不敗の魔術師が青春するのはまちがっている。   作:佐世保の中年ライダー

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魔術師は仮面の少女を案じながらも、昼食の一時を楽しむ。

 

 由比ヶ浜の誕生日プレゼントを購入すべく訪れた大型商業施設にて、思い掛けずも遭遇してしまった雪ノ下雪乃の姉、雪ノ下陽乃。

 その初対面の彼女への自己紹介を少々茶目っ気混じりに行ったヤンだったが、しかし自身に対する他者からの評価と己自身の評価とのあまりの違いに少々不満気に、ヤンはフレデリカよりプレゼントされた黒いベレー帽の上から頭を搔きつつぼやき節を一つ。

 

 「ふうん只の男子高校生ねぇ、まっいっかそう云う事にしといてあげるよ…今日のところはね。」

 

 そんな妹やその友人達の様子を内心の嗜虐心を隠しつつ観察し、雪ノ下陽乃はさも愉快と言わんばかりの表情を浮かべながらその様に告げる。

 その言葉に八幡などは心底安堵したとばかりに露骨に、周りの者達に見抜かれる程その感情を表情に現している。

 それと同様に妹である雪乃の方もまた八幡程に露骨では無いがほっと溜め息を吐く、そんな二人の様を陽乃は確りとその目に捉えては居たのだが、其れに着いては『取り敢えず今回は見逃すよ』とばかりにスルーを決め込み、別れの挨拶代わりに手を振り身を翻しつつ最後に一言付け加え。

 

 「残念だけど君の言う通り私にも連れが居る事だし、それに今日の所はゆっくり雪乃ちゃんとも話せそうになさそうだしこれで失礼させてもらうね。

 フフフ、でも何連見せてもらいたいものだねぇ君の…ううん君達二人の持ってるものをさ、きっと面白いモノを持ってるに違いって私のセンサーがビンビン感じちゃってるんだよね。

 それじゃあじゃね雪乃ちゃん、そうだたまには実家にも顔を出しなさい母さんの心象を多少なりとも良くしといた方が後々面倒が少なくなるかもだよ。」

 

 言い終えると陽乃はもう振り向きもせず、雪乃達に絡む為に放っておいた形となってしまった友人達に謝罪をしながらその輪の中へと入って行きその場を去っていった。

 その背中を見送り終え彼女等の姿が見えなくなると、八幡と雪ノ下はまるで目に見え無いプレッシャーから解放されたかの様に安堵の溜め息を吐くのだった。

 

 「たははっいや参ったな、見てみたいと言われても生憎と私は演技者でも無ければ演出家でも無いんだが、そんな一方的に何ぞや期待など持たれてもねえ。」

 

 戯けた調子でヤンは八幡や雪ノ下始め皆の気持ちの切り替えを促すべくそんな冗談口を叩く(それは前世に於いて食う為に軍人となり戦争に加担し多大な戦果を上げその功績から、不敗の英雄として祭り上げられてしまうと云う彼からすると不本意極まりない役割を担わされ演じさせられ続けた経験から来る彼の本音なのだった)と八幡や雪ノ下を含め皆の視線が彼へと向けられる、それが功を奏したのか心做し八幡と雪ノ下の表情から緊張感が程良く取れた様に感じられ、ヤンも内心ほっと一息吐くともう一言を付け加える。

 

 「それに仮にもしも私達がミス雪ノ下に対して何某かを披露したとしても、それを彼女がお気に召さず見物料の返還でも求められたとしても此方としてはそれに対応出来無いだろうしね、まあ私としては別に金銭を要求する気は更々無いんだけどね。」

 

 「あぁそうかもな、観客なんて者は身勝手なもので勝手に期待しておいて少しでも気に入らない事があれば直ぐに外方(そっぽ)向いてしまうし、でなけりゃ飽きたからってポイでハイそれまでョだしな。

 いやしかし何かゾとしねえなぁ想像したくもねえわ、けどヤンお前よくあんなおっかない人にあんな軽口が叩けたな、あんな強化外骨格で完全武装を決め込んでるみたいな薄ら寒い人を相手に。」

 

 ヤンがそう言い終えると二〜三秒の間を置いて八幡がそれに同意する、その彼の表情はげんなりとしていて心底雪ノ下陽乃という女性との邂逅に得も言えない恐怖感を掻き立てられのだろう。

 そんな相手を平然と往なした友人のコミュニケーション能力に八幡は感心と感嘆を以て評価すると、ヤンは相変わらずのマイペースな調子で事も無げに八幡へと返答を返す。

 

 「ああ、まあ彼女の様なタイプの人物にはこれまでに出会った事もあるしね、しかも身内にもそんな感じの者も居たからそれなりに対応にも慣れていてね。」

 

 ヤンと八幡のその様なやり取りを傍で聴いていた雪ノ下は、男子二人のその会話の内容に少しばかりの感嘆の思いを抱いていた。

 

 「ヤン君……比企谷君もだけれど貴方達はもしかして姉さんの隠している本質を見抜いたと言うの、大したものねこの短い時間で……。」

 

 幼い頃から姉を最も近くから見ていた雪ノ下はその姉の能力、才能に憧れ目標としていたが何時しかその想いが優秀な姉に対する尊敬の念と同時にその姉の高過ぎる技量や能力に追いつけず、いつしか劣等感と嫉妬心が芽生え始め何とも複雑な感情を抱く様になっていた。

 

 「うん、だけどあれはまあ言わば必要に迫られて心ならずも身に着けた、いやこの場合は身に着けてしまったと言うべきかな、とにかくそんな一種のスキルなのだろうね、だとするならば彼女も被害者なのかも知れないね」

 

 「そう、なのね……。」

 

 ヤンが今し方言った様にそれは彼自身の経験に基づいての発言なのだろうが、そうとは知らぬ雪ノ下にはヤンの鋭い洞察力から導き出された推論なのだろうと感心すること仕切りなのだが、其処は彼女らしくそれを努めて面に出す事はしなかった。

 

 「えっそうなのお兄ちゃん、小町には何だかイタズラ好きな気のいいお姉さんみたいに思えたんだけど。」

 

 兄を含む年長者達の会話に感心しながらも流石にまだ中学生である小町は雪ノ下の姉陽乃の“ソレ”を見抜けず、今自身が口にした気のいいお姉さんとの印象と兄やヤンが抱いた(否見抜いた彼女の本質との違い)と云う違いを疑問に思い小町は兄に尋ねて見るのだが。

 

 「まあな、あれ程上手くってか巧妙に隠してるんだから普通の人間に安易には見抜け無いだろうがな、しかし長年のぼっちライフに依って培われた俺の観察眼ならばあの程度見抜くのは造作も無い事よ。」

 

 顎に指を当て目を閉じる、相手が妹であるが為の気安さから出たポーズなのだろうが、それはどうにも小町には不評な様で彼女はジトっとした目を彼に向け。

 

 「うっわ〜、なぁにそんな意味もない事で一々格好つけてんだろうねこのゴミぃちゃんは、そんなポーズまで決めて恥ずかしいったらありゃしない。

 小町的にポイント低いどころかマイナスだよ………あっところで皆さんもうそろそろお昼どきですけど、どうでしょうこのまま序にフードコートにでも行って食事でも!」

 

 バッサリと斬って捨ててしまうのだった、そして空かさずに皆へ昼食をと提案し不満気にむくれる兄につけ入るスキを与え無い、やはり流石は兄妹だけあり面倒臭い兄の扱いは手馴れたものだ。

 

 「ねえ小町ちゃん最近お兄ちゃんの扱いが更にも増してぞんざいになっている気がするんだけど気の所為だよね、そうだと言って。」

 

 八幡は余りな妹からの扱いに嘆き節の懇願を入れるが、まるでその存在を端から居ない者の様に扱われ一人涙する。

 

 「あはは……ヒッキー、あのさ、ドンマイ。」

 

 八幡の嘆きを見かねた由比ヶ浜が苦笑しながらも慰めの言葉を掛けるのだが。

 

 「おう何かスマンってか由比ヶ浜、何気に今までスルーしてたけどお前何で此処に居んの、もしかしてお前俺達の事をストーキングでもしてたの?」

 

 何とも恩知らずな一言を由比ヶ浜に言い放ってしまい、要らぬ怒りと疑惑を持たれる事となってしまう。

 

 「なっ!?もうっヒッキーってばあり得ない人をストーカー呼ばわりとかサイテーだよ、そんなの偶然に決まってんじゃん!それともあたしが此処に居ちゃヒッキーは何か都合でも悪いの?あっ何かあたしに隠し事でもしてんじゃないの、ねぇゆきのんもそう思わない?」

 

 ポカポカと八幡の腕を軽口じゃれつく様に叩きながら彼の発言に対する不満をぶつける由比ヶ浜と、痛いから止めろなどと言いながらも実際は然程痛い訳では無く彼女の様に、悪い言い方をするならば『無遠慮』に自身のパーソナルスペースに侵入して来られる事に慣れていないが為にそれがどうにも居心地が悪く感じられるだけなのだが、それは由比ヶ浜の様な自身とは対極に(と八幡は思っている)あり、人懐っこく陽気でしかもかなり見目の良い少女に馴れ馴れしくされる事に気恥ずかしさと抵抗感がある為なのだろう。

 そんな理由から彼女に対して撚た憎まれ口を叩いてみたものの。

 

 「えっ、わっ私は別に何も……。」

 

 思いがけずもそれが雪ノ下へと飛び火してしまう事となり今日(こんじつ)、この集まりを企図した彼女は由比ヶ浜に対して何と答えるべきか、その言葉が浮かばず困惑に口籠るのだっあ。

 

 「ふふふっ、まあ結衣さんも落ち着いて下さいな、小町ちゃんが言う様にもうお昼時ですし折角奉仕部のメンバーも揃った事ですし、どうです皆さん昼食を摂る事にしませんか。」

 

 再度、今度はフレデリカから提案されたその言はこの場の幾人かにとっては天から降りてきた救いの、細い一本の糸も同然で当然の様にそれに飛び付くのだった。

 

 

 

 場所を移し一行は施設内のフードコートへと到着すると其々に好みの飲食物を購入して席へと着く、しかし休日だけあり人出が多く彼らが食べ物にありつくには思いの外時間が掛かってしまい、人が多い場所が好きでは無い八幡と基礎体力の無い雪ノ下などは席へと座ると食事を摂る前にげんなりとして溜め息を吐き。

 

 「あーあ、何でこんなに人が多いんだよ世間には幾らでも飲食店が存在してんだから、もっと分散して他店に行けばいいだろうにな、例えば各々の住まう地域の食堂とかレストランとか喫茶店とかでも良いんじゃね、それこそ地産地消で地元の経済も潤うだろうし地元経済も回ってみんな万々歳じゃね?」

 

 「うわ、また始まったよお兄ちゃんの我が事を棚上げしての集団批判が、あのさぁお兄ちゃんそんな事言ったらそれこそお兄ちゃんだってじゃあ近所の食堂にでも行ったらどうなのさって言われるのがオチだよ。

 だいたいさ今ここにお兄ちゃんが居る時点でお兄ちゃんも他の人と同類で同じ穴の狢なんだからさ他所の人達の事あーだこーだ言えないって解ってんのかな、このごミィちゃんは。」

 

 いつもの如く無駄口を叩き妹からの冷めた目を向けられてのその反論に八幡は何らの反撃も出来そうに無く憮然として押し黙る他のなかったのだが、しかし意外にもそんな八幡の言に同意を示す者が一行の中に存在したのだった、それは。

 

 「小町さんの発言は全く持っての正論であり反論の余地など微塵もない物だし普段であれば私も小町さんの発言を支持するのだけれど、甚だ不本意なのだけれど今回だけは私もそこの狢谷君の意見にほんの僅かだけ、ええ甚だ不本意だけれど頷きたい気分だわ。」

 

 顔色も悪く少し息切れさえしているにも拘わらずその様な減らず口を叩く雪ノ下に皆苦笑を禁じ得ないのだが、彼女からやり玉に上げられた形の八幡は些か面白くは無く。

 

 「お前どれだけ甚だ不本意って言いたいんだよ、しかもなん何だよ狢谷って韻も何も含んじゃいないし語呂がいい訳でも無いし、てかそんだけ疲れた顔してんのにそんな言葉いじりする余裕だけは残ってんだなある意味尊敬もんだわ、否尊敬なんかしないけど。」

 

 「あら別に貴方からの敬意など一欠片さえも欲しいとは思わないけれど、そんなにも私が貴方の意見に消極的に渋々ながらも同意を示すのが不服だと言うのかしら。」

 

 八幡が反撃に転じれば雪ノ下もそれを迎え撃つ、これもこの二人なりのコミュニケーションのとり方なのだろうと云う事がこの一月余りの時を彼らと共にしてヤンにも理解出来だ。

 その毒舌による憎まれ口の叩き合いを展開する二人の様子に、ヤンはかつての一癖も二癖もあり過ぎる毒舌家揃いの前世の仲間達との日々を思い起こすのだったが、だからと言ってそれを放置し過ぎでは何処かしらでその箍が外れ取り返しの付かない事態に発展してしまうと云う事もあり得る。

 

 例えばちょっとした言葉の選択ミスに依って相手の逆鱗に触れてしまう等、政治や外交の世界でもそれは起こりうる事でもあるし、それによって戦争勃発などと云う事態にさえなりうんのだから。

 そんな大人の世界でさえそうなのだから、それがましてや人生経験の浅い十代の少年少女ともなれば尚の事ではないだろうかとヤンは危惧する、尤も願わくばただの杞憂であればとも思うのだが。

 

 「ははっ、まあ八幡も雪ノ下さんも仲が良いのは結構だけどもうそれ位で良いんじゃないかい、ほら折角買った昼食のうどんが冷めて伸びてしまったら美味しく頂けないだろう。」

 

 ヤンはセルフサービスにより盆の上に乗せた昼食のトッピング増々のうどんを指して二人を諌め昼食にしようと促す、そのヤンの言に当の二人は『別で仲良くなどして無い』と少し顔を赤らめながらボソリと言い反論するが、しかしヤンの言うことも尤もであり冷める前に早く昼食を食すべきだと認め取り敢えずは鉾を収める事とした。

 

 

 

 奉仕部部員に小町とフレデリカを加えた一同は夫々に購入してきた昼食を、他愛も無い会話を交えつつも楽しみながら摂っていた。

 八幡と雪ノ下に依る千葉県県産品に対する知識勝負や、ヤンとフレデリカが是迄に訪問した事のある海外の国で味わった美味や珍味の解説などを聞きつつと言った具合に。

 

 「うーん、しかし以前に九州で食したうどんと今頂いているこのうどん、同じ日本の同じ料理であるのに麺の味はおろか汁の色も味も全く別物の様だね、うーん私としてはどちらかと言えば九州で頂いた味の方が好みに合っているかな。」

 

 そこに投げ掛けたヤンによる東西のうどんの違いに各人が反応する、由比ヶ浜などはどうやらその話自体が初耳だった様で、驚きの声を上げる。

 

 「ほへ〜っ、そうなんだねぇいやさぁラーメンなんかは味噌とか豚骨とかいろんな味があるけど、うどんにも違いがあったんだね。」

 

 「ですね、パスタ類とかだとスパゲッティとかマカロニとか形状も色々違うのもありますけど、うどんは知りませんでしたよ。」

 

 由比ヶ浜の言に小町がパスタ類を引き合いに出し同意すると、フレデリカがそれを引き継ぎちょっとしたうどんの蘊蓄を披露する。

 

 「ええ、讃岐うどんなどはコシの強さが売りだそうですけど九州の方ではコシの無いうどんが有名だそうですしね。」

 

 「ああ、そう言えば私が食べたのは九州のコシの無いうどんだったよ、ゆっくりと食べていたら麺がスープを吸ってしまって何時の間にか少なくなってきて驚いた物だよ。

 まあ継ぎ足し用の薬缶をお店側が用意していてくれてそれを継ぎ足しながら食べる仕組みだったんだけど、あのスープは甘みもあってとても美味かったよ。」

 

 フレデリカの言葉にかつて食したうどんの味を思い起こしてヤンがそう付け加えると、興味を惹かれた女性陣などはその味を味わってみたい、いつか一緒に行きましょうと盛り上がりを見せ、そこに八幡がもう一つうどんのネタを投下するのだった。

 

 「そう言えば聴いた話なんだが、日清のど○兵衛も出汁の味が東西で違うって話だしな、てか俺は基本的に千葉至上主義者ではあるが事うどんに関してはヤンと同様西の方の味が好みだな、何なら勇者部に入部出来るくらい讃岐うどんが好きまである。」

 

 かの有名なカップ入りのインスタントうどんの味の東西の違い、それはごく一部では有名な話ではあるのだが。

 

 「東西の出汁の違いは水質の違いに依るものなのだそうよ、関東圏は水の硬度が高く関西以西では軟水が多いそうよ。

 日本では出汁と言えば鰹節や昆布が主流だけれど、その出汁を取るのに比較的昆布は軟水に適していて鰹節には硬水が適しているのだそうよ、だからその違いが東西の出汁の味の違いに現れているのよね。」

 

 上品な所作でアイスの烏龍茶を飲みながら雪ノ下が、その彼女の溢れる程の豊富な知識から八幡の言に更に追加で補足を入れる。

 内心はアイスティーが販売されて無かった事を不満に思っていたのだが、その事はおくびにも出さずに。

 

 「うわ、出たよ流石はユキペディアさんにだよな、お前が網羅していない知識はオタク界隈くらいなのかよ。」

 

 アイスコーヒーにたっぷりのミルクとガムシロップを継ぎ足した飲み物を味わいながら八幡が突っ込みを入れる、彼女と同じく好物のマックスコーヒーがメニューに無かった事を不満に思いながら。

 

 「そうね、認めるのは業腹ではあるのだけれど貴方やヤン君の影響でそちらの知識も幾らかは仕入れているのだけれどまだまだ貴方達のそれには程遠いと言わざるを得ないわね、それは兎も角比企谷君毎度の様に私が何事か知識を披露する度にそのふざけた呼び方をしないでくれるかしら。」

 

 「あーはいはい、その件に付きましては誠に遺憾ながら可及的速やかに検討を重ねる所存でありまして、付きましては今暫くの猶予を頂きたいと存じておるところです、と言う事にしといてくれ。」

 

 雪ノ下が己に告げた不平を八幡はまるで何処ぞの国会議員の答弁のように、実行に移す気など更々無い答弁の様な返答で韜晦し有耶無耶に終わらせようと試みるが、だが果して雪ノ下を相手に何時までその様な真似が通用するものか。

 キッと鋭い視線を八幡に向ける雪ノ下の態度がその事を如実に物語っているのだが、それには知らぬ顔を決め込んで八幡はコーヒー入りのミルクとガムシロップを啜る。

 

 「あっそだヤン君、そう言えばささっきヤン君がヒッキーに聞かれてゆきのんのお姉さんみたいな人が身近に居たからなれてるって言ってたけどさ、それってどんな人だったの?

 ちょっと気になっちゃって、やぁヤン君があんま話たく無いってなら別にいいんだけどさ。」

 

 八幡と雪ノ下との間にまたしても不穏な空気が生じようとしている事を逸早く察してか、由比ヶ浜が話題を変換すべく素早く口を開き先にヤンが少しだけ語った彼自身の過去の話を掘り下げての説明を求める、由比ヶ浜としては友人である雪ノ下と想い人たる八幡とがこの衆目の中で反発しあい揉め事を起こしてしまわないで欲しいとの気持ちからの発言であり、人の過去の話を穿り返したいと思っている訳では無いのだが。

 

 「ん?ああうん、まあ確かにそう言ったねぇ。」

 

 うどんのお供にと注文したいなり寿司を箸で摘んで口に入れようとしていたタイミングでそう問われたヤンは、本の数十分前の自身の発言を思い返してみて確かにその様な事を言ったなと由比ヶ浜へ返事を返すと、少しだけどうしたものかと思案するが別段隠す様な事でも無し話しても構わないだろうと判断を下し。

 

 「そうだね、時を遡ること……」

 

 ヤンはこの場に居る皆に対して自身の昔話を語り始めるのだった。

 

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