僕とホークのスパーリングはヘッドギアを着用して、12オンスのグローブで行う事になった。
この形のスパーリングに僕は慣れているが、ホークはどうなのだろうか?
もし彼が力を出しきれないのならば困るのだが…。
ゼール氏が問題無いというのならば大丈夫なのだろう。
マウスピースを着けてリングに上がると、待ち望んでいたホークとのスパーリングが始まった。
オーソドックスに構える僕に対して、ホークは両腕を下げてノーガードだ。
いや、よく観察をすると軽く肘を曲げている。
あれがホークの構えなんだろう。
彼がボクシングをする映像は手に入らなかったが、スタッフは彼とスパーリングをした相手から情報を聞いてくれていた。
その情報によると、ホークは変則的なボクシングをするらしい。
ペースを乱されない様に気をつけよう。
ある程度近付いたところで、先ずは挨拶代わりのジャブを打つ。
これをホークは首だけで避けた。
2発、3発とジャブを打つが、今度はスウェーで避けられる。
ここで僕は、僕が最も得意とするパンチを打つ。
左ジャブから右ストレートのコンビネーションパンチ…『ワンツー』だ。
ホークはジャブをスウェーで避けた後、次のストレートは身体を捻る様な形のダッキングで避けた。
目の良さ、反応の良さだけでなく、身体の柔軟性もあるようだ。
僕はジャブとワンツーで様子見を兼ねた攻撃を続けていく。
するとスタッフから一分経過の声が上がった。
ここまでホークは一発もパンチを打ってこない。
1ラウンド目は様子見の指示が出ているのだろうか?
次のラウンドの戦略を立てるためにも、ホークのパンチを見ておきたいが…。
ここで僕はリズムを変えて、左ジャブから左のショートフックに繋げる左のダブルを打つ。
この左のダブルを、ホークは上体を後ろに大きく反らすスウェーで…!?
なんだ?!
何故僕は天井の照明を見ている?!
顔を跳ね上げられた?!
パンチはなんだ?!
混乱しながらも構えを戻すと、ホークは目の前にいた。
反射的にジャブを打つと、ホークは身体を斜めに傾けてジャブを避けながら、僕のボディーに左のパンチを打ってきた。
一瞬だが息が詰まって動きが止まると、今度は右のフック系のパンチが顔にくる。
たった3発で膝が震えてしまった。
12オンスのグローブとは思えないパンチの強さだ!
震えて足が使えない以上はガードを固めるか、手を出すしかない。
ホークを突き放す為にジャブを打とうとするが、それよりも先にホークがパンチを打ってきた。
しっかりとガードを固めるが、彼はガードの上からでもお構い無しに打ってくる。
これまでのアマチュアボクシングでは経験した事のないラフさだ。
震える足のせいで踏ん張りが利かず、彼のパンチを受ける度に身体ごと動かされてしまう。
トンッ…と何かが背中に触れた。
反射的に振り返ると、いつのまにかコーナーに追い込まれていた。
1ラウンド目からコーナーに追い込まれたのは初めてだ。
僕をコーナーに追い込んだホークは、両腕を下げたままゆっくりと近付いてくる。
(右か?左か?どっちだ?集中しろ、デビッド!)
パンチを振りきれる中距離まで近付いても、ホークは足を止めない。
そしてストレート系パンチを打つ事が難しい近距離まで来ると、ゆっくりと進んできていたホークの足が止まった。
(…こんなボクシングは初めてだ。)
これ程の近距離でもホークの両腕は下がったままだ。
僕の得意パンチであるワンツーを打つのは難しいが、この距離なら左フックを引っかけて身体を入れ替える事が出来る!
右のフェイントを入れてから左フック!
…!?
また照明を見ている!
僕はどんなパンチを受けたんだ?!
パンチの正体がわからないので対処が出来ない!
ダメだ!手を出すな!
ガードを固めろ!
これ以上パンチをもらったら耐えられない!
僕が顔のガードを固めても、ホークはお構い無しにガードの上からパンチを打ってくる。
そして時折、ガードが空いているボディーにもパンチを。
今の僕にはマウスピースを噛み締めて耐え続ける事しか出来ない。
そして1ラウンド終了のゴングが鳴ると、ホークは手を止めて軽い足取りで離れていく。
散々に打たれた僕にはホークの背を見送る余裕すら無く、崩れ落ちる様にして椅子に腰を下ろしたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
原作同様にイーグルは才能溢れていますが、まだボクシングを始めたばかりで経験が少ないのでこんなものかなと…。
また来週お会いしましょう。