主人公組と雑談で怪談しているとでも思って読んでください。
つーかこいつらが百物語すると、全部ソラがやらかした話になるんだよなぁ……。
これは私とソラが出会って間もない頃の話だ。
* * *
気がつくと、私はそこにいた。
ここは……どこだ? と思いながらあたりを見渡したが、後になって思えばこの時の私はまだちゃんと気がついていない。寝ぼけている状態だったな。
本当に意識がはっきりと覚醒していたのなら、周囲の景色がほとんど見えないほど深い霧に包まれた無人駅で、一人突っ立っているという状況にむしろパニックを起こしただろう。
そしてどう考えても怪しい駅にやってきた奇妙な汽車に、「とりあえず、これに乗ってみよう」なんて思わなかった。
それはまともな思考や判断能力があれば、そもそもそれを「汽車」と認識したのかも怪しい代物だったのだ。
車体の塗料はところどころ剥げており、サビが浮いている部分も有るのはまだ良い。
しかし剥げていてもその車体は、汽車らしくない赤や黄色などの明るい色調で彩られていた。これもまだいい。ずいぶん昔の大きなイベントで作られた汽車だと思えば、普通に説明がつく。
問題なのは車両だ。
車両はまるでトロッコのように1両につき2人ほどしか乗れないぐらい小さくて狭く、運転席であろう先頭車両を入れて4両しかなかった。
そして一応屋根はあるのだが実はこの汽車、扉が無かったのだ。
扉の替わりに、車両の上半分が箱のように開く構造になっていたんだ。進行方向の右手側に蝶番があって、私が乗り込む左手側がこうパカッと開いて、柵や塀のような状態になっている下半分を跨いで乗り込むという、奇妙どころではない構造だったよ。
屋根というか蓋の部分がなければ、あれだ。遊園地などにある乗り物に近かったかもしれないな。
子供が乗って園内を一周する、そういう微笑ましいものに見えなくもなかったが、駅そのものは周りが霧で見えないことを除けば、無人駅ではあるが普通と言えるだけあって、むしろ車体のカラフルさやこじんまりとした車両が非常に不気味だった。
だが、当時の世間知らずな私でも、あんな汽車はありえないことくらいわかるはずだったのに、やはり私の頭は周囲の景色と同じく、霞がかかっているようにぼんやりとしていて、その汽車の構造も、自分が近づくと自動で開いたことに対しても、疑問に思わなかったのだ。
ただぼんやりと、こんなところで一人でいるよりマシだろうと思って、その汽車の2両目に私は乗り込んでしまった。
乗り込む際、駅で放送が流れたのだが、それを確かに聞いていたのに私にはそれが、意味のある言葉ではなくただの音の羅列にしか聞こえなかった。
その放送が何を言っていたかを理解したのは、汽車に乗ってからだいぶ経った後だったよ。
あの駅の放送は、子供の声でこう言っていたんだ。
「その汽車に乗りますと、大変恐ろしい目に遭います」、とな。
それは忠告か、それとも後で思い出させて恐怖を煽る為のものだったのかは、私にはわからない。
* * *
今になって思うと、私がやけに危機感なく寝ぼけたような状態だったのは、あの汽車に私を乗り込ませる為だったのだろうな。
おそらく、正当派操作系のように強制的に人の行動を操れる程ではないが、人の思考力・判断力を低下させる効果があの駅、もしくは霧にあったのだと思う。
汽車に乗りこみ、しばらく走って駅から離れ、屋根である上部も閉めて霧を遮断してから、私の思考力はまともに戻ったからな。
確実に乗り込ませることは出来なくても、危機感を失わせてさえいれば、反射的に乗り込む者はそう少なくない……と私は思いたい。
まぁ、もちろんトロッコのような狭い、かつ高速で走っている密室で、まともな思考力を取り戻しても無意味だがな。逃げ場がない事を思い知らされて、いっそ気付かなければ良かったと後悔したくらいだ。
ただ、逃げ場はないが車両と車両を繋ぐ通路もない、移動するなら蓋を開けて車両を飛び越えなくてはいけない代物だったから、自分以外の誰かが汽車の走行中に乗り込むこともないと思った。
そう自分に言い聞かせて、あの異常な状況はそこまで絶望的ではないと思い込もうとしていたが……、そのような常識が通じるのなら、そもそもあんな汽車は存在する訳がない。
自分に言い聞かせていることが、希望的観測である事に気付きながらも私は、この汽車から逃げるチャンスはある。次の駅に止まったら絶対に降りようと思いながら、止まった瞬間に逃げ出せるように蓋になっている屋根に手を掛けていたら、どこからともなく車内放送が聞こえてきた。
汽車というより、地下鉄の放送を思わせるものだったな。「次の停車駅は~」というやつだ。
私もそうだと思って腰を浮かせ、いつでも汽車から下りれるようにしていたのだが……、私はとにかく逃げたいの一心で、放送の内容をちゃんと頭で理解していなかった。
駅で忠告なんだか恐怖を煽っているのだかよくわからない放送と同じ子供の声で、「次は~、モギトリ~。モギトリ~」、と言っていた。
私は聞いたことがないどころか聞き慣れない、変な駅名だなとは思っても、その言葉の「意味」を理解しようとは思わなかった。私にとってそれは「駅名」でしかなかったのだ。
よくよく考えれば、その放送は「停車駅」とは言ってなかったな。その時点で気づくべきだったのかもしれない。
私がその放送の意味を理解したのは、後ろの方で凄まじい悲鳴が聞こえてからだ。
まさしく断末魔としか言いようのない苦痛の絶叫が聞こえ、とっさに走行中だというのに屋根を開けて後ろの車両、悲鳴が聞こえた方を見てしまった。
……そこで、私はあの放送の意味を理解した。
私の車両から二つ後ろの最後尾の車両が、同じように屋根が開いていたんだ。そこには一人の乗客が乗っていた。確か当時の私とさほど変わらない歳の子供だった気がするだが……、その乗客に虫が群がっていた。
人間ほどのサイズの虫、カナブンやカマキリが狭い車両一杯に詰まって、人間の手足を、胴体から内臓を、頭を、頭から目玉や耳を無理やり捥ぎ取っていた。
あの放送は停車駅の名前ではない。汽車に乗り込んでしまった乗客の殺し方であることを、あの凄惨な光景で私は理解したよ。
* * *
もちろん私は即座に屋根を閉めて、今度はそれが開かないように手で押さえつけたな。
さすがにあれを見て、虫に全身をもぎ取られている乗客を助けようと行動することは出来なかった。私が見た時点で首をもぎ取られていたから、普通に手遅れだというのもあったが、……正直言って私には人間大の人間を惨殺する虫より、惨殺されている側が恐ろしかったのだよ。
首を捥がれても、手足を捥がれて、内臓が露出していても、その乗客は動いていたんだ。
死後も筋肉はすぐには死なない、電気を流せば反射で痙攣すると言うが、流す電気があるなし関係なく、そういう範疇ではなかったな。
首を捥がれていながらも、目玉を抉られたら絶叫を上げていた。捥がれた手足は釣り上げられた魚のように、苦痛を訴えるように跳ねていたし、内臓が露出している体も虫から逃れようと蠢いていた。
どう見ても、虫より殺されている側の方がまともな生き物には見えなかったから、恐怖が見捨てる罪悪感を上回ってしまった。
だから私は、ガタガタ震えながら出入り口である屋根を押さえつけ、誰も入ってこれないようにしていたが、まともに戻ってきた思考力故に、それが無駄であることを頭の冷静な部分が理解していてから、何の気休めにもなってなかったな。
おそらく子供の私が押さえつけても、焼け石に水だ。あの虫たちは簡単にこの屋根をこじ開けて侵入してくる。いや、屋根を開ける必要すらない、この密室内のどこからか湧き出てくるのではないかとも思った。
それぐらい私の常識など、何の役にも立たない現状であることは理解出来ていたが、あれが何だったかを多少は推測できるようになった今現在でも、あの状況を打破する手段は何も浮かばないのだから、恐怖で頭の中が一杯だった当時の私に出来ることなど何もない。
ただひたすらに「どうしよう」と思いながら、屋根を押さえつけ続けただけだな。
そうやって悪あがきを続けていたら、いつの間にか最後尾からの悲鳴が聞こえなくなっていた。
そしてまた、放送が流れてきたのだ。
「次は~、磨り潰し~。磨り潰し~」という放送がな。
そしてしたくない予想通り、私の後ろの車両からまたしても悲鳴が聞こえてきた。
ゴリゴリと放送通り何かを磨る音と、グチャグチャと水気のあるものが潰れて掻き混ぜられるような音と共にな。
当たり前だが、それをまたわざわざ確認する気にはなれなかった。そんな度胸も悪趣味な余裕も私にはない。
犠牲者には今でも申し訳ないと思うが、私には後ろの二人を助けようという気持ちどころか、可哀想、何もしてやれなくて申し訳ないという気持ちすら懐く余裕はなかった。
次は自分の番である事を思い知らされて、ひたすら「嫌だ!!」と思いながらも、私がしていたことは結局同じ。
ひたすらあの虫たちが入ってこない事を願って祈って、屋根を押さえ続けただけだ。
だがもちろん、私の足掻きは無駄だと嘲笑うように、すぐ後ろの悲鳴が聞こえなくなってからしばらくたって、また放送が流れたよ。
私の車両の殺し方は、「共食い」だった。
そして私の想像通り、屋根を押さえつけていても無駄だった。
私の一番当たって欲しくなかった予想通り、車両の中から虫が湧き出てきたのだ。
初めは本来の虫のサイズなのだが、どんどん私と変わらぬほど大きくなって、思わず私は少しでも逃げ場を確保しようと、押さえつけていた屋根を跳ね上げたが、焼け石に水もいい所だったな。
辺りは相変わらず何も見えない。というか、霧に包まれているのではなく、本当に何もない真っ白な空間になっており、汽車も走っているのか止まっているのかもわからなかった。
ただ理屈ではなく本能的にここは現実ではない、ここから飛び降りたら、それこそ私はもう現実に戻れなくなると思った。
だから飛び降りる事も出来ず、前の車両に逃げ出そうと身を乗り出して腕を伸ばし、屋根を同じように開けようと試みるが、運転席である先頭車両は私たちの車両と違って、開く構造にはなってなかったのだ。
……その先頭車両の窓から人影が見えていた気がするのだが……、確証はない。忘れてくれ。
そんな事よりも、私が何とかその車両から逃げ出そうと足掻いているうちに、湧き出てきた虫で車両はいっぱいになって、虫たちは近くにいるものを手当たり次第に捕えてしがみつき、喰らい合い始めたのだ。
最初に最後尾の車両を見た時は、カマキリとカナブンくらいしかわからなかったが、羽根を捥がれた蝶や蛾がいて、それがまず真っ先に食われていたな。あと人間大の蜘蛛がいて、それはもはや今までの事を忘れて普通に絶叫した。今でもあの蜘蛛は夢に見る。
私は逃げ出そうと足掻いて端に寄っていたおかげか、真っ先に虫たちから獲物認定されることは免れたが、一番無防備な羽根を捥がれていた虫が食われたら、すぐに他の虫たちは私に眼を付けてきた。
大きめのリュックサックくらいあるカナブンに背中をしがみつかれた時は、情けないが思わず泣いてしまった。
泣きながら、意地もプライドもかなぐり捨てて叫んだよ。
「助けて」、と。
もちろん、助けを求めたのは彼女だ。
そして彼女は本当に、こういう時の期待を裏切らない。
「いいよ」という、いつも通りの声を確かに聞いた瞬間、私の中から恐怖が消え去ったのは良く覚えている。
* * *
私が叫んだ瞬間、私の乗っていた車両が前後真っ二つに割れた。虫たちも何匹か犠牲になって、真っ二つに切り裂かれた。
車両どころか、空間ごと切り裂かれていたな。
真っ白な空間が切り裂かれて、その空間の中から声が聞こえてきたのだ。
助けを求めた私に、あまりにも軽く朗らかな「いいよ」というソラの返答が。
その返答と同時に空間の中から腕が伸びて来て、私の背中にしがみついていたカナブンをもぎ取ってそのままどこかに投げ捨て、私に手を差し伸べたのだ。
切り裂かれた空間の中は、どうも汽車の中らしかった。私が乗っていたような奇妙なものではなく、一両ごとに向かい合う形で座席が4・5席はあるごく普通の汽車を見て、そう言えば私はソラと一緒に汽車に乗っていたことを思い出し、このソラがいる世界こそが現実だと理解して、躊躇なくその差し出された手を掴み、そちら側の空間に飛び込んだ。
だが、私があの異常な空間から逃れ、現実と思われる空間に戻る間際、あの汽車に乗りこむ時の、そして汽車の中で聞いた放送と同じ声が、確かに聞こえてきたのだ。
悔しげだが私の事もソラがしている事も無駄だと嘲笑うような声で、「逃げるんですか? 次は、逃がしませんよ」と、今回だけではない事を告げられた時は血の気が引いたよ。
が、そんなことを言われなくてもソラは、元々放っておく気などなかったのだろうな。
彼女は飛び込んできた私を抱きしめながら、じわじわと戻って行く切り裂かれた空間の奥を見つめながら、凄絶に笑っていた。
天上の美色の眼で言ったよ。
「次があると思ってんの?」
そう言って、もはや空間のわずかな隙間としか言いようがない、あの異界への入り口に再び腕を突っ込んで突き刺した。
その隙間から見たあの異界は、異界そのものが蜘蛛の巣状にひび割れたような線が走っていて、ソラはその中心を指先で突き刺していたように私は見えた。
……あれが直死の視界だったのかどうかなんて私にはわからない。
その光景を最後に、私は目覚めたからな。
* * *
眼が覚めて真っ先に見えたのは、私を見下すソラの顔だった。
いつも通り腹が立つほど朗らかに、晴れ晴れしく笑って「あ、起きたの? まだ寝ててもいいよ」と言っていたな。天上の美色の青ではなく、明度の低い藍色の、夜空色の瞳で。
寝ててもいいと言われたが、はっきりと覚えている夢が夢だったから当然、私は飛び起きた。
……その時の体勢は関係ない。膝枕などされていない! それは関係ないから横に置け!
とにかく、私は起きてあれはただの夢だったのかそうじゃないのかわからず混乱していた。ソラに訊くにしても、どこからどう説明したらいいのかもわからなかったしな。
だが、幸いと言えるのかどうか微妙だが、私が説明する前にソラがこんな事を訊いてきたのだ。
「クラピカ。君、虫を遊びで甚振り殺したことはある?」、とな。
あいつがいきなり脈絡のないことを言い出すのはもう既に慣れていたし、脈絡がないようでそれをちゃんと本題に結び付ける独特の話術も理解していた。
そして何より、傍から聞けば唐突だが、私にとってはそこまで脈絡のない質問ではなかったから、何故そんな質問をするのかを訊き返さずに答えたよ。
森で育ったから害虫の類は躊躇なく殺してきたが、遊びでそのようなことはした覚えがないと答えたら、ソラはゴミ袋代わりにしていたビニール袋を取り出して、ほぼ独り言でこう言っていた。
「だろうね。じゃ、やっぱり同情の余地なしだな。可哀想と言えば可哀想だけど、弱肉強食による恨みじゃなくて甚振られたことによる恨みなら、クラピカは冤罪だもん」
そんな事を言いながら、ビニールの中身を見せられて私は絶句した。
中身を飲み干して空になったペットボトルと一緒に入っていたのは、塗料がところどころ剥げて錆が浮いているが、赤や黄色のカラフルなブリキの汽車の玩具……、間違いなく私が夢の中で乗った汽車だったからだ。
それは玩具というより、あの蓋状になっている屋根を開けてから乗り込むという形状からして、後で玩具としても使える菓子の容器だったのかもしれないな。
まぁそこはどうでもいいのだが、その玩具は見た目が私の乗った汽車そのものというだけではなかった。
私が乗っていた前から2両目が、前後半分に綺麗に切り裂かれていたのも予想の範疇だから、別に驚くことではなかった。
私にとって予想外だったのは、その玩具の汽車の中身だ。
切り裂かれた2両目にはカラカラに干からびたカマキリが一匹と、いくつもの虫の頭や足の残骸。あの狭い車内に詰め込まれて、喰らい合ったであろう惨劇の名残があった。
3両目の蓋を開けてみても、最初は何かよくわからなかった。
水分はとっくに蒸発している所為で、粉っぽい何かが薄く積もって中身全体にこびりついているだけだったから、あの夢の内容と蝉や蝶の羽の残骸らしきものがなければ、それは虫が磨り潰されて詰め込まれた残骸である事に気付けなかっただろう。
そしてもうわかりきっていたが、最後尾である4両目に詰まっていたものは、さまざまな虫がバラバラに千切られて捥ぎ取られたものを、限界まで詰め込まれたものだった。
乾ききっていたので、私が開けた時はだいぶ余裕はあったが、詰め込んだときはそれこそ、隙間などないくらいに詰め込まれていたのがわかるぐらいに大量で、虫は基本的に平気な私でも鳥肌が立ったな。
ソラが言うには、私が汽車で居眠りをしていたら急にうなされて、ゆすっても起きないのでただの悪夢ではないと気付いてあたりを窺ったところ、網棚の端の方に埃をかぶったこれが放置されていたそうだ。
車掌や駅員が怠惰で気付かなかったのか、気付いていたがあまりに中身が不気味だったので、見て見ぬふりをしていたのかはわからないが、別に狙って悪意で置かれていたものではないらしい。
まぁ確かに悪意で作られて置かれたものなら、その手のものに敏感なソラが乗った時点で気づくだろう。
あれは偶発的に生まれた呪いの産物。子供が悪意なく遊びで虫を甚振り殺して、あの玩具の汽車の中に詰め込んだものであり、そして子供が操作系あたりの能力者だったのか、それともあまりに大量の虫が死者の念というブーストを得たのか、あの玩具の近くで子供が眠ったらその夢で虫の惨殺を体験してしまう品物になっていたようだ。
所詮、夢は夢。トラウマものだろうが、あの夢で見た犠牲者は本当にこの虫たちと同じように惨たらしく死んだわけではない事に安堵して、後は駅を降りてソラが殺しつくした残骸の玩具と虫の死骸たちをそのまま駅のごみ箱に捨てたことで、私の話は終わりだ。
せいぜい、ゴミの分別が全く出来てなかったことを申し訳なく思ったくらいだな。
* * *
ここからは余談だ。
当時はそれで終わったが、だいぶ後になって「蠱毒」という呪法を知ってふと、考えてしまうことがあるのだよ。
「蠱毒」というのは有名だから知っている者も多いと思うが、改めて説明すると壺や箱の中に毒虫などを何匹も入れるが餌は与えず、最後の一匹が残るまで共食いさせ合って一番強い虫を作り出すというものだ。
……偶然だと思う。
ずいぶんと悪趣味で残虐だが、それでも幼い子供がよくする遊びが運悪く、念能力で呪物になってしまっただけだと思うのだが……。
あの汽車の玩具によって見せられた夢、私以外の犠牲者である最後尾の人物は、当時の私と同じくらい、13歳くらいだったのだ。
2番目の犠牲者は見ていないのでわからない。だから根拠としては薄いが……、もしもあの呪いを受ける人間の条件に、歳や性別が関係あるとしたら……、虫の恨みを利用した能力ならば、その条件はあれを作り出した本人を指すのではないか?
そうだとしたら……、虫を甚振り殺したのが私とそう変わらない年頃の少年だとしたら、ずいぶんと大きすぎないか? と思うのだよ。
私やパイロにそんな趣味はなかったが、虫を甚振り殺す子供が周りにいなかった訳ではない。あそこまで残酷な真似はしなかったが、似たようなことをやる者はいた。
だが、それをやる者はせいぜい5,6歳。大きくても10歳くらいだろう。それ以降は虫も生き物だと認識し、残酷だと自覚してやらなくなる者がほとんどな気がする。
……蠱毒は有名な呪法だ。
オカルトを題材にした娯楽小説や映画の類で取り扱われることが多く、狭い範囲で似たような才覚の者同士、もしくはジャンルを競い合わせる例えで使う者もいる。
そして世間一般的に12、3歳の子供……、いわゆる思春期の子供は自意識が肥大化して「特別な自分」に憧れ、オカルトに傾倒する者が多いとも聞く。
……偶然の産物であることは間違いないのだろう。そうでないとしたら、効果が弱すぎるからな。
けれど、本当に出来てしまったのは偶然でも、あれ自体は意図して作られたものではないか? とも私は思ってしまうのだよ。
蠱毒を中途半端に知って、好奇心と肥大化した自尊心を満足させる為、聞きかじった知識で適当に子供が作って、それから自分で作っておきながら怖くなって隠すよう、あの網棚に置いた……、もしくは悪戯程度の思惑で、わざと放置した物なのではないかと思うのだ。
そう考えると、説明がつく。
あの恐怖を煽るような、悪趣味な放送がな。
……別に、それが真実だとしても私はどうもしないし、その子供に思うことは何もない。もう既に5年以上前の話だしな。
ただ、あの汽車の玩具を捨てる際にソラが呟いた言葉が耳に残っているから、ソラ自身が気にしていないと良いと願っているだけだ。
何を呟いたかって?
大したことじゃない。当たり前の事だ。だからこそ、当たり前の事としてソラが背負わなくていい重荷を背負って欲しくないのだよ。
ソラは自分で突き刺したであろう、先頭車両の穴を見ながら呟いていたよ。
「人を呪わば、穴二つ掘れ」、とな。
全くもって、同感だ。
元ネタは洒落怖で有名な「猿夢」です。
猿から虫に変更しているのは、HxHの世界観に合わせて念能力でつじつま合わせ出来るように弄った結果。