円もの大金が入っており、これで本格的なぬいぐるみを2つほど買うことができる。

 

藤ねえには適当にトラを買うとして、そうだな、桜には可愛らしいテディベアにしよう。

イリヤも桜と仲がいいみたいだし、同じクマなら仲良く喜ぶだろう。

 

そう思い、俺はレジへと向かっていった。

 

 

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