不敗の魔術師が青春するのはまちがっている。   作:佐世保の中年ライダー

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時は流れて二人は再会し、そして彼は四人目の部員となる。 後編

 

 転校初日、その日の授業も全て終わりが終わった放課後の廊下をヤン・ウェンリーは職員室へと歩を進めていた。

 途中すれ違う生徒達に好気の眼で見られながらも職員室へ辿り着いたヤンは、扉を開き挨拶の言葉を述べ平塚教諭の所在を確認すると。

 

 「おお来たかヤン、こっちだ。」

 

 自分の居場所を知らせると席から立ち上がり平塚教諭は、ヤンの方へと歩を進め「わざわざ来てもらって済まないな」

と感謝の意を告げると彼を促し「では行こうか、案内する」と彼を伴い廊下へと出て行く。

 

 「どうかね今日一日を過ごしてみてこの学校は、そして比企谷は」 

 

 平塚教諭は歩きながら共に並び行くヤンに尋ねる。

 

 「そうですね…正直休み時間の度にクラスの皆に代わる代わるかこまれるのには、辟易とさせられましたね。

 しかし元気で明るく、物怖じしない様は若さと云うものを感じさせられましたね…はははっ。」

 

 溜息混じりに頭を掻きながらそう答えるヤンの様子に平塚教諭「フフッ」と苦笑を漏らしながら、怪訝な表情を向けるヤンに「あぁすまない、君の言動が何と言うかオッサ…いやとても老成している様に感じてな」と謝辞の言葉を告げる。 

 だか彼女にそう評されるのも致し方無しと言っても良いだろう。

 何せ前世に於いて三十三年と、あちらの世界の平時の一般的な寿命の半分の時間も生きてはいなかったのだが、それでも三十三年。

 それに今生で当時の記憶目覚めてから五年と、計三十八年分の時間を過ごしているのだから。

 

 「私には、十歳年上の兄が居るのですがその兄貴にも良く言われますよ、お前は俺よりもジジむさいとね。」

 

 そのヤンの言葉に平塚教諭の眉がピクリと動き、勢いよく彼へと向き直り「何と君には兄君が居るのかね!!」とがっつき気味に詰め寄り言質確認を取る。

 彼に兄が居る、結婚適齢期にあり且つその結婚を希む彼女が食いついて来たのは正にそこであった。

 

 

「して、その兄上は独身かね日本に居るのかね!?それに、こっ恋人は居るのだろうか?」

 

 身を乗り出す様に平塚教諭はヤンヘ彼の兄の事を尋ねる、その尋常では無い勢いにタジタジとなるヤンは

 

 「落ち着いて下さい平塚先生、兄は親父に仕事を任され今はて東京に住んでいますが、本人は三十過ぎまで結婚はしない、それまでは独身貴族を謳歌すると常から言っていましてね。」

 

 と宥めすかしながら己の兄が常に語る主張を平塚教諭へ告げる。

 

 「…そうか、すまない取り乱してしまった」

 

 結婚願望の強いこの独身美人教師は出会いを求める余り、生徒の身内にまでその触手を伸ばそうとしていたが寸での所で思い留まった様だ。

 

 「ハァ結婚したい…」平塚教諭のその呟きをヤンは聞かなかった事にした。

 

 「あぁいや気にしないでください平塚先生、自分の事も兄貴の事もよく言われる事ですし慣れていますからね、何せ私と違って兄貴はハンサムですし。

 それと八幡の事ですが、初めて出逢ったばかりの時と比べて少し目付きが柔らかくなっている様に感じられましたね。

 尤も私は八幡の過去の事を知っていると云う訳ではありませんが、もしかすると平塚先生が望んだ方向に少しだけ向かっているのかも知れませんね。」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 総武高校特別棟四階、奉仕部部室そこでは今三名の部員達が思い思いのスタイルでその時間を過ごしている。

 一つの長いテーブルに二名の女子部員と一名の男子生徒がパイプ椅子を置き腰掛けている、部長の雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣は扉から一番奥の方に隣り合う様に座り、比企谷八幡は彼女達から距離を置き一番扉側に腰掛けている。

 雪ノ下と八幡は文庫本を静かに読み進め、由比ヶ浜は携帯電話をポチポチといじりながら。

 三人の手元には雪ノ下が淹れた紅茶が置かれ優しい香りを漂わせ、それが穏やかな時間の流れを演出するのに一役買っている様だ、その静かな流れは第三者の出現により唐突に破られる。

 

 「私だ入るぞ」ノックも無しに部室の扉が開かれ平塚教諭が返事を聞く前に部室内へと入室して来た。

 いつもの事ではあるのだがそれでも雪ノ下は「はぁ平塚先生、いつもノックをしてくださいと言っているではないですか」と溜息と共に苦言を呈する。

 

 「イヤすまんすまん、急いでいたのでな、実はな今日は新入部員を連れて来たのだが。」

 

 平塚教諭のその言葉に三人は興味を示し扉の方へ顔を向けるとその平塚教諭の後から、入室して来た一人の男子生徒の姿にそれが誰かいち早く気付いたのは由比ヶ浜だった。

 

「あ〜っヤン君だやっはろー!ってヤン君奉仕部に入るんだ。」

 

 と由比ヶ浜の何時もの造語による挨拶の声がヤンへと掛けられ、それにヤンも返事を返す。

 

 「うん、そう言う事になってしまってね。」

 

 「比企谷と由比ヶ浜は知っているだろうが雪ノ下は初対面だな、彼はヤン・ウェンリー今日この学校に転入して来た宜しく頼むぞ雪ノ下。」

 

 平塚教諭からの紹介を受け、平塚教諭が言う雪ノ下と言う女子生徒に向い「ヤン・ウェンリーです宜しく」と後頭部に右手を当てて挨拶をするヤン。

 

 「雪ノ下雪乃です、此方こそよろしくヤン君、私がこの奉仕部の部長を勤めているわ。」

 

 座っていた折りたたみ椅子から立ち上がり軽く頭を下げごく短い自己紹介をする雪ノ下にヤンは『ほう、ずいぶんと絵になる美しい少女だな』と素直に感嘆の念を抱いた。

 そこに居るだけで他者にその存在感を焼き付ける、そんな存在とヤンは前世に於いて相対した事があった。

 戦場に於いて幾度も鉾を交えたが、直に対面し言葉を交わし合ったたのは唯の一度だけだが。

 その身から溢れ出る生命力の強さと美しさと苛烈さを体現したかの様な美貌に黄金色の豪奢な髪と鋭い輝きを放つ蒼水色(アイスブルー)の瞳を持つ時代の覇者。

 彼とのその唯一度の邂逅をヤンは生涯忘れる事は無かった、無論それは今生の現在でも。

 ヤンの眼にも彼女、雪ノ下雪乃は確かに美しい少女との印象を受けたが、それは彼とは違いその佇まいから感じられるのは儚さか或は脆さなのか。

 

 由比ヶ浜がヤンが座るためのパイプ椅子を用意し、八幡の座る位置の側に設置し着席を促す。

 彼女に例を述べヤンはその椅子に座る。

 「さてヤンの紹介も終わった事だし、後は君達部員同士で交流してくれたまえよ、では。」 

 

 片手を挙げ部室を後にする平塚教諭にたいし、四人はそれぞれに挨拶する。

 「うす」と八幡が「は〜い」と由比ヶ浜が「はい」と椅子へと座り直した雪ノ下が、そして「案内して頂きありがとうございました平塚先生。」とヤンが。

 

 平塚教諭が退室し、ピシャリと部室の扉が閉じられた後やはりと言うべきか、一番始めに声を発したのは由比ヶ浜であった。 

 

 「えへへ〜ヤン君、これからは部活でも一緒だね」

 

 「あぁ、よろしくね由比ヶ浜さん」

 

 ヤンの返答に気を良くした彼女は、ヤンの隣で文庫本を片手に頬杖を付いている八幡の元に歩み寄り「良かったねヒッキー、部活でもヤン君と一緒だよ」と笑顔で声を掛ける。

 「あっ、おぅそうだな…」とクールを装いつつ彼女から眼を背け、極僅かに顔を赤らめながらボソリと答える八幡。

 端から観るとその態度は、不意に女子に近付かれた事を意識し焦っているのが丸分かりなのだが。

 

 「おやおや〜、ヒッキー君もっと素直に喜んでもイイんだよ〜!」

 

 だが彼のその様子に気が付いていない由比ヶ浜はそう言って八幡を煽る、そんな彼女を一瞥し八幡は「マジウザぁ…」と呟く。

 

 「ちょっ、酷いヒッキー!!人の事ウザいとかって、せっかく部員も増えたのにもっと素直に喜んでもイイじゃん!」

 

 お約束の如く由比ヶ浜は八幡に対して吼えるが「あ〜はいはい、嬉しい嬉しい超嬉しいですよガハマさん。」とぞんざいに答え、これで満足かとばかりに由比ヶ浜を一瞥すると。

 

 「あ〜もう!ムカつく!!バカヒッキー!」

 

 ポカポカと八幡の肩を力を入れず叩く由比ヶ浜と「ちょっお前、暴力は止めてもらえますかねガハマさん!」と顔を赤らめながらも嫌がる素振りを見せる八幡だが、その様子からそれを満更嫌がっているとは感じられずそんな二人のじゃれ合いにヤンは苦笑を漏らす。

 そんな二人のじゃれ合いにも無視を決め込む雪ノ下だったが、彼女は読んでいた文庫本を徐にテーブルに置き席を立つと皆に背を向けお茶を淹れる準備を始める。

 

「所でこの部活の活動内容についてなんだけど、そのある程度は平塚先生から説明を受けたんだけどね、普段依頼が無い時等は皆どうしているんだい?」

 

 ヤンは部員三人に対して素朴な疑問を呈する、彼がこの部室へ入って来た時室内で三人は何もせず思い思いに寛いでいた様に見えたからだ、そして今も。

 

 「そうね、依頼が無い時は特に何かを強制すると言う事はないわね、一応部室内に待機してもらい依頼が発生した際に直に動ける様にしてくれて良いわ。

 著しく公序良俗に反しない限りは自由に過ごしてもらって結構よ」

 

 雪ノ下の説明にこれは楽で良いとヤンは呑気にも気を良くする、極論をする此処でと昼寝を、否夕寝をして居ても構わないと言う訳だとヤンは心中呟いた。

 流石は前世に於いて履歴書の趣味の欄に昼寝と書くだけの事は有る。

 

「なるほどね、だから八幡と雪ノ下さんは本を読んでいる訳だ。

 ふむ明日からは私も何か本を持ち込む事としよう。」

 

 顎に手をあてて考え込む様な仕草でそう述べると、そんなヤンの言葉を聞いた由比ヶ浜はキョトンとした顔で疑問の声をあげる。

 

 「あれ、ヤン君ヒッキーの事八幡って名前で呼んでた?教室居るときは苗字で呼んでたよね」

 

 「あぁ昼休みからな」

 

 「うん昼休みからね、そう呼ぶ事にしようと言う話になってね。」

 

 由比ヶ浜の疑問に二人は答える。

 

 「その方が友達っぽいて戸塚も言っていたしな…」

 

 八幡がそう付け加えるとそのタイミングで空かさず雪ノ下が紅茶を淹れながら八幡の言葉に対して皮肉る。

 

 「あら、ボッチを自称する貴方が友達っぽい行為等と云う事を行うなんてどう言う風の吹き回しかしら、ふふふ珍しい事も有る物ね。 

 これこそが正に初夏の珍事と言う事かしら珍し谷君。」

 

 「うっせ…たまにはそんな事も有るんだよ、ホントたまにはたけどな、一生に何回有るか知らんけどってか雪ノ下お前の方はどうなんだよ由比ヶ浜以外に友達って居るのか。」

 

 雪ノ下はその声にたっぷりと皮肉の成分を含ませた毒舌を持って八幡を誂い、それに八幡の方も同様に対抗する。

 ヤンはその二人のやり取りにかつての彼の仲間達、その中でも毒舌を持って知られる幾人かの人物の事を思い起こし懐かしさを感じたのだった。

 

 しかし八幡のその返答に由比ヶ浜が驚きと同情の思いの籠もった声をあげ、彼の肩に手を置きその肩越しに彼を見つめる。

 

 「ヒッキー……たまにある事が一生で何回かってレベルの物事なんだね。」

 

 「由比ヶ浜さん彼のレベルを一般のそれと当て嵌めてはいけないわ、もしかするともう二度とは経験出来ないかも知れないのだし、その僅かな経験を噛み締めさせてあげるのも優しさのうちよ。」

 

 由比ヶ浜の言葉に、八幡では無く雪ノ下が、毒舌を持って答える。

 

 『おやおや、この娘さんは本当に中々の毒舌家の様だな、これは気心の知れた者に対しだけなのかそれとも誰に対してもそうなのか……後者だとしたら不用意に敵を造ってしまうんじゃないかな。』

 

 彼女の言動をヤンは危惧する、出来ればその様な言動は親しい者達のみに止めおいてほしいと。

 

 

 紅茶を淹れ終え、紙コップに入れた紅茶を雪ノ下はヤンに差し出す「よかったらどうぞ」と言葉を添えて。

 紙コップから放たれる香しき芳香にたちまちヤンは幸福感に包まれる、これ甘露に違いないとその香りらか容易に想像が出来た。

 彼女に礼を述べ早速とばかりにその紅茶に口に含むゆっくりとしっかりと味わう様に、そして。

 

 「うん旨い!」

 

 ヤンの口からは紅茶に対する賞賛の言葉が飛び出した。

 

 「これは実に旨い、こんなにも美味な紅茶を飲んだのは実に久し振りだよありがとう雪ノ下さん。」

 

 ヤンの素直な賞賛とお礼の言葉に「どういたしまして」と素っ気無く答える雪ノ下は、彼の方を見る事なく再び文庫本のページを捲るがその頬が僅かながら紅ている事に気付いているのは彼女の様子を暖かな眼差しで見つめる由比ヶ浜だけであった。

 

 「お前って、つくづく紅茶好きなんだな」

 

 幸福そうに紅茶を飲むヤンを淀んだ眼で眺めていた八幡はしみじみとした口調で言う、昼食の時もそうだったし三年前に共にハンバーガーショップで食事を共にした時もヤンは紅茶を飲んでいた事を八幡は思い出していた。

 

 「ああ私は昔から紅茶に目が無くてねえ、だけど自分で淹れた紅茶はどうもちっとも美味くなくてね…」

 

 しみじみとしたヤンの独白に、雪ノ下が紅茶の淹れ方をレクチャーする。

 

 「美味しい紅茶を淹れるには、茶葉の分量、その茶葉に合ったお湯の温度と、そして蒸らし時間、その管理をしっかり出来れば美味しい紅茶を淹れるわ。」

 

 そうヤンに告げる雪ノ下だ、そこはヤン・ウェンリー、前世に於いて親しき者たちから、社会生活不適格者等と呼ばれる程に家事等はからっきしであったし、今生でもやはりそこも変わらない様で。

 

 「ハハハッそれがどうにも私はそう云った手順と言うのを上手にこなせ無い様でね、出来上がる物は大抵不出来な物になってしまうんだ。」

 

 頭を掻きつつヤンは言い訳をするのだがそんな彼を八幡は残念なモノを観る様な眼で、雪ノ下は溜息吐きつつ冷々とした眼差しで、そして由比ヶ浜は同類を見つけたかのような笑みを浮かべて其々に眼を向ける。

 そんな周りからの目に居た堪れず「ハハハ…」いたたまれず頭を掻きながら乾いた笑いでヤンは誤魔化そうとするがそれは如何ほどの効果がある事やら。

 微妙な何とも言えない空気が漂う、雰囲気を換えようと、由比ヶ浜はヤンにあだ名を付けようと提案し、自らが考え出したあだ名を発表する。

 

 『ヤンヤン』言うのはどうかとの由比ヶ浜の提案はやはりと言うべきか、そのあだ名は大変に不評であった事は言うまでも無いであろう。

 

 「プッ…ヤンヤンってお前な、うたうスタジオかっての、プッ、ククッ」 

 

 ツボに入ったかの様に笑いを堪えきれず、由比ヶ浜にツッコミを入れる八幡だかネタが古過ぎる為に彼女からの反応は無かった。

 

 

 「…しかし、本当に旨い紅茶だね、これは本当に毎日欠かさずに飲みたいと思うよ。」

 

 幸福感タップリの表情を浮かべた顔でそう言うヤンであるが、しかし次の言葉は「ハァ、だけどこんなにも美味な紅茶が目の前に有ると云うのに、なぜ今私は未成年何だろうか」溜息と共にボヤキが漏れる。

 そんなヤンを、雪ノ下は怪訝な表情と共に彼に問い質す。

 

 「あら、貴方は今自らが美味しいと言った紅茶を飲んでいるのに、一体何が不満なのかしら。

 それと未成年である事に何の関係が有ると言うの?」

 

 ヤンへの返答を促す彼女の瞳には氷の様な冷たさが発せられている、彼女の眼差しに不穏な物を感じ取ったヤンは、即座に「もしかして気を悪くさせてしまっただろうか、申し訳ない。

 君の淹れてくれたこの紅茶がとても美味で有ると思った事に嘘は無いよ、それこそ喫茶店でお金を取ることの出来るレベルの物だと思う程にね…」と謝辞と賞賛の言葉を紡ぎ出すと、次にとんでも無い発言が彼の口から発せられた。

 

 「なぜ私が未成年で有る事に不満が有るかと言うとだね、それは唯でさえ旨いこの紅茶に、ブランデーを垂らして更に美味しくいただく事が出来無い事を嘆いたんだよ。」

 

 「何せ未成年者では、大っぴらに酒を嗜む訳には行かないだろう」人差し指を伸ばして、最後にヤンはそう言った。

 ヤンの独白に三人は呆れの眼差しを向け、雪ノ下は此れは此れはと頭を振る。

 

 「ほぇ〜ヤン君お酒飲むの!?意外に不良なんだ!!」由比ヶ浜がヤンの口から飛び出した言葉に目を見開き驚きの声を少しオーバーに上る。

 

 「あぁ否、飲むと言っても実家の親父の酒棚や、兄貴の秘蔵コレクションを黙ってチビチビと頂いているだけであって決して不良では無いのだけども……」

 

 しどろもどろに言い訳をするヤンだが次にはグッと拳を握り力説する様に言い出す。

 

「それにだ、酒は人類の友だよ!私は友を見捨てる事なんて出来ないよ」

 

 力説するヤンに、冷水を浴びせる如く雪ノ下が冷めた目を向け「貴方は友人だと思っていても、お酒の方はどうそう思っているのかしら」というと。

 

 ヤンは微笑を浮かべ「きっと思ってくれているさ、人類は有史以前遥か昔から酒を飲んで来た、今も飲んでいる、そして千六百年後もきっと呑んでいる事だろうね。」と反論する。

 

 「イキナリ人類史にまでなった!」

 

 ヤンの友人を想う言質にツッコミを入れる由比ヶ浜の声は、人類史にまで及んだ事に驚きの成分が多量に含まれいた。

 

 「千六百年後と云う妙に具体的な時が何処から出てきたのかはともかく、ヤン君どうやら貴方は其処の彼と変わらないレベルの問題児の様ね。

 これは彼だけでは無く貴方にも矯正の必要が有ると云う事かしら。」

 

 ヤンのその言動に、雪ノ下の使命感が刺激されたのか呆れ気味にそう言うのだった。

 だがその雪ノ下の様子に八幡は心底面倒くさいと言った態度と淀んだ眼を向けると。

 

 「おいヤン、どうしてくれんの?お前のせいですんごいメンドくさい事になりそうなんだけど、ホントどうすんの。」 

 

 これから面倒な事になりそうだと少し恨めし気にぼやき、ヤンはその八幡に心の中で『申し訳ない』と詫ながらも「ハハハ…そこはどうかお手柔らかにお願いします…」右手の親指で鼻の頭を掻きながらそうヤンは雪ノ下へと懇願する。

 

 八幡は盛大な溜息を付き、由比ヶ浜は男子二人を苦笑しながら見つめ雪ノ下はカップを片手に冷笑を浮かべている。

 

 こうしてヤンは総武高校奉仕部の部員となったのだった、此れから果たして彼等の元にどの様な依頼や依頼者が訪れるのかそれはまだ誰も知らぬ事である。

 

 


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