不敗の魔術師が青春するのはまちがっている。 作:佐世保の中年ライダー
放課後の最終下校時刻も差し迫り本日の業務とも言えない活動を切り上げようかとししていたそんな時刻に奉仕部の部室を訪れたのは、ヤンと八幡そして由比ヶ浜と同じクラスの生徒である葉山隼人であった。
その葉山は入室の許可を得て部室の扉を開くと、この様な遅い時刻に来訪した事を言い訳混じりにそして社交辞令的に詫びて見せるのだが、部長である雪ノ下にその様な飾った様な薄っぺらな言葉など不要であり、早急に要件を述べよとでも言うかの様にそれを一刀両断の元に切って捨て。
「時間も時間なので単刀直入に聞くわ葉山君、貴方はどの様な要件が有ってここへ来たのかしら。」
それはまるで雪ノ下が葉山に対し、ぐずぐずせずにさっさと要件を述べたら早急にここから去れ、と言っている様に感じられたヤンは。
『ふむ、どうやら雪ノ下さんは葉山君の事をあまり好ましく思ってはいない様だな、はてさてどうしてそうなったのやら他人事ながら野次馬根性を掻き立てられそうだなこれは……。』
などと不埒な事を思っていたりするのであった、しかし流石に葉山は兎も角として毎日美味なる紅茶を淹れてくれる雪ノ下に対しては申し訳無いなかなと、思い直し自らに自重するように言い聞かせる。
「ああ…うん、実はこれを見て欲しいんだけど。」
葉山はそう言って己の懐からスマートフォンを取り出して操作をして見せてからその画面を奉仕部の面々に指し示して見せた。
ヤン達はテーブルを挟んでその向こう側から提示されたスマートフォンの画面を確認する為に、一箇所に集合する形となってしまいそれでは却って見辛かろうと思い至り葉山の了承を得てそれを借り受け一人ずつ回し見する形で落ち着いたのだった。
「あははは…最初からこうすれば良かったんじゃん。」
最初にそのスマートフォンを確認する八幡の様子を見ながら由比ヶ浜が苦笑気味に言えば。
「そうね、私ともあろう者が事を急くあまりにこの様な醜態を晒してしまうとはね、少し自重しなければならない様だわ。」
雪ノ下は自らの行動を顧み反省するのだが、その言い様は何とも彼女らしい自信家の如き言い回しでヤンは何ともそれが可笑しく思いのだが、八幡は。
「何処まで上からなんだよお前は。」
と、ジト目を雪ノ下に向けて呟く様にボソボソとボヤくが、その一言に反応した当人たる雪ノ下に“キッ”と鋭い眼光を向けられると、首を軽く竦め視線を外すと手にしていた葉山のスマートフォンを隣のヤンに渡すのだった。
一通り行き渡っわたスマートフォン、其処に記されていたのは所謂チェーンメールと言われる類いであり、其処に書かれていたものは由比ヶ浜と葉山が所属するグループの葉山を除く三人の男子を中傷する物でたった。
「…やっぱ隼人君にも届いてたんだそれ………。」
それは先程由比ヶ浜が不快感を示していた彼女のスマートフォンにも届いていた物と同一の物で、故に彼女はその事に胸を痛め悲しげな表情を浮かべる。
「由比ヶ浜さん……ただでさえチェーンメールなどと言う下劣で低俗な物をばら撒き、他者の人格を無視し貶めるだけには飽き足らず私の友人にこの様な思いをさせるとはね、この犯人はそれだけでもう万死に値するわね。」
雪ノ下は由比ヶ浜のその様子に憤りも顕にとんでもない事を宣い、当の由比ヶ浜はそんな友人の宣告に冷や汗混じりに苦笑いをして『あんまやり過ぎないでねゆきのん……あはは……。』と諌めるのだった。
「えっ、いやその…出来れば穏便に済ます方法を教えてもらいたいんだ、あまり事を荒立たせたく無いからね。」
しかし当の葉山はと言えば自ら相談を持ち掛けながらも、何とも煮え切らない曖昧な答えを求めて来た、葉山のその曖昧な発言に対八幡が苦言を呈す。
「けどな葉山、雪ノ下の言い分は些か過激に過ぎるけど言ってる事はあながち間違っちゃいないんじゃないのか、結局の所こう言うのはその元になっている物をどうにかしなきゃ何時までも終わらないだろうからな。」
その八幡の意見に奉仕部の面々は各自その首を縦に振り頷きその意見に賛成の意を示し、更にその意見にヤンが追加補足する様に私見を述べる。
「うん確かにそうだね、八幡が言うその大元が何かは私には解らないけど、その根を絶たない限りこういった物は終わらないんじゃないかな……と言う事で由比ヶ浜さん葉山君、君達に何か心当たりはないかな。
あいにく私は転校間もなくこう云ったクラス内の些事にはとんと疎いし正直言って興味も無いし、第一何より面倒だしね、そしてそれは八幡も私と似たり寄ったりだろうからこれはもう二人に聞くしかない、そうだろう八幡。」
しかも興味が無い等とあっさりとその本音を漏らす始末だ、何ともこの男は正直が過ぎるとでも言えば良いのか。
その本音に依頼者である葉山は思わず言葉さえ出せずに口をあんぐりと開き、目を見開きヤンを見つめ、奉仕部の面々は苦笑を漏らす。
「ははは……ヤン君は案外正直な人だったんだね、意外だったよ。」
気を取り直した葉山もまた呆気にとられた気を誤魔化すかの様に苦笑しながらそう述べるのだった。
改めて面々はここ数日間に何か普段と違う事が起こったと記憶を辿り一つの結論に行き当たる、それは。
「職場見学のグループ分けね、もしそれが事実だとしたら実にくだらない事だと言わざるを得ないわね。」
雪ノ下が彼女らしくバッサリ斬り捨てる、孤高の精神を持つが故に彼女はそう言えるのであろうが。
「うん、でもさゆきのん誰でもがさゆきのんみたいに強く無いんだよね、前のあたしみたいにさ周りの誰かを見てそれに合わせて自分の立ち位置とかさ、あと収まる場所?とかを見つけてさそう言う風に上手に立ち回んないとすっごい不安なんだよ。」
しかしそうでは無い由比ヶ浜は少しだけそれを弁護をする、決して犯人の行いを肯定しての事では無いのだが。
初対面のあの日クッキー作りの依頼をこの奉仕部へ持ち込み雪ノ下の持つ強さに憧れを抱いた彼女だったが、この数カ月間の付き合いで知った雪ノ下の強さ以外の部分を知り彼女なりにその部分をフォローしなければと思い至った、それは雪ノ下の世間ズレした思考や直情的な性格などをだが。
雪ノ下は由比ヶ浜の言葉を聞き厳粛な気持ちと表情を持って受け止め『そう言う物なのね…。』と呟く。
「うん、まぁ由比ヶ浜さんの言う事にも一理あるかもね、どうだろうか此処でこうしてアレコレと言ったところで答えは出ないだろうし、此処は少しクラス内の様子をそうだね幾日か覗ってみてから対処法を考えると言うのは。
今日のところはコレで切り上げると言う事で、流石にこの時間だしいい加減腹も減ってきたからね。」
ヤンのその提案は皆に受け入れられ本日の部活動はこれにて終了と相成り五人は部室より退出、一堂は帰路へ就く。
放課後の帰宅の途にある奉仕部の四人は由比ヶ浜と雪ノ下を先頭に、それより数メートル程後方を自転車を押して歩く八幡とヤンが続き歩く。
「…時に八幡、君はさっきのメールの内容をどう見るかい?」
先程の部室であまり発言をしていなかった友人に対しヤンは質問をしてみる、ヤンとしては葉山が持ち込んだ依頼に対して先にも言った様に然程興味は無いのだが、この友人がどの様な考えを持っているのか些かばかり興味が合った。
「ん、ああそうだなメールに書かれていたウチの二つは暴力を含む不穏当な物でそれが事実なら警察沙汰になる事必至だが、残る一つはまぁ男としては最低だが取りように拠っちゃただ自慢をしてるだけとも受け取れる様な物だろ。」
ヤンは神妙な面持ちで友人の推察に耳を傾けるその推察はヤン自身の推察とほぼ同様の答えだった、なのでヤンは一つ頷くと八幡の返答に続けて質問をする。
「では君はこの犯人が三番目の人物であると、そう結論づけるのかな?」
その質問に八幡は「ああ、額面通りに受け取ればな」と答える。
「と言うと?」
「先ず三人の中に犯人が居たと仮定してだな、それを額面通りに受け取ると犯人は他の二人には大きなダメージを与える様な内容の物を書き込まれているのにも関わらず、自分の事が書き込まれていなければそれは自分が犯人だと受け手側に判断されるかも知れない。
なのでそのリスクを減らす為に敢えて自分の事も書込んだがその内容は他の二人と比較するとまだ可愛げのあるレベルの内容に止めたって事だな。
だが逆に敢えて自分の事を悪く書き込んで他の二人を争わせる様に誘導しているとも取れ無くも無い。」
「ほう!」
ヤンは友人の推察に思わず感嘆の声を漏らす、それは八幡の相手の裏を読むと言う彼曰くボッチ故に培ったスキルによる賜物であるのだが、ヤンの推察と近いし答えでもあった。
「私も君とほぼ同意見だよ八幡、けど私が思うにね犯人は君とは違いそこまでの知恵者では無いと思うんだ。」
ヤンは下顎に手を宛てて自身の意見を述べ、そのヤンを八幡は自転車を押しながら怪訝な目で見やりながら問う。
「じゃあお前は犯人はその三又の奴だと言うのか?」
その問いにヤンはお手上げとばかりに両手を肩の辺りまで上げて首を左右に振りながら他人事の様に言う。
「さあどうだろうね、コレばかりはただの推察では結論付けられないからね、と言う事でさっき部室で言った様に暫く彼等の動向を見極めて見なければならないんじゃないかな。」
「………ああ、まぁ結局はそうなんだよなぁ〜、あ〜ぁメンドくせえ。」
「うん、同感同感。」
結局奉仕部男子二人の答えはそこに行き着く、面倒臭いと。
そんな男子二人の会話を部長である雪ノ下は敢えてその会話に加わらずに、聴くだけに留めている。
彼女がこの時そうしたのはこの二人の問題児がこの件に付いてどの様な見解を持っているのかを知りたかったが故なのか、或いは彼女自身意識してはいないのかも知れないがその問題児が示す見識を知らず認めているからなのか。
「けど由比ヶ浜にとっちゃクラスでツルんでる仲間内の事だしな、アイツにとっちゃ他人事じゃ無かろうってな。」
「ああそうだね、それもまた同感。」
男子二人のその会話に思わず雪ノ下はその頬を緩めていた、しかしその事に本人は気付かずに居るしまそ又の様に指摘されたとしても彼女は力強く全否定するだろうが。
暫く並び歩いていた四人だったがやがて別れ道に差し掛かる、学校近くのバス停に到着しバス通学者である由比ヶ浜がそのバスに乗る為である。
「それじゃ皆また明日ねバイバイ。」
スクールバッグを背負い両手をヒラヒラと振りながら由比ヶ浜が別れの挨拶をすると、他の三人もそれに答える。
「おう、そんじゃな由比ヶ浜。」
八幡が応えると由比ヶ浜は満面の笑みで「うん!」と元気な声で返事をし、其処ではたと思い出したかの様に若干躊躇いがちに八幡に近づくと。
「ねぇ、ヒッキーあのさ、ええっとねその、あのね…メール、あのヒッキーのアドレス教えてっ!」
顔を真っ赤に染めて勇気を振り絞り由比ヶ浜は八幡に頼み込み、ほんの僅かな時間両の眼を忙しなくキョロキョロとさせていたがやがて由比ヶ浜はしっかりとその目線を八幡へと合わせた。
「はっ、いや、何で!?」
思わぬ事態に八幡は戸惑いの色を大きく浮かべた表情でそう由比ヶ浜へ問うてしまう。
「へっ、何でって……そりゃあたし達奉仕部の仲間だしさ、だから何か有った時直ぐに連絡取れるほうが良いじゃん、でも……本当はあたしが…。」
最後の方は何と言っているのか聞き取れなかった八幡であったが、部の仲間として知りたいと言うのならばヤンのアドレスも聞くのが筋ではないのかと八幡はそう思い、それをストレートに聞いてみる。
「だったら俺だけじゃなくてヤンのも聞かなきゃいけないんじゃないのか。」
その問を傍で聞いているヤンは『いやはや私も人の事はあまり言えないけど、八幡もいい加減恋愛沙汰に鈍いにも程があるんじゃないのかな。』などと微笑ましく眺める。
「…そっ、そりゃ当然ヤン君のも教えてもらうけどさっ、あ、あたしがヒッキーのアドレス知りたいのッ!」
由比ヶ浜はその八幡のつれない物言いに憤慨し少しその声を荒げ、羞恥心を抑えながらも思わず己の本心を宣言してしまう事となってしまった。
そしてプイッと顔を背けるもその片方の瞳はチラチラと想い人に向けられているのだが。
「…おっ、おうそうか……。」
八幡はそんな彼女に多少は気圧されたものの、気恥ずかしそうに己を窺う彼女の仕草にあてられ一言小さく返し。
「……うん。」
由比ヶ浜は恥じらいつつも嬉しそうにぽそりと答える。
「そうか……ほら、アレだ俺はこう言うのよく知らんから由比ヶ浜がやっといてくれ。」
八幡はそう言うと自分の端末を直接由比ヶ浜に渡すべく差し出す、そして渡された由比ヶ浜はそれが嬉しくもあるのだがまさかその様にアッサリと端末ごと渡されるなどとは予想もしておらず、其の内申彼に対して呆れてしまってもいた。
八幡の方はと言うと、先の由比ヶ浜では無いがその顔を背けながら端末を差し出しているものだから由比ヶ浜はその彼の仕草に悪戯心を刺激された様で。
「うん、ありがと…てかヒッキーその顔ちょっとキモい。」
と言ってしまい、言われた方の八幡は少しばかりムッとしたのか。
「あっ?何お前喧嘩売ってんの、ならコレは要らんだろう。」
そう返す、由比ヶ浜は八幡のその態度に慌てて自身が彼を傷付けてしまったかと後悔し、直ぐ様彼に謝罪の言葉を述べる。
「えっ、あっごめんなさいヒッキー、あたしそんなつもり無くって……あのあたしはさヒッキーやゆきのんやヤン君みたいに言葉とかあんまり知らないから、こういう時何て言えばいいか解かんなくて……ゴメン。」
しおらしく述べられた謝罪の言葉を無碍に切って捨てる程には現在の八幡も弄ては居らず、その言葉を受け入れ改めて彼女に端末を渡した。
「おう、そうだな由比ヶ浜もアレだもう少し国語を勉強しないとだな、せっかく雪ノ下に教えて貰ってるんだろうからな。」
「……うん。」
八幡とヤンが由比ヶ浜とアドレスを交換を済ませると、由比ヶ浜は雪ノ下にも部員皆でのアドレスを交換しないかと提案。
「そ…そうね、そうそうあるとは思えないけれど緊急の事態が起こらないとも限らないのだから、それも必要になる事も無いとは限らないのだからそれもやむ無しなのかしら。」
由比ヶ浜の提案に雪ノ下もまんざらでは無いのだが、彼女もまた素直な性格では無い為にこの様な物言いになってしまうのはある意味様式美とでも言うべきなのだろうか。
バス停で由比ヶ浜と別れて暫し、次に駅へと向かう方向と住宅街へと向かう方向との別れ道に差し掛かり、電車通学の雪ノ下とは此処で別れる事となる。
「では、私は此処で……それから比企谷君、ヤン君、私はあいにくとクラスが違うのでこの件は貴方達に任せてしまう事になってしまい申し訳無いのだけど、よろしくお願いね。」
雪ノ下は葉山が持ち込んだ件を三人に任せきりの状態になる事に忸怩たる思いを抱いているが故に、それを詫びる。
「ああ、コレばかりは仕方が無いからね、こんな私達だけどまぁ泥舟よりは幾らかマシだろうからね、適当にやって見ることにするよ。」
「…まぁ俺は人に話し掛けるのは得意じゃないけど観察するのは得意分野だからな、その方向で行ってみるわ。」
雪ノ下への返答は何方も彼等二人らしい返事なのだが。
「………何かしら、私は任せてはいけない人物に任せられない仕事を任せ様としているのではないかと思えてならないのだけど。」
雪ノ下がそうぼやくのも致し方無いと言うほかならないだろう。
本日はヤン・ウェンリー提督の誕生日ですね。