<中国沿岸から数十キロの海上 12:00>
「――ここは?」
気が付くと赤く塗装された鉄板の上に大の字に寝そべっていた。周りにも同じような人が何人もいた。必死に混乱する脳みそを整理する。いったい何があったか思い出そうとする。
「(いや、叩き付けられたんだ。)」
思い出した! 乗っていた避難船に所に奴等が突然攻撃を受けたんだ。それから…・・・
「――明華!彗!どこだ?!」
はっと預かった二人の子供のことを思い出す。ここで見失ったりもしたらあの世に逝ってしまった同僚に合わす顔がない。
「彗ーー! 明華ーー!」
揺れる甲板の上で二人の名前を叫び探すが見つからない。叫んだ声も混乱する避難民の怒号と悲鳴でかき消されてしまっている。
「クソ!海路が安全だって言ったのは何処のドイツだよ。しかも、こんな時に荷物を満載してんじゃねえ!」
こうなるなら無理してでも陸路で中国国外にべきであったと今更ながら後悔したが既に遅かった。
「――叔父さん!」
すると彗の手を握りしめ走ってくる明華の姿があった。
「二人とも無事だったか?!」
「叔父さんは」
「ああ問題ない。こういうには慣れてるからな」
「慣れてる?」
「あっと、今のは聞かなかったことにしてくれ…・・・」
「それよりも、船の後ろから救命艇が――」
「わかった急ごう!」
二人を引き連れて船尾へと走った。すると、中国の国籍マークを付けた二機の戦闘機が現れた。
「空軍が来たぞー!!」
避難民の一部に歓喜が上がる。だが・・・…
「(やめろ無理だ。無駄死にするだけだ。)」
あの動きからして乗っているのはパイロットになって日が浅いとわかる。そして、乗っている機体に至っては博物館から引っ張り出してきたような機体だ。はっきり言ってあの二機では勝てない。案の定、ものの数分で二機とも撃ち落されてしまった。船尾につくと救命艇に乗ろうとする人間でごった返いしていたが、自分を含めた三人は何とか乗ることが出来た。
「出るぞ!」
突如の浮遊感が襲われる。そして、次の瞬間には海面に叩きつけられる衝撃が来た。
「叔父さん…・・・」
「心配するな。流石にここまでくれば重い腰の自衛隊だって助けに来てくれるさ。」
「――『ザイ』だ!」
一人が叫んだ。外を見るとこちらに向かって急降下をしてくるザイの戦闘機の姿があった。そして、機銃が火を吹くと辺りに無数の水柱が上がった。
「駆逐艦と避難船だけでは食い足らないのか!」
まずい、護衛の駆逐艦がいなくなった以上海に浮かぶいい的だ。
「(翼があれば――)」
今はない翼を思い出す。血塗られた翼であるがこの場で二人を守ることが出来る力である。そうこう考えているとザイが旋回し再び機首をこちら向けた。まだ諦めていないようた。
「叔父さん!!」
「二人とも伏せろ!」
二人の頭を抱かえ次の瞬間に備える。
――その時であった。突如、急降下していたザイが弾けて無数の破片になって海面に墜落した。
「空中衝突か!?」
一瞬そう思った。まず撃墜なんて有り得ない。
「いや違う。」
自分の考えは違っていた。あのザイは撃墜されたのだった。証拠にまた一機が空から海面に落ちてきた。
「あれ!!」
彗が空を指さした。
「あれは……」
空にはザイとは別の機影が見える。兵器と思えないド派手な赤色のデルタ翼機であった。此処からでは機種までは分からない。しかしあれは味方と見ていいだろう。赤いデルタ翼機は攻撃体勢を取っていたザイに向っていった。
ザイはそれに気付くと回避機動をとる。改めて見てもあの機動性は人間が乗っているとは思えない。明らかに9G、10Gを平気で超えていやがる。あんなのものに追随したらパイロットなんて潰れたトマトみたいになっちまう。
「また落ちてきた!」
あの赤いデルタ翼機がザイをまた落としたようだ。すると、海面付近まで降下してきた。
「あれはグリペン!?」
赤いデルタ翼は欧州の機体であるJAS39【グリペン】である。こんな極東でお目にかかれる戦闘機ではない。
残ったザイは諦めたのか大陸の方向へと飛んで行った。なんとか、あのグリペンのおかげで生き残ることが出来た。赤いグリペンも所属する何処かの基地へと帰還するかと思った。その時であった。機体がふらつき出した。明らかに様子がおかしい。そして、回復することなくそのまま我々の救命艇の近くに不時着した。しかし、救命艇はそれを無視して離れていった。
「助けないのか!」
彗が急に立ち上がり周りに言い放った。だが、周りは「何を言っているんだ」という目で答えを返していた。呆れて救命艇の後部ドアを開けたところで彗を襟を引っ張った。
「何をするんですか叔父さん、パイロットを助けないんですか!」
「それなんだがなあ~。叔父さん的にはあれに人が乗っているとは思えないんだよな。」
ザイに追随したことからあれは無人機という可能性が高い。一度中東で無人機された戦闘機と戦ったことはあったが、あの時より凄まじく進化したのだと感じた。
「だけど!」
彗の鋭い眼差しが刺さる。まあ、彗に見せてもらった某リアルロボットアニメの殺人的な加速するロボという可能性も捨てきれない。
「はぁ~、わかった。俺が行ってくる。彗はここにいろ。」
自分は上着を脱ぎ彗に渡すとそのまま海に飛び込んだ。ホントに久しぶりだが、結構泳ぐことに苦はなかった。
そうこうもしないうちに海上に浮かぶグリペンまで辿り着いた。機体にある突起を探して掴むと主翼の上に上がった。
「日の丸?」
どうやらこの機体の所属は日本のようであった。しかし、日本でグリペンを運用するのはデメリットが多いような気がすると思ったが、当初の目的であるパイロットの救出を急いだ。
「おーい、生きているか!」
装甲で覆われたキャノピーを叩いた。だが、反応は返ってこなかった。気絶している可能性があるかもしれないと思い。キャノピーの強制開放装置を探した。
――その時、キャノピーが大量の蒸気を上げて開いた。
「嘘だろ……」
キャノピーの中を見て絶句した。コクピットに座っていたのは年端もいかない少女が座っていた。しかも、耐Gスーツらしき物を一切着ていなかった。冗談じゃない。
「おいしっかりしろ!」
肩を揺すると少女の目が開いた。
「しっかりしろ。救命艇がそこまで来ている。立てるか?」
起き上がれるよう肩を貸そうとした瞬間、少女に引き寄せられて――
「――!?!?」
そのまま唇と唇を接着した。キスである。叔父さん生まれて初めてのファーストキスである。いきなり過ぎて混乱している。
「新たな…、時代」
「おい、どうした?!」
また、少女は意識を失いぐったりとしてしまった。遠方よりヘリのエンジン音が聞こえてきた。