境界線上のIRON BLOODED(※リメイク作品あり) 作:メンツコアラ
これは何でなんだ?
誰か教えてくれ。
◇◆◇◆◇◆◇
かの者は導く者であり
同時に理不尽の塊
配点《オリオトライ》
◇◆◇午前8時50分◇◆◇
三日月達の住まう武蔵は八つの艦が幾つものバイタルケーブルに繋がれて構築されている。その内の一つ、奥多摩と多摩を繋ぐケーブル付近を百メートル三秒近くの速度で走るリアルアマゾネスと、その後ろ同じスピードで走る少年が居た。
「逃げるなよ……ッ!」
「残念だけど、そうはいかないわよッ!
(といっても、手加減してるとはいえ、やっぱり三日月は速いわねぇ。……さて、そろそろシロジロから商品買ったナイト辺りが仕掛けて来るかしら?)」
オリオトライの勘は当たっていた。
「いいぞ貴様らッ! もっと金を使えッ!」
彼らから少し離れた場所にある商店街で、ニコニコと笑顔を浮かべるシロジロが両手では数えきれないほどの契約申請の鳥居画面を手でもみ、契約を成立させていた。
「契約成立ッ♪! ありがとうございましたー♪」
「そぅら商品だッ!」
「商品ありがと~」
術式を上に投げるシロジロ。
マルゴットとナルゼのコンビは自分達が乗る箒に術式を書き込み、それを発射台として、宙に浮かぶ投げられた術式に向かって射撃を開始する。
「行っけ~ッ!」
発車された弾はシロジロの術式に当たると10個以上に分裂。弾幕となってオリオトライに襲いかかるが、彼女は僅かにスピードを落としただけでそれらを全て避けきり、その後ろを走っていた三日月は避けることが出来ずに足止めされてしまった。
「ごめん、ミカぁ」
「三日月、大丈夫ッ!?」
「大丈夫ッ! ちょっと足止めされただけッ!」
三日月は再び走り出す。しかし、オリオトライとの距離は先ほどの倍近く。
さて、どうしよっか……。
そう考える三日月の横を、小さな影が走り抜いた。
その影……穂先を潰した大型ランスを持つ、小柄なメガネ少女はバイタルケーブルを走るオリオトライと並んだ。
「あら、アデーレ。貴方が三番目?」
「はいッ! 自分、脚力自慢の従士ですんでッ!」
二人はそのまま多摩の商店街に入り、オリオトライが前を、その後ろを少女が追いかける形で建物の上を走っていく。
「それでは従士 アデーレ・バルフェットッ! 三番槍行きますッ!」
タイミングを合わせて加速術式を展開し、一気にスピードを上げてオリオトライに突撃していく。
まずは初擊。アデーレが突き出した槍を、オリオトライは肩にかけていた刀を外し、一切抜くことなく防御。だが、防がれることは折り込み済み。
二擊目。今度は槍を動かさず、自分だけが回転して、その時に生じる遠心力を槍に乗せて打ち出す。それにはオリオトライもいい意味で予想外だったのか、その顔に笑顔を浮かべるも、またもや防がれてしまう。
それでも終わらないと攻撃を仕掛けるが、仕掛けるに連れて術式で強化された速力も徐々に落ち始めていた。
そして、術式の効果が切れた瞬間、オリオトライが反撃とばかりに槍を横に蹴飛ばした。
ここで軽く説明するが、アデーレの筋力はそこまで強い方ではない。よって、急に槍に横向きの力が加わってしまうと、槍自身の重量に振り回されてしまう。
「あ、あ~~~れ~~~ッ!?」
槍に振り回されるアデーレ。そんな彼女の後ろから何かが上に飛び上がった。
まさか、もう三日月が追い付いたの?、とオリオトライは構えるが、現れたのはターバンを巻いた褐色肌の少年『ハッサン・フルブシ』だった。彼の手の中には何故か、直径一三〇センチの大皿に盛られたカレーがあり、要らぬ情報かもしれないが中辛である。
「カレーッ! どうですカァッ!?」
「お昼に貰うわッ!」
そう答えたオリオトライは未だにフラフラと回り続けるアデーレの襟首を掴み、力一杯振り回した。アデーレの持っていた槍はそのままハッサンの腹に命中し、彼を来た道に戻した。
「ふぇ~…ご、ごめんなさい~」
目を回すアデーレ。そんな彼女の後ろに回ったオリオトライはプロ野球選手のバッティングフォームを思わせる整った構えをとり、
「よいしょッ!!!」
「あいたぁぁぁぁッ!?」
乙女のお尻を、鞘に収まった刀で容赦なく打ち込んだ。
アデーレは痛みの悲鳴を上げながら空に舞う。
「ほらほらッ! アデーレとハッサンがリタイアしたわよッ!」
オリオトライの言葉に、ちゃんとした道を走っていたメガネの少年『トゥーサン・ネシンバラ』が通神を開いて、周りに指示を出していく。
「イトケン君ッ! ネンジ君とでハッサン君のバックアップにッ! アデーレ君は誰か救護できるッ!?」
『トゥーサン。アデーレが飛んできたから受け止めたけど、どうすればいい?』
「ナイス、三日月君ッ! 適当な所に置いといていいよッ!」
『分かった』
『あいたッ!? 三日月さん、もうちょっと優しく下ろして下さいッ!』
『ミカッ! レディはもっと優しく扱いなさいなッ!』
『あ、ごめん』
一方、ネシンバラの指示で屋根の上で延びているハッサンの保護した一人の男。全裸、ハゲ、マッスルとただの変態にしか見えない、頭部にコウモリの翼を生やした一人の少年はハッサンを抱えると、商店街の人々に恭しくお辞儀をした。
「おはようございますッ! 怪しいものではありませんッ! 淫靡な精霊インキュバスの伊藤・
容姿とは違い、紳士的な対応をする伊藤・健児……通称『イトケン』だが、商店街の者たちは不審者を見る視線を向けていた。それを少し離れた所から見ていた赤いスライム『ネンジ』が心配そうに声をかけた。
『大丈夫か、イトケン殿?』
「大丈夫だよ、ネンジ君。こんな視線は慣れっこさ。さあ。品川に急ごうッ!」
『うむッ! 了解したッ!』
ネンジは強く頷き、体を品川に向けて移動を開始しようとする。
しかし、
───グシャリ、とその丸々とした体が喜美に踏みつけられてしまった。
「ネンジ君ッ!?」
「あら、御免ね、ネンジぃッ! 悪いとは思ってるのよッ! ええ、本当にッ!!」
屋根の上を走りながら声を上げる喜美。そんな彼女に、その場で一人だけ地べたを走る、ボリュームのある銀髪の少女。第五特務『ネイト・ミトツダイラ』が叫んだ。
「喜美ッ! 貴方、人に謝るときは誠意を見せなさいッ! 少しはミカを見習ったらどうですのッ!」
「クククこの妖怪説教女めッ! しかし、ミトツダイラッ! あんたさっきからミカばっかりッ! そんなに家の賢弟の事が好きなのかしら?」
「な───ッ!? べ、別にそういうわけではなく確かにミカは同じ総長連合の仲間でありクラスメイトでありもちろん異性としても好意を持てますが───って、何を言わせますのッ!?」
「別にいいわよ? もし、あんたが賢弟と付き合うってんなら義妹として歓迎するわよ。これは本気よッ! 本気ッ! だって玩具が増えるんですものッ!!」
「~~~~ッ! 貴女ねぇぇぇッ!」
『ふぅ……今のは危ない所であった』
「ネンジ君。君、再生できるからって無茶したらダメだよ?」
『心配無用。しっかりとガード体勢をとっていたからな』
(ガード? その体でどうやって……?)
◇◆◇準バハムート級航空都市艦〔武蔵〕艦橋◇◆◇
それを夜に見れば、軽いホラーのように見えるだろう。
誰が持っているわけでもないのに、ただ独りでに動く掃除用品。そんな場所から一人の女性……いや。自動人形、武蔵総艦長『武蔵』が多摩の商店街区画を見下ろしていた。
「武蔵さんは朝から掃除かい?」
そんな彼女に声をかける男性が一人。
「Jud. 酒井学長。───以上」
男性……酒井・
所々から舞い上がる爆発の煙から、酒井は使われている術式を判断。答え合わせとばかりに口に出した。
「連射重視の非加護射撃か……術式も同様のものを用いている……屋根上一直線ならそれで十分だが、企業区画となるとねぇ。近接攻撃系の出番かな?」
「Jud. 恐らくはそうかと。───以上」
「となると、君の愛弟子が活躍するかな?」
「ええ。そうでないと鍛えた意味がありませんので。───以上」
「そうかい。……ところで、さっきから気になってたんだけど、何を見てるの?」
「弟子のリアルタイムの映像ですが何か? ───以上」
◇◆◇◆◇◆◇
多摩は品川の側にあり、オリオトライの脚力なら残り五分もしないうちに品川に到着するだろう。そこは貨物船で奥多摩や多摩のような店などが無いため、ほぼ一直線に走ることが出来る。
そうなってしまえば、攻撃を当てることは不可能。今のうちに決めなければならない。
その一番手に出たのは、
「ここで来るのは貴方だと思ったわ、点蔵ッ!」
「
身体能力のみの加速で、一気にオリオトライとの距離を詰める点蔵に対して、彼女は刀を鞘に納めたまま振り下ろそうとすが、それが点蔵の狙いだった。
「今でござるよッ! ウッキー殿ッ!」
「応ッ!!」
ほんの僅かにタイミングをずらし、空から突撃してくるのはウルキアガが突貫。
刀の振り下ろす範囲とスピード。それらを考えてウルキアガを対処することは出来ない。点蔵を迎撃する時にはウルキアガの攻撃をくらうのは確定。
しかし、
「甘い───ッ!」
「「───ッ!?」」
点蔵たちがニヤリッと笑みを浮かべるオリオトライに気づいたときには遅く、鞘の留め具を外した事でリーチを伸ばした武器に、ウルキアガは脳天を容赦なく叩きつけられた。
オリオトライは鞘に着けたベルトを噛み、首の捻りだけで鞘を引き戻し、そのまま点蔵に打ち付けた。
(───だが、それも想定済みッ!)
腰に差した愛用の忍者刀を抜き、オリオトライの刀を受け止める。その際、決して押し返すことはせず、衝撃を全て関節を使って吸収し、本命を呼んだ。
「ノリ殿ッ!」
「呼ばなくてもいいッ!」
点蔵の後ろから迫る少年『ノリキ』は打撃力を上げるために術式を拳に付与する。
「あら、ノリキが本命?」
「分かってるなら言わなくていいッ!」
───タイミングはバッチリ。これならッ!
しかし、現実は非常だった。
オリオトライが刀を離し、ノリキの顎を狙って剣先を跳ね上げたのだ。
「───ッ!? ちッ!」
顎に直撃する前に、ノリキはオリオトライにぶつけるはずだった拳で刀を殴り飛ばす。その方向は品川方面。オリオトライは刀を追いかけ、その場を颯爽と去っていった。
「残念……」
「無念でござる……故に───後は御頼み申すッ! 浅間殿ッ!」
◇◆◇◆◇◆◇
点蔵が呼ぶ前に、後方組にいたその少女は動いていた。
黒髪長身、左目にエメラルド色の義眼を入れた少女『浅間・智』は腰に掛けていた折り畳み式の弓を取り出し、展開、弦のチューニングを瞬時に終わらせる。
しかし、走りながら矢を放てるはずもなく、止まってしまうと矢の射程範囲外まで逃げられてしまう。
「ネシンバラ君ッ!」
『分かってるってッ! ペルソナ君、足場をお願いッ!』
ネシンバラの言葉に、一人の少女を左肩に乗せたバケツ型ヘルムを被った巨漢『ペルソナ君』が屋根の上に登り、浅間の元に駆け寄って、空いている右腕を前に突き出した。
浅間はペルソナ君の腕に飛び乗ると、地脈接続を開始。義眼が光り、展開された照準術式越しにオリオトライの背中を見る。
「行きますッ! 浅間神社経由で神奏術の術式を使用しますッ!」
浅間の言葉に合わせるように、彼女の襟元のコの字型端末『ハードポイント』の一部が開き、そこから巫女の姿をした二頭身の
「浅間の
【神音術式四つだから、代演四ついける?】
「代演として、昼食と夕食に五穀を奉納ッ! そのあと二時間の神楽舞とハナミとお散歩+お話ッ! オッケーだったら加護頂戴ッ!」
【んー…………うんッ! 許可でたよッ! ───拍手ッ!】
パンッ、と優しい音が響くと同時に、浅間が構える矢に四種類の術式が付与された。
「義眼 " 木葉 " 会いましたッ! ───行ってッ!」
放たれる光を帯びた矢。
それに対して、オリオトライは一瞬だけ刀を僅かに抜き、すぐに戻して鞘に納めた状態で切り落とそうとする。
「無駄ですッ! 回り込みますッ!」
振り下ろされる刀を避け、まっすぐオリオトライの元に飛ぶ矢を見て、出席点ゲットッ!、と確信した浅間だが、彼女に当たる直前、術式と共に矢が砕け散った。
その衝撃を利用し、オリオトライは更に品川方面へと進む。
「そんな……ッ!? 食後のアイスが……何で……」
『髪だッ! あのとき刀を一瞬抜いたのは自分の髪を切って、空中にばら蒔くためだったんだッ! それがチャフとなって、先生に当たったと判断されたんだッ!』
「そんなのありですか……ッ!」
「あ、浅間、さん。だ、大丈、夫?」
ペルソナ君の腕の上でへこむ浅間を、反対側に座っていた少女が心配する。
前髪で目元を隠した少女『向井・鈴』にため息を吐きながら大丈夫と返す浅間。
「大丈夫です。ええ。本当に……」
「あ、後は、きっと、ミカ、がやって、くれる、よ」
「そうでしょうけど、あのリアルアマゾネスに攻撃を当てるのは至難の技だと思いますよ?」
「だ、大丈夫、じゃない、かな? だって、マルゴット、たちと、作戦、立てた、みたい、だし」
◇◆◇◆◇◆◇
多摩と品川を繋ぐバイタルケーブル。
ついに足を踏み入れたオリオトライ。このままでは一分もしないうちに品川に入られてしまうだろう。だからこそ、これがラストチャンス。
「行くわよッ! マルゴットッ!」
「はいはいガっちゃんッ! 急ぐと危ないよッ!」
飛行媒体である箒から身をのりだし、重力に従って落ちていくマルゴットとナルゼは空中で手を繋いだ。
「
「堕天と墜天のアンサンブルッ!」
翼を広げ、空気を圧縮。ある程度溜まったところで解放し、その時に生じたエネルギーを利用してオリオトライの前に出た。
「術式主体の二人が追い付いたわけ? それでみんなの術式展開の時間稼ぎに、わざわざ出てきたわけだッ!」
「そう言うことッ! 授業だから
「行くよガっちゃんッ!」
マルゴットが箒の穂先をオリオトライに向け、それにナルゼが術式を書き込んだ弾を装填する。後は狙いをつけて放つだけ。
「いっけ~ッ!
先ほどとは比べ物にならない威力の弾が発射される。しかし、その弾丸はオリオトライに当たることはなく、彼女の頭上を越えていった。
「ちゃんと狙いなさいッ! そんなんじゃ、全員リタイアよッ!」
背後に感じる気配から他の生徒が追い付いて来ていると判断し、同時にマルゴットの弾丸が直撃コースにあると思ったオリオトライはマルゴットたちに注意をとばす。
しかし、その考えは違った。
「かかったねッ! 先生ッ!」
「やっちゃって───三日月ッ!」
「えッ!? マジでッ!?」
慌てて振り返るオリオトライ。
だがしかし、その時には既にバイタルケーブルの上を走るメンバーの前に出た三日月がソードメイスで弾丸を弾き返していた。
『『『いっけぇぇぇぇぇッ!!』』』
勝利を確信し、梅組全員の声が重なる。
───今日こそ、このリアル独身アマゾネスに勝てるッ!
───今までの無茶ぶりの仕返しだッ!
そんな各々の思いを込めての叫び。打ち返した本人も『貰ったッ!』と口角が上がった。
────が、オリオトライに当たる瞬間、チンッと乾いた音が響き渡り、弾丸が左右に分裂……いや。両断された。
『『『────は?』』』
「───あれ?」
全員の口から呆けた声が出ている隙に、納刀を終えたオリオトライが一瞬で三日月との距離を詰め、
三日月は防御するが、呆気なく隣のバイタルケーブルに叩きつけられてしまう。
「───あ、いっけね。マジでやっちゃった。……まっ、いっか」
『『『良くねえよッ!!!』』』
「ガっちゃんヤバイよッ!! 三日月が落ちていくよッ!!」
「急いで行くわよッ!!!」
◇◆◇◆◇◆◇
「惜しかったねぇ。あそこで真喜子君がマジにならなかったら勝ってたのにねぇ。……ところで、三日月君は大丈夫かな?」
「Jud. 既に術式を展開し、受け止める準備は出来てます。───以上。
ところで酒井学長。あのリアルアマゾネスの給料を二割カットしといてください。───以上」
「いや、流石にそれはやりすぎなんじゃ───ああ。Jud. やっておきますんで、モップとかを向けないでくれ」
「分かればよろしい。───以上」
「……さて。武蔵と極東を取り巻く、この果てしなく面倒な世界で、彼らはこれからどう生きてくのかね……?」
「推測しかねますが『聖譜』によれば、そろそろ世界の全てが終わりです。───以上」
「末世か……」
読んでいただき、ありがとうございます。
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