不敗の魔術師が青春するのはまちがっている。   作:佐世保の中年ライダー

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一話の改訂に併せて2話(実質3話)も書き直しました。
続いて3話にも取り掛かります。


時は流れて二人は再会し、そして彼は四人目の部員となる。 前編

 春も終わり季節は初夏へと移り変わりゆく5月の半ば、一週間の始まりの月曜日。

千葉県は市立総武高校2年F組の教室にその少年は居た。

 教室内では生徒達がそれぞれの仲間たちと集い朝のHRまでの短い時間を思い思いに語らっている、そんな中で彼は独り机に突っ伏し腕枕に頭を置き薄く目を閉じ周囲の生徒たちの楽しげな会話を聴くでも無く、まぁ眠っては居ないので多少は耳に入ってくるのだが脳内一人遊びにふけっている彼の名は比企谷八幡。

 

 ボッチを自称する彼は、他者と積極的に係りを持つことをしない性分であるのだが一人だけ仲良くしている生徒が(まるで少女と見紛う容姿をした男子生徒)居るのだが、残念な事にその生徒はまだ教室内に姿を現さない為、独り寂しく脳内遊びをつづけていた(その内容は他者からすると本当にどうでも良い物事であるので割愛しておく)のだがそんな時ふと彼は何処からか視線を感じた。

 

 これ迄の経験ゆえか彼は妙に他者からの視線に敏感であった故に直様視線を感じた先に顔を上げ眼を、その特徴的な酷く淀んだ眼を向けて見ると。

 クラスでも一際目立つ、八幡曰くクラスのトップカースト集団のその中の一人の少女がかれを遠目に見つめていた。

 桃色掛かった茶髪とその頭髪の右側部にひとつお団子を結った少し華やかな髪型に愛くるしく可愛らしい顔立ちの小柄であるにも関わらず、とても豊かで母性を感じさせる膨らみを持つ少女。

 由比ヶ浜結衣。

 

 急に八幡が顔を向けた為に由比ヶ浜と八幡の視線が交わりよ期せずして二人の眼が合ってしまった。

 少し驚いた様な表情を一瞬だけ浮べる由比ヶ浜であったがその表情は直に穏やかな優しい微笑に変わる、鈍感な或いは鈍感を装っている彼には理解し難いだろうがその眼差しは親愛に満ちている。

 しかしその微笑を見た八幡は、表面上慌てた様子もなく彼女から顔を背け再び腕枕に顔を沈めてしまった。

 なので彼はその後に見せた彼女の寂しげな残念そうな表情を知る事は無かったのだが、当の彼の内心は今それどころでは無かった。

 『やっべ〜、何?何なの今の表情!可愛すぎるだろ!!思わず告白してフラれる所だったじゃねぇか!?…フラれるのかよ。』と彼女の笑顔に激しく動揺していたからだ。

 

 『おっ、落ち着け俺、こんな時はそっ素数を数えるんだッ…ってプッチ神父かよ!』人知れず心を落ち着けるため腐心する八幡だが、その甲斐あってか落ち着かせる事に成功し再び思考遊戯を開始した。

 

 そして思い返したのは数年前に出逢った一人の外国人の少年の事、僅か数時間行動を共にした自分と同い年の流暢な日本語を操る少年。

 当時八幡はある出来事がきっかけで人間不信となり、他者との関係を持つことを拒み独りであろうとし(その気質は現在でも変わらないのだが)実際学校等でも誰とも会話をする事もなく常に独りで居た。

 

 そんな彼がふと何故か、それはもしかすると単なる気まぐれだったのかも知れないが、所在無げにしている様に思える自分と同年代に見える少年の姿に何故か声を掛けてしまった。

 不慣れな場所で迷っていた外国人の少年を道案内し暫しの時間を共有したのだが、八幡にとってその少年と過ごした時間は案外悪くなかった。

 少年は物静かな為人で、口調も物腰も柔らかく人を包み込む様な懐の広さと暖かさを八幡は感じた。

 会話が途切れ場が沈黙しても、気まずくなることも無くごく自然な空気が二人の間に流れていたし、だからそれ程多くの言葉を交わした訳でもないのだが八幡は思ってしまった。

 『もしかしたらこいつとなら、コイツみたいなやつならとなら良い関係が築けるんじゃないか』――と。

 だがこれ迄の経験から彼はすこし恐れ戸惑ってしまったのだ、たった僅かな時間を共にしただけの少年に友人になってほしいと請われた時に。

 

 自分は又、相手に勝手な幻想を見るのでは、そしてそれを押し付けるのでは無いのだろうかと、そして勝手に相手に幻滅しもしくは幻滅されてしまうのではかいかと。

 

 それ故に恐れた。

 

 幸いだったのは相手が旅行者であった事、それを理由に少年の申し出を断る事が出来て。 

 だが少年は彼に言った、もし又出会えたらその時は友人になってくれるかと。

 その彼の提案に互いの拳を突き合わせ………そこまで回想した所で彼は腕枕から顔を上げボソリと呟いた。

 

 「今思い出しても、すげぇ恥ずい。」

 

 思わず顔が紅潮しそうになるがそれに耐え平静を装おをうとしたその時「何が恥ずかしいの八幡!?」と彼の呟きに返す言葉が帰ってきた。

 驚いた彼の目の前に立っていたのは先程まで彼が求めていた、現状唯一人彼が少しだけ心を許した少年の姿が。

 一見すると可憐な少女の様にも見える線の細いスタイルに学校指定のジャージ姿のれっきとした男子生徒、戸塚彩加。

 

 「おはよう八幡、2日振り!!」と屈託の無い笑顔で話し掛けてくる戸塚に、八幡は内心の喜びの感情を極力抑えて「おっ、おう戸塚おはよう」と自分としてはクールに振る舞っているつもりで応えるも内心は戸塚を賛じる思いで胸がいっぱいなのだった。  

 『2日振りの戸塚の笑顔やっべ〜!最高っ!正に天使戸塚エル。その笑顔正にプライスレス!」

 

 「もう八幡は、又そんな事言って」と微苦笑気味に戸塚は照れながらそう口にする、本人は気づいていなかったのだが八幡の心の言葉の最後の方は口を吐いて言語化されていた。

 故に戸塚は苦笑したのだが、そんな微苦笑さえもが八幡には空より舞い降りた天使の笑顔に映るり、男と知りつつもその戸塚の笑顔に心を惹かれるのだった。

 

 「所で八幡何が恥ずかしかったの?」

 

 先程の問を聞き返す戸塚にしどろもどろに必死に誤魔化す八幡だったが、そんな二人の元にてくてくと歩み寄り「やっはろー彩ちゃん!」と戸塚に声を掛け、そして八幡の顔を見ながら「ヒッキーもやっはろー!」と声を掛けて来たのは、先程八幡を見つめていた由比ヶ浜結衣。

 

 「やっハロー由比ヶ浜さん」

 

 「おう、おはようさん」

 

 戸塚と八幡は歩み寄りながら放たれる由比ヶ浜独特の挨拶に応える、コミュニケーション能力の高い由比ヶ浜は戸塚とも普段から仲良くしてるのだが、同じ部活に所属する八幡は教室等の人前では誰かとあまり話をする事なく一人を好む性質の為、所謂周りの空気を読む気性の由比ヶ浜は積極的に八幡に声を掛けられずに居る。

 

 なので八幡と彼女にとって共通の友人である戸塚彩加の登場は、八幡に大っぴらに声を掛け話す事のできるまたとない機会なのである。

 

 そして彼女は二人に(特に自身の意識が向く八幡と話したかった)話題を嬉々として話を振る。

 

 「ねえねえ二人共気が付いた?ほら教室の後ろ机がひとつ増えてるでしょ?」

 

 教室後方を指し示しながら二人に問う由比ヶ浜、その彼女の指し示した方向に目を向けた二人は確かに机と椅子が一組増えている事を見留める。

 

 「ねっ! さっき優美子達共と話してたんだけどさ、あれってヤッパ転校生がこのクラスに来るって事だよね!男子かな?女子かな?チョー楽しみ〜!ねっヒッキー、彩ちゃん!」

 

 「ホントだ!うん、ホントにそうだね由比ヶ浜さん」

 

 この意味する事は一つで要はこのクラスに新しい生徒が増える事を意味し、由比ヶ浜の言葉に戸塚は楽しそうに答えるのだが、それに対して八幡は「別に、どうでも良くね?」と素っ気無く応える。

 その答えは由比ヶ浜にとって望んでいた答えでは無く少しの憤慨を顕しながら彼女は八幡へと詰め寄る。

 

 「もうヒッキーってば!何でそんな反応なの転校生だよ転校生!興味有るでしょ普通。もっとさぁクラスの事に関心持とうよ、気になるでしょう!」

 腰に両手を遣り少し体を前に屈め八幡に問う由比ヶ浜の少しプンとお怒りモードの彼女の可愛らしい顔が迫り、更にはその先に有る彼女の豊かな胸が激しく自己主張をしながら迫ってくる。

 

 その様に焦った彼はそこから目線を外し、ドキドキと高鳴る心を抑え込む様に『あれは胸部装甲板、あれは胸部装甲板。決してたわわな実りでは無い!』と心中呟きながら「イヤ別にマジ興味無いから…何?興味持たないとマズいの?死ぬの?ヤダ恐い!」と捻くれ返答を内心の動揺を隠しながら呟く。 

 

 「もう!ヒッキーは!何でそんなに捻くれるのさ?」プンスカと怒った態で八幡に突っかかる由比ヶ浜とその二人の様子に「たはははっ」と戸塚の苦笑の声が響く、そんな朝の一幕が暫しの間八幡の席の周りで繰り広げられたのだった。

 

 

 

 朝のHRの時間の始まりを告げるチャイムが鳴り、暫くすると2年F組の教室に現れたのは担任教師では無く、八幡の良く知る、この学校の現国教師であり、彼の所属する部活の顧問である平塚静教諭であった。

 

 『そう言や今日担任休みだとかって言ってたっけか先週』と思い返す八幡は軽く挨拶と連絡事項の伝達が終わる頃再び思考を始める、先程まで思い返していたあの外国人の少年の事を。

 そんな八幡を他所に平塚教諭の話は続く「今日から、このクラスに新たな仲間が加わる事になった」と転校生の加入を告げる説明がはじまるが八幡はその言葉に興味を示す事なく一人回想を続ける。

 

 「入って来たまえ」と平塚教諭が廊下に居るであろう件の人物に声を掛け、そして余り大きな音を立てずに開かれた扉から入室して来る男子生徒。

 教室内はその様に少しざわつきく、ポツリポツリと生徒たちの感想の声が八幡の耳にも聴こえてくる。

 一瞬だけ八幡も、教壇に向かい歩くその転校生に眼を向けるがその姿を良く観る事なく再び思考を続ける。

 

 『そういやあいつの名前…』

 

 「今日から皆の仲間になる」あの時の少年の名を思い出そうとする八幡の思考とかさなる平塚教諭の声が響き「さあ、皆に自己紹介をしたまえ」と転校生へ向け挨拶を促す。  

 

 『たしか、ヤ「ヤン・ウェンリーですどうぞ宜しく」八幡の思考とヤンの挨拶の声が被さった。

 

 

 扉を開き教室内へ入室して来た転入生は、黒い瞳と無造作に伸びた黒髪に

洋と欧州あたりの混血であろうと思われる風貌をしていた。 

 外国人で有ろうと思われる転入生の登場に生徒達のざわめきが拡がる、皆口々に転入生の事を話しているのだろう、そんな中一人の男子生徒が発した「なんだよ、男かぁ」と云う声はしっかりと聴こえて来た。

 内心苦笑しながら『失望させてしまったかな』ヤンは思うのだった、教壇の平塚教諭の隣でたった一言の挨拶を済ませヤンに「それだけで良いのかね?」と平塚教諭が尋ねるが頭を掻きつつヤンは返事を返す。        

 

「2秒スピーチのヤン」前世に於いて彼は軍人として高い地位に就いていた為に、公の場でのスピーチを求められる機会が多々有ったのだがその殆どの場を彼はたった一言で終わらせていたものだったがそれは今生に於いても変わりが無いようだ。

 

 軽く教室内を見渡し彼は一人の男子生徒と眼が合った、淀んだ眼で信じられないモノでも観ているかの様な表情を浮かべて彼を観る男子生徒。

 数年振りの再会にヤンは微笑を浮かべて彼を見つめ優しく知性的な声音で声を掛けた。

 

 「やあ久しぶりだね比企谷君」

 

 ヤンの言葉にざわめきたつ生徒達、まさか海外からの転入生が、同じクラスの生徒と知り合いだと知ればそうなるのは必然と言えるで有ろう。 

 ましてやそれがクラス内でも半ば孤立している様な生徒なのだから。

 「おう、そうだな」と気の無さそうな口調で八幡は返事を返すのだが内心は驚きと戸惑いで一杯一杯だった。

 

 「愚腐っ、愚腐腐腐腐っ、ヤンハチ頂きました」

 

 「姫菜擬態しろし!」

 

 その二人が見つめ合う後景にと一部女子生徒の、男としてはあまりゾッとしない世迷い言と切り捨ててしまいたい声が聴こえたが、もしかするとそれはクラス内ではお約束なのだろうか皆スルーを決め込んでいる。

 

 「ふむ、君は比企谷と知り合いなのかね」平塚教諭は先の二人のやり取りからそう判じてヤンに問うと「はい」との答えが返り、少しだけ考え込むと平塚教諭はふむと結論を導き。

 

 「ならば君の席は比企谷隣で良いのではないだろうか」と告げ八幡の隣の席の女子生徒へ席を替える旨の確認を取り、女子生徒はそれに快く応じ席の移動を始める。

 

 『えぇ〜、喜んで席を替わられる俺って泣いてもイイんじゃね……』内心嘆く八幡の思いは女子生徒には届かなかったが、一部の男子生徒からは同情の念を抱かれた様であった。

 

 「改めて宜しく比企谷君」

 

 自分に譲り渡された席へ着いたヤンは隣の八幡へ改めて挨拶をし、された当人は声を出さずに彼は軽く頷いた。

 

 

 

  〜時は数日遡る〜

 

 それはヤン・ウェンリーがこの総武高校への編入試験に合格し、編入手続きと学校の説明を受ける為に学校を訪れた時の事、応接室にて学校長、教頭、二学年の学年主任、そして生活指導担当の平塚教諭の4名がヤンの入学説明に同席していた。

 一通りの説明終えた後ヤンは校長から質問希望要望が有るかと問われると、率直に自らの要望を告げるのだった。

 

 「はいでは一つだけ希望が有るのですがよろしいでしょうか、この学校のニ年生に比企谷八幡と云う生徒が在席していると思うのですが、出来れば彼と同じクラスへの編入を希望したいのですがそれは可能でしょうか?」 

 

 そのヤンの要望に平塚教諭以外の三人の教師はその生徒に心当たりが無く疑問を呈すのだが、彼を良く知る平塚教諭は比企谷八幡についての説明を三人に始める。

 

 「比企谷八幡は、2年F組へ在席する生徒で、私が顧問を務める奉仕部の部員であります。」 

 

 「ちなみに学業成績の方は、理系に関してはイマイチなのですが、文系に関しては特に私が受け持つ国語に於いては学年三位の成績を残しております。」 

 

 「ほう、学年三位の成績ですかそれは中々」

 

 「して、奉仕部とはどの様なクラブなのですかな、聞き覚えが無いのですが」

 

 他の教師の疑問の声に、待っていましたとばかりに平塚教諭は答える。

 

 「簡単に説明しますと、校内におけるボランティア活動を行うクラブと言えましょうか、悩みを持つ生徒や校内行事へのサポート等を行う事を旨として活動をしております」 

 

 「ちなみに部長は、2年J組の雪ノ下雪乃が務めております。」とこの様に追加を加えて奉仕部に付いての説明を終えると、各教師達は感想を述べる。

 

 「ほう、あの雪ノ下雪乃がですか。」

 

 「学業成績学年一位の雪ノ下が主催するねえ。」

 

 と述べる教師達の発言は、雪ノ下雪乃と云う生徒への高い評価が伺える。 

 

 「ええ、その雪ノ下です」と肯定の意を示す平塚教諭は改めてヤンヘ問う。

 

 「君と比企谷の関係に付いて聞きたいのだが教えてもらっても構わないだろうか?」

 

 「三年程前、私がこの国を初めて訪れた時の事です、御茶ノ水の駅で目的地への道が解らず迷っていたのですが、彼が声を掛けてくれまして…」

 

「それで君に道順でも、教えてくれたのかね。」と一旦言葉を切ったヤンヘ、平塚教諭は日頃の彼の言動を鑑みて問うのだが。

 

「いえ、彼自ら道案内をしてくれましてねその日一日私と行動を共にしてくれたのです。」   

 

 「…比企谷がねぇ、ふむ‥」平塚教諭は意外だど云う思いに加えて少しだけ感心した様な声音でそう呟いた。

 

 「ええ、おかげで有意義な時を過ごせました。」

 

 ヤンの話を聞き終えた平塚教諭は校長始め他の教諭達へ彼の2年F組への編入賛成の意を示し、更に付け加える。

 

「彼は海外からの転入生です、生活習慣等の違いも有るでしょう、ならば気心の知れた者が側に居ればサポート等も受けやすいでしょう。」 

 

 

 

 

 各教諭陣が賛成の意を示した事によりヤンの二年F組への編入が可決されその手続きも終了し、学校を後にしようとするヤンを「ヤン君すまないのだが少しだけで構わないから私に付き合っては貰えないだろうか?」と平塚教諭がヤンを呼び止めた。

 

 「……ええ構いませんよ。」

 

 訝しく思いながらも平塚教諭に付き合い二人は場所を移すそこは、自動販売機とベンチの置かれたスペースで奇しくも八幡のお気に入り場所(彼がベストプレイスと呼び昼休みのひと時を友人戸塚彩加がテニスの自主練に興じているのを眺めて過ごす)のすぐ近くであった。

 

 「コーヒーで良いかね」と自動販売機にコインを投入しながらヤンへ問う平塚教諭、大人として此処は晴れて自身の生徒となった学生に奢るつもりの様で。

 

 「あっいやこれはありがとうございます平塚先生、ですがその正直コーヒーは苦手でして出来れば他の物をお願いします。」とヤン素直に答える、記憶にある前世の時間を含めれば彼の方が平塚教諭よりも歳上なのだが、こちらの世界で過ごした肉体的年齢は彼女の方が歳上であるので、やんは相手の立場を鑑みて素直に奢ってもらう事にした。

 

 「ああ了解した。」

 

 

 

 

 平塚教諭からペットボトル入の紅茶を受け取り礼の言葉を述べると、二人は共にベンチへ腰掛けると直様に平塚教諭はポケットから煙草とライターを取り出し一言ヤンに断りを入れると火を付け煙を吸い紫煙を吐く。

 趣味嗜好は個人の自由との思いもあるヤンだが前世に於いてもまた今生の将来的にも自身はタバコを嗜むつもりは今の所無いし、それに教育者が生徒の前で喫煙を行うのは如何な物かとも思うのだが同時にこの美人教師がタバコに火を付け咥える姿がとても様になって見える事に感心もするのだった。

 

 「比企谷は率直言って厄介な性格をしていてね…」

 

 そう言って平塚教諭は四月に彼が提出した高校生活を振り返ってと云うタイトルのレポートにまつわるエピソードをはじめ彼女から見た八幡の人物像を語り聞かせるのだが、それを聞いたヤンは思わず他人事の様に苦笑し平塚教諭に恨めし気に軽く一睨みされてしまいヤンは『失礼しました』と一言詫て平塚教諭に話しの続きを促すと教諭は頷いて話を続けるのたが、その語られる八幡のエピソードの続きを静かに拝聴するのだった。

 

 

 

 

 

 「そして私は彼を強制的に奉仕部へ入部させたのだよ、そこで人との付き合いを繋がりを学んで欲しいと思って故の事なんだが、正直私自身も強制と言うのはあまり良く無い事だとの自覚もあるんだよ。」

 

 八幡を奉仕部へと強制入部させた、言い方を変えると放り込んだと言っても差し支えのないあの日の自身の行いを自嘲気味に、平塚教諭ヤンヘ語ると『ふぅ』と呼気を吐き出しひと息つくと、隣に座るヤンへと顔を向け今度は彼に質問を発した。

 

 「一つ教えて貰えないかなヤン、君の眼には比企谷八幡と云う男はどの様な映り方をしているのかをね。」 

 

 問われヤンもまた平塚教諭へと語り始める比企谷八幡と出逢った日の事を。

 とは言えどもヤンが彼に付いて語れる事などあの日の僅かな時間の中での事柄しかないのだが。 

 

 「……と云う感じでして、ほんの僅かな時間でしたが彼と行動を共にしましてね、その僅かな時間で思ったのです。

 彼とは馬が合ったんだろうとね、その僅かな時間がとても居心地が良く感じられましたよ。」

 

 ヤンにしても八幡にしても基本的にお互い他者に何かを押し付ける様な強引な性格をしておらず、故に二人適度な距離感を保てていたのも功奏していたのかも知れないし、何よりもヤンは八幡の持つ不器用な優しさに感銘を受けていた、その思いが殊に大きかった。

 

 「そして私は別れ際に彼に言ったのですよ私と友となってくれないかとね。」

 

 平塚教諭はヤンの横顔を見ながら「それで比企谷は何と?」と問い質す、そしてヤンもチラリと平塚教諭に目を向けてみる彼女の表情を見ると、その彼女顔には生徒を心配する教師の貌をしていると思えた。

 なのでヤンは『この人はおそらく心の底からの教育者なのだろうな、それもかなり生徒思いの』と平塚教諭に対しその様に高評価をくだしこの人ならば構わないだろうと思うのだった。

 

 「そうですね、彼は少し考えてから私に『それは意味の無い事だろう』とそう言って申し出を断りましたね。

 それは私が海外からの旅行者だった事もあるでしょう、ならばもう二度とは逢う事は無いかも知れないだからそれは意味が無いとね。」

  

 「これはあくまでも私の予想に過ぎないのですが、その当時彼の身に何かがあったのでは無いかと思うんです。

 人と深く関わることに躊躇する、或は拒絶してしまおうと考える様になってしまう様な何かがあったとね。

 ですがそれでも彼は誰かとのつながりを、その全てを捨て去ることは出来なかったのではないかと、本人に言うと否定されてしまうでしょうが彼は求めているモノが有るんだと私は推察します。」

 

 ヤンは一旦言葉を切りドリンクを口に含み喉を潤し更に続ける。

 

 「だからこそ見ず知らずの、道に迷っていた私を心配して声を掛けてくれたのでしょう、それはきっと彼が本来持つ心根の優しさ故なのです、誰がどう思おうとも否定されようとも私にはそう思えるのです。」 

 

 前世に於いて、幾多の戦場で敵と相対し敵の心理と策を的確に読み、不敗を誇った彼の洞察力から導き出した八幡に対する彼の人物評。

 

 「私の申し出を断った時の彼の表情は何処か悲痛な、何かを耐える様な表情でしたがそれと同時に後悔するような複雑な感じでしたね。

 ですが私が絶対に再び日本へ来るとそして彼に会いにいくとそう約束しましてね、もしそれが叶ったらその時は友としての友誼を結んでくれと申し出て、彼は渋々とですがその時はと約束してくれましたよ。」

  

 平塚教諭はヤンの語る八幡評に感嘆を禁じ得なかった、僅か一日に満たない時間で、比企谷八幡と云う少年の為人の本質を洞察してのけた未だ成人に満たない異国の少年。

 

 「君には申し訳ないのだがヤン、もし君さえ良ければひとつ私の頼みを聞いては貰えないだろうか?」 

 

 平塚教諭は真剣な面持ちでヤンをしっかりと見据えて乞い願う、それを受けてヤンもまた彼女を見据え「お聞きしましょう」と答え話を促すのだった。

 平塚教諭からの頼みとは一体どの様な事なのだろうか。

 

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