不敗の魔術師が青春するのはまちがっている。   作:佐世保の中年ライダー

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魔術師は優しい嘘を肯定し、そして。

 

 「ありがとうフレデリカ、しかしこれはまたベレー帽か……そのだね、一体どう言った基準でこれを選んだのか聞いても良いかな。」

 

 掌の上に置いた黒いベレー帽をヤンは静かに感慨深く眺めながらも、彼はそのベレー帽を贈ってくれたフレデリカに対し何と声を掛けるべきか、また彼女が何を思いこのベレー帽を贈り物として選んだのかそれが気にならない筈も無く意を決してと言うには些か大袈裟だがヤンは彼女に対して問い掛けたのだったが。

 

 「……あの、お気に召しませんでしたかウェンリーさん……」

 

 フレデリカとしてはヤンからその様に問い掛けられるとは思ってもいなかった事もあり、おずおずと戸惑いながら問い返してしまう。

 しかしフレデリカのそれも当然と言える反応であろう、彼女からすれば意中の人たるヤンに喜んでもらおうとの思いからプレゼントとして選び贈った物なのだから。

 

 「ああいや、これは済まないねフレデリカそんな事は無いよ、ただ君が何故これを私にとチョイスしたのか気になっただけなんだよ。」

 

 シュンと沈んだ調子のフレデリカの様子にヤンは慌てて彼女へ詫びる、それは己の感慨にばかり気を取られ彼女の真心を蔑ろにしてしまったのだとの反省の思い故に。

 彼女からのプレゼントをヤンは気に入らなかった訳では無い、ヤンのその言葉を聞きフレデリカはホッと胸を撫で下ろすと彼女は語り始めた。

 

 「わっ、笑わないで下さいねウェンリーさん、実はもうかなり前のことなんですけど私、夢を見たんです……」

 

 そう言ってフレデリカが語るその理由とは、それはヤンに取ってはある意味ショッキングとも言える内容であった。

 

 「其処は床も壁も天井も金属で構成された途轍もない大きさだと思われる建造物の中でした、その建造物の窓や大きなスクリーンに映る風景は一面の黒と無数の星が煌めく永久の夜の世界でした。

 そこで私は黒いジャンパーとアイボリー色のスラックスを身に着け頭にはベレー帽を被っている今よりも大人になっていてそして私と同じ服装の大勢の人達と一緒にその場所で働いるんです、当然ですけど勿論其処には今よりも大人なウェンリーさんも居ましたよ夢の中の私と同じ服装で勿論ベレー帽も身に着けていましたよ。」

 

 「……………。」

 

 『まさか彼女もそうなのか』と言葉には出さずヤンは心中に呟く、フレデリカが言う巨大な建造物とはイゼルローン要塞か或いは同盟軍の宇宙戦艦、それも旗艦ヒューベリオンの事ではないかとヤンは検討を付けた。

 

 「そして私は今よりもずっと大人になって重大な責務を果たす、そんなウェンリーさんの傍らで、何時もウェンリーさんを見つめているんです。

 でも、その夢の中のウェンリーさんったらそんな重責を負っているのにデスクの上にお行儀悪く胡座をかいて座っていて、でもそんな態度に私達は安心感を抱いているんですよ、ふふっ何だか可笑しいですよね。」

 

 フレデリカはヤンの目を見つめながら静かに微笑みその夢の話を締め括る、そう話を結んだ彼女の様子からどうやらヤンはフレデリカは自分の境遇とはとは多少違う様だと判じ彼女に尋ねてみようと意を決する。

 

 「そのだねフレデリカ、一つ聞きたいのだけどその夢を君は何度も見ているのかな。」

 

 自分の時はそうだった、夢を何度も何度も見続けてやがてそれが己の前世での出来事であると言う事を理解し覚醒してしまったのだった。

 もし彼女までもがそうだとすしたら彼女はどうなってしまうのだろうか、この世界の自分と宇宙暦の世界の記憶とに精神が苛まれるなどと言う事も有り得るのではないだろうかと、ヤンはそう危惧するのだ。

 

 「えっ、いいえその夢を見たのは一度だけですけどとても印象に残っていまして、ですがそれがどうかしましたかウェンリーさん。」

 

 しかしフレデリカはヤンの顔を訝しそうな表情で見つめながらそう答える、その答えにヤンは胸元に手を当てホッと胸を撫で下ろし安堵する。

 どうやら彼女はヤンとは違いあの夢をずっと見続けている訳では無い、この先もしかしたら彼女は宇宙暦の世界の夢をまた見る事があるかも知れないが、フレデリカにはどうかそれをただの夢だと認識していて欲しいとヤンは願わずには居られなかった。

 在ったのかどうかも判らない前世などと云う物に何も今生の人生を縛られる事など無いだろう、自分も自分でそして彼女にもこの今の現実の人生をより良いものにと願うのだった。

 

 しかしだとするならばとヤンは考えてみる、宇宙暦を生きた記憶を完全に持っている己とそうで無いフレデリカとの違いは何なのだろうかと。

 更に加えるならばフレデリカの父ドワイト氏もそうだ、ドワイト氏もまたフレデリカ同様に宇宙暦の記憶は持ち合わせていない様であるうえにヤンが知る範囲内ではあるが性格、人格面でも宇宙暦のドワイト・グリーンヒル大将とはかなり違いがある。

 

 『考えたくは無いが、その違いは何かしらの超越的存在の気紛れだとかなのだろうか、だとするならば本当に質が悪いにも程があると云う物だな。』とヤンは自身が推察を進めた思考に憮然とする。

 『しかも最近ではこの世界そのものが何者かが創り上げたバーチャルリアリティ空間であるなどと云う学説までも唱えられる始末だし、そこに活きる我々人や生物さえも誰かが操るアバターだなんて言うし、いやはや何ともこりゃあ世も末だ。』頭を掻きながらヤンはそうぼやきたくなった。

 

 しかもこれはヤン自身が時として思う事なのだが、もしかすると宇宙暦の時代なんてものはヤン自身の只の夢の産物でしかなく、そうであるにも拘わらずその夢に精神を惹かれる自分は所謂中二病患者なのではないのかと。

 そんなヤンの考察や思いをもしも捻くれていながらも不器用な優しさを持つ友人へ話そうものなら彼は何と言うだろうか『なら、お前を操るプレイヤーはとんでもない額の課金をしてレアカードでも引き当てたんじゃね』とでも言うのだろうか。

 

 更にポリポリと頭を掻きながらそんな風にヤンは一人ごちると気を取り直すと改めてフレデリカへと向き直り「いや何でもないんだよ、ありがとうフレデリカ大切に使わせてもらうよ」と感謝の言葉を述べると頂いたベレー帽を無造作に自由惑星同盟軍に所属していた頃の様に己の頭へと被せるのだった。

 

 「ふふっ、もうちゃんと被らなきゃ駄目ですよウェンリーさん。」

 

 フレデリカは苦笑しながらそんなヤンの頭の上のベレー帽を甲斐甲斐しくきちんと整え被せ直し、ごく一般的な普通の人の感覚ではそれなりに整っている顔立ちではあるが地味目な印象のヤンが(あくまでも彼女視点ではあるが)それによりヤンの男振りがあがって見え十分に満足感を味わう事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 「ウェンリーさん、もうそろそろ小町ちゃん達と合流した方が良い頃合いではないでしょうか。」

 

 「そうだねもうそろそろ昼食時だしね時間的にも頃合いだろうし、皆と合流しようか。」

 

 商業施設のベンチにて二人で暫しの休憩時間を満喫し心身の充足感を得たフレデリカの提案、ヤンもその提案に否はなく二人はベンチから立ち上がり八幡達のいるであろう下階へと向かおうとするヤンとフレデリカだったが。

 

 「アレっ!?ヤン君とリカちゃん。」

 

 見知った聞き覚えのある声音の女性の声が二人を呼び止められる、その声にヤンとフレデリカが振り向くと其処にはやはり二人がよく知る少女の姿があった。

 夏らしい涼やかな服装に身を包んだ愛嬌のある顔立ちの少し小柄な少女、ヤンの同級生であり同じ部活に所属する総武高校の女子生徒。

 

 「あっ…やっ、やあ奇遇だね由比ヶ浜さん。」

 

 由比ヶ浜結衣が彼女らしい愛嬌のある笑顔で二人に手を振り、そしていつもの様に「やっはろー」と彼女独特の妙な挨拶を返してくるのだが、このタイミングは少しばかり不味いのではないかとヤンは内心に思う、それは今日この場にヤン達が繰り出した理由が彼女の誕生日のプレゼントを彼女には内密に用意する為であり、しかも雪ノ下は更に後日彼女の誕生日を祝う為のイベントも彼女には内密に計画しているからなのだが。

 

 「うん、あっ!もしかして二人はデート中だった、ゴメンだったらあたしお邪魔だよね。」

 

 「いや、決してそんな事は無いんだけどね、あーっと、実は今日はその…」

 

 由比ヶ浜はヤンとフレデリカが二人でこの場に居る理由をそう判断し詫たのだろうが、別段彼女の事を自由惑星同盟の政治家達のように疎ましく思っている訳では無く、只単に内密にするべき彼女へのサプライズ企画の事を思うとどの様に彼女へ説明すべきかと思案するのだが、戦場とは違い上手くこの場を切り抜ける為の策が思いつかないのだった、しかし今のヤンには頼りになるどころかこう言った場合に於いて彼以上に有能なパートナーが隣りにいるのだった。

 

 「実はですね、今日は私と小町ちゃんとで買い物の約束をしていたんですけど丁度都合良くウェンリーさんと八幡さんも予定が無いと言う事でしたので、お二人にも付き添ってもらったんですよ。」

 

 言葉に詰まるヤンに代わりフレデリカが由比ヶ浜へ対応する、その言葉には嘘の成分が含まれていているが彼女の咄嗟の対応力にヤンは脱帽する思いを抱くのだった。

 

 「えっ、ヒッキーと小町ちゃんも居るの、何処!?」

 

 「多分今は下の階に居ると思いますけど、あっそうでしたつい先程雪乃さんにもお会いしたんですよ、ねえウェンリーさん。」

 

 八幡と小町もがこの施設内に居ると知り由比ヶ浜の表情にはつい先刻ヤンとフレデリカと会った時以上の笑顔で二人の居場所を尋ねる、其処にフレデリカは更に雪ノ下とも出会ったと嘘を重ねるのたが、このフレデリカの嘘にヤンは彼女の優しさを感じていた。

 

 「あー、うんそうだったね、少し前に確かに雪ノ下さんとも出会ったよ、もしかすると案外今頃八幡達とも出会っていたりしているのかも知れないね。」

 

 それは今日の由比ヶ浜へのプレゼントを購入するという買い物イベントであるが、当の本人である由比ヶ浜にはその事は内密としている。

 だがしかし偶然ではあろうが、この様に由比ヶ浜と遭遇してしまったが為もしこのイベントの内容を知らない彼女が自分を除いた他の部員全員で出先に集っているのを見てしまったらどんな思いを抱くだろうか。

 休日のおでかけイベントに自分だけ呼ばれなかった、きっとその事に彼女が疎外感を感じてしまうだろう、そう見越してフレデリカは由比ヶ浜を気遣い優しい嘘を吐いたのだ。

 殊に由比ヶ浜と雪ノ下は親友同士でもあり、また由比ヶ浜は八幡に対し想いを寄せていると言う事は野暮天のヤンにでさえも理解できるのだから。

 

 「えっ!本当にっ!?じゃあさ一緒に皆のところへ行こうよ。」

 

 「ええ、それも良いですね、でもちょっと待ってて下さいね結衣さん。

 小町ちゃん達が何処に居るかメッセージを送って確認してみますから。」

 

 そう言うとフレデリカはスマートフォンを取り出し手速く操作し小町へのメッセージを作成し送信する、その内容は由比ヶ浜との邂逅とこの僅かな時間で話した内容を手短にまとめたものだ。

 

 

 

 

 暫しの間を置きフレデリカのスマートフォンに小町からの返信が届いた、その内容はフレデリカのメッセージ内容を三人で周知し由比ヶ浜への対応を話し合った旨を伝えるもので、これを受け準備は完了と判断しフレデリカはヤンと由比ヶ浜結衣へ八幡達との合流を促す。

 

 「では行きましょうか、やはり雪乃さんも八幡さん達と合流されて、今は丁度一つ下の階にいらっしゃる様ですよ。」

 

 「うん!」

 

 満面の笑みを湛えて由比ヶ浜が元気に返事を返し早速とばかりに三人は階下へと向かい歩み始めるのだが、進み始めて数分も経たない内にフレデリカのスマートフォンが軽やかなメロディを奏で着信を伝えるのだった。

 

 「すみません、メッセージの着信みたいです、少し待ってくださいね。」

 

 そう断りを入れフレデリカはその場に立ち止まるとスマートフォンを取り出し確認を取る、そのメッセージは小町からの物でフレデリカは素早くそのメッセージを確認する。

 

 「あら、雪乃さん達の元に思わぬ来訪者が訪れたそうですよ、これは急いで合流した方が良いのでしょうか。」

 

 小町のメッセージを読み終えフレデリカがヤンと由比ヶ浜にそう告げると二人は訝し気な表情を顕し「その来訪者とは何者なんだい」とヤンがフレデリカへ問うのだが、肝心の来訪者に付いての詳細な情報がメッセージには記載されていなかった為に。

 

 「ただ相手は妙齢の女性であるようですよ。」

 

 小町のメッセージの内容からはそれ位の事しか答えられる情報は無かった、結果三人は取り敢えず当初の目的の通り八幡達との合流を優先しようと云う結論となり、階段を階下へと下ると八幡達がいると思われる店舗付近へと向かい行く。

 

 

 

 

 

 「あっ、お〜いリカちゃんにヤンさんに結衣さ〜ん!こっちこっち、コッチですよーっ!」

 

 階段を降り、数十メートル程歩んだ所で八幡の妹である小町が三人を見つけジブンの居場所を知らせ小さく手招きをしている、但し何故だな小町は小さな声でコソコソとまるで八幡と雪乃そして件の来訪者に対して自分の存在とヤン達の到着を知られる事を不味いとでも言っているかのように。

 

 「やっはろー小町ちゃん、てか何でそんなにコソコソしてんの?」

 

 「やっはろーです結衣さん、あ〜いやぁっ実はですねってかアレを見てもらった方が早いですね。」

 

 由比ヶ浜の挨拶に小町も挨拶を返し左手を口元に添えて内緒話でもするような仕草に加え右手の人差し指を小町自身の斜め前方へと指し示す、その指が示す方向へとヤン始めフレデリカと由比ヶ浜が視線を向けると其処から数メートル先に行き交う群衆の中に立ち止まり話をしているらしき三人の男女の姿が、その内の二人の男女は彼等の知る人物比企谷八幡と雪ノ下雪乃で間違いないがもう一人の人物である妙齢の女性は彼等が見っ知っている人物では無かった。

 

 「リカちゃんからメッセージをもらって直ぐに二人にその事を伝えて、小町はちょっと野暮用で二人から離れたんですけど、戻って来たらあんな状況だったんですよ。」

 

 ヤンは小町の言葉を耳に留めながらも八幡達の様子を観察する、ヤンの目に映るのは愉しげに二人に接する妙齢の美女と、それに対してあまり楽しそうには見えない八幡と雪ノ下の様子だった。

 いや、楽しそうに見えないどころか二人の表情は雪ノ下は戸惑いと僅かながらの不快感が八幡に至ってはその女性に対して何とも、まるで得も言えぬ恐れの感情でも抱いているかの様に見える。

 

 「………。」

 

 これは我が友人達にとってあまりよろしく無い状況なのだろうかとその様子を眺めヤンはそう推測するが、何故そんな状況に彼等が置かれているのかこの場からでは何も知れはしない。

 

 「何だかあの女性雪乃さんとどことなく似ている様に思うのですけど、もしかして雪乃さんのご家族、お姉さんなのでしょうか。」

 

 ヤンと共に八幡達の様子を観察していたフレデリカが二人の女性を見比べ自身が導き出した意見を述べる、言われヤンは二人の女性を見比べてみる。

 見た所肉体的な特徴は大きく違い女性は雪ノ下よりも遥に女性的な肉感を感じさせる容姿をしているが、確かに顔の造り等はヤンから見ても『なる程確かに似ているのかも』と思わせる。

 

 「うんどうだろうかね、しかしまあ此処で私達がどうこうと言っててもしょうが無いからね、兎に角あちらへ行ってみよう。」

 

 二人の友人の冴えない表情に、かの来訪者の存在は(特に雪ノ下にとっては)あまりよろしく無い人物なのだろうかと推察し、ヤンはフレデリカ達を促し八幡達の元へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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