不敗の魔術師が青春するのはまちがっている。 作:佐世保の中年ライダー
雪ノ下と由比ヶ浜の批難に、精神的ダメージを受け材木座は放心状態に陥ってしまった。
「お〜い材木座、口からエクトプラズム出かかってるぞ、早く還って来〜い。」
と、八幡は材木座へ呼び掛けるのだが、材木座の精神は未だ現世に戻って来れない様で、その身体は小刻みにプルプルと震えている。
「八幡、彼は一体…もしかして材木座君は女性に対する免疫が弱いのかな?」
ヤンは材木座の状態を鑑みそう推察した、この部室へ入室してから材木座は、八幡や自分へ話し掛けたり、目線を向けて来てはいたが、女子の方へ眼を向ける事も自ら話掛ける事は無かった。
先程八幡が告げた材木座がコミュ障だと言う言に、女性とのコミュニケーションを苦手としているのでは無いかとヤンは推察した。
「ああ、コイツは女子とは特にマトモに会話も出来ない上に、すっげぇメンタルが弱くてな、前に雪ノ下にケチョンケチョンにされて、苦手意識持っちまってるんだと思う。」
ヤンの推察を八幡は、首肯し、材木座の気性について説明を加える。
そいつは難儀な事だ、とヤンは材木座に対し少しだけ同情心を抱いた。
「おい材木座、早く起きないと校舎裏に埋めるぞ」
ピクッ、八幡のその言葉に材木座は我に返り、コートの袖口て顔の汗を拭いながら「今のは危なかったぞ、思わず冥府へと召喚される処であったわ、ヌハハハっ!しか〜しっ我はココに、現世に還れりヌワ〜ハハハッ!!」
どうやら材木座は、普段の調子を取り戻した様である。
「うぜぇ」「キモっ!」「やはり汚物は早急に燻蒸消毒するべきね」
八幡、由比ヶ浜、雪ノ下の三人は復活した材木座の様子にそう口にした。
その三人様子にヤンは、苦笑を漏らし、材木座は恐れ慄いて身を縮めている。
特に雪ノ下が口にした、某世紀末救世主伝説のヒャッハーしている人のセリフと石仮面をかぶって吸血鬼に成った人のセリフを混ぜ合わせた様な発言に最大の恐怖心を抱いたのだった。
「そこの女子二人、罵倒はその辺にしてくれない、でないとコイツはホントに涅槃へ旅立ちかねないから…お前ら怖いよ、後怖い」
「所で材木座君、このプロットから察するに君は小説、ジャンルはライトノベルを書こうとしているのではないかと思うんだけど、間違いないかな」
「うむ、その通りだヤン殿、まさに我がしたためしこのプロットはライトノベル、所謂ラノベのプロットである!」
ヤンの質問にしたり顔で答える、材木座の様子に`ふむ`とひとつ頷き更に質問を続ける。
「そしてこれまでの話の流れから、以前に実際に小説を書いてここに居る皆の批評とアドバイスを受けたと言う事だね」
そしてその後にヤンの口から出た言葉に部室内の空気が凍り付く。
「もしもその作品が残っているのなだったら、一度読ませて貰えないかな?」
ピシッ!!
氷が砕けたかの様な音が部室内に木霊した(勿論それは幻聴であるのだが、質問した本人のヤンと由比ヶ浜を除く)
「おいヤン悪い事は言わない、止めておけ精神を病むぞ!」
「甚だ不本意では有るのだけれど、私も比企谷君と同意見よ、人生における最も無駄な時間を費やす事になるわよ」
「え〜とね、なんだか難しい漢字が沢山書いてあって意味分かんなかったよ」
三者三様それぞれが材木座の小説を読む事を思い止まらせ様と説得?を試みるのだが、まあ材木座君がその作品を持っていればの話だよ、とヤンは三人に語り改めて材木座へと問い直す。
両手を下ろし拳を握りしめ、材木座は身体を震わせながら小さな声でいった。
有る……と。
カバンの中から取り出した原稿用紙の束を材木座は、震える手でゆっくりと取り出しそれをヤンへと渡した。
材木座曰くこの作品は己に対する戒めとして常にカバンの中に入れてあるとの事、かつてこの奉仕部へと持ち込み酷評を受けて、自信を打ち砕かれた拙い作品。
そうであっても材木座にとっては、初めて書き上げ評価は散々であったが、初めて他者に眼を通してもらった作品、いつかコレを上回る作品を書き上げるとの決意を忘れぬ為に、コレを側に置いていた。
材木座はヤンへ原稿を渡し「ではヤン殿、コレは貴殿に預けよう、我の処女作、評価の程の宜しくお願いする」と言い残し退室して行った。
テーブル上の、材木座より預かった原稿用紙の束を、眺めつつヤンはコレを読んだ三人に感想を聞く、尤も由比ヶ浜だけはマトモに読んではいないのだが。
雪ノ下曰くそれは小説と呼べる物では無い、文法も何も有った物では無く、読み進めくことに苦痛を伴う物。
八幡曰くそれは所謂パクリ、材木座の好きな漫画やラノベ、アニメ等のシチュエーションのツギハギ。
ヤンはその二人の評価に何とも言えない複雑な表情を浮かべ、コレは早まった事をしたかと、ほんの少し後悔した。
ヤン・ウェンリーの日本での住居は、千葉市内の閑静な住宅街にある、八階建ての、外観から察するに割と築年数は経っている様に見える2LDKのマンションである。
室内は彼が持ち込んだ数千冊に登る書籍を収めるための本棚で埋り、その数は今後更に殖えることは容易に想像出来よう。
その為リビングその他は生活空間として、そして寝室としても使っているのだが、その空間は入居より僅か十日余の時間で散々な有り様となっていた。
コンビニやスーパーの弁当の容器やペットボトル、ビニール袋や書店の紙袋等が散乱しているのだ、流石にビールの缶などは無いのだが。
「やれやれ我ながら、十日余で随分と汚したものだな…この惨状をキャゼルヌ先輩辺が見たら何というだろうな。」
と自分で汚して置きながら何とも呑気な物言いである。
『やはりお前さんは、ユリアンが居なければまともな生活など出来る訳が無いんだ、社会生活不適格者の面目躍如、いや本領発揮と言った所だな』
前世における士官学校からの付き合いの六歳年長の毒舌家の先輩ならば、その様に言うのではないか、そして鉄灰色の髪の反骨精神溢れる後輩辺がそれに同調する光景が容易に想像出来た。
「これは、今週末は掃除をしなければならないな」
この言葉が実行されるかどうか、それは誰も、ヤン自身も含めて知る由もない。
食事と入浴を終え、机としても使っているテーブルの上に、材木座の原稿を置きヤンはソレを読み始める。
ヤンが材木座の原稿を読み始めた頃、比企谷家では、食事と入浴を終えた八幡が、リビングのソファーに腰を下ろし、彼の妹の比企谷小町と共にゲームに興じていた。
両親共働きの比企谷家では、両親の帰宅時間はかなり遅く家族四人が揃って夕飯を食す事は滅多な無かった。
そしてこの日もご多分に漏れず兄妹二人だけの夕飯の後、僅かばかりの時間を二人で共に過ごしていた。
二歳年下の自分とは違いコミュニケーション能力も高く、要領も良く、少し生意気で時に兄である自分を残念な物を見る様な眼で見てくるが、愛嬌のあるこの妹を八幡は溺愛している。
コントローラーを手に持ち、モニターを見やりながら八幡は何気なく思うのだった、今頃ヤンの奴は材木座の原稿を読んでいるんだろうなと。
そんな八幡の様子を目敏く見とがめたのか「ねぇお兄ちゃん」と小町が八幡に話掛け、八幡も返事を返す「おう、なんだ小町?」と。
八幡の返事に小町はコントローラーを手にモニターに視線をロックしたままに何気なく「ヤンって誰?」と尋ねる。
小町のその一言の質問に『えぇ?もしかして俺考えてた事口に出てた?』と内心に焦る、これは彼の悪癖といえるのだろうが考えてた事を気付かぬ内に口に出している事が八幡には度々ある。
「いやまぁ、アレはアレでアレだからアレなんだ」と何故だが八幡は言い淀んで変な事を口走ってしまう。
どうにも八幡は三年ぶりに再会し、かつての約束を果たしてくれたヤンの事を妹に紹介するのがどうにも照れくさいようだ。
「うっわ〜何変な誤魔化しするかな、小町には言えない様な関係の人なの?小町的にポイント低いよゴミィちゃん」
言い淀む八幡に、小町はじっとりとした眼を向けながら謎のポイントをつけた後、溜息をひとつ着き「まぁいっか」とひと言呟きゲームのコントローラーをぽいっと放り、テーブルの上に置いてあった携帯電話を取り、誰かに電話を掛け始めた。
八幡は訝しげな眼で小町を見つる、コイツ電話で何する気なんだと。
「あっもしもし結衣さんですか、小町ですこんばんわ~、今大丈夫ですかぁ?」
どうやら小町は由比ヶ浜から情報を引き出す事にした様である。
'小町恐ろしい子'八幡は妹のコミュニケーション能力が、自分の周りの他者にまで及んでいる事に戦慄を覚えた。
ヤンが材木座の小説を読み終えた時、既に時間は、時計の針が重なり合い天を突き刺す時刻をかなり超えていた。
首と肩廻りを軽く叩き、凝りをほぐし身体と精神の疲れを追い払うかの様に、軽く溜息を着き。
「ふぅ、漸く読み終えたか。さてとこれを踏まえて、彼に対してどの様にアプローチをするかだが………」
材木座が納得をしてくれる意見を、出来る事なら今後の彼の創作活動に、ほんの少しだけでもプラスになる様なアドバイスを送れるか。
ヤンは検討を始める。
翌朝、総武高校二年F組の教室では、隣り合った二つの席に座る二人の男子生徒が、揃って机の上に突っ伏し、一人は寝たふりを、もう一人は寝息をたてていた。
ヤン・ウェンリーと比企谷八幡の二人である。
八幡は、他者との関わりを避けるために良くこうして、寝たふりをしているので彼を知るものは何時もの事と余り気にする者は少ないが、転校間もないヤンが八幡と同じ様に、伏せて居る光景は教室に居る事が珍しく思ったのか、チラチラとヤンを観る者がそれなりに居た。
そんな中、二人に近づく生徒が居た。
「ヒッキー、ヤン君やっはろー、早く起きないともうすぐHRの時間だよ」
それは、彼らと同じ奉仕部に所属する、由比ヶ浜結衣である。
ヤンの転入以来、彼女はこうして朝や休憩時に良く話掛けて来る様になった。
「……あぁ」由比ヶ浜にチラリと眼を向け、さも面倒臭そうに、のそりと上体を起こす八幡と未だ起きる気配の無いヤン。
「ありぁ〜ヤン君起きないねヒッキー、大分お疲れなのかな?」
少しだけ心配気な様子でヤンの様子に由比ヶ浜は八幡へ問う、大方夜遅く迄材木座の小説を読んで精神力と睡眠時間を削ったんだろう、由比ヶ浜へ八幡はそう答え彼女は、あぁそれでかと納得し微苦笑気味に頷く。
たが間もなくHRの始まる時間、ヤンをこのままにしては置けないと、再度ヤンを起こすべく由比ヶ浜は再び声を掛けると漸くヤンも眠るのを諦めたのか、その身を起こし眠気眼を見開いた。
「うわ〜っ!!ヤン君の眼がヒッキーに成ってる!大変だ!」
「おい!由比ヶ浜さり気に俺の眼をディスるのは止めてくんない、俺泣いちゃうよ」
「あはは、ごめんヒッキー」
二人のやり取りをぼんやりと眺めるヤンの意識は未だ半覚醒状態で眼の下にクマが出来ており、どんよりとしたその顔は確かに酷い有り様である。
結局ヤンは昨夜はほぼ徹夜してしまい二時間程しか睡眠時間を取れなかったのだが、睡眠を至上のものとするヤンにはベッドとの蜜月の時間がその様な僅かな時間で終焉を迎えた事が残念でならないのだが、しかしそれはまだ八幡や由比ヶ浜達は知らぬ事である。
昼休み、昼食を簡単に済ませヤンは奉仕部の部室を訪れた。
雪ノ下と由比ヶ浜が、部室で昼食を摂っていると聞いていたヤンは、自分も部室を借りようと思い訪れてみたのだ。
扉をノックし二人がいることを確認、挨拶し部室を使いたい旨を二人に伝え部室内の隅に一纏めにされている使っていない机を三つ並べると。
「レディの前だけど失礼するよ」そう断りを入れ靴を脱いで机の上に寝転んだかと思ったら、あっと言う間に寝息をたて始めてしまった。
「あははっ…ヤン君今日はお疲れ見たいだね、あんまり寝てないんだって、晩くまでまで中二の小説読んでたんだろうね…。」
「…そうなのね、私も同じ経験をしたから分からなくもないけれど…」
「アハハ……ゆきのんもアレ読んだときすっごい疲れた顔してたよね。」
昼寝を始めたヤンに少し批難がましい眼を向けていた雪ノ下だったが、由比ヶ浜の言葉に自分も同様だったと思い出し、ふと笑みをこぼした。
「ねぇゆきのんどうしたの?なんか楽しそうな顔してるよ?」
「フフフッ…今思い至ったのだけれど由比ヶ浜さん一応あなたも含めて、私達奉仕部の部員は皆アレに目を通したのかと思うと、何だかおかしく思えてしまったのよ。」
「え〜何であたしだけ一応なの!?」
「貴女はまともに読んではいないでしょう」
確かに由比ヶ浜はザッと目を通しただけで、材木座の小説をきちんと読んではいなかった。
「う〜、そうだけどさ…」雪ノ下の言葉に由比ヶ浜は不満気に項垂れるしかなかった。
「それで思ったのだけど、もし今後この奉仕部に入部希望者が現れたら入部テストとしてアレを読んで彼へアドバイスをする事それを持ってこの奉仕部入部の洗礼とする、と云うのはどうかしら?」
得意気な笑顔を由比ヶ浜へ向け、彼女に同意を求める雪ノ下であったが、当の由比ヶ浜は。
「うわ〜っ、やな洗礼だ!!」と言い放つその言葉通りに心底嫌そうに。
昼休みも終わりの時間が近付いてきた頃合い、まだ眼を覚まさないヤンを、雪ノ下と由比ヶ浜は部室を片付ける為に起こそうとするのだが。
『ユリアン後五分……』寝惚けているヤンの口から漏れ出た言葉は、英語をベースとして作られた自由惑星同盟の公用語であった、なので。
「ねぇゆきのん今の英語?」とヤンの寝言が由比ヶ浜には理解出来ず成績優秀な雪ノ下に尋ねる。
「えぇその様ね、私達をユリアンと言う人と間違えているみたいだわ。」
留学経験の有る雪ノ下には聴き取る事が出来ていた。
「ヤン君、私達はユリアンと言う人では無いのだけれど、昼休みも間もなく終わりよ、いい加減起きてもらえるかしら」
雪ノ下の再度の呼び掛けに、漸く反応したヤンはその身をのそりと起こし、頭を掻きながら呟いた。
「辺塞寧日なく北地春晩しか、やれやれ面倒な事だね、しかしお陰で幾分サッパリしたよ、ありがとう雪ノ下さん、由比ヶ浜さん。」
目を覚ましたヤンの顔色は僅かな時間とは言えど睡眠を取ったお陰で午前中に比べると少しマシな状態になっていた。
ヤンが部室を退室し雪ノ下と由比ヶ浜は部室の後片付けをしながら先程のヤンの寝言が気になっていたのか由比ヶ浜が興味津々雪ノ下へ問うてみた。
「ねぇゆきのん、さっきヤン君が寝言で言ってたユリアンって人がさヤン君の彼女かな?」
「…はぁ由比ヶ浜さん、おそらく言葉の響きから貴女はそう思ったのでしょうけれど、ユリアンと言う名は男性の名前よ。」
「えっ、そうなの!…そっかぁ何か残念…でもヤン君に彼女居たらどんな人だろうね。」
「そうね、お酒が好きだなんて公言する問題児な彼の手綱をしっかりと握る事の出来る、毅い女性ではないかしら。」
二人はヤンの事を話題にしながら、互いの教室へと向かい歩いて行った。
そして迎えた放課後、奉仕部部室には四人の部員と剣豪将軍こと材木座義輝の計五名が集っていた。
部員四名はテーブルの定位置へ着席し、依頼者である材木座はヤンの正面に、椅子を用意し着席した。
テーブルを挟み向かい合うヤンと材木座、そのテーブルの上には材木座の小説原稿が置かれている。
「さて、ではヤン殿聞かせてもらおうではないか、貴殿の意見をな!」
何時もの如く胸元で腕を組み、踏ん反り返り鼻息荒くその様に宣う。
「……そうだね、確かに八幡と雪ノ下さんの言う通りだと思ったよ、それは材木座君自身も理解しているのだろう。」
そうだろう、と言いたげに無言で八幡と雪ノ下は軽く頷く。
「うっ、うむであるな、確かに我自身それは拙い作品であったと認めるのもやぶさかでは無い。」
「少し確認したいんだが、材木座君は普段読んでいるジャンルはライトノベルや漫画が、メインなのかな他のジャンルの作品等は余り読んでいないのでは無いかな。」
「うむ、まぁ概ねヤン殿の認識で間違えては居らぬな。」
材木座の小説を読んで感じた事を確認し材木座の返答にヤンは軽く頷く、そしてヤンは自身が感じたその問題点を指摘する。
「まずは知識だね、文体文章表現から感じた事は先ずそれ、結局は君がこれまで読んできたライトノベルや漫画のシーンを借りてきただけだから結局の所それ等の縮小再生産でしかない。
以前に八幡が言った様にこれは所謂パクリだよね。」
材木座は以前奉仕部へ持ち込んだ際に雪ノ下に指摘された時と同じ様な言い訳をヤンに対してしどろもどろ述べ、ヤンは一旦材木座を留めさせこう述べた。
「ただね私は全てのパクリが駄目とは思わないよ。」
ヤンのその言葉に材木座はキラリと眼鏡とその奥の眼を輝かせヤンを見つめ彼の次の言葉を待つが、八幡と雪ノ下はヤンのその言葉に怪訝そうに眼を向ける。
「過去からこれ迄に、地球上の多くの国でおおくの人が沢山の創作物を創り上げてきた、書物もまた然りさだから後になればなる程過去に似た様な物が有ったと言われる事が多くなるのは必然ではないかな。」
「ヤンの言う事にも一理有るな、人間の発想力何て限界も有れば、地域や時代人種何かでも似た様な発想になるだろうしな。」
「そうね、確かに世界の各地に散らばる古代の神話などにも類似点が見受けられるものね。」
ヤンの発言に対して八幡と雪ノ下は肯定の意を示し材木座は言葉を発せず静かに聞き入る。
「だから言い方は悪いけどパクリ元となる物、例えば偉人伝等から人物のエピソード等を拝借してキャラクターの肉付け何かも出来るだろうし。
歴史書や戦史等から事件や戦略、戦術を学べばそれをアレンジしたエピソードを構築出来るんじゃないかな。
それから、君が普段読まない読んだ事の無いジャンルの作品に眼を通して、まあ文法等の基本は押さえるべきだとは思うけど、色々な文章表現の方法を学んで見てはどうだろうか。」
そこでヤンは言葉を止め美味なる紅茶を口に含み材木座は腕を組んだまま唸り考え込んでいる、ヤンの意見を吟味して居るのだろう。
ヤンは微笑を浮かべた表情で材木座を見つめ再び語り始める。
「昨日の君のプロットを見ても、感じたんだけど今現在君はそれをやっていないからパクリ感が隠せていないんだと思うんだ。
それに付随してリアリティが足りてないんだよ……かの有名な岸辺露伴先生も言っていただろう、大事な物はリアリティだとね。
尤も流石に蜘蛛を食べろとまでは言わないけど。」
「おおっ!何とヤン殿はジョジョを読んでおられるのか!!」
ヤンの口から岸辺露伴の名が出た途端材木座はこれ迄に無い程の食いつきを見せた、歴史書だの他ジャンルの作品だのには材木座の食指が動かないのだろうが具体的に自分か知る作品のタイトルを例として出された事でヤンの意見をとっつきやすく感じたのだろう。
「うん、以前八幡に教えてもらってねそれ以来読んでいるんだ、とまぁ私の事はともかく、どうだろう材木座君私の意見は受け入れてもらえるだろうか。
なんてねハハハ私も偉そうな事を言ってるな。」
材木座は、ヤンの言を受けそれを吟味するかの如く、唸ったりブツブツと呟いたりしているのだが、どうやら材木座はそれを受け入れている様には見えない。
「…色んなジャンルに手を伸ばすと言っても、我も色々と忙しくてな、時間が取れるかどうか…うむぅ、どうすべきかな。」
「忙しいってもお前、どうせラノベか漫画読んでるかアニメ見てるか、格ゲーかなんかやってるくらいだろう?」
八幡がすかさず材木座の態度に突っ込むそしてそれは概ね正解であろう、材木座はギクッとばかりに身体を引く付かせて、吹けもしない口笛を吹くふりをして誤魔化している。
「一時の快楽の為に己のレベルアップのチャンスと方法を物にしようとしないなんて、財津君?貴方の小説へ掛ける情熱はその程度の物でしか無いと言う事なのね、これでは何時まで経っても成長の見込みは無いわね。」
「中二ってさ前にゆきのんとヒッキーが言ってた事ちゃんと聞いて無かったんじゃ無いの、そんじゃヤン君が何言っても意味無いじゃん。」
女子二人の集中砲火に、材木座は反撃も出来ず身体を丸く縮め嵐が過ぎ去るのを待つばかりと云う状況に置かれ、見かねたヤンは二人を諌め再度材木座へ語りかける。
ヤンは内心に溜息を一つ吐きつつも覚悟を決め『やはり反則技を使わざるを得ないかな』とあまり気は乗らないが遂にあの物語を語る事にした。
「これから私が話す事は、ココだけの秘密と言う事にしてもらいたいんだが、
何と言うか余りにも荒唐無稽過ぎて誰かに知られたら心の病気だと思われかねないからね。」
皆の目線がヤンへ集まり、その発言の続きを待つ。
「実は私は…千六百年後の此処とは違う平行世界で一度死んでこの時代、この世界に転生して来たんだ…」
ヤンの告白に奉仕部の三人は、何を言っているんだコイツはと言いたげな眼を向け、そして材木座は、眼鏡の奥の眼を輝かせた。
その眼は自分の同類を発見した歓びに溢れていた。