境界線上のIRON BLOODED(※リメイク作品あり)   作:メンツコアラ

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◇◆◇午後1時 06分

   三河関所前街道◇◆◇

 

 

 

 

 

 雲一つない青空の下、三河へ続く街道。多くの者が三河から足を運ぶなか中、一組だけ他の者たちとは逆……つまり、三河へ向かう二人の男性……いや。一人は男性、一人は男装をした女性のペアがいた。

 

 そう。

 三河にいる旧友に呼び出された酒井と、そんな彼を関所まで見送る事になった正純である。

 

 

 

「───ってな訳で、トーリの告白前夜祭をするんだってさ。正純くんは夜どうするの? トーリたちとバカ騒ぎする?」

 

「騒ぎません。それに、そんな事をしてると聖連に知られたら───」

 

「ま、そういう過ごし方もありだってことさ」

 

「だとしても限度が……」

 

 

 他愛のない会話をする二人。そんな中、酒井はチラチラと自分達の横を通り過ぎる者たちを見ていた。

 

 

「……どうかされましたか?」

 

「いや。シロジロの奴に聞かれたんだが……確かに今日は変だ。気づいてるかい?」

 

「変、ですか? ……そういえば、武蔵への荷はあっても三河への荷がありませんね。こう一方的だと、まるで三河が形見分けをしているような───」

 

「オイオイ。物騒な事を言わないでくれよ。俺、今その三河に行ってるんだよ?」

 

 

 たはは、と苦笑する酒井。

 そんなとき、日の光を遮り、一艦の航空艦……極東の瀬戸内付近に存在する国家『K.P.A.Italia』の教皇総長『インノケンティウス』が所有するヨルムンガンド級ガレー『栄光丸』が二人の上を通りかかった。

 

 

「栄光丸か……そういや教皇総長、大罪武装開発の交渉に来たんだって?」

 

「はい。情報が正しければ」

 

 

 ───『大罪武装』。

 それは二人が向かう三河の当主、元信公が制作した、この世のパワーバランスを担う、七大罪の原盤となった八想念をモチーフにした八つの都市破壊級個人武装。

 

 そんな強力な武装には、ある噂があった。

 

 

「人間を部品にしている、か。正純くんはどう思う? 名古屋の人たちもその材料にされたんじゃないかって言われているけど」

 

「まさか。私がいたときも住人はちゃんと転居届を出していましたし」

 

「……でもさ、正純くんがそれをただの噂だと思う根拠は何処にある?」

 

 

 倫理に反するから? 常識で考えてあり得ないから?

 ならひとつ、と酒井はちょっとした意地悪をすることにした。

 

 

「元信公には内縁の妻と子がいるとしたら……どう?」

 

「そんな馬鹿な「それだよ」───……」

 

 

 酒井に言われて気づく正純。確かに彼女は無意識ではあるが常識的にあり得ないと結論付けてしまったのだから。

 

 

「正純くんは政治家志望で結構大きいことも考えているように思えるけど、一歩踏み込むことが苦手だよね。ちょっとは大胆になってもいいんじゃないかな? トーリや三日月みたいにさ」

 

「……三日月はともかく、彼を参考にするのはどうかと」

 

 

 正純の苦笑混じりの返答に、酒井も違いないと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして、二人は三河の関所前に到着した。

 

 

「はいお疲れさん。あとは好きに遊んでいいよ」

 

「忠勝公の娘さんに会ったらよろしく伝えておいて下さい。昔、同級生だったことがあるので」

 

 

 正純の言葉にJud.と答えた酒井は彼女に証書を渡し、関所の門を通ろうとする。しかし、その足はすぐに止められる事になる。なぜなら、正純が大声で彼を呼び止めたからだ。

 

 

「さ、酒井学長ッ! このあと、後悔通りを調べようと思ってますッ! そうすれば、私も一歩進めるでしょうかッ!?」

 

 

 正純の言葉に思わず笑みがこぼれる酒井。彼は手を振って、また三河へ歩みだす。それがどう言った意味を表しているのかは正純には分からない。

 しかし、何故か言われたような気がした。

 

 

 ───それでいい。その一歩が正純くんにとって新しい動きになるだろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午後3時03分

   武蔵アリアダスト教導院学生寮◇◆◇

 

 

 

 

 

(どうしよう…………)

 

 教導院前の階段で『葵・トーリの告白成功作戦会議』が行われている中、三年梅組の一人である東は会議に参加せず、寮長から指定された寮室に荷物を置こうとしていたのだが、一つ大きな問題に直面していた。

 

 指定された部屋の場所が分からないのか?

 ───否。手に持った紙に書かれた部屋番号は目の前の部屋と同じであるため、目の前の部屋べ間違いはなかった。

 

 すでに満員だったのか?

 ───否。扉を開けたとき、二人部屋の中には一人しか居なかった。確認したところ、その一人が同居人だった。

 

 では、その同居人に問題があるのか?

 ───その通り。

 どういうわけか、その同居人は()()だったのだ。

 

 流石に、年頃の男女が一つ屋根の下で同居するのはどうか?、と真面目な東は寮長、そして、真喜子に相談したのだが、

 

 

『ああ。ミリアム・ポークゥか……まあ、いいじゃんッ! いいじゃんッ! 若いうちは体裁が大変かッ! ガッハッハッハッ!』

 

『転居届欲しいから許可下さい? いいじゃんッ! いいじゃんッ! 若いうちは体裁が大変かッ! アハハハハッ!』

 

 

「───押しきられる余も余だけど、どうしよう……?」

 

 

 深い溜め息を吐き、俯く東は頭を抱える。

 もう一度許可を貰いに行くべきか、諦めて部屋に入るか。

 

 

「余はどっちを選べばいいんだ……」

 

「なに扉の前に突っ立っているの?」

 

「うわぁ───ッ!?」

 

「……人の顔を見て驚かないでくれる?」

 

 部屋の扉を開き、中から出てきた車椅子の少女『ミリアム・ポークゥ』に咎められ、東は素直に謝る。そんな彼に『別に良いわよ』と答えたミリアムは部屋に入るよう言う。

 

 

「え、でも……大丈夫なの? 余は男だよ?」

 

「別に? ルームシェア自体は初めてじゃないもの。まあ、男の子は初めてだけど慣れればいいのよ」

 

「そ、それで片付けるのはどうかと……」

 

「でも、さっき一度来て出ていってからずっと色んな所に抗議して、それでもダメだったからこの部屋の前に立っていたんでしょう? そんな人を突き返すのも酷ってものよ」

 

 

 自分のさっきまでの行動を見事に言い当てられ、東は抗議することが出来ず、よろしくお願いしますとしか言うことが出来なかったが、そんな彼にミリアムは一つだけ条件を出した。

 その条件とは『互いの生活に口を出さないこと』。

 

 

「そうね……極端な例を言うと、あなたがここに女性を連れてきてイヤらしいことをしていても私は何も言わないわ」

 

「つ、連れてこないよッ!」

 

「でしょうね。だって、あなた真面目そうだし」

 

 

 冗談よ、とクスクス笑うミリアムに東は恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じていた。

 

 

「改めて、私はミリアム・ポークゥ。よろしくね」

 

「ぅぅぅ……東です。よろしく……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午後2時25分

     多摩・鍛冶屋 源助◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この店の店主、源助。周りからはおやっさんと親しまれている彼は極東でも指折りの鍛冶士だ。例え、どんな難しい質問でも文句を言いながら引き受けてくれる。

 

 そして、今日も…………

 

 

「おやっさん。これ、修理お願い」

 

「……あのなぁ、三日月。おめぇの武器の扱いが荒れぇことは分かってる。けどよ? なんで俺の作ったソードメイスの分厚い刀身がくの字に折れ曲がってんだ?」

 

「真喜子」

 

「……あぁ。あのおっさん娘か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰がおっさんだッ!!?」

 

「せ、先輩ッ!? 急に叫んでどうしたんですか?」

 

「いや、なんか言わなくちゃと思って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし───」

 

 

 源助は改めて無惨な姿になったソードメイスを見つめる。

 ソードメイスの刀身の厚さは6センチ。それが見事に90度曲がっていた。それだけで教師オリオトライがどれだけ人間離れしているかが分かる。

 

 

「こりゃあ、一から打ち直した方がいいな」

 

「時間かかる?」

 

「まあ、他の仕事もあるからな。少なくとも一週間以上はかかる」

 

「そう」

 

 

 そう答えた三日月は部屋の隅で纏めて立て掛けれいた武具の中から少し短めの鎚矛(メイス)を2本取り出し、軽く振って、感触を確かめる。

 

 

「───うん。おやっさん、これ幾ら?」

 

「まさかと思うが三日月、それで戦うつもりか?」

 

「うん」

 

「……二刀流の奴は何人か知ってるが、メイス二本を両手に持つ奴はお前が初めてだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

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 戻すは出来ない一ページ

 

 

 

配点《思い出》

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少しだけ遡り、鍛冶屋の前では浅間、鈴、アデーレ。そして、キセルを加えた右腕義手の少女『直政』がバイクに繋がれた荷台に座り、そのバイクの持ち主が鍛冶屋から出てくるのを待っていた。

 

 荷台の中には野菜や牛肉など、今日、明日の宴に使う食材もあった。

 

 

「しっかし、大量に買いましたねぇ。三日月さんがバイクを出してくれて良かったですよ」

 

「だけど、いくらなんでも買いすぎじゃないかねぇ?」

 

「大丈夫ですよ。だって、明日はお祭りなんですから」

 

「祭り、ね……楽しい祭りになりゃいいけど」

 

「三河の花火も気になりますけど、皆やっぱり、総長の方に行くんですかね」

 

「わ、私、行き、ます」

 

 

 アデーレの言葉に鈴が答えるが、答えなくても分かっている。

 世界が大罪武装だの、末世だのと騒いでるなかで、一人の男が告白する。通し道歌に似た怖さがそれにはあった。

 

 トーリの告白。それは心機一転の再スタートか、清算の始まりか。それの意味を知るのは告白する本人だけ。

 もっとも、その意味がどうであれ、梅組の誰もがトーリの告白が成功するかどうかを気にしていた。

 

 

「そこら辺は実の姉である喜美も覚悟してんだろ? 成功すれば一番騒ぐのはアイツさね。なのに、あのバカはここにいやしない」

 

「階段の所に座ったままでしたね」

 

「さっき解散するとき、トーリが『後悔通りに行ってみる』って言ってたからな。あのバカはあれから十年、一度もあそこを歩いた事がない。喜美の奴はそれを見守ってんだろうね。バカな弟のバカな姉として」

 

「そういえば、なんで三日月さんは総長の所に残らなかったんでしょう? 兄弟なんですから見届けてもいいと思うんですけど。ちょっと冷たくないですかね?」

 

 

 

 

 

「そ、そんなこと、ない、よ? ミカ、優しいよ」

 

「そうですか?」

 

「うん。ミカね、私に、声、かける、とき、いっつも、躊躇う、の。私、目見えない、から。脅かさない、ように、って。でも、どうすればいいか、分からなくて」

 

「「「あぁぁ…………」」」

 

 

 鈴の言う三日月の姿を容易く想像し、納得する浅間たち三人。

 

 

「でも、ね? ミカ、近づくと、ミカの匂い、するの。汗臭くて、ちょっとだけ、血の匂い、して、でも安心、出来る。そんな、匂い」

 

「安心できるかどうかはともかく、確かにアイツはそんな匂いがしそうだね」

 

「……なんでしょう? 聞いてるだけだと危ない話にしかきこえないんですけど」

 

「あははは……あ、噂をすれば、出てきたみたいですよ」

 

 

 鍛冶屋から出てくる三日月に浅間たちはお帰りなさいと手を振る。

 

 

「ごめん。待った?」

 

「いえいえ。そんな事は───て、三日月? その腰の鎚矛は?」

 

「買った。ソードメイス、直るのに一週間はかかるって言ってたから」

 

「なんで二本? 一本は予備ですか?」

 

「? 二本同時に使うからだけど?」

 

 

 何かおかしい?、とでも言いたげに首を傾げる三日月に浅間は諦めたように首を振る。

 

 

「三日月って、そういう子でしたもんねぇ」

 

「……バカにされているのは分かるけど、人を笑顔でズドンする智には言われたくない」

 

「「ブフォ……ッ!」」

 

「ちょっとそこッ!」

 

 

 穏やかな日常を彼女たちは歩んでいく。

 

 明日はいい結果になるようにと願いながら……。

 

 

 

 

 




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トーリとホライゾンの対話までキング・クリムゾンしていい?

  • 問題なしd(^-^)
  • ダメです(ヾノ・∀・`)
  • いいからバルバトスをよこせ

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