Sword Art Online Irregular Soldier   作:コジマ汚染患者

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あ、タイトルは内容と関係ないです。


3話 ガ●ダムファイト!レディー、ゴー!

夕日ももうすぐ落ちようかという時間の荒野に、銃声が轟く。シノンの持つ対物ライフル、へカートの必殺の弾丸は、しかし狙う標的に全く当たらない。

 

「なんて動きよっ!本当に人の入ったアバターなの!?」

 

シノンのスナイパーとしての技量は、決して低くない。むしろGGOのなかでは高水準にあると言って良い。そんなシノンの狙撃を、鴉は難なくかわす。時には岩陰に隠れ、時には不規則かつ高速な動きで翻弄し、はては弾丸を左手につけたパイルバンカーの本体でガードしてしまう。へカートの装弾数的にもこれ以上無駄玉を撃ちたくないシノンは、一度距離を取ろうと立ち上がる。その時、

 

「・・・っ!?」

 

咄嗟に頭を下げたシノンの真上を、鉄杭が飛翔していく。正面にはパイルバンカーをこちらへ向けて構えた状態の鴉。間一髪でかわしたシノンは、そのまま後ろへ全力疾走する。

 

(鉄杭を飛ばすって・・・!なんでもありね・・・!)

 

自身のAGIの許す限界の速度で後退するシノン。しかし、鴉はシノンの努力を嘲笑うかのように圧倒的スピードで接近する。AGIではあちらが上。シノンは即座に腰に携行したサイドアームのMP7短機関銃を抜き、鴉へ向けてばらまく。だが、またしても変態的高速機動で回避し、さらに距離を詰める鴉。

 

「くそっ」

 

悪態をつきつつ再度へカートを構えるシノン。

 

(距離が離せないなら、このまま撃つ・・・!)

 

照準を合わせ、ボルトハンドルを引く。それを見た鴉が、ギョッとしたように感じたシノン。一瞬の戸惑いを即座に打ちはらい、スコープを覗くことなく引き金を引く。

 

(殺『とっ』た!)

 

愛銃の頼もしい反動から確かな手応えを感じたシノン。しかし、次の瞬間、とてつもない衝撃がシノンを襲う。

 

「恐れるな・・・死ぬ時間が来ただけだ」

 

一体何が、と考えるまでもなくポリゴンへと変わっていく自身を知覚しながら、シノンが最後に見たものは、沈んで行く夕日を背にしてこちらを見つめる鴉の赤い眼と、白い煙を吐くパイルバンカーだった。

 

《GGO》では、弾道予測線というシステムがある。プレイヤーが銃を構えると、銃口から弾丸の通り道を赤いバレット・ラインが伸び、どこへ銃弾が飛ぶのかが分かる。これのおかげでプレイヤーは銃弾を躱すという超人技が可能となっている。しかし、それはあくまで十分な距離があればの話である。近距離での銃撃戦や、極端な話連射可能な機関銃を真正面から躱し続けるなんて事はただの一般人であるプレイヤーには不可能である。いまの状況で言うのなら、近距離ですでに狙撃可能な状態の対物ライフルに突っ込む、というのは最早無謀という問題ではない。自殺行為である。

そう、『普通のプレイヤー』なら。

 

「・・・ふう。あっぶな、あの距離でへカート撃つか普通?」

 

シノンからの襲撃を乗り切るため、杭を一本無駄にしてしまった。あれ無駄に高いんだよなぁ・・・。本体の方も煙吐いてるし、こりゃもう廃棄かな・・・。

 

「ま、今日もデスペナ喰らわずに済んだんだし、良しとするか!」

 

そう、生きてりゃ文句なし!それこそが俺の信条!そう言って鴉はグロッケンの街へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「・・・」

 

アミュスフィアを外し、軽く深呼吸をしてから起き上がる八彦。そのまま頭を抱えると、うぐぉぉぉぉと呻く。

 

「やっっちまったぁぁぁ」

 

その場のノリとテンションと良くわからないナニカに感化され、シノンを杭ブッパした事である。

 

「うあぁぁぁぁどぉぉしよぉぉぉ、もう無理か?仲良くはもう無理か!?」

 

その後、夜通し八彦の部屋の明かりはつきっぱなしだったとか。

 

 

 

 

 

 

その頃、シノンーーーー朝田詩乃も又、ゲームからログアウトしていた。アミュスフィアを手に持ち、俯いて肩を震わせる詩乃。

 

(あんな・・・簡単に、それも一度も当てられずに負けるなんて・・・!)

 

その顔は苦々しく歪み、激情を余すことなく表していた。そのまま台所へ向かい、コップに水を入れがぶ飲みし、前を見据え呻く詩乃。

 

「絶対に・・・次こそ、次こそ撃ちぬく・・・!」

 

その右手は、無意識のうちに人差し指と親指だけを立てた、子供がよくお遊びでする銃の形をしていた。

 

 

「・・・隣うるさいな・・・」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、八彦は学校帰りにスーパーへと立ち寄っていた。一人暮らしゆえに、食事を作るのも自分である。今日はたまたま食材が切れていたために調達に来ていた。

 

「・・・お、キャベツ安い」

 

思っていたより安く手に入った食材に、少しテンションの上がる八彦。

 

「ーーーーー♪」

 

スーパーを出て、自転車にまたがり鼻歌交じりに漕ぎ出す。その脳内はすでにGGOのことでいっぱいだった。

 

(昨日はD-04ポイントでPKKやったし、次はどーするか・・・。久々に『依頼』を受けて行くってのもありだしなぁ・・・。っていうか、そろそろBoBの準備も・・・って)

 

「あっ、死銃どーしよ・・・」

 

ボソッと零しながらあちゃー、という顔になる。この男、死銃事件のことをすっかり忘れていたのである。

 

(まーこっち狙ってくれたら儲けもん的に考えとくか。それなら被害者が一人減るだろうし、こっちには対抗策として『チート』が有るわけだし)

 

そんなことを考えながら、再度鼻歌を歌いつつ帰る八彦。その鼻歌は、段々と大きくなり、終いには調子っぱずれの熱唱となっていた。

 

 

 

 

 

 

朝田詩乃は、学校の帰り道、いじめを受けていたところを新川恭二・・・自身をGGOに誘った同級生に助けられ、カフェへと向かい前日の事の顛末について話していた。

 

「昨日は・・・その、残念だったね」

 

言葉を選びながらそう言う新川に、少し不機嫌さを醸し出しながらも頷く詩乃。

 

「・・・結果を言えば標的をあいつ・・・鴉に盗られたわけだしね。それに、私もやられちゃったし」

 

そう言って手に持ったカップを傾ける詩乃に、新川はきょとんとする。

 

「意外だね。てっきりもっと悔しがると思ってたけど」

 

その言葉に、ピクリと反応する詩乃。カップを置くと、

 

「悔しがるのは昨日のうちに終わったわ。でも、だからってこのままにはしない。次にあいつに会った時は今度こそ・・・」

 

殺す、と続けそうになり慌てて別の言葉を考える。

 

「・・・撃ち抜いて見せるわ」

 

なお、あんまり変わらない。

 

その後も、間近に迫ったBoBに参加する事などの近況を話し込んだあと互いに帰路に着いた。スーパーで野菜と豆腐を買い、アパートへと帰る詩乃。階段を上がり、二つ目のドアが自身の部屋である。と、階段を上がりきったところで、詩乃は自分の部屋のドア・・・の隣のドアの前で地面に手をついてオロオロする男を見つける。

 

(・・・不審者?)

 

男であると言うことに少々ドキンと胸が跳ね、警戒しつつ近づく。どうやらその男は買い物袋から落ちた野菜などをかき集めているようだった。おそらく、誤って落としてしまったのだろう。そんな男は、せっせと野菜や豆腐、そして何故かあるプラモの箱などを集めている。そこで詩乃は男の後ろ・・・つまりは自分の部屋のドアの前に林檎が落ちていることに気づく。

 

「あの、これ」

 

林檎を拾って男に話しかける。振り向いた男は、何処にでもいるような顔立ちの、言ってしまえば特徴のない顔立ちをしていた。まだ若く、自分と同じくらいかな?と思う詩乃。

 

「あ、すみませ・・・」

 

振り返り、礼を言う途中で固まってしまう男。なぜか自分を見て目を見開いて驚く男に、戸惑う詩乃。

 

「・・・何か?」

 

「・・・あ、いえ、ありがとうございます。・・・あー、すみません、お騒がせして」

 

「・・・いえ」

 

停止状態から復活した男は、詩乃から林檎を受け取り立ち上がると、なにやら気まずそうに謝る。詩乃はなぜそんな顔をするのかと疑問に思うが、まあいいか、と自分の部屋の鍵を開ける。男の方もそそくさと隣の部屋へと入っていった。その時、男の鼻歌が詩乃の元へと届く。

 

「〜ー来たれ来たれ、福音よ来たれー」

 

「っ!?」

 

聞こえてきたのは、聞き覚えのあるーーー最近聞いた、忌々しい英語の歌。咄嗟にバッと振り向く詩乃。しかし、すでに男は部屋へと戻っていた。

 

「・・・まさか、ね」

 

聞き間違い、空耳だろう、幻聴が聞こえるほどあの鴉が印象的だっただけだと自分に言い聞かせる。そのまま、自分の部屋へと入っていったのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「・・・で、あんたが言いたいのは、つまりその『死銃』とやらに撃たれてこい、ってことだな?」

 

お洒落な喫茶店内で、似つかわしくない物騒なことを話すのは、SAO事件に巻き込まれた『生還者』にしてデスゲームを終わらせた勇者、と言うことにされた少年桐ヶ谷和人。ゲーム内での名前はキリト。その言葉に、はははと笑いつつも、否定しないのは、菊岡誠二郎。国の公務員にしてVR世界の監視を任される男である。現在彼らは、GGO内で起きた殺人事件、『死銃事件』について話していた。

 

「嫌だよ!何かあったらどうすんだ!あんたが行けよ!」

 

そう言って帰ろうとするキリトを抑え、話を再開する菊岡。彼曰く、死銃なる犯人は、相応の強さを持つものでないとターゲットとせず、自身では実力不足である。そこで、SAOでトップをひた走ってきたハイレベルプレイヤー、つまりキリトに代わりにGGO内で接触を試みてほしい、と言う話であった。

 

「頼むよ、報酬は出すからさ。・・・これだけ」

 

「ぐっ・・・」

 

提示された金額に心が揺らぐキリト。結局は嫌だと言えず、引き受ける流れとなった。死銃の音声データを聞き、そのまま帰ろうとするキリト。そんな彼を、菊岡が再度止める。

 

「あ、まった、キリト君。もう一つ、最優先ではないけど言っておくことがあった」

 

「なんだよ、俺これから明日菜と会うんだけど」

 

そう言って不機嫌になるキリトに、菊岡がタブレットを差し出す。そこには、GGOのゲーム内の画像・・・1人のアバターが表示されていた。

 

「・・・なんだ?こいつが死銃か?」

 

「いいや。ただ、GGOでかなり有名なプレイヤーなんだ。今回の依頼以外に一つ、このプレイヤーとの接触も頼みたい」

 

そこには、黒いコートをはためかせ、その下に『大葉亜土武雨洲斗』と書かれた珍妙なコンバットスーツを着た、メガネをかけたアバターが顔に入れ墨の入った女性アバターへと襲いかかる姿が写っていた。男はとてつもない怒りの表情で、女は狂気に満ちた満面の笑みである。男は両手にショットガンを持ち、女性の方はカスタムされすぎてはいるが、ある程度原形をとどめたAK47を構えている。菊岡がズームしてみせたのは男の方だ。

 

 

「なんだこの画像」

 

「ネットに出てた画像だね。他にもいくつかあったけど、これが一番顔がはっきりしている」

 

「死銃との関係は?」

 

「不明だ。が、恐ろしく強いらしい。ネット上の書き込みを信じるなら、半端じゃないね」

 

そう言って肩をすくめる菊岡。プリンを一口食べ、咀嚼しながら続ける。

 

「あまりの強さにチーター疑惑まで出てるって言うんだから驚きだね。ザスカーに抗議文まで送られてるらしく、上の方も少し調査してこいってうるさいんだ。そこで、ついでに調べてきて欲しいんだ」

 

そう言ってにこりと笑う菊岡にげんなりしつつ、はいはいとおざなりに返事をするキリト。

 

「・・・で、このプレイヤーの情報は?」

 

「アバター名はミツヤ、基本ソロで活動してるみたいだね。通り名は『鴉(レイヴン)』、なんともかっこいい名前だね」

 

「鴉・・・」

 

「まー、これに関しても報酬は出すからさ。頼むよ」

 

「簡単に言ってくれるよほんと・・・。死銃を優先するから、こっちは分からなくても文句言うなよ」

 

そう言ってキリトは喫茶店を出ていくのだった。




ミツヤ「てめえ俺のP90返せやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

???「あははははっ、じゃあ私を倒してみなよ!」

ミツヤ「やらいでかぁ!!」

そんな画像。なお、撮影者はその後巻き込まれてキルされたとかされてないとか。

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