境界線上のIRON BLOODED(※リメイク作品あり)   作:メンツコアラ

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明けましておめでとうございます。
新年早々の投稿です。
それではどうぞ。






#12 矛盾の強者

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 理不尽の塊

 信念の塊

 

 

 

 

配点《葵・三日月》

 

 

◇◆◇午後1時05分

     奥多摩・居住区◇◆◇

 

 

 

 

 普段なら聞こえてくる住人たちの声は消え、静寂に包まれる居住区だったが、一角だけ例外があった。

 

「チッ! ちょこまかと逃げるんじゃないよ!」

 

「逃げるに決まってるでしょ!」

 

 聞こえてくる叫び声と武神の駆動音、そして金属が固いものにぶつかった時に聞こえる金属音。現在、奥多摩は直政が操る地摺朱雀VS三日月の相対が行われていた。

 武器の大型レンチを振り回す地摺朱雀とその攻撃を避け続ける三日月。一見、前者の方が有利に見えるかもしれないが、内心焦っていたのは直政の方だった。

 

「このっ……!」

 

 屋根から屋根へ。時に地面へ降りたと思えば股下を潜って背後に回り攻撃し続ける三日月。一方の地摺朱雀の攻撃は大振りで一撃は重いが、三日月には簡単に避けられてしまう。しかも三日月は武器が使い物にならなくなったとしても、

 

「シロジロ! 武器追加購入!!」

 

『よし! どんどん金を使っていけ!』

 

『追加の片手斧とブレードを送るよ』

 

 次の瞬間、三日月の進行先に両刃の片手斧とブレードが転送され、三日月は片手斧を掴むと直政に向かって投擲。咄嗟にそれを防ぐ直政の隙をついてブレードを装備した三日月はすぐさま地摺朱雀へと迫った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、モニターで二人の戦いを眺める正純はミトツダイラに問いかけていた。

 

「ミト。三日月の戦闘スタイルは確か近接戦闘型《ストライカー》だったよな?」

 

「ええ。その通りですわ」

 

「しかし、先程の動きは点蔵と同じ忍の動きだ。それだけじゃあない。槍や斧、剣などの多種の武器を扱う者はすべてを極める事が出来ないと言うのに、戦闘には素人の私ですら分かるほど、三日月の動きは洗礼されているように思える」

 

「それは三日月が教わったからですわ。彼は強くなるためにあらゆる人物を師事していましたの。術式に関することは武蔵から、戦闘に関しては真喜子先生から、槍に関してはあの本多・忠勝から……三日月が師事する人物は少なくとも十人近く居ますわ」

 

「十人も!?」

 

 本来、師事する人物を十人も取ることなんてあり得る話ではない。違う分野だからといっても、それら全てを短期間で熟練者レベルまで鍛えるなんて無理な話だ。体は勿論の事、精神もついていけないだろう。

 

「何故、アイツはそこまで強くなろうとするんだ? 何か理由でもあるのか?」

 

「そういえば、正純は知りませんでしたわね。三日月の体質について」

 

「アイツの体質? 何か、悪い病気でも持っていたのか?」

 

「病気よりもたちが悪い。この世界において、致命的になりかねない事ですわ」

 

 ミトツダイラは真剣な目で正純に語る。

 

「───三日月は術式が効かず、自身も使うことが出来ませんの」

 

「術式が、使えない……?」

 

「正確には流体の影響を受けないと言った方が正しいですわ。どういうわけか、三日月の体は流体を体表で弾いてしまってますの」

 

 それはつまり敵の術式を受けることはないが、同時に回復や補助となる術式を受けなくなってしまうということ。同時にどういう訳なのか、三日月自身も直接術式を使えないときた。思い返してみれば、確かに三日月は通信するとき、今は使われていない通神用のデバイスを使っていた。

 

「……だが、三日月は只の人間だ。なのに加護も得ることが出来ない彼がなんで超人的な動きを出来る?」

 

「恐らくはあと少しでその理由が分かりますわ」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇ 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり硬いな……)

 

 攻撃を続ける中、三日月は直政に決定打を与えることが出来ずに攻めあぐねていた。

 武器を次々に購入していくが、これ以上は流石に財布事情がきつく、かと言ってもこのままでは体力が限界を迎えて三日月が負ける。

 

(なら、あれしかないか───)

 

 三日月は通神用デバイスを操作し、ある少女に通神を繋げた。

 

「───智、ちょっといい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「智ぉ。賢弟から電話?」

 

「えぇ……()()を投与して欲しいと……」

 

「ならしてあげなさい。あの子が必要だと思ったのなら答えてあげなきゃあ、ね?」

 

「……分かりました」

 

 浅間は術式を展開。それに連動して、モニターに写る三日月の背中……正確には、背中に付けられたカバーに同じものが浮かび上がる。

 

「三日月、今から投与を開始します。濃度は0.5割。それ以上は許可しません……後でお説教ですからね?」

 

『分かった。ホライゾンを助けた後でね』

 

 浅間は決意した顔つきで術式に浮かび上がった承認を押す。次の瞬間、三日月の様子が急変した。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「────ッ!!」

 

 地摺朱雀と戦闘する三日月だったが、突然足を止めたかと思えば、その体をビクンと大きく震わせた。

 

「ついに使ったか……!」

 

 直政は冷や汗を流し、彼女の視線の先に立つ三日月は鼻から血を多量に流し、しかし、その眼光をより鋭くしていた。

 足に力を入れる三日月。直政は身構えるのだが、次の瞬間、地摺朱雀に強力な衝撃が襲った。

 

「く───!?」

 

 建物を崩しそうになるが、ハイディが地摺朱雀の『労働』が建物に影響を与えないようにしているため、その心配ない。心配すべきは次の三日月の行動だ。

 直政は咄嗟の判断で肩に乗って操縦する自分の体を守るように地摺朱雀の片手で覆う。その瞬間、地摺朱雀……正確には、直政を守る手に衝撃が襲った。

 吹き飛ばされる地摺朱雀。何とか態勢を立て直した直政は自身を殴り飛ばした人物を睨み付けた。

 

「やってくれるじゃないか、三日月!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何をしたんだ、アイツは……!?」

 

 思わず正純が声をあげるが、無理もないだろう。何せ、三日月が十トンもある重武神を()()で殴り飛ばしたのだ。

 あえて、もう一度言おう。素手で、だ。

 先程までの戦い方を見ても三日月にそれほどの力があるとは思えない。正純は困惑するなか、ミトツダイラが説明を始めた。

 

「三日月が背中に着けているカバー。あれは何かご存知?」

 

「あ、あれは確か……背中の突起を守るために着けているんじゃあ───」

 

「それもありますが、もう一つだけ……あのカバーには細工が有りますの。それは薬品投与機。智の許可で濃度等を設定し、三日月の体に投与する装置ですわ。中身の薬品は()()()()()()()()()()()()

 

 聞けば、人の肉体は全体の数割程の力を脳で無意識にブレーキをかけている。故に、もしブレーキを外す事が出来れば、人は普段の何倍の力を発揮することが可能だろう。

 術式が使えない三日月は他の者たちと並び立つためにそのブレーキを壊す劇薬を使っているのだ。無論、何もリスクが無いわけではない。

 

「ブレーキを壊せば、連鎖的に他もダメになっていく。そんなリスクしかない投薬を、三日月は過去に何度もやっていますの。恐らく、三日月の寿命はもう……」

 

「そんな……」

 

 ミトツダイラから教えられた衝撃の事実に正純は唖然としたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ちていた大槌を手に、地摺朱雀と同等以上の戦闘を繰り広げる三日月。だが、地面や建物に塗られていくのは三日月の血だけ。そんな彼の姿に耐えられなくなったのか、直政は三日月に訴えかけた。

 

「なんであんたはそうやって自分を犠牲にする!? そんなことをして、何の意味がある!? これからの戦い、あんたは同じことをする筈さ! そうなりゃあ、あんたの残された命はどうなる!? 未来には、あんただけが居ないんだ! なんで……なんで一人だけ犠牲になろうとしている!! 答えろ! 葵・三日月!!」

 

 それは大切な仲間としての思いか、はたまた別の感情からか……どちらにせよ、直政の切実な思いが三日月に送られた。そんな彼女の思いに、三日月はこう答える。

 

「───俺は、誰の犠牲にもなっていない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 

「そこの貧乏政治家。さっさと戻って来なさい」

 

「だ、誰が貧乏政治家だ!!」

 

 唖然としていた正純だったが、喜美の理不尽な呼び名によって現実に戻される。否定は出来ないが、反射的に否定する正純だったが、喜美はそれらを無視して正純に語りかけた。

 

「セージュン! いいことを教えてあげるわ。貴女は知らない! 私たちの賢弟の事を微塵も! 欠片も!

 

 あの子はねぇ、矛盾の塊なの。人一倍生きることに意地汚い癖に、自分の命を賭ける時は潔く賭ける……でも、だからこそ、この武蔵で強者になれた。そんな『矛盾の強者』があの子なのよ」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は誰の犠牲にもなっちゃいない!」

 

「な───!?」

 

「俺は誰の犠牲にもなってない! 俺は自分と仲間のために出来ることを精一杯やってるだけだ! ……で、今は───とりあえず、直政(お前)が邪魔だ!!!」

 

 三日月は渾身の力を使い、直政に向かって大槌を投げつける。直政はそれを難なく受け止めるが、つぎの瞬間には少し目を離しただけだと言うのに三日月の姿を見失う。

 

「くそ! 何処に───」

 

 居るんだ、と続けるはずだった直政だったが、それ以上の言葉が紡がれることがなかった。何せ、後ろを振り返れば、目の前に居合いの構えを取る三日月の姿があったのだから。

 

(野郎! まさか、()()()()()使()()()───)

 

 冷静に状況を整理する間もなく、三日月は刀を抜こうとする。さすがの直政もせめて痛みだけは耐えようと固く目を閉じるのだが、彼女を襲ったのは軽い衝撃だけだった。

 

「───……はぁ?」

 

 目を開けた直政が見たのは自分の頭にチョップする三日月の姿。

 そんな彼の姿に緊張が抜け、同時に自分は敵わないと諦めるた直政は地摺朱雀の肩の上でへたりこむ。

 

「ああぁ。敗けだ、敗け。あたしの敗けさね」

 

 直政が敗けを認め、それを確認したオリオトライが勝敗をジャッジ。三日月の勝利を告げた。

 

 

 

 

 周りが勝敗を終えたことで一息ついている中、三日月はへたりこむ直政に手を差し出す。

 

「……なんだい、その手は? あたしは邪魔じゃあなかったのかい?」

 

「さっきはそうだったけど、今は違うでしょ? 直政の力が必要だ。ホライゾンを助けるために力を貸して」

 

「……はぁ。やれやれさね。そんな顔で頼まれちゃあ、断れねぇだろ」

 

 直政は三日月の手を取り、トーリたちは機関部を味方につけることが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 





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トーリとホライゾンの対話までキング・クリムゾンしていい?

  • 問題なしd(^-^)
  • ダメです(ヾノ・∀・`)
  • いいからバルバトスをよこせ

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