ホラーが日常な人とその周囲の温度差の話   作:淵深 真夜

3 / 3

タイトルはだいぶアレですが、後味が悪い部類の話なのでちょっと注意。




ビスケの話:八尺様、フルボッコ

 ソラの死者の念退治の話が聞きたい?

 ネタなら山ほどあるけど……、印象深いのはやっぱり最初のかしら?

 

 あの子、あたしが渡した資料に一通り目を通したら遠い目でこう言い放ったのよね。

 

「……八尺様じゃん」って。

 

 あたしはその反応に、何でこいつはやたら遠い眼してんの? って思いながら「知ってんの?」って訊いたけど、今だったらあたしも遠い眼になってこう訊き返すわ。

 

「あんたの世界にもあんの? その怪談」ってね。

 

 * * *

 

 ネットロアって知ってる?

 あ、ゴンはやっぱり知らないのね。キルアは?

 そう。電脳ネット内で広まった、もしくは電脳ネット発祥の都市伝説の類の事よ。

 

「八尺様」っていうのは階段・怖い話系ネットロアの中でトップクラスの有名どころだった話なんだわさ。

 ん? キルア、ネットロアは知ってるのに八尺様は知らないの? 何、怖い話が嫌いなの?

 

 あーはいはい、こんくらいでムキにならないでよ。そうよね、あんたの家業だとむしろ幽霊とかたたりとか信じないわよね。そんなもんがゴロゴロあるなら、とっくの昔にあんたの家は祟られて全滅してるわよね。

 

 けど、死者の念の存在はもう理解してるでしょ。あんたの家は全員が高レベルの能力者だからこそ、同じ能力者を相手にするときはもちろん、一般人を殺す時も相手を「死者の念」にさせないように気を遣ってるんでしょうね。

 

 なるべく一撃、一瞬で殺せって教えられてない? それ多分、ターゲットの対する慈悲じゃないし、目撃者が出ないようにって意味合いも薄いわよ。

 仕事はスマートスピーディーにってだけじゃなくて、十中八九相手に「自分が死んでもこいつだけは呪ってやる」みたいな恨みを、今わの際に懐かないようにする為だわさ。

 能力者じゃない一般人の死者の念は、だいたいそういう今わの際の憎悪が爆発した結果、生まれるものだから何にもわかってない内に殺そうって対策でしょう。

 

 話がちょっと逸れたわね。えーと、八尺様の話だっけ。

 話自体は国も時代も関係なく、どこにでもよくある怪談よ。

 ものすごく単純にまとめちゃうと、10から20代くらいの若い男の前にだけ不気味な女が現れて、その女を見た者は数日以内に死ぬって話。

 

 この話で特徴的なのは、その女の身長よ。

 通称の「八尺様」の「八尺」って、この話の舞台であるジャポンで昔使われてた長さの単位らしいの。一尺で約30cmらしいから、八尺は2m40cmってところね。

 

 ……そうよ。そんだけでかいのよ、その女。

 そんでそんだけでかいのに、格好は「夏の高原の美少女」の見本のような、白いつば広帽に白いノースリワンピース。髪は艶やかな黒髪ロングストレートよ。

 正直、見た時は不気味に思うより「バランス悪っ!!」って思ったわさ。

 そんでもってあのバカは、思うだけじゃなくて口に出すし……。なんであいつは、電脳ネットで検索してはいけないワード上位の死者の念と遭っても、ホラーが死んでコメディにしかならないのかしらね。

 

 ん?

 電脳ネットで有名になってたのに、ハンター協会が放置してた訳?

 逆よ、逆。有名なのに放置してたんじゃなくて、放置するしかない奴だったからこそ、ハンター協会自体がネットロアとして流布させたのよ。

 

 そもそも、死者の念は何で強力だと思う?

 そう、自分の死っていう生き物が払える最大の代償を払う事で得る“念”だからよ。生きている人間が、それだけの代償を払った相手に敵う念能力を得られると思う?

 

 一般人から生まれた死者の念だったらまだ、除念師じゃなくても何とかなる場合もあるけどそれも稀ね。大概が一般人から生まれたものでも、普通の念能力者はもちろん除念師でもお手上げよ。

 けど、あの子から聞いてると思うけど一概に「死者の念」ってだけで、一刻も早く何を犠牲にしても排除しなくてはいけないほど危険なものはそうそうないわ。

 

 ぶっちゃけた話、一般人の死者の念は除念師でも除念することが出来ないけど、向こうも向こうでこの世にオーラを留めさせるだけで精一杯になってて、そこにいる以外何も出来ない状態になってる奴がほとんどなのよ。

 系統によっては、幽霊らしい形を保てない代わりにポルターガイストとかラップ音くらいの怪現象を起こせる奴もいるけどその程度。怖がらせるか、ちょっと体調不良に陥らせるぐらいが関の山だから放っているパターンが多いわね。

 

 あと、これはあたしもあの子に関わるようになって知ったことだけど、死者の念って大きく分けて幽霊タイプと現象タイプがあるのよ。その二つが混ざってるような感じの方が多いけど。

 幽霊タイプはそのまんま、今わの際に発したオーラがそのまま本人を形作ったものよ。これが本人の魂そのものなのか、それとも同一人物同然のコピーなのかはあたしにはわかんないわさ。

 知ったところで、どちらにせよ良い気分になる情報じゃないからどうでもいいしね。

 

 で、この幽霊タイプは生前の記憶を持ってたり生前の人格をそのまんま維持してる場合があるから、話がわかるタイプなら別に念能力者じゃなくても除念は可能ね。

 自分の家族とか大切な人に伝えたいことがあったっていう未練で死者の念になったのなら、それを伝言すればその死者をこの世に留まらせるための能力である制約から解放されるのだから。

 

 そんでもう一つの現象タイプっていうのは、念能力だけがこの世に焼付いて残ってるタイプ。

 こっちは説得とか交渉が不可能だけど、逆に言えば気まぐれを起こさない、条件が揃わない限り発動しないシステムそのものになってるから、発動条件がわかってさえいればむしろ被害を防ぎやすい奴が多いのよ。

 

 八尺様も、見た目はバカでかいけど人間の姿をしてるから幽霊タイプに思えるけど、実際は現象タイプよりだったわね。人間としての意思はなくはないけど、もはや何が目的だったかが自分でもわかってない、融通は利かないくせに応用は利かせてくる一番厄介なタイプだったわさ。

 

 けれど融通の利かない部分こそがターゲットの条件だったし、目を付けられる条件もわかってたから八尺様そのものはどうにも出来なくても、少し気を付けていれさえすれば被害は出ないタイプなのよ。

 だからあれ、危険度のランクはCよ。ターゲット認定されたらヤバいけど、そもそも目がつけられないようにさえしてれば空気みたいもんだし、ターゲット認定されても逃げ出すチャンスはあるから、冷静に対処さえすれば臭いものに蓋でしかないけど死なずにすむ程度の死者の念だわさ。

 

 だからこそ、ハンター協会はある程度の情報をあえて流してるのよ。

 解決できずそこにあるのだから、いくら箝口令を敷いても情報の流出を防ぐことは出来ないわさ。下手に規制してしまうと、余計に人の好奇心を刺激するしね。

 だから、虚実を織り交ぜた話をあえて流すことで情報を錯綜させて、本物の「八尺様」がいる地域を特定できないようにしたのよ。

 

 そんでもって、場所とか八尺様が生まれた由来とかそういうのは適当な嘘だけど、八尺様の対策とか対処法に関しては真実を流してるわ。

 万が一本物と関わってしまった時、その対処法を使って生還できるようにね。

 

 手出しできないけど、真実を公表してもこんな怪談を真面目に信じる奴なんてほとんどいないから、浅はかな馬鹿が大惨事を引き起こしかねないし、信じられたら信じたで無駄に恐怖を煽るだけでしょうから、ヤバい死者の念ほど適当にドラマチックな話に改変して肝心なとこはぼかして流布して、都市伝説とかネットロアとかそういう「実話扱いだけど、どうせ創作だろ」って印象操作して本物にはたどり着けないように隔離するのが協会に出来る精一杯なのよ。

 

 納得してくれたのなら助かるわ。

 ……そしてその遠い眼は、あたしの苦労っていうかなんというか脱力具合も二人とも理解してくれているようで何よりだわさ。

 

 そうよ。その、協会の精一杯を色んな意味であのバカはぶち壊すのよ。

 解決してるけど、解決させているけど、もっと他になんか出来ただろ!! って言いたくなるわ、ネットロア側に盛大な同情するようなことしかしないのよ、あのアホは!!

 

 * * *

 

 ネットで一番メジャーな話の八尺様はね、夏休みに祖父母の田舎に遊びに来た大学生の孫が八尺様に目を付けられたって話なんだけど、この話の中では「10~20代の若い男」がターゲットの条件扱いだけど実際は「12歳以下の男児」だったのよね。村の子供とか関係なく、12歳以下の男のなら例外なくターゲット認定されるわ。

 だからたぶん、肝試しの為に子供を誘拐する奴はいなくても悪乗りして弟や親戚の子供を巻き込むアホを警戒して、ここら辺は改変したんでしょう。

 

 で、話の中では八尺様が現れる時期は限定されてないけど、実際は夏の一時期。ジャポンではご先祖様とかの死者があの世から里帰りしてくるって言われてる「オボン」っていう時期に現れるのよ。

 ここも時期を明かしてしまうと、やっぱり浅はかなアホがその時期に八尺様の話の元ネタっぽい田舎に集結しちゃうでしょ? 13歳以上なら本物がいる田舎を見つけても問題はないでしょうけど、旅行のついでに肝試しはまだしも肝試しメインでやってくるアホなんて田舎側からしたら迷惑でしかないから、この改変は田舎側に対する配慮なんじゃない?

 でも、現れる時期がせっかく限定されているんだから、運悪く遭遇してしまう確率を少しでも下げる為に話の中で「夏休み」って情報を入れて、それとなく「夏が危険」って示唆してるのよ。

 

 ここからはほとんど事実と一緒ね。

 話の中の孫は祖父母の家の縁側、庭に面したベランダみたいなところで一人でいたら、2mくらいある塀の向こうから頭どころか肩くらいまで見えるバカでかい女が通るのを見かけるの。

 八尺様が現れる村ではね、オボンの時期に13歳未満の男の子を外で絶対に一人にしてはいけないのよ。例え敷地内の庭でもアウト。

 

 八尺様は、最初は特に何もしないわ。ただ男みたいな低い声で「ぽぽぽ」だか「ぼぼぼ」だか変な笑い声? みたいなのを上げながらそのまま普通に立ち去るんだけど、日が沈んで夜になってから活動が本格化するんだわさ。

 たぶん、そういう制約なんでしょうね。

 

 昼間はターゲットを探す為、ターゲット以外にはほとんど見えない“陰”状態である事。そして夜になるとターゲットを殺すための能力が使えるようになる。

 本人に訊ける訳がないからあたしの推測だけど、状況からしてこんなとこだったと思うわさ。

 

 八尺様は女の姿をしてるから具現化系かと思うけど、女の姿はガワ。あれは見た目だけ取り繕った風船みたいなもんで、実際は操作系由来の死者の念であって、子供は八尺様を目撃した時点で八尺様に操作されてるのよ。

 

 八尺様に呼ばれたらターゲットの子供は自分からため池とか井戸に飛び込んだり、山の奥に一人で入りこんだり、車の前に飛びだしたりして死ぬの。そういう風に操作されちゃうのよ。

 ただ、これも制約なんでしょうけど八尺様は別に念能力のガードとかなくても、室内には入れないのよ。この室内には車内も含まれるわさ。

 

 だから最悪は室内にひたすら籠城してりゃいいんだけど、八尺様はターゲット家族とか友達とか信頼してる人の声を真似て外におびき出そうとして来るのよね。

 その所為でただでさえ八尺様を見た時点で能力にかかってる子供は、完全ではないけど操作されてるからどんなに言い聞かせても、どんなに不自然でも、たとえ同じ部屋に母親がいるのに外から母親の声が聞こえたら、部屋にいる方が偽物だと思い込んで、押さえつけても暴れて振りほどいて外に出ちゃう場合が多かったらしいわさ。

 

 で、八尺様の活動範囲というか念能力の有効範囲はその村の中だけだから、村から脱出してもう二度とその村に訪れなければ安全は確保されるの。

 13歳以上になってから村に訪れた場合? キルア、あんた一度ターゲット認定されたのにもう一度、何の保証もないのにその村に戻る度胸あるの?

 

 せっかく助かった命をそんな風に投げ出すアホは幸いながらいなかったから、ターゲットが13歳以上になって村を訪れた場合なんて、前例なんかないわよ。

 ……けど、そうね。たぶん大丈夫だったんじゃない? あの八尺様の場合は。

 

 …………何でもないわよ。

 

 とにかく、八尺様は目を付けられてもさっき言ったように室内には入れないから、出来れば遭遇してすぐ、昼間の内に車で脱出してしまえばいい訳だし、出る時期は限られてるわ、ターゲットもかなり限定的だわで、大きな被害が出るタイプの死者の念じゃない所為で、表向きに適当な理由づけして出入り禁止して廃村にするほどではない、むしろそんなことしたら興味本位の馬鹿を呼び寄せてしまうって協会は判断してたのよ。

 観光地でもない過疎化が進んでる村だったから、その内自然に廃村になるだろう、下手に手出ししない方が良いと思ったんでしょ。現象タイプとはいえ、ターゲットの家族とかの声真似で騙すくらいの知性がある相手だから、刺激した方が危ないしね。

 

 だから、ソラが協会に売り込んだ自分の有能性を確かめるにはちょうどいいって思われたのよ。

 八尺様は基本的にターゲットの前にしか現れないけど、ターゲットの年齢とか性別に当て嵌まってないのに、それらしき姿を見る人間はたまにいるのよ。

 

 それはまぁ、いわゆる霊感持ち、目の精孔が生まれつき開き気味で常時軽い“凝”状態になってる子は多くはないけど希少って言うほどでもないから、ただ単に目撃者はそういう体質だっただけ。

 そんでターゲットの条件に当て嵌ってなかったら、八尺様は見えてる相手に気付きもしないらしいから、軽い“凝”状態で見えるのなら念能力者ならターゲットに当てはまらなくても探し出すことは出来るだろうし、試しに何とかしてみろって言われたのがあの子の初仕事と言えるのかしら?

 

 病院でのキリエ=フジョウの件では相手が相手だったからあの子は目を使わなかったけど、それ以外ならあたしはもうあの子の眼の反則ぶりと規格外ぶりを嫌になるほど見て来て思い知らされてきたから、八尺様を殺せるかどうかの心配は一切してなかったわ。

 どこを探したら見つかるのよ、クソ暑い炎天下で探し回るのは勘弁してよって思ってたぐらいだけど……あたしの考えは甘すぎた。

 

 あの子、どんな星の元に生まれてきたら毎回毎回、ベストなんだかバッドなんだかよくわかんないタイミングでよりにもよってな事態に遭遇すんのよ。

 

 ……ゴン、キルア。あたしもう話すのやめていい? どうせあんた達ももうわかってんでしょ。

 村をうろついてる八尺様を見つけてぶった切ったんじゃなくて、ターゲットの子供を追いかけている八尺様とあのバカが遭遇したことくらい。

 

 * * *

 

 あーもう、わかりましたよ! っここまで話したら全部話すわよ、全部!!

 

 何度も言ってるけど、八尺様は死者の念の中でも条件が限定的だわはっきりわかってるわで、除念は出来なくても被害を抑えることが簡単な部類なのよ。

 だからもう何年も被害らしい被害が出てなかったから、村全体で油断してたのでしょうね。

 

 ターゲットの男の子も、色んな事情が合わさっての被害で、その子はもちろんその子の保護者も責めるのは酷だったわ。

 

 まず不幸その1は、ターゲットの母方実家はターゲットであるその子以外、親戚はほとんど女ばっかりだったから、母親はもちろん親戚の大部分が「オボンの時期に男の子を外に一人で出してはいけない」っていう村のしきたりのことをすっかり忘れていたのよ。

 もちろん、祖父やらひ祖父、伯母の旦那とか男はいない訳じゃないから、本来なら全員がしきたりの事をすっかり忘れる訳はないんだけど……特にひ祖父の世代はまだ、八尺様のターゲット条件がハッキリわかってなかったからか被害が多かったしね。

 

 その本来なかったはずのうっかりが発動しちゃった不幸その2が、その子がその村に来たのはこれが初めてじゃなかった事。

 初めて来たのなら、母親本人が自分には関係のなかったしきたりだから忘れていても、祖父とかが覚えてちゃんと守っていたでしょうけどね、もう何度目かだったし、その何度か間はずっと平気というか、しきたりがなくても普通なら家の中はともかく外で目を離せるような歳じゃなかったからこそ、わざわざしきたりのことを念押しするほどでもないって感じで油断しちゃってたのよ。

 

 そんでもって最後の不幸その3は、その時の里帰りはその年に生まれたターゲットの妹に当たる子を母親の実家に顔見せに連れて行ってたこと。

 親戚は皆、悪気はなかったんでしょうけど生まれたばかりの赤ん坊に夢中で、兄であるその子を言っちゃなんだけどちょっと蔑ろにしてたのよ。

 

 そういう不幸が重なって、妹ばっかりに構う大人に拗ねてその子はしきたりなんか関係なく「一人で外を出ちゃいけません。外に出るなら、家族の誰かに声を掛けなさい」って躾も無視して、家の外に出ちゃったらしいわ。

 

 まぁもちろん、親も親戚もちょっと子供心がわかってない無神経だっただけであって、妹だけじゃなくて兄の方も可愛がってた訳だから、その子のプチ家出なんか10分足らずで気づいたわ。

 ……そのわずか10分の隙を、八尺様を見逃さなかった。

 

 まだ家の門を出てすぐのところで、枝で地面に落書きしてたから母親はホッとしたそうだけど、やっと構ってくれた母親にその子は嬉しそうに、ついさっき見たものを報告したの。

「ものすごくでかいねーちゃんがいた。ぽっぽっぽって鳩みたいな声だった」ってね。

 

 さすがに自分には関係なかったしきたりとはいえ、そう言われたらすぐさまに母親も思い出せたそうよ。八尺様の話を。

 

 で、またその家の不幸というか不運は終わんないのよ。

 子供が八尺様のターゲットになったことを知って、母親はもちろんまだ日が出ているうちに車で村から脱出しようとしたけど、その母親は免許を持ってなくて、免許を持ってる親戚の連中は昼間から宴会酒盛りしてたから車を出せる状態じゃなかったのよ。

 しかも十何年も被害が出てなかったから、酔っ払ってるのもあって若い世代は真面目に受け取らない奴もいるわ、被害を知ってる奴等はパニくるわで無駄に時間を潰しちゃったのよ。

 

 あー、思い出したら腹立って来た。

 八尺様のことを信じてないから真面目に受け取らなかったのも、存在を知ってるからこそパニックになった奴はまだいいわよ。

 

 ムカつくのがその家のひ祖父、母親から見たら祖父が悪い意味での昔ながらの頑固ジジイで、自分は子供の世話どころか遊んでやることもない、赤ん坊が泣いたら「うるさい!!」って怒鳴って余計に泣かすような奴の癖に、自分の孫娘相手に「しきたりを忘れてひ孫を化け物の前に晒した大馬鹿者」って叱りつけて無駄に時間を潰したのよ!

 んなことしてる暇があるなら、水でもがぶ飲みして酒を抜くか、近所を回って自分たちの代わりに運転してくれる人を探せっつーの!!

 

 ……ごめん。ちょっとヒートアップしすぎたわさ。

 

 とにかく、子供が八尺様に会ったのは5時近かったとはいえ、夏だから余裕で日が落ちる前に村から脱出することくらいできたはずなのに、酔っぱらいどもとボケクソジジイの所為で無駄に時間を潰して、やっと運転できる酒が入ってない人間を確保して脱出しようとした時には、日が沈みかけてたのよ。

 

 日が沈んじゃったのなら家の中に籠城して、夜が明けるまでを待った方が安全なんだけど、車で飛ばせば日が出てるうちに村から脱出できそうな時間だったからその家族は賭けに出たのよ。

 いえ、賭けのつもりもない。ギリギリだけど確実に間に合うと思ったからこそ、朝まで籠城より脱出を選んだのでしょうね。

 

 ……でも、八尺様は最初に言ったように一番厄介なタイプよ。

 話が通じる程、生前の人格とか理性とか良心なんか残ってないくせに、感情や知性を失ってる訳でもないから、説得も融通も利かないけど、応用はきかせてくるのよ。

 

 日が沈んでからじゃないと子供を操作して殺すっていう能力は使えないって誓約はあったでしょうけど、逆に言えば子供を操って殺すってこと以外は昼までも出来たのよ。

 その子供を操るのだって完全な強制型じゃなかったから、他の操作だってそこまで大したことはなかったわよ。せいぜい、車の調子をおかしくさせて、スピードが出にくくする程度。

 

 けど、もう日が沈みかけている黄昏時にはそれで十分すぎたわ。

 

 間に合わなかったの。

 日が出ている内に村の外に脱出することは、八尺様の能力で操作されて自転車以下のスピードしか出ない車じゃ無理だった。

 それでも、八尺様が入れない室内だから、夜でも村から出さえすればもう八尺様は手出しできないから、両親が息子を抱きしめて車の籠城してそのまま他の親戚に運転してもらってたんだけど、子供は日が沈んだ途端に泣いて暴れて車から出ようとしたそうよ。

 

「妹の声が聞こえる」って叫びながら、妹を助けなくちゃって言いながら、ね。

 

 赤ちゃんの妹の方は女の子だから八尺様に狙われることはない、むしろ一緒に連れて行った方がいざという時にターゲットの子供を押さえつける手が足りなくて危険と判断されて、ひとまず祖父母に預けて置いて来ていたのよ。

 で、ターゲットの子に八尺様のことを教えると怖がらせてパニックを起こしかねないから、ちゃんと教えてなかったけど、子供って大人が思ってるより大人の話をちゃんと聞いて理解してるもんじゃない?

 

 自分が見たでかいねーちゃんが怖いお化けで、自分を攫いに来るってぐらいの概要はその子は説明がなくても理解してて、けどちゃんと詳しい話は聞いてなかったから、妹はターゲットにならない事はわかってなかった。

 

 妹ばっかり可愛がられることに拗ねていたけど、いいお兄ちゃんだったのね。それを、八尺様は付け入って妹の泣き声で外に誘ったのよ。

 しかも例え状況的に有り得なくても、不自然でもその声に騙されて外に出るように操作されるのは子供だけだけど、声自体はターゲットの子供以外にも聞こた所為で、両親の方もパニックを起こしちゃったんだわさ。

 

 本当に男の子しか狙わないのか? 本当に実家に置いてきた妹は無事なのか? って不安を懐いていたところで、子供は父親の腕を噛みついて拘束から逃れて、車から飛び出ようとしたのよ。

 

 ロックがかかっていたはずなのに、しかも走行中だっていうのにそのロックはいつの間にか外れてて、子供でも開けやすいスライド式のドアだったのも災いになって子供がドアを開けた時は、心臓が止まるかと思ったって両親は言ってたわ。

 

 ……その止まりかけた心臓を吐き出すかと思うぐらいビックリしたとも、後で言われたわさ。

 

 そりゃ、びっくりするでしょうね。

 走行中に対向車線を走ってたタクシーがすれ違う直前に扉がぶっ壊れて、そこから人間が一人飛び出してきたんだから。

 

 * * *

 

 両親視点から見たら、ソラが八尺様に思えたでしょうねー。あの子、背は高い方だけど2mもないし、白いワンピースなんて絶対に着ないだろうけど。

 

 ドアを壊してタクシーから飛び出て、扉を開けたこちら側にやたらとブチきれた顔で何かを掴もうと手を伸ばしてきてたんだから、そりゃ傍から見たらあの子の方が子供を攫う怪物よ。

 まぁ、もちろん実際は両親には見えていなかった、車に並走するように横にいて、車から飛び出そうとした子供を待ち構えていた八尺様を引き倒すためにあの子は飛び出たんだけどね。

 

 ん? 八尺様と遭遇したのは偶然じゃないわよ。

 いや、あのタイミングでの遭遇は想定外の偶然だけど、十数年は被害がなかった八尺様の被害が現在進行中だってのはわかってたから、タクシーであたしたちは村に向かってたの。

 

 わかった理由は……、あの子はマジで幽霊引き寄せてるんじゃないの?

 空港でいきなり「犠牲者の母親の幽霊が教えてくれた」なんて言われた時、あのバカが言ってることを理解出来なかったあたしは悪くない。

 

 ま、確かにいてもおかしくないけどさ。

 子供を殺す死者の念がいるのなら、その死者の念に子供を殺された母親が、同じ様な犠牲者が出ないようにあれを何とかできそうな相手を探し求めて助けを求める、その程度の死者の念が生まれることくらい。

 

 とにかく、観光地でもないから初めは一番近くの町で宿泊地を確保して村に向かうのは明日にしようと思ってたんだけど、現在進行形ならそうはいかないからタクシー拾って、村に入ったからどこか適当なところで下ろしてもらおうとしてる最中、運は……良かったのかどうかはもう誰にもわからなかったけど、対向車線でやけにスピードの遅い車と、その車の窓にべったり張りつくようにして並走して八尺様に遭遇したんだわさ。

 

 あのバカ、あたしがタクシーに今すぐ止めてって言ってる横で、直死でドアぶっ壊して外に出やがったのよ。

 結果論で言えば、子供はマジで危機一髪な状況だったし、タクシーの運転手は八尺様なんか見えてないんだからすぐにブレーキかけて止まってくれる訳なかったんだから、あの子の行動がベストだったのは確かだけど、本当にその場のノリと勢いとテンションで行動するのはやめてほしいわ、あのバカ。

 

 っていうか、ここで直死を使ったんならその後も使いなさいよ。

 ……そうよ。この話で一番頭が痛いのはね、あの奇跡の大馬鹿は八尺様を引き倒して車と子供から離したのは良いけど、その後はあたしが「直死使え!!」って言うまで、使わなかった事よ!

 

 あの奇跡級の大バカ、田舎の交通量が少ない車道とはいえその車道の真ん中で八尺様相手に、何したと思う!?

 マウントポジションとって、ひたすらにタコ殴りよ!

 

 あの子は当時、直死を得てまだ3,4カ月ってとこだったから、それ使って除念ってのが慣れてなかったのはまだわかるけど、あんたにとって幽霊って殴るもんなの!? フルボッコするものなの!? タクシーは壊しといて、幽霊相手はそれなの!? って叫んで頭をぶんなぐりたくなったわさ!! つーか殴った!!

 

 殴って「直死はどうした!?」って突っ込んでやっとあのバカは、自分が協会に売りこんでたものを思い出して「あ! そうだ忘れてた!!」とか言ってやっとぶった切ったのよ!

 もう普通に八尺様に同情したわ、あたし。

 

 っていうか、あたしはあの得体のしれないバカの監視って名目もあったから、協会に報告義務があったのよ。

 もう死ぬほど恥ずかしかったわよ。どんな面下げて、自分の弟子が死者の念を物理的に叩きのめしていたかなんて報告しなくちゃいけない訳?

 

 つーか、この報告がきっかけであの子、協会員の一部に何て呼ばれてるか知ってる?

「寺生まれじゃないSさん」よ。怪談系のネットロアの恐怖を紛らわそうとして生まれたネタ系ネットロアの「寺生まれのTさん」を元ネタにして、それ並の反則娘だって認識されたわさ。

 

 ネットロアを退治して、あんたが新たなネットロアになってどうする? って思うのもバカらしくなったわ。

 だって実際、もう元ネタ以上にあのバカはネットロアに対して土下座しろって言いたいことしかしてないんだもの。八尺様はもちろん、その後の他のネットロア系の死者の念達に対しても……。

 

 まぁ、さすがに八尺様に関してはこのフルボッコ以降は、あのバカの脱力物な斜め上は発揮されなかったけど。

 その後は普通よ。あたしがハンター証を見せたことと、子供は八尺様が見えてたからソラがお化けを退治してくれたって親御さんに報告してくれたのもあって、ソラの方が化け物っていう誤解は解けたし、八尺様も完全に殺しきることは出来たし……え? 完全にってどういうこと?

 あぁ、ごめんごめん。説明が不足してたわね。

 

 ソラがフルボッコしてぶった切った八尺様は、本体じゃなかったのよ。

 リモコンの端末みたいなもんで、ソラの眼でぶった切られたからあの子のターゲット認定はリセットされて、村に戻っても平気にはなってたけど、八尺様そのものは健在だからまた外に一人でいると目を付けられるかもしれなかったの。

 

 だから、ターゲットの子供の家族と妹を迎えに行くのに便乗してついて行って、八尺様の本体を探してその日の内にソラがさっさと殺して解決させたのよ。

 

 これで、このバカバカしい話は終わりよ。

 他にもあのバカの話のネタは事欠かないけど、今日はもう勘弁してよ。話し疲れたし、何よりあたしの精神が疲れた。

 

 

 

 ……何よ、ゴン。何が訊きたいの?

 

 八尺様の正体? 何でそんな死者の念になったか?

 ……子供を亡くしたショックで狂い死んだ母親だって聞いたわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………何よ、キルア。寝ないの? っていうか寝不足はお肌の大敵なんだから勘弁してよ。

 

 は? 嘘? 何の事よ?

 

 ………………あー、やっぱりあんたにはばれるか。

 ゴンも違和感には気付いてたみたいだしね。

 

 ……キルア。教えてやるからゴンにはテキトーに誤魔化しておいて。

 あんたが話しても大丈夫だと判断したのなら、話してもいいけど……あの純粋無垢を純粋培養したような子にあたしはとてもじゃないけど言えないわさ。

 

 っていうか、八尺様の正体なんてゴンに訊かれても「知らない」って恍けとけば良かったわね。

 あんたのご指摘通り、大嘘よ。ハンター協会にも、その村で八尺様の被害をよく知る世代の奴等からもそう聞いたけど、大嘘だったしそのことは初めからわかってたわよ。

 

 協会も村側の主張が嘘であることはわかってたけど、証拠はないし何より真実を明らかにしたら満足して消えるタイプでもない事は確定してたから、詳しく調べようとはしてなかったみたいね。

 

 えぇ、あんたが勘付いたのと同じ理由で、あたしもソラも協会も気づいてたわよ。

 

 子供を亡くした母親が、我が子だと思い込んで子供を道連れにしてるのならターゲットの年齢範囲が広すぎておかしいことくらい、わかってたわさ。

 八尺様のターゲットは12歳以下。本当にあの話の通りの正体と動機なら、ターゲットの年齢はその亡くした我が子の年齢±2,3歳って所のはず。何で12歳くらいの子を亡くして、0歳児もチャンスがあれば連れ去って殺そうとすんのよ? って話よね。

 

 まぁ、12~0歳以内の兄弟が3,4人いて、その子ら全員を一気に亡くしたのならショックのあまりに狂って死ぬのも、変なターゲットの年齢条件もまだ説明がつくけど、それでも違和感はあるわよね?

 

 ……えぇ。そうよ。

 一番の違和感は、あの子が何の躊躇もなく八尺様をタコ殴りしたこと。

 

 そんな事情で死者の念になったのなら、あの子は子供が危機一髪だったのだから強引に引き離すことは変わりなくするわさ。

 同情の余地はあるとはいえ、自分が狂い死ぬほどショックだったことを他の親たちにも与えている加害者だから、目を使って殺すことに躊躇だってしないわよ。

 

 けど、マウントを取ってタコ殴りになんかはしない。

 自分の眼の事を忘れていたのならマウントは取るでしょうけど、殴りはしない。

 しがみつくなりして八尺様を拘束するくらいで、子を亡くしてもう自分の子と他人の見分けもつかなくなるほど狂っていても、それでもあの子は我が子を亡くしたからこそ狂った母親を問答無用で殴りはしない。

 

 ……ソラに子供が襲われていることを教えてくれた死者の念。

 あれが何で、自分自身が八尺様をどうにかできる死者の念にならなかった理由はね、本人にそこまで“念”の才能がなかったからもあるでしょうけど、あってもそうはならなかったわよ。

 

 彼女は我が子を奪われて殺された被害者だったけど、同時に八尺様がどうして生まれたかを知ってたからこそ、我が子の仇であっても心の底から憎み切ることは出来なかった、どうしても同情してしまうからこそ誰かに助けを求める死者の念にしかなれなかったのよ。

 

 そしてソラは彼女から全部を知らされていたからこそ、逆に八尺様に同情の余地なしと判断して、ブチキレてついつい直死の事も忘れてタコ殴りしてたって訳。

 

 ……ねぇ、キルア。本当に訊きたい? どうして八尺様が生まれたかを。

 

 ……OK。

 あたしも直接的なことは胸糞が悪くなるだけだから言いたくない。あんたの推測が当たってるかどうかがわかる程度に、ぼかして教えてあげる。

 

 * * *

 

 八尺様が生まれたのは50年ほど前。

 あの村はその頃から悪い意味で前時代の遺物、今どき何の意味もない悪習がまかり通って、男尊女卑どころか女は奴隷みたいな扱いだったそうよ。

 

 で、そういう村って都会から来たよそ者にも厳しいのよね。

 っていうか厳しいだけならまだしも、勝手に卑屈に「田舎者だからって馬鹿にしてる」ってコンプレックスをこじらせて敵視してくる視野狭窄の馬鹿は本当に救いようがない。

 

 ……そういう卑屈なくせに、自分が男ってだけで偉いと思いこんでる傲慢なクズの被害者だったのよ、八尺様だった彼女は。

 

 その田舎に別荘を作った都会の家族が、オボンの時期に来てたの。

 別にお金持ちじゃない。ド田舎だから中流家庭でもがんばれば別荘が買えるような土地だったから、頑張っただけなのにその村の住人たちは嫉妬した。自分たちを見下して、バカにしてると勝手に思い込んだ。

 

 その家の娘は、あたしが最初に言った通りまさしく夏の高原のお嬢様って格好が似合う可愛い女の子だったらしいわ。

 当時は都会なら女の子の洋装は普通になってても、その村ではまだキモノっていうジャポンの民族衣装の方が普通で、彼女の格好は珍しい方だった。

 ノースリワンピースなんて、あたしたちからしたら清楚だけどあの村の連中にとっては下着で出歩いてるも同然な、……自業自得な格好だったって言い訳してたわよ。当事者である、ターゲットのひ祖父は。

 

 ひ祖父がひ孫を殺したいのかってくらいに母親である孫娘を怒鳴って時間を無駄に潰したのは、罪悪感って言うのもあいつにはもったいない、反吐が出る保身よ。

 あのジジイは八尺様を生んだのは自分たちだってことを知ってるくせに、その罪から逃げ出すために目を離した母親に責任転嫁で「お前の所為だ」って責め立てた挙句……、ひ孫を八尺様への生贄にしようとしてたのよ。

 

 八尺様に一番恨まれている、殺してやりたいと思われている相手は50年前に影も形もなかったひ孫じゃなくて自分自身である事がわかってたから、ひ孫を逃がしたら本命である自分に向かって来るかもしれないから。

 自分の血縁者であるひ孫を殺せば、本命を殺したと勘違いして成仏するかもしれない。

 

 そんな風にあのクソジジイは思ったんでしょうね。

 ソラが指摘したらもちろん怒鳴り散らして否定してたけど、ソラやあたし、自分の孫娘やひ孫に目を合わせようとしないなんて肯定してるようなもんだったから、母親やその他の親戚が皆あっさり痛めつけてもいいって許可を出してくれたわ。

 

 それで全部、知ったの。

 八尺様に何があったのか、彼女が生まれたであろう、彼女の本体がいるであろう悲劇の現場も、全部ね。

 本体がいる場所以外は、もう全部想像通りだったから胸糞が悪いだけだったわよ。

 

 ……八尺様は、そういう死者の念になった子の生前は2m以上の巨体なんかじゃもちろんなかったわ。

 むしろ白い帽子とワンピースが良く似合う小柄な子だったそうよ。

 あの姿はね、それぐらいの体格だったら逃げ出せた、反撃できた、あんな目に遭わなかったっていう願望だったんでしょうね。

 

 彼女はオボンの最初の方に最悪の悲劇に合ってその後、精神を病んでオボンの終わりごろに自ら命を絶ったらしいわさ。

 もちろん親は、我が子の悲劇に怒り狂って犯人捜しをしたけど、村の最低な連帯感で口裏を合わされて証拠は掴めず、泣き寝入りするしかなかった。

 当時は弁護士を雇うのも敷居が高かったし、何よりデリケートな話だったから娘の名誉が死後も傷つくのが耐えられなかったんでしょうね。

 

 ……八尺様はね、男が憎くて憎くて仕方がない死者の念よ。

 ソラに助けを求めた死者の念は、自分の父親や旦那は直接的には関わってなくとも口裏を合わせた事は知ってた、彼女の身に起こった悲劇が何だったかを察していたからこそ、同じ女として憎み切ることは出来なかったって訳。

 

 もうこれでいいでしょ? ませてるあんたなら、もうこれで全部わかったでしょ? あたし寝ていい?

 え? まだあんの?

 

 ……あぁ。あんたが察してる通りの事情なら、何でソラが同情してないか?

 それこそ考えるまでもないわよ。

 

 犯人は年齢が様々な複数犯だったけど、さすがに小学生以下の子供はいなかった。少なくとも彼女はそう思っていたの。

 だから八尺様が中学生以上である「13歳以上」の男をターゲットにするのが本来なら自然なのよ。

 もしくは年齢制限なんかなく、男なら例外なくだったらたぶんソラは同情してたわ。

 

 けど、八尺様のターゲット条件は逆。

 12歳以下、彼女が最も憎む者の条件に合わない相手を、あれは狙って殺してた。

 

 ……彼女は男が憎くて憎くて仕方がなくて、男なら例外なく大っ嫌いだったけど、同時にそこまで憎むほどの目に遭わされたからこそ男が怖くて仕方なかったのよ。死んでも解放されないくらいの、男性恐怖症だったのよ。

 

 室内に入れなかったのも、生前のトラウマじゃないかしら?

 知らないどこかの家に連れ込まれたトラウマでもあるからこそ、室内が怖くて外にしかいられないって所でしょう。

 

 そんな憎悪で生まれたけどトラウマだらけの死者の念は、加害者に復讐なんて真っ当な事は出来なかった。

 あれはもう、男全部が憎くて仕方がなくて自分に絶望を与えた加害者とそうじゃない相手の区別なんか何もつかなくなってたけど、「12歳以下」は加害者じゃないことだけは理解してた。

 だからこそ、理解した上で狙って殺したのよ。

 

 八尺様が子供を殺す理由は、彼女にとって「大人の男」である13歳以上の男、加害者と同条件の男は憎悪以上に恐怖の対象だから、自分が怖い思いをしたくないけど鬱憤は晴らしたいっていう八つ当たりでしかなかったって訳。

 

 だから、ソラがブチキレた。

 当事者の生き残りであるひ祖父にも、そして憐れな被害者にして自ら同情の余地を亡くした八尺様にも、ね。

 

 

 

 聞いて損した、胸糞悪いって顔するなら初めから聞かないでよ。

 

 ……こういう時、あのバカを本気で尊敬するわ。

 こんだけ胸糞悪い事実を知っても、あの子は笑ってたのよ。

 子供が、家族が無事で良かったって。

 

 ……あの子が笑って幸福な終わりだって言ったんだから、あんたもそう思っておきなさい。

 これは「寺生まれじゃないSさん」っていうバカバカしい、笑うしかない、怖さなんか吹っ飛ばして笑ってもらうための話なのよ。





だいぶ前に完成してたけど、真相の後味が悪かったのでお蔵入りしようか悩みましたがせっかくなので投稿。
初めはソラのやらかし部分だけピックアップしたチャンネル風小説にしようかと思ったけど、HxH世界でネットロアをネタにするんなら、「それを念能力で解釈するなら」をやるべきだと思った結果……、元ネタと念能力の設定を折り合わせて改変したり独自解釈してこうなりました。胸糞悪い思いをされた方、本当にごめんなさい。
次こそは「寺生まれじゃないSさん」的な話にします。

ちなみに作中の危険度は、33巻おまけページに載ってる「危険生物ランク表」を参考にして決めました。

八尺様は設定上、

人間への凶暴性→C(条件次第でA(積極的に襲ってくる)に近くなる)
数→E(単体)
繁殖力とその速度→E(増えない)
破壊力→B(回避条件は確定されているが、失敗すると深刻なダメージを受けて、高確率で死に至る)

なので、総合で人間単体と同じ危険度Cにしました。正確に言うとD寄りのCかな?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。