不敗の魔術師が青春するのはまちがっている。   作:佐世保の中年ライダー

27 / 27
魔術師の言葉に彼女は何を見出すか。

 

 大型複合商業施設内のフードコートにて昼食に舌鼓を打ちつつ会話を楽しむ・ウェンリーとその一行、何時もの如く八幡と雪ノ下の舌戦か開始され始めたタイミングを見計らい、由比ヶ浜が機転を効かせ話を逸らす為ヤンに話を振るのだった。

 それに対して嫌な顔一つ見せずにヤンはあっさりと了承すると、語り始めるのだったが。

 

 「そうだね、時を遡ること…とその前に一つ雪ノ下さん一つ確認をしておきたいんだが、もしかすると君の実家は由緒正しきかどうかは分からないけどそれなりの規模の商売を営んでいるのではないかな、申し訳無い私自身不躾な質問をしていると自覚しているから君が答えたく無ければそれでも構わないんだけど。」

 

 前置き一つ自分の話の前に、雪ノ下へと彼女の実家についての質問と言うよりも、確実にそうなのだろうとの推察の元で事実確認をする様に問うのだった。

 ヤン自身が言った様にそれは確かに不躾な質問であろう、問われた雪ノ下が何やら複雑な表情を見せている事からもそれが窺えると云うものだろう。

 

 「ええ、別に隠す様な事でも無いから言ってしまうけれど、ヤン君の推察通りで間違い無いわ。

 私の実家は建設業を営んでいてそれなりに高い実績と業績を残しているし、それに父はこの千葉県の県議会議員を勤めているわ。」

 

 ヤンからの問いに若干、雪ノ下が渋面を拵えた様に見て取れたが彼女はそれでもヤンの質問に対し肯定、自身の家業に付いて答えてくれた。

 

 「そうなんだね、ありがとう雪ノ下さん、ああそれと序に申し訳無いこれまた不躾な質問になるんだが雪ノ下さんのご家族、雪ノ下さんの御兄弟は先のお姉さんと雪ノ下さんの姉妹二人だけではないかと思うんだが、これも間違い無いだろうか。」

 

 それに謝しヤンは再度雪ノ下に問うと今度はごく普通に頷き『ええその通りよヤン君』との一言を発して肯定する、ヤンもまたその答えを聞くと謝辞を述べつつ『うむ』とばかりに頷く、その様は如何にも得心が言ったと言わんばかりであり加えて下顎を指で摘む仕草などを取っているものだから、その姿をみて小町などは。

 

 「おお、お兄ちゃん何かヤンさんってさ凄腕の名探偵みたいだね、今のポーズとかすっごく様になってるしさ。」

 

 と、妙に感心しそう口にし更に其処に付け足して『まあ、お兄ちゃんにはああ言うのちっとも似合わないだろうけどねぇ』などと言うものだから、言われた八幡の方は少し気分を害し反論を試みるも話が進まぬからと周囲から諌められ、眼と表情を腐らせ渋々黙るのだった。

 『ささっ、続きをどうぞ』と調子よくいたずらっぽく微笑みながら小町がヤンを促すと、それが妙に可笑しく感じ苦笑しつつ頷きヤンは自身の推察した事を述べる。

 

 「雪ノ下さんのお姉さん、ミス雪ノ下は雪ノ下家の長子でありつまりはご実家の後継者の立場に現状在る訳だよね。

 と言う事は、これは私の推察だけど彼女はおそらくご両親から後継者としての教育を施されて来たのではないかと思うんだ、それも多分だけどかなり幼い頃からだったんじゃないかな。」

 

 再度雪ノ下がヤンの推論に頷き無言による肯定の意を示すと、またしても『おお凄い』と小町と由比ヶ浜が合いの手を入れ、フレデリカが咳払いを入れて二人を嗜める。

 ペロッと舌を出し戯けた調子で形ばかり頭を下げて詫びる小町と思わず両手で自らの口を塞ぐ由比ヶ浜に、トドメとばかりに雪ノ下と八幡が非難の目を向け二人を黙させる。

 

 「そして、齢を重ねるに連れご両親と共に公の場に出席する機会も増すだろうし、更にはそのご両親の名代としてそう云った場に出席する何て事もね。

 で以てそれは将来へ向けての有力者やその子弟との面通しだとかも兼ねているのだろうね、なので家業の為にも其処で下手な姿なんぞ見せられやしないしスキを晒すなんて以ての外だろう、()してや地方とは云えど議員のご令嬢となれば尚の事にだろうね。」

 

 『やれやれ実に面倒な事だよね』とヤンとしては雪ノ下姉妹を慮り同情の念を込めてその様に言うのだが、その解説を聞く皆には何処かしら惚けた様な声音に感じられているのだが、まるで“気付かないのは本人ばかりなり”を体現しているかの様に呑気に緑茶を啜り口を湿らせて更に続ける。

 

 「しかもそれに加えミス雪ノ下は、いやこれは雪ノ下さんもそうだがとても見目麗しいお嬢さんだし、おっと失礼これはいかんなセクハラ発言と取られてしまうかな。」

 

 失言をしてしまったかと、ヤンは後頭部に手を当てるとゆるりとその後頭部を搔きながら一旦その口を閉じる。

 その続きを語るべきか語らざるべきかとヤンは彼なりに気を使い思案し黙考すると、ヤンに対して気を回したと云う訳でも無いのだろうが八幡がそこから先を彼自身の導き出した考察を述べる。

 

 「つまりは、そこで雪ノ下や雪ノ下さんを見初めて縁談話とかも出て来たとしても可怪しくは無いんだよな、娘を有力者と結び付ける事で自己の権勢をより強固なものにするとか所謂政略結婚の具に供されるって訳だ、ヤンじゃ無いけどそれこそ世界中歴史的にもそんなに珍しい事でも無いだろうし、まぁ実際に雪ノ下の両親がそんな事を計画しているかどうかは知らんし、そもそもが俺達には関係無いっちゃ関係無い事なんだよな。」

 

 「……ゆきのん……」

 

 「雪乃さん……。」

 

 八幡の語る考察に由比ヶ浜と小町の二人は雪ノ下を気遣う様に彼女に優しく声を掛ける、彼女の実家や姉に対して八幡が言った様な事態が何れ訪れたとしても可怪しくは無いと彼女も理解しているのだろう。

 そしてそれは雪ノ下自身の方にこそ、より可能性が高いのではないかと、何故ならば長子である姉はこのまま順当に行けば雪ノ下家の後継者となるでろうが、対して次女である自分はと云えば母親に逆らい実家を出て我儘に一人暮らしをさせて貰っている、その事実を彼女の母親が快く思っているのかと問われたら。

 

 「うん確かにね、まあこれ迄はどうだったか知らないけど之からはそう云った話が出て来ても何ら不思議では無いんじゃないかな。

 ただこれは私が先程、ミス雪ノ下から受けた印象なんだけど彼女は相当に聡明で優秀な、そうだね遣手な女性の様に思えたんだよね。

 なので彼女はそう云った事態にも卒なく上手にあしらい自らが望まぬ縁談などは華麗に往なしてしまいそうだね。」

 

 姉陽乃をその様に評するヤンの発言に雪ノ下も言葉として発する事はしなかったが内心に同意する、幼い頃から間近でそれを見てきた妹である彼女であるからこそ姉のその能力の高さを理解しているという物である。

 そして顧みて自分はどうなのかとも考える、果して自分はその姉程に物事にそして自らの置かれた状況に対して都度適切な判断を示せるのかと。

 

 「ただね、そうであったとしても人の心だとか精神ってものは知らず知らずの内に磨り減ってしまうものだからね、なのでミス雪ノ下も何時か何処かで取り返しの付かないミスを犯してしまう、その可能性もまあ無きにしも在らずってね。

 だからまあそうなら無い為にも彼女も何かしら心身のケアを、気分転換の方法を見つける事が出来ればいいんだろうけどね、それもなるだけ他者に被害が被らない健全な形の物をね、と云う訳で私としては昼寝を推奨するね。

 きちんとした寝場所さえ確保すればあれ程他者に迷惑を掛ける事も無く、且つ心も身体もスッキリとリフレッシュされると来ているからね、どうだいこれ程高尚な趣味が他に在るだろうかと私は言いたいね。」

 

 かつて戦場に於いて数多の敵手を、その敵将の心理状態を的確に読み切り策略に嵌め、幾多の勝利を重ねてきた後の世に戦場の心理学者とも呼ばれるヤンなればこそ陽乃の置かれた状況や心理に付いてその様に推察が出来たのがろうか。

 しかしその様に彼女を親身に案ずる如き言を発しながらも、最後には自分の趣味に付いて力説するヤンの様にフレデリカ以外の女性陣から何とも言えない微妙な視線を送られ、それに気が付いたヤンはハッと我に返ると再び緑茶に口を付け口内を湿らせると一つ咳払いをする。

 

 「おっと、長々と話してしまったが由比ヶ浜さんからの質問に対する答えの、先ずは此れが前提だと理解して欲しいんだがまあ私の趣味の昼寝に着いては置いとくとしてだけど、はははっ。」

 

 ヤンはその様に前置きをし、いよいよ肝腎の本題へ移ろうと改めて口を開こうとしたその時、ヤンを制し雪ノ下が今度は彼へこれまでの話から彼女が思考し導き出した推測を述べはじめる。

 

 「ヤン君、今貴方が語ってくれた話の流れから鑑みて見たのだけれど、貴方が其処まで的確に私の実家の事や姉の事をあれ程迄に的確に推察出来た理由、それは貴方の推理考察能力や比企谷君と同様に高い観察眼によって相手の心理状態等を見抜いたのもあるのでしょう。

 そして貴方が言っていた知っている人と言うのはおそらくだけれど貴方のご家族の方ではないかと推察するのだけれど違うかしら。」

 

 「うん、御名答。」

 

 雪ノ下の言にヤンは一言、そうだと告げると緑茶口に付け美味そうにその口許をほころばせる、紅茶程では無いがヤンは案外緑茶の味も好んでいる様である。

 

 「実を言うとね、その人物とは私の十歳年の離れた兄なんだよ。」

 

 そしてヤンはその種を明かすとまるで合いの手を入れる様に小町が感嘆の声を上げ。

 

 「おお、そうだったんですか、いやぁヤンさんってすっごくシッカリしてそうだから小町は長男さんってイメージ持ってましたよ。

 あぁ〜っ、でもうちの兄も長男ではありますけどもすっごく残念な部類に入っちゃうんですよね。」

 

 序の様に兄である八幡を引き合いに出してこき下ろす、所謂ディスると云う行為である。

 しかし小町は知らなかった、実はヤンが生活人として著しく低い能力しか持ち合わせていない事を、そしてヤンが辛うじて人並みの生活環境に身を置く事が出来ているのは偏にフレデリカが甲斐甲斐しくその身の回りの世話を焼いているからだと云う事を。

 

 「なぁ小町さんや、お前さん最近兄の扱いがヤケにぞんざいに過ぎるのと違うんじゃないですかね。」

 

 「やだなぁお兄ちゃんってば、そんなの今に始まった事じゃ無いじゃん今更だよい・ま・さ・ら。」

 

 それに対し八幡も異議申し立てを試みるがそれを小町はあっけらかんと笑いながらしらっとあしらうと、八幡は反撃の狼煙と共に対小町用の切り札を切る。

 

 「よし、解ったわ……お前がそのつもりなら冷蔵庫の中の俺が買ってきた『フロリダサン○ー』のゴールデンパイン味はお前には分けてやらん!」

 

 「え〜っ!ちょっとお兄ちゃんそれって卑怯じゃん、食べ物を物質(ものじち)に取るとかあり得ない、小町的に超絶ポイント低いよ。」

 

 睨み合う?二人の兄妹の様を見かねたフレデリカは、どう止めようかと思案するもどう声を掛けるべきか戸惑い。

 雪ノ下は溜め息を吐きつつ額に手を当て首を左右に小さく振り、不干渉を決め込むのたが。

 

 「アハハ、小町ちゃんもヒッキーもさヤン君の話が進まないから取り敢えず兄妹のイチャイチャとか喧嘩は後でやりなよ。」

 

 どうにもそれを見かね由比ヶ浜が仲裁に入り、二人揃って『イチャイチャなんかしてないし』と彼女に言われた言葉を否定するのだが、由比ヶ浜からみても兄妹二人のその息ピッタリの合わさり具合には、口では何と言おうともこの二人の兄妹仲は良好であると言う事が伝わってくる。

 

 

 

 

 

 「そうだね、あれはかれこれ六年、いや七年位前だったかな私の幼少の砌の話なんだけど。」

  

 騒がしかったその場が落ち着き一段落が付いた事を見計らいヤンはその様に切り出し語り始めるのだが、またしても其処に待ったを掛ける声が発せられた。

 

 「って、ちょっと待てよヤン、何だよ幼少の砌って!?お前ってアレか何処ぞのお貴族様のご落胤とかなの、さる止ん事無い一族の血筋なの?いや確かにお前の名字はヤンだけど。」

 

 八幡によりその様な突っ込みがヤンの昔語りのプロローグ部分に加えられる。

 

 「はははっ、ナイスな突っ込みと駄洒落をありがとう八幡、いや昔語りするに当たっての演出ってヤツをを意識してみたんだがね、今一受けが宜しくなかったかな。」

 

 苦笑しつつヤンは後頭部に手を当てその様な言い訳じみた事を宣い、そして畏まって咳払いを入れると改めて今度は真面目に語り始める。

 

 「私の実家はそれなりの規模の手広い商いを手掛けていてね、その商売人の家の長子として産まれた兄貴はまあ言うなれば所謂大店の若旦那ってやつだね、ミス雪ノ下と同様にね。」

 

 そして語られる今生のヤン家とその長子についての説明、それは性別の差はあれど雪ノ下の姉陽乃の境遇と近しいものであり、言わばそれは先程まで彼等が語り合っていたブルジョア家庭に於いてはごくありふれた家庭事情と言っても差し支えの無い事柄であった。

 

 「そんな訳で、当時の私の兄貴も今のミス雪ノ下の様に己を殺し八幡が言うところの強化外骨格を纏い完璧な跡取り息子を演じていたんだよ。」

 

 ヤンがそう述べると雪ノ下は少し俯き己の膝の上に置いた手にギュッと力を込め、そして八幡が憮然とした表情で無造作に伸びた髪の毛をガリガリと掻いていた、それはまるでヤンの話を聞いた二人の何ともやるせない気持ちを顕しているかの様に。

 

 「だけどね、さっきも言ったけどうちの兄貴もやはりストレスをため込んでいたようでね、まあそれでも長い事兄貴はそれを隠し続けては居たんだ。

 まあこれは後から兄貴自身に聞いた話なんだけど、最も兄貴がストレスに感じていたのは引っ切り無しに舞い込んでくる婚姻の話だったそうなんだけどね。

 何せ兄貴は常々三十過ぎるまでは独身貴族としての生活を謳歌したいと言っているからね。」

 

 そう語りヤンは一旦口を閉じると隣に座るフレデリカを優しく見つめる、それはかつてヤンがフレデリカとの婚約を了承した事を兄に揶揄された事があった事を思い出したからなのだが。

 『運命や宿命』などと云う言葉を前世から今生に於いてもヤンは嫌っているのだが、前世に於いて出会った自身のつまであったフレデリカやその父親のドワイト、また自身の父親であるヤン・タイロンと宇宙暦の時代の彼の親しい人達と同一人物なのではと思われる者達までもが存在する現実に、何か作為の様な物を感じてはいるのだがそれでも前世にて共に生涯を全う出来なかった、妻の移し身だと思われる現世の彼女と共に出来るだけ幸せに暮らして行きたいと彼なりに思っていたりするのだった。

 

 「それでヤン君のお兄様はどの様にされてたのかしら。」

 

 雪ノ下の問いに対ヤンは彼女へと視線を合わせ頷き話を続ける。

 

 「あれは私が十か十一歳の頃か、そんなある日の深夜の事と言っても小学生にとってのだからそんなに遅くは無かったんだろうけど、その日私はふと夜中にトイレに行きたくなって目が覚めて用を足しに行ったんだが、その帰りに何気無く寝ぼけ眼の私の視界の片隅に少しだけ兄貴の部屋のドアが開いていているのが見えたんだ。

 兄貴と私は年が十も離れているから幼い時にあまり一緒に行動をしたと云う事も無く家族でありながらも疎遠な関係だったんだが、まあそれもあったのかもだけどその時の私には兄の部屋の様子が妙に気になって目を凝らして見るとね、其処から微かに光が廊下へと漏れ出ていている事が解って私は野次馬的好奇心に駆られその光源たる兄貴の部屋を覗き見てみたんだが、其処で私が目撃した光景は当時の私としてはとても驚くべき物だったんだ。」

 

 ヤンは常と変わらぬ穏やかな口調で連連と語るのだが、逆にそれ故にであろうか小町などにはその口調に只ならぬ物を感じたのか思わず生唾を飲み込みそうになりながらも、おずおずと彼に尋ねる。

 

 「それは?」

 

 そして問われたヤンはそれに対して少し砕けた口調で返答を告げるのだった。

 

 「いやそれがねえ、深夜に一人ブツブツと不満を口にしながら部屋の中で酒瓶を片手に大量の駄菓子をかっ喰らう兄貴の姿だった、何と言うかこうガツガツと行儀も何もあったものでは無いと言う感じでね、幼いながらにその姿を見て私も流石に引いてしまったよ。」

 

 「まあでも、アレがあの当時の兄貴にとってのストレスの解消法だったんだろうがね。」

 

 ゼスチャーを交えながらヤンが当時目撃した己の兄の行動を説明すると、奉仕部のメンバーと小町はどの様なリアクションを返すべきかと戸惑い頬を引く付かせている。

 『どうも女性陣にはあまり好まれ無い話だったかな』と、皆のその反応にヤンはそう独りごちるのだった。

 

 「まあその後、そんな私を見留た兄貴が手招きをして私を自らの部屋の内へと招いてくれて、他の者には内密にとの条件の元私も兄貴の相伴にあずかったんだけど、中でも一番好みに合ったのは日本のお菓子だったなぁ。

 それは何でも兄貴の大学の友人で日本からの留学生からの頂き物だったそうなんだが、思えば私が初めての日本に興味を抱いたのはあの駄菓子の味を知ってからかも知れないね。

 アメリカへの留学の経験がある雪ノ下さんなら識っているかも知れないけど、向こうの食べ物は何と言うか大雑把と言うか極端と言うべきか、ざっくり言えば私の好みの味とは程遠いと言うか。」

 

 海の向こうの彼の国の食品事情を思い起こしヤンはうんざりとした声音と表情を見せる、残念な事にそれ程迄にヤンにとってあちらの食品は好みに合わなかったのだろう。

 

 「あぁ、何か解る気がするわ……まぁ俺のはネットで仕入れた知識ってか画像だが向こうのケーキとか甘味って気持ち悪い位にドギツい色合いとかしてて、食欲を全く刺激されないってか本当に食べ物なのかと目を疑うレベルのモノばっかりで食指が唆られないわ、マジで。」

 

 「あ〜、ソレあたしも知ってる!前にクッキー作り教わった時にあたしも色んなお菓子とかに興味持ってネットで調べてみたんだよね、そしたら画像が出てきてさあたしもアレは食べられないって思ったよ。」

 

 そのヤンの感慨に八幡と由比ヶ浜がネット上で得た情報を元に同感の意を示すのだが、その由比ヶ浜に対して八幡は訝しげな眼差しを送るとつづけざまに彼女に対しての否定的見解を口にする。

 

 「いや、由比ヶ浜の場合はアメリカンな菓子を否定できないレベルだからな、何せお前は食えるはずの食材から食う事の出来無い謎のダークマターを錬成する程の隔絶した料理の腕前の持ち主だし、何ならお前が世界トータスに召喚されたら天職はきっと錬成師になるはずだ、まぁお前は不器用だから銃器とか作れないだろうがな。」

 

 「なっ!?ちょっとヒッキーっばヒドい、またあたしの事バカにしてっ、あたしだってアレから少しは成長したんだかんね、それにヒッキーあの時言ったじゃん女子が自分の為に頑張って作ってくれたんだって事が解れば、それだけで嬉しいもんだってさ。」

 

 そしてお約束の如く始まる二人の言い合い、少しばかり怒りの成分を混ぜながらも頬を微かに紅く染めて反論をする由比ヶ浜の言い分は恋する乙女のそれであるのだが、そうと知ってか知らずか言われた八幡の方は適当にあしらおうとしていたりして傍目には微笑ましくも思えるのだが。

 

 「八幡さんも結衣さんも仲がよろしいのは結構ですけれど話が進みませんからその辺りで。」

 

 そう判断したフレデリカが仲裁に入り二人を諌め、ヤンへ目配せをし話の続きを促すとヤンもそれに頷くと緑茶を一口啜ると、この一連の話の総括をすべく語り始める。

 

 「まあそう言う訳で兄貴にとっては菓子のバカ食いが一種のストレス解消法になっていたのかも知れないと当時は思っていたんだ、偶にだけどそのおこぼれに預かれる私にとっても良い事尽くめの様に思っていたんだけどね、そうでは無かったんだよ。」

 

 「兄貴は身長が百八十を超える長身で痩せすぎず太すぎずの理想的な体型の好男子だったんだけど、どうやらその暴飲暴食が祟ってしまって遂には体重が百キロの大台に乗ってしまったんだ、まあそうなって初めて両親と兄貴はこれはいかんと互いに腹を割って話し合い兄貴は其処で漸く自身の思いを両親に伝えることが適ったと言うわけさ。

 まあ結論として我慢やため過ぎってのは心身両方にとって碌な結果はにはなりゃし無いって事だね、だからそうなる前に何某かの手を打たなきゃならないって事さ、面倒がったり遠慮や躊躇ったりする事無くね。

 だいたい物事と云うものにはタイミングとか期限とかってものがあるからね。   

 そして往々にしてその機を逃してしまい後になればなる程に対処がリカバリーが困難になるからね。」

 

 語り終えたヤンは何時もの如く、すかさず手中のカップを口元へと運び薄緑色の液体を口中へと流し込み、喉から体内へと流れ込む冷たい感触を愉しむ。

 フレデリカがそんなヤンを暖かな眼差しと微小とをもって見つめ、奉仕部のメンバー達は夫々にヤンの話を己の中でかみ砕き整理でもしているのだろう、皆何やら思考を巡らせている様だ。

 そして雪ノ下がその顔をあげヤンを見据えて微かにその表情を柔らかく緩め、その口を開く。

 

 「あのありがとうヤン君、今話してくれた貴方の話はとても参考になったわ。

 姉と、いいえ姉を含むうちの家族皆と今後どの様に接して行くべきかの一つの指針とさせていただくわ。」

 

 雪ノ下は軽く頭を下げてヤンへと礼を述べその頭を上げると、彼女のその眼差しには毅い輝きが宿っている様にヤンには見えた。

 

 「どういたしまして、私の与太話が何かの役にたてたのなら何よりだよ。」

 

 ヤンはそう言って少し照れながら頭を掻くともう一度緑茶を呷る。

 

 「ええ、今はまだ明確な答えは出ていないのだけれどもね。」

 

 『それで結構、急いては事を仕損じるとも言うしね』と雪ノ下へそう答えるとヤンは心中に思うのだった。

 雪ノ下自身で確りとその考えを纏め、どうか彼女やその家族にとってより良い答えに、結果に辿り着いて欲しいと。

 

 




この世界のヤンを次男と設定した理由が実は今回の話の為であったりします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:30文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。