境界線上のIRON BLOODED(※リメイク作品あり)   作:メンツコアラ

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葵・三日月/「ミカ」

総長補佐。
三日月・オーガスが火星で命を落とした後、どういうわけか葵・トーリの双子の弟として転生。
初めは彼らと距離を取っていたが、時間が経つにつれて『ここが俺の新しく出来た居場所』だと自覚。以後は梅組の仲間達と仲良くやっている。
彼の背中には、特徴的な突起物が三つあり。






#1 転生

 カメラアイの眼光を光らせながら、目の前の敵を倒していく。

 ───彼の眼は光を失っていた。

 残った片腕を振るい、迫る敵をなぎ倒していく。

 ───もはや、彼の腕が動くことは出来なかった。

 駆動音を響かせ、敵に迫る。

 ───動かす彼の耳は、既に音を捉える機能を失っていた。

 

 されど、彼は……いや。彼を乗せた白き悪魔は駆け抜ける。

 彼が仲間と共にあの場所へ辿り着くために。

 死んだ彼の仲間の命令を果たすために……。

 

 死んだ◯◯◯が、目指した場所へ行くために、▲▲▲▲は彼を乗せて───

 

 されど、終わりはやって来る。

 

 悪魔の首に翠の巨兵が持つ剣が突き刺さる。その時、悪魔の中にいた彼の腕に着けていたミサンガが彼自身の血で汚れてしまった。

 

 ───また汚れた……アトラに、怒られる……

 ───クーデリア、一緒に謝ってくれるかな……

 

 場所は火星。そこで彼は、三日月・オーガスは自身の機体である白き悪魔、バルバトスルプスレクスの中で息を引き取った…………

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 自分はそこにあり

 されど、そこは自分の知らぬ世界

 

 配点《転生》

 

 

 

 

 

◇◆◇午前3時00分◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「……懐かしいものを見た気がする」

 

 そう呟いた黒髪の小柄な少年『葵・三日月』はベッドから起き上がり、何時ものようにパジャマから袖無しアンダーウェアと少しダボついたズボンに着替え、その足で玄関へと向かう。

 しかし、そこには先客がいた。

 

「お、ミカじゃねぇか。今日も特訓か?」

 

 そう言う茶髪の青年は今の三日月の兄『葵・トーリ』だった。

 

「うん。トーリは? いつもより早いけど」

 

「俺か? 俺は今から新発売のR-元服のエロゲを買いに行くのさッ! てことで、姉ちゃんの朝飯頼んだわ」

 

 『じゃ、行ってくるぜッ!』と妙にハイテンションで出ていくトーリ。三日月は彼を見送ると自身も外に出ていった。

 まだ朝の肌寒さが残るなか、三日月は何時ものように走り出す。

 

 ここは空を飛ぶ準バハムート級航空都市艦〔武蔵〕。それを構成する八艦の内の一つにある居住区。

 そこを数時間かけて、休むことなく外周を走るのが三日月の日課であり、一日の始めでもあった。

 

 午前6時45分。

 ランニングを終え、家に帰ってきた三日月は風呂場でサッと汗を流し、教導院へ行く準備をする。

 袖無しアンダーウェアと少しダボついたズボンと、胸髄の上部……つまりは肩甲骨位の位置にあるそれをさらけ出すように改造された制服の上。彼が愛用している大剣のような鈍器『ソードメイス』は忘れないように玄関に置く。

 準備を終えた三日月。今度は台所に立ち、朝食を作り始めた。

 

(……あの時は全部アトラがやってくれてたけど、オルガたちが今の俺を見たらどう思うんだろう?)

 

 そんな事を考えながら、三日月は食卓に朝食を並べていく。

 二人分が出来た所で三日月は調理器具を片付け、とある一室に向かった。

 

「喜美、入るよ」

 

 軽くノックをしてから扉を開ける三日月。その部屋の中にあるベッドの上には一人の少女……今の彼の姉である『葵・喜美』が眠っていた。三日月は喜美に近づき、彼女の名を呼びながら軽く揺する。

 そのときだった。

 

「んん……みかぁ……」

 

 彼女がうっすらと目を開けたかと思えば、そのまま三日月をベッドの中に引きずりこんだのだ。

 あっさりと喜美の抱き枕になってしまった三日月。彼女の手が背中に……正確にはそこにある物に触れる度に走る妙な感覚に襲われ、三日月は彼女の腕から抜け出そうとする。しかし、喜美は三日月を離さない。仕方なく、三日月は喜美が起きるまで、彼女の名を呼び続けた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午前8時30分 ◇◆◇

 

 

 

 

 

『市民の皆様。準バハムート級航空都市艦〔武蔵〕が朝八時半を御知らせ致します。

 本艦は十時に情報遮断ステルス航行に入りますので、御協力をよろしくお願いします。───以上』

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午前8時40分

    武蔵アリアダスト教導院◇◆◇

 

 

 

    

   

 

 武蔵アリアダスト教導院の校庭には、その上を渡るように一本の橋が掛けられている。さらにその上、そこには一つの集団が出来ていた。

 

「三年梅組、注目ッ!」

 

 集団の側に立っていた、巨大な刀を背負う女性『オリオトライ・真喜子』が声を張ると、その集団、つまりは高等部三年梅組の生徒たちの視線が集まった。

 それを確認したオリオトライは今から行う授業の説明をする。

 

「んじゃ、これから体育の授業を始めるわよ。

 先生はこれから品川にあるヤクザの事務所まで、ちょっと全力で殴り込みに行くから全員ついて来るように。そっから先は実技ね。───わかったら返事ッ!」

 

『『『Judgementッ!』』』

 

 授業とは思えない内容を平然と言うオリオトライ。それに返答する生徒。普通なら『何で体育なのに殴り込み?』と思うだろうが、三年梅組の生徒にそんな疑問を抱く者は半数もいなかった。

 わずかにいた疑問を抱いたメンバーを代表して、生徒の一人、金髪長身の何処かむすっとした顔つきの少年、『シロジロ・ベルトーニ』が先生に質問した。

 

「教師オリオトライッ! 体育とチンピラにどのような関係が? やはり金ですか?」

 

 『目を光らせて言う台詞か?』と思う者が大半だろうが、この男は超がつくほどの守銭奴。さらには武蔵アリアダスト教導院の生徒会会計を勤めている。この質問の仕方は仕方なかっただろう。

 そんな彼の肘を隣にいた長い金髪の少女、会計補佐を勤める『ハイディ・オーゲザヴァラー』がつついた。

 

「ほらシロ君。先生、地上げにあって最下層行きになって、暴れて壁壊して、教員課にマジ叱られたから」

 

「中盤以降は全部自分のせいのようだが……報復ですか?」

 

「報復じゃないわよ~。単に腹が立ったんで仕返すだけだから」

 

『『『それを報復って言うんだよッ!』』』

 

 生徒たちの声が重なる。

 それをオリオトライは聞き流し、刀を脇に挟んで投影した出席簿を開く。

 

「で? 誰か休んでる子いる? ミリアム・ポークゥと(あずま)がいないしとして」

 

 オリオトライの質問に答えたのは、集団の前の方にいた金翼の少女『マルゴット・ナイト』と黒翼の少女『マルガ・ナルゼ』が答えた。

 

「ナイちゃんが思うにソーチョーとセージュンがいないかなぁ?」

 

「正純は小等部の講師のバイト。それから午後から酒井学長を送りに行くらしいから、今日は自由出席のはず」

 

「じゃあ、トーリについて誰か知ってる人いない?」

 

 オリオトライの言葉に、生徒たちの視線が喜美と三日月に集まる。

 

「うふふ……みんな、愚弟のこと知りたいの? 知りたいわよね? だって武蔵の総長兼生徒会会長の動向だものねぇ?

 

 ───でも教えないわッ!」

 

『『『教えないのかよッ!』』』

 

「だって、このヴェルフローレ・葵が賢弟に二四五回名前を呼ばせるまで起きなかった時には、すでに居なかったみたいだしぃ。仕方ないじゃない?」

 

『『『数えてたのッ!?』』』

 

「というか、喜美ちゃん、また芸名変えたの?」

 

「ええそうよ、マルゴット。私のことはヴェルフローレ・葵って呼ぶのよ? いいッ!? いぃいッ!!?」

 

「こ、この前はジョセフィーヌじゃ無かったかな?」

 

「あれは三軒隣の中村さんが飼い犬に付けたから無しよッ!」

 

「とりあえず、喜美は何も知らないと……三日月、あんたは何か知ってない?」

 

 オリオトライの質問に、喜美の隣にいた三日月は喜美のようにふざけるとこなく答えた。

 

「エロゲ買いに行くって言ってた」

 

「……ほ~う? 私の授業をサボって、エロゲを買いにいったねぇ~」

 

 ユラリ…ユラリ…と額に青筋を浮かべるオリオトライの背後に般若が見えたのは、梅組生徒たちの勘違いでは無いだろう。大半の者が、その場に居ないトーリに対して十字を切った。

 

「(次会ったらぶん殴ろう……)まあ、聖連の暫定支配下にある武蔵の総長ならこれくらいじゃなきゃね。

 ……さて、それじゃあ今からルールを説明するわよ。

 先生が事務所に向かっている間、先生に攻撃を当てることが出来たら出席点を五点プラス。意味わかる? 五回サボれるのよ」

 

 生徒たちに堂々と『サボれる』と言うオリオトライの言葉に、何故か表情を表す帽子を被った忍者装束の少年『点蔵・クロスユナイト』が手を挙げた。

 

「先生ッ! 攻撃を『()()』ではなく、『()()()』でいいのでござるな?」

 

「戦闘系は細かいわね~。いいわよ、それで。手段も問わないわ」

 

「では先生のパーツでぇ、何処か触れたり揉んだりしたらぁ、減点されるとこありますか?」

 

「または逆にボーナス(ポイント)出るような所は?」

 

 点蔵に並んで質問するのは、航空系半竜の少年。第二特務『キヨナリ・ウルキアガ』。

 そんな彼らに、オリオトライは笑顔を向けて一言。

 

「───授業始まる前に死にたい?」

 

「「ヒィィィッ!?」」

 

「まあ、バカどもは放っておいて……」

 

 そう言ったオリオトライは後ろに一歩。そして、

 

「───授業開始よッ!」

 

 後ろに跳躍するオリオトライ。突然の事に驚き、梅組の誰もが出遅れてしまった。

 

 

 

 ────たった一人を除いて。

 

 

 

 

「やっぱり来たわね、三日月ッ!」

 

「やれって言ったの、真喜子じゃん」

 

 跳躍し、未だ宙にいるオリオトライに、三日月は一瞬で肉薄。そして、背負っていたソードメイスを振り下ろした。

 オリオトライはすかさず刀で防御。ぶつかった二つは火花を散らし、力は三日月を押し戻し、オリオトライを先へと進ませた。

 

「くッ! 追えッ!」

 

 二人の武器がぶつかる瞬間を見ていたウルキアガが周りに号令をかけ、自身を飛翔する。

 駆け出す梅組。

 

 こうして、彼らの授業は始まった。

 

 

 

 




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