亜空の使者 ートラックに轢かれた運命は通りすがりの救世主ー 作:豚野郎
広大な野原の上空に浮遊する巨大な物体が一つ。
そして、広大な野原を颯爽と走る陰が一つ。
赤い両翼。トリコロールを貴重とした胴体。顔はさながらロボットのごとく、細く鋭い両目が緑色に輝いている。
———彼の名前はデスティニーガンダム。
「あれが巨大スタジアムか……」
この大乱闘スマッシュブラザーズXの、亜空の使者で一番最初に事件が起こる場所があそこだ。
神様に言われたことをまとめれば、ようは『とりあえず全クリしてこい』だ。うむ、なんと単純明快なことか。そうと決まっていればこっちもやりやすい。
それにしても便利な物だ。背中のスラスターを吹かしているだけで、身体が浮遊して高速で前進するのだ。疲労なんと言う言葉がどこにあろうか。あるか。
やがて巨大スタジアムの真下に到着するが、その大きさをまざまざと魅せられて、言葉を失う。
「でっけーなぁ……。あれ?これ、どこから入るんだ?」
すると、身体が唐突に青い光に包まれ、気がつけばオレはスタジアムの内部(恐らく)の客席の一つに座っていた。
なるへそ。ポータルか。これは便利だ。
右を見ても左を見ても、おなじみのキノコヘッドのキノピオだらけ。白と赤のまだらは何処までも続き、たまに背の低いオレンジのボールみたいな何かを見つけたと思ったら、それはプププランドの住人、ワドルディだった。
『おたく、今日はいくらかけてるんだい?』
『へへっ。今日は少し調子に乗って200ルピーマリオにかけちまった』
『へぇ………!200ルピーも!あんた、大分稼ぎが良いんだね』
『へへっ。ここだけの話、家内の財布から50ルピーくすねて来たんだよ』
『50ルピーも!?あんた、そんなことしたら怒られる程度じゃ済まないだろう』
『けっ、家に男連れ込んで一緒に寝る様な女の財布から金巻き上げた程度でバチなんざぁ当たらねえさ』
『お宅も大変だねぇ』
「………………………………」
隣のかわいらしいキノコ頭二人が、かわいらしいキノコ頭二人が(大事なので二回言っておく)とてもお茶の間に見せられない様な会話を繰り広げている。
………なんだろう、凄く裏切られた気持ちだ。
『オレが帰って来ているの気づかないで、オレのベットの上であれこれやってたんだぞ?全く信じられないよな!』
涙が出そうだ。
知らぬが仏とは、まさにこの小説を読んでいる方々のために有るのだろう。
観客が一斉に沸き立つ。何事だ!?
スタジアムの中央の入り口から、人影が二つ出て来る。どちらもウエストが引き締まった優美な女性で、片方が明るいピンクのドレス。もう片方が薄い紫を貴重とした、少々控えめなドレスで、スカートは足首まで覆う純白。紛うことなき、キノコ王国とハイラルの王妃、ピーチ姫とゼルダ姫だ。彼女らは観客席に手をひらひらと振って、その度に観客が沸く。
むかし、どれだけこのゲームをクリアしたことだろうか。それでも、画面外からではあり得ないほどの解像度を目の当たりにしている今、この二人に見とれずにはいられない。
「綺麗なもんだなぁ…」
「なんだい兄ちゃん〜。あんた、あの御二方見たの始めてかぃ〜。さては田舎もんだねぇ?」
「……え?あ、はい。まあ、そんなところです。ははは……」
さっきまで家内がどうとか言ってたキノピオがオレに突っかかって来て、じっとりと背中に汗が———掻かないな、機械だから。まあ、掻いてるということにしておこう。中身人間だし。つーか、酒臭い。酔ってんのかこのおっさん。
やれやれ、この程度でビクビクしていてはあかんな。別に前世で人見知りだった訳じゃないんだし、もっと胸を張ってないと逆に不自然に見えてしまうかもしれないな。
「だめだよぉ〜。最近の若者が田舎に籠ってちゃ……………お、来た来たぁっ!」
隣のおっさんキノピオを区切りに、また観客がわき上がる。スタジアム中心のアリーナの地下から、何かが上がってくる。
最初は少し時代遅れな真っ赤な帽子が現れて、次に特徴的な茄子みたいな鼻。次に白い手袋。最後に、何処から見てもサイズオーバーなコミカルな靴。
「…………マリオ……」
むう、なんだか妙な感動を覚えてしまうね……。
生前は手の届かない場所に居たもんだから、こう、本当の意味で生で見ると、あつい感情が腹から上がってくる感じだ。
伝説の配管工の正面、地面からエレベータ方式で新しい陰が現れる。フォルムはボールその物。体色は鮮やかなピンク。
プププランドの住人、星のカービィだ。
『『『おおおおおおおおおおおおおおお!!』』』
凄い盛り上がり様だな………。
二人が指定の位置に移り、姿勢を低くする。
視界中央、空中の正方体型巨大ウィンドウに二人の姿がアップされ、5、4、3、と何かのカウントダウンが始まる。
ぶっちゃけ、途中まで何が始まるのか知らなかったが、ここまできて、雰囲気で何となくわかった。
彼ら達はこの世界でファイターと呼ばれている。じゃあ、今から何が始まる?
カーン!
———勿論、戦闘だ。
『『『おおおおおおおおおおおおおおお!!』』』
最初に動いたのはマリオだ。
低空ジャンプで素早くカービィに接近し、右拳を叩き込む。
カービィはそれをそれこそボールの様に、真後ろに転がって避け、カウンターに、タメの入った右蹴りを繰り出す。
柔軟性の低空キックは吸い込まれる様にマリオの腹に飛び込み、配管工は3m程吹き飛ぶが、空中で体制を立て直し、追撃を仕掛けるカービィに掌底から炎を放つ。
顔面でそれを受けた球体は、一瞬のけぞる。それを機に、一旦距離を取るマリオ。
ゲームでのマリオの戦闘スタイルは、相手のペースに飲まれず、火力が低くても安定した攻撃をする、と言うのがメジャーだが、どうやらこっちのマリオにもそれが繁栄されているらしいな。
逆にカービィは、安定した遠隔攻撃とそこそこ火力のある打撃技がバランス良く充実しているが、本人の質量が酷く軽いため、長期戦が続くと苦しくなってくるだろう。
『ポヨっ!』
カービィが動いた。懐からカッターを取り出し、地面に叩き付けて衝撃波を飛ばす。
マリオはそれをジャンプで躱し、相手の顔面にドロップキックをかます。派手めに吹き飛んだ球体にファイアーボールで追い討ちをかける。
『ポヨ………っ!』
またもや顔面を焼かれ、視界が悪くなったのを機に、マリオがカービィに急速に接近する。
『ヤッ!』
力を込めた渾身の掌底を繰り出す。それは見事にカービィのおでこを貫いた。
吹き飛んだカービィは、アリーナの区切りでもある崖の一歩手前で踏みとどまると、勇敢にもマリオに突進を仕掛けた。
先ほどと同じく、腕に力を込めるマリオ。構わずに突き進むカービィ。
マリオが掌底を放った。カービィはそれを寸前で半身になって避けると、懐からハンマーを取り出し、マリオの横っ面に思い切りぶち込んだ。
さっきとは打って変わり、反対側の崖の外へと打ち出されるマリオ。彼は空中で身を翻すと、物理的にはあり得ないハズの『空中でのジャンプ』を繰り出し、崖へとグッと近づく。
手を伸ばし、崖の端に手をかけようとするが、数センチ届かず。彼は底の見えない奈落へと落ちていく。
『……………!』
おお、多分こういうのを『目が光った』って言うんだろうな。
マリオは右腕を伸ばした勢いで、体を一気に上昇させた。崖に手が届き、戦場へと復帰する。
『『『おおおおおおおおおおおおおおおお!!』』』
熱い戦況の展開に観客が一斉にわき上がる。これは俺も興奮を隠せない。イヤッフー。
『…………ッ!』
立ち上がった先にはカービィが待ち受けていた。ハンマーを高々と振りかぶり、叩き付ける。
配管工はおもむろに黄色いマントを取り出すと、カービィに被せ、またしまう。
いつの間にか、カービィの向きが逆になっていた。振り切ったハンマーは空を切り、体勢を崩したカービィは尻餅をつく。
マリオはすかさずカービィの顔面を持ち上げ、外へと放り出した後、自らも崖の外へと身を投げた。
『これでおしまいだ!!』
あ、初めてしゃべった。
マリオはカービィの上を取り、メテオの入った拳を叩き付ける。
『ポヨオオオオオオオォ………』
キラーンとか言う音がした。下に落ちてその音はないんじゃないだろう。
これで勝負がついたみたいだ。勝利のガッツポーズとともに、マリオが手を振ると、観客が一斉に沸いた。
先ほどのエレベーター式床から灰色のフィギュアと化したカービィが上がってくる。どうやら、負けたファイターがフィギュアになるのも原作通りらしい。
マリオがフィギュアにタッチすると、色気のない人形に色彩が戻り、動き始める。
最後に、二人で一礼して終了。観客が青い光に包まれて消えていく。
「ん?……地震か?」
微かだが、地響きがする。いったいどうした。俺が揺れてるだけか?そもそも人ってここまで小刻みに振動できるのか?小刻みって言葉使ってる時点で地震確定だな。
それにしても、このスタジアムは中を浮いているのに、地震とはまた珍しい。
『……おい、なんだよあれ……』
『あれって確か………少し前に、謎の組織に強奪されたって言う………』
空の色が変わっていく。雲一つない青空はたちまち血のようにドス黒い雲に覆われ、雲の間から一つの戦艦が顔を出した。
ポータルって便利ですね。こっちの世界にもあったら良いのに…。