境界線上のIRON BLOODED(※リメイク作品あり)   作:メンツコアラ

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すいません。
諸事情で予定だった『大罪武装』を『わたしのねがい』に変更させて貰いました。
戸惑う方もいると思われますが、ご了承ください。
それではどうぞ。





#10 わたしのねがい

◇◆◇午前8時30分

   後悔通り◇◆◇

 

 

 

 まだ太陽が真上に来ていないからなのか、少し暗く感じてしまうその道を、普段ならもう少し遅い時間に来る筈の浅間は一人で静かに歩いていた。

 彼女の顔色は良いとは言えず、しかし、足運びから風邪ではないことが分かる。では、何が原因なのか。

 全ての原因は昨夜の出来事にあった。

 

 

 昨夜、三河が消滅した。

 原因は地脈炉の暴走。犯人は三河当主である松平・元信公。

 どうして地脈炉を暴走させたのか。その理由を知る者たちは、もうこの世には居ない。

しかし、松平は最後、あるモノを残していった。

 それは『大罪武装の真実』。『人を部品にしている』と噂されていた大罪武装だったが、なんとその噂は本当だったのだ。正確には、人の感情を元にしているらしい。

 だが、問題はそこではない。その元になった人が問題なのだ。

 その者の名前は、ホライゾン・アリアダスト。十年前の今日、この後悔通りで事故死した……いや。した筈の少女。しかも、その本人は『嫉妬』を司る九つ目の大罪武装を与えられ、自動人形として武蔵に送られていたのだ。

 その自動人形こそ、P-01sである。

 

「ホライゾン……」

 

 後悔通りに作られたホライゾンの墓標の前で止まり、彼女の名前を口に出す浅間。

 

 勿論、演説の途中でトーリや三日月がP-01s……いや。ホライゾンを探しに行った。無事に彼女を見つける事が出来たが、そこにK.P.A.Italiaの兵士が乱入。ホライゾンの身柄は拘束され、トーリの総長権限や点蔵たちの特務権限など、あらゆる権限が取り上げられてしまった。

 

(本当に、どうすればいいんでしょう……)

 

 墓標をそっと撫でる浅間。

 そんなとき、彼女に通神が入った。

 

『良かった。やっと繋がった。智ちゃん、今何処にいる?』

 

「ハイディ? 後悔通りにいますけど、こんな朝早くにどうしたんですか?」

 

『早く来てくれないかな。今、ほぼ皆集まっているから』

 

「集まってる? 一体何を……」

 

『とりあえず生徒会兼総長連合会議。議題は「これからどうしよっか?」かな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午前8時43分 武蔵アリアダスト教導院◇◆◇

 

 

 

 まだ予鈴さえも鳴っていない早朝の教室に梅組のメンバーは集まっていた。しかし、普段のようにバカ騒ぎすることなく、静かに席に着いていた。

 そんな中、一人だけ教卓に立つハイディ。

 

「とりあえず、現状を確認するね?

 P-01s……ホライゾンが三河の君主権限と同時に相続した極東代表権限は武蔵の所有権限だけど、ホライゾンは三河の君主として三河消滅の責任を問われて自害させられるの。そうなったら権限は全部聖連に持ってかれて、大雑把に言うと武蔵全体のピンチなんだよね。そんな状況なのに私たちの足並みは一切揃っていない感じね……。

 えっと、ミリアムにミトにマサ、それにセージュンと東くんが欠席ね。あと……───」

 

 ハイディの視線が教室窓際の一番後ろの席で突っ伏すトーリと、その後ろで床に雑魚寝する三日月に向けられた。

 

「あの後、葵くんとミカだけ朝まで説教をくらってたんだ。しかも三日月は正当防衛とはいえ、K.P.S.Italia.の兵士を五人も重症の傷を負わせてる。先に向こうが攻撃してきたから良かったけど、一歩間違えれば牢屋行きだったからね」

 

「そう……ネシンバラくん。ついでに聞くけど、重症ってどんなの?」

 

「一番ましであばら骨や手足等の粉砕骨折。一番酷くて睾丸潰し」

 

『Oh……』

 

「───とまあ、いろいろ問題はあるけど、ホライゾンを救ったり、武蔵の異常を止めた方がいいと思う人、挙手~」

 

『………………』

 

「あ、あれ?」

 

 無音。

 誰も手を挙げない状況に気まずい空気が流れる。

 

「えっと……誰も挙げないの?」

 

「判断材料がない。それを先に言え」

 

「成る程……それもそうね」

 

 ノリキの言葉に納得するハイディだったが、彼女はそこまで具体的な判断材料を差し出すことは出来ない。なら、その手に詳しい人に頼もうと、ハイディは目の前で仕事を続けているシロジロに声を掛けた。

 

「シロくん。ちょっといい? 商人としての意見を聞きたいんだけど」

 

「見てわからんか? 今は仕事中d───」

 

「これってビックビジネスチャンスだと思うの」

 

「金か! 金だな?!」 

 

 シロジロは目を流石、『守銭奴』。ビジネスチャンスを逃すようなら、今目の前にいる男が本人かどうか疑わなくてはならない。

 

「よし、私が話してやる! 貴様ら、よく聞け!!」

 

『お前、最低だよ!』

 

「黙って聞け。私たちが聖連に敵対した場合、何が起こるか。

 第一に、武蔵は寄港地での補給が一切受けられなくなる。これは自給率十パーセント以下のこの艦にとって死に等しい」

 

「あのぉ、質問いいですか?」

 

「なんだ、アデーレ?」

 

「武蔵にも畑とかってありますよね? それじゃ無理なんですか?」

 

 頬に指を当て、疑問符を浮かべるアデーレ。彼女の質問はシロジロではなく、彼女のすぐ側の席に座っていた御広敷に答えられた。

 

「無理ですよ。武蔵の総人口は十万弱。それを支えるために高雄、青梅のいずれか一艦を農地に変えても足りませんし、それを支える人手もありません。分かりましたか?」

 

「うぅっ……なんか、負けた気が……」

 

「気にすんな。御広敷は調理部でロリコンだからな。あの程度の知識あっても不思議ではない」

 

「Jud. 流石、調理部でロリコンの御広敷殿でござるな」

 

「ちっがぁぁぁう!! 小生はロリコンではありません! 生命礼讚という欧州ではメジャーで真っ当な信仰の一種です!」

 

「犯罪者予備軍の話は放っておいて「ちょっとそこ!?」……話を戻そう。武蔵の基本備蓄は二週間分。つまり、聖連に逆らえば一発K.O.と言うことだ」

 

 シロジロの言葉に『ホライゾンは助けられないのか』と断念してしまいそうになる。だが、たった一人……会議開始から呑気にファッション雑誌を見ていた喜美だけは違った。

 

「そこの守銭奴ぉ。勿体ぶってないで教えなさいよぉ。あるんでしょ? それをどうにかする手段が」

 

「ほう……気づいていたか」

 

「当たり前よ。愚民愚衆どもと一緒にしないでくれる? デメリットから挙げたってことは、何かしらの対策があるって事でしょう?」

 

「その通りだ。聖連に敵対しながら補給を受けられるように、唯一、副長権限を剥奪されていない本多・正純を此方側に引き込む」

 

「成る程。父君が暫定議会の議員でござったからな。聖連側に着きたい連中が手駒にしたいはず」

 

「逆に言えば、それは聖連に立ち向かうための札にもなる」

 

「その通り。その為には、総長兼生徒会長のトーリ(そのバカ)をどうにかする必要があるのだが……」

 

 皆は知っている。

 かつて、ホライゾンが死んだ時、大きな精神的負荷を受けたトーリが簡単には立ち上がらない事を。それを立ち直らせる事が出来るのは、恐らくただ一人なのだが、その一人も今は起きそうにない。

 

 どうしたものか……。

 そう皆が頭を悩ませていると、教室の扉が開かれ、オリオトライが紙束を手に入ってきた。

 

「はい、はい、はい! 授業始めるから、席に着いて。今日は皆に作文をしてもらいます」

 

「作文、でござるか?」

 

「そう。タイトルは『私のしてほしいこと』。制限時間は一時間半くらいでいいかしらね。それじゃあ、用紙を配られた人から開始。足りなくなったら言ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆が作文を書き始めてから約一時間後……。

 

(ど、どうしましょう……)

 

 静かな空間にペンや鉛筆を走らせる音が響く中、浅間は一人で頭を悩ませていた。別に題材が決まらない訳ではない。むしろ、与えられた用紙を全て埋める位は出来た。

 問題は……、

 

(私のしてほしいことって題材なのに、なんで……

 ───なんで私とミカのR元服小説が出来上がっているんですか?!!)

 

 最初は真面目に書こうと思った。

 内容も『トーリが迎える筈だった今日を迎えてもらうこと』にするつもりだった。

 そうと決まれば早速書こう。そう思って筆を取ったのだが、ふと思ってしまった。その後は?……と。

 告白して成功したとしよう。その後はどうしてほしいのか。だが、流石に今のトーリでそれを考えるのは酷というものだろう、と浅間はトーリの代わりに三日月で、同時にこのままではネトラレになってしまうとホライゾンを自分と置き換え、告白した後の事を考えてみた。

 その結果である。

 

(ダメです……ダメですよ、これは! 発表どころか、提出も出来ません! ど、どうすれば───)

 

「浅間。もう埋めたみたいだけど、紙いる?」

 

「へ!? あ、いや、完成したので大丈夫です!」

 

「じゃあ、発表してくれる?」

 

「そ、それは、出来ないといいますか……じ、実は邪念を感じて、作文の代わりにそれを書いて封じたんです! しょ、焼却炉に行っていいですか?」

 

「授業終わってからね。あと、内容気になるから後で見せてね」

 

(そ、そんな……)

 

「じゃあ、代わりに……」

 

 絶望を顔に浮かべる浅間を放っておいて、教室を見渡すオリオトライ。皆はまだ出来てないと首を横に振って訴えるが、たった一人だけ……鈴だけは小さく手を挙げた。

 

「わ、わた、し、出来て、ます」

 

「……分かったわ。じゃあ、鈴。貴女の作文を読んでもいい?」

 

 オリオトライの質問に『Jud.』と答える鈴。彼女自身は喋ることがあまり得意ではないため、今回は近くに座っていた浅間に代読することになった。

 

「……では、代わりに奏上いたします。

 

『わたしのしてほしいこと』 さんねんうめぐみ むかい すず

 

 "わたしには、すきなひとがいます"」

 

 小さな少女の作文は……願いが籠められた文書は小さな告白から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

" 私には、好きな人がいます。

 

その人は不器用だけど、とても優しい人です。

 

ずっと昔のことでした。

小等部の入学式の ときでした。

 

わたしは嫌でした。教導院に行くのが嫌でした。

 

私の家は、お父さんもお母さんも朝から働いています。

二人は来られませんでした。

 

私の入学式は一人でした。

でも、二人が心配するので泣きませんでした。

でも、本当は『おめでとう』と言ってほしかった。

 

教導院は、表層部の高い所にあります。

私の嫌いな階段も長くあります。

 

だから、階段の前で考えました。

おめでとう、と言われないのなら登らなくていいか、と。

 

他の人は気づかず、お父さん、お母さんと登っていきます。

私は一人でした。

だけど───

 

 

『ねぇ。なんでないてるの?』

 

 

その人は一人でした。

一緒に来る筈だった人は寝坊して、後から来るみたいで、一人で教導院に来ていました。

その人はそっと手を取ってくれました。

 

 

『いっしょにいこう』

 

 

その人に手を引かれ、私は階段を登りました。

おぼえています。

わたしはおぼえています。

その人の大きな手のぬくもりを。

そして、

 

 

 

『お!? ミカ、さっそくかのじょを作ったのか!』

 

『三日月、その子どうしたの?』

 

 

 

二人も二人だけでした。

 

その後、私たちは四人で登って、気付けば、私は一人で階段を登っていました。

一番上にたどり着いたとき、三人は『おめでとう』と言ってくれました。"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「" 高等部にも階段はありましたが、私は一人で登れました。

 でも、ミカとトーリくんは入学式のとき、一度だけ手をとってくれました。

 

 でも、そこにホライゾンは居ませんでした。"」

 

 それは、目の見えない少女の小さな願い。

 

「"私はミカが好き。

 

  トーリくんも好き。

 

 ホライゾンも好き。

 

  みんなが好き。

 

  みんなと笑っているミカが好き。

 

 私はもう大丈夫。だから、あのとき私を助けてくれたように─── 」

 

 ガタッ、と音を上げ、鈴が勢いよく立ち上がったかと思えば、涙を流しながら続きを、思いを、願いを叫ぶ。

 

「お願い! ミカ! ホライゾンを……皆を───」

 

 そんな彼女の頭に、そっと手が置かれた。

 

「へ───」

 

 その手を鈴は知っている。昔とは違うけど、昔と同じ大きな手のぬくもり。

 

「泣かないでよ、鈴。

 

 俺はここにいる」

 

「ミカ───……あ、あのね、手を、出して」

 

「……こう?」

 

 三日月は鈴の前にそっと手を出すと、彼女はその手に自分の手を合わせた。決して大きくは無いけれど、昔と同じで、昔とは全く違う手がそこにはあった。

 

「ちゃんと、私、大きく、なってる、よ?」

 

「うん。知ってる」

 

「もう、昔、じゃない、から、だから「ごめん」───え?」

 

「俺、バカだから、どうやればホライゾンを助けられるかなんて分からない」

 

 ───でも、と三日月は手を離し、目を閉じた。。

 

「俺のしてほしいこと、それだけは分かる」

 

「へぇ? じゃあ、次は三日月に発表してもらいましょうか」

 

「発表する前に……皆。俺が言ったこと……十年前、ホライゾンが死んで、皆に言ったこと覚えてる?」

 

 皆の方を向かずに問いかける三日月の質問に、点蔵が……それに続き、浅間やマルゴット、ナルゼたちが答えて行く。

 

「Jud. 誰一人、忘れてなんかいないでござるよ」

 

「……ホライゾンが言っていた。いつの日か、皆の願いが叶う場所が出来ますようにって」

 

「ホライゾンは死んだ。でも───」

 

 

 

 ───俺の中にホライゾンの言葉が、

            まだ生きている。

 

 

 

 ホライゾンの願いが生きている。

 なら、俺はその願いを全力で叶える。

 俺の……ホライゾンの願いの邪魔をする奴は、何処の誰であろうと全力で潰す。

 何処の、誰でもだ。

 

 

 

 

「───だから、自分達の願いを叶えろ。そうすれば、そこがホライゾンの願った場所になる。

 死ぬまで生きて、自分達の願いを果たせ。

 

 あの時、俺はそう言った。

 

 でも、ホライゾンは生きていた。なら、願った本人が居なきゃ、そこはホライゾンの願った場所にはならない。だからこそ、ホライゾンを助ける。

 その為に───教えてくれよ、トーリ」

 

 三日月は振り返り、問いかける。立ち上がり、自分の後ろに立っていた兄に。

 

「そこで振るのかよ、ブラザー。ここは一人でカッコよく決めないのかよ」

 

「だって、それが俺のしてほしいこと。

 教えてくれよ、トーリ……葵・トーリ。

 俺はどうすればいいの?

 何をすればいいの?

 ホライゾンが願って、トーリが目指そうとした場所に辿り着けるのなら、俺は破壊だろうと、人殺しだろうと、何だってやるよ」

 

「なら、俺から言うことは一つだ。

 ───助けに行くぞ、ホライゾンを」

 

「Judgement.」

 

 ゴっ、と拳と拳をぶつけ合う二人。

 そんな二人の背中に迷いは無かった。

 

「───で? どうやって助けるつもりだ」

 

「それ聞いちゃう? 

 

 

 

 ───ぶっちゃけ分かりません」

 

 

 

 

 

『お前、台無しだよ!!!』

 

 

 

「まあ、まあ、まあ。そんな訳で、次は俺が発表するぜ?

 『私のしてほしいこと』 

       三年梅組葵・トーリ

 

 

 力、貸してくんね?」

 

 テヘ♪、と舌を出して手を合わせるトーリだったが、次の瞬間、クラスメイト達の手で

容赦なく簀巻きにされた。




あかん……どうやっても、()()B()G()M()が流れる……
トーリがアイツにしか見えない……
これ、大丈夫かな……
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トーリとホライゾンの対話までキング・クリムゾンしていい?

  • 問題なしd(^-^)
  • ダメです(ヾノ・∀・`)
  • いいからバルバトスをよこせ
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