ちょっと平和なFate/stay night   作:ライム酒

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ちょっと人の集まる聖なる前夜

まいった。

重い、辛い、しんどい。

 

後悔先に立たず、というよりは考えなしだったのが悪かったのだが。

大きめのぬいぐるみ2つに小さいぬいぐるみ1つを、それぞれに梱包された箱を積んで抱えて帰路につく。

積み重ねるとそれは1m近くになり、さらにプレゼント用に装飾されているので箱が綺麗な直方体になっておらず、歩くたびにグラグラと揺れてしまう。

 

前が積まれた箱によってほぼ遮られているのでふと空を見上げる。

空には黄昏色から藍色になる綺麗なグラデーションがかかり、思わず写真に納めたくなる光景だった。

日は新都のビルに隠れてもう見えないが、水平線に落ちている頃だろう。

徒歩で家に着くのにどれほどかかるか。

 

――おっとと。

 

少しのつまづきで危うく積まれた箱が崩れるところだった。

 

「はぁ……」

 

カートさえあれば楽なのだがと、視線を上から横に向けて車道に走る自動車を眺める。

後ろから過ぎ去っていく車には後部座席で上機嫌な子どもが映った。

それもまた、……またと、楽しそうな小さな子を見ると改めて今日がなんの日なのかを知らされる。

 

藤ねえが昨日の夕食後にこっそりと教えてくれたことだが、イリヤは今日の昼、本当は皆で七面鳥やケーキを作ろうと計画していたらしい。

桜のことなのでおそらく慎二はしばらくの間、七面鳥とケーキ漬けだったのだろう。

 

思わずここにいない友人に対して合掌してしまいそうなところで、後から来た白く綺麗な車がスピードを緩めて近くに止まった。

トラブルだろうかと気にせず横を通りすぎようとしたとき、後部座席の窓が下りる。

 

「よお、衛宮。随分な荷物を持ってんじゃんか」

「なんだ慎二じゃないか。どうしたんだこんなところで」

 

噂をすればなんとやらというのだろうか。

声をかけてきたのはまさかの慎二だった。

 

「ふん、なんだとはご愛想だな。せっかくこの僕が寛大な心をもって、バカみたいに荷物を抱えるお前を、とても快適な車に乗せてやろうと思っていたのに」

「えっ、いいのか?」

「……まあ優等生な僕は、通りがけに見かけたヘトヘトの友人を素通りなんてしないからな。僕の帰り道と出会ったことに感謝して乗るんだな」

「いやー、助かるよ。ありがとな、慎二」

 

心からの感謝を述べたというのに慎二は何が気に食わなかったのか、フンッと鼻を鳴らす。

 

「荷物はトランクに入れとけ。席が狭くなるからな」

 

そう慎二は忠告してから窓を上げた。

 

 

「ほんと助かったよ。ありがとな」

 

乗って実感する車の偉大さに、隣りに座る友人へ感謝する。

ああ、と素っ気なく慎二は返答するが、態度がそわそわとしているのでどうやら何かを聞いて欲しいようだ。

乗車と感謝ついでにそれに乗ってやるかと少し車内を見渡し聞いてほしそうなことを考える。

 

「そういえば運転手の彼は使用人なのか?」

「ああ、そうだ!いいか衛宮、僕はね、思いついたのさ。あの大きな家で一人で静かに過ごすことには全然これっぽっちも構わなかったんだけどな。桜のあの残念な食卓を今後も続くと想像すると大事なこの僕の身が持たなくなる。だからこの間桐家の長男であり当主でもある僕は、盛大に5人もの使用人を雇ったというわけさ!」

「なるほど、いやなるほどとは言っちゃいけないか。それにしても一気に五人雇うなんて思い切った真似をするな」

「コック一人に掃除人が二人、運転手がこいつであと一人は元コックの家事手伝いさ」

「まあ、間桐家って明かりがあまりついてないから少し寂しい雰囲気だしな。人が多く住むってのはいいんじゃないか?」

「余計なお世話だよ」

「すまん。それでこの車はどうしたんだ?」

「車庫でほこりかぶっていたから洗車させた。どうだ?少し年代モノだが衛宮じゃ一生乗ることはできないクラスだぞ」

 

そうだなと、その後も上機嫌で続く慎二の話に適当に相槌を打ちながら外の景色を見る。

それは丁度、真っ赤に燃えるように夕日に照らされた冬木大橋だった。

新都からもう出たのか。

 

本当に車は速い。

当たり前のことに改めて実感する。

 

「それで慎二はどうして新都にいたんだ?」

 

話も途切れたことなので新たな話題をふる。

 

「……デートの帰りさ」

「夕方までの?」

「そうだよ。なんだ文句でもあるのか?」

 

慎二は顔をそらして言いにくそうに続ける。

彼女は一人で帰ったのか、とでも聞いてみたかったが今回は深く突っ込まないことにした。

 

「それで話は変わるが、慎二は今日の夜何か予定が入っているのか?」

「…………」

「ん?」

「……ないよ。何も予定なんて入っていないよ!」

 

慎二はヤケになったかのように詰め寄ってきて叫びかかる。

 

「なんだよ、そんないきなり怒鳴るな」

「話が変わってないだろう!」

「そうか?でもそれなら俺の家にこのまま遊びにこないか?」

「うっ……」

「どうしたんだ?」

「…………」

「もしかしてなんだが。桜に一度俺の家にクリスマスに来ないかと誘われたけど、デートがあるからと断った手前、桜と会うのが恥ずかしいとかか?」

「何だよ、その説明口調は!ああそうだよ!そのとおりさ!!」

 

やけに今日の慎二は不安定に荒れている。

おそらく偏った食生活が影響しているのだろう。

 

「そんな意地はるなって。桜もそんなこと気にしないぞ」

「……いや、それもあるんだがな。今日はせっかく家に桜がいないんだ。あいつ、せっかく使用人を雇ったっていうのに昼と夜は続けるんだよ」

「……確か冷凍庫にサンマが残っていたはずだ」

「……ならご飯と味噌汁もつけろよ」

「……わかった。こっそり用意しとく」

 

という訳で大変苦労人な友人を急遽労ることが決定した。

昼夜に七面鳥とケーキ漬けの日々なら塩っけの和食が食いたくなるよな。

 

本当にお前はいい兄をしているよ。

それを朝早くから用意する妹にも感服する。

 

 

「でっか」

 

日も落ちてしまったが、予定よりも早く家に着いたところで、塀の前に黒塗りの長い車が止まっていた。

その光景に慎二は口をあんぐりと開け、率直な感想を思わず漏らす。

 

「あの車はでかくて門を通らないんだよ。運転手さん、ちょっと門を開いてくるので待っていてください」

 

運転手さんに頭を下げて礼をいいながら車から降りる。

どうやらこの路駐している黒塗りの車を見るに、セラさんとリズも来ているようだ。

 

ふむ、だから彼女たちもぬいぐるみを買いに来ていたのかと、一人納得しながら玄関門を大きく開けて戻る。

 

「それじゃあ誘導するので庭に止めてください」

 

そう外から運転席に向かって話しかけて手を振る。

 

どうやら無事慎二の車は門を通れたようだ。

路駐が増えなくてよかったとホッとする。

その際慎二は通り抜く長い車を呆然と眺めていた。

 

 

「先輩、おじゃましています」

 

車の音に気がついたのか、桜は玄関から迎えに来てくれる。

渡り廊下を見れば藤ねえも手を振っていた。

イリヤの姿が見えないところを鑑みるに、未だご機嫌斜めのようだ。

 

「車を見たらわかるかもしれないけど、今日のパーティに途中で会った慎二も誘ったんだ。よかったか?」

「はい。でも兄さん、今日は予定があるって……?」

 

不思議そうな顔をしながら桜は車の方にも小走りで向かって行く。

 

 

「ふん、来るつもりなんてなかったけどさ。衛宮がどうしてもって言うから来てやっただけだよ」

 

トランクからプレゼントを取り出していると、近くで慎二と桜の会話が聞けえてくる。

 

「……ありがとうございます。その、イリヤさんと一緒に七面鳥を焼いたので、ぜひ召し上がってください。食後にケーキも用意しているんです。きっと今までで一番美味しく出来上がったと思います」

「……あ、ああ。わかったよ」

 

あ、口元が引きつってる。

俺は何も見なかったことにして、家に入った。

 

 

「あっ、シロウ。さっきぶり」

 

自室に向かう廊下でリズとすれ違う。

彼女の手には人生ゲームの箱が抱えられていた。

 

「それ、出してきたのか?」

「そう。みんなでやろうと思って。シロウもやるよね?」

「そうだな。このプレゼントを自分の部屋においてきたら参加させてもらうよ」

 

その場の会話が終われば、彼女は気持ち弾んで居間に向かっていった。

 

 

プレゼントを置き、居間に入るとそこはかなりの大所帯となっていた。

 

「あなたが桜の兄の慎二ね。話しに聞いたとおりみたいね」

「そういうお前は桜が言っていたイリヤってやつか?何だ、思っていたよりも小さなやつだな」

「この間桐のドラ当主が、お嬢様になんて口の聞き方をっ!」

「サクラはピンク、タイガは黄色ね。私は、……黒でいいや」

「リズさんは何となく白のイメージですけど黒でいいんですか?」

「白はイリヤちゃんなんじゃない?あとはそうねー、セラさんは水色の車で慎二くんは青。士郎は赤ね」

 

四辺合わせて8人がけのテーブルで入口近くに慎二が座り、近くに桜とその隣に藤ねえが、そして向かいにセラさんとリズ、そしてイリヤが座っていた。

会話はなかなかのカオスを極めていた。

 

俺は開いている藤ねえの隣でイリヤの対面に腰を下ろす。

 

「あっ!士郎、遅かったじゃない!友人の慎二くんを誘ったのはいいことだけど、もう少し早く帰ってくることはできなかったの?」

「本当に申し訳ない。イリヤも、それに桜も今回は本当にゴメンな。明日ちゃんと埋め合わせをするから。何でも言ってくれ」

「…………」

「えっ、……な、何でもですか。その、ええ、と……」

 

藤ねえからの苦言に謝罪し、今回のお泊りを楽しみにしていたイリヤと桜にも頭を下げて謝る。

桜は顔を赤らめて俯くが、イリヤはそっぽを向いたままだ。

 

「イ、イリヤ。そのだな……」

「イリヤ、拗ねてても良いことなんてないよ。今を楽しまなきゃ」

 

言いあぐねていると、イリヤの隣りに座るリズが小さく囁く。

 

「そうね。……シロウ、何でもって一体どんなことをしてくれるのかしら?」

「イっ、イリヤさんっ!?それはど、うぐむむ……」

 

イリヤの言葉に桜が追求しようとしたところに、藤ねえが桜を抑える。

その隣りに座る慎二は呆れ顔でこの様子を眺めていた。

 

「どんなことって言われると難しいけどな。俺にできることならやろうと思う」

「どんなことでも?」

「ああ、そうだな。それで機嫌が治ってくれるなら安いものだろう」

「そう、じゃあ何してもらうか考えておくね。お兄ちゃん」

「うんうん!それじゃあ仲直りも済んだことだしっ!今日のイベント第一!!『一番乗りは今夜の主役』!人生ゲームを開催しまーす!!」

「「いえーい!」」

 

今回限りは常時フルスロットルの藤ねえのテンションに乗り、少し重くなった場を切り替える。

それは皆も同じ考えだったようで、イリヤとリズ、そして桜も少し恥ずかしがりながら参加してくれた。

 

 

いろいろあったが結果として過去最大人数のパーティになったことなので、今夜は思いっきり盛り上がろうと思う。

 

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