不敗の魔術師が青春するのはまちがっている。 作:佐世保の中年ライダー
私の様な古い時代のオタクにとって、富山さんの存在は特別なものがあります。
まず、アニメに於いて声優と言う存在を意識する様になったのは、富山敬さん在ってこそでした。
幼い頃から見てきた、数々の作品に時にはヒーローとして、或いはその敵役ライバルから冴えない脇役にタイムボカンシリーズのナレーションにと、色々なところで耳にする富山さんの声。
今現在でも、私はアニメ及び声優好きのオタクでありますが、ではその中で一番好きな声優は誰かと問われれば、間違いなく富山敬さんの名前をあげます。
そんな富山さんの数々の出演作、演じたキャラクターの中でも、ヤン・ウェンリーと言うキャラは最も好きなキャラと言っても過言ではありません。
この作品の構想中、執筆中?も常にヤンの声は富山さんのボイスで数多の中に響いて来ます。
もし、現在富山さんがご存命だったとしても80歳を超えられていらっしゃるでしょうから或いは一線から退いて居るかも知れませんが、それでも富山さんの演じる、キャラの活躍を見てみたいとの思いが消える事は無いのではないかと…。
写真を取らせて欲しいとのヤンの願いに、由比ヶ浜は笑顔で以て了承し八幡と雪ノ下も多少ごねたものの最終的には由比ヶ浜の説得により折れ、三人纏めてヤンのスマートフォンカメラのファインダーに収まった。
「ふう…いやありがとう皆、この礼は何れ形ある物で返す事にするよ。」
奉仕部の三人に礼を述べ、返礼を約束しヤンは撮影に使ったスマートフォンをポケットへと納めた。
「おう、まぁ別に大した事をした訳でも無いしな、期待しないで待つ事にするわ。」
「アハハ…もう、ヒッキー素直じゃ無いんだから。」
「ハァ…由比ヶ浜さん、彼に素直さなどを求める事程無駄な事は無いわ、おそらく比企谷君は産まれて来る時にそれをお母様のお腹の中に置き忘れて来てしまったのよ。」
「ほう、良く解ってるじゃないか雪ノ下、本来俺が持つべきだったそれは、母ちゃんの腹の中に蓄積されて其れが小町に回ってしまったんだよ、結論やはり俺の妹、超天使だな。」
何時もの調子の三人のやり取りにヤンは笑みを禁じ得ない、やはりこの二人の少女との出会いが在ったからこそ、八幡はあの時の見せた辛そうな顔をしなくて済む様になったのだろうと、その様にヤンは推測する。
「うわっ出たヒッキーのシスコン発言だ!確かに小町ちゃんは可愛いけどさ、あんまそんな事ばっか言ってると小町ちゃんに呆れられちゃうよヒッキー。」
「安心しろ由比ヶ浜、俺はもう小町に呆れられている、専業主夫を目指すと言った時から小町は俺を冷めた目で見る様に…あれ、眼から汗が。」
それ全然安心できないから…由比ヶ浜の突っ込みが入り、雪ノ下のため息と額を手で触れての呆れのポーズ。
『ああ此処はやはり居心地が良いな、此処へ導いてくれた平塚先生には感謝しなければな。』
基本的に此処でヤンと八幡、それに雪ノ下は静かに読書をして過ごし、由比ヶ浜は雪ノ下に見てもらいながら勉強を、その勉強に対する集中力が切れると、他の皆に世間話などの話題を振り、皆がそれに対し思い思いに意見を述べ合う。
或いは、互いが読んだ本の感想を述べ合い、勧め合う。
この日常に、ヤンは心から満足していた。
「あっそうだ、ねぇヤン君、ヤン君の婚約者っどんな人なの?」
奉仕部の三人の中で一番好奇心旺盛であろう由比ヶ浜、ヤンの婚約者について真っ先に質問をして来たのが彼女であったのは、必然と言えるだろう。
「そうね、私達の情報がそのヤン君の婚約者てある方に知られるのだから、私達がその人の情報を得るのは、謂わば等価交換と言えるのではないかしら。」
「まぁそうだよな、その婚約者が余程やんごとなき血筋に連なる人物で、その秘密を明かせないってのなら、此方からはこれ以上聞きはしないけどよ。」
そうなれば雪ノ下がそれに追従し、八幡は弄ねた言い方で興味を持っていながらも、暗に言いたく無ければ言わなくても良いと助け舟を出す。
この彎曲に過ぎる友人の心遣いに謝しつつも、別段隠す必要も無いの事柄なのでヤンは婚約者たる女性について語れる範囲で話す事にした。
「彼女はだね、私達の2歳年下の今年中学三年生で、もう十年以上この国で生活をしていてね………」
しかしとは言え、改まって自身の婚約者について語るなど、面映いにも程があると、ヤンは内心溜息を禁じ得ない。
『やれやれ、これはまた何とも恥ずかしいものなだな、前世でもそうだったが此れは何ともムズムズするな…ハハハハ。』
周りの者達に自身の被保護者であった少年や、愛する妻の事を高く評価された時等にヤンはその様な感覚を抱いていた物であった。
頭を掻きつつ(これもまた前世からの彼の癖…無くなな癖とでも言え様ものである)その様に感じていた、ヤン・ウェンリー、二度目の青春の日の一幕であった。
ヤン・ウェンリーの婚約者騒動?から二週間弱の時が過ぎた日の、とある放課後の奉仕部の部室。
何時もの如く、メンバー達は雪ノ下の淹れた紅茶の味に舌鼓をうちつつ穏やかでゆったりとした、これまた何時もの如き時間をまったりと過ごしていた。
それが破られたのは、比企谷八幡のスマートフォンのバイブレーションに拠る物であった。
それに気が付いた八幡は、徐にポケットより其れを取り出してモニターを確認し『はぁ?』と疑問符付の声を小さくあげた。
「!?ヒッキーどうしたの、何かあった?」
「…いや大した事じゃねえよ、小町からメールだ、今此方に向かってるんだとさ、俺達全員に会いたいんだとよ…ハァ面倒くせえな、悪い皆構わねえか?都合が悪いってんなら断るけど。」
「ほえ〜、小町ちゃん来るんだ、あたしは全然良いよヒッキー、小町ちゃんにも会いたいからさ。」
由比ヶ浜は至極当然とばかりに了承、内心八幡は断ってくれればなと期待していたが、この様な時に彼女が断る事など無きに等しい。
となれば、雪ノ下も無碍に断る事はほぼ無い事である。
「ほう、八幡の妹さんね…一度会ってみたいけど私も構わないのかい八幡?」
「ああ、全員って言ってるからな当然ヤンも含まれてんだろう。」
そうして彼らは八幡の妹、小町の総武高校到着の時間に合わせてこの日の部活を切り上げた。
『お兄ちゃんもうすぐ到着するよ、お迎えよろしくであります<(`・ω・´)』
と比企谷小町よりのメールを受信し、四人は部室を片し、校門へと向かう。
八幡は一旦駐輪場へ留めてある、自分の自転車を取りに行く為、皆から離れるが、直ぐに再合流し揃って校門へ向かうと、そこに総武高校の制服とは違うセーラー服を着た小柄な少女が四人に気が付いたか、大きく手を振り声を発した。
「お〜い!お兄ちゃん!雪乃さ〜ん、結衣さ〜ん!」
「あっほらヒッキー、小町ちゃんだよ小町ちゃん!ヤン君あの娘がヒッキーの妹の小町ちゃんだよ。」
そんな事は分かってんだよと、八幡が由比ヶ浜に対して憎まれ口を叩こうとしていたが、由比ヶ浜は其れを聞くことなくさっさと駆け足で、八幡の妹小町の元へと向かって行った。
「お〜い!小町ちゃん、やっはろー久しぶりだね。」
「結衣さん、やっはろーです!」
二人の少女は両手を取り合い、姦しく挨拶を交わしている。
その二人の様子を、基本的に静謐を好む雪ノ下と男子二人は苦笑混じりに見守る。
「あの娘が八幡の妹さんかい、何とも活発そうな娘さんだね。」
「まぁな、俺の自慢の妹だ、誰にもやらんからなって、お前には婚約者が居たんだったな。」
「全く、中学生にして要介護な、兄を持った小町さんに対して私は同情の念を禁じ得ないわ、比企谷君悪い事は言わないから一刻も早く小町さんを貴方から開放なさい。」
そして此処でも、八幡と雪ノ下は八幡の妹小町を山車に何時もの如く言葉のドッジボールを始める。
一見、否、全く持って辛辣なる言葉を吐く雪ノ下ではあるが、その面貌には微笑が浮かんでいる事からも、彼女が八幡に対して悪感情を抱いている訳では無い事がヤンには見て取れた。
『案外雪ノ下さんも、由比ヶ浜さん同様に八幡に対して好意を、いやそこ迄行かなくとも彼とこうやって憎まれ口とも取れるやり取りを楽しんでいるのかも知れないな。』
「何を言ってらっしゃるのかしら雪ノ下さん、私と小町は家族として海よりも深く宇宙よりも広い絆によって結ばれているのよ、その絆は何人にも断つ事は敵わなくてよ。」
「今のそれは誰の真似なのかしら猿真似谷君、まさかこの私の真似とでも言うのかしら、だと言うのならば比企谷君、貴方には早急に戒名を用意して貰う事を勧めるわ。」
かつてのヤンの部下達、士官学校時代の先輩であるキャぜルヌを筆頭にシェーンコップ、アッテンボローと彼の部下であり友人でもあった彼らもまた、歯に絹期せぬ毒舌家揃いで知られていたし、上官であるヤンに対してもその毒舌の刃は振るわれていた物だった。
そう思うとこの肉体の実年齢は兎も角として、精神年齢的には彼ら彼女らからすると、十分にオジサンと呼ばれてもおかしくは無いヤンとしては、つい生温かい目で見守ってあげたくなってしまうのであった。
「雪乃さんもやっはろーです!」
「や…こんにちは小町さん。」
「お前今やっはろーって言いそうになっただろう。」
「何を言っているのかしら貴方は…ついに眼だけでは無く、耳までも腐敗が進行してしまったのかしら、この歳で幻聴を聴いてしまうとはいっそ憐れと言うものね。」
「あっ、お兄ちゃん…は、どうでも良いや!」
「ちょっと待ちなさい小町ちゃん、そんな事言うとお兄ちゃん泣いちゃうよ、それはもうシクシクと泣いちゃうよ、更にはさめざめと泣いて、遂にはわんわんと大泣きしちゃうからね!」
ああ、はいはいと、兄を適当にあしらい小町はその人懐っこい笑顔で以て、八幡の隣に立つヤンへと歩み寄り、元気に初対面の挨拶を始めた。
「はじめましてヤンさんですよね、私はお兄ちゃんの妹の小町です、面倒な兄ではありますけど、どうか見捨てずに仲良くしてあげてくださいね!」
「ああ、いや此れはどうも、はじめまして小町君、ヤン・ウェンリーです此方こそ八幡には良くしてもらっているからね、私の方こそ見捨てられない様にしなければと思っているんだよ。」
『此れは、なる程八幡が自慢するのも頷けるな、社交性も愛嬌もあり物怖じもしない様だし、何だかんだと八幡の事も大切に思っているみたいだ。』
と、ヤンは小町と交わした一言の挨拶により彼女をそのように評するのであった。
「ところで小町、お前また何で今日はいきなりってか態々ここ迄来たんだ?また大志の時みたいに厄介事でも有ったんじゃ無いだろうな。」
八幡が妹の小町に対して問い質した疑問は此処に居る奉仕部の部員皆が内心に思っていた事柄でもある、此れまで小町がこの総武高校へ訪れた事など皆無であったのだから。
その小町が今日、態々皆を迎えにこの場へと足を運んで来た、それは一体何用があっての事か。
「もう、やだなぁお兄ちゃんってば、何で小町が此処に来る事イコール?厄介事なんて図式が成り立つかなぁ、小町はただ単に、皆に会って欲しい娘が居るから連れて来ただけなんだよ!」
本当かよ…と八幡の眼は妹小町の発言を訝しんでいる。
「ホントだってば、皆さんちょっと待ってくださいね今連れてきますから!」
そう言って小町は、校門を出て、直ぐに校門右側へと曲がり姿が消えたかと思うと、十数秒の間を開けて再び姿を現した。
その彼女の左手は誰かと手を繋いでいる様で、やがてその繋手をがれた人物の姿も皆の前に顕になった。
「お待たせしました!本日皆様にお会いしたいと願いましたのは、彼女のたっての希望であります!」
その姿は小町と同じ中学の制服、セーラー服を着た、金褐色のセミロングの髪とヘイゼル色の瞳を持つスラリと均整の取れた体型は小町より10CM程背が高く、明らかに日本人では無い事がひと目見て解る。
その容貌はまだ幼さが残るものの、将来はとても美しい女性へと成長するであろう事が容易に想像ができる。
「紹介します、本日我が校に転校してきた新しい小町の友達であり、ヤンさんと深く関わりの在る人でもあります。」
小町は皆へその少女を紹介するが、ヤンは彼女の姿をひと目見た時から、啞然とした顔をして、小町の言葉はその耳に入ってはいなかった。
「はじめまして、奉仕部の皆さん。」
その口から紡がれた日本語はとても流暢で、生粋の日本人と何らの変わりも無い見事な物である。
「何時もウェンリーさんがお世話になっております、私はウェンリーさんの婚約者のフレデリカ・グリーンヒルと申します、以後お見知りおき願います。」
流暢な日本語と美しいお辞儀での挨拶に奉仕部のメンバーは驚きを隠せなかった。
それは先立ってヤンから聞かされた彼の婚約者である女性の名、材木座を交え語られたかの物語に登場した人物と同じ名前を持つ少女。
ヤンから聞かされた話によると彼女は東京で暮らしていた筈であるのだ、その彼女が何故この千葉県に、しかも何故八幡の妹小町と同じセーラー服を着用しているのか。
「…フレデリカ…何故君が此処に居るんだい、一体何故?」
「何故と言われましても、転校して来たとしか言い様がないのですけど。」
それは小町と同じ制服を着用している事から推察は出来るが、東京に居る筈の彼女が何故この千葉県に居るのかと、ヤンはそう聞いているのだが、フレデリカはおそらく其れを知っていながら、はぐらかしているのだろう。
「…それは君の格好を見れば解るけどね、私が聞いているのは何故そうなったのかと言う事なんだがね。」
「其れは、単純に言ってしまうとウェンリーさんの側に居たいと思ったからに決まっているでしょう。」
何の躊躇いも恥じらいも感じさせずに彼女は、ヤンの質問に対してにこやかに答えた。
「…ハァ、やれやれコイツはまた、ドワイトおじさんが良くもまぁ許可をしたものだね。」
ヤンの父タイロンと友人関係でもあり彼女の、フレデリカの父親であるドワイト・グリーンヒル。
彼はこの日本と言う国を気に入り、生活とビジネスの拠点と定め、半ばこの国に根を下ろしている。
「ええ、父様はウェンリーさんの事がお気に入りですからね、ですから私がウェンリーさんの側に居たいと願ったら、直ぐにある計画を実行してくれましたしね。」
「何せ同じ日本国内でお隣の県なのですから、何ら問題など無いとおっしゃいましたわ、それに将来は毎日ウェンリーさんのと盃を酌み交わしたいと、父様は何時も言っていますから。」
そう言う問題では無い様な気がするのだがとヤンはそう一人ごちる、いくら日本の治安が良いとは言えど、未だ中学生の年端も行かぬ娘を一人で暮させる等とは…。
ん、ある計画だって…。
「あら、一人ではありませんよ、千葉と東京ならば十分に通勤圏ですからね、だったらいっその事引っ越そうと言う事になりまして。」
……思わずヤンはひと目も憚らず呆然としてしまった。
彼女の父親は会社の長として、行動力と実行力共に旺盛な人物である事はヤンも知ってはいたが、まさか娘の一言で引っ越しまでしてしまうとは。
「と言う訳でウェンリーさん、これからはご近所さんですよ。」
「ハァ…やれやれ、まさかこんな事になっているとはね…。」
ヤンのボヤキを聞くフレデリカの表情には、イタズラが成功した事に大層、満足した悪戯っ子の様な笑みがたたえられていた。
「では改めまして、奉仕部の皆さん、フレデリカ・グリーンヒルですこれからよろしくお願いしますね。」
奉仕部の三人に向き直り、改めての挨拶をするフレデリカ。
その魅力的な笑顔に頬を赤くする男子部員と、その様子を目にしてその頬を少しだけ不機嫌そうに膨らます一人の女子部員の姿が確認出来た。
当初、この作品のカップリングとしてヤンと雪乃で考えていましたが、宇宙暦の時代、僅か一年ほどの短い時間で結婚生活を終えてしまったヤンとフレデリカの二人を、せめてこの世界では幸せに暮らして欲しいとの思いから、フレデリカ・グリーンヒルの登場となりました。
設定としてこの世界には幾人かの銀英伝の人物が、登場するしないに関わらずそんざいしています。
中にはごく稀にヤンの様に前世の記憶に覚醒している人物も、またフレデリカなどの銀英伝本編に於いて生存している人物は、異世界同位体と言う位置付けで、当然ながら宇宙暦の記憶はありません。
その父親もまた…。
個人的にはキルヒアイスとラインハルトもこの世界に存在していて、此処でも二人は何処かの国で親友として生きていると思っています。