Sword Art Online Irregular Soldier 作:コジマ汚染患者
後悔はしてない。
『Pipipipipi・・・』
けたたましいとまではいかないが、それでも小煩いアラームの音で目を覚ます。モゾモゾと布団の中でもがきながらも、右手を携帯端末へと伸ばし、アラームを止める。安眠を妨害する音が鳴り止むと、再度手を布団の中に戻し、二度寝の体制に入る。しかし、ふと気になって携帯端末の横に置いてあるデジタル時計に目を向ける。そこに映る時刻は、午前8時半。
「・・・うぇあ!?やっば!?」
叫ぶと同時に慌てて布団から這い出し、クローゼットを開く。中から学生服を取り出し、過去最高速度と言える速さで着替え、冷蔵庫を開き買っておいた惣菜パンを掴むと、机の上のカバンを引っ掴む。
「くっそぉ、まだ慣れねぇ・・・二年も不規則な生活してれば当然か」
独り言を呟きつつも玄関へと向かい、革靴を履き部屋を出る。
「あっと、鍵鍵。こっちじゃあ『あっち』みたいに立ち入り許可の登録とかないしな・・・」
鍵がしまっているのを確認すると、靴のつま先をトントンと鳴らし、駆け出す。
「・・・二年、か・・・」
やあ。
ドーモドーモ、ハローエブリワン。転生者様だよー。・・・自分で言っててアホらしくなった。
今言ったことだが、俺は転生者だ。その原因はトラックでも神様の間違いでもない。強いて言うなら俺の自業自得。適当に気になった小説を買った帰りに足滑らせてそのまま池にダイブ。そして気がつくとよく分からないおっさんがデスクワークしてる真っ白空間にいた。
『・・・え?』
『・・・は?お前なに!?なんでこんなとこいんの!?』
・・・と言う具合でおっさんと俺は混乱していた訳だが、事情を話すとおっさん・・・後で知ったが神様が呻いた。
『えぇー・・・。死んで魂だけでここまでふらっと来たのかよ・・・。まあいいや、ちょうどいい、俺今ちょっと暇な訳だから、転生してこい!』
『ちょっ、どうしてそうなる!?』
『いいからいいから、はいドーン!』
『ぎゃあぁぁぁ!?』
・・・ってなわけでとある転生特典?を押し付けられて転生したわけだ。転生自体は別に嫌なわけじゃあない。趣味でもあった小説漁りがまたできるわけだから。ただ、俺の転生先はどうやら普通ではなかった。
ナーヴギア。この専用のヘッドギアを被り、体へと向かう脳波を一部シャットアウトし、VR世界へとダイブすることでアバターを自分の手足のように使って遊ぶことのできるという前世では実現していなかった技術とそれを使った今までにないスリルと楽しさに、俺は夢中になった。そして、とあるタイトルに手を出した。
『ソードアートオンライン』
略してSAO。世界初のVRMMORPGと銘打たれたそれは、過大表現でもなんでもなく、世界中のゲーマー達の期待感を煽った。かくいう俺もその発表に大興奮し、大学受験かというレベルの倍率を突破し、SAOを見事手に入れた。この時、なんとなくあれ、こんな話どっかで・・・と頭によぎったが、きっとこの前に読んだSF系の小説だろう、と思い嬉々としてナーヴギアを被った。
そして俺は、デスゲームへと巻き込まれた。全100層あるソードアートオンラインの舞台、浮遊城アイングラット。その全てをクリアするまでログアウト不可、蘇生機能の全撤廃、ゲーム内での死がそのまま現実での死となる。唐突に始まったそれに、絶望し泣き喚く者、狂う者、先を見据え動き出す者などに分かれる中、俺は呆然と突っ立っていた。何故なら、思い出したから。
(・・・俺はどこまで馬鹿だ!?そうだ、SAO。これは、小説の・・・『ソードアートオンライン』の世界観まんまじゃねえか!)
そこに思い至ると同時に、ふと視界に入った同い年くらいのプレイヤーが視界に入る。おそらく男性であろうが、やや中性的な黒髪のそのプレイヤーを見つけると、俺は慌てて追いかける。そのプレイヤーはバンダナを巻いた男と共に路地裏へと入ると、なにやら話し合い始める。それを隠れて見ながら、俺は震える。
(間違いない、あいつらが・・・クラインとキリトだ・・・)
そしてキリトがクラインから離れ路地の先へと消え、クラインも目元を拭い広場へと戻っていくのを見送り、俺はその場に座り込む。
「・・・どうしよう」
これからどうするか。この世界が、もし原作通りに進むのならば、75層にてキリトがヒースクリフ・・・茅場を倒しゲームがクリアされる。つまり、ただ生きているだけなら、2年。2年生きていれば現実へと帰れるのだ。
(でも・・・本当に原作通りに進む保証はない。もし75層まで行けても、キリトが負けるかもしれない。いやそもそも、75層にすらたどり着かなかったとしたら、その時はどうなるんだろう・・・)
そこに思い至ると同時に、背筋が凍ったような感覚が襲う。もう一度死ぬ・・・?いやだ、イヤダ、嫌だ。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、せっかくまた生きることが出来るんだ、こんなとこで死ねるか・・・!」
震える体を押さえつけながら立ち上がり、街の外へと向かう。
「・・・とにかく、生きないと。死なない程度でいいから、生きれる力をつけないと・・・!」
こうして俺は、三津平 八彦(みつひら やひこ)、アバター名 ミツヤとして二年間をアイングラットで過ごすこととなった。
そこからは必死だった。結局俺のレベルはせいぜいが中堅レベル、最前線に行くことは出来なかった。原作通りにキリトが茅場を倒していなければ詰んでいただろう。病院のベッドで目を覚ました時は、今世で初めて心から泣いたものだ。
そんな二年間を超え、現在俺はSAO事件の被害者が通う専用の学校に通うため、親元を離れ一人暮らしをしている。学校にいるのは同じSAO生還者ばかりなため、中には攻略組という有名人もいる。とあるお昼時、俺は友人達と食堂に来ていた。どんな経験をしていようと、中身は結局青春真っ盛りの男共である。故に会話もまた脳内真っピンクな話ばかりである。
「いやー、やっぱいーよなー、『閃光』のアスナさん!」
「美人で」
「名家の出で」
「頭もいい!」
「「「いいよなぁ〜」」」
かなり頭の悪い話をしている3人の友人ABC。SAO内でたまにチームを組んで戦ったこともある頼もしかった彼らも、現実に戻ればこのざまである。・・・自分も人のこと言えないが。
「なー、ミツヤもそう思うだろ!?」
そう言いながらこちらにだらしない顔を向けてくる友人A。八彦はそれをちらっと見てからすぐに小説に目を戻す。
「まあ美人だとは思うよ。でもお前ら忘れてねぇか?あの人彼氏いんぞ」
その一言に友人達はうなだれ、次の瞬間嘆き出す。
「うるせぇやい!ンなことわかってるよ!」
「ちくしょう、なんで俺らには彼女が出来ないんだ!」
「顔か!?やはり顔が問題なのか!?」
「うるせえのはお前らだよ。もう少し静かにしろよ、食堂だぞここは」
「じゃーなー、また明日!」
「おう」
そんなこんなで放課後、友人達と別れた八彦は、足早に家へと向かう。家に着くと、即座にシャワーを浴び、ベッドへと向かいそこに鎮座する機会を手に取る。
「・・・ようやく俺が戦える所が手に入ったんだ」
手に持っているのは、ゴーグルのような、しかしやたらとゴツい機械。名をアミュスフィア。ナーヴギアの問題点を解決し、ナーヴギアの後継機として現在飛ぶように売れている新型である。そのアミュスフィアを被り、ベッドに横になる八彦。
「ここが、俺の魂の場所だ・・・!」
深呼吸を一つし、目を閉じて起動のための言葉を呟いた。
「リンクスタート」
そこは、ひどく荒れた荒野だった。そのまるで某世紀末漫画の舞台のような荒地にある少し大きめの岩の連なる場所。そこに、とあるスコードロンが待機していた。
「なーダイン、本当に奴らが来るのか?ガセネタなんじゃねえのかよ?」
スコードロンのメンバーの一人、ギンロウがそう言ってリーダーである西部劇のような格好をした男、ダインにぶーたれる。
「奴らはこの3週間、ほとんど毎日同じ時間、同じルートで狩りにでてるんだ、今日はたまたまMobの湧きが良くて粘ってんだろ。その分分け前が増えるんだ、文句言うなよ」
「でもよぉ」
ギンロウはなおも不満そうに口を尖らせる。
「そいつらは前に襲った奴らなんだろ?警戒してルートを変えたんじゃねぇのか?」
「前に襲ってから六日も経ってんだ、モンスターの相手ばっかしてるプライドのねぇ連中だ、どうせすぐに忘れてるさ」
そう言って嘲るように笑うダイン。仲間の男達にもその言葉に笑いが起こる。笑っていないのは、少し離れた位置に座る少女だけだった。
「そもそもMob狩り専門のスコードロンで光学銃しか持ってないはずのあいつらが対策しようと思っても、精々が支援火器を一丁持ってくるのが限界だろうさ。もしそうだとしても、今回はシノンに狙撃ライフルを持ってきてもらってんだ、問題はねえさ。なあシノン」
「・・・」
話を振られた少女、シノンは無言で頷くだけで、会話には入りたくないことをアピールする。その後シノンがギンロウに言い寄られるが、すげなく断る。と、監視をしていた男が目標を発見する。
「・・・きたぞ」
おしゃべりが止まり、ダインが相手の戦力を確認する。
「・・・一人増えてるな・・・。それに『ミニミ』持ちが一人。狙撃するのはこいつで決まりだな」
ミニミとは、ベルギーの国営銃器メーカー、FNハースタル社が開発した、5.56x45mm NATO弾を使用する軽機関銃である。分隊の支援火器として用いられる軽機関銃で、アメリカ陸軍や日本の陸上自衛隊でも配備されているものである。
その言葉を聞きつつ、シノンは持っていた狙撃銃、『ウルティマラティオ・へカートIIを構え、スコープを覗く。シノンはその際、増えた一人、フード付きマントを羽織った男を危険視するも、結局はダインにいわれ『ミニミ』持ちを狙撃する。しかし、それは残念ながら悪手であった。
「くっそぉ、聞いてねぇよ!『ミニガン』だとぉ!?」
増えていたマントの男の持っていたのは、『GE・M134ミニガン』。秒間100発と言う狂気的な速度でぶっ放される弾丸は、痛みを感じる前に相手を絶命させることから、「Painless gun」(無痛ガン)とも呼ばれる。
シノンの行った狙撃は見事命中し、ミニミ持ちは即死した。その後ダイン達が意気揚々と攻め込むが、ミニガンの前に前衛であるギンロウが一瞬でやられ、明らかに劣勢だった。
完全に諦めムードの彼らの元へ、突如シノンが現れる。シノンを見て驚くダイン。しかしすぐにうなだれる。彼曰く、ミニガン使いの名はベヒモス、北大陸を中心に傭兵の真似事をしているプレイヤーだと言う。勝てるわけない、もう諦めるしかないとのたまうダイン。それを聞きながら意気地のないダインにキレるシノン。メンバーへと指示を出し、どうにか戦況を立て直そうと作戦を伝えようとしたその時。
「ーーーーー、ーーーーーー、ーーーーーー」
「・・・歌?」
「なんだこりゃ・・・どこから・・・」
何処からか、男の声で歌が聞こえてきた。ニュアンス的に、英語であると言うことがわかる程度、さらにはその英語も随分とお粗末であるため、なんと言う歌なのかはわからない。状況を忘れ、シノン達が辺りを見回す。その頃、ベヒモス達も謎の歌に戸惑っていた。
ー来たれ来たれ、福音よ来たれ。ー
ー来たれ来たれ、福音よ来たれ。ー
ー来たれ来たれ、福音よ来たれ。ー
ー来たれ来たれ、福音よ来たれ。ー
ーああ、私は怖ろしい。ー
ーそう私は怖ろしいのだ。ー
ー全て解かってしまったから。ー
ーそれ故、私は怖ろしい。ー
ー全ては空想だったのだ。ー
ー全てが幻想だったのだ。ー
どこからともなく聞こえてくるその歌に、光学銃のブラスターを持っていた一人が無意識におびえ、後ずさった瞬間、
「・・・welcome(ようこそ)」
彼は胸から鉄杭を生やした。何が起こったのか、彼はそれを知覚することなくポリゴンへと変わった。もう一人とベヒモスが振り返り、銃口を向けると同時にポリゴンの向こうから男が姿をあらわす。この世界ではごくありふれたどこにでも売っている軍人風コスチュームに、ややくすんだ黒色のコートを着た眼鏡の青年。その顔にはニヤリと悪辣な笑みが浮かんでおり、左手には籠手にしては大きすぎる機械が付いており、その先端には今しがたプレイヤーを爆殺した円柱形の鉄杭が飛び出ている。右手は今の所無手だが、ズボンの横にあるホルスターにはリボルバーが収まっている。
「・・・おいおいおい、嘘だろ。嘘だと言ってくれ・・・!」
「・・・ダイン?」
その男を見た途端震えだすダイン。シノンが訝しんでいると、急に状況が動く。ベヒモスが、ミニガンを構え直し突如現れた青年へとぶっ放したのである。普通ならこの時点で細切れよりひどいことになるだろう。しかし、シノン達の予想だにしない展開が起こった。青年はベヒモスがミニガンの引き金を引く前に、ほんの一瞬の隙をついてベヒモスに肉薄したのだ。ミニガンの弾は1発も当たることなく、青年の背後にあった壁を砕くのみであった。急に目の前に現れた青年に、ベヒモスは面食らいミニガンの銃撃が止まる。その一瞬の間に、青年は左手の機械ーーー杭打ち機(パイルバンカー)を構え、ベヒモスの腹へと軽く当てる。
「OKーーーーー」
ベヒモスが咄嗟に後ろに飛び退ろうとするが、いかんせん彼はミニガンの重量ゆえに重く、鈍い。また、それすら読んでいたのか、青年がさらに一歩踏み出し、腰を落としてトリガーに手をかける。驚愕に染まるベヒモスの顔を見ながら、さらに悪辣に笑いながら、青年はトリガーを躊躇いなく引く。
「let‘s partyーーーーー!」
べキャッと言う不快な音と、杭が放たれたガキョッという機械的な音と共に、装備されていた装甲ごと体を杭に貫かれたベヒモスが少しだけ後ろに下がり、その後膝をついてポリゴンへと変わる。
「シノン・・・知らねぇのか?奴もベヒモスと同じさ。傭兵として働き、報酬さえもらえばどんな戦いにも現れ、引っ掻き回す。あいつの通り名はーーーーー」
「ハッハー!やあ諸君!小便は済ませたかな?神様にお祈りは?戦場の隅でガタガタ怯えて命乞いをする準備はOK?」
「ーーーー『鴉』(レイヴン)だ・・・!」
次回はまだ未定。どのくらい書くのかも割と未定。